Ⅰ.はじめに
金融機関は,大学生の就職先として人気が高い。 2013 年 2 月 27 日付け日本経済新聞掲載の「大学生就 職人気企業ランキング」1)では , 文系学生の場合 1 位の 日本生命から 10 位までを金融機関が占めている。福 井県立大学に於いても経済学部の学生(学年定員:経 済学科 100 名,経営学科 100 名,福井県出身者,県外 出身者はほぼ半々)は,毎年約 2 割が金融機関に就職 する。本学だけでなく,滋賀大学経済学部 28%,富 山大学経済学部 18%(平成 24 年度卒)と経済学部生 の金融機関就職者は多い。本学の場合卒業後 3 年以内 の離職率は 16.8%と全国平均を大幅に下回っているが, 金融機関はその業務の厳しさからか,離職割合が高い ことでも知られている。早期離職者は職業能力が蓄積 されにくいことから,その後非正規雇用として再就職 する割合が高くなることが報告されており,金融機関 への就職者が多い本学経済学部のキャリア教育に於い ては,いかに就業の継続に繋がる進路の選択に導くか が課題の一つである。 一方で,金融教育というと「公正な経済活動とは」 「お金とは」「主体的に判断できる消費者を目指して」 「多様化する商品売買取引と「契約」の重要性」2)など のテーマから推測されるように,金融商品に対峙する 消費者教育を目指したものが多いように思われる。ま た,経済学部系の大学で多く開講されている「金融 論」の学習は,金融が社会の中で果たす役割を考え理 解することに主眼が置かれているように思う。金融の 役割を理解し,将来の生活に備え金融の知識も身につ けることも必要なことではあるが,大学生に金融機関 志望者が多い現状を踏まえ,消費者に金融商品を提供 する金融パーソンとなるためのキャリア形成を支援す ることも,一つの金融教育と考えられないであろうか。 本研究では,キャリア教育の中に金融機関見学会を 中心とした金融教育を取り入れ,一つの業界を知るこ とで職業・職種の興味・関心を広げ,専門分野の学習 意欲も喚起することで将来の志望を確立し,金融パー ソンとしての就業継続,キャリア形成に繋げる試みを 紹介する。Ⅱ.早期離職者の現状と要因
7・5・3 現象(中学校卒で 7 割,高校卒で 5 割,大 学卒で 3 割が就職後 3 年以内に離職する現状を指す) と呼ばれるように,若年者の早期離職が問題となって いる。平成 24 年に内閣府が発表した「若者雇用を取 り巻く現状と問題」報告書では,高等教育終了後の就 職者 56.9 万人のうち 19.9 万人が 3 年以内に離職してい ると報告されており,離職率は 34.97%になる。金融 機関就職者の離職率については,東洋経済新報社が各 業種別の新入社員 3 年後の定着率という形で発表して いる。3)大手企業中心の調査ではあるが,全体の平均 定着率が 86.0%と高い中で,銀行 82.9%,証券 63.9%, 保険 86.0%の定着率と金融機関就業者に早期離職者の 多いことが連想される。労働政策研究・研修機構研究 員の小杉は,フリーター(若年の非正規雇用者)の就 業状況を調査し,早期離職した若年者は離職後に非正 規雇用者として転職する割合が高いことを指摘してい る(小杉:2011)。中里は「非正規雇用者は生涯収入 に於いて正規雇用者と差が生ずるだけでなく,職業能 力が蓄積されず正規雇用者への転換が難しくなる現状 が問題視されている」と述べている(中里:2013)。 このような状況から大学教育に於いては,就職率を高 めると同時に就職後の早期離職を防止するための教育 も求められている。 雇用や労働について各種の調査を実施している労働 政策研究・研修機構の「若年者の離職理由と職場定着 に関する調査」(2007 年)4)によれば,正社員の離職 理由(複数回答,上位 3 件までの合計)第 1 位は「給キャリア教育における
金融教育の取入れと効果
─早期離職防止に繋げる
福井県立大学経済学部の実践からの考察─
The Journal of Economic Education No.33, September, 2014Trial of Finance Education to Adopt for a Career Education
Nakazato, Hiroho
