第 20 回国際生物学オリンピック(IBO2009 つくば)
第 1 回特別教育
C
3
植物とC
4
植物の観察
会場:東邦大学理学部生物学科
実施日:2008 年 12 月 27 日(土)
1 第 20 回国際生物学オリンピック(IBO2009 つくば)第 1 回特別教育 C3 植物と C4 植物の観察 鈴木 雅大 本テキストは,吉﨑 誠が作成した第 17 回国際生物学オリンピック第 2 次国内選 考試験問題「C3植物と C4植物の観察」を加筆したものです。担当は鈴木雅大(東 邦大学大学院理学研究科),協力者として吉﨑 誠(東邦大学大学院理学研究科), 藤田隆夫(日大習志野高等学校教諭),鶴岡邦雄(千葉県立土気高等学校教諭), TA 多田さと美(東邦大学理学部生物学科)が指導に当たります。 光合成から見た「C3 植物」と「C4 植物」 植物が行う光合成は CO2 と H2O から光エネルギーを用いて炭水化物を合成する
反応で,化学反応式では,6CO2 +12H2O+光エネルギーC6 H12O6 +6H2 O+6O2で示さ
れます。この光合成の反応過程は,葉緑体内のチラコイドで行われる反応と,スト ロマで行われる反応の 2 段階からなります。チラコイドでは,クロロフィル b とカ ロテノイドなどのアンテナ色素系によって光が捕捉され,反応中心(reaction center) のクロロフィル a に送り込まれます。クロロフィル a は光エネルギーによって励起 されます。光で励起されたクロロフィル a の電子は電子受容体に捕捉され,2 つの 電子伝達鎖を経て H2O を分解して電子と水素を取り出し,NADP+に 1 対の電子と水 素の原子核を渡して NADPH を作ります(光還元)。また,ADP にリン酸基が付加 されて ATP が生成されます(光リン酸化 photophosphorylation)。この過程の副産 物として O2が放出されます。このように光エネルギーを電気エネルギーに変換し, 最終的に化学エネルギーとして保存する反応を明反応(light reaction)と呼びます。 ストロマでは気孔から取り込まれた CO2 が,RubisCO(リブロース 1, 5-ビスリン 酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ) という酵素の働きで,CO2 受容体であるリ ブロース 1, 5-ビスリン酸(RuBP)と反応し,C3 化合物である 3-ホスホグリセリン 酸になります。この過程で炭素が固定されます。3-ホスホグリセリン酸は,ATP か らリン酸基を受け取り,1, 3-ビスホスホグリセリン酸になります。1, 3-ビスホスホ グリセリン酸は,明反応で作られた NADPH から 1 対の電子によって還元され,グ リセルアルデヒド-3-リン酸(G3P)になります。このグリセルアルデヒド-3-リン酸 の一部からグルコースや他の有機化合物が合成されます。残りのグリセルアルデヒ ド-3-リン酸は,ATP からリン酸基を受け取り,リブロース 1, 5-ビスリン酸が再生 されます。このストロマで行われる一連の反応系をカルビン回路(Calvin cycle)と 呼びます。 多くの植物は通常,大気中の CO2 を直接取り入れてとして炭素を固定します。 炭素固定の最初の生成物が C3化合物である 3-ホスホグリセリン酸なので C3 植物 (C3 plant)と呼ばれています。これに対して,カルビン回路の反応系の前に,C4 経 路(C4 passway)という反応系を用いて CO2 を固定する植物がいます。この植物は,
CO2がカルビン回路に入る前に PEP カルボキシラーゼ(PEP carboxylase)という
酵素の働きで,CO2が PEP(ホスホエノールピルビン酸)に付加され,C4 化合物で
