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動臨研発表卵秘の獣医学.cwk

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産卵過多・卵塞の獣医学

          中津 賞(Susumu NAKATSU)       中津動物病院(〒590-0690大阪府堺市少林寺町西2-2-15) ペットの鳥は成熟すると安定した平和な環境を保証され、餌も常時豊富に与えられている ために、年中繁殖可能な状態にあると言える。セキセイインコ、オカメインコ、ボタンイ ンコ、ブンチョウ、ジュウシマツでは産卵過多や卵塞に陥りやすいことは、日常の臨床で 多数遭遇する疾患である。

産卵過多の定義 

繁殖季節や適当な繁殖相手のいないのにもかかわらず通常のクラッチサイズ(1回の産卵期 の産卵数)以上の産卵をしたり、クラッチサイズで産卵を繰り返すことをいう。  こうした状態を繰り返すうちに、卵殻完成後の数分で産卵娩出されるべき卵が子宮に滞留 して、臨床症状を発現したものが卵の閉塞あるいは卵詰まり、卵塞と表現される。egg binding, eggbound等の用語も用いられる。

産卵の経過

写真1 ニワトリの卵巣と卵管 卵巣内には排卵寸前の大きな卵黄から1mm未満のものまで様々な大きさの卵が存在す る。排卵寸前には、卵管の先端の漏斗部(ラッパ管)は積極的にこの卵に多いかぶさって、 卵管内に卵を取り込むといわれている。膨大部とそれ以降では卵白の分泌が起こる。卵白

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は濃淡2種類が交互に分泌されて4層を形成する。峡部では軟卵膜と卵殻膜の2種類が作ら れる。また卵黄はこれらの卵管を回転するうちにカラザが形成され、完成時に卵黄を卵の 中央に保持する働きをする。子宮部に到達した未完成で、ぶよぶよである。卵殻膜への炭 酸カルシウムの沈着が起こると同時に、これらの膜を通してうすい卵白が補給されて、卵 膜は緊張して球状になる。卵殻が完成すると卵殻色素が分泌され、その種独特の斑紋や色 彩が表装される。これらの色素は血色素由来のヘモグロビンが変化したものである1) 図1 ニワトリにおける卵形成の時間経過2) 図1はニワトリの卵管各部位の機能と滞留時間を示している。ニワトリはクラッチサイズ が30と大きく、休止期間が極端に短く改良されているために、ほぼ毎日産卵し続ける。 そして年間300個を超える産卵数を示す。ニワトリの産卵経過に示されている様に。排卵 された卵は23時間近く要して卵殻形成が完成する。この内、子宮内での滞留時間は18 20時間である。完成後は1分で膣部を通過して娩出される。娩出は子宮壁から分泌される プロスタグランチンによる子宮筋の収縮によって起こる。このとき、プロスタグランチン によって総排泄孔は弛緩して、大きな卵の娩出を容易にしている。ペットの鳥における1 クラッチサイズにおける産卵間隔はジュウシマツ、ブンチョウ、カナリアでは24時間で ある。セキセインコ、ボタンインコ、オカメインコではほぼ48時間である。24時間間隔 あるいは48時間間隔の産卵を示す鳥における排卵から娩出までの時間経過は同じと考え られている。言い換えれば産卵間隔が48時間間隔の鳥は排卵間隔が48時間であるといえ る。卵殻が完成したならば、直ちに娩出されないと、大きな容積を占める卵が腎臓、肝

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臓、小腸等の周囲組織を圧迫して、これら臓器の虚血状態を招く。これが卵塞における臨 床症状を示す原因となる。鳥は飛行なために、体を軽くする必要があり、卵管の腫大は発 情開始時に数時間で起こり、産卵の終了とともに数時間で退縮する。

産卵過多の原因

1餌が豊富  野生の鳥では春先のいわゆる産卵期には、外界での餌が豊富になる時期と一致してい る。野生では餌の確保が最大の繁殖要因であるが、ペットの鳥では餌が過剰なほど飼主が 用意している。 2環境が安定している  ペットの鳥はケージ内飼育か、せいぜい室内に放鳥される程度で、安全で落ち着いた環 境等は保障されているといえる。 3室内照明による影響  長日性を示す時期が野鳥における繁殖期である。ペットの鳥では一年中室内照明によっ て深夜まで照らされ続けるために、常に長日性の環境下にあるといえる。 4刷り込みによる発情相手の誤認  手乗りとして育てられた鳥は飼主しか知らずに育つために、飼主を発情の対象にしてし まう。そのため、飼主が顔を近づけて鳥に話しかけるだけで、背中を反らして、尾を挙上 した交尾の許容姿勢を取る。また背中を撫でることで、益々発情を促すことにもなってい る。

