平成
14 年度研究報告
多嚢胞性卵巣発症に関する遺伝性素因の解析
- PCO の解析 -
研究テーマ
北海道大学大学院医学研究科
助手 菅原 照夫
現所属:北海道大学大学院医学研究科・医学部連携研究センター
✻ サマリー ✻
多嚢胞性卵巣 (PCO) は生殖可能年齢の婦人の 5‐10%に発症する内分泌疾患である。臨床症 状は、月経不順、多毛、肥満、排卵障害が主な特徴であり、難治性の不妊症の主な原因である。 下垂体ホルモンはLH が FSH に比べて高値をとり、高刺激ホルモン負荷試験でも LH が過反応 の状態である。本疾患は特定の単一の原因遺伝子は同定されておらず、単一の遺伝子の変異で は多彩な臨床症状を説明することは困難であり、多因子疾患が疑われている。そこで、本研究 ではPCO の発症に関して、遺伝的な要因の同定と病態の分子レベルの解明をする。 [研究方法] PCO の実験動物を用いた in vivo の解析ではマウスあるいはラットにアンドロゲンを負荷させ、 卵巣に形態学的に多嚢胞を形成し、解析をしている。そこで、in vitro の解析を試みた。PCO は形態学的に卵巣の多嚢胞と嚢胞壁である theca 細胞の肥厚と繊維化が特徴となっており、 またステロイドホルモンの分泌能が変動していることより、卵巣の顆粒膜細胞を用い、解析 をした。すなわち、PCO の下垂体のホルモンの FSH に比べて LH の高値状態を反映した培養 状態で遺伝子の解析をした。卵巣顆粒膜細胞腫KGN 細胞を 10%FBS を含んだ DMEM 培養液 で継代培養した。培養細胞FSH 10μM および HCG100μM を負荷させて A 群 (FSH (-), HCG (-)) 群、B 群 (FSH (+),HCG (-)) 群、C 群 (FSH (-),HCG (+)) および D 群 (FSH ((FSH (+),HCG (+)) の培養状態で 1 ヶ月培養し、その後実験に用いた。培養 細胞より、RNA を抽出し、逆転写酵素処理により cDNA 合成し、ステロイドホルモン産生関 連酵素蛋白質であるStAR 蛋白質、コレステロール側鎖切断酵素 (SCC)、17 水酸化酵素、ア ロマターゼおよびアドレノドキシンの発現をPCR 法により調べた。また、ステロイドホルモ ン合成以外の遺伝子の変動を解析するために、各細胞群における遺伝子の発現をクローンテ ック社のCLONTECH PCR-Select cDNA Subtraction Kit を用いて、遺伝子発現の変動を調べた。[実験結果]
StAR 遺伝子の発現は B、C および D 群で発現が抑制された。SCC 遺伝子においても StAR 遺 伝子と同様に発現はコントロール群にくらべて、抑制された。アロマターゼは遺伝子の変動 は観察されなかった。一方、アドレノドキシンでは各群ともにコントロール群に比較して、 遺伝子発現は亢進した。17 水酸化酵素ではB群では発現が高まったが、C および D 群では変 動はなかった。一方、PCR-Select cDNA Subtraction Kit による解析ではステロイドホルモン合 成遺伝子よりも細胞骨格に関連する遺伝子やミトコンドリアに関連する遺伝子がC および D 群の遺伝子発現に差があった。今後は遺伝子発現の差が認められた遺伝子について 多嚢胞 性卵巣より抽出したRNA をもちいて、ノーザン解析をおこない、関連遺伝子の変動を明らか にし、ステロイドホルモン産生に関与する酵素遺伝子の発現との関連を明らかにする。
✻ 研究報告 ✻
[研究の目的] 多嚢胞性卵巣 (PCO) は生殖可能年齢の婦人の 5‐10%に発症する内分泌疾患である。臨床症 状としては、月経不順、多毛、肥満、排卵障害および不妊症が主な特徴である。本疾患の生化 学的特徴は性ステロイドホルモン、アンドロゲンの産生が過剰であり、下垂体ホルモンの分泌 は FSH に比べ、LH が優位となる。本疾患は不妊症を主訴として、婦人科外来を受診するが、 性ステロイドの産生の観点から見ると、若年脱毛および年齢不相応なアクネ顔の男性が PCO 家系には存在することから、本疾患は家族内同胞に発症し、常染色体性の遺伝が疑われている。 また、本疾患はステロイドホルモンの産生異常だけではなく、後年、高血圧症、子宮内膜癌お よび糖尿病を合併する頻度が高い。