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ある人民文学作品の軌跡と抵抗 : ニ人の“蝦球”(シアチュウ)と消えた女性形象

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説 〕

あ る人民文学 作品 の軌 跡 と抵抗

シ アチ ュ ウ

ニ 人 の"蝦

球"

と消 えた女性形象

ト ミ子

目次 は じめ に -⊥ り 乙 9 σ 4 『蝦 球 伝 」 の 出現 と現 在 ンア チ ュウ 作品分析 流浪児蝦 球 の形 象 ソア チ ュウ 1956年 の 改 定 良 い 子 の蝦 球 と消 え た女 性 形 象 、 最 後 の プ ロ ッ ト そ の後 の黄 谷 柳 と 『蝦 球 伝 」 お わ り に は じめ に 黄 谷 柳 の 代 表 作 「蝦 球 伝 』は、1947年 か ら1948年 香 港 の共 産 党 系 新 聞 『華 商 報 』 副 刊 「熱 風 」 に3期 に分 け て 掲 載 さ れ た 連 載 小 説 で 、 発 表 さ れ るや た ち ま ち 好 評 を 博 し、 連 載 と並 行 して単 行 本(3巻 本)が 刊 行 され 、 短 期 間 に版 を重 ね た。 日本 に も、 翌1949年 に は紹 介 さ れ、 訳 書(『 蝦 球 物 語 』、 実 藤 恵 秀 ・島 田 政 雄 訳 、 三 一 書 房 、1950年)は 、 新 中 国 成 立 の熱 気 と期 待 の な か で 、 当 時 と して は めず ら し く半 年 間 に4版 を重 ね 、 そ の後 の 日本 にお け る人 民 文 学 作 品受 容 の先 駆 け と な った。 こ の作 品 が 読 者 を 引 きっ け ソ アチ ュ ウ た要 因 に は、 新 しい 世 界 へ の期 待 、 主 人 公 の流 浪 児"蝦 球"の 人 物 形 象 の 成 功 と波 乱 万 丈 の起 伏 に富 む通 俗 小 説 的 な面 白 さが 挙 げ られ て きた。 し か し、 原 作 は、 人 民 共 和 国 成 立 後 の1956年 、 作 者 黄 谷 柳 に よ り大 き な 改 ノアチ ュ ウ 定 が 行 わ れ、 主 人 公 蝦 球 の人 物 形 象 、 及 び作 品 の 特 徴 と して高 く評 価 さ

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シア チ ュウ れ た蝦 球 を と りま く小 市 民 の 人 物 形 象 が 加 筆 、 修 正 、 削 除 され 、1947年 の 新 聞連 載 版 、 改 訂 前 の 単 行 本 と は、 質 的 、 内 容 的 に大 き く異 な る作 品 に 改 定 さ れ た 。 以 来 、 現 在 に至 る ま で 原 文 の 『蝦 球 伝 』 は、 この 改 訂 版 が 流 布 し、 解 放 前 の 作 品 は改 訳 が な か った 訳 書 に残 され る結 果 と な っ た。 しか し、 この 作 品 を め ぐ る研 究 領 域 で は、 現 代 の新 しい視 点 に よ る分 析 法 を と る作 品論 で あ っ て も、 茅 盾 が 初 期 に提 起 した 改 定 前 の作 品 に対 す る評 価 が 金 科 玉 条 の ご と く継 承 され 、 改 訂 に よ る人 物 形 象 と作 品世 界 の 変 化 を取 上 げ る論 評 、 分 析 が ほ とん ど見 られ ぬ ま ま現 在 に至 っ て い る。 本 稿 は、 こ う した 『蝦 球 伝 』 を め ぐ る状 況 を 踏 ま え て 、1947年 版 と1956年 版 の異 同 を 比 較 し、 改 定 に よ る人 物 形 象 、 作 品 世 界 の変 化 を分 析 し、 人 民 文 学 作 品 の 特 質 と形 成 の 軌 跡 を考 察 し、 併 せ て 作 者 黄 谷 柳 が 密 か に 残 した抵 抗 の メ ッ セ ー ジを 提 示 した い と考 え て い る。 1『 蝦 球 伝 』の 出 現 と現 在 1.1中 国 に お い て 作 品 の 登 場 『蝦 球 伝 」 は1947年 か ら1948年 香 港 の共 産 党 系 新 聞 『華 商 報 」副 刊 「熱 風 」 に三 部 編 成 で 掲 載 され た新 聞 小 説 で 、 黄 谷 柳 の代 表 作 で あ り、 も っ と も成 功 した 作 品 で も あ る。 第 一 部 『春 風 秋 雨 」(1947年11月17日 ∼12 シ アチ ュ ウ シア チ ュ ウ 月28日)は 、 華 僑 労 働 者 出身 の 少 年 蝦 球(姓 は夏 で 、 名 が 球 、 兵 隊 に シア チ ュウ さ らわ れ た 兄 が 彼 を蝦 球 と呼 ん だ)が 家 を 出 て な らず 者 の毒 牙 に は ま り、 牢 に 入 れ られ 、 ス リ に な る筋 を 通 して 、40年 代 香 港 の 植 民 地 社 会 の 暗 黒 と下 層 社 会 、 ごろ つ き、 密 輸 商 人 、 ス リ、 娼 婦 等 の多 様 な 人 物 が 描 き出 さ れ て い る。 第 二 部 『白雲 珠 海 」(1948年2月8日 ∼5月20日)は 、 流 浪 シア チュ ウ 児 蝦 球 が 兵 隊 に っ か ま り、 船 の 沈 没 等 、 い ろ い ろ な 危 険 に見 舞 わ れ る 出 来 事 を通 して 、 抗 戦 勝 利 後 の 国民 党 統 治 地 区 に お け る社 会 状 況 、 特 に官 僚 、 軍 閥 、 や くざ の悪 徳 活 動 が 暴 か れ て い る。 第 三 部 『山 長 水 遠 』(1948年8 シ アチ ュウ 月25日 ∼12月30日)は 、 蝦 球 が 香 港 を離 れ 、 広 東 華 南 の 田舎 で生 き る た め に、 漠 然 と した革 命 観 念 に よ り憧 れ を抱 きな が らい ろ い ろ な方 法 で 革 命 に参 加 す る道 を さ ぐ り、 最 後 に 遊 撃 隊 に身 を 投 じ、 戦 闘 に参 加 し、 革 命 小 戦 士 に な る まで が描 か れ て い る。 遊 撃 隊 と青 少 年 の 関係 や 活 動 に は興 味 ぶ か い エ ピ ソ ー ドも数 多 く盛 り込 まれ て い る。 作 品 全 体 と して は、 流 浪 児 シ アチ ュ ウ 蝦 球 を通 して 、 下 層 階 層 の生 き る 劣 悪 な社 会 状 況 を描 き、 一 歩 、 一 歩 暗

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黒 社 会 か ら脱 し、 革 命 小 戦 士 に成 長 す る姿 を通 して 、 新 時 代 の 到 来 に対 す る期 待 と予 感 を 体 現 す る作 品 と概 述 で き る。 そ れ ゆ え に、 『蝦 球 伝 』 は、 1947年 に 開 始 さ れ る や 解 放 前 旧 社 会 の 糾 弾 と新 社 会 に 期 待 す る 読 者 を 魅 了 し、好 評 を博 し、翌 年2月 第 二 部 の連 載 が 始 ま る と同 時 に、挿 絵(特 偉) 入 りで 第 一 部 の単 行 本(香 港 新 民 出版 社)が 刊 行 され 、 翌1949年 の2月 ま で の わ ず か 一 年 間 に5版 を重 ね た。 併 せ て第 二 部 、 第 三 部 も刊 行 さ れ、 3冊 の 単 行 本 が 短 時 間 の 内 に 、 幾 度 も版 を 重 ね る ベ ス トセ ラ ー に な った。 (図1)(1)一 っ の 小 説 作 品 が これ ほ ど読 者 の歓 迎 を 受 け る こ と は めず ら し く、 茅 盾 は、 『文 芸 報 」(1949年5月8日)で 、 「1948年 、 華 南 で も っ と も読 者 に歓 迎 さ れ た 小 説 は、 お そ ら く 『蝦 球 伝 』 が 一 、 二 で あ ろ う」(1948年 、 在 華 南 最 受 読 者 歓 迎 的 小 説,恐 伯 要 数 《蝦 球 伝 》 為 第 一 ・第 二 了)(2)と述 べ て い る。 も ち ろ ん 、 『蝦 球 伝 』 の評 価 は、 出 版 量 の 多 少 に よ って の み は か られ る もの で は な い が 、 この小 説 が 当 時 の進 歩 的 文 芸 界 に与 え た影 響 と ソア チ ュウ い う点 で も注 目 さ れ る。 特 に、 蝦 球 の 人 物 形 象 に っ い て の 熱 気 あ ふ れ る 論 議 に よ り、 一 時 期 い わ ゆ る 「蝦 球 問 題 」 の論 争 が 繰 り広 げ られ た。 ま た 『蝦 球 伝 』 の 単 行 本 出 版 後 、 映 画 界 もす ば や く反 応 し、 香 港 大 中 華 電 影 公 司 が 版 権 を 取 得 し、呉 祖 光 の脚 本 、監 督 に よ り、映 画 化 さ れ た(『 春 風 秋 雨 』、 永 華 影 業 公 司)。(3) 1.2日 本 に お い て 翻 訳 作 品 の刊 行 中 国 で 単 行 本 が 出版 され た後 、 ち ょ う ど香 港 に い た鐘 敬 文(民 向 文 学 ・ 作 家)が この 小 説 を 中 国 文 学 者 実 藤 恵 秀 に紹 介 した。 一 早 く話 題 作 品 を 入 手 し た実 藤 恵 秀 は、1949年9月 に、 香 港 文 学 の 状 況 、 文 芸 大 衆 化 、 方 言 ■ 匠

一購

へ も ﹂ 図11948年 ∼1949年 出版 の3冊 の単 行 本(香 港 新 民 出版 社)