与に不満」(26.6%)となっている。以下「会社の安 定性・将来性に期待が持てない」(22.6%),「労働時 間が長い」(21.8%),「仕事上のストレスが大きい」 (21.7%),「職場の人間関係がつらい」(15.6%)の順 である。回答者のうち大学卒は 43.3%であるが,金融 保険業は 2.5%と少なく,これらの離職理由のすべて が金融機関就職者の離職に結びつくとは言い難いが, 仕事上のストレスや労働時間の長さなど金融機関の早 期離職者に当てはまる部分もあると思われる。 また,昨今の厳しい就職活動を反映した結果か,第 1 志望の会社に入社した新入社員(4 大卒)は 46.3% と毎年低下しており,「とりあえず内定傾向」が強い こと,新入社員の会社選択理由が,「自分の能力・個 性が活かせる」(第 1 位),「仕事が面白そうだから」 (第 2 位)など,自己中心的になっていることが問題 であると指摘されている。5) 早期離職を防止し,職場定着によりキャリア形成を 図ることは若者に求められている課題であると同時に, 大学に於いては単に就職するだけではなく,その後に 就業を継続できる力を育成する必要があると言えるで あろう。
Ⅲ.キャリア教育の意義と学習内容
金融パーソンとしてのキャリア形成を支援するキャ リア教育のあり方を考える上で,現在大学で取り組ま れているキャリア教育について整理してみる。 2000 年ごろより,大学で正課教育としてキャリア 教育科目を開講する動きが目立ってきた。「キャリア デザイン」「キャリアプランニング」などの科目であ る。キャリアは“車の轍”を語源とする言葉であり, 大きく人生そのものの生き方を表す「ライフキャリ ア」と職業生活・経験を中心とした「職業キャリア」 に分けられる。文部科学省はキャリア教育について, 「社会的・職業的自立に向けて,必要な知識・態度・ 技能を育む教育」と定義づけており,6)単に就職を目 指すものではないとしている。 法政大学キャリアデザイン学部の上西は,大学に於 いてキャリア教育が積極的に導入された背景を,(1) フリーター増加などに対応する文部科学省の政策的な 要請,(2)大学の入学者確保の必要性,(3)企業側の 要請,(4)就職活動に動けない学生への対応,(5)学 生の権利保障の 5 つに分類している(上西:2007)。 大学で実施されているキャリア教育はどのような内 容なのか。中里によれば,(1)大学生活の充実,(2) 自己理解・自己分析,(3)職業観の育成,(4)社会認 識・社会情報の収集,(5)キャリアプランの作成, (6)社会人基礎力の育成,(7)キャリア論の理解, (8)就職支援の 8 つのカテゴリーに分けられるという (図 1)。この中のどの内容をどの程度取り入れている かは,大学により異なっている(中里:2011)。 キャリア教育のどの学習領域が,早期離職防止に効 果があるのか。梅崎,田澤らは大学生活の学習や課外 活動を調査し,どのような要素が志望企業の内定獲得, 職場定着に繋がるのかを分析した(梅崎・田澤: 2013)。学生の行動・活動を Action(学内外の活動に 熱心に取り組む,スキルを身につける等 6 項目),Vi-sion(将来のビジョンを明確にする,将来のことを調 べて考える等 6 項目)に分ける(表 1)と,Action も Vision も得点が高い学生は,内定を得る確率を高めて いるという。さらに Vision の得点が高い学生の方が 内定先への満足度が高く,同時に離職する確率を減少 させている。その一方で Action の得点が高い学生が 離職の確率を高めていると分析している。もちろん大 学時代に熱心に学内外で活動した学生が押し並べて早 期に離職するわけではないが,この研究調査からは職 場定着に於いては Vision を持つことが重要であるこ とが窺われる。 この調査結果をキャリア教育の学習内容に当てはめ るとどのようなことが言えるのか。(2)自己理解・自 己分析,(3)職業観の育成,(5)キャリアプランの作 成などが Vision を持つことに繋がるであろう。キャ リア教育の定義にもある「社会的・職業的自立」をま ずしっかり認識することがキャリア形成の第 1 歩とな るのではないか。 金融教育として学校・大学で多く実施される金融機 関の外部講師による講話や職場見学はどのように位置 づけられるのか。これらは(4)社会認識・社会情報 の収集に該当し,社会的学習として効果があると言わ れる。社会的学習とは間接的体験によって学習(モデ リング)する過程を指し,進路選択などに於いては有 効な学習方法とされている。三村は「モデリングは 「注意⇒保持⇒運動再生⇒動機づけ」の流れをたどり, ただ情報を提供するだけではなく「動機づけ」過程を 経て最終的に行動に移させることが重要である」と述 べている(三村:2004)。 このように考えると,金融機関就職者の早期離職を 防ぐためには,キャリア教育としてまず金融機関で働 きたい,働くという明確な Vision を持つことを支援 し,職場見学等の金融教育の機会を活用し,「注意⇒保持⇒運動再生⇒動機づけ」を促し Vision を強固な ものにし,金融機関就職に向けた行動に移す働きかけ を行うことが有効に作用するのではないかと考えられ る。
