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Conference Report
Vol.
2016年度
国際公共政策研究センター
7
国際公共政策研究センター(CIPPS)主催
駐英国特命全権大使
鶴岡公二氏との意見交換会
□日 時
□場 所
2017年2月14日(火) 8:00~9:30
帝国ホテル 2階「牡丹の間」
□主 催
国際公共政策研究センター
□テーマ
EU離脱に関する英国の現状
Conference Report
− 2 −Conference Report
1. 欧州を揺さぶるト
ランプ外交
まずは、トランプ大統 領の登場で米露関係が変 化し、それに伴って欧州とロシアの関係にも影響が及んで くる恐れがあるという、世界全体の大きな構図の中で英国 や欧州を眺めてみたい。 ロシアでは大統領選挙が来年予定されている。プーチン 大統領の再選は間違いないと言われているものの、経済の 停滞などの国内の不安定要因を抱えていることもあり、シ リアでの軍事介入など国外で「強いロシア」を示すことで 国民の支持を高めようとしている。実際、プーチン大統領 はロシアの世論調査で 8 割の支持を得ており、これは外交 の成果であると言える。クリミア編入の際も同様であった が、ロシアでは外交が世界の法の支配に逆らえば逆らうほ ど政権への支持が高まるという、不健全な関係が存在する。 こうした物理的手段による一方的な現状変更は、法の支配 や安定性、予見性といった国際社会の繁栄基盤を損なうも のであり、欧州やオバマ政権は制裁を通じてロシア側に方 針転換を迫ったが、プーチン大統領は一向に意に介さなかっ た。 そして現在、物理的手段による一方的な現状変更を国際 社会に認めさせようとしているもう 1 つの勢力が中国であ る。南シナ海でのサンゴ礁の軍事基地化はあからさまな国 連海洋法条約違反であるが、中国は国際仲裁裁判所の判決 も無視して推進している。 このように、国連安全保障理事会常任理事国であり、核 兵器保有国でもある 2 つの大きな勢力が物理的手段によっ て一方的な現状変更を国際社会に迫るという、安全保障上 の大きな問題が顕在化する中にあって、トランプ政権がど のようにロシアとの関係を構築するのか、それが欧州にど のような影響を及ぼすのか注視していくことが必要である と考えている。2. 英米の「特別な関係(The special relationship)
」
の行方
英国にとって、米国との「特別な関係」は外交の基軸で あり、英国民も誇りとしている外交的資産である。トラン プ政権が発足してからも、メイ首相はホワイトハウスに入っ た最初の外国首脳となったし、エリザベス女王からの訪英 招待もトランプ大統領から大いに歓迎された。また、英米 FTA 交渉に関しても、オバマ政権での扱いと異なり、トラ ンプ政権が最優先で取り組んでおり、英国側の面目が立つ こととなった。英米 FTA 交渉の帰趨が見えてくれば、離脱 を巡る EU との交渉において英国の立場が強化されるとい う計算も働く。 そのため、先般のメイ首相の訪米は成功であったとされ ているが、その後行われた日米首脳会談での安倍総理とト ランプ大統領の親密さの前では鼻白んでしまう。また、英 国では特に移民問題に関する発言を中心に、トランプ大統 領への批判が吹き荒れていた。そうした雰囲気の中、メイ 首相は、「英米は『特別な関係』にあるから、相手にとって 耳の痛い意見も言う」と見得を切って訪米したが、米国か ら次の訪問国であるトルコへの移動中に、トランプ大統領 に「中東・アフリカ 7 カ国からの入国禁止」の大統領令を 発令されてしまい、面目を失うこととなった。 こうした中で、英米首脳会談の 1 つの成果とされるの が、トランプ大統領がかつて「時代遅れ」と批判していた NATO について、米国がその重要性を認識し、今後とも関 与し続けることを明言したことである。トランプ大統領の 批判の背景には、欧州の加盟国の多くが抱える 2 つの問題 がある。まず、NATO 加盟国は軍事費を GDP の 2%以上 とすることが求められているにもかかわらず、これを満た しているのは英国など一握りに過ぎないということがある。 ドイツをはじめ、大多数の加盟国はこれまで 2%の目標に 達したことすらない。もう 1 つは、軍事費の伸びが人件費 の伸びのみに止まる国が多く、実際の抑止力の向上につな がる軍事装備費の増加につながっていない点である。これ をもってトランプ大統領は EU 諸国が NATO の防衛力にた だ乗りしていると批判していたのである。そのため、これ らの国々は、トランプ大統領から、NATO で義務を果たさ ないのであれば NATO が機能しないと批判されても、反論 する余地がないのである。その点、英国の軍事費は原子力 潜水艦トライデントや艦船の増強など、抑止力の強化につ ながる部分にも投入されている。 トランプ大統領は、英国の EU 離脱を一貫して主張して きた英国独立党のファラージ氏を盟友と呼び、EU は解体す べき存在とまで批判してきた。欧州と米国の関係が難しい ときに英米の「特別な関係」で橋渡しができるというのが、 英国外交の従来からの決め手であり、最大の強みであったⅠ.講演内容
