185. 半月板自己修復の可能性と新規治療法の確立
大槻 周平
Key words:半月板,再生,scaffold大阪医科大学 生体管理再建医学講座
整形外科学教室
緒 言
半月板損傷は日常診療でよく遭遇する疾患であり,高頻度に変形性膝関節症を引き起こすことからも治療が不可欠な 疾患である.半月板は周囲 1/3 の血行豊富領域と中 2/3 の無血行領域からなるが,無血行領域は自己修復能が低いた め,その治療は損傷半月板の部分切除術がおもに行われている.しかしながら,半月板切除は変形性膝関節症リスクを 増大することが報告されており,機能温存をはかるための修復術が推奨されている. 無血行領域の半月板損傷を修復する方法は,さまざまな研究が行われているが,なかでも間葉系幹細胞(MSC)を 用いた方法は良好な成績が報告されている1-4).我々は,膝関節内にある膝蓋下脂肪体(IPFP)に多くの MSC が含ま れていることに着目し,その IPFP と半月板の主な成分である I 型コラーゲンを半月板欠損部に併用移植する新規治療 法について検討した.方法および結果
1.ウサギを用いた研究 日本白色ウサギ 20 羽を用いて,2 mm 大の欠損を内側半月板に作製し(図 1),その欠損部位に IPFP, ペルナック® を移植した. 図 1. 半月板損傷モデル. 日本白ウサギの右膝内側半月板前節に 2 mm の欠損を作製.グループは, I)欠損群, II)IPFP 移植群, III)ペルナック®移植群, IV)IPFP とペルナック®併用移植群の4群
とした.それぞれ8週間後に屠殺し観察した.移植後の半月板修復を検討するため,半月板のマクロフォトを用いて炎 症の有無,表面積の変化を観察した.表面積は Image J soft ware を用いてコンピュータ上で計測した(図 2a). 上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)
図 2a. 肉眼所見と表面積. 半月板表面積を Image J を用いて測定した. また,組織評価は Ishida スコアを参考に,再生組織の結合,Safranin-O 染色,線維軟骨細胞の存在を観察した.さ らにその再生組織の変化を詳細に観察するため, I 型及び II 型コラーゲン抗体で免疫染色を追加した.統計学的解析に は Wilcoxon 検定を用い,p < 0.05 を有意差ありとした.結果,ペルナック®単独移植群では,IPFP 単独移植群に比べ 炎症所見を強く認めたが,併用群では炎症所見は減少した (図 2b).
図 2b. 肉眼所見と表面積.
IPFP (II),ペルナック®単独移植 (III) 群ではそれぞれ炎症所見を認めるが,併用群 (IV) では炎症所見はみられ
なかった.
欠損群では,半月板前節が前後方向に萎縮しており,半月板は正常に比べ有意に縮小していた(p < 0.05).IPFP, ペルナック®併用移植群では, 欠損部は修復され,正常半月板と同等の大きさであった (図 2c).
図 2c. 肉眼所見と表面積.
欠損群 (I) の表面積は,IPFP 移植 (II),IPFP とペルナック®併用群 (IV),正常と比べ有意に小さかった.*p <
0.05.
組織学的評価においても,IPFP とペルナック®併用移植群は欠損群と比べ有意に欠損部が修復されていた(p <
0.05).IPFP もしくはペルナック®単独移植群で,面積は正常半月板と有意差はなかったが,併用移植群に比べ組織学
的には修復が不十分な傾向にあった (図 3a, b).また,免疫染色でも IPFP,ペルナック®併用群が正常に近い構造と
図 3b. 代表的な組織染色像とその評価.
Ishida スコアは,併用群 (IV) が欠損群 (I) に比べ有意に高いスコアであった.*p < 0.05. 2.ヒト半月板細胞を用いた研究
ペルナック®のヒト半月板治療への可能性を検討するため,変形性膝関節症5症例から採取したヒト半月板細胞
(MC),IPFP 細胞 (IPFPC) をペルナック®とともに3週間培養を行った.それらを,MC,MC+IPFPC, MC+ペルナッ
ク®, MC+IPFPC+ペルナック®の4グループに分けて,Real time PCR により同化異化に関連した遺伝子発現の変化を
検討した.検討項目は,細胞外基質を形成する I 型,II 型,III 型,X 型コラーゲンとアグリカンおよび軟骨分化因子 である Sox9,アグリカン分解酵素である ADAMTS-5,炎症性サイトカインである IL1-β,タンパク質分解酵素であ る MMP-13 をそれぞれ発現量の変化とした.結果,アグリカンは, MC+IPFPC と MC+IPFPC+ペルナック®共培養で
発現が有意に低下していた.また,MMP-13 は MC+IPFPC+ペルナック®共培養では発現が有意に低下していた (図
4).その他遺伝子発現については4群間で有意差は見られなかった.これらのことから,MC+IPFPC+ペルナック®共
培養では, 細胞外基質の発現は低いものの,分解酵素である MMP-13 の発現が有意に抑えられていた事から異化作用の 抑制が期待できると考えられた.
図 4. 半月板再生に関連した遺伝子発現の変化.
アグリカンの発現は MC のみと比較し,MC+IPFPC,MC+IPFPC+ペルナック®群で有意に低下した.MMP-13
の発現は,MC+IPFPC+ペルナック®群では有意に抑制されていた.*p < 0.05, **p < 0.01.
考 察
今回の動物を用いたin vivo とヒト半月板細胞を用いた in vitro の研究から,半月板損傷に対して IPFP とペルナッ ク®を併用することで,半月板の大きさのみならず組織学的にも修復が期待され,遺伝子発現変化からもペルナック®
2) Mochizuki, T., Muneta, T., Sakaguchi, Y., Nimura, A., Yokoyama, A., Koga, H. & Sekiya, I. : Higher chondrogenic potential of fibrous synovium- and adipose synovium-derived cells compared with subcutaneous fat-derived cells: distinguishing properties of mesenchymal stem cells in humans. Arthritis Rheum., 54 : 843-853, 2006.
3) Kanda, N., Morimoto, N., Takemoto, S., Ayvazyan, A. A., Kawai, K., Sakamoto, Y., Taira, T. & Suzuki, S. : Efficacy of novel collagen/gelatin scaffold with sustained release of basic fibroblast growth factor for dermis-like tissue regeneration. Ann. Plast. Surg., 69 : 569-574, 2012.
4) Horie, M., Driscoll, M. D., Sampson, H. W., Sekiya, I., Caroom, C. T., Prockop, D. J. & Thomas, D. B. Implantation of allogenic synovial stem cells promotes meniscal regeneration in a rabbit meniscal defect model. J. Bone Joint Surg. Am., 94 : 701-712, 2012.