産卵過多による影響

 1栄養貯蔵が減少する。とくに、産卵に必要な充分なカルシウムの体内蓄積が不足して くる。産卵が順調に進行している発情期の鳥では長骨に過剰なCa沈着が見られる。 写真2 卵管内に変形した卵殻があり、長骨には過剰なCaの沈着が見られる。

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写真3 この鳥では大腿骨、脛足根骨、上腕骨等に発情ホルモンによると思われる過剰な Ca沈着が見られ、産卵直前であることを推察できる。

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写真4 この鳥では、長骨における過剰なCa沈着は認められない。

写真2と3の鳥では大腿骨、脛足根骨、上腕骨等に発情ホルモンによると思われる過剰な Ca沈着が見られ、正常な発情経過が背景にあることを推測させる。しかし、写真4の鳥 では、長骨における過剰なCa沈着は認められず、体内に卵があるにもかかわらず、ホル モン的な背景に異常があることが推認できる。

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    図2 卵殻形成に及ぼすエストロジェンの影響 図2に示す様に繁殖期に到達すると卵胞から分泌されるエストロジェンによって血中の非 イオン型Ca値が正常値の10mg/dlから25mg/dlまで上昇する。これは消化管からのCa吸 収の増加と、産卵用に骨内貯蔵されているCaの動員によってまかなわれる。しかし、骨 格としての骨内Caは動員することは無いとされている。  2軟卵の形成  図2に示す様に、骨内貯蔵Caの減少だけでなく、血中の二酸化炭素濃度も大きく卵殻形 成に影響を与える。すなわち、子宮上皮の2種類の細胞のうち絨毛上皮は血液中の非イオ ンCaをイオン化させる。管状上皮は血液中の二酸化炭素を脱炭酸酵素によって重炭酸イ オンに変換して、卵殻膜に炭酸カルシウムの柱状結晶を沈着、生長させる働きを持ってい る。種々の原因による呼吸の速拍、特に夏季における高温下での過呼吸のよって軟卵が発 生することはニワトリではよく知られている。こうしたことはペットの鳥でも原因の一つ となり得る。  3続発疾患の発生: 産卵過多によって、鳥がなお体調を良好に維持している時は当然 採餌量の増加を招く。しかしあまりに過剰な産卵を繰り返すうちに、食欲が減退し、体重 減少、栄養失調そしてついには卵塞を招く要因となる。時に、自慰による総排泄孔付近の 羽毛抜け落ちおよび皮膚炎さらに潰瘍と出血が見られる。成書には続発症としての骨粗鬆 症の記載もある。そして骨からのCaの溶出の結果骨折等の障害が発生する可能性もあ る。しかし過剰な産卵による骨粗鬆症および骨折の臨床症例には未だ遭遇していない。こ れはおそらく、卵殻形成用には、骨格として沈着しているCaは動員しないためであろ う。

