領域気象モデル 㼃㻾㻲 にもとづく風環境評価のための標準上空風データ整備㻌
PREPARATION OF STANDARD WIND DATA FOR ASSESSMENT OF PEDESTRIAN WIND ENVIRONMENT USING WRF
宮里㻌 龍太郎1)㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 義江㻌 龍一郎2)㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 三浦㻌 翔3)㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 東海林㻌 諭4) Ryutaro MIYAZATO1), Ryuichiro YOSHIE2) Sho MIURA3) Satoshi SHOJI4)
ABSTRACT
In order to prepare standard statistical wind data for assessment of pedestrian wind environment using WRF, calculated wind direction and velocity were compared with observation data. Effect of calculation conditions were also investigated. It is confirmed that WRF can correctly reproduce the occurrence frequencies of wind direction and wind velocity by using Noah Land Surface Model. When using a large computational domain, correspondence between calculated and observed results was improved by adopting nudging. Weibull parameters based on WRF agreed well with those of observation data, which means that occurrence frequency of wind velocity not only for all wind directions but also for each wind direction was accurately predicted by WRF. Variation tendency of power law index α versus wind direction was well captured by WRF.
Key Words: WRF, physics scheme, domain size, nudging, occurrence frequency, Weibull parameters, power law index α
1.はじめに
高層建物周辺におけるビル風の環境影響評価は、用いる風観測データの選択によって結果が大きく変わる。これ はほとんどの風観測点が周辺建物に遮られていたり、風速計が設置されている自身の建物の剥離域やウェイクの中
に入っていたりして、観測データが歪められているためである。この問題に対して、筆者らは領域気象モデル WRF
(The Weather Research and Forecasting)を用いて、周辺建物の影響を受けない標準上空風データを整備することを
検討している。その検討を行うためには、まず WRF が上空風向・風速の発生頻度をどの程度正確に再現できている か明らかにする必要がある。また、WRF では数多くの物理モデルやナッジング(観測値あるいは客観解析値とモデル の予報値の差に係数をかけた外力項を方程式に付加して、モデルの予報値を観測値・客観解析値に近づける手法) が用意されている。しかし、各物理モデルの選択やナッジングの有無が計算結果に与える影響は十分明らかになっ ていない。また、日本列島全域が含まれるような大きな計算領域を用いるべきという人もいる。しかしながらその是非は 十分明らかになっていない。そこで本研究では、WRF の計算結果とドップラーライダーによって観測されたデータとの 比較を行ないながら、各物理モデルの選択やナッジングの有無や計算領域の大きさが WRF の風向・風速の統計的 性状に与える影響を調査した。風環境影響評価の確率的評価を行うために必要となるワイブル係数 C(尺度係数)と K(形状係数)を、観測結果と WRF の計算結果からそれぞれ求め、両者の比較を行った。また、データベースでは風 1) 東京工芸大学工学研究科㻌 建築学・風工学専攻㻌 大学院生 (〒243-0297 神奈川県厚木市飯山 1583) 2) 東京工芸大学工学部建築学科㻌 教授㻌 㻌 (〒243-0297 神奈川県厚木市飯山 1583) 3) 前田建設工業株式会社㻌 (元東京工芸大学㻌 大学院生) (〒101-0064 東京都千代田区猿楽町 2-8-8 猿楽町ビル) 4) 東北大学工学研究科㻌 都市・建築学専攻㻌 大学院生(元東京工芸大学㻌 学部生) (〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-11-1213)
速鉛直分布のべき指数も参考として掲載することを考えているので、それについても観測結果と計算結果の比較を行 った。 2.物理モデルの影響 ここでは、WRF に用意されている物理モデルの中か ら雲物理、放射、大気境界層、地表面過程に着目し、 それらが計算結果に与える影響を観測結果と比較を行 いながら調査した。 2.1㻌 WRF の計算概要 2.1.1㻌 計算期間と初期条件・境界条件 計算期間は、2009年6月から2010年5月の1年間とし、 初期条件、底面・側面境界条件としてNCEP(National
