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光子と格子をつなぐ嚆矢 - 量子相互作用の対称性

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光子と格子をつなぐ嚆矢

-

量子相互作用の対称性

A sign of the beginning for connecting photons and lattices - symmetry in quantum interactions

九州大学マス・フォア・インダストリ研究所

(IMI, Kyushu Univ.)

若山正人

October 7, 2018

1

はじめに

本概説講演でお話しする量子相互作用モデルは, 2つの量子調和振動子が非自明に相互作用するような結合模型として 導入された非可換調和振動子(Non commutative harmonic oscillator)および, 量子ラビ模型(quantum Rabi model)

とその物理的にも意義深い一般化とされている非対称量子ラビ模型(asymmetric quantum Rabi model)である. 前者 は,直接的には物理現象(量子相互作用)の記述のために導かれたものではなく,いくつかの数学的な関心; i)システム で与えられたHamiltonianの最低固有値のsymplectic幾何構造を踏まえての解析的評価,ii) ガウスの超幾何に代表さ れるものよりは弱いが幾分かの対称性を持ち得るシステムの構築,あるいは似ているが iii)素朴な意味での連立(相互 作用)“弱”不変モデルの例示(,加えてiv) かなり怪しい考えが先立ちすぎているが,双子素数の分布に対するこれま でにない一つのアプローチの提案?)などから導入された数学モデルである.じっさい現時点でも,非可換調和振動子 は具体的な物理現象を記述するモデルとして定式化されている訳ではない. 一方,量子ラビ模型は,量子コンピュータ の構築など量子情報科学への応用の原点となるものとして近年活発に研究がなされている量子光学(実際,光と人工原 子の物理を扱うと言う意味では,量子電磁力学(QED)や共振器QED: 自然界における原子と光の相互作用はQEDで 説明される)における最も基本的なモデルとされている.

図 1: Courtesy of APS/Alan Stonebraker in [Sol11] (2011): 量子ラビ模型は,光と物質との最 も簡単な相互作用を記述.図は,2準位原子と量子化 された単一光子との相互作用のイラスト. 次章では,非可換調和振動子と量子ラビ模型・非対称量子ラビ模 型の研究において,講演者がこれまでと今後目指したいことにつ いて紹介できればと思う. それにより, 講演のタイトルに共感して いただけるとありがたい. なお, 引用文献については偏りを感じな がらも,全体にわたり詳細につけることにした*1.それには二つの 理由がある:一つは,量子光学の課題における本講演のようなアプ ローチを通して, 未知の数学テーマが見出し得ることを知っていた だきたいこと.二つめは,それらのスペクトルの母関数に目を向け れば,統計力学における分配関数を持ち出すまでもなく,保型形式 などとの非自明な関係から文献に挙げるような数論の論文が参考に なるかもしれないと思うからである.実際,非可換調和振動子のス ペクトル研究はこのことを強く示唆している.なお,非可換調和振動子についての文献は講演者に関係するものが多い. 残念だが,おそらく非可換調和振動子はあまりに研究感染力が弱く,上記のような観点や興味が広がらなかったことが 原因である.また,10年以上に亘る講演者の研究活動低下にも かだがその理由があるかもしれない.この概説講演 が,量子相互作用の対称性・表現論に関して,皆様にすこしでも関心を持っていただける機会となれば望外である.

Partially supported by JST CREST Grant Number JPMJCR14D6, and Grand-in-Aid for Scientific Research (C) JP16K05063

of JSPS, Japan.

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2

問題意識から

本節では講演の詳細概要に代えて,講演者がこれまで抱いてきた問題意識のいくつかと,今後取り組みたい, あるい はどなたかが興味を持って考えてくださると有り難いと思う課題(小さなopen problemsや予想)について,それらの 位置付けとともに内容の概略を述べることにする.記号等の定義や必要な前提条件等の詳細は後の節で補うつもりであ るが,それらがなくても容易に想像できる範囲での記述にしたい.

2.1

NCHO

2.1.1 NCHO導入の動機 非可換調和振動子(以下NCHOと記す)の導入は,論文[PW01, PW02*]においてである.私の動機は,SL2(R)の oscillator表現などの群論的対称性よりは少し弱い程度の対称性を持つようなシステムを構成したいこと,さらには,そ れに付随するスペクトルゼータ関数が,リーマンゼータの類似・拡張になっているようなものを作りたいことにあった. したがって,oscillator表現のある種の変形を考える必要があった.一方で,一緒に議論を重ねたAlberto Parmeggiani

氏の関心は,(擬)微分作用素の最低固有値のmicro localな手法での下からの評価の研究であった.単独の(擬)微分作 用素の場合には, H¨ormander, Melin, Fefferman-Phongなどの名を冠する種々の知られた評価の研究があったが,シス テムの(擬)微分作用素を考えるとかなり様相が異なる例がH¨ormanderにより知られていた.そのため,それらを体系 的に研究するための良い例を欲していた.そこで定義されたのがNCHOである.定義は,sl2(R)のoscillator表現と 2次元自明表現のテンソル積を考え,それに二つの実パラメーターを入れ変形した自己随伴作用素である(詳細は3章). Q = ( α β ) ( 1 2 d2 dx2 + 1 2x 2 ) + ( −1 1 ) ( x d dx+ 1 2 ) . 定義のなかにあるパラメータα, βがある種の正値条件を満たすときにはそのスペクトルは離散的である.そこでそのス ペクトルを連分数展開を用いて研究したのが[PW02*]である.然し乍ら,この実解析的手法による固有値の記述は,固 有値の重複度が3以下であるという結果などは得られたものの,総じて言えば,わからないものをわからないもので記 述するという域を超えるものではなかった.一方で,早くからこの問題について興味を持ってくださっていた落合啓之 氏はこれを複素解析的に捉えた[O01*].Heunの微分方程式と結びつくというまさしくの指摘であった(Gaussの超幾 何の範疇を超えた!).さらに,その多項式解についても研究がなされた[O04*].これらは後に述べるように,現在の 量子ラビ模型の研究に講演者も導く一つの契機となる.ここまでの体系的な紹介と(擬)微分作用素に関する研究につ

いては[Par10*, Par14*]を参照されたい.また最低固有値の重複度が1であることも,ようやく最近になり[W13*]で

与えた判定基準を確認することにより[HS14]で示された([HS13]も参照).なお,NCHO は何かの物理現象が背景に あるモデルではなく,あくまで数学モデルでしかない.一方で,後述する量子ラビ模型の(もちろん2photonsに対す る)一般化には,そのHamiltonianがNCHOに似ているものもある.Daniel Braak博士によれば,NCHOに従う物 理モデルが存在する可能性は十分にあるとのことである. 2.1.2 スペクトルゼータ関数とその特殊値 ともかく,スペクトルの具体的な記述は難しい.前節に述べた[PW02*], [O01*]にしても,述べ替えに止まっている. 確率微分方程式からのアプローチ[Ta09]も試みられたが,具体的記述には進まなかった.他方,固有値の総体を捉えれ ば,興味ある性質が浮かび上がるのではないかと常に考えていた.それが,当初より目指していたNCHOのスペクト ルゼータ関数ζQ(s)の研究である.しかし,NCHOの熱核が明示的が得られないことから容易ではなく,その解析接続 は,熱核のトレースのある種の表示を用いて原点における漸近展開を(長い長い)計算を実行し,漸く得ることができ

た[IW05a*]という次第.(この研究に不可欠な命題が示されているtwin 論文[IW05b*]と合わせると 100ページを超

(3)