発情に伴う血液所見の変化

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 発情期の雌鳥は、生理的に生化学検査値に変化が見られる。 1Ca  発情期の雌でカルシウム値の上昇は普通にみらる。これは卵殻形成のための準備であり、 エストロジェンの影響で起こる。 Caは卵殻の形成に必要であるばかりでなく、卵を娩出 する際の筋肉の収縮にも影響を与える。 2TPとTG TPの上昇は発情期の雌で上昇がみられる。発情時に卵巣から分泌されるエストロジェン は肝臓に作用し、卵黄蛋白前駆物質が産生される。そして血液を介して卵管に供給され る。エストロジェンは同時に脂肪の動員を亢進する。こうして生理的なTPとTGの上昇が 起こる。病的には脱水、慢性感染症によるガンマグロブリン血症でTPの上昇がみられ る。病的なTGの上昇は、脂肪肝症候群、糖尿病、甲状腺機能低下症、高脂肪食、過食、 飢餓などでみられる。特に糖尿病ではTGが500mg/dl以上の高値を示すこともある。こ の時は血漿は白濁し、乳びを示す。 3ALP エストロジェンは骨に作用し、血中へのカルシウムの放出を促す。その結果ALPとカル シウムは上昇する。 病的なALPの上昇は、主に栄養性二次性上皮小体機能亢進症でみら れ、血漿カルシウム値の低下ないし正常を示すことが多い。また腸炎、発情期の雌、成長 期、換羽でも上昇が見られる。また膵炎、卵性腹膜炎時にも上昇が見られる。 以上の様に発情の伴う血液の変化はすべてがエストロジェンによるもので、いずれも正常 な産卵に欠かせない生理的変化をもたらしている。レントゲン的な所見と血液所見を組み 合わせて、正常な発情が持続して経過しているのか、既に発情は修了して、休止期に入っ ているのかが判る。発情が休止いている鳥で、卵塞があるときは総排泄孔が既に萎縮し て、本来の大きさを示し、徒手的な娩出は困難かもしれない。この時は外科的な摘出が選 択される。

卵塞の原因

1不適切な環境   気温の上昇/低下、騒音、振動、動物の鳴き声、不適当な巣や巣材。不適当な配合飼 料、コマツナ等の青菜やボレイ粉の給与不足 2初産あるいは老令  初めての産卵時に起こる。あるいは繁殖年齢になっているにもかかわらず数年間産卵が 無かったのに、突然産卵が始まった症例に後発する。原因はさまざまである。 3産卵過多  体内貯蔵Caの枯渇による軟卵形成、栄養の枯渇、体力の損耗、疲労の蓄積。 4慢性卵管炎、卵管癒着  尿洞に開口している外卵管孔から細菌が侵入して卵管炎を起こす。その結果炎症産物を 核として卵殻形成、卵白分泌が起こり、無卵黄卵あるいは奇形卵を形成する。 5娩出時期の遅延  娩出は子宮壁から分泌されるプロスタグランチンによる子宮筋の収縮によって起こる。

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このとき、総排泄孔は明らかに弛緩して、大きな卵の娩出を容易にしている。プロスタグ ランチンの分泌停止とともにイキミ等の娩出の努力は無くなる。また総排泄孔の明白な弛 緩は数時間以内に消退する。

卵塞の発症過程

 繁殖季節でもないのに、あるいは適当な繁殖相手のいないのにもかかわらず、環境が平 穏で、餌が豊富にあるため、自然界では起こらない過剰な産卵を招く。カルシウムを始 め、貯蔵栄養が充分あるうちは無事に産卵をすませることができる。卵殻へのカルシウム 沈着が少なくて、適当な強度がない、いわゆる軟卵では、産道を通過するための蠕動運動 が卵殻のへこみに吸収されて、娩出困難となり、卵が子宮内に停滞する。卵の巨大な容積 のために、卵巣、腎臓、肝臓、消化管等が圧迫され、これらの臓器が充分な血液供給が受 けられなくなり、急速に鳥は衰弱する。この状態は卵塞、卵詰まり、卵閉塞と称される。 産卵遅延:種々の原因で形成された卵が排出されないで長期間卵管内に留まった状態。腹 壁が伸展している為に、腹圧が低く保たれ、生存できている。 卵塞:卵が形成されたのに、排出されなくて、その容積のために容態が悪化している状態 で、腹圧が高いために苦悶状態を呈する。

卵塞の症状

 卵殻が完成したならば、直ちに娩出されないと、大きな容積を占める卵が腎臓、肝臓、 小腸等の周囲組織を圧迫して、これら臓器の虚血状態を招く。これが卵塞における臨床症 状を示す原因となる。  停立、膨羽、食欲の減退/廃絶等の非特異的症状に加えて、下腹部の充血/内出血、総 排泄孔の充血/出血、さらには起立不能、脚麻痺、虚脱、低体温に陥り、ついには死に至 る。肥大した卵管と滞留している卵のために竜骨突起遠位端と恥骨の距離は非発情時の数 倍に離開している。触診で、腹壁を通して平滑な球状の卵殻が触知出来る。平滑な卵殻 か、ざらざら感のある卵殻かでは、後述する様に処置の仕方が異なるので、この触診は重 要である。