駐英国特命全権大使
鶴岡公二氏との意見交換会(朝食会)
『
EU離脱に関する英国の現状
』
− 2 − − 3 − のだが、これからも同じように機能し続けられるかどうか は、今後の情勢次第ということになる。 例えばロシアに関しては、英国では警戒心が強く、非常 に厳しい対露観を持っている。仮にトランプ大統領がプー チン大統領と良好な関係を構築し、制裁を解除することと なった場合、ロシアを巡って英米関係が動揺する恐れもあ る。また、欧州にとってもロシアは、シリア問題のように 難民を通じて間接的に影響が及ぶものではない、より直接 的な問題である。既にクリミア半島がロシアに併合され、「次 はどこが餌食になるのか?」と警戒心が高まる中、ロシア が再び物理的手段による一方的な現状変更に出ることを抑 え込むことが極めて難しくなる恐れがある。これが、トラ ンプ政権が欧州に突きつける大きな課題である。
3. EU の今後を占うフランス大統領選
EU の流れを左右するという意味では、今年のフランス 大統領選挙も大変重要である。第 1 回投票が 4 月末、第 2 回投票が 5 月半ばになると見られているが、マリーヌ・ル ペン氏が第 1 回投票で 1 位となるものの過半数は得られず、 第 2 回の決選投票にもつれこみ、そこで 2・3・4 位連合が勝っ て極右の国民戦線は敗れるというのが衆目の一致するとこ ろである。 フランスの識者にルペン氏が勝つと断言する人はいな いが、Brexit や米国大統領選挙で軒並み予想が外れたとい う事実を踏まえ、ルペン氏が勝つ可能性もゼロではないと 言い始める人も出てきた。知識人であり弁護士、政策通で、 極端な意見を述べる人ではないことから、対抗馬の人選に よっては人気が高まる可能性もあると言われている。ルペ ン氏は単純に移民排斥を訴えているのではなく、フランス の主権を EU から取り戻そうという主張であり、他の EU 加盟国からすると大いなる脅威である。4. Brexit 交渉におけるドイツの立場
3 月末にメイ首相が EU に離脱を通報すると、EU 側はど のような方針で離脱交渉に臨むか、27 カ国で協議を始める こととなる。外相理事会から首脳会合へと基本方針が上がっ ていくものと想定されており、交渉に臨む陣容には目処が ついているものの、初めてのことでもあり、方針がどのよ うな形になるか見えていない。いずれにせよ、何ら基本方 針もなく、交渉が EU 事務局に委ねられるといったことは 考えられない。 4 月のフランス大統領選挙、メルケル首相の進退もかか る 9 月のドイツ連邦議会選挙と、欧州は選挙の季節を迎え る。その流れの中で、Brexit を巡ってどのような条件交渉が 繰り広げられるか、英国の要望に EU がどれだけ応じられ るかといったところが、政治的に大きな意味合いを持つこ とになろう。EU としては、英国に“良いとこ取り(cherry-picking)”を許すことはありえない、という点では一致して いる。それを認めてしまうと、離脱する国が次々と現れか ねず、EU として望んでいる政治統合が瓦解するからである。 ドイツが EU との関係で最も重視しているのは、ドイツ が EU の先頭に立たないという原則である。EU の隠され た目的の 1 つは、「ドイツが再び暴れないようにする枠組み を創る」ことにあり、これはドイツも望んでいることであ る。ドイツは事実として EU の中で圧倒的に大きな国であり、 経済的にもこれからさらに強大化していくことは間違いな い。だからといってドイツが EU を指導することには他国 のあからさまな反発が予想され、それはドイツにとっても 好ましいことではない。そこで、EU はドイツが常に一歩下 がって他国を支える形となっているのである。 それに大きく貢献したのが英国であった。ドイツとして は、英国を立てておけば良かったのである。また、必要に 応じてフランスを立てておく方法もあった。しかし、英国 が離脱すると、ドイツにとっては衝立の 1 枚が欠けること になる。EU の中で一人抜きんでてしまう恐れが出てきた ことが、ドイツに強い恐怖心をもたらしている。そのため、 英国の EU 離脱にあたっても、仮にメルケル首相がメイ首 相と常識的な内容で交渉しても他国の反発が出てくるのが 必至であることから、メルケル首相の指導力が期待できな いのである。5. 英国の EU 離脱をめぐる最近の動き
1 月 17 日、メイ首相はランカスターハウスと呼ばれる外 務省別館で演説し、EU との離脱交渉にあたっての 12 項目 の優先事項を明らかにした。あくまで項目立てをしたのみ であり、1 つ 1 つを詳しく説明したわけでもないが、今ま での、曖昧模糊で一般的、抽象的な議論で終わっていたも のよりは具体性のある方針が見え始めたという点は評価で きる。 その中で特に注目すべきなのは、移行期間の設定である。 これは、交渉は 2 年間で終わらせて、その中で英 EU の FTA に類した経済協定を作り上げるが、その内容は分野に よっては現状と大きく乖離している恐れがあるので、協定 の実施まで、分野ごとに乖離度に応じた移行期間を設ける というものである。これにより、予見可能性を高め、企業 側に対応を検討する時間を与えようとしている。 