示したような精密なことは言えない.(今の所,解析接続の方法はリーマンゼータのように沢山ある([Ti51])訳でなく, ここでの方法が唯一である.)得られた結果は,リーマンゼータの場合に似ており,負の偶数点において(Γ(s)−1から 生ずる)自明な零点を持ち,s = 1に単純極を有する.留数は明示的に求まるので,固有値の個数に関する Weyl lawも 導かれる.もちろん,パラメータが一致するときにはNCHOはoscillator表現に自明表現をテンソル積しただけのも のであるから,このスペクトルゼータ関数は本質的にリーマンゼータζ(s)となっている.解析接続をした全複素平面に おいてもζQ(s)ζ(s)の変形(α/β-analogue)になっている.その意味で,解析接続に現れる係数(漸近展開の係数の 和として得られる)は,Bernoulli数の一般化と思うことができる([Sug16*]も参照).ζQ(s)については関数等式やオ イラー積は期待できないが,正整数での値を求めることで,関数等式に代わる何か非自明な情報が得られないかと考え て,その研究を行った[IW05b*].たとえばζQ(2)の表示などには,合流型 Heunや楕円関数が見え隠れしていた.こ れを推し進めたのが[O08*]である.実際そこでは,特別なパラメータの時のみで成立するガウス型の超幾何関数3F2 と2F1を結ぶ Clausen 恒等式や2F1のPfaffの公式などの公式を用いて,ζQ(2)が楕円関数で明示的に表された.結果 自身もさることながら,このようなClausen恒等式が使える場面が現れることの不思議さは印象的であった. 2.1.3 特殊値と保型形式

一方で,[IW05b*]の議論の中で得られていた漸化式は,かつてRoger Ap´eryが,ζ(3)(とζ(2) = π2/2の無理数性

を示す際に用いた Ap´ery 数のみたす漸化式に酷似していた.上記の落合論文の結果の再証明とζQ(3)のガウス超幾何 関数による表示とともに,その漸化式の解(Ap´ery-like数と呼ぶ.ある種の正規化が必要だが,本質的に有理数である)

がみたす, Ap´ery数同様([Beu85, Beu87, CCC80*, Cow80, OP01])の,素数pの冪を法とするある種の強い合同関係

のいくつかを示すとともに,予想を提出した [KW06*].この予想については,Long-Osburn-Swisher[LOS16*]により 肯定的に示された.

さらに,ζQ(2)に対するAp´ery-like数の母関数が満たす微分方程式がrational 4 torsionを持つ楕円曲線の普遍族に

対するPicard-Fuchs方程式であり,この族のparametertを古典的なLegendre modular関数λを用いt = λ(τ )と書い

たとき,母関数はΓ0(4)に関する重さ1のmodular formであることも判った[KW07*].これは,Beukers[Beu83*]の

仕事に触発されて行ったものである.他方これは,Zagier[Zag09*]が異なる動機で行ったAp´ery-like数(論文[Zag09*]

のタイトルにあるAp´ery-like数は, [KW06*, KW07*]とは別物である)に関わる分類リストの19番目にもあたってい た. 他方Beukersは,より高次のζ(2n + 1)の無理数性の証明を目指して,ζ(2)と楕円曲線族との関係の一般化とも考 えられるζ(3)K3-曲面のモジュライとの関係を得ている[BP84]. この研究のζQ(3)-版や,さらには一般のζQ(n)と (例えば)Calabi-Yau多様体などとの関係は,想像をするのみで全く判っていない.ただし後年Beukers自身は,彼の 方法ではζ(2n + 1)の無理数性の証明は無理であると結論づけている. 一般のζQ(n)の積分表示については,熱核の跡の計算に自然に現れ特殊値に深く関係する量の行列式表示([IW05b*]:

Appendix)を利用して木本[Ki10*]により得られた.この表示により,特殊値のfirst anomalyと呼ぶべきものに対し

て,ζQ(2), ζQ(3)と同様に(高次の)Ap´ery-like数と呼ぶべき数列が掴まり,それらが規則的で階層的な漸化式の族を与

えることが判った([KW12*, KW17]では,若干の定義の変更を行った).技術的困難から未だζQ(4)に止まるが,対応 する母関数がEichler forms (automorphic integrals [Eich57, Leh69])の拡張として捉えらてることを[Ya08*]の議論 を拡張することで示した[KW12*](計算は[Bern75*, Shi11, Leh72]を参考にした). また,その過程においては Eichler

コホモロジー群の拡張も自然に定義される.ただし,拡張されたEichler formsの空間の次元等を決めるために必要な コホモロジーの消滅については(Bol[B49]の公式を踏んだ)[Gun61*, KLR09*, KR10]などの議論を克明に追えばよ いと思われるが,依然不明のままである.また,これらのAp´ery-like数からはζ(n)への収束列が構成できる.ところで

先のBeukersの一連の研究では,高次の特殊値ζ(n)に対応するAp´ery数がの満たす漸化式(あるいは母関数の微分方

程式)の階数はnであり,しかもnに関し階層的な構造もない.その意味で,NCHOのスペクトルゼータ関数(の特殊 値を通じて)の研究のリーマンゼータの(特殊値)研究([Ti51, Ku09]などを参照)への寄与も少し期待できると思う.

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2.1.4 Ap´ery-like数のmeta母関数とMahler測度 いわゆる(対数的)Mahler測度m(P )は,多変数のLaurent多項式P に対して次のようにトーラスTn上の積分で 定義される. m(P ) := ∫ 1 0 · · · ∫ 1 0

log|P (e2πiθ1,· · · , e2πiθn)| dθ

1· · · dθn.

Mahler測度はL-関数の特殊値と関係することが知られている.例えばm(1+x+y +z) = 2¥7pi2ζ(3), L(χ, s)をコン

ダクター3の2次指標χに対するDirichlet L-関数としたとき,1981年にC. Smythが示したm(1+x+y) = L′(χ,−1)

([Smy08])などである. そのようななか,[RV99*]においては保型形式の観点から,楕円曲線のL-関数の特殊値とMahler

測度との関係が論じられた.

一方で,先に述べたように,特殊値ζQ(n)から現れるn次のAp´ery like数の漸化式(あるいは対応する母関数のみた す微分方程式)が階層的であることから,それらの母関数の母関数(meta 母関数)が,超幾何微分方程式を満たすこと も導かれる.したがって,その(超幾何関数としての明示的な)積分表示も得られる[KW12*].

上記の二つの事実を組み合わせると,NCHOのスペクトルゼータ関数の特殊値から定義されるAp´ery-like数の謂わ

ば meta generating functionの(ある)特殊値が Mahler測度を用いて表示されることが判る.一方で,[LSW90*]に

見られるように,ある種の離散力学系 (or C∗-action) のエントロピーがある種のMahler測度で記述できる. いったい,

NCHOの背後には,何かしらの離散力学系が潜んでいるのであろうか?

2.2

QRM/AQRM

ラビ模型とは,1937年の論文[Rabi37]においてIsac Rabiにより光と物質の相互作用を記述するモデルとして定式 化されたものである.それは準古典的モデルであったが、その後,JaynesとCummingsによりphoton 部分も量子化 され,量子ラビ模型(以下QRMと記す)が定式化された[JC63].Hamiltonianの形だけ書いておくと(詳細は4章)

HRabi = ωa†a + ∆σz+ gσx(a†+ a).