卵塞の治療

排卵後二十数時間で卵殻形成が完成した卵は、数分以内に娩出される。しかし種々の原因 によって卵の滞留が起こると、時間経過に伴って臨床症状が発現する。最良の結果をもた らす処置は、診断が確立したならば卵を圧出することである。図3に示す様に、卵は子宮 で滞留するので総排泄孔から一定の距離に存在する。鳥を左手で仰臥位に保定し、右手中 指と親指で卵殻の近位をゆっくりと総排泄孔へ押し付ける 1極めて順調な時:。鈍な力で操作するとゆっくり卵が圧出される。その後卵管が反転し て総排泄孔から脱出している時は、ベノキシールゼリーを塗布してから尿洞に押し込み暫 く押し続けて本来の位置まで戻す。 2圧出途中で卵殻が破れた時:操作途中で卵殻が破れても徒手的な操作は続行し、卵黄、 卵白を圧出する。破れた卵殻を含んだ卵管ごと総排泄孔から反転出来ればその後の操作は 容易で、卵殻は直視下で取り出せる。卵管が反転できないときは保定係が鳥を仰臥位に保 定する。そして次ぎの要領で卵殻の摘出を試みる。まず尿洞粘膜に綿棒でベノキシールゼ リーを塗布して表面麻酔する。尿洞内の左壁を鼠歯眼科用鑷子で総排泄孔よりつかみ出

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し、外卵管孔を確認して把握する。もう一本の鼠歯眼科用鑷子で外卵管孔から少し奥の卵 管粘膜を把握して引き出す。今まで外卵管孔をつかんでいた鑷子で、さらに奥の粘膜卵管 粘膜を把握して引き出す。粘膜が反転して引き出せる毎にベノキシールゼリーを塗布す る。これを数回繰り返すとかなりの卵管粘膜を反転できる。乾いた綿棒で残存の卵黄、卵 白を吸収する。そして乾いた綿棒で卵管の奥を擦過する様にして卵殻を取り出す。本法は 保定係の確実な保定技術があれば、イソフルレン吸入麻酔なしでも充分出来る。卵殻が取 り出せたなら、卵殻の全体量を点検して全卵殻が取り出せたことを確認する。卵管を尿道 内に挿入し、指で暫く総排泄孔の上から抑え続けて、卵管の元の位置まで戻しておく。総 排泄孔が弛緩していて、卵管脱の恐れがあるときは5−0ないし6-0の糸で総排泄孔を一糸 縫合する。24時間後には抜糸する。 触診で卵殻表面にざらつきが感じられるときは産卵すべき時間からかなりの日数が経過し て、幸いにも腹圧が低いために生きながらえている状況である。こうした鳥のレントゲン 写真では、卵殻は異常に厚みを増し、表面は不規則で円滑では無くなっている。こうした 卵を不用意に圧出すると、子宮および総排泄孔に裂傷を引き起こすかもしれない。全身麻 酔下で、総排泄孔から数mm近位の正中線をモスキート鉗子で鉗圧して皮膚を挫滅する。 2cmほど切開する次いで腹壁の筋層を同じく鉗圧挫滅して、腹腔に達する。卵殻を触知し て、卵管を創外に引き出す。卵管壁を鉗圧挫滅して、卵管を開く。慎重に卵殻を摘出す る。丸針6-0で各層を縫合して閉創する。  鳥の治療では特に原因療法と共に支持療法は必須である。流動食の強制投与、輸液、保 温等対症療法を積極的に実施して、早期の回復を計る。

卵塞の予防

 卵塞の原因で揚げた項目をそれぞれの症例で精査して改善を図る。その中でも排卵が過 多に陥らない様に予防出来れば卵塞を回避できる可能性が高い。

セキセイインコはふ化後約10日前後で開眼して、視力を有するようになるが、最初に 見えた動くものを親と認識して、反応するようになる。これを刷り込み現象と言う。手乗 りで育てられたヒナは時に飼い主を親と認識して育つ。やがて成熟すると飼い主を発情対 象にしてしまう。セキセイインコはオスがさえずりながら、メスに接近して、互いに嘴を 打ちつけながら求愛して発情を促している。そのため性成熟に達した手乗りで育てられた メス鳥に、飼い主が顔を鳥に近づけて話しかけたり、しきりに鳥の背中を撫でなることを 繰り返すと、発情が助長される。これは性的錯誤と呼ばれる。性的錯誤の発生予防として は、開眼時から仲間の姿を見せておくことが必要で、複数のヒナ鳥を同時に育てることで 解消できる。鳥の心理学的要因を除去するには次の行動療法が勧められている。こうした 変化は緩やかに実施する事が大切である。

