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同志社法学   五八 巻 三 号 九五 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界

国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界

― ヤルタ会談を素材として ―

    目  次 はじめに 第一章   ヤルタ会談直前までの動き 第二章   ヤルタ会談   一.第三全体会議   二.ヤルタ会談の意義と問題点    1.紛争当事国としての常任理事国の拒否権    2.﹁四人の警察官﹂としての常任理事国の拒否権 おわりに

  ︵一一一三︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 九六 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 はじめに   本稿 の 目的 は 、 主 にヤルタ 会談 を 素材 として 、 国連集団安全保障体制 における 拒否権 の 意義 と 限界 を 考察 することに ある 。   半世紀以上 も 前 に 樹立 された 国際連合 は 、 人類未曾有 の 惨禍 をもたらした 第二次世界大戦 の 誤 ちを 繰 り 返 さないため に 、 いわゆる 集団安全保障体制 を 整備 ・ 強化 する 制度 として 出発 した 。 この 国連集団安全保障体制 の 仕組 みを 概観 する なら ば 、 まず 国連憲章 は 紛争 の 平和的 な 解決義務 を 定 めると 共 に 、 加盟国 の 国際関係 における 武力 による 威嚇又 は 武力 の 行使 を 一般的 に 禁止 する 。 そして 、 ある 加盟国 が 武力 の 行使等 によって 国際 の 平和及 び 安全 を 脅 かした 場合 、 国際 の 平和及 び 安全 に 関 して 主要 な 責任 を 担 う 安全保障理事会 は 、 平和 に 対 する 脅威 、 平和 の 破壊又 は 侵略行為 の 存在 を 決定 し 、 非軍事的措置又 は 軍事的措置 を 発動 する 。   そして 、 安全保障理事会 の 決定 はすべての 加盟国 を 拘束 するけれども 、 手続 き 以外 の 事項 ︵ いわゆる 実質事項 ︶ に 関 す る 安 全 保 障 理 事 会 の 決 定 は ﹁ 常 任 理 事 国 の 同 意 投 票 を 含 む 九 理 事 国 の 賛 成 投 票 に よ っ て 行 わ れ る ﹂︵ 第 二 七 条 三 項 ︶。 しかしこれを 裏返 せ ば 、 常任理事国 が 一 ヵ 国 でも 実質事項 に 関 する 安保理決議案 に 対 して 反対票 を 投 ずれ ば 、 当該決議 案 は 葬 り 去 られることになる 。 これが 一般 に 常任理事国 の ﹁ 拒否権 ﹂︵ veto ︶ と 呼 ば れるものである 。   従来 、 強制措置 をはじめ 実質事項 に 関 する 常任理事国 の 拒否権 は 、 国連憲章上 、 常 に 例外 なく 認 められると 一般 に 解 されてきたように 思 われる ︵ 1︶ 。 その 結果 、 こうしたいわ ば 無制約 の 拒否権 が 投 じられた 場合 、 安全保障理事会 は 全 く 身動 きがとれないにもかかわらず 、 国連加盟国 は 依然 として 国連憲章第二条四項 に 基 づき 武力 による 威嚇又 は 武力 の 行使 を 一般的 に 慎 む 義務 を 負 うと 主張 されてきている 。   ︵一一一四︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 九七 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   しかし 、 そもそも 五大国 の 拒否権 は 自国 の 死活的利益 を 守 るために 止 むなく 認 められたものではないだろうか 。 だと すれ ば 、 ある 紛争 の 当事国 ではない 五大国 の 拒否権 は 、 行使 され 得 ないと 断定 し 得 ないとしても 、 少 なくとも 何 がしか の 制限 に 服 する 権利又 は 裁量 として 誕生 したのではなかろうか 。 とすれ ば 、 武力行使 が 絡 む 事例 に おける 拒否権行使 を めぐる 問題 を 考察 する 前提 として 、 拒否権制度 の 意義 と 限界 を 国連憲章 の 起草過程 にまで 遡 って 今一度掘 り 下 げて 検討 すべきではなかろうか 。   か よ う な 問 題 意 識 の も と に 、 筆 者 は ﹁ 国 連 集 団 安 全 保 障 体 制 に お け る 拒 否 権 の 意 義 と 限 界 ― ダ ン バ ー ト ン ・ オ ー ク ス 会 談 を 素 材 と し て ― ﹂ と 題 す る 論 考 を 執 筆 し た ︵ 2︶ 。 そ し て 、 一 九 四 四 年 八 月 末 か ら 一 〇 月 初 旬 ま で 開 か れ た ダ ン バ ー トン ・ オークス 会議 を 掘 り 下 げて 検討 したこの 論考 を 踏 まえて 、 本稿 は 、 国連集団安全保障体制 における 拒否権 の 意義 と 限界 を 主 にヤルタ 会談 を 素材 としてさらに 踏 み 込 んで 考察 しようとするものである 。 その 際 まず 、 ダ ンバートン ・ オ ークス 会議閉幕後 からヤルタ 会談直前 までの 動 きを 概観 し 、 ついで 、 ヤルタ 会談 に おける 拒否権 に 関 する 議論 を 考察 す る 。 そして 最後 に 、 今後 の 課題 も 視野 に 入 れながら 問題提起 を 行 うことにしたい 。   なお 、 本稿 を 検討 するに あたり 以下 の 二点 を 断 っておきたい 。   第一 は 、 対象時期 に 関 するものである 。 本稿 は 、 国連憲章 の 起草過程 の 中 でもヤルタ 会談 に 焦点 を 当 てるものである ため 、 サンフランシスコ 会議 に 関 する 考察 は 今後 の 課題 としたい 。   第二 は 、 対象分野 に 関 するものである 。 本稿 は 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 を 検討 した 場合 と 同 じく ︵ 3︶ 、 国連憲章第 六章 の 紛争 の 平和的解決 をも 視野 に 入 れたうえで 、 近年最 も 問題 とされている 国連憲章第七章 の 平和 に 対 する 脅威 、 平 和 の 破壊 、 侵略行為 に 関 する 拒否権 の 意義 と 限界 を 考察 することにしたい 。   ︵一一一五︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 九八 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 第一章   ヤルタ会談直前までの動き   一九四四年一 〇 月九日 に 公表 された ダ ンバートン ・ オークス 提案 は 、 集団安全保障体制 の 基本的 な 枠組 みを 規定 する に 至 った 。 しかし 、 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 して 、 紛争当事国 たる 常任理事国 はあらゆる 場合 に 投票権 を 放棄 す べきだと 力説 する 英国 と 、 いかなる 場合 も 拒否権 を 認 めるべきだと 主張 して 譲 らなかったソ 連 との 対立 の 溝 は 深 く 、 結 局 、﹁ 安 全 保 障 理 事 会 に お け る 表 決 手 続 の 問 題 は 依 然 と し て 検 討 中 で あ る ︵ 4︶ ﹂ と 規 定 さ れ た に す ぎ な か っ た 。 ま た 、 ソ ビ エト 連邦 の 一六共和国 を 新 たな 国際機構 の 原加盟国 として 認 めるか 否 かをめぐる 問題 は 、 事 の 重大性 に 鑑 みて 非公式 に ﹁ X 問題 ︵ 5︶ ﹂ と 呼 ば れ 、 とりわけ 米国政府 を 大 いに 悩 ませていた 。   したがって 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議閉幕 からヤルタ 会談直前 まで 、 最 も 困難 かつ 緊急 を 要 すると 考 えられてい た 問題 は 、 安全保障理事会 の 表決手続及 び 新 たな 国際機構 の 原加盟国 をめぐるものであった ︵ 6︶ 。 そして 、 エドワード ・ ス テティニアス ︵ Edward R. Stettinius ︶ 米国務長官 やレオ ・ パスヴォルスキー ︵ Leo Pasvolsky ︶ 国務長官特別補佐 を 中 心 とする 委員会 が 米国内 において 設置 され 、 これらの 問題 、 とりわけ 安全保障理事会 の 表決手続 をめぐって 討議 が 重 ね られた ︵ 7︶ 。 その 結果 、 一九四四年一一月一五日 、 ステティニアスはフランクリン ・ ルーズベルト ︵ Franklin D. Roosevelt ︶ 米大統領 に 対 して 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 する 次 のような 案 を 提示 しうるに 至 った 。 すなわち 、 ﹁ 安全保障理事会 に 関 する 章 の 第 C 節 についての 提案 C  表決手続 1. 安全保障理事会 の 各理事国 は 、 一個 の 投票権 を 有 する 。   ︵一一一六︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 九九 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 2. 手続事項 に 関 する 安全保障理事会 の 決定 は 、 七理事国 ︵ 8︶ の 賛成投票 によって 行 われる 。 3. その 他 のすべての 事項 に 関 する 安全保障理事会 の 決定 は 、 常任理事国 の 同意投票 を 含 む 七理事国 ︵ 9︶ の 賛成投票 によっ て 行 われる 。 