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文 学 、作 者 黄 谷 柳 と 『蝦 球 伝 』 を紹 介 し(「谷 柳"蝦 球 傳"一 香 港 の 浮 浪 児 」 (『中 国 語 研 究 』第9期 、1949年)、(4)翌1950年 に は、島 田政 雄 との 共 訳 で 『蝦 球 物 語(上)」(1950年12月)、 次 い で 『蝦 球 物 語(下)』(1951年4月 河 出書 房 図2)を 刊 行 し、 た ち ま ち 反 響 を 呼 び、 半 年 を 待 た ず に4版 を 重 ね た。 当 時 の 日本 の現 代 中 国 文 学 作 品 の 出版 状 況 か ら見 て 、 こ の よ うな 重 版 は た い へ ん ま れ で あ り、出 版 後 は、中 国 文 学 者 、文 芸 評 論 家 に よ り、次 々 と 『蝦 球 伝 」 に関 す る評 論 が 発 表 され た。 い ず れ も この作 品 に高 い評 価 を ソア チ ュウ 与 え 、大 衆 文 芸 作 品 と して の 特 徴 と魅 力 、流 浪 児 蝦 球 の 人 物 形 象 を評 価 し、 当 時 の 暗 黒 社 会 に対 す る反 抗 と批 判 に共 鳴 し、 誕 生 した ば か り の新 中 国 に 対 す る期 待 等 が 示 さ れ て い る。 図2実 藤 恵 秀 ・島 田政 雄 共 訳 『蝦 球 物 語 』 さ らに 日本 と香 港 の 社 会 状 況 に 対 す る類 似 性 、 社 会 問題 に対 す る共 通 性 を 見 出 し、 共 感 を見 出 す 見 解 も見 られ た(図3、 図4)。 た と え ば 、 訳 者 実 藤 恵 秀 は、1954年 『現 代 中 国文 学 全 集 ・黄 谷 柳 篇 』 「あ と が き」 で、 日 本 で 『蝦 球 伝 』 が 大 衆 性 を もち え た 要 因 と して、 イ ギ リス の 支 配 す る植 民 地 香 港 に お い て は、 「植 民 地 特 有 の 悪 徳 、 ギ ャ ング、 ボ ス、 パ ンパ ンが群 れ 、 エ ロ、 グ ロ、 ナ ンセ ンス の 植 民 地 的 退 廃 文 化 が 氾 濫 して、 大 衆 の心 を む し ば ん で い る」、 そ の 「影 響 か ら大 衆 を 奪 い返 した い 」 とい う点 に 作 家 の 執 筆 動 機 が あ る と語 って い る。(5) 日本 で の 映 画 化 は な か っ た が 、1952年 に 児 童 劇 の定 期 公 演 で半 月 ほ ど 上 演 さ れ た(東 童 、 第86回 定 期 公 演 、 於 三 越 劇 場1952年 、 図5)。(6)

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1.3日 本 、 中 国 にお け る 読 者 の 歓 迎 、 新 社 会 の未 来 に対 す る期 待 『蝦 球 伝 」 の発 表 され た1950年 代 、 日本 と中 国 は、 片 や 敗 戦 、 片 や戦 勝 と、 相 反 す る国 際 環 境 に あ っ た が 、 両 者 は と も に そ れ ぞ れ の 未 来 を 目指 し て 、 新 社 会 到 来 へ の期 待 、 新 中 国 の 建 設 に対 す る希 望 を抱 く一 面 が あ った 。 新 生 中 国 に 対 す る期 待 と希 望 、 敗 戦 後 の 日本 の 再 生 へ の希 望 を 求 め る とい ヤ .

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図31947年 東 京 駅 中 央線 フ ォー ム 図41948年 東 京 都 中 央 児 童 研 究 所 逃 亡 を 防 ぐた め 、 裸 で収 容 さ れ る 流 浪 児 図3、4(佐 藤 靖 編 朝 日歴 史 ラ イ ブ ラ リー 『戦 争 と庶 民4』 進 駐 軍 と浮 浪 児1995年 朝 日新 聞 社) } 二 } .

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曾 塾 ` -^ 一 雪 ㌍ 隠 ■ i } 一 噛 、 41 ㌧、 図51952年 東 童 劇 団

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う両 国 の状 況 が ま った く異 な る環 境 下 で 、 と も に 『蝦 球 伝 』 を 歓 迎 す る読 者 層 を有 して い た。 特 に、 日本 で は、 日本 の近 代 化 問 題 に っ いて 反 省 す る 進 歩 的 知 識 人 、 日中戦 争 を批 判 す る研 究 者 、 中 国 文 学 者 の 人 民 文 学 の 発 展 に寄 せ る希 望 が 大 き く、 そ の た め に、 『蝦 球 伝 」 の 日本 語 版 は、 そ の後 に 始 ま る人 民 文 学 紹 介 の 契 機 と な り、 以 後 、 陸続 と現 代 中 国 文 学 作 品 が 紹 介 され る端 緒 と な った。 当 時 の熱 い 期 待 と評 価 は、 タ カ ク ラ ・テ ル の 「長 い こ と求 め て い た新 しい 文 学 の一 っ にっ い に 出会 え た」(「人 民 に仕 え る文 学 『シ ア チ ウ物 語 』 を よん で」(『人 民 文 学 』 第1巻1期 、1950年)、 岡 本 隆 三 「"新しい 中 国"で な しに は生 ま れ 得 ぬ 大 作 品」(徳 永 直 の批 評 に よ る)、 「ホ ン コ ンの"浮 浪 児"は 日本 に もい るが、 シ ア チ ウ は い な い、 彼 は 中 国 の ジ ュ リア ン ・ソ レル だ。」(岡 本 隆 三 「島 田 政 雄 ・実 藤 恵 秀 訳 『蝦 球 物 語 』 を 読 む 一 中 国 の ジ ュ リア ン ・ソ レル 」 『中 国 語 雑 誌 」 第5巻5期 、 1950年)と い っ た 表 現 か ら う か が え る。 しか し、 初 期 の ブ ー ム の 後 は、 好 感 は残 した もの の、 作 品 自体 が 分 析 対 象 に取 り上 げ られ る、 あ る い は再 評 価 さ れ る と い った研 究 成 果 は、 今 日 に至 る まで ほ とん ど見 られ な い 。 特 に、 初 版 の 訳 本 が 絶 版 と な って以 降 は、 児 童 文 学 作 品集 に 収 め られ た 翻 訳 版 が わ ず か に命 脈 を 保 って い る にす ぎ な い(「 シ ア チ ウ物 語 」 島 田政 雄 ・ さ ね と う け い し ゅ う共 訳 『中 国 の 児 童 文 学 』9巻 ・10巻 、 太 平 出 版 社 、 1975年 、 図6)。 しか し、 中 国 版 が す べ て 改 定 版 に変 わ って い る た め 、 作 品 発 表 当 時 の 内容 を 残 して い る点 で 、 日本 語 版 は貴 重 な 史 料 的 価 値 を 有 し て い る。 」二ll:1駐1 ,肌.1'-藍 望'顯 '1、'、i.r-」A冠L■ L-"_」 二■、、」  ペナドゴ コナロ 1瓢'コ ∫,・' 難"・ 図6児 童 文 学 作 品 と して 出版 改 訂 版 に拠 ら な い原 作 の訳 本

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一 方 、 人 民 共 和 国 成 立 後 の 中 国 で は、 消 長 は あ る もの の 「蝦 球 人 気 」 は、 そ れ な り に断 続 的 に 見 られ る。 しか し、 作 品 自体 は、1956年 作 者 に よ り 作 品 の本 質 に関 わ る大 き な改 訂 が 行 わ れ 、 以 後 の 『蝦 球 伝 』 は、 す べ て こ の改 定 版(北 京 通 俗 文 芸 出 版 社 、1957年)が 流 布 す る こ と に な り、 複 数 の 出版 社 か ら出 版 さ れ て い る(図7・ 図8)。(7)特 に、1985年 に花 城 出 版 社 か ら出版 され た 『蝦 球 伝 』 は、 発 行 部 数 が20万 冊 ∼30万 冊 に も上 った 図71975年 出 版 の 改 定版 宏 文 図 書 公 司 出版 蝦 '・二㌔ 麟 ぺ寺

図82006年 新 江 文 芸 出版 社 挿 絵 な し、 物 語 の 背 景 と な る解 放 前 の 香 港 の 町 の 写 真 な ど を 使 用 、 表 紙 は 1950年 の 映画 『春 風 秋 雨 』 び   ち

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1卜.,-1ヨ 図9テ レ ビ ドラ マ連 環画1982年 上.中.下 宝 文 堂 書 店 改 編 穆 瀾 表 紙 趙 成 民82年 広 東 電 視 台 テ レ ビ画 面 図101984年 天 津 人 民 出版 社 宋 張 錦 辛 学 英 改 編 、 表 紙 張 勝

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図111984年 福 建 人 民 出 版 社 張元 錦 改 編 李 蕾/宋 建 社 画

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図122006年 知 出版 社 ■ 図13(画 朋 式)関 山 月 美 術 館 編 香 港 芸 苑 出 版 社2007年 『螂 球 佳/山 長 水 近 』 黄 谷 柳 著 関 山 月 画 原 画 改 編 黄 潔 玲 シアチュウ 左:蝦 球 右=第 三 部(「 沿 着 来復 戦走 」) 関 山 月(1912年 ∼2000年 嶺 南 画 派 の 代 表 的 画 家) と い う。 小 説 形 式 で の 出 版 の ほ か 、1981年 広 東 電 視 台 連 続 ドラマ(全8集) と して放 映 され 、 さ ら に中 央 電 視 台 の ゴ ー ル デ ンタ イ ム に 全 国 放 映 さ れ た 後 、 「蝦 球 ブ ー ム」 が 沸 き起 こ り、 主 題 歌 が 広 く愛 唱 さ れ る と と も に、 テ レ ビ ドラマ の 画 面 を使 用 した もの を は じめ、 多 数 の連 環 画 が 出 版 さ れ 、 原 シア チ ュ ウ 作 の 再 版 も 続 い た(図9∼11、 図13)。(8)ま た 、2009年 に は 、 蝦 球 の 年 齢 を5歳 引 き 上 げ 、 女 性 群 像 と の 恋 愛 を 軸 と す る メ ロ ド ラ マ 型 の 翻 案 ド ラ

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図142008年 香 港 新 民 出版 社 マ(全32集 、2010年 広 東 省 第 一 回 魯 迅 文 芸 賞 受 賞)も 放 映 され た。 原 作 と大 き く異 な る作 品世 界 で あ るた め 、 児 童 文 学 と は異 な る視 点 か らの 別 作 品 で あ り、 別 の 『蝦 球 伝 』 と言 え よ う。 映 画 は も と よ り、 連 環 画 、 挿 絵 も ンア チ ュウ 中 国 の 時 代 思 潮 に よ り異 な り、 蝦 球 の 人 物 形 象 が 与 え る印 象 は 大 き く異 な る。 特 に80年 代 以 降 は、 ア ニ メ タ ッチ の表 紙 絵 が 目立 っ(図12、 図14)。 シ ア チ ュ ウ 2作 品 分 析 流 浪 児 蝦 球 の 形 象 2.1『 蝦 球 伝 』 成 功 の 要 因 シアチ ュ ウ 作 品 成 功 の 要 因 と して 、筆 頭 に挙 げ られ て きた の は、蝦 球 の 人 物 形 象 と、 新 聞 連 載 小 説 で あ るが ゆ え に取 られ た 起 伏 に富 ん だ 章 回小 説 形 式 の物 語 形 態 で あ る。 この 評 価 を 決 定 づ け た の が 茅 盾 の 評 論(「 関 与 『蝦 球 伝 」」)で あ る。 茅 盾 は、 次 の よ う な作 品 と人 物 分 析 を 提 出 して い る。 シア チ ュウ 蝦 球 の よ う な流 浪 児 、 及 び そ う した 一 派(そ の 中 に は蝦 球 の よ う な ス リ、 大 人 や 子 ど もの 「ご ろっ き」、 密 輸 商 人 、 投 機 商 人 等 、 ま さ シア チ ュウ に香 港 の 小 市 民 が よ く知 って い る人 物 、 蝦 球 の 屈 強 さ と 自衛 の 機 知 、 人 を損 な い な が ら(ス リ)損 わ れ 、 侮 辱 され(彼 よ り大 き な よ た もの か ら受 け る)、 矛 盾 した生 活 は小 市 民 の 賛 美 と同 情 を 引 き起 こ し、 い り くみ 変 化 に富 み、 冒険 に あ ふ れ 、 統 治 階 級 の法 律 と社 会 秩 序 を 持 て 遊 ぶ物 語 は小 市 民 の 好 奇 心 を 満 足 させ 、 彼 らに あ る種 の 感 情 面 で の 発

