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第2章 アンケートの集計結果

3. 施業地における被害対策との関係に関する分析

成林の可否は,植栽木の被害の程度に影響される。そして,被害の程度は施業地周辺に 分布するシカの生息状況や対策状況によって異なると考えられる。このように,成林の可 否に影響を与える要因を解明するには,被害発生のプロセスを整理し,分析を進めること が重要である。

初めに本項では,摂食を受けた植栽木の割合がどの程度であれば,成林が可能であるの かを検討し,「被害を受けた植栽木の割合が〇%以下だと成林可能」という被害の許容値 の判断材料を提示した。また,摂食被害とシカ密度との関係解析を行うことで,どの程度 の密度でシカが生息していれば,摂食被害が生じるのかを明らかにした。さらに,県内で 実施されている対策の効力を確認し,どのような場合に対策を実施するかの判断材料を提 案するために,対策と被害状況の関係性も明らかとした。分析のイメージを図 2-3-1 に示 した。

また,施業から数年経っていない施業地では,被害状況が正しく反映されない可能性が あると考え,平成 29(2017)年度施業の地点については,分析対象外とした。

図 2-3-1 分析イメージ

摂食被害程度と成林の可否との関係

摂食を受けた植栽木の割合がどの程度であれば,成林が可能であるのかを検証するため,

被害の程度と成林の可否との関係を調べた。被害程度は,摂食を受けた植栽木の割合(本 数率)と,摂食を受けた植栽木を対象とした摂食部位ごとの被害程度の 2 種類とした。ま

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た,成林の可否は問題なく成林,成林は可能,防除対策必要,補植等が必要,成林は不可 能の 5 段階で聞き取りを行ったが,本項では,防除対策必要と補植等が必要の 2 項目をま とめ,対策が必要とした。よって,成林の可否については,問題なく成林,成林は可能,

対策が必要,成林は不可能の 4 段階で分析した。

① 摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と成林の可否との関係

摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と成林の可否との関係を図 2-3-2 に示した。

摂食被害が 10%を超える施業地では 6 割以上で,対策(補植,もしくは防除)が必要と 回答された。以上から,90%以上の施業地を対策なしで成林させるためには,摂食被害を 受けた植栽木の割合が全体の 10%未満である必要があることが分かった。

図 2-3-2 摂食被害程度と成林の可否との関係(全体)

平成 29(2017)年度施業の地点は除外した

② 摂食部位ごとの被害程度と成林の可否との関係

摂食部位ごとの被害程度と成林の可否との関係を図 2-3-3 に示した。

全体的な食害,側枝・側葉ともに,被害程度が 10~30%以上を超えると対策が必要と回 答した施業地の割合が大幅に増加することから,90%以上の施業地を対策なしで成林させ るためには,部位に関わらず,摂食被害程度の割合が全体の 10%未満である必要があるこ とがわかった。なお,頂芽については摂食被害程度の聞き取り項目がなかったため,分析 対象から除外した。

175

15 1

79

46

6 4

11

4

0%

50%

40%

60%

80%

100%

食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

問題なく成林 成林は可能 対策が必要

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図 2-3-3 部位ごとの摂食を受けた割合と成林の可否 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した

以上の結果から,摂食された部位に関わらず,摂食を受けた植栽木の割合 10%が対策の 有無を判断する目安となることが示唆された。

摂食被害程度とシカ密度との関係

シカの分布状況や生息密度が地域によって異なるなかで,どの程度のシカ密度であれば,

対策が必要となるのかを明らかにするため,摂食を受けた植栽木の割合(本数率)と 5 倍 地域メッシュ別の生息密度の関係解析を実施した。5 倍地域メッシュ別の生息密度は,平 成 30 年度特定鳥獣等生息状況モニタリング調査・分析・計画策定業務で求められた値を 使用した。また,解析には下層植生衰退度とシカ密度との関係を最もよく説明することが 知られている,調査地点から半径 4.5km 以内のシカの生息密度を使用した(岸本ら,2012)。 解析に用いた生息密度は,各施業地の施業年度に応じて使用年数を変えた(例:平成 25

(2013)年施業なら平成 25(2013)年から平成 29(2017)年までの 5 年分,平成 26(2014)

年施業なら平成 26(2014)年から平成 29(2017)年までの 4 年分)。施業地ごとの生息密 度の求め方を以下に示す。

① 各施業地点から半径 4.5km のバッファーを発生

② バッファーと森林,生息密度データを含んだ五倍地域メッシュが重なるポリゴンを 作成

③ 森林ポリゴンの面積で重み付けをして各施業地点から半径 4.5km の生息密度の平均 を算出

④ 得られた生息密度の平均値を算出

算出されたシカ密度を,1km2あたり 0~2 頭,2~5 頭,5 頭以上の 3 区分に分類して,

摂食を受けた植栽木の割合との関係を分析した。結果を図 2-3-4 に示した。

6 1 7

15

1

59

7 4

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5

5

8

5

0%

50%

40%

60%

80%

100%

1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満 1~10%未満 10~10%未満 10~50%未満

全体的な食害 側枝・側葉

問題なく成林 成林は可能 対策が必要

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シカの生息密度が 5 頭/km2以下の施業地では,摂食被害を受けた施業地の割合が 1 割未 満であった。一方,5 頭/km2以上の施業地では,3 割程度の施業地で被害が生じた。