しかしながら,量子ラビ模型は積分可能系であるとは期待されず,最近になるまで,そのRWA (回転波近似)としてて 定義されたJaynes-Cummings模型[JC63] HJC= ωa†a + ∆σz + g(σ+a + σ−a†). (σ± := (σx± iσy)/2) が実験的にも十分に満足できるモデルだと考えられていた. 実際,これは次のIHamiltonian HJCと可換である. I := a†a +1 2(σz+ 1). このことから可積分性が従う.なお,Jaynes-Cummings模型においては固有状態は明示的に記述できる. ところが,実験技術が飛躍的に進み([HR08, Fur08] などを参照. [Hir17]には,数学者にもわかりやすい解説がある) いわゆる強結合状態(Hamiltonianレベルで言えば,パラメータたちの関係の大小)においてはJaynes-Cummings模 型では実験結果と理論の整合性が取れない状況が現れて ([Nie10]),自然にQRMに向き合う状況が生まれた.そのよ うな折に,いわばブレークスルーとされる研究が現れた.Rabiによる定式化の後70年余り不明であった解析的解の存 在を記述してQRMの可積分性を示したBraak[Bra11*]による結果である. (その意義は,この論文発表直後に[Sol11] で紹介されている.最近の関連する進展状況については, 昨年, Rabi の記念的論文出版後80周年を記念して出版され た[BCBE16*]を参照. 実際, 近年の量子情報技術,特にゲート型の量子計算機の実現への期待に沿っているのであろ う,QRM およびその一般化についての研究は大変盛んである.[BZ15, Z-L14, F-F18]などを参照.)

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2.2.1 QRMに出会う

QRMをそのHamiltonianの形まで知るという意味できちんと意識したのは,[IW05a*, IW05b*]の共著者である一

瀬孝氏や九州大学数理学研究院の松井卓氏のおかげである.NCHOのHamiltonianとQRMのHamiltonianの類似性 ゆえのことであった. しかし,NCHOの方がスペクトルを知るにはおそらくより難しいとのことであった. そのことが ずっと気にかかっていた.

一方で,NCHOのHeun ODE等の正則解の存在による読替えという落合氏の結果も気がかりであった.落合氏が発

見したquasi intertwinerを吟味することで,even parityに対してもNCHOの固有値の存在とHeun ODEの(ある複

素領域における)正則解の存在の同値性が得られたが,それを通じ,oscillator表現のみでなく一般の非ユニタリ主系列 表現でNCHO(のパラメータ変形)からある種一般的なHeun ODEが現れることが見つかった.その中で,NCHOの 変形からくるパラメータおよび表現のパラメータをうまくまとめ,当該Heun ODEの無限遠における確定特異点に他 の確定特異点を合流させることにより,QRMのconfluent Heun描像が得られることが判った[W16*]. もっとも,こ の事実は証明されたというものの,双方のHeun描像を通して示されただけで,モデル間の真の関係を明らかにしてい るわけではない.今後の研究が待たれる. 2.2.2 QRM QRMのスペクトルに群論的記述は可能であろうか? これが最初の問いであった.少なからずの期待はあるが,なお 多くは不明である.先の述べたように,NCHOを起源とするsl2 の普遍包絡環U (sl2)の2次の元Rの非ユニタリ表現 の像を踏まえつつ合流操作を経てQRMを得た訳であるが,その2次の元そのものを合流するという手続きは存在しな い.つまりU (sl2)の別の2次の元Kを新たに定義すれば,QRM の固有値問題を対応する表現空間におけるKの作用 による固有値問題と捉え直すことができる[WYT14]ものの,R → Kなる標準的手続きがあるわけではない. 一方で,QRMの固有値は例外型と呼ばれるものと正則型と呼ばれるものがあり,前者はさらに Judd 型(固有関数 が“多項式”)と非Judd型に分かれる(非Judd型の例外固有値を最初に発見したのは[MPS13*]である. [Bra11*]時 点ではその存在は認識されていなかった).たまたまであるが,このJudd 型固有値は退化固有値[K85*]となっている.

他の2種類は非退化である.これらの固有状態は,上記の枠組みでsl2の表現空間として実現すると,Judd型は有限次 元既約表現,非Judd型はlowest weightを持つ既約表現,正則型は非ユニタリ主系列表現で捉えられ, その意味では, 固有値と sl2の表現は対応していることになる.なお,次節に述べる非対称量子ラビ模型に対しても同様な分類が可能

である[W17*](詳細は[KRW12*]も参照).

2.2.3 AQRM

QRMのHamiltonian HRabiに振動項 εσx を付け加えたモデルを非対称量子ラビ模型 (Asymmetric QRM;以下

AQRM)という.つまりその Hamiltonianは

HAQRMε := HRabi+ εσx

で与えられる.たとえば[Lar13]において,AQRMは,相互作用によって熱平衡に到達する物体の研究という文脈で現 れている.このAQRMは,実際に回路量子電磁力学 (circuit QED)における超伝導量子ビットを使った実験では,よ り現実的なモデルと見なされている([FYKS18*]などを参照).

これは,最初generalized QRMと呼ばれ[Bra11*]において定義された. その後driven QRM,biased QRMなどと

称されてきたが,最近はAsymmetric QRM (AQRM)で統一されつつある.このAQRMは下述のように(実験も通し て)物理的にも意味があるが,[Bra11*]では,QRMの退化固有値を,あたかもdesinglarityする・退化を解消するた めにパラメータεを導入しているが如くに見えた.実際,AQRMはそのHamiltonianの定義からQRMにあったZ2

-対称性が壊れるため固有値は退化しない(エネルギーのlevel crossingは起こらない)はずであると考えられていた.

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値結果が出た.それは,Judd型(quisi-exact solution[Tur88*]に対応する)固有値を制御する2変数多項式(constraint 多項式: QRM のHamiltonianにある(本質的)パラメータ二つの多項式であり, εに依存というものに対して,次数が 異なる二つのconstraint多項式に共通根が存在することが発見された.これは,constraint多項式の整除性と商の正値 性という形に述べることができるので,ε = 12 のときは,特段の工夫もせず丁寧に計算するだけで証明ができ,さらに εが半整数のときにも同様のことが成立するだろうという予想を得た[W17*].(この予想は[KRW12*]において解決で きた.また,この予想はconstraint多項式の整除の詳細なメカニズム解明に繋げる形に一般化できる[RBW17*]. この 一般化された予想は,[KRW12*]での議論を拡張することにより,Reyes-Bustosの学位論文[RB18*](九州大学)で解 決された.なお,この2変数多項式は漸化式により定まるものであるが,ある先からは直交多項式を定めることが判る. 研究したくなる興味深い多項式の族である.)ところで先に述べたように,スペクトルに退化が起こるということは何か の対称性があることが予想される.Hamiltonianレベルではεが半整数であっても対称性はなんら確認できない.隠れ た対称性が存在するかどうかの問題である[Ash17, Bra17, SK17*]. 2.2.4 QRMAQRMの固有値分布に関する予想

QRMの固有値に対しては,以下のようなBraak予想がある [Bra11*].Braakの研究は,いわゆる正則な固有値

(Judd固有値以外)をおこなったものである.(ただし,下記の予想には影響を与えないはずであるが,若干のmissing pointがあり,それについては[KRW12*]で全てが整合的な記述になるように定義から改めた). そこでは,G-関数とい う,その根xが実質的に固有値(λ = x− g2/ω)を与える超越関数が定義されたことがポイントである. Conjecture 2.1 (Braak 2011). 閉区間[nω, (n + 1)ω] n∈ Z≥0に存在するQRMの固有値は0か1か2個.さらに, 2個の根が存在する閉区間[nω, (n + 1)ω]に隣接する閉区間における根の個数は1以下である.同様に,根が存在しな い二つ以上の閉区間が隣接する場合はない.