ただし 、 第八章第 A 節及 び 第八章第 C 節第一項 の 決定 ︵ 紛争 の 平和的解決 に 関 する 決定 筆者註 ︶ に 関 しては 、 紛争当事国 は 投票 を 棄権 しなけれ ば ならない ︵ 10︶ 。﹂   ス テ テ ィ ニ ア ス は ま ず 、﹁ こ の 提 案 さ れ た 方 式 は 、 実 質 的 に ダ ン バ ー ト ン ・ オ ー ク ス に お い て 討 議 さ れ た 妥 協 案 の 線 に 沿 っている 。 紛争当事国 は 、 紛争 の 調査 、 理事会 による 紛争 の 平和的解決 に 関 する 要請 、 そして 理事会 による 解決方 法及 び 手続 に 関 する 勧告 についての 理事会 の 決定 においては 投票 を 棄権 しなけれ ば ならない 。 この 提案 は 、 平和 に 対 す る 脅 威 な い し 平 和 の 破 壊 の 存 在 及 び か よ う な 脅 威 な い し 破 壊 の 抑 圧 に 関 す る 決 定 に つ い て は 全 会 一 致 の 規 則 を 維 持 す る ︵ 11︶ ﹂ と 説明 した 。 続 けて 彼 は 、﹁ この 提案 は 我 が 国 に とって 受 け 入 れうるべきものである 。 なぜならいかなる 紛争当事国 も 、 司法的 ないし 準司法的 な 手続 が 絡 む 限 り 自 らの 事件 において 裁判官 の 地位 を 占 めないけれども 、 司法的 よりはむしろ 政 治的 な 決定 が 絡 む 手続 においては 完全 に 参加 するだろうからである 。 この 提案 はソ 連 にとっても 受 け 入 れられるべきも のである 。 なぜならこれは 、 いかなる 行動 も 同意 なくして 自国 に 対 して 取 られるべきでないとするソ 連 の 望 みに 合致 す るからである ︵ 12︶ ﹂ と 指摘 し 、 この 提案 が ﹁ 何人 も 自己 の 裁判官 たりえない ﹂ ことを 強調 する 英米 のみならず 、 いかなる 決 定 も 最終的 に 自己 の 意思 に 反 して 下 されないことに 固執 するソ 連 の 立場 にも 合致 することを 力説 した 。   たしかにステティニアスが 指摘 するとおり 、 この 提案 は ダ ンバートン ・ オークス 会議 に おける 起草 グループが 提示 し た 妥協案 の 線 に 沿 ったものであり 、 両提案 の 実質的 な 内容 はほとんど 同一 であったと 言 ってよい ︵ 13︶ 。 ただし 、 ルーズベル トは ダ ンバートン ・ オークス 会議 における 妥協案 に 対 して 難色 を 示 したにもかかわらず 、 この 提案 を 米国政府 の 立場 と   ︵一一一七︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 〇 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 し て 正 式 に 認 め る に 至 っ た の で あ る ︵ 14︶ 。 そ の 理 由 と し て 彼 は 、﹁ 我 が 国 は 、 結 局 の と こ ろ 、 自 国 が 関 与 し う る い か な る 深 刻 なあるいは 差 し 迫 った 状況 においても 投票権 を 有 さないことに 賛同 しそうもない 事実 を 踏 まえるなら ば 、 妥協案 を 受 け 入 れる 必要 があるとの 結論 に 達 しなけれ ば ならなかった ︵ 15︶ ﹂ と 吐露 した 。 一九四四年九月当時 ケベック 会談中 だったこ ともあり ダ ンバートン ・ オークス 会議 における 妥協案 をあくまでも 叩 き 台 として 位置 づけたにすぎなかったルーズベル トは 、 結局 、 この 一一月一五日 の 提案 を 正式 に 認 めることによって 、 孤立主義的 な 国内議会 の 意向 をはじめとする 自国 の 国益 を 重視 する 方針 を 徐々 に 固 めていったのであった 。   か く し て 、 一 二 月 五 日 、 ル ー ズ ベ ル ト は さ き に 挙 げ た 一 一 月 一 五 日 の 提 案 を ウ ィ ン ス ト ン ・ チ ャ ー チ ル ︵ W inston S. Churchill ︶ 英 首 相 と ヨ セ フ ・ ス タ ー リ ン ︵ Josef Stalin ︶ ソ 連 首 相 に 送 付 し た ︵ 16︶ 。 そ の 中 で ま ず 米 国 提 案 の 要 点 を 説 明 し たルーズベルトは 、 続 けて 紛争 の 平和的解決 における 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 して 常任理事国 が 譲歩 することの 意義 を 次 のように 説 いたのであった 。 すなわち 、紛争 の 平和的解決 において 投票 を 棄権 する 旨 の ﹁ 常任理事国 の 了解 は 、 常任理事国 の 死活的利益 を 決 して 危 うくすることなく 、 また 、 かような 死活的利益 に 影響 する 理事会 のすべての 決定 に おいて 大国 は 全会一致 で 行動 しなけれ ば ならないといった 基本的 な 原則 を 決 して 損 なうことなく 、 常任理事国 の 道徳的 な 威信 を 大 いに 高 めるだろうし 、 また 、 将来 の 平和 を 保障 する 主要国 としての 自 らの 地位 を 強 めるだろう 。 それは 、 平 和 の 強制 において 大国 に 対 して 特別 な 地位 を 必然的 に 付与 する 計画全般 を 、 すべての 国家 にとってより 一層受 け 入 れや すくするだろう 。 ダ ンバートン ・ オークスに おいて 提示 されたいかなるソ 連 ないし 米国 の 覚書 も 、 このような 性質 の 問 題 に 関 する 表決手続 についての 特定 の 規定 を 含 んでいなかった ︵ 17︶ ﹂ と 主張 して 、 チャーチルとスターリンを 説得 しようと した 。   しかし 、 一二月二七日 、 スターリンはルーズベルトに 対 して 次 のような 書簡 を 送 り 返 してきた ︵ 18︶ 。 すなわち 、 まずスタ   ︵一一一八︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 一 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 ー リ ン は 、﹁ あ な た の 提 案 の 第 一 項 及 び 第 二 項 に 関 し て は 全 く 問 題 が な い の で 受 け 入 れ る こ と が で き る 。 ⋮⋮ あ な た の 提 案 の 第 三 項 に 関 し て は 、 私 は 受 け 入 れ る こ と が で き な い 。 あ な た 自 身 認 め る と お り 、 常 任 理 事 国 の 全 会 一 致 原 則 は 、 平和 に 対 する 脅威 の 決定 に 関 すると 共 に 、 かような 脅威 を 除去 する 措置 あるいは 侵略 の 抑圧 に 関 するないし 平和 に 対 す る 他 の 侵害 に 関 する 理事会 のすべての 決定 に 必要 である 。 疑 いもなく 、 かような 性質 の 問題 に 関 する 決定 が 下 される 場 合 、 平和及 び 安全 の 維持 に 関 して 主要 な 責任 を 自 ら 負 う 理事会 の 常任理事国 の 完全 な 合意 がなけれ ば ならない ︵ 19︶ ﹂ と 力説 し 、 米国提案 の 第一項及 び 第二項 に 関 しては 支持 を 表明 しつつも 、 第三項 に 関 しては 、 あくまでも 常任理事国 の 一致 が いかなる 場合 でも 貫 かれるべきことに 固執 した 。 なお 、 その 際 スターリンは 、 常任理事国自身 が 国際 の 平和及 び 安全 の 維持 に 関 して 主要 な 責任 を 負 うからこそ 、 その 全会一致 が 不可欠 であることを 強調 している 点 が 注目 される 。   続 け て 彼 は 、﹁ あ る 段 階 に お い て 、 理 事 会 に お け る 一 ヵ 国 な い し 数 ヵ 国 の 常 任 理 事 国 を さ き に ふ れ た 問 題 に 関 す る 投 票 に お い て 参 加 す る こ と か ら 妨 げ よ う と す る 試 み が ― 理 論 的 に は 、 常 任 理 事 国 の 多 数 派 が あ る 問 題 に 関 す る 決 定 を 下 す 際 に 参 加 す る こ と を 妨 げ 得 る 場 合 も 推 測 し う る ― 国 際 的 な 安 全 保 障 の 維 持 と い う 目 的 に 対 し て 致 命 的 な 結 果 を も た らしうることは 言 うまでもない 。 かような 状況 は 、 四 つの 主要国 による 決定 の 合意及 び 全会一致 の 原則 と 矛盾 し 、 また 、 い く つ か の 大 国 が 他 の 大 国 と 対 立 関 係 に 陥 る 状 況 へ と 導 き う る 。 そ の こ と は 普 遍 的 な 安 全 保 障 の 目 的 を 阻 害 し う る 。 ⋮⋮ したがって 、 私 は 安全保障理事会 の 投票手続問題 に 関 する 従来 の 立場 を 主張 しなけれ ば ならない ︵ 20︶ ﹂ と 力説 した 。 要 するにスターリンは 、 常任理事国 が 国際 の 平和及 び 安全 の 維持 に 関 して 主要 な 責任 を 負 うためいついかなる 場合 におい ても 常任理事国 の 完全 な 全会一致 が 必要 であること 、 そしてとりわけ 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 を 少 しでも 否 定 することは 常任理事国間 の 対立 ひいては 大規模 な 武力闘争 を 誘発 しかねないことを 危惧 して 、 一二月五日 にルーズベ ルトが 送付 した 提案 を 撥 ね 付 けたのであった 。   ︵一一一九︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 二 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   か よ う な 展 開 を 踏 ま え て 、 一 二 月 二 八 日 、 ア ベ レ ル ・ ハ リ マ ン ︵ W . A verell Harriman ︶ 駐 ソ 米 国 大 使 は 、﹁ な ぜ ソ 連 が 平 和 的 手 続 き さ え も 含 む す べ て の 事 項 に 関 す る 理 事 会 に よ る 検 討 を 拒 否 す る 権 利 ︵ right to veto ︶ を 主 張 し て い る のか ︵ 21︶ ﹂ に 関 する 回答 をステティニアスに 対 して 打電 した 。 その 中 でハリマンは 、 ソ 連 があらゆる 場合 に 拒否権 を 手中 に 納 め よ う と す る 強 硬 な 態 度 を 貫 く 根 本 的 な 原 因 と し て 以 下 の 四 点 を 挙 げ た 。 す な わ ち 、 第 一 に 、﹁ ソ 連 の 反 応 を 分 析 す る 際 、 あの 革命 ︵ ロシア 革命 筆者註 ︶ 以降 、 世界中 の 国家 がソ 連及 びソ 連 の 目的 に 対 して 敵対的 ないし 懐疑的 になっ ていることに 留意 しなけれ ば ならない 。 ロシア 人 は 自 らが 今 や 力 のある 世界 の 大国 として 認 められていることを 理解 し ているけれども 、 彼 らは 依然 として 自 らに 対 する 大多数 の 国家 の 根本的 な 態度 を 疑 っている 。 したがって 彼 らは 、 理事 国 がソ 連政府 の 関与 しうる 紛争 を 扱 う 際 に 公平 だろうといった 確信 を 欠 いている ︵ 22︶ ﹂。   第二 に 、﹁ ソ 連 は 、 将来 の 外交政策 に おいて 、 我々 が 未 だ 完全 に 理解 していない 明確 な 目標 を 持 っている 。 たとえ ば 、 彼 らはソ 連 と 国境 を 接 する 国家 が 独立 を 有 する 権利 を 認 めているけれども 、 彼 らは ﹁ 友好的 な ﹂ 政府 を 主張 する 。 これ ま で の ソ 連 の 行 動 か ら す れ ば 、﹁ 友 好 的 な ﹂ 及 び ﹁ 独 立 的 ﹂ と い う 文 言 は 、 我 々 の 解 釈 と は 大 き く 異 な る 内 容 を 意 味 し ているように 見受 けられる 。⋮⋮ もし 彼 らの 行動 が 異 なる 概念 を 有 する 国家代表 による 精密 な 調査 に 服 するのであれ ば 、 彼 らの 行動及 び 目標 は 十中八九非難 され 、 その 結果 、 世界 において 最 も 高 い 権威 により 支持 される 公的 な 批判 に 服 する ことになるだろう ︵ 23︶ ﹂。   第 三 に 、﹁ 彼 ら は 、 国 際 安 全 保 障 機 構 を ソ 連 が 侵 略 国 に 対 し て 保 護 さ れ う る 手 段 と 見 て い る よ う に 思 わ れ る 。 だ が 、 国際安全保障機構 が 調停 ないし 司法的 な 手続 を 通 じて 自国 と 他国 の 間 の 紛争 を 解決 する 際 に 彼 らに とって 有益 でありう ると 信 じているかどうかは 疑 わしいように 見受 けられる ︵ 24︶ ﹂。   そ し て 第 四 に 、﹁ 私 は 我 々 が 根 本 的 な 問 題 に 直 面 し て い る こ と を 恐 れ て い る 。 す な わ ち 、 ほ と ん ど の 国 家 が 国 際 関 係   ︵一一二〇︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 三 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 を 促進 するための 調停的 ないし 司法的 な 手続 を 発展 させるものとして 国際安全保障機関 を 見 ているのに 対 して 、 ソ 連 が より 狭 い 観点 からそれを 見 ているようだとすれ ば 、 その 国際安全保障機関 の 効果 はいかなるものなのか ︵ 25︶ ﹂。   かくして 、 自由主義体制 と 共産主義体制 の 根本的 な 対立 こそ 、 少数派 のソ 連 が 死活的利益 を 固守 する 手段 としての 絶 対的 な 拒否権 を 譲 らない 根拠 であることを 示 したハリマンは 、﹁ ソ 連 は 表決手続 に 関 する 立場 について 肚 を 決 めている 。 したがって 、 彼 らの 立場 を 変更 させる 唯一 の 可能性 は 、 我々 と 英国 が 、 機構 に 加盟 する 小国 の 広範 な 反発 を 背景 に 、 ソ 連 の 条件 に 対 して 断固 かつ 明確 な 姿勢 をとりうるかに かかるであろう 。 我々 は 多大 な 影響 を 及 ぼすソ 連 の 立場 の 意味合 いと 現実的 に 向 き 合 い 、 我々 の 政策 をそれに 応 じて 調整 すべきであるように 思 われる ︵ 26︶ ﹂ と 結論 づけた 。   これらの 展開 を 経 た 結果 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 の 妥協案 に 沿 った 草案 を 英 ソ 両国 に 提示 した 米国 、 表決問題 に 関 するあらゆる 妥協 に 対 するソ 連 の 一貫 した 反発 、 及 び 、 この 問題 に 関 する 不明瞭 な 英国 の 態度 と 共 に 、 一九四五年 が 明 け る こ と に な っ た ︵ 27︶ 。 そ し て 、 一 月 一 一 日 、 パ ス ヴ ォ ル ス キ ー が ア ン ド レ イ ・ グ ロ ム イ コ ︵ Andrei A. Gromyko ︶ 駐 米 ソ 連 大 使 と 会 談 し た 。 こ の 会 談 に お い て グ ロ ム イ コ は 、﹁ 小 国 が 第 一 に 関 心 を 抱 い て い る こ と は 平 和 で あ る 。 こ の 平 和 は 、 大国間 の 団結 が 功 を 奏 さない 限 り 得 ることができない 。 そして 、 もし 全会一致 の 規則 が 安全保障理事会 の 表決手 続 において 一貫 して 維持 されなけれ ば 、 この 大国間 の 団結 が 阻害 されるのは 不可避 となろう ︵ 28︶ ﹂ と 主張 し 、 スターリンと 同様 、 完全 な 全会一致原則 に 裏付 けられた 大国間 の 協調 が 大国自身 にとってのみならず 中小国 にとっても 生存 の 大前提 であることを 訴 えた 。   続 けてグロムイコは 、 米国 が ﹁ 道徳的 、 法的 、 そして 機構的 な 問題 を 余 りに 強調 しすぎているため 、 この 問題 の 政治 的 な 側面 に ほとんど 注意 を 払 っていない ︵ 29︶ ﹂ と 痛烈 に 批判 した 。 これに 対 してパスヴォルスキーは 、 この 問題 の 道徳的 か つ 法 的 な 側 面 に 優 る と も 劣 ら な い ほ ど 政 治 的 な 側 面 を 強 く 意 識 し て い る と 断 っ た う え で 、﹁ 大 国 が お 互 い に 信 頼 し 団 結   ︵一一二一︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 四 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 して 行動 する 場合 にのみこの 機構 が 成功 するだろうことは 明 らかである 。 しかし 、 小国 が 大国 を 信頼 することがこの 機 構 の 成功 にとって 不可欠 であることもまた 同様 に 明 らかである ︵ 30︶ ﹂ と 反論 した 。   このグロムイコとパスヴォルスキーのやりとりは 、 まさに 集団安全保障体制 の 本質 ひいては 国際社会 における 法 ・ 政 治 ・ 道徳 の 相互関係 をいかに 捉 えるかといった 問題 の 核心 に 迫 るものであった 。 国内社会 のような 中央集権的 な 機関 が 未 だ 存在 しない 国際社会 においては 、 国際 の 平和及 び 安全 を 維持 するためには 、 次善 の 策 として 大国 の 力 の 協調 に 頼 ら ざるを 得 ない ︵ 31︶ 。 まして 過去二度 まで 人類 に 計 り 知 れぬ 惨害 を 与 えた 世界大戦 が 、 大国間 の 協調 の 破局 から 生 じたことか らすれ ば 、 大国間 の 団結 をいかに 実現 すべきかといった 政治的 な 側面 を 重視 することが 、 国際 の 平和及 び 安全 の 維持 を 目的 とする 集団安全保障体制 の 成功 の 鍵 を 握 る 絶対条件 であった 。 これこそ 、﹁ ︵ 拒否権 ︶ 制度 は 、 国際社会 の 平和維持 機構 における 権力的要素 を 端的 に 反映 しており 、 まさしく 法 と 政治 の 交接点 におかれている ︵ 32︶ ﹂ と 評 される 所以 である 。   しかし 、 だからといってグロムイコがいわゆる 絶対的 な 拒否権 を 提唱 したことは 、 全会一致原則 に 裏付 けられた 新 た な 国際機構 の 実効性 を 過度 に 重視 するあまり 、 集団安全保障体制 の 法的及 び 道徳的 な 側面 、 ことに 表決手続 の 正統性 に 敏感 な 中小国 の 立場 をあまりにも 軽視 するものではなかろうか 。 そして 、 これら 中小国 の 立場 を 無碍 に 切 り 捨 てること は 、 かえって 新 たな 国際機構 の 実効性 を 低下 させるどころか 、 長期的 には 機構 それ 自体 の 崩壊 を 招 きひいては 大国自身 の 国 益 を 損 な う 恐 れ も 決 し て 否 定 さ れ 得 な い の で は な い か ︵ 33︶ 。 な ぜ な ら 、 ジ ュ ゼ ッ ペ ・ ル ミ ア ︵ Giuseppe Lumia ︶ も 指 摘 す る と お り 、﹁ 社 会 組 織 、 そ し て そ の 組 織 力 で あ る 権 力 は 、 本 質 上 二 つ の 基 礎 に 立 つ 。 同 意 と 強 制 力 で あ る 。 こ の 二 つの 要素 は 、 異 なる 政治制度 においてさまざまに 配分 される 。 しかし 、 この 二 つは 、 いずれか 一方 がなくてはすまされ ない ︵ 34︶ ﹂ からである 。 