2 光呼吸 photorespiration C4 植物を理解する上で光呼吸という過程を理解する必要があります。日射が強 く,暑くて乾燥した環境では,植物は部分的に気孔を閉じてしまいます。すると, 葉の CO2濃度が下がり,カルビン回路が十分に機能しなくなるとともに,明反応で 発生する O2濃度が上がり,RubisCO が CO2の代わりに O2をカルビン回路に付加す るようになります。RubisCO には CO2濃度が高いときはカルビン回路に CO2を付加 するカルボキシラーゼ活性と O2濃度が高いときは O2を付加するオキシゲナーゼ活 性の 2 つの働きがあるのです。RubisCO の働きでリブロース 1, 5-ビスリン酸は O2 と反応し,C2化合物であるグリコール酸リン酸となります。グリコール酸リン酸は グリコール酸となってペルオキシソームに運ばれ,ペルオキシソームとミトコンド リアで分解され,CO2を発生します(グリコール酸経路)。この過程は光が当たっ ているときに起こり,O2 を消費して CO2 を発生させるため光呼吸と呼ばれていま す。光呼吸は通常の呼吸と違い,ATP が生成されず消費されるため,植物にとって は非生産的と思われる代謝過程です。光呼吸には活性酸素による強光阻害を避ける などの役割が考えられますが,光呼吸の意義については更なる研究が待たれるとこ ろです。この光呼吸を抑え,効率的に光合成を行う植物が C4植物です。
3 クランツ構造と C4経路 C4 植物は種子植物のいろいろな分類群にその存在が知られていますが,葉の構 造には共通した構造があることが知られています。それは,細胞壁のしっかりした 維管束鞘(bundle sheath)が花冠のように維管束を包みこみ,その外側を環状に葉 肉細胞(mesophyll cell)が取りまいている構造です。この構造をクランツ構造 (Krantz anatomy)と呼びます。クランツ構造の維管束鞘には葉緑体が存在します。 葉肉細胞では,PEP カルボキシラーゼの働きで,CO2が固定される反応が行われま す。カルビン回路は維管束鞘細胞の葉緑体に限られています。すなわち, C4 植物 の光合成は葉肉細胞と維管束鞘細胞の 2 種類の細胞で行われます。
葉肉細胞の細胞質基質にて,CO2 は PEP カルボキシラーゼの働きで PEP に付加
され,C4 化合物であるオキサロ酢酸を生じます。オキサロ酢酸はさらにリンゴ酸 などの C4 化合物となり,原形質連絡経由で維管束鞘細胞に輸送されます。維管束 鞘細胞では,酵素の働きで CO2が離され,RubisCO の働きでカルビン回路に付加さ れます。CO2が離された C4化合物は,ピルビン酸やアラニンとなり,葉肉細胞に戻 り,ピルビン酸は再生され,葉緑体で PEP に変換され,再び CO2 の固定に用いら れます。葉肉細胞で行われる CO2 の固定と維管束鞘細胞で CO2が C4化合物から離 され,RubisCO の働きでカルビン回路に付加される反応系を合わせて C4 経路と呼 びます。 このように,C4植物では進化の過程で,葉の構造と代謝過程の両方の分化が伴っ たと考えられています。PEP カルボキシラーゼは RubisCO に比べて CO2に対する親 和性が非常に高く,O2に対する親和性はありません。高温と乾燥で部分的に気孔が 閉じ,葉の CO2濃度が下がり,O2濃度が上がっても,PEP カルボキシラーゼの働き で CO2を固定,濃縮することによって,光呼吸を最小限に抑え,効率良く光合成を 行うことができるのです。 設問 1.C4 植物はなぜクランツ構造をつくったのでしょうか。すなわち,なぜ葉 肉細胞と維管束鞘細胞とで葉緑体の機能を分ける必要があったのか,理由を述べ なさい。 C4 経路 3 つの型 C4 経路には,以下の 3 つの型が知られています。 1. NADP-ME type(NADP-リンゴ酸酵素型) ススキ,トウモロコシやサトウキビなどにみられる型で,葉肉細胞の細胞質基質 にて,CO2 は PEP カルボキシラーゼの働きで PEP に付加され,C4 化合物であるオ