QRMのスペクトルゼータ関数ζQRM(s)(正確にはHurwitz型のゼータ)については,[Sug16*]が[IW05a*]と同様 な方法で,その具体的解析接続を与えた.NCHOの場合と同様にs = 1でのみ単純極を持ち,その留数情報からQRM

の固有値の個数分布に関するWeyl Lawも従う.この結果は,Braak予想をサポートする結果である.NCHOの場合

には,[IW07]において,Weyl lawより詳細な固有値分布情報が得られているが,min-max定理を用いた議論のため,

QRMに適用してもBraak予想の解決には至らない.また,最近の[MZ17*]において,大きな固有値の振動具合が調 べられていて興味深いが,この結果も直接的には予想の解決はもたらさないように思われる.

少し見方を変え,講演者は隣接する固有値に関して下記に述べる二つの予想*2が成立するものと考えている.この予

想を聞いたBraak氏は,同僚の Dr. Dzierwaza (Augsburg Univ.) による計算例を参考にと送付してくださった.ま た,この予想に関しては,九州大学のDr. Linh Nguyenが精力的な数値研究に取り組んでいる[Ngu18].

Conjecture 2.2. QRMの固有値の全体を λ0< λ1≤ λ2≤ λ3… とする. 非負数α≥ 0に対して MN(α) : = #{n ≤ N : (0 ≤)λn+1− λn < x}, α0: = sup n {λn+1− λn} > 0, と定義する.このとき,区間[0, α0](Braak予想が正しければα0 = 2となる) に正値の密度関数(あるいは確率測度) p(x) = p(x, ε, g, ∆)が存在して lim N→∞ MN(α) MN(α0) = ∫ α 0 p(x)dx が成り立つ.AQRMに対しても同様の予想が成立する.ただし, εが半整数でない場合には,Braak予想も含めて区間 の幅を若干修正する必要がある.

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大きな固有値に対する漸近挙動[MZ17*]からは,この密度関数が三角関数を用いて表される期待も持てるが,正確に はわかっていない.ただし,上述したεが半整数のときの隠れた対称性の有無に関連して,次が予想される.

Conjecture 2.3. AQRMに対して Conjecture 2.2が成立すると仮定する.このとき密度関数 p(x, ε) が対称となる のは,εが半整数のときであり,またそのときに限る. Remark 2.4. もちろん,p(x)が具体的に求まれば,Conjecture 2.3の成否は明らかになる.なお,QRM,すなわ ち ε = 0のときの対称性は,たとえば以下からもおおよそが読み取れる [Ngu18](計算には,もちろんtrancated Hamiltonianを用いている). 0.5 1 1.5 2 2.5 10 4 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 H+ with g=1, ω=1, ∆=0.5, 0.6, ...1.5 n λn+1 −λn さらに,parityのそれぞれに対して計算したものが以下である:両者を加えれば,上記のような頂点が一つの対称形 になっていると考えられる. 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3 0 2 4 6 8 10 12 14 f( ) f( ) corresponding to N N=104 N=2.104 N=3.104 N=4.104 N=45550 実際,Conjecture 2.3の成立は,εが半整数のときのAQRMの対称性の存在が,こうしたレベルにおいて漸く一部 確認できるものである可能性を示唆している.(上記のグラフからも,parityによる対称性が窺える.) 2.2.5 QRMの熱核 QRMに限らず,物理系の研究において熱核を知ることは最重要である.実際,最も知りたいのは自己随伴作用素

Hを系のHamiltonianとしたときのユニタリ作用素exp(−itH)である.この作用素はexp(−βH) (β > 0)を解析接

続して得ることができる.もちろん,このexp(−βH)自体も重要であることは,それが統計力学において系の微視的 状態を表現する統計集団の一つであるいわゆる正準集団に対する統計的作用素であり,kをBoltzmann定数としたと

きに温度T = β−1/kにおける物理を支配するからである.Stoneの定理により,時間発展を記述するユニタリ作用素

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できれば,時間依存する相関関数も計算できることになる.たとえば< u(t)|u(0) >=< exp(−itH)u(0)|u(0) >は実験 室で直接に測定できるものである. 今,QRMの熱核をKQRM と記す.つまり,全てのt > 0に対して∂t∂KQRM(t, x, y) =−HQRMKQRM(t, x, y)が成 り立ちlimt→0KQRM(t, x, y) = δx(y) (x, y ∈ R)を満たしている.このときスペクトル写像定理により,コンパクトな 台を持つ微分可能な関数ϕ(y)に対して, e−tHQRMϕ(x) = −∞ KQRM(t, x, y)ϕ(y)dy

が成り立つ.つまり,Boltzmann因子exp(−βE(µ))E(µ)は状態 µのエネルギー)の跡として定義されるQRMの 分配関数ZQRM(β)ZQRM(β) := Tr[exp(−tHQRM)] = ∑ µ∈Ω exp(−βE(µ)) と与えられる.ここでΩは可能な全ての状態を表す.しかし,多くの物理学者の関心がありながら,QRMの熱核は未 だ求められていない.現在講演者は,Trotterの公式を出発点に据えてRyes-Bustos 氏とこの問題に取り組んでおり, 明示的表示を得る最終段階に入ったと考えている.もっとも,本表現論シンポジウムまでに最終的な答えが得られるか どうかは微妙である[RBW18]. 2.2.6 QRMAQRMのスペクトルゼータ 熱核KQRMが求まると,スペクトルゼータ関数の解析接続は,[IW05a*, Sug16*]とは別の,より直接的手法でなさ

れる.実際,Hamiltonian HQRMの複素冪はexp(−tHQRM)のMelin変換として

HQRM−s = 1 Γ(s) 0 ts−1exp(−tHQRM)dt. と表示される.QRMは,下に有界であるが負の固有値も持ち得るので([Sug16*]) Hamirutonianを定数だけシフトし たものを考える:HQRM,τ := HQRM+ τ .こうすると, Hurwitz型のスペクトルゼータ関数ζQRM(s; τ )は,分配関数の Melin変換として次のように表示される. ζQRM(s; τ ) = Tr[HQRM,τ−s ] = 1 Γ(s) 0 ts−1Tr[e−tHQRM,τ]dt = 1 Γ(s) 0 ts−1ZQRM(t)e−tτdt. 一方で,保型形式はMellin変換によりL-関数を与えるが,この対応は表現論が数論において重要な役割を果たしてい る一つの基本的な理由でもある.たとえば, 関数等式は特別な群(e.g. Fucks群などSL2(R)の離散部分群)の作用で不 変であることから従うなど,である.簡単な例として量子調和振動子H :=−dxd22 + x2+ 1 2 (簡単のために 1 2 だけシフ トしたもの)を考える. よく知られているようにこのときHの固有値は自然数全体Nに一致する. したがって,分配関 数はZ(t) :=n=1e−tn = et1−1 となり,スペクトルゼータ関数はリーマンゼータζ(s)そのものである. ガンマ関数の 積分表示から a > 0 のときa−s = Γ(s)−10∞ts−1e−tadt なのでa = n∈ Nとすればζ(s)Z(t)のMellin変換で表 されるが,a = n2(n∈ N)としてss/2に置き換えれば, ζ(s)Jacobiのテータ関数θ(t)による Mellin 変換表示 が得られる. 後者は保型形式とL-関数の対応の典型例である.QRMのスペクトルゼータ関数に関数等式を期待するこ とはできないが,特殊値とは分配関数のモーメントであるとみなすこともできるので,特殊値の全体の情報から分配関 数の情報が得られることは期待しても良いはずである.