Ⅳ.研究の進め方
金融機関を志望する学生は,金融機関に就職するこ とに対して明確な Vision を持っているのか。Vision を 持つことが就業継続に有効性が高いと考えられるので あれば,Vision を持たせるためにはどのような支援が 必要であるのか。本研究では福井県立大学経済学部 1, 2 年生を対象とした金融機関見学会の参加者へのアン ケート調査をもとに分析してみた。 福井県立大学では 2011 年度の新入学生より,キャ リア教育を導入した。経済学部の場合,専門の選択科 目と規定され 2013 年度の「キャリアデザイン概論Ⅰ」 は,97%の 1 年生が受講している。福井県立大学の キャリア教育は,「キャリアデザイン概論Ⅰ」「キャリ アデザイン概論Ⅱ」「キャリアデザイン特論」の 3 ス テップで構成され,前述の(1)から(8)のカテゴ リーをすべて含んでいる。入学初年次前期に開講され る「キャリアデザイン概論Ⅰ」に於いては,Vision 形 成に繋がる将来設計をすることの重要性,大学生活の 目標づくり,自己分析,キャリアプランの作成などに 重点を置き授業を進めている。 経済学部 2 年生前期には,経済学科必修,経営学科 選択の「金融論」4 単位(履修登録者は約 200 名)が 開講されている。2 年生の多くは 1 年次に「キャリア デザイン概論」を履修している。シラバスによれば 「金融論」の授業では「経済における金融の機能と実 際の制度や仕組みについて体系的に学ぶ」となってい る。今回は,この 2 教科の受講者を対象とした金融機 関見学会を実施し,事前指導やアンケート調査,見学 後のレポートの記述から学生の意識,および認識の変 化を分析する。 アンケートは「金融論」及び「キャリアデザイン概 論Ⅰ」の受講者に実施し,2 年次生 113 名,1 年次生 141 名から回答を得た。主な質問項目は,1)金融機 図 1 大学で実施されているキャリア教育科目の学習 内容 出所:50 大学で開講されているキャリア教育科目の 2010 年度 シラバスより筆者作成 表 1 キャリア・アクション・ビジョン・テスト―項目プロトタイプ― Action かなり できている ややできている どちらとも言えない あまりできていない できていない 学外の様々な活動に熱心に取り組む 5 4 3 2 1 尊敬する人に出会える場に積極的に参加する 5 4 3 2 1 人生に役立つスキルを身につける 5 4 3 2 1 様々な人に出会い人脈を広げる 5 4 3 2 1 何事にも積極的に取り組む 5 4 3 2 1 様々な視点から物事を見られる人間になる 5 4 3 2 1 Vision かなり できている ややできている どちらとも言えない あまりできていない できていない 将来のビジョンを明確にする 5 4 3 2 1 将来の夢をはっきりさせ目標を立てる 5 4 3 2 1 将来,具体的に何をやりたいかを見つける 5 4 3 2 1 将来に備えて準備する 5 4 3 2 1 将来のことを調べて考える 5 4 3 2 1 自分が本当にやりたいことを見つける 5 4 3 2 1 出所:『大学生の学びとキャリア』p.206,p.209 より筆者作成関に就職するイメージ(複数選択),2)金融機関への 就職の希望の有無,3)各金融機関の仕事の理解度, 4)金融機関で働く魅力ややりがい(自由記述),5) 金融機関で働く人に求められる性格や能力(自由記 述),である(表 2 参照)。これらの回答を,「金融機 関を志望している」と答えた学生と「金融機関に向い ていない」と答える学生により,また金融論の受講の 有無によりどのような相違があるか分析した。さらに 金融機関見学会終了後のレポートより,学生たちの参 加前と参加後の意識の変化,見学会の効果を示す文言 を抽出し分析を試みた。
Ⅴ.金融機関見学会の概要
