Ⅰ. はじめに
本研究は福井県立大学特別研究(地域貢献型)「教 育から職場への若年労働者の早期離職防止策の整合性 に関する研究」の成果の一部である。 2014 年卒業の大学生等の就職率は 94.4%,同じく高 校卒の就職率は 96.6% と高くなっている。それぞれ前 年に比べ 0.5%,0.8% の増加である。1)特に福井県,石 川県の高卒就職率は 99.8% で全国 1 位であり,就職希 望者は全員就職できるような状況にある。しかしなが ら 3 年以内の早期離職率は依然として高校卒 39.6%, 大学卒 32.4%(全国)と高いままであり,2)問題視され ている。 早期離職者の場合,①職業能力が蓄積されにくい, ②その後非正規雇用者として転職する場合が多い,③ 若年者の非正規雇用者が増加しているなどの問題が生 じている(小杉:2011,中里:2013)。もちろん企業 においては,採用コスト教育コストが無駄になり職場 のモチベーションの低下を招きかねない。厚生労働省 は,若年者について卒業後 3 年以内は新規学卒者扱い で採用試験を受けられるよう企業に要請をしているが, 合格・採用を保証しているわけではない。就職後 3 年 以内の早期離職者は,2010 年大卒等就職者 56.9 万人 のうち 19.9 万人おり 35.0% に上る。3) 本研究の目的は,早期離職率が高止まりしている要 因が若年者の就職活動における職業選択や就職先選択 の準備不足及びミスマッチにあるのか,または就職後 の若年者の就業継続力に問題があるのか考察すること にある。併せて,大学で行われているキャリア教育は 若年者の早期離職防止に効果があるのか,早期離職を 防止するためにはどのような教育が必要となるのかも 考えていく。Ⅱ.先行研究の整理
早期離職者の離職理由については労働政策研究・研 修機構が,離職後にハローワークを利用して求職活動 を行っている若者に質問票による調査を行い分析して いる。調査対象者は 2000 名以上おり精度は高いと思 われるが,離職者に対する調査の場合,退職した職場 に対して厳しい見方をすることは否めないであろう。 大学生活と就業継続の関連性については,梅崎,田 澤が学生時代の学習や課外活動状況を Action と Vi-sion のどちらが強いかに分けて調査し,それが就業継 続にどのように関連するのか分析している。Action (学内外の活動に熱心に取り組む,スキルを身につけ る等 6 項目),Vision(将来のビジョンを明確にする, 将来のことを調べて考える等 6 項目)を点数化し, Vision の得点が高い学生の方が内定先への満足度が高 く,同時に離職する確率を減少させているとの結果を 導いている。その一方で Action の得点が高い学生の ほうが内定獲得の時期は早いが,早期離職の確率を高 めていると分析している(梅崎,田澤:2013,中里: 2014)。 溝上・木村も大学入学の時点で自分の将来を考えた 学生の方が,就業後の職場で成果を挙げているという 調査結果を報告している。大学入学時に将来の目標を 持っている学生の方が,勉学や大学生活の様々な活動 に意欲的に取り組んでおり,さらに就職後の職場でも 高いパフォーマンスを発揮する割合が高いというもの だ(溝上・木村,2014)。この 2 件の研究では学生時 代から就業後までの長期にわたる追跡調査を実施して おり,就業継続に関してのキャリア教育の方向性を示 していると言える。 就職先選択にミスマッチが存在しているのかを考察 する意味においては,日本生産性本部が 40 年にわた り毎年続けている「新入社員働く意識調査」4)の分析 が参考になる。この調査によれば 2014 年に第一志望 の企業に入社した新入社員は 55.0%,3 年目の早期離若年者の早期離職の要因と職
場並びに教育現場での効果的
な離職防止策を考える
The Journal of Economic Education No.34, September, 2015Causes and Effective Ways of Coping with Quick Job Turnover of the Youth
Nakazato, Hiroho
職が問題になる2011年の新入社員は56.6%が第一志望 の企業に就職している。この結果からは約半数の新入 社員は,自分の第一志望ではない企業に就職している ことになる。就職先の選択理由は,「自分の能力が生 かせる」31.4%,「仕事の面白さ」21.3% に続き第 3 位 として「福利厚生が充実している」10.2% を挙げてい る。 地方の新入社員の場合は,就職先の選択理由が少し 異なっている。2008 年の調査であるが福井県の新入 社員の場合,第 1 位は「仕事の面白さ」47.6% である が第 2 位は「地元企業であるから」44.4%,第 3 位は 「会社の雰囲気」39.2% となっている。5)熊本県,岐阜 県などでも「地元企業であるから」という理由での就 職先選択比率は,都市部に比べかなり高い(中里: 2009)。しかしながら地方の場合も若年者の早期離職 率は同じように高くなっている。 確かに,第 1 志望の企業に就職できなかったという 理由は離職につながるかもしれないが,地方と都市部 では就職先選択の理由に差が見られる一方で,離職率 には大きな差が見られないということは,就職先選択 以外の要素も離職に影響を与えているのではないかと 考えられる。
Ⅲ. 若者の早期離職の要因