3

非可換調和振動子

非可換調和振動子(Non commutative harmonic oscillator: NCHO)は以下で定義される(常微分方程式系)である.

Q := ( α β ) ( 1 2 d2 dx2 + 1 2x 2 ) + ( −1 1 ) ( x d dx+ 1 2 ) (α, β ∈ R).

(9)

Qα, β > 0, αβ > 1のとき,空間C2⊗ L2(R)上での自己共役作用素となり, 正の離散スペクトル

0 < λ0< λ1<· · · < λn <↑ ∞

を持つ([Par10*, Par14*]). 先述のように,これは1998年にA. Parmeggiani氏と講演者により導入された. α = β

ときは, 二つの調和振動子の組とユニタリ同値となり,{√α2− 1(n +1

2)| n ∈ Z≥0}を重複度2の固有値として持つ.

一般にα ̸= β のときのNCHOのスペクトル解析は困難である. しかし, NCHOのスペクトルゼータ関数をDirichlet

級数 ζQ(s) = n=0 λ−sn (ℜs > 1) で定めると,これは全複素平面に有理型関数として解析接続されs = 1のみを極に持つ. また, ζ(s)と同様に負の偶数点 で自明な零点を持つ([IW05a*]). さらに, ζQ(2), ζQ(3), ζQ(4)から自然に定まるAp´ery数の類似物が現れ,保型性や楕 円曲線との関係が示されるなど,豊かな性質を有することが分かっている([KW06*], [KW07*], [LOS16*], [KW12*]).

3.1

Heun

の微分方程式

NCHOのスペクトル問題Qφ = λφは, 4つの確定特異点w = 0, 1, αβ,∞を持つHeun型ODE[SL00*, Ron95]の,

ある複素領域上の正則関数解の存在と本質的に同値であることが[O01*]で初めて示された. 実際,次の定理のうち, 奇 関数の方は[O01*]によって得られた. 偶の固有関数には,Heun(の2階分)+1階分の3階の微分方程式が必要であっ た.一方,偶奇のparityにどうしてこのような不均衡な状況があるのか,著者である落合氏も抱いておられた疑問で あったが,実解析的なアプローチからみてもそのアンバランスは考え難く違和感を持ち続けることになった. Theorem 3.1 ([O01*, W13*, W16*]). 次の線形同型写像が存在する: Even :{φ∈ L2(R, C2)| Qφ = λφ, φ(−x) = φ(x)}−→∼ {f ∈ O(Ω)| Hλ+f = 0}, Odd :{φ∈ L2(R, C2)| Qφ = λφ, φ(−x) = −φ(x)}−→∼ {f ∈ O(Ω)| Hλ−f = 0}. ここで Ω ⊂ C0, 1 ∈ Ω, αβ ̸∈ Ωを満たす単連結領域で, O(Ω) は Ω上の正則関数全体の集合である. Hλ± = Hλ±(w, ∂w)はそれぞれHeunの常微分作用素で,次で定義される: Hλ+(w, ∂w) := d2 dw2 + (1 2− p w + 1 2 − p w− 1 + p + 1 w− αβ ) d dw + 1 2(p + 1 2)w− q + w(w− 1)(w − αβ), Hλ−(w, ∂w) := d2 dw2 + ( 1− p w + −p w− 1+ p +32 w− αβ ) d dw + 3 2pw− q− w(w− 1)(w − αβ), ここでp = p(ν), ν = ν(λ)は次の関係式で定義される. p = 2ν− 3 4 , ν = α + β 2√αβ(αβ− 1)λ. また,これらのHeunの作用素のアクセサリパラメータq±= q±(λ)α, βλによって次のように表される. q+= {( p +1 2 )2 ( p +3 4 )2( β− α β + α )2} (αβ− 1) −1 2 ( p + 1 2 ) , q−= { p2 ( p + 3 4 )2( β− α β + α )2} (αβ− 1) − 3 2p.

3.2

NCHO

のスペクトル構造

[PW02*]において,固有関数を(議論に整合的であるように正規化した)エルミート関数で展開し,固有値と固有関数 の連分数展開を与えた. NCHOの固有関数φ∈ L2(R, C2)が有限個のエルミート関数で展開されるとき, φを有限型と

(10)

言う. また, NCHOの固有値λが有限型の固有関数に対応しているとき, λを有限型という. 有限型でない固有関数及び 固有値を無限型と言う. 有限型(resp. 無限型)の固有値全体をΣ0 (resp. Σ)で表す. 同様に, φ(−x) = ±φ(x)を満た す固有関数に対応する固有値の集合をそれぞれΣ+, Σと書く. 以上より,次のようなNCHOの固有値の分類を考える: Σ±0 := Σ0∩ Σ±, Σ±:= Σ∞∩ Σ±. 定義より, これら4 つの集合は互いに共通部分を持ち得ることに注意する. なお,[HS14]でNCHOの基底ベクトル の固有値は重複度は1であり, Σ+ に属すことが示されている. また, 有限型の固有値について以下が分かっている ([W13*]). Σ+0 { λ = 2αβ(αβ− 1) α + β (2L + 1 2) L ∈ N } , Σ0 { λ = 2αβ(αβ− 1) α + β (2L + 3 2) L ∈ N } . 有限型の定義は, 定義に依存しているように見えるが,Heun ODEを見れば,ちょうど多項式解に対応している

(Judd解あるいはquasi exact solutionといえるものである.([Jud79, Tur88*]を参照).また,固有値の退化性につい

ては,次の図が示すような場合に起こりうることが分かっている[W16*](3重退化はない).

図2: 2重退化状況

この退化の様子は,後述の量子ラビ模型と比較するとき, i) 有限型固有値が量子調和振動子の遺跡らしいこと, ii)偶奇

のparity(Z2-symmetry)の存在から導かれる退化であろうことなど,類似している.さらなる理解が必要である. 実際、

例えば (energy) level crossing(固有値が退化する)か,あるいは,ただ極めて近ずいているがnon-crossing(非退化)

かという問題でさえ,数値計算[NNW02*]で単純に見分けられるわけではない(cf.[SL00*]にある種々の例も参照).

4

量子ラビ模型

量子ラビ模型(QRM)は量子情報技術を目指す実験の理論背景となっており,次のHamiltonianで記述される.

HRabi/ℏ = ωa†a + ∆σz + gσx(a†+ a).

ここでa† = (x− ∂x)/ 2, a = (x + ∂x)/ 2は角振動数ωのbosonic mode(調和振動子)に対する生成消滅演算子, σx = ( 0 1 1 0 ) , σy = ( 0 −i i 0 ) , σz = ( 1 0 0 −1 ) は2準位系に対するパウリ行列, g > 0は2準位系とbosonic mode の間の結合強度, 2∆ > 0は2準位間のエネルギー差である. 以下,一般性を失わずにℏ = ω = 1とできる.

