(78) 印 度 學 佛 教 學 研究 第41巻 第1號 卒 成4年12月
Mandhatavadanaの 研 究
Gilgit写 本 を め ぐっ て
熊
谷
泰
直
Gilgit Buddhist Manuscripts Part 7の 整 理 番 号432∼1587ま で の 写 本 は, [Divyvadana]?, Maitreya-vyakarana, etc. と し て 処 理 さ れ て い る。 こ の 写 真 版 の 編 纂 者 は こ の 写 本 をDivyavadana(Divy)の 順 序 に 合 わ せ て 整 理 し て い る が, し か し, こ の 順 序 は 近 年, 松 村 恒 氏 がMahasudarsanavadana(1550. 1∼ 1567. 8)の 写 本 を 調 査 し た 際, 整 理 番 号1451の 写 本 に 何 の 介 在 も な く1550の 写 本 が 続 く こ と を 確 認 され た こ とか ら 訂 正 さ れ る べ き こ と が 判 明 し た1)。 更 に 言 え ば, 整 理 番 号1451の8行 目 に//mandhatavadanam samaptam//と い う コ ロ フ ォ ン が あ る こ と か ら, こ の 写 本 はMndhvadna(MDhA)の 次 にMahsudars anavadana(MSA)が 続 い て い る こ と が 判 り, Divyの 順 序 と は 異 な る 写 本 で あ る こ と が 判 明 し た。 ま た, こ の 写 本 の 順 序 はMulasarvastivadavinaya Bhaia-jyavastu(Bhv)の 中 で は 釈 尊 の 前 生 課 の 物 語 の 順 序 と 一 致 す る。 そ し て, こ れ は 釈 尊 が 無 上 正 等 菩 提 を 得 る た め の 福 徳 を コ ー サ ラ 国 王 プ ラ セ ー ナ ジ ッ トに 説 く た め の も の で あ る2)。 そ こ で, こ の 写 本 のMandhatavadana(GMDhA)と, BhVのMandhata (MDh)の 物 語, Divy所 収 のMDhA(DMDhA)と を 比 較 検 討 し て み る。 写 本 は 前 半 部 分 を 欠 損 し て お り, 後 半 部 分 し か 比 較 で き な い が, 写 本 の 現 存 す る 部 分 で 最 も 重 要 だ と 思 わ れ る 後 半 部 分, す な わ ち 前 生 課 の 終 わ り の 部 分 を 比 較 す る。 先 ず, BhVを 見 る と
(A) yo'sau raja mandhata aham eva sa tena kalena tena samayena/
(B) yan maya ittham sattvahitam krtam tena nanuttaram jnanam adhigatam/kim tv etad danam anuttarayah samyaksambodher hetumatrakarn sambharamatr-akam/
(N. Dutt, Gilgit Manuscripts Vol. a part I p. 97. 1. 5-8) そ の 時 マ ー ン ダー タ ー王 で あ った のは, 実 は 私 だ った の で あ る。
私 は この よ うに有 情 の利 益 を な した。 その 私 は 無上 智 に 達 し て い な い。 し か し な, が ら, この 布 施 は 無 上 正 等 菩提 〔を得 るた め 〕 の少 し の因, 少 しの 糧 で あ る。
-463-Nlandhatavada. naの 研 究(熊 谷) (79) と い う記 述 でMDhの 物 語 は 終 わ る。 そ し て 直 後 に, punar api Maharajaと い う語 句 でMahasudarsana(MS)の 物 語 が 始 ま る。 ま たBhVのMSの 物 語 の 最 後 の 部 分 に も,
syat khalu to maharaja tenaa maya danena va danasamvibhagenanuttara samyaks-ambodhir adhigata iti na khalv evam drastavyam/api to tad danam anuttarayah samyaksambodher hetumatrakam pratyayamatrakam sambharamatrakam/
(N. Dutt, Gilgit Manuscripts Vol. 1Q Part I p. 98. 1. 6-9)