2013 年 7 月 19 日(金)〜 25 日(木)の 5 日間に, 福井県金融広報委員会のご協力もいただき,13 社 (銀行 3 社,信用金庫 1 社,証券 4 社,生保 3 社,損保 1 社,JA 福井県五連)の福井市内金融機関の見学会 を実施した。当初 300 名を超える申込者があったが, 授業の関係もあり 240 名余り(複数参加者あり)が参 加した。しかも銀行・証券・生保など異なる業種を複 数申込む学生が目立ち,意欲の高さを感じた。金融論 を受講していないキャリアデザインの受講の 1 年生に は事前学習を行い,間接金融と直接金融の違い,預 金・融資・為替など金融業の基本用語,生命保険の仕 組みなどを学習し,見学先には会社概要,事業内容よ りも主として職務内容,入社後の職業キャリアの形成 についてお話してくださるよう依頼した。1 社の所要 時間は約 90 分で,担当者,先輩社員からの説明,職 場見学,質疑応答の形式を基本とした。 質疑応答時間における学生の主な質問は,大学での 学びと仕事との関連に関するものと,仕事のやりがい や職業選択に関するものであった。前者では「「ミク ロ経済学」や「マクロ経済学」は,仕事で役に立つの 表 2 金融機関見学会アンケート 金融機関見学会アンケート 「金融論」を学ぶことと金融機関への就職は必ずしも結びつくものではありません。今後のキャリア形成を考える上 で,皆さんの金融機関に対してのイメージを知りたいので,以下のアンケートにお答えください。 1.金融機関に就職することにどのようなイメージを持っていますか。3 つまで○を付けてください。 1)やりがいがある 2)給料が高い 3)入社後の勉強が大変 4)残業が多い 5)転勤が多い 6)ストレスが多い 7)話し上手が求められる 8)世間体が良い 9)目標がある 10)安定している 11)各種の資格が取れる 2.現時点で金融機関に就職することをどのように考えていますか。(1 つに○をつける) 1)志望している 2)エントリー企業の 1 つ 3)向いていないと思う 4)分からない 3.あなたは銀行員の仕事についてどの程度理解していますか。(1 つに○をつける) 1)よくわかっている 2)大体わかっている 3)あまり分からない 4)全く分からない 4.証券会社社員の仕事についてどの程度理解していますか(1 つに○をつける) 1)よくわかっている 2)大体わかっている 3)あまり分からない 4)全く分からない 5.生命保険会社の仕事についてどの程度理解していますか(1 つに○をつける) 1)よくわかっている 2)大体わかっている 3)あまり分からない 4)全く分からない 6.損害保険会社の仕事についてどの程度理解していますか(1 つに○をつける) 1)よくわかっている 2)大体わかっている 3)あまり分からない 4)全く分からない 7.JA(農業協同組合)の仕事についてどの程度理解していますか(1 つに○をつける) 1)よくわかっている 2)大体わかっている 3)あまり分からない 4)全く分からない 8.金融機関で働く魅力(やりがい)は,どのようなことだと思いますか。 9.金融機関で働きたいと考える人に求められるのはどのようなこと(性格や能力など)だと考えますか。か」,「金融業に就職する場合には「金 融論」の受講が必要か」等であり,後 者の質問は「金融業の仕事のやりがい は何か」「なぜこの会社を志望したの か」「仕事をしていて大変なことは何 か」「入社前に考えていたことと入社 後の仕事の違いは何か」更に先輩社員 には「なぜこの会社に入社したのか」 等であった。これらの質問は,見学先 による差はなく,どの企業の見学でも 行われた。恐らく 1,2 年生の興味の 中心にあるものなのではないか。そし てそれぞれの見学先の担当者からの答 えも,ほぼ同じであった。「ミクロ経済学」や「マク ロ経済学」そのものの知識が必要なわけではないが, 考え方やレポート作成など大学での教科への取り組み 方が就職してから役に立つとのことであった。更に, 企業にはいろいろな仕事があるので,大学時代にいろ いろな科目を受講することが,役に立つと言われた。 これらは,どの教員も常に学生に伝えていることであ るが,企業人から改めて言われることで効果があると するならば,まさに社会的学習の効用ではないであろ うか。
Ⅵ.金融機関で働くイメージ