4.1

QRM

Confluent Heun

描像

Bargmann変換B [Bar61]を (Bf)(x) =√2 ∫ −∞f (x)e 2πxz−πx2−π 2z 2 dx

(11)

で定める. Bにより,以下のような生成消滅演算子の変換 a†= (x− ∂x)/ 2→ z, a = (x + ∂x)/ 2→ ∂z が引き起こされ, HRabiから1階の微分方程式系 HRabi ( z∂z + ∆− λ g(z + ∂z) g(z + ∂z) z∂z − ∆ − λ ) を得る. これを単独方程式に書き直すことにより,固有値問題HRabiφ = λφは次の2階微分方程式に帰着される. d2f dz2 + p(z) df dz + q(z)f = 0, p(z) = (1− 2λ − 2g 2)z− g z2− g2 , q(z) = −g2z2+ gz + λ2− g2− ∆2 z2− g2 . さらにf (w) =: e−gzϕ(x), x = (g + z)/2gとおくことで, ϕ(x)に関する合流型Heun微分方程式HRabi(λ)ϕ = 0, HRabi(λ) := d2 dx2 + ( −4g2+ 1− (λ + g2) x + 1− (λ + g2+ 1) x− 1 ) d dx+ 4g2(λ + g2)x + µ x(x− 1) , µ = (λ + g2)2− 4g2(λ + g2)− ∆2 を得る. 同様に,非対称量子ラビ模型(AQRM)も,以下のように合流型Heun描像を持つことがわかる[LB15*, W17*]. Hϵ,Rabi 1 (λ) := d2 dx2+ { − 4g2+1− (λ + g2) + ϵ x + 1− (λ + g2+ 1)− ϵ x− 1 } d dx + 4g2(λ + g2− ϵ)x + µ + 4ϵg2− ϵ2 x(x− 1) .

Remark 4.1. (A)QRMからBargmann変換により(4.1)のように1階の系が得られたのに対し, NCHOからは2階 の方程式系のままである.この事実もNCHOの解析がより困難である理由の一つである.

4.2

(A)QRM

のスペクトル

可積分性が Braakによって示され, さらにQRMのスペクトルは以下のように分類されることがわかった([K85*, MPS13*, Z-L14, Bra16*]). 正確を期すと,[MPS13*]の数値的検証まで,下記のnon-Judd型は未知であった. Spec(HRabi) ={(非退化)正則固有値}⊔ {Judd 型(例外型)固有値} ⊔ {non-Judd 型(例外型)固有値} ={En± = x±n − g 2| G ±(x±n) = 0 (n = 0, 1, 2, . . .)} ⊔ {Edeg N = N − g 2| N ∈ Z, 退化} ⊔ {EN = N − g2|∃N ∈ Z, 非退化}. ところで,QRMの正則固有値を記述するBraakのG-関数G±(x)は以下で定義される: G±(x) = n=0 Kn(x) [ 1x− n ] gn ここで,係数Kn(x)は次の漸化式で定まるものである([Bra11*, Bra11b*]): K0= 1, K1= f0(x), nKn(x) = fn−1(x)Kn−1(x)− Kn−2(x), fn(x) = 2g + 1 2g ( n− x + ∆ 2 x− n ) .

(12)

Remark 4.2. 退化例外型固有値(Judd型)ENdegが存在する必要十分条件は,g, ∆に関する条件KN(N ) = 0で与え られる.このことは物理学者には広く信じられていたが,証明はなく説明の記述にも誤りがあった.AQRMの場合を含 め,後に述べるconfluent多項式の研究を通じて,この事実は[KRW12*]で確認された(定式化もやや変更した). AQRMの場合も例外型固有値λλ = N− g2± ε(N ∈ N)の形のものであると定義すれば同様の分類が与えられる [LB15*, KRW12*].その上で,AQRMの固有値の退化の様子を示したものが下記の一連の図(図3,4は概念図)で ある.詳細な概略は後述のconstraint多項式の節5.3.2で行う. g E M +  − g2 N −  − g2 λ(g) λ0(g) Juddian Non-Juddian (a) HRabiϵ の固有値曲線λ(g), λ′(g)と,N, M ∈ Z≥0に対す る例外型固有値. g Δ Δ = C (b) (g, ∆)-平面における曲線PM(M,ϵ)((2g)2, ∆2) = 0. 第 一象限の点g, ∆ > 0がJudd解を与える. 図3: AQRMの例外型固有値. g E N + ` −  − g2 N +  − g2 λ(g) λ0(g) (a) Case 0 <|ϵ − ℓ/2| < δ. g E N + `/2 − g2 λ(g) λ0(g) (b) Case ϵ = ℓ/2. 図4: 左図はN, ℓ∈ Z≥0に対する例外型固有値. 丸印はJudd解を,ダイヤモンド印はnon-Judd解を示している.右図はϵ = ℓ/2 の場合の退化の様子.Judd型のみが生き残っている. (a) ϵ = 0.2. (b) ϵ = 1. (c) ϵ = 3/2. 図5: 実線は曲線P5(5,ϵ)((2g)2, ∆2) = 0を,点線は曲線P8(8,−ϵ)((2g)2, ∆2) = 0を示す.(dashed line). (c)はϵ = 3/2の場合に 両曲線が重なっていることを示している: 5 + 3/2 = 8− 3/2 ([KRW12*]). Problem 4.3. 図4の2重退化状況の理解を深めよ.実際,この状況は事実として証明済みだが,何故non-Judd解の 方が消滅するのか?([BLZ15*]の方向での幾何学的な研究がヒントになると思われる.)

(13)

5

NCHO

Heun

描像と

QRM

confluent Heun

描像

5.1

sl

2

(

R)

の表現

リー環sl2(R)の基底をH, E, F とする: [H, E] = 2E, [H, F ] =−2F, [E, F ] = H. その作用ϖa (a∈ R)を次で定める. ϖa(H) = z∂z+ 1 2, ϖa(E) = 1 2z 2 (z∂z+ a), ϖa(F ) =− 1 2z∂z+ a− 1 2z2 . さらに ϖj,a:= ϖa|Vj,a (j = 1, 2), V1,a:= x− 1 4C[x, x−1], V 2,a:= x 1 4C[x, x−1] とおくと, (ϖj,a, Vj,a)はそれぞれsl2(R)の表現を定める. いま, e1,n := xn− 1 4 とすると, (ϖ1,a, V1,a)は V1,a= ⊕ n∈Z

Ce1,n (spherical principal series),

ϖ1,a(H)e1,n = 2ne1,n, ϖ1,a(E)e1,n =

( n + a 2 ) e1,n+1, ϖ1,a(F )e1,n = ( −n +a 2 ) e1,n−1

と書ける. m∈ Z>0に対し, V1,aの部分空間W±1,m(Lowest or highest weights表現), F1,mを以下で定める:

W±1,m:= ⊕ n≥m Ce1,±n, F1,m := ⊕ −m<n<m Ce1,n. Lemma 5.1. m∈ Z>0とする. 1. a = 2mのとき, W1,m±V1,aの既約部分空間である. 2. a = 2−2mのとき, F1,mV1,aの既約部分空間である. このとき, W1,m± は商空間V1,a/F1,m∼= W−1,m⊕W + 1,m の既約成分として実現される. 奇数のa∈ Zに対しても, sl2(R)の表現(ϖ2,a, V2,a)において同様のことがいえる. さて,パラメータ(κ, ε, ν)∈ R3>0に対し, sl2(R))の普遍包絡環U(sl2)の2次の元RR := 2 sinh 2κ {

[(sinh 2κ)(E− F ) − (cosh 2κ)H + ν] (H − ν) + (εν)2}∈ U(sl2)

で定める. 以下, Rの作用からNCHOが捉えられ,量子ラビ模型がそのHeun型微分方程式の合流操作によって得られ ることについて述べる:

5.2

NCHO

の場合

α̸= β, λ > 0に対し,パラメータ(κ, ε, ν)∈ R3 >0を次で定める. cosh κ =αβ αβ− 1, ε = α− β α + β , ν = α + β 2√αβ(αβ− 1)λ.