その 意味 では 、 新 たな 国際機構 における 強制力 と 同意 の 調整 に 腐心 する 先 に 挙 げたパスヴォルスキ ーの 発言 は 、 少 なくとも 一般的 な 観点 からすれ ば 、 グロムイコの 発言 よりも 妥当 なものであったと 言 えよう 。   ︵一一二二︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 五 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   なおこの 会合 の 最後 にグロムイコが 、 ソ 連 の 一六共和国 を 新 たな 国際機構 の 原加盟国 として 認 めることがきわめて 重 要 であることを 想起 させたうえで 、 パスヴォルスキーに 対 して 事態 の 進展 があったかどうか 問 い 掛 けていたことが 注目 される 。   そして 、 一月一四日 になってようやく 、 英国 は 米国 に 対 して ﹁ 我 が 政府 は 米国大統領 の 提案 した 世界機構 の 安全保障 理事会 における 投票手続 に 関 する 妥協案 を 受 け 入 れる 準備 がある ︵ 35︶ ﹂ と 伝 えて 、 一九四五年一二月五日 にルーズベルトが 送付 した 米国提案 の 受諾 を 通告 してきたのであった ︵ 36︶ 。   以上 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議閉幕 からヤルタ 会談直前 までの 動 きを 概観 した 。 では 、 かような 経緯 を 踏 まえて 、 ヤルタ 会談 において 三大国首脳 は 安全保障理事会 の 表決手続 をめぐっていかなる 主張 を 展開 したのだろうか 。 一体 、 新 たな 国際機構 の 強制力 を 裏付 ける 大国 の 意思 をできる 限 り 尊重 したうえで 、 なおかつ 中小国 の 同意 を 取 り 付 けうるよう な 安全保障理事会 の 表決方式 とは 具体的 にいかなる 内容 なのだろうか 。 第二章   ヤルタ会談   一九四五年二月四日 から 一一日 までクリミア 半島 のヤルタにおいて 、 ルーズベルト 、 チャーチル 、 スターリンの 三大 国首脳会談 が 行 われた 。 ヨーロッパにおける 当時 の 軍事的状況 としては 、 一九四四年一二月一六日 の 英米軍 によるライ ン 渡河作戦 に 対 してドイツ 軍 がアルデンヌ 高原大反攻作戦 を 行 ったけれども 、 翌四五年一月一二日 、 ソ 連赤軍 が 東部戦 線 において 攻勢 を 開始 しドイツ 軍 に 対 して 大打撃 を 与 えた 結果 、 ヤルタ 会談 の 直前 にソ 連赤軍 はポーランドを 含 む 東欧 諸 国 を ほ ぼ 占 領 し て い た の み な ら ず ベ ル リ ン か ら わ ず か 八 〇 キ ロ の 地 点 に ま で 迫 っ て い た ︵ 37︶ 。 他 方 、 ア ジ ア に お い て は 、   ︵一一二三︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 六 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 一九四四年七月七日 、 米軍 がサイパン 島 を 占領 して 日本本土 に 対 する 空爆 が 可能 となった 結果 、 同年一一月二四日 に は B 29による 東京大空襲 が 開始 されていた 。 かかる 流動的 な 軍事的状況 の 下 に 開 かれたヤルタ 会談 においては 、 ドイツ 賠 償問題 、 ポーランド 問題 、 ソ 連 の 対日参戦問題 、 等々実 に 様々 な 問題 が 討議 されたが 、 本稿 の 観点 からは 、 安全保障理 事会 の 表決手続 が 三大国 の 間 で 決着 した 点 が 重要 である 。   では 、 三大国首脳 はいかなる 戦後秩序 を 構想 し 、 そして 、 それを 実現 するために 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 して どのような 主張 を 展開 したのだろうか 。 また 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 に おいて 起草 グループの 提案 した 妥協案 が 決裂 したにもかかわらず 、 なぜ 、 それと 実質的 に 同 じ 内容 のいわゆるヤルタ 方式 が 合意 に 達 し 得 たのか 。   さらに 、 とりわけその 際 、 果 たして 常任理事国 は ﹁ 四人 の 警察官 ﹂ として 中小国間 の 紛争 に 対処 する 際 に 、 もっぱら 自国 の 国益 に 基 づいて 拒否権 をほぼ 無制限 に 投 じうるとまで 主張 していたのだろうか 。 むしろ 、 集団安全保障体制 の 本 質 を 踏 ま え 、 常 任 理 事 国 は ﹁ 四 人 の 警 察 官 ﹂ と し て 国 際 の 平 和 及 び 安 全 の 維 持 に 関 し て 主 要 な 責 任 を 負 い 、 そ の 結 果 、 そういう 際 には 拒否権 を 投 じうるか 否 かに 関 して 何 がしかの 限界 が 意識 されていたのだろうか 。   かような 問題意識 に 基 づき 、 本章 ではまず 、 三大国首脳 が 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 して 最 も 集中的 に 討議 した 第三全体会議 の 内実 を 明 らかにし 、 ついで 、 ヤルタ 会談 の 意義 と 限界 を 掘 り 下 げて 考察 していくことにしよう 。 一.第三全体会議   一九四五年二月六日 の 第三全体会議 において 、 三巨頭 は ﹁ 世界安全保障機構 ︵ W orld Security Organization ︵ 38︶ ︶﹂ をテー マ に 突 っ 込 ん だ 議 論 を 交 わ し た 。 こ の 会 合 に お い て ま ず ル ー ズ ベ ル ト は 、﹁ 世 界 の す べ て の 国 家 が 少 な く と も 五 〇 年 間 戦 争 の 除 去 を 経 験 す る 共 通 の 望 み を 分 か ち 合 っ て い る ︵ 39︶ ﹂ と 訴 え か け る と 共 に 、﹁ 恒 久 の 平 和 を 信 ず る ほ ど 楽 観 的 で は な   ︵一一二四︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 七 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 いけれども 、 五 〇 年間 の 平和 は 実現可能 であると 確信 する ︵ 40︶ ﹂ とこのテーマに 対 する 並々 ならぬ 熱意 を 明 らかにしたうえ で 、 議長 を 務 めていたステティニアスに 対 して 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 に 出席 していない 三巨頭 のために 米国案 の 内容 を 説明 するよう 指示 した 。   この 指示 を 受 けてステティニアスは 、 すでに 一九四四年一二月五日 に チャーチルとスターリン に 送付 していた 米国草 案 を 若干修正 した 以下 のような 草案 を 提示 した 。 すなわち 、 ﹁ 第 C 節  表決手続 1. 安全保障理事会 の 各理事国 は 、 一個 の 投票権 を 有 する 。 2. 手続事項 に 関 する 安全保障理事会 の 決定 は 、 七理事国 の 賛成投票 によって 行 われる 。 3. その 他 のすべての 事項 に 関 する 安全保障理事会 の 決定 は 、 常任理事国 の 同意投票 を 含 む 七理事国 の 賛成投票 によっ て 行 われる 。 ただし 、 第八章第 A 節及 び 第八章第 C 節一項第二文 に 基 づく 決定 については 、 紛争当事国 は 投票 を 棄 権 しなけれ ば ならない ︵ 41︶ 。﹂   ここにはじめて 、 三巨頭 が 一堂 に 会 する 場 において 、 国連憲章第二七条 とほぼ 同 じ 内容 のいわゆるヤルタ 方式 が 正式 に 提 示 さ れ る に 至 っ た 。 つ い で ル ー ズ ベ ル ト が 、 こ の 米 国 提 案 の 効 果 を 具 体 的 に 分 析 す る よ う 要 請 し た こ と を 受 け て 、 ステティニアスは 次 のような 報告 を 行 った 。 すなわち 、 ﹁ 上 記 の 方 式 の も と で は 、 以 下 の 決 定 は す べ て の 常 任 理 事 国 を 含 む 安 全 保 障 理 事 会 の 七 理 事 国 の 賛 成 投 票 を 必 要 と す る   ︵一一二五︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 八 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 だろう 。 すなわち 、 Ⅰ . 次 の 点 に 関 する 総会 への 勧告    1. 新加盟国 の 承認    2. 加盟国 としての 地位 の 停止    3. 加盟国 の 除名    4. 事務総長 の 選挙 Ⅱ . 加盟国 の 停止 された 権利及 び 特権 の 回復 Ⅲ . 次 の 問題 を 含 む 平和 に 対 する 脅威 の 除去及 び 平和 の 破壊 の 抑圧    1. 紛争当事国 が 自 らの 選択 する 方法 ないし 安全保障理事会 の 勧告 に 基 づいて 解決 しなかったことが 実際 に 平和 に 対 する 脅威 を 構成 するか 否 か 。    2. いずれかの 国家 によるその 他 の 何 らかの 行動 が 平和 に 対 する 脅威 ないし 平和 の 破壊 を 構成 するか 否 か 。    3. 平和 を 維持 ないし 回復 するためにいかなる 措置 が 理事会 によってとられるべきか 、 また 、 かような 措置 が 実行 されるべき 方法 はいかなるものか 。    4. 