Center for Environmental Prediction)の最終全球解析デ
ータ(以下、FNL)を与えた。 2.1.2㻌 計算領域とメッシュ分割 3 段階 2-way ネスティングで解析を行った。計算領域、 及びメッシュ分割を表1、図 1 に示す。この最内側の第3 領域の全ての1km メッシュ点で標準上空風データを整 備することを想定している。 2.1.3㻌 土地利用情報 第 1、第 2 領域は WRF のデフォルトである USGS
( United States Geological Survey )の土地利用分類と地
表面パラメータを用い、第3 領域には数値地図 5000 と国土数値情報の 2 つの GIS (Geographic Information System)
を用いて土地利用分類を行い、GIS の土地利用項目と USGS の土地利用項目を対応させ、粗度長等の地表面パラメ
ータを設定した1)。
2.1.4㻌 比較ケース
WRF に用意されている数多くの物理モデルの中から風向、風速に影響があると思われる雲物理過程、放射過程、
大気境界層過程、地表面過程を変更した。表2 に示した WRF Version3.2.1 のデフォルト設定で行った計算を Case0、
雲物理過程のみを WSM 6-class graupel scheme(以下、WSM6)に変更した計算を Case1、放射過程のみを Rapid
Radiative Transfer Model for GCM(以下、RRTMG)に変更した計算を Case2、大気境界層過程のみを Mellor Yamada Janjic 2.5 level closure model(以下、MYJ)に変更した計算を Case3、地表面過程のみを Noah Land Surface Model(以下、Noah)に変更した計算を Case4 とした。 2.2㻌 比較に使用した観測データ WRF による計算結果の比較には、東京都内東部においてドップラーライダーによって地上 70m から約 75m 刻みに 20 高度で観測された毎 10 分間平均データ2)を使用した。そのうち高度70m から 715m の 10 高度を対象とし、データ 取得率が10 高度とも 30%以上であるもののみを比較に使用した。観測点の位置を図 1 に示す。 2.3㻌 計算結果と観測結果の比較 図2 に高度 285m の風向・風速の時刻歴変化の一例を示す。風向については、全計算ケースの結果と観測結果は よく一致しており物理モデルの影響はほとんど見られない。風速については、Case0(Default)、Case1(WSM6)、 Case2(RRTMG)、Case3(MYJ)が、観測結果よりピークを高めに評価しているのに対して、地表面過程を Noah に変 更した Case4 は他の計算ケースに比べて風速のピークが抑えられ精度向上が見られる。図は省略するが、Case4 (Noah)は地表面温度ならびに気温が他のケースより高くなる。東京タワーの地上 65m での気温の観測結果3)と比較 表1㻌 計算領域とメッシュ分割 領域(km) X×Y×Z 格子数 X×Y×Z 水平格子間隔(km) 第1領域 450×450×20 50×50×60 9 第2領域 180×180×20 60×60×60 3 第3領域 60×60×20 60×60×60 1 第1領域 第2領域 第3領域 観測地点 東京湾 Google map 図1㻌 計算領域および観測地点 表2㻌 デフォルト設定の物理モデル
雲物理 WSM 3-class simple ice scheme
長波放射 Rapid Radiative Transfer Model
短波放射 Dudhia scheme
接地層 Monin-Obukhov scheme
地表面 thermal diffusion scheme
大気境界層 Yonsei University scheme
すると,Case4 は他のケースと比べて格段によく一致している。このように,地表面温度が風速に比較的大きな影響を 及ぼしている。5layer model では計算開始日時の FNL データの土壌水分量を固定値として与えているが、土壌水分 量を計算する Noah-LSM の計算結果を見ると、土壌水分量が時間とともに初期値から徐々に減少している。このこと からNoah-LSM の方が、5layer よりも蒸発潜熱が小さくなり、地表面温度が高くなるのではないかと考えられる。 0 90 180 270 360 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風 向 ( deg ree ) 0 5 10 15 20 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風速( m/ s) 0 5 10 15 20 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風速( m/ s)
OBS Case3(MYJ) Case1(WSM6) Case0(Default) Case4(Noah-LSM) Case2(RRTMG)
0 5 10 15 20 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風速( m/ s)
OBS Case3(MYJ) Case1(WSM6) Case0(Default) Case4(Noah-LSM) Case2(RRTMG)
0 90 180 270 360 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風向( deg ree )
OBS Case3(MYJ) Case1(WSM6) Case0(Default) Case4(Noah-LSM) Case2(RRTMG)