(14)

これで定まるR ∈ U(sl2(R))の作用として, NCHOのスペクトル問題の偶関数部分と同値なHeun作用素Hλ+が現れ る([W16*]: 奇関数の場合Hλについては[O01*]).w := z2coth κとすると ϖ1(R) = 4(tanh κ)w(w − 1)(w − αβ)Hλ+(w, ∂w), ϖ2(R) = 4(tanh κ)w(w − 1)(w − αβ)Hλ−(w, ∂w). NCHOは,上述のようにパラメータを定めるとoscillator表現([HT92]など)を通してRから得られる.また,R を定めるパラメータは変えなくてはいけないが,変形ラプラス変換 (Lau)(z) = 0 u(yz)e−y22 ya−1dy

と非ユニタリ主系列表現を通して一般的なHeun ODEを得たのち合流操作を行うことで,QRMの合流Heun描像が 得られる.ここで重要なことは,Laが対応する表現の作用間をほとんどintertwineすることである.合流については 次節で述べる. NcHO R U(sl2) π′ oo π′a(∼=ϖa) La // Heun ODE confluence process 

Confluent Heun ODE∼ Rabi model.

図6: NCHOからQRMの合流Heun描像へ

5.3

(A)QRM

の場合

5.3.1 Heun ODEの無限遠点特異点での合流 さて, a∈ Zに対して,上述のように次が成立する. z−a+1ϖa(R)za−1= 4(tanh κ)w(w− 1)(w − t)Ha(w, ∂w). ここでt = coth2κであり,Ha(w, ∂w)は次で与えられる. Ha(w, ∂w) = d2 dw2 + ( 3− 2ν + 2a 4w + −1 − 2ν + 2a 4(w− 1) + −1 + 2ν + 2a w− t ) d dw + 1 2(a− 1 2)(a− 1 2− ν)w − qa w(w− 1)(w − αβ) , qa = { −(a − 1 2 − ν) 2+ (εν)2 } (t− 1) − 2(a − 1 2)(a− 1 2 − ν). いま, Ha(w, ∂ w)の表示において(a, ν)→ (a + p, ν + p)という置き換えをし,二つの確定特異点w = tw =∞の合 流操作を以下のように行う. t = ρ−1, p = 4g2ρ−1− (a +1 2), ρlim→0 (⇔p→∞) w(w− 1)(w − t)ρHa(w, ∂w). さらにλ + g2= 1 4(1 + 2ν− 2a)を満たすようにa, νを定めると,シュレディンガー方程式HRabiφ = λφと同値な2階 の微分方程式(4.1)が得られる([W13*]).

Remark 5.2. 一方で,上記のような合流操作を経ずに, (4.1)の固有値問題を直接捉えるU(sl2)の2次の元K ∈ U(sl2)

を見つけることは容易である. それによりsl2(R)の有限次元既約表現の枠組みの中で退化例外型スペクトルに対応する

(15)

Remark 5.3. NCHOに関するモノドロミーについては,[O01*]において初めて議論されたが([W16*]も一部参照), QRMについても例えば[CCR16]がある. Problem 5.4. 発見的に施された上の合流操作(5.3.1)がどういう意味を持つのかを考えよ. 例えば,AQRM(の合流 Heun描像)は,上記に定義したNCHO由来のRを通じての合流操作では得られないことがわかる.おそらく非対称 NCHOを上手く定義すれば同様のことはいえるはずであるが,まだ計算をしていない.しかし現時点では,合流操作の 意味が不明であることから「手」で探すほかない.合流操作の逆(一意的ではないが),何からの意味でのliftingを定 義することは意義があるように思われる.仮に,NCHO(や非対称NCHO) が何かの物理的モデルであることがわかれ ば,物理モデルの合流・Lifting にも新しい意味が生まれてくるかもしれない.さらに,それらに対応して現れることが 期待される数論的対象の研究とさらにはモデルとの関係を知ることは興味深い.

Problem 5.5. NCHOの縮退固有値の表現論的解釈は与えられていないが,後に述べる(A)QRMのときのconstraint

多項式と同様な多項式をNCHOの場合にも定義することができるので試みよ. (cf. e.g.[Bra11b*])

5.3.2 Constraint多項式

AQRMのconstraint多項式は, QRMの場合のKu´s [K85*]に習いLi-Batchelor[LB15*]において定義された.これ

らは,合流Heun描像から,sl2 の有限次元既約表現に着目しても導ける[WYT14, W17*]. Constraint多項式の零点

はJudd (or quasi-exact)解を与える.少し注意すべきは, Judd 解は,QRMやε∈ 12ZのときのAQRMの場合は(2

重に)退化してるのであるが,ε /∈ 12Zの場合には退化しない.このことからわかるように,Judd解が退化する解とし て特徴付けられる訳ではない.Constraint多項式の詳細な導入は上述の文献に譲るが,ここでは漸化式による定義を与 えておく. Definition 5.6. 非負整数N ∈ Z≥0に対して,k次の多項式Pk(N,ε)(x, y)を以下で定める. P0(N,ε)(x, y) = 1, P1(N,ε)(x, y) = x + y− 1 − 2ε, Pk(N,ε)(x, y) = (kx + y− k(k + 2ε))Pk(N,ε)−1 (x, y)− k(k − 1)(N − k + 1)xPk(N,ε)−2 (x, y). 多項式PN(N,ε)(x, y) (つまりk = N のときをconstraint多項式と呼ぶ. Remark 5.7. 正則固有値をその零点(の定数シフト)として与える有理関数G-関数は,AQRMの場合も4.2節のよ うに定義できるが,その係数として現れるKN のみたす関係式こそが,本質的にPk(N,ε)(x, y)の漸化式を与えている [KRW12*].また,Pk(N,ε)(x, y)は,[AAR99]などにある既知の直交多項式ではない.ただし,∆ = 0のときには実質 的に一般Legendre多項式(パラメータはである. Example 5.8. たとえばk = 2, 3のとき P2(N,ε)(x, y) = 2x2+ 3xy + y2− 2(N + 2(1 + 2ε))x − (5 + 6ε)y + 2(1 + 2ε)(2 + 2ε), P3(N,ε)(x, y) = 6x 3 + 11x2y + 6xy2+ y3− 6(2N + 3(1 + 2ε))x2 − 2(4N + 17 + 22ε)xy − 2(7 + 6ε)y2+ 6(2N + 3(1 + 2ε))(2 + 2ε)x + (49 + 4ε(24 + 11ε))y− 6(1 + 2ε)(2 + 2ε)(3 + 2ε). 多項式PN(N,ε)(x, y)をconstraint多項式と呼ぶ訳は,それがJudd型固有値の存在を保証するからである.実際,固定 したy = ∆2に対し,もしx = (2g)2がPN(N,ε)(x, y)の根であるとすれば, λ = N + ε− g2は, HRabiε のJudd型の(例外 型)の解を与える.同様にして,仮にx = (2g)2が多項式P˜(N,ε) N (x, y) := P (N,−ε) N (x, y)の根であれば,λ = N− ε − g 2 はHRabiε のJudd型解を与える.したがって,それぞれに対応する固有ベクトルが一時独立であることを示しておけば,

(16)