地域的機関 が 強制措置 をとることを 認 められるべきか 否 か 。 Ⅳ . 軍隊及 び 基地 の 提供 に 関 する 特別協定 ないし 協定 の 承認 Ⅴ . 軍備規制 の 一般的 な 体制 に 関 する 計画 の 作成及 び 加盟国 に 対 するかような 計画 の 提出 Ⅵ . 平和及 び 安全 の 維持 に 関 する 地域的機関 ないし 取極 の 性質及 び 活動 が 一般的 な 機構 の 目的及 び 原則 に 合致 するか 否 かの 決定   ︵一一二六︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 〇 九 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   紛争 の 平和的解決 に 関 する 以下 の 決定 もすべての 常任理事国 を 含 む 安全保障理事会 の 七理事国 の 賛成投票 を 必要 とす るだろう 。 ただし 、各理事国 は 自 らが 当事国 である 紛争 に 関 わるいかなる 決定 に おいても 投票 しないだろう 。 すなわち 、 Ⅰ . 理事会 の 議題 に 付託 された 紛争 ないし 事態 の 継続 が 平和 を 脅 かすような 性質 であるか 否 か 。 Ⅱ . 理事会 が 当事国 に 対 して 彼 ら 自身 の 選択 によって 紛争 ないし 事態 を 解決 ないし 調整 するよう 要請 すべきか 否 か 。 Ⅲ . 理事会 が 解決 の 方法及 び 手続 に 関 して 当事国 に 対 して 勧告 をすべきか 否 か 。 Ⅳ . 提起 された 問題 の 法的側面 が 理事会 によって 国際司法裁判所 へ 助言 を 得 るために 付託 されるべきか 否 か 。 Ⅴ . もし 地域的 な 紛争 の 平和的解決 に 関 する 地域的機関 が 存在 するなら ば 、 かかる 機関 が 当該問題 に 関与 するよう 要請 されるべきか 否 か ︵ 42︶ 。﹂   こ の 報 告 を 受 け て ま ず ス タ ー リ ン は 、﹁ ス テ テ ィ ニ ア ス 氏 の 声 明 の 中 で 、 一 九 四 四 年 一 二 月 五 日 の 大 統 領 の 電 報 に 含 ま れ て い な か っ た 新 た な 箇 所 は な に か ︵ 43︶ ﹂ と 問 い 掛 け た と こ ろ 、 ル ー ズ ベ ル ト は ﹁ い か な る 実 質 的 な 変 更 も な さ れ て い ない ︵ 44︶ ﹂ と 返答 し 、 続 けてステティニアスは ﹁ 起草案 の 変更 を 若干行 っただけである ︵ 45︶ ﹂ と 補足 した 。 しかしヴィアチエス ラ フ ・ モ ロ ト フ ︵ V yacheslav M. Molotov ︶ ソ 連 外 相 は 、﹁ ソ 連 政 府 は 安 全 保 障 理 事 会 の 表 決 手 続 問 題 に 対 し て 大 き な 重 要性 を 付 している 。 したがって 、 米国提案 とりわけ 起草案 の 変更 の 効果 を 調査 することを 望 んでおり 、 明日 この 問題 を 討議 する 用意 がある ︵ 46︶ ﹂ と 発言 し 、 この 会合 において 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 してこれ 以上討議 することを 止 める よう 働 きかけた 。   と こ ろ が チ ャ ー チ ル は 、﹁ 三 大 国 を め ぐ る 現 実 的 な 状 況 が 考 慮 さ れ る べ き で あ る こ と を 懸 念 し て い た の で ダ ン バ ー ト ン ・ オークスにおいて 提示 された 最初 の 提案 に 同意 しなかったけれども 、 米大統領 の 最近 の 提案 を 研究 してこの 点 に 関   ︵一一二七︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 〇 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 す る 私 自 身 の 懸 念 は 除 か れ た ︵ 47︶ ﹂ と こ れ ま で の 経 緯 を 振 り 返 り な が ら こ の 問 題 の 討 議 を 継 続 し た う え で 、﹁ 米 大 統 領 の 新 しい 提案 は 完全 に 納得 いくものである ︵ 48︶ ﹂ と 発言 して 、 このヤルタ 方式 を 受 け 入 れたのであった 。   続 け て チ ャ ー チ ル は 、﹁ な ぜ 英 国 政 府 は 、 大 統 領 の 提 案 が 英 国 の 国 益 に 対 し て い か な る 損 害 も 生 ぜ し め な い と 考 え る かに 関 して 実例 を 出 して 説明 しよう ︵ 49︶ ﹂ と 発言 し 、 もっぱら 英国自身 が 紛争当事国 である 場合 に 関 するヤルタ 方式 の 具体 的 な 解 釈 論 を 展 開 し た 。 ま ず チ ャ ー チ ル は 、﹁ も し 中 国 が 、 米 大 統 領 の 提 案 ︵ ヤ ル タ 方 式 筆 者 註 ︶ の 下 で 香 港 返 還 の 問題 を 提起 すれ ば 、 ステティニアス 氏 によって 報告 された 分析 の 五項目 に 列挙 されているとおり 、 中国 と 大英帝国 のい ずれもこの 論争 の 解決方法 に 関 する 投票 から 除 かれるだろう 。 結局 のところ 、 大英帝国 は 、 ステティニアス 氏 の 分析 の 第三項 に 基 づく 拒否権 の 行使 によって 自国 の 国益 に 反 するいかなる 決定 に 対 しても 保護 されるだろう ︵ 50︶ ﹂ と 主張 した 。   こ れ に 対 し て ス タ ー リ ン は 、﹁ も し エ ジ プ ト が ス エ ズ 運 河 返 還 の 問 題 を 提 起 し た ら ど う な る の か ︵ 51︶ ﹂ と 問 い 掛 け た と こ ろ 、 チャーチルはさきの 発言 を 敷衍 しつつ 次 のように 論 じた 。 すなわち 、﹁ ステティニアス 氏 の 分析 の 第三項 の 下 では 、 大英帝国 は 、 実際 、 拒否権 に よって 世界機構 の 理事会 に よる 大英帝国 に 対 するあらゆる 行動 を 阻止 する 権利 を 有 するだ ろう 。 したがって 、 大英帝国 は 自国自身 の 国益 に 反 するいかなる 決定 にも 同意 する 必要 はないだろう 。 たとえ ば 大英帝 国 は 、 そうなされるべきであると 感 じない 限 り 、 香港 を 返還 するよう 要求 されないだろう 。 しかしながら 、 中国 は 発言 する 権利 を 有 すべきであって 、 もしエジプトがスエズ 運河 に 関 して 請求 を 提起 するなら ば 、 同 じ 考慮 がエジプトに もあ てはまるだろう 。 米国 に 関 しても 同 じ 考慮 があてはまるだろう 。 たとえ ば 、 アルゼ ンチンが 米国 に 対 してある 請求 を 提 起 する 場合 である 。⋮⋮ 我々大国 は 賛同 しない 場合 に 依然 として 拒否権 によって 保護 されているのだから 、 他国 が 弁明 することを 認 めるべきである ︵ 52︶ ﹂ と 詳細 に 説明 した 。 要 するにチャーチルは 、 平和的解決 ︵ 53︶ の 段階 において 紛争当事国 は 投 票 を 棄権 する 義務 を 負 うため 、 常任理事国 の 絡 む 紛争 に 関 しても 討議 がなされうるけれども 、 最終的 に 強力的解決 ︵ 54︶ の 段   ︵一一二八︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 一 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 階 において 、 紛争当事国 たる 常任理事国 はほぼ 全面的 に 拒否権 を 投 じうるため 、 新 たな 国際機構 は 何 ら 強制的 な 措置 を とり 得 ない 旨 の 理解 を 示 した 。   と こ ろ が ス タ ー リ ン は 、﹁ ダ ン バ ー ト ン ・ オ ー ク ス 提 案 も す で に 総 会 に お け る 討 議 の 権 利 を 認 め て い る け れ ど も 、 お よそ 国家 が 自 らの 見解 を 表明 することだけで 満足 するとは 信 じられない 。 彼 らは 何 らかの 決定 を 欲 するだろう 。 もしチ ャ ー チ ル 氏 が 、 中 国 が 香 港 問 題 を 提 起 し た 後 に 自 ら の 見 解 を 単 に 表 明 す る だ け で 満 足 す る だ ろ う と 考 え て い る な ら ば 、 彼 は 間違 っている 。 なぜなら 、 中国 は 決定 を 欲 するだろうからである 。 想定 されるスエズ 運河問題 にも 同 じことがあて はまる ︵ 55︶ ﹂ と 、 決定 と 討議 を 峻別 して 後者 についてのみ 譲歩 しうると 楽観的 に 考 えるチャーチルに 反論 を 投 げかけた 。 そ して 、 常任理事国 が 紛争当事国 である 場合 はいついかなる 場合 でも 、 新 たな 国際機構 は 強制措置 を 発動 し 得 ないことは もとより 、 そもそも 討議 し 得 ないようにもすべきであることを 示唆 し 、 ヤルタ 方式 に 対 して 反対 の 姿勢 を 匂 わせた 。   そ の う え で ス タ ー リ ン は 、﹁ 主 要 な こ と は 将 来 に お け る 三 大 国 間 の 争 い を 防 止 す る こ と で あ り 、 し た が っ て 、 こ こ で の 任 務 は 将 来 に 向 け て の 三 大 国 間 の 団 結 を 確 保 す る こ と で あ る ︵ 56︶ ﹂ こ と を 幾 度 も 確 認 す る と 共 に 、﹁ 最 も 大 き な 危 険 は こ こに 出席 している 三大国間 の 対立 であるけれども 、 もし 団結 が 固持 されるなら ば 、 ドイツ 侵略 の 再現 の 危険 はほとんど ないだろう ︵ 57︶ ﹂ と 呼 びかけ 、 何 よりも 重要 なことは 新 たな 国際機構 が 常任理事国 の 意思 に 反 してまで 討議 することではな く 国際 の 平和及 び 安全 を 担 う 大国間 の 協調 であること 、 そして 将来 、 一般的 かつ 抽象的 な 脅威 はともかく 、 少 なくとも 具体的 なドイツの 再侵略 を 阻止 するためには 、 三大国 の 団結 が 必要不可欠 であることを 力説 した 。   