0 90 180 270 360 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風向( deg ree )
OBS Case3(MYJ) Case1(WSM6) Case0(Default) Case4(Noah-LSM) Case2(RRTMG)
0 90 180 270 360 8/17 8/18 8/19 8/20 8/21 8/22 8/23 8/24 8/25 風向( deg ree )
OBS Case3(MYJ) Case1(WSM6) Case0(Default) Case4(Noah-LSM) Case2(RRTMG)
風 向 (d eg ree ) 風 速 (m/ s) 図2㻌 風向・風速の時系列変化 2.4㻌 毎 10 分間平均風向・風速の発生頻度 図3 に高度 285m、500m の年間の風配図を示す。 全計算ケースの結果と観測結果はよく一致している。 図4 に同じ 2 高度の毎 10 分間平均風速(全風向)の 年間超過確率を示す。高度 285m、500m ともに、地 表面過程をNoah に変更した Case4 が他の計算ケー スに比べ風速の超過確率が低くなり、観測結果との 対応が最も良い。 2.5㻌 日最大風速の発生頻度 図5 に高度 285m、500m の日最大風速発生時の 年間の風配図を示す。全計算ケースの結果は観測 結果と概ね一致している。図 6 に日最大風速の年間 超過確率を示す。Case0(Default)、Case1(WSM6)、 Case2(RRTMG)、Case3(MYJ)の計算結果は観測結 果より超過確率が高いのに対して、Case4(Noah)は 他の計算ケースに比べ超過確率が低くなり観測結果 とよく一致している。この傾向は,毎10 分間平均風速 の超過確率(図 4)と比べて、より顕著である。このこと からもCase4 (Noah)の風速のピークが抑えられている ことがわかる。 3.計算領域の大きさとナッジングの有無の影響 これまで筆者らは、図1 に示したような 450km 四方 の計算領域を用いてWRF の計算を行ってきたが、気 象の研究者の中には、日本列島全域が含まれるよう な大きな計算領域を用いるべきという人もいる。しかし ながらその是非は十分明らかになっていない。また、 WRF にはデータ同化手法の一つであるナッジングが 用意されている。しかし、ナッジングの有無が計算結 果に与える影響も十分に明らかになっていない。 図中凡例 㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
㻜 㻡 㻝㻜 㻝㻡 㻞㻜 㻺 㻺㻺㻱 㻺㻱 㻱㻺㻱 㻱 㻱㻿㻱 㻿㻱 㻿㻿㻱 㻿 㻿㻿㼃 㻿㼃 㼃㻿㼃 㼃 㼃㻺㼃 㻺㼃 㻺㻺㼃
OBS Case0(Default) Case1(WSM6)
Case2(RRTMG) Case3(MYJ) Case4(Noah-LSM)
0 5 10 15 20N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NWNNW 0 5 10 15 20N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NWNNW 285m 500m 図3㻌 毎 10 分間平均風向の発生頻度 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 5 10 15 20 超 過 確 率 風速(m/s) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 5 10 15 20 超 過 確 率 風速(m/s) 285m 500m 図4㻌 毎 10 分間平均風速の発生頻度 0 10 20 30 N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NWNNW 0 10 20 30 N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NWNNW 285m 500m 図5㻌 日最大風速発生時の風向の発生頻度 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 5 10 15 20 超 過 確 率 風速(m/s) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 5 10 15 20 超 過 確 率 風速(m/s)
285m
500m
図6㻌 日最大風速の発生頻度そこで、本研究では2 章の計算領域で行ったケース(水平方向 450km×450km)と、日本列島全体が含まれるように その外側に領域を加えたケースと、加えた領域にナッジングをかけたケースの3 種類の計算を行い、計算領域の大き さとナッジングの有無が計算結果に与える影響を観測データ2)と比較しながら調査した。 3.1㻌 ナッジングの概要 データ同化手法の一つであるナッジングは、観測値あるいは客観解析データ(各地観測データや気象衛星データ に近付くように解析を行い、観測データのない空間を解析値で補填したデータ)とモデルの予報値の差に係数をかけ た外力項を方程式に付加して、モデル予報値を観測値・客観解析値に近付ける手法である。WRF では、風速(東 西・南北成分)、温位、水蒸気に対してナッジングを適用することができる。本研究ではナッジングのための客観解析
データとして、NCEP(National Center for Environmental Prediction)最終全球解析データ(以下、FNL と称す)を用い
た。
3.2㻌 WRF の計算概要
計算領域とナッジングの有無を変化させた3 ケースの計算を行った。その他の計算条件は,2 章により観測値との
