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平成 30 年度 広島県ニホンジカ林業被害実態等調査分析 業務報告書 平成 31 年 3 月 株式会社野生動物保護管理事務所

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平成 30 年度

広島県ニホンジカ林業被害実態等調査分析

業務報告書

平成 31 年 3 月

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第1章 業務概要 ... 1 1. 業務名 ... 1 2. 業務目的 ... 1 3. 業務実施期間 ... 1 4. 業務実施区域 ... 1 5. 業務構成 ... 1 アンケート結果の集計 ... 1 植栽の可否及び植栽地における被害防除対策の効果を検証するための資料作成 .... 2 施業地における被害対策との関係に関する分析及び資料作成 ... 3 第2章 アンケートの集計結果 ... 8 1. アンケート結果の概要 ... 8 回収状況と施業地の所在 ... 8 植栽情報 ... 8 2. 植栽の可否及び植栽地における被害防除対策の効果検証 ... 15 被害の状況 ... 15 被害とシカ密度との関係 ... 27 対策の状況 ... 35 防除体制の整備 ... 40 3. 施業地における被害対策との関係に関する分析 ... 42 分析方針 ... 42 摂食被害程度と成林の可否との関係 ... 42 摂食被害程度とシカ密度との関係 ... 44 シカ密度による対策効果の違い ... 45 分析結果 ... 46 第3章 課題の整理と提案 ... 47 調査の対象範囲 ... 47 アンケート項目 ... 47 防護柵の維持管理 ... 47 捕獲の推進 ... 48 調査結果の活用 ... 48 参考文献 ... 49

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1 第1章業務概要 1.業務名 平成 30 年度広島県ニホンジカ林業被害実態等調査分析業務 2.業務目的 広島県のスギやヒノキの人工林は,今後主伐期を迎える。伐採後には,再造林による資 源循環の仕組みを構築する必要があるが,それにはいくつかの懸念事項がある。そのひと つがニホンジカ(以下,シカという)の分布拡大である。 県内のシカの生息区域及び生息数は拡大傾向にあり,今後の再造林による植栽箇所の増 大に伴い,苗木の食害による林業被害が増加する恐れがある。しかし,シカによる林業被 害の実態と被害地における植栽後のスギ・ヒノキの育成状況等の関係性は把握されていな い。このため,県はシカによる苗木の食害等の林業被害に関するアンケート調査を実施し た。 本業務は,県が実施したアンケートの結果を分析することにより,シカによる林業被害 発生地域やその態様,規模等の実態を把握し,今後の造林事業の適地選定,効果的な被害 防除方法の検討,シカ個体数管理等のための基礎資料を作成することを目的とする。 3.業務実施期間 平成 31(2019)年 1 月 11 日から平成 31(2019)年 3 月 29 日まで 4.業務実施区域 広島県全域 5.業務構成 アンケート結果の集計 県が実施,取りまとめを行ったアンケート結果の分析を行った。県が取りまとめをした 事項は以下である。  植栽地の所在等(市町)  植栽情報(植栽年度,樹種,被害防止施設の設置の有無等)  植栽地の被害情報(被害の有無,被害の態様,被害の規模,被害後の成林(生育) の可否) なお,アンケートの対象とした施業地は,平成 25(2013)年度から平成 29(2017)年度 までに森林整備事業により施業が行われた場所で,概ね 600 施業地分であった。(2)植 栽の可否及び植栽地における被害防除対策の効果を検証するための資料作成については, アンケートの結果の樹種を 5 つに分類し,出力物を作成した。県が配布した調査票と記入 要領を図 1-5-1 から図 1-5-4 に示す。

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2 植栽の可否及び植栽地における被害防除対策の効果を検証するための資料作成 ①地図 次の項目に関する SHP(もしくは GDB)形式及び PNG 形式の地図ファイルを作成した。 元データの形式や空間的な属性が異なる場合は,適切なデータ変換や空間統計処理を行い, 地図化した。 ア 5km メッシュごとに次のデータに応じて色分けした地図 a 摂食を受けた植栽木の割合(樹種別) イ 施業地ごとのポイントを次のデータに応じて色分けして表示した地図 a 摂食を受けた植栽木の割合(樹種別) ウ ポイントデータを空間補間し色分けした地図 a 摂食を受けた植栽木の割合(樹種別)(100mラスター) ②データセット及びグラフ ①により整理・加工したデータと,県提供の既存データを合わせて,次の項目のデータ とグラフのシートをもつ Excel ファイルを作成した。 ア 施業地ごとの Excel ファイル a 施業地と樹種の組合せを主キーとするデータテーブル  5km メッシュごとのニホンジカの推定生息密度と施業地の位置情報を用いて,空 間統計処理を施すことで得られた施業地周辺のニホンジカ生息密度 b ピボットテーブルとピボットグラフ(それぞれ別シートとし,市区町別・樹種別 にフィルターをかけて表示可能とした)  摂食を受けた植栽木の割合とニホンジカ生息情報(密度)との関係図  摂食を受けた植栽木の割合とニホンジカ被害対策(防護柵等)との関係図  施業地におけるニホンジカ被害対策の実施状況(割合)  被害を受けた施業地の成林(生育)の可否 イ 5km メッシュごとの樹種別 Excel ファイル a 5km メッシュ ID と年度を主キーとして以下のデータを集計したテーブル  施業地数及び面積  アンケートに回答した施業地数及び面積  林業被害状況の指標値(摂食を受けた植栽木の割合) ウ 市区町ごとの樹種別の Excel ファイル a 市区町 ID と年度を主キーとして,以下のデータを集計したテーブル  施業地数及び面積  アンケートに回答した施業地数及び面積  摂食を受けた植栽木の割合(各区分の施業地数)  被害対策(防護柵等)の効果(各区分の施業地数)