もっとも 、 他 の 問題 に 忙 しかったので ダ ンバートン ・ オークス 提案 を 詳細 に 検討 する 機会 がなかったことを 断 ったう えで 、 スターリンは 、 ヤルタ 方式 に おいて ﹁ 経済的 、 政治的 、 ないし 軍事的 な 制裁 の 適用 を 必要 とする 紛争 ﹂ と ﹁ 平和 的方法 によって 解決 されうる 紛争 ﹂ といった 二 つの 類型 があることを 指摘 した 。 そして 、 前者 に 関 しては 紛争当事国 た   ︵一一二九︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 二 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 る 常 任 理 事 国 が 拒 否 権 を 投 じ う る の に 対 し て 、 後 者 に 関 し て は 拒 否 権 を 投 じ 得 な い 旨 の 理 解 を 示 し た 。 加 え て 彼 は 、 ﹁ 我 々 ロ シ ア 人 が 投 票 の 方 式 に 関 し て 余 り に 多 く の 時 間 を 浪 費 し て い る と 非 難 さ れ て い る こ と は 認 め る 。 し か し 、 ロ シ ア 人 はこの 問題 に 対 して 大 きな 重要性 を 付与 した 。 なぜならあらゆる 決定 は 投票 に よってなされるのであり 、 また 、 ロ シア 人 は 討議 にではなく 決定 に 関心 を 持 っているからである 。⋮⋮ たとえ ば 、 もし 中国 あるいはエジプトが 英国 に 対 し て 請求 を 提起 するなら ば 、 これら 二国 は 総会 に おいて 友好国 あるいは 保護国 と 共 に ︵ 英国 を 非難 しうる ︶ だろう ︵ 58︶ ﹂ と 主 張 した 。   この 発言 からだけでは 、 スターリンが 安全保障理事会 と 総会 の 相互関係 をいかに 捉 えていたのか 明 らかではない 。 そ のため 、 総会 に 関 する 彼 の 発言 は 必 ずしも 判然 としないように 見受 けられる 。 しかしおそらくスターリンは 、 安全保障 理事会 であれ 総会 であれ 新 たな 国際機構 がソ 連自身 が 当事国 である 紛争 について 討議 する 権利 をいったん 認 めてしまえ ば 、 これらの 機関 が 自由主義 の 観点 から 徐々 に 深入 りし 、 結局 、 自国 の 国益 を 大 きく 侵害 する 結果 を 招 くことを 恐 れた と 言 えよう 。   新 たな 国際機構 における 多数派 の 強硬 な 姿勢 が 自国 に 矛先 を 向 けることを 強 く 懸念 するこうしたスターリンの 度重 な る 発 言 に 対 し て 、 チ ャ ー チ ル と ス テ テ ィ ニ ア ス は 、﹁ 米 国 提 案 の 下 で は 、 世 界 機 構 の 権 限 は い ず れ の 常 任 理 事 国 に 対 し ても 向 けられ 得 ないだろう ︵ 59︶ ﹂ と 指摘 し 、スターリンの 懸念 は 全 く 根拠 がないことを 納得 させようと 腐心 した 。 ところが 、 それでもなおスターリンは 、 たとえ 新 たな 国際機構自体 がソ 連 に 牙 を 向 ける 可能性 は 拒否権 に 基 づき 否定 されていると し て も 、﹁ 何 が し か の 紛 争 が 我 々 の 統 一 戦 線 の 団 結 を 破 壊 す る か も 知 れ な い こ と を 恐 れ て い る ︵ 60︶ ﹂ と 発 言 し 、 新 た な 国 際 機構自体 が 拒否権 によっていわ ば 麻痺 ないし 瓦解 した 後 のドイツの 再侵略 、 ひいては 三大国間 の 直接的 な 衝突 を 危惧 し た 。   ︵一一三〇︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 三 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   だ が 、 こ の ス タ ー リ ン の 発 言 に 対 し て チ ャ ー チ ル は 、﹁ そ の 議 論 の 道 理 は 分 か る け れ ど も 、 世 界 機 構 が 大 国 間 の 紛 争 を 除去 するだろうとは 信 じないし 、 それは 外交 の 機能 として 残 るだろう ︵ 61︶ ﹂ とスターリンの 懸念 を 突 き 放 し 、 主権国家 か ら 構成 される 新 たな 国際機構 は 中央集権的 ないわゆる 世界政府 とは 本質的 に 異 なるため 、 大国自身 の 紛争 を 実効的 に 解 決 し 得 ないこと 、 その 結果 、 大国自身 が 絡 む 紛争 の 解決 は 国際機構 それ 自身 が 麻痺 ないし 瓦解 した 後 の 三大国間 の 外交 如何 に 掛 かっていることを 強調 したのであった 。   し か し 、 新 た な 国 際 機 構 に よ る 措 置 を め ぐ る 議 論 を 蒸 し 返 し つ つ 、 ス タ ー リ ン は 、﹁ モ ス ク ワ の 同 僚 は フ ィ ン ラ ン ド 戦争 における 一九三九年一二月 の 出来事 を 忘 れることができない 。 この 戦争 において 国際連盟 は 、 英仏 の 煽動 によって ソ 連 を 除名 し 、 ソ 連 に 対 する 世界世論 を 動員 するのみならず 十字軍 まで 口 にしたのである ︵ 62︶ ﹂ と 語気 を 荒 げて 自由主義諸 国 を 中心 とする 国際機構 の 偏見 に 対 して 怒 りを 露 わにした ︵ 63︶ 。 このスターリンの 発言 は 、 ヤルタ 会談直前 までの 発言 と 同 じく 、 自由主義陣営 と 共産主義陣営 の 根本的 な 対立 を 踏 まえて 、 あくまでも 新 たな 国際機構 がソ 連自身 の 死活的利益 そ のものを 阻害 することを 大 いに 危惧 するものであった 。   し か し な が ら チ ャ ー チ ル は 、 フ ィ ン ラ ン ド 戦 争 に 関 す る ス タ ー リ ン の 批 判 に 対 し て 、﹁ 当 時 、 英 仏 政 府 は ソ 連 に 対 し て 非常 に 憤 りを 感 じていた 。 だが 、 いずれにせよ 、 ダ ンバートン ・ オークス 提案 の 下 ではいかなるかような 行動 も 不可 能 である ︵ 64︶ ﹂ と 返答 し 、 ヤルタ 方式 の 下 では 、 国際機構 の 強制措置 が 自国 に 向 けられるといったスターリンの 懸念 が 全 く の 取 り 越 し 苦 労 で あ る こ と を 再 び 指 摘 し た の で あ っ た 。 に も か か わ ら ず ス タ ー リ ン は 、﹁ 私 は 除 名 の こ と を 考 え て い る のではなく 、 一国 に 対 する 世論 の 動員 の 問題 を 考 えているのだ ︵ 65︶ ﹂ と 切 り 返 してきたので 、 チャーチルは ﹁ それはいかな る 国家 に 対 しても 生 じうる 。 だが 、 その 結果 、 米大統領 ないしスターリン 元帥 が 大英帝国 に 対 して 激 しい 攻撃 を 主導 す るか 非常 に 疑 わしいし 、 このことはその 他 の 二国 にもあてはまる ︵ 66︶ ﹂ と 反論 した 。 すなわちチャーチルは 、 国際世論 がソ   ︵一一三一︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 四 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 連 のみならずいかなる 国家 に 対 しても 矛先 を 向 けうること 、 また 、 三大国 の 何 れかに 対 する 国際世論 の 非難 が 大国間 の 戦争 を 誘発 するか 疑 わしいことを 指摘 して 、 スターリンの 苦言 に 対 して 釘 を 刺 した 。   以上 のようなチャーチルとスターリンの 激 しい 議論 の 応酬 を 踏 まえて 、 ルーズベルトは 、 次 のような 発言 でこの 会合 に お け る 安 全 保 障 理 事 会 の 表 決 方 式 を め ぐ る 討 議 を 締 め く く っ た 。 す な わ ち 、﹁ 大 国 の 団 結 が 我 々 の 最 も 重 要 な 目 的 で あり 、 米国 の 政策 はこの 目的 を 阻害 させるどころか 促進 させるものである 。 もし 不幸 にも 大国間 に おいて 何 がしかの 対 立 が 生 ず る な ら ば ― そ れ は 生 ず る か も 知 れ な い ― 、 こ の 事 実 は い か な る 表 決 手 続 が 採 択 さ れ よ う と も 世 界 に 知 れ 渡 る だろう 。 いずれにせよ 、 総会 における 紛争 の 討議 を 阻止 する 方法 はない 。 理事会 における 完全 かつ 友好的 な 討議 は 決 し て 分裂 を 助長 するものではない 。 逆 に 、 大国 がお 互 いに 抱 く 信頼 を 示 すことに 資 するだろう ︵ 67︶ ﹂。 つまりルーズベルトは 、 いかなる 表決手続 を 採択 しても 、 とりわけソ 連 が 提唱 するような 絶対的 な 拒否権 を 採択 しても 大国間 の 対立 が 生 じうる こと 、 したがって 、 少 なくとも 平和的解決 の 段階 において 紛争当事国 は 投票 を 棄権 して 、 安全保障理事会 が 大国自身 の 絡 む 紛争 を 討議 することこそが 、 結局 、 国際 の 平和及 び 安全 の 維持 に 資 することを 強調 した 。   かくして 、 安全保障理事会 の 表決手続 が 最 も 徹底的 に 討議 されたこの 第三全体会議 において 、 ルーズベルトとチャー チルがヤルタ 方式 を 受諾 したにもかかわらずスターリンがこれに 強 く 異議 を 唱 えた 結果 、 三大国首脳 は 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 して 合意 に 達 することはできなかった 。   