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散 を させ た 。 この す べ て が 、 『春 風 秋 雨 」 の い わ ゆ る落 ち こぼ れ の 小 市 民 階 層 の少 な か らぬ読 者 を 得 る こ とが で き た原 因 で あ る。 進 歩 的 な シア チ ュウ 読 者 層 に は 『春 風 秋 雨 』 が 好 評 を博 した主 な要 因 は、 作 者 が 蝦 球 の 本 質 的 な 善 良 さ を 表 現 した に と ど ま らず、 同 時 に彼 が 生 活 の 中 で模 索 シ アチ ュ ウ し、 っ い に 歩 ん で い く光 明 の 道 を 暗 示 し、 蝦 球 の周 囲 の裏 社 会 の 人 物(老 若 の ス リ、 よ た もの)及 び これ らの 「ご ろ っ き」 を 養 い、 生 み 出 す 社 会 制 度 に対 して 、 作 家 が 深 く憎 しみ を 抱 い て い るか らで あ る。 蝦 球 那 様 的流 浪 兄 及 其 一 群 霧 伴(其 中 有 蝦 球 一 様 的 払 手,有 大 小"揚 家", 走 私 商人 和 投 機 商 人 等 等,正 是 香 港 小 市 民 所 熟 悉 的人 物;蝦 球 的 偲 強 和 自衛 的 機 智,損 人(扶 窃)而 又 被 損 害 被 侮 辱(受 制 干 比他 大 的 流 眠)的 矛 盾 生 活,引 起 了小 市 民 的賛 美 与 同情,而"曲 折 奇 離",充 満 着 目 険 的 与 統 治 階 級 所 謂 法 律 和 社 会 秩 序 開玩 笑 的故 事,也 満 足 了 小 市 民 的好 奇 心,譲 他 イ門得 到 一 種 情 感 上 的発 泄 。 個 一 切,都 是 『春 風 秋 雨 』 之 所 以能 鉤 在 落 后 的 小 市 民 階層 獲 得 不 少 読 者 的 重 要 原 因 。在 進 歩 的読 者 層 里,『 春 風 秋 雨 』之 所 以 播 得 好 評,主 要 是 因 為 作 者 不 但 表 現 了蝦 球 本 質 的善 良,同 時 也 暗 示 他 在 生 活 模 索 中終 将 走 上 光 明之 路,而 対 干 蝦 球 周 囲 的黒 社 会 人 物(大 小 揚 家 流 亡民)以 及 産 生和 培 養 這 些"携 家"的 社 会 制 度 。 作 家 是 深 致 其 憎 根 的。⑨ 茅 盾 の 分 析 は、 『蝦 球 伝 」 が 左 翼 知 識 人 と市 民 階 層 の双 方 の要 求 を満 足 させ る もの で あ った こ と を明 確 に 示 して い る。 2.2「 蝦 球 問 題 」 ソア チ ュウ 1948年 香 港 の 左 翼 文 芸 界 に、 蝦 球 の 人 物 形 象 の リア リテ ィ と リア リズ ム に よ る創 作 方 法 に っ いて 、 「蝦 球 問 題 」 と称 さ れ る論 争 が 沸 き起 こ った。 シ ア 掲 載 当初 か ら始 ま った この 論 争 の 起 点 と な った の が 、 適 夷 が 発 表 した 「蝦 チュウ 球 は ど の よ うな 人 物 か?」(「 蝦 球 是 悉 祥 一 介 人 」、 『青 年 知 識 』36期1948 シアチ ュ ウ 年8月)で 、 彼 は、 「蝦 球 は何 度 も食 べ られ な くな りな が ら、 ま った く自 分 の労 力 で飯 を食 お う と した こ とが な い 」(蝦 球 許 多 次 貧 途 絶 食,却 従 没 有 想 起 過 用 自 己 的 労 力 来 吃 飯)、 「い さ さか の労 働 観 念 もな い 」(没 有 系糸毫 労 働 観 念)、 性 格 的 に 「卑 劣 で 、 動 じや す く、 矛 盾 して い る」、(「卑 劣 、 動 揺 、 矛 盾 」、 「彼 に は思 想 的 に 目覚 め て 不 屈 の 闘 争 に 向 か う人 間 が もっ べ き 性 格 の 基 礎 が 欠 如 して い る」(他 欠 乏 一 ノト可 能 荻 得 思 想 的 覚 醒 和 走 向不 屈

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闘 争 的 人 所 必 須 具 備 的性 格 基 礎)等 の 人 物 形 象 へ の批 判 を 提 示 した。 これ が 忽 ち大 きな 反 響 を 呼 び、 一 連 の 反 駁 の文 章 が 発 表 さ れ た 。 た と え ば、 代 シア チュ ウ 表 的 な 文 章 と して、 史 竹 の 「蝦 球 に はす で に前 途 が な い の か?適 夷 シアチ ュ ウ 先 生 の"蝦 球 は ど の よ う な人 間 か?"を 読 ん だ後 に記 す 」(「蝦 球 是 不 是 已経 没 有 前 途?写 在 読 適 夷 先 生"蝦 球 是 悪 祥 一 介 人"後 」、 『大 公 扱 』 シア チ ュウ 1948年8月19日 ・20日)、 琳 清 「私 は蝦 球 を 見 る"蝦 球 は ど の よ う な 人 物 か?"」(「 我 看 蝦 球"蝦 球 是 悉 祥 一 人"」、 『青 年 知 識 」37期 1948年9月)、 秋 雲 「『蝦 球 伝 」 を 再 読 す る 併 せ て 適 夷 先 生 に教 え る」 (「重 読 『蝦 球 伝 』 一 井 就 教 於 適 夷 先 生 」、 『文 匪 報 』1948年9月16日)等 シア チ ュウ が 挙 げ られ る。 これ ら反 駁 の基 本 主 張 は、 適 夷 の 観 点 に反 対 し、 蝦 球 の あ る 種 の 性 格 上 の 欠 点 を 認 め た上 で、 そ の 前 途 に可 能 性 を 見 出 す も の で シア チュ ウ あ っ た。 これ に対 して 、 適 夷 は二 篇 の反 論 「再 び 蝦 球 の 哀 求 を 語 る 併 せ て史 竹 併 せ て 琳 清 二 氏 に答 え る」(「再 談 蝦 球 哀 求 兼 答 史 竹 琳 清 二 先 生 」 『青 年 知 識 」37期1948年9月)、 「重 ね て 述 べ さ せ て い ただ く一 『蝦 球 伝 』 の 第 一 部 、 第 二 部 に関 して」(「重 来 一 次 申述 美 干 「蝦 球 伝 』 第 一、 二 部 」(『文 匠 報 』1948年10月21日)で 応 戦 し、 再 度 自 己 の 観 点 を 主 張 す る と と もに、 反 論 は ブ ル ジ ョア階 級 の温 情 的 な人 道 主 義 の観 点 か ら シア チ ュウ の 蝦 球 弁 護 で あ る と批 判 した。 これ ら一 連 の 論 議 を 踏 ま え て、 自 ら も流 浪 児 で あ っ た体 験 を もっ 干 逢 は、1949年5月 「『蝦 球 伝 」 を論 ず る」(「論 蝦 球 伝 」、 干 逢 『論 「蝦 球 伝 」 及 其 他 』1950年3月 、 求 実 出版 社 所 収)を 発 表 した。 これ は 当 時、も っ と も広 く各 方 面 の 意 見 を 吸 収 して、「蝦 球 問 題 」 シア チ ュウ を 論 じた もの で 、蝦 球 は「弱 点 を もっ だ けで な くそ の 弱 点 が か な り大 き い」 (不 特 有 弱 点 而 且 弱 点 相 当 大)(10)が、 作 品 と して の 大 衆 性 と戦 闘 性 は肯 定 ソア チュ ウ す べ き で あ り、 『蝦 球 伝 』 の意 義 は蝦 球 の人 物 形 象 を肯 定 す べ き点 に あ る と して、 次 の よ うに述 べ て い る。 シア チ ュウ 蝦 球 とい う人 物 に っ い て 、 性 格 と闘 争 が 論 争 の 中 心 とな る こ と は、 シ アチ ュ ウ 私 は 別 段 偶 然 と は思 わ な い。 蝦 球 は主 人 公 で あ る ば か りで な く、 全 編 を 貫 く手 掛 か りで あ り、 新 社 会 の世 代 の 代 表 で あ り、 作 者 の希 望 で あ る。 創 造 さ れ た 形 象 で あ るか ら、 我 々 は彼 を通 して 、 全 編 の 中心 部 ソア チ ュ ウ 分 を 把 握 し、 作 品 に 内 在 す る矛 盾 を 発 見 で き る。 蝦 球 は無 数 の群 衆 で あ る読 者 を感 動 させ る こ とが で き る。 純 粋 で 聡 明 で 、 情 熱 的 で 勇 敢 で、 様 々 な人 生 の 苦 難 を経 な が ら、 っ い に革 命 の道 を 歩 ん で い く。 こ