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3  成林(生育)の可否(各区分の施業地数) b ピボットテーブル(市区町別にフィルターをかけて表示可能とした)  施業地数及び面積  アンケートに回答した施業地数及び面積  摂食を受けた植栽木の割合(各区分の施業地数)  被害対策(防護柵等)の効果(各区分の施業地数)  成林(生育)の可否(各区分の施業地数) 施業地における被害対策との関係に関する分析及び資料作成 摂食を受けた植栽木の割合,摂食の部位及び程度等と成林(生育)の可否の関係を分析 し,各樹種が成林するために許容可能な被害程度を検討した。この他,施業地にける被害 の態様,被害対策の有無等が,被害状況及び被害後の生育状況にどのような影響を与えて いるかについて,総合的に評価,分析を行った。なお,詳細については,県と協議の上, 決定した。

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4 図 1-5-1 調査票(表) 【1 施業地情報】 帳票番号 調査日 事務取扱 調査者 年度 繰越区分 申請番号 申請枝番 所在 林小班 樹種 林齢 ha当本数 植栽面積 【2 被害調査】 ①調査木の平均樹高(目視でよい) 1 2 3 4 5  □1m未満  □1~2m未満  □2m以上 ②摂食を受けた植栽木の割合(本数率)  □食害なし  □1~10%未満  □10~30%未満  □30~50%未満  □50~100%  →(摂食を受けている場合,主たる摂食の部位・摂食の程度)  ◎第1位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (   割)  ○第2位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (   割)  ・第3位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (   割) ③樹高2m以上の場合,剥皮の程度(本数率)  □剥皮なし  □1~10%未満  □10~30%未満  □30~50%未満  □50~100% 剥皮被害の形態 新しい剥皮の有無  □角こすり  □摂食被害  □なし □あり ④下層植生  □なし  □ササ類  □草本類  □低木類 ⑤当該施行地における成林の可否(見込みでよい)  □問題なく成林  □成林は可能  □防除対策必要  □補植等が必要  □成林は不可能 【3 防除対策等】 ①防護対策  □実施なし  □防護柵  □忌避剤  □食害防止チューブ  →効果の有無  □効果あり  □効果あり  □効果あり  □効果なし  □効果なし  □効果なし (効果なしの場合の主な理由: ) ②シカの痕跡   ※例:管理が不十分で防護柵が倒れているなど  □痕跡なし  □シカ道  □足跡  □糞  □骨・角・死体等 ③シカの目撃又は鳴き声の確認  □なし  □鳴き声のみ  □姿を見た(   頭程度) 【4 防除体制の整備】 ①防護柵等の設置及び管理の担い手  □森林所有者  □森林組合等  □その他(      ) ②捕獲の担い手(見込みでよい)  □森林所有者  □森林組合等  □猟友会等 【5 自由意見欄】 平成30年度 ニホンジカによる林業被害実態調査アンケート 平成  年  月  日 施業地が近接し被害状況が同程度の場合(帳票番号  ~  まで同じ) 剥皮ありの場合 1 主たる摂食の部位(頂芽,側枝・側葉,全体的な食害)を本数率の多い順に第1位~第3位までで選択する。 2 第1位~第3位までの部位ごとの食害本数が何割かを,右の( 割)内に記入する。(割合の合計は10にして下さい。) 3 また,側枝・側葉,全体的な食害の場合,側枝・側葉の何%程度が食害を受けたかを記入する。(おおよそでよい。) □1~10%未満 □10~30%未満 □30~50%未満 □1~10%未満 □10~30%未満 □30~50%未満

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5 図 1-5-2 調査票(裏) 【1 施業地情報】 帳票番号 0 調査日 事務取扱 調査者 年度 H27 繰越区分 H27 申請番号 1000 申請枝番 所在 林小班

樹種 林齢 4年生 ha当本数 #REF! 植栽面積 2.00ha

【2 被害調査】 ①調査木の平均樹高(目視でよい) 1 2 3 4 5  □1m未満  □1~2m未満  □2m以上 ②摂食を受けた植栽木の割合(本数率)  □食害なし  □1~10%未満  □10~30%未満  □30~50%未満  □50~100%  →(摂食を受けている場合,主たる摂食の部位・摂食の程度)  ◎第1位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (  5割)  ○第2位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (  5割)  ・第3位   □頂芽  □側枝・側葉(  %食害)  □全体的な食害(  %食害)    (  1割) ③樹高2m以上の場合,剥皮の程度(本数率)  □剥皮なし  □1~10%未満  □10~30%未満  □30~50%未満  □50~100% 剥皮被害の形態 新しい剥皮の有無  □角こすり  □摂食被害  □なし □あり ④下層植生  □なし  □ササ類  □草本類  □低木類 ⑤当該施行地における成林の可否(見込みでよい)  □問題なく成林  □成林は可能  □防除対策必要  □補植等が必要  □成林は不可能 【3 防除対策等】 ①防護対策  □実施なし  □防護柵  □忌避剤  □食害防止チューブ  →効果の有無  □効果あり  □効果あり  □効果あり  □効果なし  □効果なし  □効果なし (効果なしの場合の主な理由: ) ②シカの痕跡   ※例:管理が不十分で防護柵が倒れているなど  □痕跡なし  □シカ道  □足跡  □糞  □骨・角・死体等 ③シカの目撃又は鳴き声の確認  □なし  □鳴き声のみ  □姿を見た(  2頭程度) 【4 防除体制の整備】 ①防護柵等の設置及び管理の担い手  □森林所有者  □森林組合等  □その他(      ) ②捕獲の担い手(見込みでよい)  □森林所有者  □森林組合等  □猟友会等 【5 自由意見欄】 ※記入方法が不明な場合:広島県林業課(082-513-3701)に問い合わせて下さい。 平成30年度 ニホンジカによる林業被害実態調査アンケート 平成  年  月  日 ○○○森林 001 広島市 中区 基町 10-52 100 ケ 052 #REF! 施業地が近接し被害状況が同程度の場合(帳票番号  ~  まで同じ) 剥皮ありの場合 ◎以下の場合,一番多い摂食の形態は,側枝・側葉が10~10%未満の割合で食害を受けているものが,被害木の5割程 度。 □1~10%未満 □10~30%未満 □30~50%未満 □1~10%未満 □10~30%未満 □30~50%未満