ところが 、 翌日 の 第四全体会議 において 、 モロトフは 突如次 のような 言 い 回 しを 用 いてヤルタ 方式 の 受諾 を 明言 する に 至 った 。 すなわち 、﹁ この 問題 を 明確 に したステティニアス 氏 の 報告及 びチャーチル 氏 の 所見 を 聞 いた 後 、ソ 連政府 は 、 これらの 提案 が 平和維持 の 問題 における 大国 の 団結 を 完全 に 保証 すると 感 じた 。 この 団結 が ダ ンバートン ・ オークスに おけるソ 連 の 主要 な 目的 であり 、 また 、 新 たな 提案 がこの 原則 を 完全 に 保証 すると 感 じたので 、 これらの 提案 は 完全 に   ︵一一三二︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 五 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 受 け 入 れ う る も の で あ っ て 、 提 供 す べ き い か な る 論 評 も な い ︵ 68︶ ﹂。 こ う し て ソ 連 は 、 前 日 の 会 合 に お い て 強 硬 に 主 張 し て いた 絶対的 な 拒否権 を 撤回 し 、 少 なくとも 平和的解決 においては 紛争当事国 が 投票 を 棄権 する 義務 を 負 うヤルタ 方式 に 賛同 の 意 を 表明 したのであった 。   し か し 、 ヤ ル タ 方 式 を 支 持 す る 発 言 に 続 け て モ ロ ト フ は 、 安 全 保 障 理 事 会 の 表 決 方 式 と 並 ぶ も う 一 つ の 重 要 な 問 題 、 すなわち 、 新 たな 国際機構 における 原加盟国 の 問題 を 取 り 上 げた ︵ 69︶ 。 すなわちモロトフは 、 ソ 連 がヤルタ 方式 に 関 して 大 幅 に 譲歩 したのであるから 、 英米両国 はソ 連 の 共和国 を 原加盟国 として 認 めるべきであると 強 く 迫 ったのであった ︵ 70︶ 。 モ ロトフは 、 具体的 にはウクライナ 、 白 ロシア 、 リトアニアの 三 カ 国 ないし 少 なくともこのうち 二 カ 国 を 原加盟国 として 認 めるよう 唱 え 、 その 理由 として 、 これらの 共和国 は 敵国 によって 最初 に 侵略 され 、 第二次世界大戦 において 最 も 大 き な 犠牲 を 払 ったからであると 説明 した ︵ 71︶ 。 本稿 の 関心 はあくまでも 安全保障理事会 の 表決手続 にあるため 、 原加盟国 をめ ぐ る 問 題 に 関 し て は こ れ 以 上 深 く 立 ち 入 ら な い 。 だ が 、 い ず れ に せ よ 、 侃 々 諤 々 の 議 論 が な さ れ た 結 果 、 英 米 両 国 は 、 来 るべきサンフランシスコ 会議 においてソ 連 がこの 案件 を 提示 すれ ば 、 ウクライナと 白 ロシアを 新 たな 国際機構 の 加盟 国 として 認 めることを 最終的 に 受 け 入 れた 。   かくして 、 一九四五年二月一二日 、 およそ 一週間 に 及 ぶ 会談 の 成果 としてヤルタ 会談 の 共同声明 が 発表 された ︵ 72︶ 。 そし て 、 この 声明 の 第四章 ﹁ 連合国会議 ︵ United Nations Conference ︶﹂ は 、﹁ 重要 な 表決手続 の 問題 に 関 して 、 そこ ︵ ダ ン バートン ・ オークス 会議 筆者註 ︶ では 合意 に 達 しなかった 。 本会談 はこの 困難 を 解決 することができた ︵ 73︶ ﹂ と 謳 い 上 げ て 、 安 全 保 障 理 事 会 の 表 決 手 続 に 関 し て 三 大 国 が 合 意 に 達 し た こ と を 明 ら か に し た 。 も っ と も 、﹁ 中 国 及 び フ ラ ン ス と の 協議 が 終 わり 次第 できる 限 り 早 く 、 表決手続 に 関 する 提案 の 文言 が 公表 されるだろう ︵ 74︶ ﹂ とも 記 して 、 ヤルタ 方式 の 具 体的 な 文言 は 依然 として 明 らかにされなかった 。   ︵一一三三︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 六 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   また 、 この 共同声明 の 最終章 たる 第九章 ﹁ 戦時及 び 平時 における 団結 ︵ Unity for Peace as for W ar ︶﹂ は 、﹁ ここクリ ミアにおける 我々 の 会議 は 、 来 るべき 平和 を 維持 しかつ 強 めるために 、 この 戦争 に おいて 連合国 の 勝利 を 可能 とし 、 ま た 、 確実 ならしめた 目的及 び 行動 の 団結 といった 共通 の 決意 を 再確認 する 。 我々 は 、 これこそ 我々政府 が 自国民 そして 全 世 界 の 人 民 に 対 し て 負 う 神 聖 な 義 務 で あ る と 信 ず る 。 ⋮⋮ こ の 戦 争 に お け る 勝 利 及 び 提 案 さ れ た 国 際 機 構 の 樹 立 は 、 人類 の 歴史上 、 かかる 平和 の 基本的 な 条件 を 実現 するためにやがて 生 ずる 最良 の 機会 を 提供 するだろう ︵ 75︶ ﹂ と 高 らかに 宣 言 した 。   この 共同声明 を 踏 まえるなら ば 、 たしかに 三大国 は 自由主義 と 共産主義 の 根本的 な 対立 や 植民地 の 取 り 扱 いをはじめ 容易 に 解決 しがたい 様々 な 問題 を 抱 えていたけれども 、 同時 に 、 少 なくともヤルタ 会談当時 、 共通 の 敵 たる 枢軸諸国 に 対 す る 大 同 盟 の 形 で あ る 程 度 結 び つ い て い た こ と も 否 定 で き か っ た 。 そ の 意 味 で も ヤ ル タ 方 式 は 、﹁ 共 通 の 敵 に 対 す る 闘 いの 中 で 可能 であると 証明 された 合意 と 協力 が 平時 においても 継続 されうるといった 楽観的 な 信念 の 影響 のもとでま さに 戦争 の 最中 に 誕生 した ︵ 76︶ ﹂ のであった 。 そして 、 そのおよそ 一 ヶ 月後 の 一九四五年三月五日 、 米国 がサンフランシス コ 会議 の 招請状 を 各国 に 送付 する 際 、 安全保障理事会 の 表決方式 たるヤルタ 方式 が 国際社会 に 向 けてはじめて 公表 され るに 至 ったのである ︵ 77︶ 。 二.ヤルタ会談の意義と問題点   以上 、 ヤルタ 会談 の 第三全体会議 を 中心 に 三大国首脳 が 安全保障理事会 の 表決手続 をいかに 捉 えていたのかを 明 らか にしようと 試 みた 。 検討 の 結果 、 本稿 の 問題意識 に 照 らせ ば 少 なくとも 以下 の 二点 が 興味深 いように 思 われる 。 すなわ ち 、 第一 に 、 三大国首脳 は 自国 の 死活的利益 が 絡 む 紛争当事国 としての 拒否権 を 徹底的 に 討議 したこと 、 第二 に 、 その   ︵一一三四︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 七 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 反面 、 三大国首脳 は 中小国間 の 紛争 に 対 する ﹁ 四人 の 警察官 ﹂ としての 拒否権 に 関 して 全 くと 言 ってよいほど 発言 しな かったこと 、 である 。 以下 では 、 各々 の 観点 からヤルタ 会談 の 意義 と 問題点 を 踏 み 込 んで 探 っていくことに しよう 。 1.紛争当事国としての常任理事国の拒否権   紛争当事国 としての 常任理事国 の 拒否権 をめぐる 英米 ソ 三大国 の 立場 に 関 しては 、 少 なくとも 以下 の 点 が 明 らかとな ったように 思 われる 。   まず 英国 の 立場 に 関 しては 、 ヤルタ 会談 におけるチャーチルの 発言 が ダ ンバートン ・ オークス 会議 における 英国 の 立 場 を 大 きく 軌道修正 するものであった 点 を 指摘 できよう 。 というのは 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 に おいて 英国代表 の ア レ キ サ ン ダ ー ・ カ ド ガ ン ︵ Alexander Cadogan ︶ 外 務 次 官 ら は 、 形 式 的 な 国 家 主 権 平 等 の 観 点 か ら 紛 争 当 事 国 た る 常任理事国 の 拒否権 を 平和的解決 のみならず 強力的解決 の 場合 をも 含 めて 一律 に 否定 し 、 これが 容 れられなけれ ば 新 た な 国際機構 の 強制措置 に 関 する 規定 をすべて 削除 すべきだと 強硬 に 主張 していたのに 対 して ︵ 78︶ 、 チャーチルは 、 自国 の 死 活的利益 が 絡 む 香港問題 やスエズ 運河問題 を 援用 して 、 少 なくとも 強力的解決 に 関 する 紛争当事国 たる 常任理事国自身 の 拒否権 を 全面的 に 認 めるに 至 ったからである ︵ 79︶ 。   そしてチャーチルが 少 なくとも 強力的解決 に 関 して 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 を 認 めるに 至 った 理由 として は 、 少 なくとも 以下 の 三点 が 挙 げられるのではなかろうか 。 