行動療法

1 発情対象が一人あるいは二人の飼い主に向けられている場合には、鳥が産卵を止める まで、顔を鳥に近づけて話しかけない。鳥の背中を撫でない等、鳥との接触を次第に少な くする。 2 自慰行為あるいは求愛行動を助長する物(鏡・好みのオモチャ等)は取り除く。 3 産んだ卵は取り除く。 4 今までと違う部屋で飼う。止まり木の位置や太さを変える。他人の家に数ヶ月間鳥を

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預ける等、緊張状態におく。 5 巣箱は設置しないし、あれば取り除く。 6 部屋に出さない。狭い隙間に入り込ませない。 7 ケージの敷き紙を引き出して、巣作りさせない。 8 餌箱に産卵するときは、小さなものに取り替えるか、割り箸等を渡して、座り込ませ ない。

日照時間の調整

 短日性の環境下では産卵し難いので、光の照射を1日8時間までに制限する。。厚手の 布でケージをすっかり覆って、光を遮断する(写真5と6)。朝9時に、この覆いを取り、夕 方5時には再度、掛けて暗くする。またこの明るい8時間の時間帯も、できるだけ薄暗い 部屋にケージを置くと更に産卵抑制に効果的である。この日照時間の調整による産卵抑制 効果は有効で、当院で保定法や強制給餌法を飼主に指導するために飼育しているブンチョ ウ、セキセイインコは一切産卵を見ていない。 写真5 厚手の布で作ったケージカバー。

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写真6 黒いカーテン生地で作った簡易のカバー。

慢性卵管炎の治療

 尿洞に開口している外卵管孔から細菌が侵入して卵管炎を起こす。無卵黄卵あるいは奇 形卵を形成する卵が時に形成不全(軟卵殻、巨大卵形成)に陥るかもしれない。これらはい ずれも卵塞の原因になる。バイトリルが好んで適応される。バイトリル注射液を2ml採 り、シロップで10mlとする。この10滴を飲水10mlに溶解して、自由飲水とする。2ヶ月 以上の投与が必要である。

栄養状態の改善とカルシウムの補給

1 健康な食生活。ヒトの食事を与えない。着色等の加工してある餌は避ける。 2 体重が維持できる程度の摂取カロリーに留める。  餌の中のカルシウム、リン、ビタミンD含有量がまず適正である必要がある。しかし配 合飼料のみでは判断が困難である。幸い、鳥の栄養学者によって考案された、ほぼ完全栄 養食のペレットが市販されているのでこれを配合飼料と併用することでかなりの改善が期 待できる。ラウデイブッシュ社あるいはハリソン社のものが推奨できる。種子食に50% 程度混ぜて与えると良い。こうすることで適切なタンパク質の給与が期待できる。ペレッ トは若令ほど容易に餌として受け入れるので、ヒナあるいは若鳥の頃から与え始めると良 い。  卵塞が発生した時にはCa貯蔵が激減しているかも知れない。またその結果として再度 卵塞が再発生する。コマツナ、チンゲンサイ等のカルシウムの豊富な野菜をたくさん与 え、穏やかな温度も安全な産卵のために必要である。この他にモウゴウイカの甲(セキセ イインコでは容易に齧り取ることが出来るが、小さな鳴禽類には、匙で甲を削り、粉にし て与えると良い)あるいは牡蛎の貝殻(牡蛎粉)もよく使われる。