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の 物 語 と 主 題 が 人 を 感 動 さ せ る の で あ る。(10) 蝦 球 這 個 人 物,他 的性 格 与 他 椚 的斗 争,成 為 輪 争 的 中 心,我 以 為 並 不 是 偶 然 的。 蝦 球 不 特 由於 他 是 主 人 公 。 是 貫 串 全 書 的 綾 索,是 方 生 一 代 的代 表,是 作 者 的希 望,而 且 由於 他 是 創 造 的 形 像,我 椚 可 以 通 過 他 把 握 全 書 中心 環 節,発 現 作 品 的 内 在 矛 盾 。 蝦 球,会 感 動 了 無 数 的 読 者 群 衆,他 天 真 聡 明,熱 情 勇 敢,経 歴 了 種 種 人 生 苦 難,終 於 走 上 革 命 的 道 路:這 個 故 事 与 主 題 是 動 人 的 。(11) シ アチ ュウ 2.3蝦 球 の 人 物 形 象 流 浪 児 の 特 徴 と意 義 『蝦 球 伝 」 成 功 の 要 因 とな っ た蝦 球 の人 物 形 象 に っ いて 、 前 述 の 干 逢 は、 次 の よ うに 指 摘 して い る。 シア チ ュウ ー 人 の少 年 流 浪 児 蝦 球 は常 に 彼 にふ さわ し くな い も の を も っ て い る。 例 え ば、 彼 は16歳 、17歳 の少 年 で あ り なが らか ぎ りな い人 生 の 苦 難 を 経 験 して い るが 、 彼 が 我 々 に与 え る印 象 は幼 稚 で 、 単 純 で、 純 粋 で 、 ま る で12歳 、13歳 の 児 童 で あ る。 しか し物 語 で は 、 彼 が こ と を な す 時 に は、 い っ も 「窮 地 に 陥 る と策 が 浮 か び」、 「突 然 ア イ デ ア を 思 い っ く」 こ とが で き、 非 常 に 老 練 で あ る。 次 に、 彼 の 人 生 哲 学 が 大 変 疑 問 に な る。 何 が 彼 の人 生 哲 学 か?善 人 に な り、 盗 まず 、 ペ テ ン を せ ず 、 下 劣 に な らず 、 堕 落 せ ず 、 善 良 な 心 根 を もち 、 母 親 に孝 行 し、 恩 に は報 い、 発 奮 して 向上 を 目指 し、 義 に勇 み 、 民 の た め に害 を 除 く、 す べ て 小 学 校 の教 科 書 の 中 の 倫 理 道 徳 ワ ン セ ッ トで あ る。 こ れ は封 建 的 な道 徳 と ブ ル ジ ョワ階 級 の 偽 善 で あ る。 そ れ らに ず っ と支 配 さ れ て い るが た め に彼 は生 活 の 中 で 常 に多 くの恥 ず べ き弱 点 を 示 す こ とに な る。 作 為 一 個 少 年 的 流 浪 者 蝦 球 常 有 不 鷹 属 於 他 的 東 西 。 例 如 説:他 已経 十 六 、 七 歳 的 少 年 了,経 歴 了 無 限 的人 生 苦 難,但 他 給 我1門的 印 象,却 這 様 幼 稚 、 単 純 、 和 天 真,好 像 是 個 一 二 、 三 歳 的 見 童;但 故 事 重 要 他 作 事 的 時 候 見,他 又 毎 能 「人 急 智 生 」,「忽 発 奇 想 」,非 常 老 練 。 其 次,他 的人 生 思 想 是根 成 疑 問 的 。 什 歴 是 他 的 人 生 思 想 呪?作 好 人,不 楡 騙,不 下 流,不 堕 落,心 腸 善 良,孝 順 母 親,知 恩 必 報,発 奮 向 上,見 義 勇 為,為 民 除 害:全 是 一 套 小 学 教 科 書 里 面 的道 理 。 這 是 一 種 封 建 的 道 徳 和 一 種 資 産 階 級 的 為 善 。 他 椚 一 直 支 配 着 他,並 使 他 在 生 活 中

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常 常 表 現 出許 多 可 恥 的 的 弱 点 。(12) しか し、 干 逢 の指 摘 す る善 良 、 聡 明 、 勇 敢 で 、 年 齢 に比 べ て 幼 稚 、 純 真 ンア チ ュウ な性 格 は、 蝦 球 に限 らず 孤 児 物 語 に 登 場 す る主 人 公 の孤 児 の典 型 的 な 児 童 形 象 で あ る。 孤 児 、 流 浪 児 の物 語 の 多 く は、 現 実 社 会 の 矛 盾 、 社 会 状 況 を主 人 公 の 善 良 さ、 純 粋 さ で批 判 す る意 図 を もっ もの が 少 な くな い。 家 庭 の庇 護 か ら切 り離 され る孤 児 は、 け な げ に苦 境 に耐 え て正 義 と真 心 で生 き る場 合 もあ れ ば、 一 時 的 に悪 に染 ま る境 遇 に 陥 る者 もい るが 、 多 くは 心 の 底 に、 悪 劣 な 社 会 に侵 され え な い 純 粋 さ、 誠 実 さ を も って い る。 大 人 の 社 会 の悪 劣 、 汚 濁 に対 して 、 純 粋 、 無 垢 な心 を 残 す 子 ど も像 は、 社 会 へ の 批 判 性 を高 め 、 先 鋭 化 して 、 読 者 の 共 感 と 同情 を 喚 起 し、 支 援 の思 い を 強 化 す る働 きを 果 たせ る。 主 人 公 が子 ど も、 幼 い児 童 で あ る こ と に よ り、 読 者 の社 会 へ の 不 満 、 憤 怒 、 反 感 は、 親 近 感 と援 助 した い と の感 情 を 喚 起 し、 読 者 を 引 き っ け る こ とが で き る。19世 紀 ∼20世 紀 の 欧 米 で は、 社 会 の 政 治 的 、 経 済 的 矛 盾 、 社 会 問 題 に対 す る批 判 性 を もつ 浮 浪 児 、 孤 児 物 語 が 盛 ソア チ ュ ウ ん に生 ま れ た 。 そ れ らの 人 物 形 象 の多 くは、 蝦 球 同 様 に善 良 、 聡 明、 勇 敢 で あ り、 さ らに設 定 され る年 齢 に比 べ て、 な お 幼 稚 、 純 真 な性 格 を 強 く も っ て い る。 主 人 公 の 純 粋 さ、 無 垢 さ と は、 浮 浪 児 、 流 浪 児 、 孤 児 の 人 物 形 象 に欠 か せ な い基 本 的 性 格 の一 っ に ほ か な ら な い。 シ アチ ュウ 2.4蝦 球 の 人 物 形 象 と年 齢 シ ア 性 格 と並 ん で 人 物 形 象 の年 齢 設 定 も重 要 な意 味 と役 割 を 有 して い る。 蝦 チ ュウ 球 の 改 訂 前 の年 齢 は16歳 、第 一 部 「春 風 秋 雨 』 で17歳 の 誕 生 日 を迎 え る。 児 童 の 年 齢 概 念 は あ い ま い で あ り、 対 象 領 域 に よ り相 違 は あ る が 、 通 常 16、17歳 は、 未 成 年 と見 な され る青 少 年 期 で あ り、 児 童 、 子 ど も と は い いが た い。 流 浪 児 の年 齢 は下 が る ほ ど同 情 を得 や す い が、 年 齢 が 下 が れ ば 、 物 語 の展 開 上 、 語 られ る 内 容 は 、 子 ど も の 世 界 に 限 定 さ れ る。 年 齢16、 17歳 は、 一 定 の 判 断 力 、 思 考 力 が あ り、 自 己 選 択 の機 会 が 多 く、 大 人 の 世 界 との 接 触 が 多 様 で あ りっ っ、 大 人 で は な い 者 と して の 葛 藤 を もち 、 苦 悩 す る。 しか も、 未 熟 で あ り、 成 熟 して い な い た め に、 往 々 に して失 敗 し、 過 ち を 犯 し、 成 長 して い く軌 跡 を 描 く可 能 性 を 有 して い る。 そ の意 味 で、 ソアチ ュ ウ 蝦 球 の年 齢 は、 物 語 の 内 容 を 豊 か に して 、 動 的 な ス トー リー展 開 を可 能 とす る特 長 が 内 在 して い る。 児 童 文 学 の 世 界 に埋 没 せ ず、 大 人 の純 粋 さへ

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の 希 求 を 喚 起 し、 か っ 児 童 で は描 き に くい、 性 的 要 素 を題 材 に含 め る こ と が で き る。16、17歳 の少 年 の 性 的 萌 芽 と初 恋 の純 真 な 感 情 は、 読 者 の 青 春 時 代 の 初 々 しい 恋 愛 体 験 を想 起 さ せ る こ とが で き る。 改 訂 前 の1948年 シアチ ュ ウ 版 に は 、 蝦 球 の異 性 との 関 わ りが 多 く描 き こ ま れ て い る。 実 年 齢 は、 青 年 で あ りな が ら、 あ え て 幼 さ を 強 調 し、 大 人 と子 ど もの 間 を さ ま よ う人 物 ソ アチ ュ ウ と して 蝦 球 が 描 か れ て い る。 これ を 端 的 に 示 して い る次 の よ う な一 節 が あ る。 シア チ ュウ 蝦 球 は大 人 た ち の 話 しを 傍 らで 聞 く も っ と も辛 抱 強 い 聞 き手 で あ る。 大 人 た ちが な にを 話 して い よ う と、 彼 は た い そ う熱 心 に耳 を傾 け る。 彼 は、 彼 らの話 す 中見 が とて も豊 か で 、 と て も人 を 引 きっ け る と 感 じ る。 彼 は聞 き出 す と、 半 ば わ か る が わ か らな い、 わ か っ た よ うで 、 わ か らな い話 題 に も っ と も引 きっ け られ る。 彼 は耳 を 傾 け、 い さ さか も聞 き漏 らさ な い よ う に 聞 き入 って い く。 二 本 の脚 は 、 一 本 が 子 ど も の世 界 に と ど ま って 聞 い て い て 、 一 本 の足 が 大 人 の世 界 に踏 み入 って い くよ うで あ る。 大 人 の世 界 と は なん と人 を 惑 わ せ、 な ん と複 雑 で 不 思 議 な もの か 、 天 災 、 人 災 、 戦 争 、 死 、 結 婚 、 出産 、 離 散 、 団 樂 、 快 活 、 苦 痛 これ らす べ て に な ん と は ら は らさせ られ 、 ま た 引 きっ け シ アチ ュ ウ られ る こ とか!、 蝦 球 は傍 らで す っ か り聞 き入 る と、 思 わ ず 口 を あ ん ぐ り開 けて しま う(下 線 部 は単 行 本 で は 「心 」 とな って い る) 蝦 球 是 大 人 椚 談 話 的最 耐 心 的 労 所者 。 大 人 無 論 談 些 什 腰,他 有 高 度 的 熱 心 去 傾 所 。 他 覚 得 他 椚 的 談 話 内 容 非 常 豊 富,非 常 吸 引人 。 在 他 明二来,那 種 半 憧 不 憧, 似 憧 非 憧 的 話 題,就 是 最 吸 引他 的 話 題,他 側 者 他 的 耳 朶,毫 無 遺 漏 地 所進 去 。 他 的 丙 只 脚,一 只 脚 還 折留 在 小 核 子 的境 界,一 只 脚 一 踏 進 大 人 的 世 界 来 了 。 大 人 的 世 界 多 慶 迷 人 而 多 慶 複 雑 離 奇 呪!天 災 、 人 禍 、 戦 争 、 収 穫 、 婚 嫁 、 生 育 、 離 散 、 團 圓 、 快 活 、 痛 苦 這 一 切 的一 切,是 多 腰 驚 心 動 醜 而 又 引人 関 注 呵! 蝦 球 労 所 的 得 入 神 時,就 不 自覚 地 張 開 噛 巴 来 。(13) 16、17歳 の 少 年 の 年 齢 は、 性 の 芽 生 え と初 恋 の 純 真 な 感 情 を 交 え る こ と が で き、 読 者 に そ れ ぞ れ の恋 愛 の 思 い 出 を再 度 蘇 らせ る こ と が で き る。 ソア チュ ウ 1948年 版 に は、 蝦 球 が異 性 に魅 か れ る表 現 が 少 な くな い。 ンアチ ュ ウ ニ ュウ ス さ ら に 『蝦 球 伝 』 に は 、 蝦 球 の 分 身 で あ る14歳 ∼15歳 の"牛 仔"を