2重に退化していることが示される(少数の例外的な場合には少し議論が必要となるが,対応する有限次元既約表現を 比べれば,大半は自明にわかる[W17*, RBW17*]). Constraint多項式 PN(N,ε)(x, y)は, 一般のk̸= N に対する多項式Pk(N,ε)(x, y)とは異なり際立った性質がある. 以 下は,[W17*]で予想され,[KRW12*]によって解決されたものである(ε = 12 の場合のみ[W17*]で証明). Theorem 5.9. 非負整数ℓ, N ∈ Z≥0に対して,多項式AℓN(x, y)∈ Z[x, y]が存在して次が成立する. PN +ℓ(N +ℓ,−ℓ/2)(x, y) = AℓN(x, y)PN(N,ℓ/2)(x, y). さらに,多項式AℓN(x, y)は,x, y > 0に対して正値である. 先に述べたことにより,これにより固有値の退化が従う.(実際,Judd型解以外に退化する固有値は存在しないことも 示される.)つまりg, ∆ > 0PN(N,ℓ/2)((2g)2, ∆2) = 0を満たせば, HRabiℓ/2 のJudd型例外固有値λ = N + ℓ/2− g2(= (N + ℓ)− ℓ/2 − g2)が退化していることが判る. 証明は,constraint多項式PN(N,ℓ/2)(x, y)の,ある有用な行列式表示を導くこと(母関数を考えて,それが満たす微分 方程式(Heun ODE)を考えるという別方法もある),およびAℓN(x, y)の正値性(こちらの方が難しい)の2段階に分 かれる.後者の方が難しく,2変数多項式Pk(N,ε)(x, y)たちの解が(一方を固定したときうまくinterlacingするという 性質を克明に追う必要がある([Fis08*]の議論の精密化.なお,著者が亡くなったために[Fis08*]はプレプリントのま まであり学術雑誌には出版されていない).  また,多項式PN(N,ℓ/2)(x, y)およびAℓ N(x, y)の行列式表示はなかなか面白いものだが,紙数の関係もあり本稿では割 愛する([KRW12*]).講演時にはもちろん紹介したい. Example 5.10 ([RBW17*]). 小さなに対してAℓN(x, y)を例示する. A1N(x, y) = (N + 1)x + y, A2N(x, y) = (N + 1)2x2+ (∑2 i=1 (N + i) ) xy + y(1 + y), A3N(x, y) = (N + 1)3x3+ (∑3 i<j (N + i)(N + j) )

x2y + (N + 2)x(3y + 4)y + y(2 + y)2,

A4N(x, y) = (N + 1)4x4+ ( ∑4 i<j<k (N + i)(N + j)(N + j) ) x3y + (∑4 i<j (N + i)(N + j) ) x2y2+ 2 (∑4 i<j (N + i)(N + j)− (N + 2)(N + 3) ) x2y + (∑4 i=1 (N + i) )

xy(y + 2)(y + 3) + y(3 + y)2(4 + y).

次数ℓ∈ Z≥0を固定したとき, 代数方程式Aℓ N(x, y) = 0パラメータN に依存した代数曲線を定義する: AℓN(x, y)の 場合は直線,ℓ = 2は放物線, ℓ = 3は楕円曲線,さらにℓ = 4の場合は超楕円曲線を定めている.たとえば,ℓ = 3の場 合には,X =−x/y, Y = 1/yと変数変換すれば方程式A3N(x, y) = 0は次のようになる. 4Y2+ 4Y − 4(N + 2)XY = (N + 1)3X3− (11 + 3N(N + 4))X2+ 3(N + 2)X− 1. このことから,曲線A3 N(x, y) = 0は以下のLegendre形式 (cf. [Kob84])による楕円曲線と双有理同値となる. Y12= X1(X1− 1) ( X1 (N + 2)2 (N + 1)(N + 3) ) . ただし,X1= N +2X , Y1= (N +2) (N +1)(N +3)(2Y − (N + 2)X + 1)とおいている.

(17)

一般のk̸= Nに対しても,対応する多項式の剰余(Conjecture 2.6 [RBW17*])に関してより一般に次が成り立つ. これはReyes-Bustosにより[RB18*, RB18b]において肯定的に示された. Theorem 5.11. x(= (2g)2),y(= ∆2) とおく. このとき ℓ, N ∈ N に対して, 多項式A(N,ℓ/2)k (x, y) ∈ Z[x, y]Bk(N,ℓ/2)(x, y)∈ Z[x, y] (k = 0, 1, . . . , N)が存在して次が成立する. ˜ Pk+ℓ(N +ℓ,ℓ/2)(x, y) = A(N,ℓ/2)k (x, y)Pk(N,ℓ/2)(x, y) + Bk(N,ℓ/2)(x, y),BN(N,ℓ/2)(x, y) = 0). ただし,B0(N,ℓ/2)(x, y) = 0と定めた.さらに,x, y > 0のときA(N,ℓ/2)k (x, y) > 0である. ここでの2変数多項式は,片方の変数に制限を課すと直交系を定めることになる(cf.[Chi78]). 5.3.3 QRMのスペクトルゼータ関数 QRMのHurwitz型のスペクトルゼータ関数 ζRabi(s, z) :=λ∈Spec(HRabi) (z− λ)−s (ℜs > 1, z(̸= λ) ∈ C)ℜs > 1で正則関数を定めることが容易に分かる. ところで,G±(z)はBraakによって構成されたQRMの正則スペ

クトルを零点に持つ関数であるので,ゼータ正規化積(spectral determinant:cf.[QHS93, D92, KuW04, WYY14]) との比は,(固定されたパラメータg, ∆に対しては有限個であることが予想される.このことも物理学者には広く信じ られており,[KRW12*]における数値実験もそれをサポートしている)例外型固有値の寄与部分のみである.逆にいえ ば,このことは正規化積が存在することを示唆し,したがってζRabi(s, z)の原点 s = 0付近までの解説接続は可能でる と考えられていた[W14].事実,最近の杉山[Sug16*]において,ζRabi(s, z)が有理型関数として全平面に解析接続でき ることが示された. 同様のことはAQRMのスペクトレゼータ関数に対しても示される.したがって,ゼータ正規化積 det(τ − g2− HRabiε ) := ∏⨿ λ∈Spec(Hε Rabi) (τ− λ) = exp ( −d dsζHεRabi(0, τ ) )

が定義できる. さて,Gε(x; g, ∆)をAQRMに対するG-関数とする[KRW12*]([Bra11b*]と同様に定義する.[Inc56]

などを参照).さらに関数Gε(x; g, ∆)Gε(x; g, ∆) := Gε(x; g, ∆)Γ(ε− x)−1Γ(−ε − x)−1 ([LB16*]の定義には混乱や誤りがあるが,[KRW12*]での定義のアイデアは同論文にある)と定めると以下が成り立つ. Corollary 5.12. 全平面で消えない整関数cε(τ ; g, ∆)が存在して次が成り立つ. det(τ − g2− HRabiε ) = cε(τ ; g, ∆)Gε(τ ; g, ∆). 最後に,少し唐突と思われるかもしれない問いを考える. Problem 5.13. AQRM の固有値の幾何学的解釈は可能であろうか?([W17*]). つまり,SL2(R) の被覆群G = G(g, ∆)(G = SL2(C))とその離散部分群Γ = Γ(g, ∆)が定まって,非退化スペクトル(あるいは正則スペクトル) をL2\G)に実現できないだろうか? Selbergゼータ関数[KuW04]など).

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図 2: 2重退化状況
図 6: NCHO から QRM の合流 Heun 描像へ 5.3 (A)QRM の場合 5.3.1 Heun ODE の無限遠点特異点での合流 さて , a ∈ Z に対して,上述のように次が成立する. z − a+1 ϖ a ( R )z a − 1 = 4(tanh κ)w(w − 1)(w − t)H a (w, ∂ w )

参照

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