キサロ酢酸を生じます。葉肉細胞の葉緑体中でオキサロ酢酸からリンゴ酸がつくら れ ま す 。 リ ン ゴ 酸 は 原 形 質 連 絡 を 経 由 し て 維 管 束 鞘 細 胞 の 葉 緑 体 に 運 ば れ ,
NADP-ME(NADP-リンゴ酸酵素)の働きで CO2が離され,ピルビン酸になります。
4 細胞の葉緑体に入り,PEP に変換され,再び CO2 の固定に用いられます。 2. NAD-ME type(NAD-リンゴ酸酵素型) キビやスベリヒユにみられる型で,葉肉細胞の細胞質基質にて,CO2 は PEP カ ルボキシラーゼの働きで PEP に付加され,オキサロ酢酸を経てアスパラギン酸にな ります。アスパラギン酸は原形質連絡を経由して維管束鞘細胞のミトコンドリアに 運ばれ,オキサロ酢酸を経てリンゴ酸になります。リンゴ酸は NAD-ME(NAD-リ ンゴ酸酵素)の働きで CO2が離され,ピルビン酸になります。CO2 は RubisCO の 働きでカルビン回路に入ります。生成されたピルビン酸は細胞質基質に移り,アラ ニンとなります。アラニンは葉肉細胞の細胞質基質でピルビン酸になります。ピル ビン酸は葉肉細胞の葉緑体に入り,PEP に変換され,再び CO2 の固定に用いられ ます。
6 3. PEP-CK type(ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ型) ギニアグラスやロードスグラスでみられる型で,葉肉細胞の細胞質基質にて,CO2 は PEP カルボキシラーゼの働きで PEP に付加され,オキサロ酢酸を経てアスパラ ギン酸になります。アスパラギン酸は原形質連絡を経由して維管束鞘細胞の細胞質 基質に運ばれてオキサロ酢酸となり,PEP-CK(ホスホエノールピルビン酸カルボ キシキナーゼ)の働きで CO2が離され,PEP になり葉肉細胞に戻ります。一方,葉 肉細胞の葉緑体でオキサロ酢酸からリンゴ酸がつくられます。リンゴ酸は原形質連 絡を経由して維管束鞘細胞のミトコンドリアに運ばれ,NAD-ME の働きで CO2が 離され,ピルビン酸になります。ピルビン酸は葉肉細胞の葉緑体に入り,PEP に変 換され,再び CO2 の固定に用いられます。維管束鞘細胞のミトコンドリアと細胞 質基質の 2 ケ所で C4化合物から離された CO2は,RubisCO の働きでカルビン回路 に入ります。 様々なクランツ構造 C4植物の C4経路は 3 型ですが,クランツ構造には,イネ科に 8 型,カヤツリグ サ科に 4 型,双子葉植物に 3 型の計 15 の型が知られています。ここでは,最も代 表的なイネ科の 3 型と双子葉植物のヒユ型とオカヒジキ型を紹介します。 1. イネ科 “Classical” NADP-ME 型 ススキ,サトウキビ,トウモロコシなどにみられる型で,C4経路は NADP-ME 型 です。維管束鞘は 1 層で,維管束鞘細胞の外観は不揃いで,細胞壁はスベリン化し ています。維管束鞘細胞の葉緑体は遠心的に配置し,グラナ構造は未発達です。 2. イネ科 “Classical” NAD-ME 型 カゼクサ,キビ,オヒシバなどにみられる型で,C4経路は NAD-ME 型です。維 管束鞘は 2 層あります。外側の維管束鞘細胞の外観は揃っており,細胞壁はスベリ ン化していません。外側の維管束鞘細胞のみ葉緑体をもち,葉緑体は求心的に配置