すなわち 、 第一 に 、 たしかに 自由主義国 として 国際社会 の 多数派 に 属 する 英国 は 枢軸諸国 を 撃退 する 点 に 関 して 米 ソ 両国 と 利害 が 一致 していたけれども 、 いわゆる 植民地問題 に 関 しては 米 ソ 両国 と 大 きく 対立 しいわ ば 少数派 に 属 していた 状況 を 踏 まえて ︵ 80︶ 、 チャーチルは 、 新 たな 国際機構 が 自国 の 植民地問題 に 深 く 立 ち 入 ることを 阻止 しようと 腐心 したのであった 。 ヤルタ 会談 においてチャーチルが 香港問題 やスエ   ︵一一三五︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 八 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 ズ 運河問題 を 引 いて 強力的解決 に おける 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 を 強 く 主張 したことはまさにその 証左 であ ろう 。   第 二 に 、 チ ャ ー チ ル は 、﹁ 何 人 も 自 己 の 裁 判 官 た り え な い ﹂ と の 法 格 言 、 及 び 国 際 機 構 に 対 し て 中 小 国 が 抱 く 正 統 性 の 確保等 の 観点 から 、 平和的解決 に おける 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 に 対 して 引 き 続 き 反対 するに しても 、 少 なくとも 強力的解決 に おける 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 に 関 してソ 連 に 譲歩 しなけれ ば 、 ソ 連 を 含 む 普遍的 な 国際機構 が 樹立 され 得 ないことを 的確 に 読 み 取 っていたように 思 われる 。   そして 第三 に 、 ヤルタ 方式 は 、 原則 として 常任理事国 の 意思 に 反 して 国際機構 を 動 かないようにさせる 結果 、 戦後 の 大国間 の 現状 を 維持 することに 資 する 意味 において 、 英国 の 伝統的 な 勢力均衡政策 に 合致 するものであったとも 言 える のではなかろうか ︵ 81︶ 。   かくして 、 チャーチルは 、 自国 の 国益 を 必 ずしも 侵害 しない 平和的解決 に 関 する 紛争当事国 の 拒否権 は 放棄 しながら 、 少 なくとも 強力的解決 に 関 する 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 を 手中 に 納 めることが 、 英国 の 死活的利益 に 合致 す るのみならず 大国 なかでもソ 連 を 含 めた 普遍的 な 国際機構 を 樹立 するための 絶対条件 であると 認識 するに 至 ったからこ そヤルタ 方式 を 受 け 入 れたのであった 。   ついでソ 連 の 立場 に 関 しては 、 スターリンもそれまでのソ 連 の 一貫 した 強硬 な 立場 から 少 なからず 譲歩 した 点 が 興味 深 い ︵ 82︶ 。 なぜなら 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 に おいてソ 連代表 のグロムイコらは 、 いかなる 場合 に おいても 紛争当事 国 たる 常任理事国 の 拒否権 を 認 めるべきであって 、 さもなけれ ば 新 たな 国際機構 に 加 わらないとまで 言 い 放 っていたの に 対 して ︵ 83︶ 、 スターリンは 、 ヤルタ 会談 の 中盤 においてこの 絶対的 な 拒否権 を 放棄 して 、 少 なくとも 平和的解決 に 関 して 紛争当事国 たる 常任理事国 は 投票 を 棄権 する 義務 を 負 うヤルタ 方式 を 受 け 入 れるに 至 ったからである 。   ︵一一三六︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 一 九 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界   そしてスターリンが 一転 してヤルタ 方式 を 受 け 入 れた 理由 としては 、 少 なくとも 以下 のような 事情 を 念頭 に 置 いてい たからではなかろうか 。 すなわち 、 第一 に 、 一九四五年一月一二日 に 東部戦線 において 大攻勢 を 開始 したこともあって 、 すでにヤルタ 会談 の 時点 においてソ 連赤軍 は 、 ルーマニア 、 ブルガリア 、 バルト 三国 といった 東欧諸国 の 占領 をほぼ 達 成 していた 。 そして 、﹁ 今次大戦 は 過去 のものとは 異 なる 。 領土 を 占領 するものは 誰 であれ 自国 の 社会体制 を 押 し 付 ける 。 自国 の 軍隊 が 到達可能 な 所 まで 自国 の 社会体制 を 強 いるのであり 、 それ 以外 ではありえない ︵ 84︶ ﹂ と 喝破 していたスターリ ンにとって 、 東欧諸国 を 自国 の 勢力圏 に 組 み 込 んだ 既成事実 はヤルタ 会談 において 交渉 する 際 にきわめて 重要 な 意味 を 持 っていたと 言 えよう 。   第二 に 、 スターリンは 、 ドイツが 過去三 〇 年間 の 内 に 二度 もポーランド 回廊 を 通過 してソ 連 を 侵略 したので 、 東欧諸 国 の 中 でも 隣接国 たるポーランドはソ 連 の 安全保障 にとってまさに 死活的利益 が 絡 む 問題 であり 、 絶対 に 譲歩 し 得 ない 問題 であると 認識 していた ︵ 85︶ 。 そしてヤルタ 会談 の 時点 においてスターリンは 、 自国 にきわめて 有利 な 形 でこのポーラン ド 問題 を 収拾 することに 相当程度成功 していた 。 とりわけ 、 一九二一年 ソ 連 ・ ポーランド 戦争 の 結果締結 されたリガ 条 約 が 定 めた 国境線 よりも 大 きく 西側 に 引 かれたいわゆるカーゾン 線 をほぼそのままソ 連 ・ ポーランド 間 の 国境線 とする ことに 関 して 英米両国 の 承諾 を 得 ていたこと ︵ 86︶ 、 かつ 、 一九四五年一月五日 、 ポーランドの 暫定政権 として 自国 の 息 のか かったルブリン 委員会 を 承認 するに 至 っていたこと ︵ 87︶ 、 がきわめて 重要 な 進展 であった 。   そして 第三 に 、 スターリンは 、 来 るべきサンフランシスコ 会議 においてウクライナと 白 ロシアを 新 たな 国際機構 の 加 盟国 として 認 めることを 最終的 に 英米両国 に 対 して 受 け 入 れさせた ︵ 88︶ 。   要 するに 、 ソ 連 の 周辺地域 に 可能 な 限 り 広範 な 緩衝地帯 を 設 けることを 至上命題 としていたスターリンは ︵ 89︶ 、 すでにヤ ルタ 会談 の 時点 において 、 ソ 連 の 死活的利益 に 関 するこれらの 目標 をほぼ 達成 するに 至 ったからこそ 、 これに 比 べて 二   ︵一一三七︶

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同志社法学   五八 巻 三 号 一 二 〇 国連集団安全保障体制における拒否権の意義と限界 次的 な 重要性 しか 持 たない 安全保障理事会 の 表決手続 に 関 しては 幾分譲歩 してヤルタ 方式 を 受 け 入 れたのではなかろう か 。   また 、 あまりにも 紛争 の 平和的解決 に 関 する 紛争当事国 たる 常任理事国 の 絶対的 な 拒否権 に 固執 すれ ば 、 英米両国 を 含 む 普遍的 な 国際機構 が 成立 しない 可能性 が 高 まるのみならず 、 かえって 英米 を 中心 とする 強固 な 自由主義同盟 とも 呼 ぶべきものが 形成 されてソ 連 に 対 して 牙 を 向 くような 状況 を 招 く 恐 れも 大 きかった 。 スターリンは 、 かような 状況 を 招 くよりはむしろ 、 平和的解決 に 関 する 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 については 英米 に 譲歩 して 新 たな 国際機構 を 成立 させながら 、 国際機構 の 内部 で 英米両国 の 行動 を 拒否権 によって 阻止 することがソ 連 の 国益 により 合致 すると 判断 したようにも 思 われる ︵ 90︶ 。   しかしながら 、 たとえこれらの 観点 から 幾分譲歩 するとしても 、 スターリンは 、 国際連盟 がフィンランド 侵攻 のかど でソ 連 を 除名 したことに 対 して 怒 りを 露 わにしたように 、 ソ 連 の 死活的利益 を 文字通 り 死守 する 手段 として 、 強力的解 決 における 紛争当事国 たる 常任理事国 の 絶対的 な 拒否権 を 手中 に 納 めることが 新 たな 国際機構 に 加 わる 大前提 であると 考 えていたことを 忘 れてはならない ︵ 91︶ 。 まして 、 国際連盟 の 失敗 の 一因 が 実効的 な 制裁 の 欠如 であったため 、 国連集団安 全保障体制 に 対 しては 牙 を 与 えようとする 気運 がこれまでになく 高 まっていた 当時 の 状況 を 踏 まえるなら ば 、 スターリ ンとしては 強力的解決 における 紛争当事国 たる 常任理事国 の 拒否権 をいくら 強調 しても 過 ぎることはなかっただろう 。   そして 最後 に 、 米国 の 立場 に 関 しては 、 ルーズベルトも ダ ンバートン ・ オークス 会議 に 関 する 従来 の 立場 を 多 かれ 少 なかれ 修正 する 態度 をとった 。 すなわち ダ ンバートン ・ オークス 会議 において 米国代表 は 、 どちらかと 言 え ば 、 紛争当 事国 たる 常任理事国 はあらゆる 場合 に 拒否権 を 放棄 すべきだと 強硬 に 提唱 して 止 まなかった 英国 と 歩調 を 合 わせていた こともあって ︵ 92︶ 、 ルーズベルトは 、 ダ ンバートン ・ オークス 会議 に おける 起草 グループの 提示 した 妥協案 に 対 して 難色 を   ︵一一三八︶

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