排卵抑制のホルモン療法

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 クロールマジノンアセテートとLeuprolide acetate(Lupron,TAP Phamaceutical)の 2種類の薬物が排卵抑制の為に臨床応用されている。 1 クロールマジノンアセテートの移植  持続性黄体ホルモンをシリコン柱にしみ込ませた薬剤(ジースインプラント)で、年余に 渡って黄体ホルモンを放出する製剤である。これを全身麻酔下で腹腔内に埋め込むこと で、数年間にわたって、排卵の抑制が期待できる4) 写真7  カラスへのシースインプラント剤(クロールマジノンアセテート)の移植手術 写真8 市販のインプラント剤 本法による産卵抑制は確実に少なくとも2年間は持続すると思われる。手術はリドカイン 局所麻酔下で、皮膚は腹部正中線上を鉗子で圧迫挫滅して切開する。その下の腹壁も同様 に鉗子で圧迫挫滅して切開して小孔をもうける。適用用量はホルモン学的には体重と関係 ないと言われている、イヌ用100mgを一本挿入する必要があるが、オカメインコでもも セキセイインコでも物理的に1本の挿入は困難である。通常オカメインコには1/2本、セ キセイインコには1/4を使用している。ハト、カラスには1本使う。しかし注意しなけれ

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ばいけないことは、術後、本剤が排泄される傾向にあり、数ケ月後には皮下に脱出するこ とがあるので腹壁の縫合は非吸収糸で確実に実施する必要がある。産卵しないので、いま までと同じ様に採食していると過肥に陥る。本手術をしたセキセイインコおよびオカメイ ンコ30頭中、2頭が過肥のために呼吸困難に陥り、死亡した。給与飼料はカロリー計算に 基づく、適正給餌量を維持するように指示する。すなわち40gのセキセイインコでは、筆 者は6 7gの配合飼料を秤量して、給与量の見本として飼い主に渡し、コマツナ等の青菜 類を多給するよう指導している。飼主に過肥が危険なことは再三警告していたが、餌の制 限は実施されなかった。また数例において術後数日して多飲多尿が発現して、血糖検査 で、1gあるいはそれ以上を示したので、医原性糖尿病と診断した。触診で埋め込んだイ ンプラント剤がは触知出来るので、当該症例では摘出した。摘出後7 10日で多飲多尿が 消退した。こうした副作用があるので、それ以降当院では本手術は実施していない。しか し野鳥のうち、とくに都市における増加が懸念されるドバトやカラスに本法を移植手術を 行ってから放鳥すると、過剰な繁殖防止策として期待できる。 2 Leuprolide acetate(Lupron,TAP Phamaceutical)      GnRHの徐放型の薬物で,初回投与後一過性に下垂体性腺系刺激作用(急性作用)がみ られた後、下垂体においては性腺刺激ホルモンの産生放出が低下する。さらに、卵巣の性 腺刺激モルモンに対する反応性が低下し、エストラジオールの産生能が低下する(慢性作 用)。徐放性製剤であるため常時血中に酢酸リュープロレインを放出して効果的に卵巣の 反応性低下もたらし、下垂体̶精腺機能抑制作用を示す。 約100μg/kg/日を産卵を抑制 したい日数分掛け合わせて、皮下注射する。 100gのオカメインコでは280μg/頭、28日 間排卵抑制が期待できる。1バイアルは1880μg入っているので6.7回分に相当する。  一連の症例でのリュープリンは800μg/kgの薬用量で、27Gのインシュリン用マイジェク ターを使用して胸部に皮下注射した。副作用としては換羽を引き起こすなどがあげられて いるが当院の50例を超えるの症例ではみられなかった。これらの症例すべてでリュープ リン投薬中は発情を抑制でき、また2週間から4週間毎に投薬することで持続的に発情を 抑えることに成功している5)。さらに投与するとセキセイインコでは、ろう膜の色が白く 変色することで、飼い主にも効果を確認できる。 また注射における組織浸襲は、外科的 な処置が必要なジースインプラント挿入に比べれば非常に少なく、臨床応用の高い療法と いえる。  本剤は極めて高価で、当院では1バイアルを添付の溶解液で溶解後、それぞれブンチョ ウ用、セキセイインコ用、オカメインコ用に分注して、凍結保存して、用に臨んで溶解し ている。本法でも過肥は頻発するので、体重管理は重要である。しかし危険があれば注射 を休止することで対処することが出来る。また、期待日数の終了間際に発情兆候を示す個 体や、産卵する個体がある。この時は、酢酸クロールマジノン経口投与薬であるアプタ コールの1/2錠を粉砕して10mlのシロップに懸濁する。10mlの飲水にこれを10滴混和し て自由飲水とすることで排卵抑制効果が増強できる。 症例1 2才、メスのセキセイインコ。過排卵を繰り返しているので、卵塞が心配とのこ とで来院。先々月の月初めから2週間の間に7卵を、一日おきか、二日おきに産んだ。先 月は下旬に4卵を産んでいる。来院時腹は小さく、卵管は発達していない。卵塞発生の可 能性が大であることを説明して、ジースイプラント移植の話をした。その後も毎月4 7