記 入 例

30 7 10 広島 県太郎

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図 1-5-3 記入要領(表)

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8 第2章アンケートの集計結果 1.アンケート結果の概要 調査対象となった施業地の基礎的な情報を把握するため,アンケートの回収状況や施業 地の所在,植栽情報などをまとめた。 回収状況と施業地の所在 県内 674 カ所の施業地にアンケートを発送した結果,674 件の回答があり,回収率は 100%であった。回答があった施業地の分布を図 2-1-1 に示す。施業地の分布は,県提供 の位置情報(座標)を用いて求めた。 図 2-1-1 アンケートに回答のあった施業地の分布 植栽情報 ①樹種区分ごとの施業地数と所在 施業地を植栽樹種にもとづいて,スギ・ヒノキ・S マツ・コウヨウザン・その他(広葉 樹)の 5 区分に分類した。各区分に含まれている樹種と該当の施業地数を表 2-1-1 に,樹 種区分ごとの施業地点を図 2-1-2 から図 2-1-4 に示した。 県内に広く分布をしていたのはヒノキのみであり,その他の樹種区分はいずれも分布に 偏りがみられた。

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9 表 2-1-1 樹種区分ごとの施業地数 樹種区分 各区分に含まれる樹種 施業地数 スギ スギ・スギ(実生)・スギ(実生コンテナ)・スギ(挿し木) スギ(挿し木コンテナ)・小花粉スギ(挿し木) 60 ヒノキ ヒノキ(実生)・ヒノキ(実生コンテナ)・ヒノキ(挿し木) 362 S マツ S アカマツ・S アカマツ(コンテナ)・S クロマツ 166 コウヨウザン コウヨウザン 17 その他(広葉樹) クヌギ・ケヤキ・コナラ・サクラ類 69 合計 674 図 2-1-2 樹種ごとの施業地分布図(スギ)

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12 ②施業年度と樹高 森林内に形成されるシカの採食痕であるブラウジングライン(ディアライン)が 2m 程 度(三浦,1999)であることから,樹高 2m 以下の植栽木はシカによる頂芽の摂食を受け ると考えられる(野宮ら,2013)。樹高 2m 以下の割合が,施業年度に応じてどのように変 化をするのかを確かめるため,施業年度と樹高の関係性を調べた。 (i)全体 全施業地の施業年度と樹高の関係を図 2-1-5 に示した。 施業年度に関わらず,シカの採食可能な樹高である 2m 以下の割合が 7 割以上を占めて いた。以上より,施業後 5 年経過している植栽木についても,対策が必要であることが分 かった。 図 2-1-5 植栽年度と樹高(全体) (ii)樹種区分別 樹種別の施業年度と樹高の関係を図 2-1-6 から図 2-1-8 に示した。施業地全体の結果と 比較すると,ヒノキは平成 25(2013)年施業の場合,樹高 2m を超える割合が 5 割弱ある ことから,成長速度が比較的早いことが分かった。S マツは,全体の結果と大差なかった。 スギ・コウヨウザン・その他(広葉樹)については,データ数が少なかったため,傾向を 読み取ることはできなかった。 図 2-1-6 植栽年度と樹高(スギ) 18 11 19 89 105 107 94 95 18 55 51 17 1 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% H55 H56 H57 H58 H59 1m未満 1~5m未満 5m以上 5 8 8 5 8 17 6 6 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% H55 H56 H57 H58 H59 1m未満 1~5m未満 5m以上

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13 図 2-1-7 植栽年度と樹高(上:ヒノキ,中:S マツ,下:コウヨウザン) 1 5 7 55 54 41 56 55 51 11 18 14 1 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% H55 H56 H57 H58 H59 1m未満 1~5m未満 5m以上 5 4 9 19 58 11 56 17 16 6 6 0% 50% 40% 60% 80% 100% H55 H56 H57 H58 H59 1m未満 1~5m未満 5m以上 4 11 0% 50% 40% 60% 80% 100% H58 H59 1m未満

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14 図 2-1-8 植栽年度と樹高(その他(広葉樹)) 15 5 1 1 5 59 4 6 1 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% H55 H56 H57 H58 H59 1m未満 1~5m未満 5m以上

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15 2.植栽の可否及び植栽地における被害防除対策の効果検証 被害の状況 県内の林業被害の現状を把握するため,摂食を受けた植栽木の割合,部位ごとの摂食被 害程度,樹高 2m 以上の剥皮被害の程度,成林の可否の 4 項目から被害の状況を確認した。 ①摂食を受けた植栽木の割合 被害状況の把握をするため,摂食を受けた植栽木の割合(本数率)を,食害なし,1~ 10%未満,10~30%未満,30~50%未満,50~100%の 5 段階に分け,集計した。 (i)全体 施業地全体の集計結果を図 2-2-1 に,地図化したものを図 2-2-2 に示した。施業地に偏 りがあるなかで,県全域の傾向を読み取るために,空間統計処理(空間補間)を行い,俯 瞰的に被害状況を把握した。具体的には,IDW(Inverse Distance Weighted)を用いた内 挿処理を施した。内挿処理の検索範囲は各施業地から 20km 圏内とし,その範囲内にある 3 地点分のデータを使用する設定とした。解析には,摂食を受けた植栽木の割合の中央値 を用い,調査対象の施業地が 1 件もない市区町については,情報なしとした。結果を図 2-2-3 に示した。 その結果,他の市区町に比べると,安芸高田市と東広島市,世羅町,庄原市は被害率が 高かった。 図 2-2-1 摂食を受けた植栽木の割合(全体) 578 71 19 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% 50~100% 10~10%未満 1~10%未満 食害なし