7 し,発達したグラナ構造をもちます。 3. イネ科 “Classical” PEP-CK 型 ノシバやコウライシバなどにみられる型で,C4経路は PEP-CK 型です。維管束鞘 は 2 層あります。外側の維管束鞘細胞の外観は不揃いで,細胞壁は 2 層ともスベリ ン化しています。外側の維管束鞘細胞のみ葉緑体をもち,葉緑体は散在又は遠心的 に配置し,発達したグラナ構造をもちます。 4. 双子葉植物ヒユ型(Atriplicoid type) アマランサス,ケイトウ,イヌビユ(ヒユ科),スベリヒユ(スベリヒユ科), ハマビシ(ハマビシ科)などにみられる型で,C4経路は NADP-ME 型又は NAD-ME 型です。ヒユ科では全て NAD-ME 型になります。1 層の維管束鞘が維管束の周りを 包み,その外側を葉肉細胞が放射状に取り巻いています。維管束鞘細胞の葉緑体は 求心的に配置しています。図は最も典型的なヒユ型のクランツ構造を示しています が,種類によっては葉肉細胞が環状では無く,柵状組織や海綿状組織の形をとどめ ているものもいます。
8 5. 双子葉植物オカヒジキ型(Salsoloid type) オカヒジキ(アカザ科)などにみられる型で,C4経路は NADP-ME 型です。1 層 の維管束鞘と葉肉細胞は維管束の周りを直接包むのではなく,表皮細胞に沿うよう に葉の外側に配置しています。維管束鞘細胞の葉緑体は求心的に配置しています。 維管束は葉の中央部と維管束鞘の直下に散在しています。 設問 2.C4植物のほとんどはクランツ構造を持っていますが,双子葉植物のアカザ 科のあるものにはクランツ構造を持たない C4 植物が見つかっています。クランツ 構造を持たない C4植物はどのようにして C4光合成を行っているか考えてみまし ょう。
9 C4植物の多様性 C4植物は現在 17(19)科 486 属約 7600 種が知られています。日本には外来種も含 めて 79 属 243 種が知られています(奥田・吉川 1990)。C4植物=イネ科,カヤツ リグサ科などの単子葉植物というイメージが強いですが,双子葉植物にもアカザ 科,ヒユ科,スベリヒユ科,トウダイグサ科などが知られています。C4植物は,日 射が強く,高温で乾燥した環境に適応すべく,形態と代謝過程の双方の分化という 驚くべき進化を遂げました。C4 植物は*白亜紀から新生代初期に出現し,大気中の CO2濃度の低下によって,約 700 万年前以降に爆発的に増加したと考えられていま す。被子植物の系統発生の過程でおよそ 30 回独立に出現したとされ,系統関係を 反映しません。同属の植物であっても C3植物と C4植物とが混在します。近い関係 にある植物でも葉の構造と代謝過程が異なっているのはとても興味深いことです。 *化石記録では 6000 万年前(新生代初期,暁新世)とされています。 設問 3.温室効果ガスの中で最も地球温暖化に寄与しているのが炭酸ガス(CO2) ですが,今後炭酸ガス増加により地球温暖化が進んだとすると C3植物と C4植物 の光合成量はそれぞれどうなるでしょうか。また,ある地域が高温で乾燥した気 候に変化したとすると,その地域の C3植物と C4植物の種数とバイオマスはどの ように変化すると考えられるでしょうか。 観察手順 花瓶にはヤブツバキの枝,ススキ,サトウキビ,ノシバ,パンパスグラス,ケイ トウ(ヤリゲイトウ),オカヒジキがさしてあります。これらの葉の切片を作製し てプレパラートを作り,顕微鏡で葉の構造を観察します。観察した植物がクランツ 構造を持っているか,クランツ構造を持っている場合,それはどのような型に分類 されるのかが観察のポイントです。どの細胞に葉緑体が含まれているか,葉緑体の 色,大きさ,細胞内での配置にも注意してください。上記の材料の観察を終えたら, 野外に出て自分で材料を採集し,切片を作製してプレパラートを作り,顕微鏡で観 察しましょう。観察した材料が C3植物なのか C4植物なのか,クランツ構造の有無 から判断出来るようになることがこの観察の目的です。 