大王 よ。実に彼の私 の布施 に よって, 或いば布施の分配に よって, 無上正等菩提 が 得 ら れたのであ'ろうと, 実 に このよ うに見 るべ きではない。 しか し また, そ の布施は無上正 等菩提 〔を得るため〕 の少しの因, 少 しの縁, 少 しの糧であ る。 とい う記 述 が見 られ る。 した が ってBhVの 中 で はMDhの 物 語 とMSの 物 語 は 決 して独 立 した もの で な く, 幾 つ か 前 生 中 で連 続 して伝 承 され た 物 語 の中 の二 つ で あ る こ とが 判 る。 次 に, GMDhAを 見 る と, BhVと の 対応 箇所 に
(C) yo 'sau raja mandhata aham eva sa tena kdlena tena samayena
(D) yan maya iyam tam satvahitam (krtam tena nanuttaram jnanam adhi) gatam api tv asty etad anuttarayah samyaksambodher hetumatrakam pratyayamatrakam sambharamatrakam(整 理 番 号1448. 8∼1449. 1)
とい う記 述 が 見 ら れ る が, 一 部 分 欠 損 し て い る も の の, 資 料 と し て は 十 分 に 対 応 で き る。 こ こ で は, BhVに は 見 られ な い 二 つ の 「過 去 の 過 去 物 語 」 が 介 在 し て, 続 い てpunar api maharajaと い う語 句 でMSAが 始 ま る。 ま た, こ のMSA の 最 後 に も,
(syat khalu to mahara) ja to maya danena vd danasamvibhagena va anuttara samyaksambodhir adhigateti na khalv evam drastavyam api to tad danam anuttar-ayas samyaksambodheh (hetumatrakam pratyaya) matrakam sambharamatrakam iti
(Mahdsudarsanavadana and IVIahasudaysanasutya p. 481. 6-9, 整 理 番 号1567. 7-8) と い うBhVと 同 様 の 記 述 が 見 ら れ る。 こ の こ と は, GMDhAとMSAと は 連 続 し て 伝 承 さ れ た 物 語 で あ る 要 素 を 残 し て い る と言 る。 し か し, こ の 写 本 の 特 徴 は, 各 々 の 物 語 の 最 後 にavadanaと い う コ ロ フ ォ ン を 有 す る こ と で あ る。 即 ち, こ の こ と は 律 の 中 に 含 まれ る 各 々 の 物 語 にavadanaと い う 名 称 を こ の 時 点 で 与}て い る こ と が わ か る。 続 い て, DMDhAを 見 て み る と, そ こ に は 上 記 の 二 つ と 同 様
-462-(80) Mandhatavadanaの 研 究(熊 谷)
(E) yo'sau raja murdhato' ham evananda tena kalena tena samayena (E. B. Cowell and R. A. Neil, Divy. p. 225 1. 22-23)
とい う記 述 が見 られ, そ してGMDhAと 同 じ二 つ の 「過 去 の過 去 物 語」 が 見 ら れ る。 しか し, こ のDMDhAに は 物 語 の 導 入 部分 に相 当 量の浬 繋 経 と の パ ラ レ ル が 見 られ, 説 法 地 が ヴ ァ イシ ャー リー に な っ てい る。 これ ら三 つ を比 較 す る と, まずBhVとGMDhAと は 聞 き手 が 同 じ 「大 王 」 で あ る の に対 し て, DMDhAで は 聞 き手 が 「ア ー ナ ン ダ」 と 「比 丘 達」 に な っ て い る。DMDhAで は, 上 記 の 如 く浬 盤経 との パ ラ レルが あ る こ とか ら, 聞 き手 が 「ア ー ナ ン ダ」 や 「比 丘達 」 に な っ て い る こ とは 当 然 で あ る。 しか し, GMDhA で は 聞 き手 がBhVと 同 じ 「大 王 」 であ る こ とを 考 え る と, DMDhAの 如 く浬 盤 経 との パ ラ レルを なす 部 分 は 未 だ 付 け 加 え られ て い な か っ た と考 え られ る。 そ し て, GMDhAとDMDhAに はBhVに は 見 られ な い 二つ の 「過 去 の過 去 物 語 」 が 存 在 して い る。 そ こで, 第1の 「過 去 の過 去 物 語」 を 見 る と, この物 語 の最 後 は
(F) tasyaiva punyasya vipa (kato me nagaram api suvarnakancanam ba) bhuva mahasudarsanasya ramaniya kusavati nama purl babhuva