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図 2-2-2 摂食を受けた植栽木の割合

図 2-2-3 摂食を受けた植栽木の割合

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17 (ii)樹種区分別 樹種区分別の摂食を受けた植栽木の割合のグラフを図 2-2-4 に,空間補間した地図を図 2-2-5 から図 2-2-7 に示した。解析には摂食を受けた植栽木の割合の中央値を用い,調査 対象の施業地が 1 件もない市区町については,情報なしとした。 全樹種区分の中で,他の樹種区分に比べて被害程度が大きかったのは,ヒノキであった。 ヒノキは,安芸高田市,世羅町,東広島市,安佐北区で一定以上の被害がみられた。コウ ヨウザンについてはデータ数が非常に少なかったため,傾向を読み取ることはできないと 判断した。一方,スギ・S マツ・その他(広葉樹)については,全体的に被害割合は高く なかった。ただし,植えている樹種に地理的な偏りがあり,それに関連したシカの分布状 況にも違いがあるため,この結果は一概に樹種による被害の受けやすさの違いを示してい ない。なお,シカとの関係については,後述するため,ここでは,省略する。 図 2-2-4 摂食を受けた植栽木の割合(樹種区分別) 57 110 110 14 67 1 14 14 5 1 15 5 1 1 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% スギ ヒノキ Sマツ コウヨウザン その他(広葉樹) 食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

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図 2-2-5 摂食を受けた植栽木の割合(上:スギ,下:ヒノキ)

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図 2-2-6 摂食を受けた植栽木の割合(上:S マツ,下:コウヨウザン)

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20 図 2-2-7 摂食を受けた植栽木の割合(その他(広葉樹)) 空間統計処理に用いた施業地数:69 件 ②摂食部位ごとの被害程度 摂食された部位によって樹木の生長に与える影響が異なるため,摂食部位ごとの被害程 度に差があるか,また樹種区分によりその傾向が異なるのかを検討した。何らかの摂食被 害を受けている施業地を対象とし,摂食を受けた部位(頂芽,側枝・側葉,全体的な食害 のいずれか)と,摂食被害の程度を 3 段階(1~10%未満,10~30%未満,30~50%未満) で集計した。なお,頂芽については,聞き取り項目が摂食の有無のみであったため,段階 別の集計は行わなかった。 (i)全体 摂食部位ごとの採食程度の割合を図 2-2-8 に示した。最も多かったのは全体的な食害で, いずれの部位も被害程度「10~30%未満」と「30~50%」を合わせた割合が約 3 割を占め ていた。また,部位による違いはみられなかった。

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21 図 2-2-8 摂食部位別の被害程度 (ii)樹種区分別 何らかの摂食被害を受けている施業地を対象とした,摂食部位ごとの被害程度の割合を 図 2-2-9,図 2-2-10 に示した。 ヒノキは,いずれの部位も被害程度「10%~30%未満」と「30~50%未満」を合わせた 割合が全体の約 4 割を占めており,部位による違いはみられなかった。S マツについては, 被害程度「10%~30%未満」と「30~50%未満」を合わせた割合は全体の 1 割前後であり, こちらも部位による違いはなかった。スギとコウヨウザンについては,データ数が少なか ったため,傾向を読み取ることはできなかった。また,その他(広葉樹)については,部 位別の摂食被害程度に関する回答はなかった。 図 2-2-9 摂食部位別の被害程度(樹種区分別) 45 41 18 17 1 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% 全体的な食害 側枝・側葉 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満 1 54 51 1 14 11 5 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% 全体的な食害 側枝・側葉 全体的な食害 側枝・側葉 スギ ヒノキ 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満

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22 図 2-2-10 摂食部位別の被害程度(樹種区分別) ③樹高 2m 以上の剥皮の程度 剥皮被害の程度を把握するため,樹高 2m 以上の植栽木の剥皮被害の程度(本数率)を, 剥皮なし,1~10%未満,10~30%未満,30~50%未満,50~100%の 5 段階で集計した。 結果を図 2-2-11 に示した。剥皮なしと回答した施業地が 9 割強あったが,この設問に は,平均樹高 2m 未満と回答した施業地も多く回答していたため,結果の読み取りには注 意が必要である。 図 2-2-11 樹高 2m 以上の剥皮の程度(全体) ④成林の可否 林業において,植栽地が成林するか否かは最も重要な事項のひとつである。そこで,各 施業地の成林状況(見込み含む)を,問題なく成林,成林は可能,防除対策が必要,補植 等が必要,成林は不可能の 5 段階で集計した。 (i)全体 施業地全体の結果をグラフ化したものを図 2-2-12 に,地図化したものを図 2-2-13 に示 した。成林は不可能と回答した施業地はなく,9 割以上の施業地で成林は可能もしくは, 50 50 5 1 5 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% 全体的な食害 側枝・側葉 全体的な食害 Sマツ コウヨウザン 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満 641 14 4 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% 剥皮なし 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満

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23 問題なく成林と回答された。今回,調査対象となった植栽地は基本的には成林が可能であ り,県域でみると,対策が必要な地域は一部であった。 図 2-2-12 成林の可否(全体) 図 2-2-13 成林の可否(全体) (ii)樹種区分別 樹種区分別の結果を図 2-2-14 に,地図化したものを図 2-2-15 から図 2-2-17 に示した。 コウヨウザンについては,補植もしくは,防除などの何らかの対策が必要と答えた施業 地の割合が 2 割を超えた。コウヨウザン以外の樹種区分については,9 割以上の施業地が 491 154 1511 0% 50% 40% 60% 80% 100% 問題なく成林 成林は可能 防除対策必要 補植等が必要