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ンアチ ュ ウ 用 意 して い る。 彼 が 絶 え ず 蝦 球 の そ ば で流 浪 児 の 活 発 さ、 幼 稚 さ、 そ し て 生 活 の た め に や む な くス リ等 、 悪 劣 な行 動 を す る負 の役 割 、 そ して危 険 を 代 行 す る役 割 を担 い 、 最 終 的 に は流 浪 児 の危 険 に身 を さ らす 運 命 を 引 き シア チ ュウ ニ ュウ ス 受 け て蝦 球 の分 身 と して殺 害 され る。 牛 仔 の 人 物 形 象 の な か で 、 児 童 の 形 象 と流 浪 児 の 背 徳 的 で 悪 劣 な要 素 が 代 言 され て い る特 徴 は見 落 とせ な い ンアチ ュ ウ 意 味 を 含 ん で い る。 蝦 球 の年 齢 に っ い て は、 作 品 中 で 二 つ の プ ロ ッ トで 年 齢 が 高 い た め に拒 絶 され 、 読 者 に 彼 が 幼 い子 ど も で は な い こ と を想 起 さ せ る。 一 っ は、15歳 で は孤 児 院 に 収 容 して も ら え ず 、 「お 前 は だ め だ! 大 き す ぎ る。」(称 不 行!太 大 了 。)と 拒 絶 さ れ る こ と、 も う一 っ は12歳 シア を 過 ぎ て は 、 無 料 の 慈 善 食 を 配 給 し て も ら え な い こ と の 二 っ で あ る 。(14)蝦 チ ュウ 球 の年 齢16歳 か ら17歳 は、 少 年 で は な い が 、 人 物 形 象 に は、 天 真 で 、 シ アチ ュ ウ 幼 稚 さを 残 して い る。 これ に よ り蝦 球 は、 成 長 す る形 象 と して 、 社 会 に 加 わ り、 一 定 の 役 目を 担 い な が ら、 児 童 の純 潔 な世 界 に も足 を 止 め られ る シ アチ ュウ ニ ュウ ス の で あ る。 蝦 球 と 牛 仔 の年 齢 、 及 び二 人 の組 合 せ が 大 人 と子 ど もの 問 の 派 境 に あ る人 物 形 象 の 特 徴 を示 して い る点 に作 品 の巧 み な 構 成 が 読 み取 れ る。 2.5"可 能 形 態"と して の 物 語 世 界 の 特 徴 2.5.1革 命 精 神 、 革 命 観 念 シアチ ュウ 『蝦 球 伝 」 は、 流 浪 児 蝦 球 が危 険 な 目 に会 い な が ら一 歩 、 一 歩 成 長 して い く姿 に そ く して 展 開 され て い く。 第 三 部 『山 長 水 遠 』 で は、 下 層 社 会 か シア チ ュウ ら出 て 強 烈 な 反 抗 精 神 を もっ 蝦 球 が 、 っ い に遊 撃 隊 の一 員 とな り、 戦 闘 ソ エ ワ ン チ   に参 加 し、 か っ て の裏 社 会 の仲 間 で あ っ た蟹 王 七 に投 降 を 呼 び掛 け る筋 立 ンア チ ュウ て で描 か か れ る。 蝦 球 は当 初 、 強 烈 な 革 命 精 神 も確 固 た る革 命 概 念 もな か っ た。 しか し革 命 を 信 奉 す る竜 大 福 か ら革 命 へ の啓 発 を 受 け、 心 の 内 に 次 第 に革 命 に対 す る憧 れ を 抱 い て い く。 そ して そ の上 に さ ら に境 遇 か ら革 ア   ユ イト ウ ニ ュ ウ ス 命 の道 に迫 られ て い く。 鰐 魚 頭 に 惨 殺 され た 牛 仔 を 埋 葬 した 後 、 彼 は 一 人 で 生 きて ゆ け る道 、 行 くべ き道 は ど こか?自 問 す る。 シア チ ュウ 蝦 球 は考 え た:僕 は ど こへ 行 くの か?香 港 に も ど っ て パ ンを 売 ワン ゴウ ア  ユ イ トウ シ エ る の か?王 狗 の 子 分 に な るの か?広 州 に行 って鰐 魚 頭 の手 下 の 蟹 ワン チ  ば く ち ば マ   王 七 に っ いて 賭 博 場 の見 張 りを や る の か?馬 顧 問 の 情 婦 の使 い 走 り ヤ   ティ に な るか?亜 媒 の た め に船 を 漕 ぐの か?… … 違 う!違 う!人 が

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食 うべ き じ ゃ な い あ の飯 の た ね に は 戻 らな い!母 さん は良 い馬 は け っ して 戻 り草 は食 べ な い って 言 って た じ ゃ な い か!僕 は も う二 度 と あ の 生 活 に は 戻 ら な い ん だ!… … 蝦 球 是 這 様 想 的:我 到 那 里 去 呪?我 回 香 港 責 麺包 麿?眼 王 狗 子 仔 徹 小 窩 磨?到 廣 州 服 鱈 魚 頭 的部 下 蟹 王七 看 守賭 館 磨?眼 馬 專 員 的 餅 頭 洪 少 妬 倣 聰 差 磨?鴛 亜 媒 剣 艇 磨?:… … 不!不!不 回 頭 去 吃 那 口不 是 人 吃 的 飯 了! 婿 嬌 読 過:好 馬 不 吃 回頭 草,我 再 也 不 回 頭 過 那 種 生 活 了!… …(15) *(下 線 は単 行 本 で 加 筆 され た部 分 湯 山) シア チ ュウ これ 以 降 裏 社 会 を 離 れ て 、 遊 撃 隊 に参 加 す る機 会 を 探 し に 出 る 蝦 球 の シアチ ュ ウ 目 的 は まず は生 活 の た め で あ った 。 そ れ ゆ え に 蝦 球 の革 命 精 神 、 革 命 観 シ ア 念 は、 当初 、 素 朴 で、 未 熟 、 幼 稚 さが 際 立 っ もの と して記 され て い る。 蝦 チ ュ ウ テ ィ ン タ   ク   球 が 革 命 へ の参 加 を求 め て、 遊 撃 隊 の リー ダ ー 丁 大 嵜 に迫 る一 段 で は、 ま さ に 「食 え な くな った!」(我 没 吃 飯 了!)、 「食 え さえ す れ ば い い ん だ!」 (只 要 有 飯 吃 就 得 了!)、 「食 え る」(吃 飯)、 「食 え な い 」(没 吃 飯)、 「食 べ られ な け れ ば 遊 撃 隊 に入 るが 、食 べ た られ た ら遊 撃 隊 に入 らな い の?」(没 吃 飯 就 来 投 游 撃 隊?有 飯 就 不 投 了?)」 と、「食 べ る」(吃飯)こ と を め ぐ っ て 会 話 が展 開 す る。(16) テ ィン タ  ク  シ アチ ュウ サ ンシエ しか も 丁 大 寄 に同 意 を得 られ な か った 蝦 球 は、 町 で革 命 を 説 く三 姐 に シ アチ ュ ウ も(17)遊撃 隊 に 入 りた い と強 く迫 る。 裏 社 会 に は 戻 らな い と決 意 す る蝦 球 が 裏 社 会 か ら離 れ て、 遊 撃 隊 に参 加 し、 革 命 に参 加 す る道 に歩 み 出 そ う と す る プ ロ ッ トは、 新 社 会 の実 現 を 求 め 、 未 来 に向 け て歩 み 出 す こ とを 求 め る人 々 の願 い、 生 活 に 窮 す る人 々 の 願 い を体 現 す る。 主 人 公 が 行 動 す る物 語 展 開 の 舞 台 と読 者 が生 き る世 界 が 、 と もに未 来 の変 化 、 新 世 界 到 来 の 可 能 性 を志 向 す る共 通 性 を も ち、 可 能 態 と して想 定 さ れ る社 会 へ の歩 み と重 な り合 って い る の で あ る。 言 い換 え れ ば、 新 し い未 来 に 向 けて 曇 りな くま シア チ ュウ シア チ ュウ い進 す る蝦 球 と蝦 球 が 到 達 す べ き 目標 は、 読 者 が 求 め る新 しい世 界 、 未 来 の方 向性 と重 な りあ って い く。 暗 黒 を は らむ 下 層 社 会 の 今 を 描 く通 俗 性 を 基 盤 に新 時 代 の方 向 を 拓 い て い く未 来 世 界 へ の 展 望 を象 徴 す る点 に 『蝦 球 伝 』 を物 語 世 界 の基 本 的 な特 徴 の 一 端 が 読 み 取 れ る。

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シアチ ュ ウ 2.5.2永 遠 の 少 年 蝦 球 第 三 部 の 終 了 後 、 予 定 され て い た 第 四 部 『日月 争 光 』 を 未 完 の ま ま、 作 者 は 香 港 を 離 れ 、 広 東 の 遊 撃 隊 に 参 加 し、1949年 全 国 解 放 を 迎 え る が、 新 中 国 成 立 後 、 朝 鮮 戦 争 に参 加 し た作 者 は、 『蝦 球 伝 』 を 完 成 しな い理 由 を たず ね た 夏 術 に対 して 次 の よ う に述 べ て い る。 「不 思 議 な こ と に、 旧 社 会 の苦 痛 と傷 を 描 くこ と につ い て 、 私 は も う昔 の よ うに興 味 が もて な い の で す 。 私 は朝 鮮 の戦 場 で 多 くの新 しい 英 雄 的 人 物 を 目 に しま した。 私 は、 彼 らを 通 して ア ジ ア の 巨人 を 描 き た い と思 って い るの で す」と い うわ けで 、『蝦 球 伝 』は 未 完 の傑 作 に な っ た とい う次 第 で す 他 説;『 恨 奇 怪,対 干 描 写 旧社 会 的痛 苦 和 傷,我 已 経不 象 過 去 那 様 有 興 趣 了, 我 在 朝 鮮 戦 争 上,看 到 過 不 少 新 的 英 雄 人 物,我 想 通 過 他 椚 来 刻 劃 亜 州 巨人 的 興 起 。」 就 這 様,『 蝦 球 伝 』 就 成 了 未 完 的 傑 作 。(18) シア チュ ウ か く して 『蝦 球 伝 」 は永 遠 に 完 成 の機 会 を失 っ た。 干 逢 が 「蝦 球 は 彼 が 主 人 公 で あ る こ とに よ っ て、 全 体 の 筋 立 て が 貫 か れ て い る… … しか も彼 が 創 造 的 な 形 象 で あ る こ と に よ って 、 我 々 は彼 を 通 して全 書 の 中 心 の要 を っ か む こ とが で き る」(蝦 球 不 特 由於 官 是 主 人 公,是 貫 串 全 書 的 線 索 而 且 由於 他 是 創 造 的 形 像,我 佃 可 以 通 過 他 把 握 全 書 中 心 環 節)(19)と評 した シア チ ュウ シア チ ュウ よ うに、 蝦 球 は 物 語 展 開 の軸 で あ り、 蝦 球 の 成 長 が 物 語 を 展 開 す る動 力 ソ アチ ュ ウ そ の もの で あ る。 作 者 が 筆 を置 き 『蝦 球 伝 』 を 未 完 に と ど め た 時、 蝦 球 ソアチ ュ ウ の 成 長 も止 ま る。 新 時 代 の新 しい英 雄 と作 者 自 らが 語 った と い う(20)蝦 球 シア チュ ウ が 成 長 を 止 め た と き、 蝦 球 は、 新 社 会 を 待 ち望 む 可 能 態 の 文 学 世 界 の 中 に凍 結 され 、 大 人 に な る機 会 を 喪 失 した ま ま、 永 遠 の 少 年 と して、 解 放 の扉 の前 に立 ち続 け る こ と に な って しま った の で あ る。 シア チ ュウ 31956年 の 改 定 良 い 子 の 蝦 球 と 消 え た 女 性 形 象 、 最 後 の プ ロ ッ ト 3.1大 幅 な修 正 『蝦 球 伝 』 は、 作 者 自 らが 予 告 して い た第 四 部 『日月 争 光 』 を 完 成 す る こ と な く未 完 の 作 と して 終 結 され た。 しか し、1956年 思 い が け な い 形 で、