経済学部の学生には入学当初より金融機関への就職 希望者が少なからずいるという。学生は金融機関の仕 事を理解して志望しているのであろうか。事前アン ケートでは,銀行の場合でも約 85%の学生が仕事に ついて「あまり分かっていない」「全く分からない」 と答えている。証券会社や損害保険会社の仕事に関し ては 1,2 年生で約 95%が「あまり分かっていない」 「全く分からない」と答えている。しかるに約 12%の 学生(1 年生 9.0%,2 年生 15.9%)が「金融機関を志 望 し て い る 」 と 回 答 し, 約 25 % の 学 生(1 年 生 26.24%,2 年生 23.0%)が「金融機関には向いていな い」と回答している。 金融機関就職のイメージとして,志望学生は「安定 している(52.0%)」「給料が高い(48.4%)」「入社後 の勉強が大変(42.0%)」などプラスのイメージを持 ち,向いていないと答える学生は「入社後の勉強が大 変(52.4%)」「ストレスが多い(47.6%)」「目標(ノ ルマ)がある(34.9%)」など当初からマイナスのイ メージを持っていることがわかった(図 2)。仕事に ついて正確な情報を持たないまま志望することは,就 職後の離職を招く危険性があり,自分の進路に対する 選択肢を狭めることにも繋がりかねない。 さらに金融機関の仕事のやりがいについて,金融論 を学んだ 2 年生は「社会貢献(18.6%)」「お金を扱う こと(9.7%)」「経済活動への関わり(8.9%)」の回答 が上位を占めたが,金融論を受講していない 1 年生は 「社会貢献(21.4%)」「顧客とのコミュニケーション (21.4%)」「給料が高い(20.2%)」が上位になり相違 が見られた。求められる性格・能力についても 2 年生 は「誠実さ・まじめさ・不正をしない(18.6%)」が 1 位,「正確な業務処理・几帳面さ(13.3%)」が 2 位で あり,1 年生は「コミュニケーション能力・社交性 (22.7 %)」 が 1 位,「 正 確 な 業 務 処 理・ 几 帳 面 さ (20.0%)」が 2 位と違いが見られる。やりがいや求め られる資質について,「向いていない」と答える学生 は「責任感が求められる」「経済に詳しいことが求め られる」等,金融機関の仕事にプレシャーを感じてい る様子が窺われる。また期待される役割の自由記述か らは,「お客様に対する笑顔」「親切な応対」など,1 年生がイメージしている金融業の仕事は主として銀行 の窓口のみのようにも思われる。Ⅶ.金融機関見学会を通しての学び
金融機関に就職しキャリアを形成していく上では, 大学時代に明確な Vision を持つことが必要になる。 「金融論」が金融の社会に果たす役割を認識する学問 であるとするならば,キャリア教育は自分が社会でど のような役割を果たせるのか,果たしていきたいのか を考える学問とも考えられる。金融機関で働くことを 選択した場合,自分は社会にどのような貢献ができる 図 2 金融機関へ就職するイメージ(複数回答の上位 5 項目の割合) 出所:福井県立大学経済学部 1・2 年生アンケートより筆者作成(調査実施期 間:2013 年 7 月 1 日〜 11 日,有効回答数 254 名)のか。このことをしっかりと認識した上で就職するこ とが,一般に言われる金融機関の仕事の厳しさも乗り 越え就業の継続をもたらすであろう。 今回は事前にアンケートを実施し,金融機関に対す る自分の理解を認識した上で見学会に参加した。終了 後のアンケートによれば,83%の学生が金融機関に就 職するイメージに変化があったと答えている。「世間 体が良い」「ストレスが多い」「ノルマが厳しい」など の回答割合が減少し,「やりがいがある」「話し上手が 求められる」「入社後の勉強が大変」などの回答割合 が増加している。学生たちは今回の体験から何を学ん だのか。見学後のレポートの記述から分析すると,1) 堅苦しい仕事,ノルマに追われるなど金融機関の仕事 に対する偏った固定概念に気付く,2)窓口業務,営 業だけでなく金融機関の中に多種多様な業務・職種が 存在することを認識した,3)お客様からの感謝がや りがいにつながると理解した,4)仕事を通しての自 己実現が可能であり,やりがいがあるとわかった,5) 金融論や経済学の勉強が仕事に生きることを理解した, 6)学生時代に幅広く勉強することが必要だとわかっ た,などになる。金融機関には向いていないと答えて いた学生が興味を持ち「見学先以外の企業の仕事内容 を理解したい」,「他の職業,業界についても知りたい, 見学したい」など,関心の幅の広がりが窺えた。 社会的学習の効果の段階でとらえれば,アンケート を実施し金融機関に対する自分の理解を認識すること は,社会的学習の「注意⇒保持」に繋がり,質問をし, 他の業界についての調査や興味を持った履修科目の選 択は「運動再生」の段階に該当するであろう。今後さ らに金融機関について研究し,また経済学の勉強を深 めることで,動機付けが強固になることが期待できる。