しかし、問題は、2 年の間に、EU 離脱協定と、英国と EU の次の経済関係を規定する協定が完成、発効するとい うのは非現実的な想定であるということである。したがっ て、離脱に当たっては何らかの暫定措置を設ける必要があ る。なぜならば、リスボン条約 50 条によれば、英国は離脱 通知後 2 年経てば自動的に EU 会員資格を失うので、暫定 措置がなければ、英国と EU の経済関係はいきなり WTO 関 係になってしまう可能性があるからである。− 3 − − 4 − 一方で、英国が暫定措置を強く求めれば、EU との交渉 における立場が損なわれる。また、もともと残留派であっ たメイ首相が永遠に「暫定措置」を続けることを目指して いるのではないかと、英国内の離脱派から批判を受ける恐 れもある。そこで、移行期間を設けつつ、交渉は 2 年で 終えることを明示したわけであるが、これをもって Hard Brexit の方針が確定したと評するメディアもある。
【質問】
・ロンドンの金融街であるシティを中心に発展してきた英国の金 融サービス業は、同国のGDPの相応の部分を占めているが、 Brexitに備えて、世界の大手金融機関はシティに置く機能の一 部をアイルランドのダブリンなどに移したり、従業員を他国に異 動させ始めたりしていると言われている。それにもかかわらず、先 般メイ首相がダボス会議で大手金融機関の首脳とミーティング を行った際、シティをどのようにしていく考えなのか問われても明 確な回答はなかったと聞いているが、メイ首相の方針をご存じで あればご教示願いたい。【鶴岡大使】
メイ首相が先般示した Brexit 交渉の方針とは、EU との 現在の関係は一旦清算し、その後 WTO 関係の下で FTA 交 渉を行って、どこまで再構築できるか検討していくという、 順序の整理を示したものと受け止めることができる。これ によって、英国と EU が WTO 加盟国同士という対等な立 場で交渉に臨むことができるという発想である。EU 加盟 国のどこかで金融業免許を持っていれば EU 単一市場内ど こでも営業ができるというシングルパスポート制度の適用 維持を求めれば、英国は EU に請願する立場に甘んじるこ ととなるが、対等な立場でそれぞれの市場へのアクセスを 交渉していくこととなれば、交渉の透明性が高まるし、6 千万人の人口を抱える英国の市場規模を売りに交渉できる かもしれない。 シティは、それなくして英国経済はないと言っても過言 ではなく、しかもさらに伸びていく可能性もあった。しか しながら、パリなど欧州の主要都市は税制などで様々な優 遇策を打ち出して、シティから流出する金融機関や人材を 取り込もうとしているものの、実際にはシティに蓄積され ている専門的知見の大部分は移動させることができず、過 半数はシティに残るのではないかと見られている。なぜな らば、グローバルな金融業に取り組むために大陸欧州に移 転するくらいならば、シティに匹敵する国際金融センター であるニューヨークに移転した方が良いし、ヨーロッパを 俯瞰する目的ならばシティで不足ないからである。【質問】
・金融機関のほとんどはできることならシティに残りたい と思っている一方で、EUでのパスポートを確保するた めに、英国に本部機能を残しつつもフランクフルトやダ ブリン、ルクセンブルクなどを候補地として移転を真剣 に検討していることもまた事実である。しかしながら、 この真剣度が伝わっていないのか、英国政府側は首相を はじめ閣僚も楽観的すぎるように見え、金融機関側から は危機感を覚えるほどだが、どのように見ているか。【鶴岡大使】
シティの移転問題に限らず、ロンドンの有識者や指導 者には、危機感が欠如しているかもしれないと感じている。 ある世論調査で、EU 残留派と離脱派それぞれに英国にとっ て経済上最も重要なパートナーはどこか尋ねたところ、残 留派で 1 位になったのは EU であったが、離脱派の 1 位は オーストラリアであった。このように現実離れした認識が 広がっている中で、危機感が欠如してしまうのも致し方な いところかもしれない。 米国の金融界は日本以上に厳しく問題提起を行っている が、英国側は弱音を吐いたら足元を見られると恐れている のか、とにかく強気に問題ないと言い続けている。キャメ ロン首相が強気で突っ走って Brexit になってしまった経 験を鑑みるに、今回も楽観的な対応を続けて、2 年後に英 EU の経済関係に何の受け皿もなくなってしまうことにな らないか懸念している。 世界経済を見渡すと、米国も英国も好調で、欧州も持ち 直しつつあり、これまでの停滞の 10 年から少し明るい兆 しが見得つつある。ここで政治がどう動くかが決定的に重 要であるはずだが、逆に、将来に備えて手を打とうとする と敗北主義者の誹りを受ける恐れもあることが、楽観論が はびこる要因かもしれない。【質問】
・英国にとって外交上の最大の脅威はロシアとのことだが、 今年末に向けて現下の対ロ経済制裁が緩和される可能性 がある中、米国や欧州全体としてのロシアへの対応としⅡ.主な質疑と応答(要旨)
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