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新 た な 展 開 が 生 ま れ た。 最 終 頁 に 「1956年 修 正 」 と書 か れ た改 定 版 『蝦 球 伝 』 の 登 場 で あ る。 こ の改 定 に よ り、1947年 よ り1948年 、 た くさ ん の 読 者 を魅 了 し、 ベ ス トセ ラ ー作 品 と い い え る ブ ー ム、 論 議 を 呼 ん だ 『蝦 球 伝 』 の魅 力 の 根 源 で あ っ た多 彩 な 人 物 形 象 、 波 乱 万 丈 の 冒 険 心 に あ ふ れ た 躍 動 的 な ス トー リー に対 して、 大 量 の 修 正 が加 え られ た の で あ る。 もち ろ ん 『華 商 報 」 連 載 時 の 『蝦 球 伝 』 と単 行 本 とで は、 作 者 が 推 敲 を加 え て お り、 完 全 に 同 じで は な か っ た が 、 解 放 後 に行 わ れ た1956年 の 改 定 は、 主 人 公 蝦 球 の 人 物 形 象 、 作 品 世 界 に 大 き な質 的 変 化 を生 じ る も の で あ った 点 で 、 非 常 に重 要 な意 味 を も って い る。 そ して 、 こ の改 定 作 業 以 降 は、 この 改 訂 版 が 中 国 語 版 『蝦 球 伝 』(以 下 改 訂 版 とす る)と な っ た の で あ る。 3.2修 正 主 な 内 容 ・項 目 具 体 的 な 修 正 内容 は、 整 理 す る と以 下 の項 目 に な る。 ソアチ ュ ウ ニ ュウ ス ① 数 字:年 齢 の 引 き下 げ 主 人 公 蝦 球 、 牛 仔 の年 齢 の 引 き下 げ 旧 版16歳 ⇒15歳 、 旧版 牛 仔15歳 ⇒14歳 孤 児 院 の収 容 年 齢15歳 ⇒12歳 以 下 に下 げ る ノアチ ュ ウ 年 月 の変 更;蝦 球 の 父 親 の帰 国30年 か ら15年 (適 夷 が1948年 に不 整 合 を指 摘) ② 性 的描 写 、 女 性 人 物 の形 象; 性 に関 わ る場 面 、 描 写 の 省 略: シ アチ ュ ウ ヤ  デ ィ シ アチ ュ ウ 蝦 球 と亜 媒 の 間 の 性 的接 触 、 蝦 球 の性 的 関 心 な ど の 削 除 ラオ ミンヤ オ ワ ンフ ォ ン 遊撃隊員 労明耀 と王 鳳 の恋 愛場面 女性人物 の出身、心理 描写 の削 除、 簡略化 ア  ユ イ トウ サ ン ノエ 鰐 魚 頭 の情 婦 黒 牡 丹 の 出 身(語 り)、 三 姐 と先 だ った 夫 の 愛 ヤ  デ ィ 情 の物 語 、 亜 媒 の 内 心 の 愛 情 の告 白等 ソア チュ ウ ③ 蝦 球 の人 物 形 象 と そ れ に関 わ る描 写 の 改 変: 善 良 さ、 ま じめ さ を 強調 し、 放 将 、 盗 み 等 の不 道 徳 な行 為 や 悪 癖 の 削 除 ④ ス トー リー の削 除:革 命 、 政 治 方 針 に 関 わ る部 分: 遊 撃 隊 員 の革 命 活 動 、 方 針 、 女 性 隊 員 の活 動 、 行 為 、 待 遇 第 三 部 『山長 水 遠 』 「三 四 戦 闘 的歓 楽 」 最 終 場 面 の 削 除 ⑤ 政 治 的 な 見 解 の挿 入 、 及 び反 映 国 民 党 批 判 、 帝 国 主 義 批 判 、 遊 撃 隊 に対 す る称 賛 、 高 い評 価

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⑥ 思 想 性 を 示 す と思 わ れ る文 言 の 修 正 旧 版 「生 観 音 的 演 講 」 → 改 訂 版 「虚 涼 」 ⑦ タイ トル の 変 更:小 タ イ トル 番 号 の 削 除(新 聞 連 載 、3冊 本 か ら1冊 本 へ の変 化) 3.3改 訂 に よ る 新 た な特 徴 改 定 内容 に よ り生 ま れ る作 品世 界 の 変 化 は広 範 囲 で、 多 角 的 、 多 層 的 な 分 析 が 可 能 だ が 、特 に、作 品世 界 の基 本 分 析 に重 要 な要 素 と して 、年 齢 、性 、 ソア チ ュウ 人 物 形 象(蝦 球 、 及 び蝦 球 を め ぐる女 性 人 物)に 関 す る主 な改 訂 箇 所 を 以 下 に取 り上 げ る。 3.3.1年 齢 ンア チ ュウ ニ ュウ ス 蝦 球 、 牛 仔 の 年 齢 が 、16歳 か ら15歳 、15歳 か ら14歳 に そ れ ぞ れ 一 歳 引 き下 げ られ 、 併 せ て 孤 児 院 の 収 容 年 齢 が15歳 以 下 か ら12歳 以 下 に 引 き下 げ られ た こ とは、 作 品 世 界 の 構 築 の上 で は質 的 変 化 を も た らす 。 数 字 的 に は一 歳 の 引 き下 げ に過 ぎ な い が 、 人 物 形 象 に もた らす 変 化 は、 他 の 修 正 と併 せ て大 き く、 これ が 作 品 世 界 の構 築 に はか な り重 要 な 意 味 を もち、 ソ アチ ュウ ニ ュウ ス 影 響 す る と こ ろが 大 き い。 図13∼ 図20は 、 挿 絵 に現 れ た 蝦 球 と 牛 仔 の もっ 形 象 が 読 者 に与 え る イ メ ー ジの 違 い を示 す 一 例 で あ る。 ンア チ ュ ウ 図19と 図20で は、 蝦 球 の 人 物 形 象 が 一 目瞭 然 に わ か る。 図20は 遊 撃 ンアチ ュ ウ 隊 に入 る前 の 蝦 球 だ が 、 金 が 入 れ ば 、 仲 間 に大 盤 振 る舞 い を して しま う ソ アチ ュ ウ 蝦 球 の 親 分 肌 、 義 侠 心 を発 揮 す る性 格 を 示 して お り、 図17と 同 じ作 品 の 人 物 形 象 と は思 え な い相 違 が 浮 き彫 りに さ れ て い る。 3.3.2性 的 な 描 写 、 場 面 の 削 除 、 省 略 、 改 編 ソア チ ュウ 性 に 関 す る場 面 、描 写 の 削 除 は、年 齢 を 下 げ た蝦 球 に 関 す る もの と して 、 ソアチ ュ ウ ヤ  テ ィ ソアチ ュ ウ ソア チ ュウ 蝦 球 と亜 媒 の 間 の 性 的 接 触 、 蝦 球 の性 的 関 心 等 、 蝦 球 に関 わ る場 面 の マ  ノヤオ ナ イ サ ン ンエ ほ か、 馬 顧 問 と情 婦 黒 牡 丹 、 愛 人 少 妨 の プ ロ ッ ト、 三 姐 と先 だ っ た恋 人 ヤ  デ ィ の 愛 情 の物 語 、 亜 媒 の 内 心 の愛 情 、 性 的 な欲 求 の 内 白等 、 女 性 人 物 の 出 身 、 心 理 描 写 に 関 す る修 正 、 削 除 も多 数 あ り、 注 目 され る。 児 童 読 み 物 と して の 要 請 も さ り なが ら、 これ に よ り、 そ れ ぞ れ の 人 物 が そ れ ぞ れ の人 生 を 抱 え て 、 人 物 形 象 と して も っ て い た 個 性 、 人 物 像 の リア リテ ィ も失 わ れ、 平 ラ オ ミン ヤオ ワ ン 板 な人 間形 象 に後 退 した と言 わ ざ るを え な い。 ま た、 遊 撃 隊 員 労 明耀 と王

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図151948年 第 一 部 表 紙 逮 捕 さ れ る シアチュウ 蝦 球(17歳) 図171978年 版 表 紙 図16第 二 部 「一 三 日行 一 善 」 ニ ュ ウス 隣の紳士の万年筆を狙 う 牛 仔 図18第 二 部 「二 三 狂 瞭 的 海」 '一 」1 ' 畦' 図19第 三 部 「二 二触 髪 」 遊 撃 隊 に協 力 して 諜 報 活 動 す る 図20第 三 部 旧版 「十 難 童 之 家 」 挿 絵 の 解 説 、 「こ っ ち で 叫 ぶ:兄 貴! い っ ぱ い や ろ う!」(迭 ノト叫:「 大 嵜! 喝 一 口1」)「 あ っ ち で 叫 ぶ:兄 貴1乾 杯!」(那 ノト叫1「 大 嵜!干 杯!」)