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24 追加の対策を行わなくても成林は可能という結果となった。ただし,データ数が少ないた め,今回の結果だけでは,樹種区分による違いをみることは難しいと判断した。 図 2-2-14 成林の可否(樹種区分別) 図 2-22-15 成林の可否(スギ) 11 581 119 11 49 58 65 41 18 7 4 1 1 7 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% スギ ヒノキ Sマツ コウヨウザン その他(広葉樹) 問題なく成林 成林は可能 防除対策必要 補植等が必要

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27 被害とシカ密度との関係 シカは草本や木本の枝葉,樹皮などを採食するため,林業に与える影響が大きい。よっ て,シカの生息状況(密度)が高い地域は,そうでない地域に比べ,被害が増加すること が予測される。そこで,県内のシカの生息密度と各施業地から報告のあった被害状況を合 わせて分析し,シカの生息状況と被害の関係を明らかにした。 ①シカの生息状況 平成 30 年度特定鳥獣等生息状況モニタリング調査・分析・計画策定業務の中で推定さ れた,5 倍地域メッシュ(約 5km 四方)単位での県内のシカの生息密度を図 2-2-18 に示し た。また,図中には,施業地ごとのシカの生息情報の有無を示した。シカの痕跡(シカ道, 足跡,糞,角・骨・死体等),もしくは目撃(鳴き声のみも含む)のいずれか 1 つが確認さ れている施業地を「生息情報あり」,痕跡も目撃もない施業地を「生息情報なし」とした。 それぞれの施業地数は「生息情報あり」が 267 件,「生息状況」が 371 件,未回答が 36 件 であった。 県内の施業地は,シカの生息密度が比較的低い場所に多く分布していた。県北東部を除 くと,シカ密度と今回のアンケートの結果から得られたシカの生息情報は概ね一致してい た。 図 2-2-18 シカの密度分布と生息情報のあった植栽地

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28 ②摂食被害とシカ密度との関係 シカが植栽木に与える影響を明らかにするため,シカの密度分布図と摂食被害を受けた 植栽木の割合(食害なし,1~10%未満,10~30%未満,30~50%未満,50~100%の 5 段 階)の結果を重ね合わせ,摂食被害とシカ密度との関係性を確認した。 (i)全体 摂食を受けた植栽木の割合とシカの密度分布との重ね合わせ図を図 2-2-19 に示した。 シカの生息密度が中~高程度の地域では,摂食を受けた植栽木の割合がその他の地域に 比べて高い傾向がある。庄原市内に摂食被害が 50~100%と回答した施業地が 1 件あるが, 自由記入欄への回答から,この施業地の摂食被害はノウサギによるものであると考えらえ る。 図 2-2-19 摂食被害とシカ密度との関係(全体) (ii)樹種別 樹種区分ごとの摂食を受けた植栽木の割合とシカの生息密度との関係を図 2-2-20 から 図 2-2-22 に示した。 ヒノキついては,シカの生息密度が高い地域ほど被害が大きいという傾向がみられた。 その他の樹種については,施業地の分布に偏りがあったため,傾向を読み取ることはでき なかった。

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31 図 2-2-22 摂食被害とシカ密度との関係(その他(広葉樹)) ③成林の可否とシカ密度との関係 シカと成林の可否との関係性を明らかにするため,シカの密度分布図と成林の可否(問 題なく成林,成林は可能,防除対策必要,補植等が必要,成林は不可能の 5 段階)の結果 を重ね合わせた。 (i)全体 施業地全体の成林の可否とシカの生息密度との重ね合わせ図を図 2-2-23 に示した。 庄原市の一部地域を除くと,補植もしくは,防除といった何らかの対策が必要と答えた 施業地は,シカの生息密度が高い地域の周辺部に多かった。

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32 図 2-2-23 成林の可否とシカ密度との関係(全体) (ii)樹種区分別 樹種区分ごとの成林の可否とシカの生息密度との重ね合わせ図を図 24 から図 2-2-26 に示した。 ヒノキについては,シカ密度が高い地域ほど補植,もしくは防除といった何らかの対策 が必要と答えた割合が高い傾向があった。その他の樹種については,施業地の分布に偏り があったため,シカの生息密度との関係をみることはできなかった。

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35 図 2-2-26 成林の可否とシカ密度との関係(その他(広葉樹)) 対策の状況 施業地の対策状況を把握するため,実際に施業地で行っている対策やその効果などを集 計した。 ①実施されていた対策 施業地での対策状況を把握するため,対策の実施状況を,実施なし,防護柵設置,忌避 剤使用,食害防止チューブ設置の 4 項目で聞き取った。 (i)全体 施業地全体の集計結果を図 2-2-27 に,地図化したものを図 2-2-28 に示した。 対策なしが 8 割以上を占め,次いで防護柵,食害防止チューブ,忌避剤の順で割合が高 かった。対策方法は地域によって異なり,食害防止チューブと回答した施業地は,いずれ も東広島市に分布していた。防護柵は三次市,安芸高田市,北広島市周辺で主に利用され ていた。この地域的な偏りは,ひとつの森林組合が管轄内の複数の施業地を管理するため, 森林組合としての対策方法の選択の違いを反映していると考えられる。

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36 図 2-2-27 実施されていた対策(全体) 図 2-2-28 対策の実施状況 (ii)樹種区分別 樹種区分別の結果を図 2-2-29 に示した。 スギ・ヒノキ・S マツは,対策をしている施業地が 1 割にも満たなかった一方で,その 他(広葉樹)は,8 割以上の施業地で対策を行っていた。コウヨウザンについては,デー タ数が少ないものの,スギやヒノキ,S マツより対策を実施している割合は大きかった。 588 1 15 75 0% 50% 40% 60% 80% 100% 実施なし 忌避剤 食害防止チューブ 防護柵