机上には,水の入ったシャーレ,水の入ったビーカー,スライドガラス,カバー ガラス,ピンセット,面相筆,片刃のカミソリ,サフラニン・グリセリン・アルコ -ル,緑色の色鉛筆 2 本,鉛筆 6 本が用意してあります。 観察 1: ヤブツバキの葉の構造 葉の基本的な構造を勉強するため,ヤブツバキの葉の切片を作製し,顕微鏡で観 察します。良く生長した大きな葉を選びます。葉の裏を返し,太い葉脈をさけてカ ミソリを入れ,幅 5 mm ほどの短冊をつくります。この短冊を 4 枚重ね,親指と人 差し指ではさみ,カミソリ刃を手前に引きながら薄い切片を作ります。作製した切 片はカミソリ刃ごとシャーレの水の中に入れます。たくさんの切片の中から,もっ とも薄い切片を選び出して,面相筆で拾いあげてスライドグラスに乗せ,サフラニ ン・グリセリン・アルコールを 1 滴落としてからカバーグラスをかけて顕微鏡で観
10 察します。 設問 4:ヤブツバキの葉の断面を描いた図の柵状組織,海綿状組織,気孔の孔辺細 胞を確認し,作製した切片を観察しながら図に葉緑体を書き入れてください。各組 織に含まれている葉緑体の形,大きさ,量に注意して下さい。また,維管束,上面 表皮,下面表皮などの名称を図に書き入れてください。 観察 2:イネ科植物のクランツ構造 ススキの葉をとり,長い方向に 2 つに折り曲げて重ねます。さらに 2 つに折り曲 げて重ねます。重ねた葉の先 1 cm 下を左手の人差し指と親指とでしっかりとつま みます。右手にカミソリを持ち,刃を手前に引きながら指先から 3 mm 上を切り取 ります。そこには 4 枚の葉の断面が見えます。この断面の上を右手に持ったカミソ リ刃を注意深く,手前に引きながら薄い切片を作製します。作製した切片はシャー レの水の中に入れます。たくさんの切片を作ります。 シャーレの中に入っているたくさんの切片の中から,より薄いものを面相筆で拾 い上げ,スライドガラスの上にとります。数個の切片をのせて,その上にサフラニ ン・グリセリン・アルコールを 1 滴落としてカバーガラスをかけて顕微鏡で観察し ます。 ススキの観察を終えたら,サトウキビ,ノシバ,パンパスグラスの葉をとり,そ れぞれススキと同様の方法で切片を作製して顕微鏡で観察してください。 設問 5:ススキの葉の断面を描いた図を探し出してください。この図はどちらが葉 の表面でしょうか。その理由も書きなさい。作製した切片を観察しながら図に葉緑 体を書き入れてください。細胞内における葉緑体の位置,葉緑体の色や大きさにも 注意してください。葉緑体の入っている細胞と組織の名称を図の中に書き入れてく ださい。また,木部,師部,表皮などの組織の名称も書き入れて下さい。サトウキ ビ,ノシバ,パンパスグラスについても同様です。 設問 6:4 種のイネ科植物の葉の構造を観察した結果,これら 4 種はそれぞれ C3 植 物あるいは C4 植物のいずれに分類されるでしょうか。C4植物である場合,そのク ランツ構造は何という型に分類されるのか,その理由も述べてください。 観察 3:双子葉植物型のクランツ構造 オカヒジキの葉を 6 本とり,左手の親指,人差し指と中指の間に挟んで一束とし ます。まず,指先 3 mm の上をカミソリ刃で切り落とします。この断面の上を右手 に持ったカミソリ刃を注意深く,手前に引きながら薄い切片を作製します。左手の 指先をそぐように薄い切片を作製します。作製した切片はシャーレの水の中に入れ ます。たくさんの切片を作りましょう。それらの中から,ススキと同様の方法で, 薄い切片をスライドガラスの上にのせて観察します。 オカヒジキの観察を終えたら,ケイトウについても切片を作製して顕微鏡で観察 してください。 設問 7:作製した切片を観察しながら,オカヒジキの葉の断面を描いた図に葉緑体 を書き入れてください。葉緑体の入っている細胞と組織の名称を図の中に書き入れ