本疾患は特定の単一の原因遺伝子は同定されておらず、単 一の遺伝子の変異では多彩な臨床症状を説明することは困難であり、多因子疾患が疑われる疾 患である。そこで、今回、申請者は多嚢胞卵巣の発症に関して、遺伝的な要因の同定と病態の 分子レベルの解明を試み、本疾患の予防、診断および治療に応用することを研究目的とした。 [特色・意義] 女性生殖機能はステロイドホルモンを中心とした内分泌系により調整を受けている。その中心 である卵巣は、下垂体から分泌されるFSH、LH の作用を受けて卵胞の発育、排卵、黄体の形 成・退行と周期的に変化する。この調整機構が作動しないと卵巣機能不全を引き起こし、生殖 機能に影響を与え、種々の疾患を引き起こす。PCO はこの下垂体、卵巣機能の障害によりステ ロイドホルモンの産生異常が病因となっていることが予想されるが、その病態生理は複雑でい まだ明らかにされていない。多因子疾患が疑われる PCO の病因を明らかにする研究は社会的 必要性に答えるものである。[研究の位置づけ] 原因不明の PCO 疾患の解明は、卵巣機能不全や不妊症の治療に有用となり、内分泌学ならび に産婦人科学への貢献は大きい。近年、内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンが話題となっ ているが、環境ホルモンのステロイドホルモン産生、あるいは生殖機能に与える影響は疫学的 には明白であるが、その作用機序はいまだ明らかではない。今回、PCO の病因を分子生物学に 解明することは、ステロイドホルモン産生の調節機構が明らかとなる。 [研究方法] PCO の実験動物を用いた in vivo の解析ではマウスあるいはラットにアンドロゲンを負荷させ、 卵巣に形態学的に多嚢胞を形成し、解析をしている。そこで、in vitro の解析を試みた。PCO は 形態学的に卵巣の多嚢胞と嚢胞壁であるtheca 細胞の肥厚と繊維化が特徴となっており、また ステロイドホルモンの分泌能が変動していることより、卵巣の顆粒膜細胞を用い、解析をした。 すなわち、PCO の下垂体ホルモンの FSHに比べて LH の高値状態を反映した培養状態で遺伝 子の解析をした。卵巣顆粒膜細胞腫KGN 細胞を 10%FBS を含んだ DMEM 培養液で継代培養 した。培養細胞FSH 10μM および HCG100μM を負荷させて A 群 (FSH (-),HCG (-)) 群、 B 群 (FSH (+),HCG (-)) 群、C 群 (FSH (-),HCG (+)) および D 群 (FSH ((FSH (+), HCG (+)) の培養状態で 1 ヶ月培養し、その後実験に用いた。培養細胞より、RNA を抽出し、 逆転写酵素処理によりcDNA 合成し、ステロイドホルモン産生関連酵素蛋白質である StAR 蛋 白質、コレステロール側鎖切断酵素 (SCC)、17 水酸化酵素、アロマターゼおよびアドレノド キシンの発現を PCR 法により調べた。また、ステロイドホルモン合成以外の遺伝子の変動を 解 析 す る た め に 、 各 細 胞 群 に お け る 遺 伝 子 の 発 現 を ク ロ ー ン テ ッ ク 社 の CLONTECH PCR-Select cDNA Subtraction Kit を用いて、遺伝子発現の変動を調べた。
[実験結果]
StAR 遺伝子の発現は B、C および D 群で発現が抑制された。SCC 遺伝子においても StAR 遺伝 子と同様に発現はコントロール群にくらべて、抑制された。アロマターゼは遺伝子の変動は観 察されなかった。一方、アドレノドキシンでは各群ともにコントロール群に比較して、遺伝子 発現は亢進した。17 水酸化酵素では B 群では発現が高まったが、C および D 群では変動はな かった。一方、PCR-Select cDNA Subtraction Kit による解析ではステロイドホルモン合成遺伝子 よりも細胞骨格に関連する遺伝子やミトコンドリアに関連する遺伝子が C および D 群の遺伝 子発現に差があった。今後は遺伝子発現の差が認められた遺伝子について 多嚢胞性卵巣より 抽出した RNA をもちいて、ノーザン解析をおこない、関連遺伝子の変動を明らかにし、ステ ロイドホルモン産生に関与する酵素遺伝子の発現との関連を明らかにする。