対応が最も良かったCase4(地表面過程に Noah を用い,それ以外はデフォルト)の設定に統一した。なお,計算期間
は2009 年 8 月の 1 ヶ月のみとした。比較ケースを下記に示す。
・Case1: 図 7㻌 a)の領域(領域小)で行った計算。(2 章の Case4 に相当。)
・Case2: 図 7㻌 b)の領域(領域大)で行った計算。 ・Case3: 図 7㻌 b)の第 1 領域にナッジングをかけた計算(領域大 Nud あり)。ナッジング係数は 3×10-4[s-1](WRF のデ フォルト値)とした。 第1領域 第2領域 第3領域 ・計算領域 第1領域 : 450km×450km 第2領域 : 180km×180km 第3領域 : 60km×60km ・メッシュ間隔 第1領域 : 9km 第2領域 : 3km 第3領域 : 1km 観測地点 東京湾 Google map 第1領域 第2領域 第3領域 第4領域 ・計算領域 第1領域 : 2160km×2160km 第2領域 : 450km×450km 第3領域 : 180km×180km 第4領域 : 60km×60km ・メッシュ間隔 第1領域 : 27km 第2領域 : 9km 第3領域 : 3km 第4領域 : 1km Google map 観測地点 a) 計算領域小 (Case1) b) 計算領域大 (Case2,3) 図7㻌 計算領域及び観測地点 3.3㻌 比較結果 3.3.1㻌 毎 10 分間平均風速 図 㻤 に高度 㻞㻤㻡㼙 における風向・風速の時刻歴変化の一例を示す。㻌 0 90 180 270 360 8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 8/11 8/12 風向( deg ree ) 0 5 10 15 20 8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 8/11 8/12 風速( m/ s) 風速( m/ s) 風向( deg ree ) 0 90 180 270 360 8/25 8/26 8/27 8/28 8/29 8/30 8/31 9/1 9/2 風向( d eg ree ) OBS Case1(領域小) Case2(領域大-nud無) Case3(領域大-nud有) 0 5 10 15 20 8/1 8/2 8/3 8/4 8/5 8/6 8/7 8/8 8/9 風速( m /s ) OBS Case1(領域小) Case2(領域大-nud無) Case3(領域大-nud有) 図8㻌 風向・風速の時系列変化
Case1(領域小)、Case3(領域大-nud 有)は観測値と 概ね一致しているのに対し、Case2(領域大-nud 無)は 風向、風速ともに観測値との差異が大きい。図9 に高度 285m、500m における観測と各計算ケースの毎 10 分間 平均風速値の相関を示す。Case1(領域小)は、高度 285m、500m ともに Case2(領域大-nud 無)、Case3(領域 大-nud 有)に比べ観測結果との相関が高い。Case2(領 域大-nud 無)は、観測結果との相関が低く(ほぼ無相関 に近い)、計算領域を広く取ると観測結果との対応がか なり悪くなる。これは第 2 領域の境界に入ってくる第 1 領域の計算精度が,FNL に劣っているということを示唆 している。しかし、Case3(領域大-nud 有)のように領域を 広く取ってもナッジングをかけることで観測結果との対応 が良くなる。これは、ナッジングに用いている FNL が実 現象を良く再現できているためと考えられる。このことを 確認するためにFNL と観測データの比較を行った結果、 FNLは上空風速、温度ともに観測結果と良く対応してい た(図は省略)。 3.3.2㻌 日最大風速 図10 に高度 285m における日最大風速の時系列変 化を示す。Case1(領域小)、Case3(領域大-nu d 有)は 観測結果と良く一致しているのに対し、Case2(領域大 -nud 無)は、観測結果との差異が大きい。 4.風環境評価のための標準上空風データの検討 ここまでの検討結果から、適切な計算条件を設定す れば、WRF によって毎 10 分間平均風速や日最大風速 を精度よく再現できることを確認した。現在日本では、村 上らの日最大瞬間風速の超過確率に基づく風環境評価や、風工学研究所の方法による毎10 分間平均風速の累積 頻度に基づく風環境評価が行われている。ここでは、風環境評価を行うために必要となるワイブル係数 C(尺度係数) とK(形状係数)、風速鉛直分布のべき指数を観測結果と WRF による計算結果からそれぞれ求め、両者の比較を行 った。 4.1㻌 計算結果と観測結果の比較 計算は、2 章で観測値との対応が最もよかった Case4(地表面過程に Noah を用い、それ以外はデフォルト)の設定 で行い、計算期間は2009 年 6 月から 2010 年 5 月の 1 年間とした。計算結果との比較には、前章までと同様の観測 データ1)を用いた。 4.1.2㻌 ワイブル係数 K と C の比較結果 図11、12 に高度 500m のワイブル係数 C、K 示す。ワ イブル係数K と C ともに WRF の計算と観測結果とよく 一致している。このことは,図 4 に示した全風向の風速 超過確率だけでなく,風向ごとの風速超過確率も精度 よく再現できていることを意味している。 