(整理番号1450. 3-4, Divy. P. 2271. 14-16) まさに, その福徳の果報 として私 の都城 も黄金 ・金 でできていた。マハース ダルシ ャ ナには美 しい クシ ャーヴァテ ィー と言 う名の町があ った。 と締 め 括 られ て い る。 この伝 承 の 「マ ハ ー ス ダル シ ャ ナに は 美 しい クシ ャー ヴ ァ テ ィー と言 う名 の町 が あ っ た。」 とい う文章 は 諸本 の成 立 を 考 え る 上 で重 要 な要 素 を 有 す る もの と言 え る。 これ は本 来MDhAに 関 す る もの で は な く, む しろそ れ に続 くMSAの 要 素 と考 え られ る か ら で あ る。 なぜ な ら釈 尊 の この 言葉 に対 し て大 王 が,「 そ れ は ど うい う こ とか 」 等 の文 章 を は さめ ば, 容易 に 次 のMSAの punarapimahlaに 続 け る こ とが 出来 るか らで あ る。 した が っ て, こ の文 章 は 第1の 「過 去 の過 去 物 語 」 がBhVの 如 くMDhAか らMSAへ と続 くこ とを 踏 ま え て成 立 し た もの では ない か とい うこ とを 示 唆 して い る。 故 に, 次 の第2の 「過 去 の過 去 物 語」 は, そ の後 に付 け 加 え られ た もの と考 え られ, 本 来 のMDhA の第1の 「過 去 の過 去 物 語」 とMSAの 連 結 に混 同を きた した もの と 思 わ れ る。 この こ とか ら, 第1の 「過 去 の過 去 物 語 」 とMSAが, 本 来 連続 す る こ とは 明 ら か で あ る。 そ し て, こ の よ うな 連 続 が 起 こ った 時点 で この第1の 「過 去 の 過 去 物 語 」 はMDhの 過 去 物 語 で あ る と同時 にMSに 福 徳 の 果 報 を与 え る 過 去 物 語 に
-461-Mandhatavadanaの 研 究(熊 谷) (81) もな る。 した が っ て の時 点 でMDhとMSの 両 方 の 物 語 は過 去 に お け る業 の連 続 の物 語 を 持 つ こ とに な り, こ の こ とに よっ てAvadaと 名 付 け られ た と 考 え られ る。 以上 を 要 約 す る と, このGMDhAは 成 立 上, BhVとDMDhAと の 中 間 に位 置 す る もの で あ る。 即 ち, 律 中 の物 語 の 順 序 を 守 りな が ら, そ こに 「過 去 の過 去 物 語 」 を 挿 入 してGMDhAの よ うな形 式 の も のが で き, そ してDMDhAで は 第1の 「過 去 の 過 去 物 語」 の 末尾 にGMDhAの 如 く, 先 に 示 した 連 結 の文 章 が 存 在 して い るに もか かわ らず, 本来MSAが 続 くと ころ, そ の よ うに は な 』って い な い。 こ の こ とを 考 え る と, GMDhAを 経 てDMDhAの 様 に 独 立 化. した と考 え られ る。 した が って, DMDhAは 律 文 献 か ら直 接 にDivyに 入 れ られ た'の で は な く, 間 に 介 在 す るGMDhAの よ うな文 献 が あ った と 考 え られ る。 この 点 を 図 示 す れ ば 以 下 の 如 くに な る。 [MDBhの 物語] [GMDhA] [DMDhA] コ ロ フ ォ ソ コ ロ フ ォ ソ
1) H. Matsumura, The Mahasudarsandvadana and The Mahdsudarsanasutra, Bibliotheca Indo-Buddhica, No. 47, Delhi 1988.
2) N. Dutt, Gilgit Manuscripts Vol. I part I p. 92. 1. 9-15 (atha raja Prasena jit Kosalas civarakarnakenasruny unmr jya Bhagavantam idam avocat/anuttaram bhadanta bhagavata samyaksambodhim prarthayata kiyanti danani dattani pun-yani va krtaniti/Bhagavan aha/tisthantu tavan Maharaja ye'titah kalpah, yan mayasminn eva bhadrake kalpe anuttaram samyaksambodhim prarthayata danani dattani punyani canekaprakarani krtani tac chrnu tam sadhu ca susthu ca manasikuru tam bhasisye/)
<キ ー ワ ー ド> Mandhatavadana, Divyavadana, Gilgit写 本
(仏教大学大学院)