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37 図 2-2-29 実施されていた対策(樹種区分別) ②対策の効果 対策の効果を確認するため,実施した対策の効果の有無を集計し,結果を図 2-2-30 に 示した。 防護柵については全ての施業地で効果がみられた。忌避剤と食害防止チューブについて は,データ数が非常に少ないため,効果の有無を検討することは難しい。 図 2-2-30 対策の効果の有無(全体) ③対策と被害程度との関係 対策と林業被害の関係を確認するため,実施対策と植栽木の摂食被害の程度(食害なし, 1~10%未満,10~30%未満,30~50%未満,50~100%の 5 段階)の関係を確認した。シ カがいない施業地を分析対象に含めると,対策なしでも被害がないという関係が得られる 可能性が高くなるため,シカの生息情報がない施業地は分析対象外とした。 実施した対策と摂食された植栽木の割合との関係を図 2-2-31 に示した。 59 141 165 11 15 1 5 1 9 1 18 1 4 48 0% 50% 40% 60% 80% 100% スギ ヒノキ Sマツ コウヨウザン その他(広葉樹) 実施なし 忌避剤 食害防止チューブ 防護柵 75 1 8 4 0% 50% 40% 60% 80% 100% 防護柵 忌避剤 食害防止チューブ 効果あり 効果なし

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38 防護柵を設置している施業地では,食害なしが 8 割を超えることから,防護柵は林業被 害の対策に効果があると考えられる。忌避剤と食害防止チューブについては,データ数が 少ないため,被害状況との関係を十分に分析することはできなかった。 図 2-2-31 実施対策と摂食被害程度の関係(全体) シカの生息情報がある施業地(266 件)のみを分析対象とした また,対策の有無がどの程度被害状況に影響を与えているのかを視覚的に確認するため, 被害対策をしている施業地としていない施業地に分け,シカの密度分布図と摂食を受けた 植栽木の割合の結果を重ね合わせた。結果を図 2-2-32,図 2-2-33 に示した。 シカ密度の比較的高い地域に分布する施業地は,対策をしているか否かに関わらず,一 定以上の被害がみられる場合が多かった。対策と被害の関係性については,後に示すため, ここでは省略する。 110 60 7 59 6 1 17 5 1 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% 実施なし 防護柵 忌避剤 食害防止チューブ 食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

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図 2-2-32 摂食を受けた植栽木の割合とシカ密度との関係 (対策を実施した施業地)

図 2-2-33 摂食を受けた植栽木の割合とシカ密度との関係 (対策を実施していない施業地)

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40 防除体制の整備 林業従事者の防除に対する意識を確認するため,防護柵や捕獲の実施体制について集計 した。 ①防護柵等の担い手 施業地全体の防護柵等の設置及び管理の担い手の割合を図 2-2-34 に,結果を地図化し たものを図 2-2-35 に示した。 森林組合が最も多く,次いで森林所有者という結果であった。なお,回答には地域的な 偏りがあり,森林所有者と回答した割合は,ほぼ全ての市区町で 2 割以下であったが,庄 原市では 6 割以上であった。これらの結果から,大部分の森林組合は,防護柵の設置など は自らの役割であるという認識をもっていることが分かった。 図 2-2-34 防護柵等の担い手 図 2-2-35 防護柵等の担い手 90 510 6 0% 50% 40% 60% 80% 100% 森林所有者 森林組合等 その他

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41 ②捕獲の担い手 施業地全体の捕獲の担い手の割合を図 2-2-36 に,結果を地図化したものを図 2-2-37 に 示した。 猟友会が最も多く,次いで森林所有者が多かった。森林組合は最も低く,2%にも満たな かった。森林組合と回答した施業地はいずれも三原市に分布していた。以上の結果から, 三原市の一部地域を除いて,森林組合が自ら捕獲の担い手になるという認識は低いことが わかった。 図 2-2-36 捕獲の担い手 図 2-2-37 捕獲の担い手 106 10 509 0% 50% 40% 60% 80% 100% 森林所有者 森林組合等 猟友会等

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42 3.施業地における被害対策との関係に関する分析 分析方針 成林の可否は,植栽木の被害の程度に影響される。そして,被害の程度は施業地周辺に 分布するシカの生息状況や対策状況によって異なると考えられる。このように,成林の可 否に影響を与える要因を解明するには,被害発生のプロセスを整理し,分析を進めること が重要である。 初めに本項では,摂食を受けた植栽木の割合がどの程度であれば,成林が可能であるの かを検討し,「被害を受けた植栽木の割合が〇%以下だと成林可能」という被害の許容値 の判断材料を提示した。また,摂食被害とシカ密度との関係解析を行うことで,どの程度 の密度でシカが生息していれば,摂食被害が生じるのかを明らかにした。さらに,県内で 実施されている対策の効力を確認し,どのような場合に対策を実施するかの判断材料を提 案するために,対策と被害状況の関係性も明らかとした。分析のイメージを図 2-3-1 に示 した。 また,施業から数年経っていない施業地では,被害状況が正しく反映されない可能性が あると考え,平成 29(2017)年度施業の地点については,分析対象外とした。 図 2-3-1 分析イメージ 摂食被害程度と成林の可否との関係 摂食を受けた植栽木の割合がどの程度であれば,成林が可能であるのかを検証するため, 被害の程度と成林の可否との関係を調べた。被害程度は,摂食を受けた植栽木の割合(本 数率)と,摂食を受けた植栽木を対象とした摂食部位ごとの被害程度の 2 種類とした。ま