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フ オ ン 鳳 の 恋 愛 場 面 の 削 除 等 、 明 らか に 政 治 的 理 由 と推 察 され る もの もあ る。 シア チ ュウ ヤ  デ ィ 以 下 に蝦 球 と亜 媒 の 修 正 を例 と して挙 げ て み よ う。 ヤ  デ ィ シ アチ ュ ウ 第 一 部 『春 風 秋 雨 」 の 「八 初 恋 」(旧 版)で は、 船 頭 の 娘 亜 媒 と蝦 球 の 性 的 な 関 わ りが 大 き く描 か れ て い る(図21、 図22は そ の後 二 人 の三 角 関 係 と波 乱 の 情 景 を示 す)。 (旧 版) 言 う と彼 女 は服 の 前 お くみ を め く って、 腹 部 の 白 い 肌 を 露 わ に 出 し て、 下 着 の 小 さ な ポ ケ ッ トか ら一 掴 み の金 を と りだ した が 、 す ぐに お シア チ ュウ シアチ ュ ウ くみ を 下 さず 、 そ の 視 線 が 蝦 球 の恥 ず か しげ な 目 に触 れ る と、 蝦 球 シアチ ュ ウ に 一 言 「な に 思 っ て る の?」 と 聞 い た 。 こ の 一 言 に 蝦 球 は 赤 く な っ た 。 〔略 〕 ヤ   ティ も ち ろ ん 亜 媒 は、 彼 が 彼 女 の 親 切 に 対 して 好 感 を 生 ん で い る こ と、 彼 女 の 皮 膚 に も本 能 的 に好 奇 の 喜 び を感 じ取 っ て い る こ と は わ か って シアチ ュ ウ い た が 、 蝦 球 自身 は恥 ず か しさ を感 じは じめ て い た。 な ぜ な ら彼 は、 自 分 は 英 雄 で は な く、 人 様 に金 を 借 り に来 た 貧 しい 子 ど も に す ぎな ヤ  デ ィ か った か らで あ る。 彼 は亜 媒 の 誘 惑 を受 け る資 格 が な い と感 じた。 彼 の 顔 が 赤 くな った の は幾 分 か 差 恥 の 思 い に と らわ れ た て い た か らで あ った。 〔略 〕 彼 女 は ま っ た くた め らわ ず船 の 横 窓 を ぴ っ た り引 い て 、 自分 は位 牌 ソア チ ュウ の前 に よ りか か って 座 り、 蝦 球 の 腕 を 引 っ ぱ り、 彼 女 の前 胸 の服 の ソ アチ ュ ウ 中 に 置 く と 、 思 い た っ ぷ り に 蝦 球 に 「あ た し あ ん た の 眼 が ぴ か っ て 光 っ て た の 見 た わ 、 あ た し あ ん た が 何 を 思 っ て い る か わ か っ て る 、 あ ヤ   シ エ ン ん た に ち ょ っ と 触 ら せ て あ げ る わ 。 亜 嬬 が ま も な く 戻 っ て く る わ 」。 シア チ ュウ この 動 作 で 、 蝦 球 の 心 臓 は ど き ど き した が 、 彼 は電 気 に で も触 れ た ヤ  デ ィ よ う に、 両 腕 を袖 に引 っ込 め た が 、 野 性 的 な亜 媒 は ま た 彼 女 の手 を 握 シア チュ ウ り しめ、 結 局 蝦 球 は ち ょ う ど見 目 の よ い 金 魚 の よ うに 捕 ま え られ、 も て あ そ ば れ た 。 説 罷 就 翻 起 地 的 衣 襟,a露 出 地 腹 部 的 白肌 肉,従 内 衣 小 口袋 里 淘 出一 塊 銭 来, 地 没 有 即 刻 放 下 地 的 衣 襟,当 地 的 視 綾 眼 蝦 球 的 害 差 的 眼 晴 接 触 時,地 問 蝦 球 道:

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"祢望 什 麿?"這 一 問 ,問 得蝦球瞼紅了。 〔略〕 当然 這 個 亜 媒,他 対 地 的 関 懐 発 生 好 感,b対 地 身 上 的 肌 膚 也 本 能 感 到 好 奇 的 喜 愛,可 是 蝦 球 自 己 却 漸 悦 起 来,因 為 他 自 己不 是 英 雄,而 是 一 個 向 人 借 一 塊 銭 的窮 核 子 。 他 覚 得 没 有 資 格 消 受 亜 媒 的 誘 惑 。 他 的 瞼紅,是 纏 爽 着 幾 分漸 悦 的 心 情 的。 〔略 〕 地 毫 不 猶 移 地 把 艇 労 的 横 窓 拉 密,自 己 重 坐 在 神 位 的 面 前,拉 蝦 球 的 手 放 在 地 的胸 前 的衣 服 内面,無 限深 情 的対 蝦 球 道:「 我 看 見 祢 眼 光 光 的,我 知 道 祢 想 的 。 給 称 摸 一 陣 咀,亜 嬬 快 回来 了 」。這 挙 動骸 得 蝦 球 得 心 惇 悼 跳,他 把 触 電 似 的一 双 手 抽 回 来,而 這 個 野 性 的 亜 婦 又 又 把 地 的 手 捉 住 。結 果 蝦 球 就 像 一 尾 好 看 的 金 魚 一 様,給 人 捉 住,供 人 玩 兄 弄 了 。(21) ヤ  テ ィ ノアチ ュ ウ 旧版 は、 肌 着 の 中 か ら金 を 取 り出 す 亜 媒 が 服 を下 ろ さず 、 あ え て 蝦 球 ソア チ ュ ウ に肌 を 見 せ 、 蝦 球 が 好 奇 心 と 自分 を 恥 な が ら もて あ そ ば れ る展 開 で描 か れ て い る。 しか し改 訂 版 で は、 「腹 部 の 白 い 肌 を あ らわ にす る 」(「露 出 地 ソ アチ ュ ウ 腹 部 的 白 肌 肉 」 は削 除 され 、 「蝦 球 はず っ と彼 女 を見 っ め 、 彼 女 の一 挙 一 動 に注 意 を 引 きっ け られ た」(「蝦 球 一 直 在 望 着 地,地 的一 挙 一 動 都 吸 引 着 ソ アチ ュ ウ 他 的 注 意 」)に な り 、 さ ら に 「蝦 球 を 引 っ ぱ っ て 、 彼 女 に 近 づ け 、 す ば や シア チ ュウ く彼 の 頬 に接 吻 して 、 愛 人 の よ う な 口調 で 、 親 し く蝦 球 に"私 あ ん た の ンア チ ュウ 目線 を見 て 、 あん た が 何 を思 って い るか わ か っ た わ。"こ れ で蝦 球 は び っ く り して 心 臓 が ど き ど き して し ま っ た」(拉 蝦 球 罪 近 地,迅 速 地 吻 一 嗜 他 的 瞼 頬,用 一 種 象 愛 人 似 的 口 吻 親 妃 対 蝦 球 説 道:"我 看 見 休 的 眼 光,我 知 図21第 一 部 「八 初 恋 」 図22第 一 部 「十 三 破 璃 祷 帯 第 一 功 」

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ンアチ ュ ウ 道 称 想 什 歴 。 這 一 下 骸 得 蝦 球 的 心 悸 悸 跳 。)と 改 訂 さ れ て い る。 同一 の 場 シア チ ュウ ヤ  テ ィ 面 で あ りな が ら、 蝦 球 と亜 媒 の 性 を め ぐ って 異 な る情 景 が 創 りだ さ れ て い る。 シ アチ ュ ウ 3.3.3蝦 球 の 人 物 形 象 ソア チュ ウ 蝦 球 の 人 物 形 象 で は 、 旧版 で 描 か れ た放 堵 、 盗 み 等 の 倫 理 的 に不 道 徳 と見 な さ れ る行 為 や悪 癖 と な る描 写 、 言 説 が 削 除 され 、 善 良 さ、 ま じめ さ が 強 調 さ れ て い る。 た と え ば 、 第 三 部 『山 長 水 遠 』 「二 二 触 髭 」 に、 遊 撃 テ ィン ダ  ク   サ ンシ エ ソア チ ュウ 隊 の 丁 大 寄 が 三 姐 と蝦 球 の 性 格 にっ い て 「彼 は悪 い 子 で は な い」(他 不 是 一 ノト壊 核 子)(22)では な い と して 、 特 徴 を語 り あ う場 面 が あ る。 旧版 で は、 「早 熟 で、 情 熱 的 で 」(早 熟 、 熱 情)と 語 られ た 表 現 は、 改 訂 版 で は、 「ま じめ で 、 勇 敢 で 」(老 実 、 勇 敢)(23)に置 き換 え られ 、 良 い 子 ど も像 が 強 調 され て い る。 ま た 「彼 に は少 々、 も ち ろん 、 よ くな い性 格 も あ る け ど、 ば くち と か 」(他 身 上 都 有 一 点 点 。 自 然,他 也 有 不 少 劣 根 性,如 嗜 銭 等 等) な ど、 流 浪 児 の早 熟 な 一 面 は共 通 して 記 さ れ て い る が、 遊 撃 隊 員 の価 値 観 か ら不 足 して い る部 分 を 指 摘 す る こ と に よ り、 成 長 と変 化 の 可 能 性 が 浮 き 彫 りに さ れ る叙 述 に な って い る。 以 上 の よ う に、 性 的 な 描 写 、 性 格 上 の未 完 成 部 分 は、 人 物 形 象 を生 き生 き と した 人 間 像 と して 示 す 上 で重 要 な役 割 を果 た して い る。 人 物 形 象 、 プ ロ ッ トの 削 除 、 変 更 に よ り、 物 語 の 展 開 も厚 み を 失 い、 単 調 な もの へ と転 じて い か ざ る を え な い 。 ま た 「金 が な くな っ た らど う しよ う?彼 に は、 日 ごろ か ら困 難 や 危 険 な こ とに 備 え て お く と い っ た考 え は なか った。」(銭 用 完 了 悉 広 辮 呪?他 没 有 想 到 這 個 問 題 。 他 没 有 一 点 居 安 思 危)⑳ 、 しか し、 あ れ ば一 人 占 め な どせ ず、 ば らま い て み ん な に大 判 ふ る ま い を して しま う。 義 侠 心 に あ ふ れ シアチ ュ ウ る蝦 球 の流 浪 児 ら しい放 堵 さ は、 改 定 版 で はか な り削 除 さ れ て い る。 金 を 使 い終 え た ら ど うす るか?彼 が こ う した 問題 を 考 え た こ と は な か った 。 彼 に は、 日 ごろ か ら困 難 や危 険 な こ と に備 え て お く とい っ た考 え 方 は な か った 。 彼 は数 十 円 あ れ ば、 釘 打 ち の下 駄 を 買 うに は多 す ぎ る し、 商 売 す る に は足 りな い。 一 人 で 使 え ば一 日遊 べ る が、 み ん な で い っせ い に飲 み 食 い して も使 い きれ る。 そ れ な らみ ん な で一 緒 に