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卵を一日おき、二日おきに産卵を繰り返していた。8ヶ月間に合計41個産卵した。ジース イプラント移植手術を実施した。7日後に抜糸し、配合飼料の量は7gの給与を指示した。 手術時の体重は35gであった。日照時間の短縮等と行動療法の実施を指示した。1ヶ月後 の検診では体重は45.8gまで増加した。そこで飼料給与は6gを指示した。術後4ヶ月の再 診では体重は38.8gであった。また最近頭頂部の羽毛が抜けて再生兆候が見られなく、換 羽を促進する甲状腺ホルモンのチラージンの投与にも反応しなかった。6ヶ月半経過時の 診察で、インプラント剤の一部が皮下に脱出しているのを発見。また多飲多尿を認めたの で、尿糖を検査したが陰性で、尿比重が1.006と低比重を示した。これらの所見から腎に おける尿の濃縮能の低下が示唆された。尿細管の保護のために抗酸化剤であるグルタチオ ンとバイトリルを併用して投与を開始した。脱出しかけているインプラント剤は腹壁下に 挿入して、2糸縫合した。しかし5ヶ月後に再度皮下に脱出したので摘出した。この間多 飲多尿は持続したが、体重はよく維持された。摘出後間もなく多飲多尿は消失した。そし て、頭頂部の脱毛も10日後には再生が始まり、間もなく目立たなくなった。しかし産卵 が再開し、以前と同じ様に毎月の様にクラッチサイズを繰り返す様になった。そこで、 リュープリンを約100μg/kg/日 21(日)を皮下注射した。三週間の産卵抑制効果を期待 できたが、以降18ヶ月、繰り返し注射した。しかし飼主の来院が21日を過ぎると7日以 内に一個産卵が見られた。薬物の有効期限が切れてから合計5卵産卵した。現在の体重は 38g前後でうまく制御されている。 症例2 初診時3ヶ月令のメスのオカメインコ。5ヶ月令から多飲多尿を認めた。尿糖を検査した が陰性で、尿比重が1.003と低比重を示したことから腎における尿の濃縮能の低下が示唆 された。尿細管の保護のために抗酸化剤であるグルタチオンとバイトリルを併用して投与 を開始した。3ヶ月後には症状は消退し、正常な性状の糞便を排泄していた。生後12ヶ月 令で、背を伸ばして尾翼を挙上する等の発情兆候を示めすので来院した。卵管は極度に腫 大して発情のピークを示していた。そこで三週間の産卵抑制効果を期待して、リュープリ ンを約100μg/kg/日 21(日)を皮下注射した。しかし2日後に1個産卵した。その後産 卵はなかった。3週間毎の注射を繰り返した。しかし3週間の有効期限が切れる間際にな ると発情兆候を示した。注射開始から6ヶ月後に酢酸クロールマジノン経口投与薬のアプ タコールを併用した。本剤1/2錠を粉にして、10mlのシロップに懸濁した。その10滴を 10mlの飲水に混和して自由飲水とした。またメラトニン錠の1/4錠を同様にして懸濁し て10滴を同時に混和して併用した。その後14ヶ月間、本2剤の経口投与とリュープリンの 厳格な三週間ごとの注射で産卵は認められていない。この間、体重は95 100gを維持し ている。    

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文献1 Sally E. Solomon ,Egg and Eggshell Quality.,Manson Publishing 73-110p,The Veterinary Press Iowa State University Press,Ames 1997 文献2 訳者代表 今道友則、デュークス生理学(下巻),Melvin j. Swenson.,第1版 810-824,学窓社 東京,1997 文献3 海老沢和荘、講演資料集 No1(CD-R),エキゾチック研究会(JSEPM),2006 文献4 中西 比呂子ら、酢酸クロルマジノンによる鳥の発情抑制効果、第26回動物臨床 医学会、Proceeding No.2,183-184,2005 文献5 中津 聡ら、鳥に酢酸リュープロレイン(LH−RH誘導体)を用いた発情抑制効果に 対する検討。第25回動物臨床医学会、Proceeding No.2,105-106,2004

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