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43 た,成林の可否は問題なく成林,成林は可能,防除対策必要,補植等が必要,成林は不可 能の 5 段階で聞き取りを行ったが,本項では,防除対策必要と補植等が必要の 2 項目をま とめ,対策が必要とした。よって,成林の可否については,問題なく成林,成林は可能, 対策が必要,成林は不可能の 4 段階で分析した。 ①摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と成林の可否との関係 摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と成林の可否との関係を図 2-3-2 に示した。 摂食被害が 10%を超える施業地では 6 割以上で,対策(補植,もしくは防除)が必要と 回答された。以上から,90%以上の施業地を対策なしで成林させるためには,摂食被害を 受けた植栽木の割合が全体の 10%未満である必要があることが分かった。 図 2-3-2 摂食被害程度と成林の可否との関係(全体) 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した ②摂食部位ごとの被害程度と成林の可否との関係 摂食部位ごとの被害程度と成林の可否との関係を図 2-3-3 に示した。 全体的な食害,側枝・側葉ともに,被害程度が 10~30%以上を超えると対策が必要と回 答した施業地の割合が大幅に増加することから,90%以上の施業地を対策なしで成林させ るためには,部位に関わらず,摂食被害程度の割合が全体の 10%未満である必要があるこ とがわかった。なお,頂芽については摂食被害程度の聞き取り項目がなかったため,分析 対象から除外した。 175 15 1 79 46 6 4 11 4 0% 50% 40% 60% 80% 100% 食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100% 問題なく成林 成林は可能 対策が必要

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44 図 2-3-3 部位ごとの摂食を受けた割合と成林の可否 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した 以上の結果から,摂食された部位に関わらず,摂食を受けた植栽木の割合 10%が対策の 有無を判断する目安となることが示唆された。 摂食被害程度とシカ密度との関係 シカの分布状況や生息密度が地域によって異なるなかで,どの程度のシカ密度であれば, 対策が必要となるのかを明らかにするため,摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と 5 倍 地域メッシュ別の生息密度の関係解析を実施した。5 倍地域メッシュ別の生息密度は,平 成 30 年度特定鳥獣等生息状況モニタリング調査・分析・計画策定業務で求められた値を 使用した。また,解析には下層植生衰退度とシカ密度との関係を最もよく説明することが 知られている,調査地点から半径 4.5km 以内のシカの生息密度を使用した(岸本ら,2012)。 解析に用いた生息密度は,各施業地の施業年度に応じて使用年数を変えた(例:平成 25 (2013)年施業なら平成 25(2013)年から平成 29(2017)年までの 5 年分,平成 26(2014) 年施業なら平成 26(2014)年から平成 29(2017)年までの 4 年分)。施業地ごとの生息密 度の求め方を以下に示す。 ① 各施業地点から半径 4.5km のバッファーを発生 ② バッファーと森林,生息密度データを含んだ五倍地域メッシュが重なるポリゴンを 作成 ③ 森林ポリゴンの面積で重み付けをして各施業地点から半径 4.5km の生息密度の平均 を算出 ④ 得られた生息密度の平均値を算出 算出されたシカ密度を,1km2あたり 0~2 頭,2~5 頭,5 頭以上の 3 区分に分類して, 摂食を受けた植栽木の割合との関係を分析した。結果を図 2-3-4 に示した。 6 1 7 15 1 59 7 4 11 5 5 8 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満 全体的な食害 側枝・側葉 問題なく成林 成林は可能 対策が必要

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45 シカの生息密度が 5 頭/km2以下の施業地では,摂食被害を受けた施業地の割合が 1 割未 満であった。一方,5 頭/km2以上の施業地では,3 割程度の施業地で被害が生じた。 成林するために何らかの対策が必要となる摂食被害 1 割以上の施業地は,5 頭/km2以上 の施業地においても 1 割弱であった。シカ密度が高い地域には植林されていないという傾 向があり(図 2-2-18 参照),シカ密度が高い地域では,現場の判断で植林が避けられてい ることが推測された。施業者の経験則などにより,被害が起こりえる場所を避けることで, 県内の被害割合が低く抑えられている可能性がある。今後,新規の植林をするのであれば, 対策なしでの成林が難しくなる 10%以上の被害程度が増加する生息密度 5 頭/km2が対策 実施有無の目安になる。 図 2-3-4 シカ密度と摂食を受けた植栽木の割合との関係 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した シカ密度による対策効果の違い 対策の効果を検証するため,対策を実施している施業地と,未実施の施業地に分け,シ カ密度と摂食を受けた植栽木の割合(本数率)の関係を確認した。忌避剤と食害防止チュ ーブについては,データ数が非常に少なかったため,分析対象外とした。結果を図 2-3-5 に示した。 対策をしていない施業地では,生息密度 2~5 頭/ km2では 1 割強,5 頭/km2では 4 割弱 の地点で被害がみられた。一方,防護柵を設置している施業地では,2~5 頭/ km2では被 害が生じず,5 頭/ km2でも 2 割程度に収まった。以上から,防護柵はシカ対策に有益であ ると考えられる。しかし,防護柵を設置した場所であっても,被害は生じることも分かっ た。防護柵は設置後する効果が現れるため,非常に重宝される対策ではある。しかし,設 置後の維持管理をしていかないと,その効力は低下してしまうため,設置後も十分な管理 を行うことが重要である。また,防護柵以外に有効な対策としては,捕獲が挙げられる。 今後は,防護柵と捕獲の両輪で対策を進めていくことが重要である。 110 551 151 1 54 18 6 15 1 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% 0-5頭/㎢ 5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上 食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