y = 1.0338x R2 = 0.5112 0 5 10 15 0 5 10 15 OBS(m/s) C as e1 (m/s ) y = 0.9596x R2 = 0.5427 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 OBS(m/s) C as e1 (m /s ) y = 0.9888x R2 = 0.0829 0 5 10 15 0 5 10 15 OBS(m/s) Ca se 2( m /s ) y = 0.9471x R2 = 0.1506 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 OBS(m/s) Ca se 2( m /s ) y = 1.0057x R2 = 0.484 0 5 10 15 0 5 10 15 OBS(m/s) C as e3 (m /s ) y = 0.9428x R2 = 0.5173 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 OBS(m/s) C as e3 (m /s ) W RF Cas e2 (m/ s) W RF Cas e1 (m/ s) W RF Cas e3 (m/ s) OBS(m/s) OBS(m/s) a) 高度 285m b) 高度 500m 図9㻌 相関図 日最大風速( m /s) 日 0 5 10 15 20 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 0 5 10 15 20 012345678910111213141516171819202122232425262728293031 㻻㻮㻿 㻯㼍㼟㼑㻝㻔領域小) 㻯㼍㼟㼑㻞㻔領域大㻙㼚㼡㼐無) 㻯㼍㼟㼑㻟㻔領域大㻙㼚㼡㼐有) 図10㻌 日最大風速の時系列変化(高度 285m) 0 1 2 3N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NW NNW 0 5 10 15N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NW NNW 0 1 2 3N NNE NE ENE E ESE SE SSE SSW SW WSW W WNW NWNNW OBS WRF 図11㻌 ワイブル係数 C 図12㻌 ワイブル係数 K
4.1.3㻌 風速鉛直分布のべき指数 α の比較 以下の手順で風速の鉛直分布とそのべき指数を求めた。 1) 観測結果と計算結果ともに高さ 500m での風向で 16 風向 にデータを分類。なお風速3m/s 以下のデータは除外。 2) 風向毎に観測と計算の時刻が一致するものを抽出。 3) 分類したデータを高度毎に平均化し,その鉛直分布のべ き指数を算出。 図13 に高さ 500m での卓越風向である NE、SW における 鉛直分布のべき指数を示す。図中には高度毎の平均風速と ±1σ(標準偏差)を示している。NE、SW ともに WRF の計算結 果は観測結果よりべき指数をやや小さめに評価している。 図14 に風向ごとのべき指数を示す。(WNW から N までの 風向はデータ数が少ないため,表示していない)。WRF の計 算結果は,風向によるべき指数の変化をよく捉えているが, 全般的に観測結果よりべき指数がやや小さい。 5.まとめ 本研究では、WRF による計算結果と観測結果の比較を行いながら、各物理モデルの選択とナッジングの有無が WRF の計算結果に与える影響を調べた。本研究で調査し明らかになったことを以下にまとめて述べる。 1) 物理モデルが上空の風向の計算結果に及ぼす影響は小さく、観測結果とかなりよく一致する。 2) WRFの計算結果は上空の風速のピークを観測結果より大きめに評価するが、地表面過程にNoahを用いることで、 このピークが抑えられ観測結果との対応が向上する。 3) 地表面過程に Noah を用いることで、地表面温度ならびに低い高度での気温が他のケースより高くなり、観測結果 との対応が格段によくなる。地表面温度は風速に比較的大きな影響を及ぼしている。 4) 計算領域を大きくすると上空の風向・風速ともに観測結果と対応がかなり悪くなったが,ナッジングをかけることで 観測結果に近づいた。これは,ナッジングに用いた FNL データが上空の風速・温度を良い精度で再現できているた めである。 5) 地表面過程に Noah を用いた WRF の解析結果によるワイブル係数は、観測結果と良く一致している。そのことから、 全風向だけでなく各風向の風速の発生頻度をWRF を用いて予測することができる。 6) WRF の計算結果は,風向によるべき指数の変化をよく捉えているが,全般的に観測結果よりべき指数が小さめの 値となった。 謝辞:本研究は科研費(課題番号 24360241)の助成を受けたものである。ここに記して謝意を表する。 参考文献 1) 義江、望月:領域気象モデルにより求めた風速の鉛直分布および発生頻度と観測結果との比較、第 22 回風工学 シンポジウム論文集、pp.73-78, 2012. 2) 大塚、後藤: 気象庁メソ客観解析データの特性について(その 1, 2)」, 日本風工学会誌, pp.87-90, 2011. 3) 東京都環境局, 大気汚染測定結果 http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/air/air_pollution/result_measurement.html 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 0.5 1 1.5 U/U500(m/s) H /H 500 (m ) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 0.5 1 1.5 U/U500(m/s) H /H 500 (m ) α=0.29 α=0.33 α=0.27 α=0.18 風向:NE 風向:SW データ数:397 データ数:958 OBS WRF OBS WRF 図13㻌 風速鉛直分布のべき指数 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 べき指数 OBS WRF N NE E SE S SW 図14㻌 風向によるべき指数の変化