11 てください。また,維管束,柔組織,表皮などの組織の名称も書き入れて下さい。 ケイトウについても同様です。 発展学習:身近な植物の観察 野外に出かけ,3~5 種類の植物の葉を採ってきてください。その植物の名前を記 し,切片を作製してプレパラートを作り,顕微鏡で観察してください。その植物が C3植物か C4植物かを判断し,それはどのような理由によるかを説明してください。 *この観察は,実習では行いません。 おわりに 顕微鏡は小さなものを大きく見る機械です。顕微鏡観察には。材料を自分で採集 し,自分でカミソリ刃を用いて切片を作り,染色をし,プレパラートを作って見な くてはなりません。顕微鏡で観察するということは,自分で手足を動かしてみない と出来ないことなのです。何を見るために,どのような材料を用い,どのような切 片を作って観察するかと言ったことは自発的に行わなければ知識は蓄積されませ ん。 本実習では,C4 植物の多様な形態を観察してきました。C4 植物にはさまざまな 形態の仲間があることがわかってもらえたことでしょう。また,良く似た植物でも C3植物か C4植物かで葉の構造が異なることもわかったことでしょう。C3植物と C4 植物を論じるには,形態と代謝機構の両方を理解していることが不可欠です。C4 植物が獲得したクランツ構造と C4 経路というダイナミックな環境への適応進化を 感じてください。 主な参考文献
小林 興(監訳)2007. Campbell, N. A. and Reece, J. B. 著 キャンベル生物学. 1494 pp. 丸善株式会社,東京.
Sage, R. F. and Monson, R. K. (eds). 1999. C4 Plant Biology. 596 pp. Academic Press,
設問の解答 設問 1 の解答:PEP カルボキシラーゼと RubisCO を分ける必要があるからです。 設問 2 の解答:細胞内で PEP カルボキシラーゼを偏在させていることが知られて います。 設問 3 の解答:CO2濃度が増した場合,C3植物は光合成量が増しますが,C4植物 はもともと CO2の利用効率が良いため光合成量に変化はないと考えられます。高 温で乾燥した環境が増えれば,そこに生育する C3植物の種数,バイオマスは減り, C4植物が増えると考えられます。 設問 4 の解答:図の柵状組織,海綿状組織,気孔の孔辺細胞に葉緑体を書き込みま す。各図に柵状組織,海綿状組織,気孔,維管束,上面表皮,下面表皮などの名称 を書き込みます。 設問 5 の解答:気孔のたくさんある側が裏,あるいは,木部が上面にくる側が表で す。各図に葉肉細胞,維管束鞘細胞,気孔(孔辺細胞)などの名称を書き込み,そ れらに葉緑体を書き込みます。各図に木部,師部,上面表皮,下面表皮,木部繊維, 師部繊維などの名称を書き込みます。 設問 6 の解答: ススキ,サトウキビ:C4 植物。クランツ構造をもち,維管束鞘は 1 層で,維管束 鞘細胞の葉緑体が遠心的に配置していることから”Classical” NADP-ME 型です。 *維管束鞘細胞の外観は不揃いのときもありますが揃っているようにみえることが 多いため,ここでは特徴に挙げませんでした。 ノシバ: C4 植物。クランツ構造をもち,維管束鞘は 2 層で,維管束鞘細胞の外観 が不揃いで,葉緑体は細胞内に散在することから”Classical” PEP-CK 型です。 パンパスグラス:C3 植物。クランツ構造をもたないからです。すなわち,維管束 鞘細胞に葉緑体がありません。 設問 7 の解答:各図に葉肉細胞,気孔(孔辺細胞)などの名称を書き込み,葉肉細 胞と維管束鞘細胞,そして気孔の孔辺細胞に葉緑体を書き込みます。維管束鞘細胞 の葉緑体は求心的に配置しています。木部,師部,表皮などの名称を書き込みます。