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46 図 2-3-5 シカ密度と摂食を受けた植栽木の割合 (上:対策未実施,下:対策(防護柵)実施) 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した 分析結果 分析結果の概要を以下に示した。 ① 施業地を成林させるためには,摂食を受けた植栽木の割合を 10%以下に抑える必要 がある。 ② 1km2あたり 5 頭というシカ密度が対策を実施する必要があるかを判断するひとつの 目安となる。 ③ 被害を軽減させるための対策としては,防護柵が効果的である。しかし,防護柵だ けでは成林が難しいと判断される施業地(摂食被害 10%以上)も確認されたため, 今後は柵の補修点検の推進や,捕獲等と合わせた複合的な対策が必要となる。 109 197 81 1 54 11 6 10 1 1 0% 50% 40% 60% 80% 100% 0-5頭/㎢ 5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上 食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100% 54 15 5 5 0% 50% 40% 60% 80% 100% 5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上 食害なし 1~10%未満 10~10%未満

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47 第3章課題の整理と提案 本業務で実施した県下 674 件の施業地に向けてのアンケートとその分析により,県内の シカによる林業被害の被害状況や対策状況,対策の効果等を把握できた。また,アンケー トの回収率は 100%と非常に高く,今回の調査結果は,シカによる林業被害について網羅 的に把握した基礎資料になった。 今回,シカによる林業被害等の状況が把握できた一方で,アンケートの項目や対策の実 施面等で,いくつかの課題も確認された。以下に今回の調査で得られた課題を取りまとめ, その解決策を提案する。 調査の対象範囲  課題 調査対象となる施業地がやや狭い  提案 調査の対象となる施業年度と地域を拡大する 今年度の調査対象は,過去 5 年間以内に森林整備事業により施業が行われた場所であり, 得られる情報が限られていた。林業被害を県全域で網羅的に把握し,その経年変化を調べ るためには,調査対象となる施業地を増やす必要がある。今回調査を実施していない施業 地を調査対象とすることや,対象の施業年度を拡大することで,シカによる林業被害の状 況がより明確になると期待される。 アンケート項目  課題 シカ以外の鳥獣の林業被害も分析対象となってしまう  提案 聞き取り項目の追加 今回の調査はシカによる林業被害状況を把握するために行われたものであったが,アン ケートには,被害の原因と考えられる鳥獣を聞き取る項目がなかった。しかし一般的に, ノウサギやネズミ類といった鳥獣も林業に被害を及ぼすことが知られている。それらの鳥 獣による被害を確実に区別するためにも,アンケートの聞き取り項目に,「被害の原因と 考えられる鳥獣」を追加する必要がある。 また,それに加えて,被害対策の効果を検証するためには,「対策の実施時期」や,「実 施前後の被害状況の変化」を聞き取る必要がある。こうした項目を追加することで,県内 のシカによる林業被害をより正確に把握できると考えられる。 防護柵の維持管理  課題 防護柵を設置しているにも関わらず,深刻な被害が生じた施業地があった  提案 研修会等で,設置方法や補修点検の必要性を普及する 摂食被害の程度とシカの生息密度,防護柵の設置有無の関係を分析した結果,防護柵の 設置は被害防止に一定の効果があることが分かった。しかし,シカの密度が高い地域に分 布する施業地のなかには,柵を設置しても 1 割以上の摂食被害が生じている施業地があっ た。まずは,これらの施業地を対象に,被害が生じた原因を突き止めることが重要である。

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48 現状の調査結果を踏まえて,対策を実施しているにも関わらず,深刻な被害が発生する施 業地を減少させるためにも,研修会などを開催し,正しい防護柵の設置の仕方や,補修点 検などの考え方について伝えていくことが重要である。 捕獲の推進  課題 現状では,捕獲については施業者自身が実施することを想定していない  提案 捕獲の必要性や技術についての研修会を開催 大部分の森林組合が防護柵等の管理を自らの役割であると意識していた一方で,捕獲に 関する意識は非常に低いことが分かった。防護柵は効果的なシカ対策のひとつとして知ら れており,今回の調査結果からもその効果の高さが確認された。しかし,森林域において, 防護だけですべての被害を防止することは難しい。防護柵だけでは防ぎきれない林業被害 を防止するためには,捕獲と防護の両輪が重要となってくる。県内の森林組合の捕獲に携 わるきっかけを作るためにも,前述した防護に加え,捕獲についての研修会を開催してい くことが重要である。 調査結果の活用  課題 本業務の調査結果の活用  提案 調査結果をパンフレット等で森林組合等にフィードバックする 今回の調査で,県内の林業の状況や対策の実施状況とその効果が明らかとなった。この 結果を,実際に林業に携わる森林組合等にパンフレットとして配布することで,管轄の施 業地の対策の必要性や,どういった対策が効果的なのかを伝えることができる。また,こ のような調査結果のフィードバックは,アンケートの回収率を高く維持することにも貢献 する。次年度,今回集計した結果をパンフレットとして取りまとめて,協力者に配布する ことを提案する。

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49 参考文献 岸本康誉・藤木大介・坂田宏志.2012.森林生態系保全を目的とした広域モニタリングによるニ ホンジカの密度管理手法の提案.兵庫県ワイルドライフモノグラフ.4:92-104pp. 三浦慎悟.1999.野生動物の生態と農林業被害.全国林業改良普及協会.174pp. 野宮治人・重永英年・矢部恒晶.2013.無下刈りによるシカ食害の軽減とスギ苗の成長低下.九 州森林研究.66:54-56pp.

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平成 30 年度 広島県ニホンジカ林業被害実態等 調査分析業務報告書 平成 31 年(2019 年)3 月 広島県 業務請負 (株)野生動物保護管理事務所 〒194-0215 東京都町田市小山ヶ丘 1-10-13

図 1-5-3  記入要領(表)
図 1-5-4  記入要領(裏)
図 2-1-3  樹種ごとの施業地分布図(上:ヒノキ,下:S マツ)
図 2-1-4  樹種ごとの施業地分布図(上:コウヨウザン,下:その他(広葉樹) )
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参照

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