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使 う ほ うが ず っ と面 白 い。 そ れ で 、 彼 は十 日 あ ま り も大 宴 会 を催 して 、 子 ど もた ち を集 め て 思 い切 り飲 み 、 飲 み終 わ る と、 そ れ ぞ れ 一 人 ず っ 自分 の 物 語 を話 させ た。 銭i用完 了 忽 腰 辮 呪?他 没 有 想 到 這 個 問 題 。 他 没 有 一 点 居 安 思 危 的 観 念 。 他 覚 得 這 幾 十 塊 鑓,釘 木 履 太 多,興 家 立 業 不 鉤 。 自 己一 個 人 花 終 有 一 天 要 玩 。 大 家 一 斉 吃 喝 也 終 会 花 完。 那 就 不 如 大 家 一 起 花 完 更 有 味 道 。 因 此,他 訳 摸 十 天 八 天 就 挙 行 一 次 大 食 会,聚 集 一 群 玩 童 痛 塊 吃 一 頓 。 吃 完 就 個 人 講 個 人 的 故 事 。(25) 金 銭 を もて ば す べ て使 っ て しま う感 覚 は、 地 道 な生 活 観 念 を もた な い 流 浪 児 の性 格 を 示 す 要 素 で あ る。 放 峙 さ を示 す表 現 の削 除 に よ り、 流 浪 児 の 性 格 は緩 和 され る。 しか も、 改 訂 版 で は、 流 浪 児 の存 在 、 性 格 、 生 活 の 背 景 に あ る社 会 的 な責 任 を 問 う視 点 を 強 め る表 現 が 新 た に挿 入 さ れ て い る。 シアチ ュ ウ ソア チュ ウ 次 の一 段 は 、 蝦 球 の 分 身 で あ り、 蝦 球 の流 浪 児 と して の 負 の 部 分 、 生 と ニ ュ ウ ズ シ アチ ュウ 死 の リス クを 負 う 牛 仔 との対 話 で あ る。 蝦 球 と と もに餓 え に耐 え か ね た ニ ュ ウ ス 牛 仔 が 、 っ い に マ ン ト ウ を も ら う た め の 物 乞 い を し よ う と 持 ち か け る 一 段 で あ る 。 第 二 部 『白雲 珠 海 」 「七 長 途 」 (旧 版) シア チ ュウ 蝦 球 は ど な っ た 「恥 知 らず!お い ら た ち は も う乞 食 は しな い ん ニ ュウ ス ニ ュ ウ ス だ!」 牛 仔 は ま っ た く お も し ろ く な か っ た 。 し ば ら く行 く と 、 牛 仔 チ ュ ウ ク   は ま た 持 ち 出 し て 言 っ た 。 「球 嵜 、 お い ら 乞 食 は し な い 、 お い ら は 絶 パオ 対 に 人 様 に物 乞 い した り しな い 。 兄 い は こ こ に居 て くれ よ。 お い ら包 ス シア チュ ウ ニ ュ ウ ス 子 二 っ 買 い に い っ て く る よ 」。 蝦 球 は 聞 い た 「お 前 の 金 は?」 、 牛 仔 は パ ン パ ン と 自分 の 尻 を 叩 い て 「こ こ に あ ら あ 」 と、 言 う と 手 を 振 っ シア チ ュウ て蝦 球 に そ の ま ま そ こ に 居 て 自 分 を待 っ よ う に合 図 して、 一 人 で 手 を振 り、 胸 を は って 茶 館 の ほ う に向 か って 行 っ た。 蝦 球 罵 道:「 不 要 瞼!我 佃 又 不 是 討 飯 的 乞 几!」 。 牛 仔 十 分 没 趣 。 ★他 伯 又 走 了 機 転,牛 仔 又 提 議 道;"球 寄,我 不 倣 乞 几,我 鉋 不 向人 家 討 飯 吃 。 祢 在 迭 里 靖 着!我 去 買丙 介 包 子 回来 吃 。"蝦 球 向,"悠 的銭 呪?"牛 仔 拍 拍 他 的 屍 股 道:"在 這 里"説 雲 他 就 揮 手 叫 蝦 球 靖 着 等 他,他 一 介 人 昂手 挺 胸 宜 向茶 館 走

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去 。(26) この 旧版 に対 して、 改 定 版 で は、aを 削 除 した 上 で、*の 箇 所 に 、 「彼 は思 った、 こ こ の と こ ろ、 お い らた ち を雇 って くれ よ う とす る人 は い な い 、 も の こい せ ず 、 盗 ま ず、 だ ま さず 、 ど うや っ て生 きて い くの か?」(他 想: 在 這 年 頭,没 有 人 肯 雇 用 我 伯 、 不 討 、 不 愉 、 不 偏 、 急 磨 活 的 下 去?。)⑳ の 一 文 が挿 入 され て い る。 流 浪 児 の生 活 手 段 は、 解 放 前 に 沸 騰 した 「蝦 球 問 題 」 の論 争 の 際 に は、 社 会 状 況 の 告 発 よ り も労 働 観 念 の な さ と して批 判 の的 に な り、 蝦 球 の人 物 形 象 が 生 み 出 す 人 間 性 を 問 う 問題 に展 開 さ れ て い った 。 しか し、 茅 盾 は、 シア チ ュウ この 時 点 で 、 「蝦 球 は小 さ い 時 か ら、 農 民 で も、 労 働 者 で も、 行 商 人 で も な か った(彼 は ほ ん の 短 い 間 、 行 商 人 だ っ た こ と は あ るが)、 な らず 者 の な か で大 き くな った。 この 点 は蝦 球 の 考 え方 、 意 識 を考 え る時 に軽 ん じ る こ と は で きな い」(蝦 球 従 小 吋 起 、 非 衣 、非 工 、亦 非 小 販 〔錐 然 他 干 過 一 個 短 時 期 的 小 販 〕,是 在 流 眠 群 中 混 大 了 的,我 以為 逮 一 点,在 研 究 蝦 球 的 ソ アチ ュ ウ 思 想 意 識 時 不 能 軽 軽 忽 略 」(「関 与 『蝦 球 伝 』」)(28)、と述 べ て お り、 蝦 球 の 人 物 形 象 と社 会 環 境 との 関 係 に注 目す る視 点 を 提 示 して い る。 シア チ ュウ シア チ ュウ 流 浪 児 蝦 球 の 生 存 と生 活 手 段 は、 蝦 球 が裏 社 会 か ら抜 け出 し、 ま っ と う な生 活 を 求 め る ほ ど矛 盾 と亀 裂 を 露 呈 す る。 しか し、 改 訂 版 で は、 流 浪 シア チ ュウ 児 蝦 球 が 倫 理 観 を 強 め 、 生 活 手 段 で あ った ス リ、 盗 み、 物 乞 い と い った 悪 習 を避 け る こ とに よ る生 存 、 生 活 と の矛 盾 と い う人 物 形 象 の 重 要 な 問 題 点 が 削 除 され て い る。 次 に挙 げ る の は、 改訂 版 で完 全 削 除 さ れ た正 義 感 、 倫 理 観 と生 活 手 段 を シアチ ュ ウ ニ ュ ウ ズ も た な い流 浪 児 蝦 球 の生 活 、 現 実 と の 矛 盾 を 牛 仔 が 看 破 す る個 所 で あ る。 第 三 部 『山 長 水 遠 』 「十 三 日行 一 善 」 (旧 版) シ アチ ュウ 彼 は蝦 球 の 気 性 を さ ぐ り あ て た。 人 の 物 や金 を 楡 む の は心 配 な い。 た だ 彼 に見 せ な けれ ば、 楡 ん で き た金 で鳥 飯 や 妙 め ビ ー フ ンを買 え ば 、 ニ ュ ウ ス 彼 は 間 違 い な く い つ だ っ て 食 べ る 、 牛 仔 の 肝 っ 玉 は だ ん だ ん 大 き く な っ て い っ た 。 他 摸 到 了 蝦 球 的脾 『 。 愉 人 東 西 銭 恨 都 不 要 累 。 只要 不 譲 他 親 眼看 見,用 愉

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回来 的銭 貢 鶏 飯 妙 沙 河 粉,他 一 概 照 吃,牛 仔 的 胆 也 就 壮 起 来 。⑳ 改 定 版 で は 、 こ の 一 段 は す べ て 削 除 さ れ て い る 。(30) シアチ ュ ウ 以 上 の よ う な削 除 、 改 訂 に よ り、 蝦 球 の人 物 形 象 に もた ら され る質 的 シ アチ ュ ウ 変 化 は 大 きい 。 しか し、 作 者 は一 部 に は 流 浪 児 蝦 球 の もっ 葛 藤 、 矛 盾 の を 残 して い る た め、 流 浪 児 と して の 蝦 球 の成 長 物 語 の生 み 出 す あ る種 の リ ア リテ ィ は、 か ろ う じて 保 持 さ れ て い く こ と に な る。 3.3.4女 性 形 象 の 改 定 消 え た女 性 形 象 前 述 の よ うに 、1956年 の 改 定 に よ り、 物 語 世 界 の 特 色 と して 高 く評 価 さ れ て い た 庶 民 の世 界 、 下 層 社 会 の 群 像 を描 い た人 物 形 象 が 大 き く変 容 し て い る。 これ に よ り作 品 の 内容 、 完 成 度 も著 し く変 化 し、 作 品 世 界 の 創 造 に明 確 な 変 化 を与 え て い る。 具 体 的 に は、 作 者 が 旧版 で 描 き、 読 者 の 心 を と らえ た 大 衆 の生 命 力 、 人 生 の悲 惨 さ、 遊 撃 隊 員 の 日常 生 活 や 人 生 の 描 写 ソア チュ ウ は、 改 訂 に よ り多 くが 削 除 さ れ た 。 特 に、 蝦 球 を め ぐり登 場 す る女 性 像 、 ヤ  デ ィ サ ン シエ 黒 牡 丹 、 亜 媒 、 三 姐 の 変 化 は蝦 球 と並 ん で と りわ け大 き く、 多 くの意 味 で 重 要 な修 正 点 で あ った と思 わ れ る。 具 体 的 に は、 出身 、 内 的 心 理 描 写 の 削 除 、 簡 略化 な どが そ の 改 定 対 象 で あ る。 以 下 、 こ の作 品 の 本 来 魅 力 と され て き た豊 か な 人 物 形 象 、 個 性 、 そ れ に よ る物 語 世 界 の広 が り、 奥 行 きを 変 化 させ て、 や せ 細 った 作 品 へ と転 じた 面 を取 上 げて み る。 【黒 牡 丹 】 ソア チュ ウ ア  ユ イ トウ 蝦 球 た ち を支 配 す る裏 社 会 の 頭 目の 一 人 鰐 魚 頭 の 情 婦 黒 牡 丹 は、 利 用 ア   ユ イトウ され る立 場 に置 か れ な が ら、 自 己 利 益 だ け を 図 る鰐 魚 頭 に 心 を 開 き、 精 神 的 なっ な が り、 愛 情 を 求 め な が ら、 難 破 船 か ら脱 出 した救 命 ボ ー トの上 で 、 ア   ユ イトウ 邪 魔 者 と して い と も簡 単 に鰐 魚 頭 に よ って殺 され る。 子 ど もの と き か ら仕 ア  ユ イ トウ 込 ま れ た ア ヘ ン詰 め の 腕 を買 わ れ 、 鰐 魚 頭 に褒 め そ や さ れ 、 自 らの存 在 を ア  ユ イ トウ 認 め て くれ た 鰐 魚 頭 だ け に心 を許 し、 打 ち解 けた 思 い で、 自 らの 出 自を 語 ア   ユ イ ト ウ る黒 牡 丹 と鰐 魚 頭 の 出 会 い の場 面 は、 裏 社 会 、 下 層 社 会 に流 さ れ な が ら、 はか な く生 き る女 性 形 象 を 描 く上 で 、 重 要 な一 段 で あ る。 「私 た ち 女 は 、 あ ん た が た 男 の よ う な た く さ ん の 能 力 は な い か ら、 一 た び ご飯 を 食 べ る と な る と、 容 易 な こ と じ ゃ な い わ 。 私 は14の

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