成林するために何らかの対策が必要となる摂食被害 1 割以上の施業地は,5 頭/km2以上 の施業地においても 1 割弱であった。シカ密度が高い地域には植林されていないという傾 向があり(図 2-2-18 参照),シカ密度が高い地域では,現場の判断で植林が避けられてい ることが推測された。施業者の経験則などにより,被害が起こりえる場所を避けることで,

県内の被害割合が低く抑えられている可能性がある。今後,新規の植林をするのであれば,

対策なしでの成林が難しくなる 10%以上の被害程度が増加する生息密度 5 頭/km2が対策 実施有無の目安になる。

図 2-3-4 シカ密度と摂食を受けた植栽木の割合との関係 平成 29(2017)年度施業の地点は除外した

シカ密度による対策効果の違い

対策の効果を検証するため,対策を実施している施業地と,未実施の施業地に分け,シ カ密度と摂食を受けた植栽木の割合(本数率)の関係を確認した。忌避剤と食害防止チュ ーブについては,データ数が非常に少なかったため,分析対象外とした。結果を図 2-3-5 に示した。

対策をしていない施業地では,生息密度 2~5 頭/ km2では 1 割強,5 頭/km2では 4 割弱 の地点で被害がみられた。一方,防護柵を設置している施業地では,2~5 頭/ km2では被 害が生じず,5 頭/ km2でも 2 割程度に収まった。以上から,防護柵はシカ対策に有益であ ると考えられる。しかし,防護柵を設置した場所であっても,被害は生じることも分かっ た。防護柵は設置後する効果が現れるため,非常に重宝される対策ではある。しかし,設 置後の維持管理をしていかないと,その効力は低下してしまうため,設置後も十分な管理 を行うことが重要である。また,防護柵以外に有効な対策としては,捕獲が挙げられる。

今後は,防護柵と捕獲の両輪で対策を進めていくことが重要である。

110 551

151

1 54

18

6 15

1 1

0%

50%

40%

60%

80%

100%

0-5頭/㎢ 5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上

食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

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図 2-3-5 シカ密度と摂食を受けた植栽木の割合

(上:対策未実施,下:対策(防護柵)実施)

平成 29(2017)年度施業の地点は除外した

分析結果

分析結果の概要を以下に示した。

① 施業地を成林させるためには,摂食を受けた植栽木の割合を 10%以下に抑える必要 がある。

② 1km2あたり 5 頭というシカ密度が対策を実施する必要があるかを判断するひとつの 目安となる。

③ 被害を軽減させるための対策としては,防護柵が効果的である。しかし,防護柵だ けでは成林が難しいと判断される施業地(摂食被害 10%以上)も確認されたため,

今後は柵の補修点検の推進や,捕獲等と合わせた複合的な対策が必要となる。

109 197

81

1 54

11

6 10

1 1

0%

50%

40%

60%

80%

100%

0-5頭/㎢ 5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上

食害なし 1~10%未満 10~10%未満 50~100%

54

15 5 5

0%

50%

40%

60%

80%

100%

5-5頭/㎢ 5頭/㎢以上

食害なし 1~10%未満 10~10%未満

47 第3章 課題の整理と提案

本業務で実施した県下 674 件の施業地に向けてのアンケートとその分析により,県内の シカによる林業被害の被害状況や対策状況,対策の効果等を把握できた。また,アンケー トの回収率は 100%と非常に高く,今回の調査結果は,シカによる林業被害について網羅 的に把握した基礎資料になった。

今回,シカによる林業被害等の状況が把握できた一方で,アンケートの項目や対策の実 施面等で,いくつかの課題も確認された。以下に今回の調査で得られた課題を取りまとめ,

その解決策を提案する。

調査の対象範囲

課題 調査対象となる施業地がやや狭い

提案 調査の対象となる施業年度と地域を拡大する

今年度の調査対象は,過去 5 年間以内に森林整備事業により施業が行われた場所であり,

得られる情報が限られていた。林業被害を県全域で網羅的に把握し,その経年変化を調べ るためには,調査対象となる施業地を増やす必要がある。今回調査を実施していない施業 地を調査対象とすることや,対象の施業年度を拡大することで,シカによる林業被害の状 況がより明確になると期待される。

アンケート項目

課題 シカ以外の鳥獣の林業被害も分析対象となってしまう

提案 聞き取り項目の追加

今回の調査はシカによる林業被害状況を把握するために行われたものであったが,アン ケートには,被害の原因と考えられる鳥獣を聞き取る項目がなかった。しかし一般的に,

ノウサギやネズミ類といった鳥獣も林業に被害を及ぼすことが知られている。それらの鳥 獣による被害を確実に区別するためにも,アンケートの聞き取り項目に,「被害の原因と 考えられる鳥獣」を追加する必要がある。

また,それに加えて,被害対策の効果を検証するためには,「対策の実施時期」や,「実 施前後の被害状況の変化」を聞き取る必要がある。こうした項目を追加することで,県内 のシカによる林業被害をより正確に把握できると考えられる。

防護柵の維持管理

 課題 防護柵を設置しているにも関わらず,深刻な被害が生じた施業地があった

 提案 研修会等で,設置方法や補修点検の必要性を普及する

摂食被害の程度とシカの生息密度,防護柵の設置有無の関係を分析した結果,防護柵の 設置は被害防止に一定の効果があることが分かった。しかし,シカの密度が高い地域に分 布する施業地のなかには,柵を設置しても 1 割以上の摂食被害が生じている施業地があっ た。まずは,これらの施業地を対象に,被害が生じた原因を突き止めることが重要である。

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