早期離職者が多いことの背景として,高校卒と大学 卒の離職率に 5 ポイント以上の差があることに注目し た。高校卒の就職率は 96.6% と高い状況であるから, 高卒者が希望の就職先に就職できていない割合が大学 卒者より低いとは考えにくい。溝上,木村や梅崎,田 澤は自分の将来についてよく考えた学生が,就業継続 性が高いと述べている。そうであるならば,高校生と 大学生に就職に対する意識の差は存在しその結果が離 職率の差となって表れているのか。 筆者は福井県立大学の 1 年生と高校 2 年生に就職の 考え方に対する意識調査を行った。6)この調査は大学 生・高校生に働く理由や目的を自由に 3 件記入させ, その文言から記入の多いものを抽出してまとめたもの である。働く理由として「生計を立てるため」は大学 生,高校生共に高いが「やりがい・生きがいを求め る」「社会貢献をするため」などの記入は大学生に多 く高校生は少ない。また,「アルバイトより収入や待 遇が良い」という記述は大学生には見られなかった。 「収入や待遇」など条件面を重視する就職先選びは, 生産性本部の調査にも見られた。「福利厚生の充実」 の重視と同じくそれらの条件が満たされなかった場合 に離職につながるのではないかと心配になる。 前述の労働政策研究・研修機構の「若年者の離職理 由と職場定着に関する調査」(2007 年)によれば,正 社員の離職理由(複数回答,上位 3 件までの合計)第 1 位は「給与に不満」(26.6%)となっている。以下 「会社の安定性・将来性に期待が持てない」(22.6%), 「労働時間が長い」(21.8%),「仕事上のストレスが大 きい」(21.7%),「職場の人間関係がつらい」(15.6%) の順である。この調査結果からは,給与や労働時間な ど条件面の不満が離職に繋がっているように思えるが, 同じ調査の「最初に離職を考えた時に悩んだこと」に 対する回答では少し異なる。「仕事の内容」(44.8%) が第 1 位,「自分のキャリアや将来性」(37.6%)が第 2 位になり,「賃金が低い」(36.9%)という給料への不 満は3位になり,「労働時間が長い」(24.4%)は6位に 図 1 高校生と大学生の働くことへの意識 出所:アンケート調査より筆者作成 図 2 早期離職した若者が最初に悩んだこと 出所:労働政策研究・研修機構「若年者の離職理由と職場定着 に関する調査」(2007 年)より筆者作成後退する。 働く目的が前述の意識調査のように給与や福利厚生 の充実など働く条件の優遇を求めているならば,給与 の不満や労働時間の長さは離職を誘発することになる。 しかしながら最初に離職を考えた動機が仕事の悩みや 自分の将来であるならば,職場の中でそれらの不満を 解決することは可能であり早期離職の防止につながる と考えられないか。
Ⅳ.早期離職防止における環境探索の必要性
キャリア教育の理論の始まりはパーソンズ(Parsons, F.)であると言われている。パーソンズは自分の適性 や興味をよく理解し,様々な職業の特性を知りこれら を関連付けることが賢明な職業選択につながるという 職業選択の理論を説いている。7)キャリア教育に取入 れられることが多い自己分析や職業理解の学習はパー ソンズの理論に基づいている。パーソンズの理論は新 規学卒者の就業継続にどのように影響するのか。 竹内は多業種に入社した新規学卒者(有効回答数 207 名)の入社時と 1 年後の組織対応度の変化を調査 し,入社前の環境キャリア探索行動や自己キャリア探 索行動を多く実践することが,入社後の組織適応に効 果的な影響を及ぼすと分析している(竹内:2012)。 組織に適応することは当然離職の回避につながり,竹 内の分析はある意味でパーソンズの理論が裏付けられ た調査結果であると考えられる。 筆者の勤務する福井県立大学のキャリアデザイン受 講学生に実施した調査から「学生の就職イメージに偏 向性が見られる」という結果が得られたことは前著で 述べた(中里:2014)。金融機関見学会の参加学生に 対する調査で,金融機関の仕事について「よくわかっ ていない」と認識しながら約 12% の学生が入学当初 から「金融機関を志望している」と回答し,約 25% の学生が「向いていない」と回答していた。その後金 融機関の見学会に参加し約 8 割の学生が就職イメージ に変化があったと記述している。 学生が持つ就職イメージの偏向性は,中小企業に対 するイメージ調査でも見られた。同じく福井県立大学 キャリアデザイン受講学生 93 名に対する調査では, 中小企業の仕事内容について約 9 割の学生がわからな いと回答している。しかしながら 26.0% の学生が当初 から中小企業への就職を考えていると回答し,8.0% の学生が中小企業には就職したくないと答えている。 中小企業への就職を考えている学生は「家族的な雰囲 気で仕事ができる」「やりがいがある」「昇進が早い」 とプラスに受け止めており,就職したくないと考える 学生は「大手企業の下請けの仕事」「将来が不安定」 「給料が低い」とマイナスイメージでとらえている傾 向がみられる。 図 3 は,中小企業に就職するイメージを 1 年生と 2 年生のキャリアデザイン受講者にアンケート調査した 結果をまとめたものである。このグラフからは,1 年 生と 2 年生で中小企業就職に対するイメージに差があ ることが読み取れる。2 年生は,授業の中で企業人の 講話として中小企業に分類される,製造業,医療・福 祉サービス業,IT 企業のお話を聞いており,中小企 業についての理解が少し進んでいる。そのことがグラ フ数字の差になったと考えられる。授業終了後に,約 100名の学生が4グループに分かれ,4社の中小企業を 見学した。金融機関見学会と同様に実際に職場訪問を した後で多くの学生は,イメージに変化があったと答 えている。「優れた技術を持っている」「世界に進出し ている」「中小企業といってもいろいろある」「大企業 の下請けをしているわけではない」等である。筆者が 実施した金融機関に対する就職のイメージ,中小企業 に対する就職のイメージの 2 件の調査も,就職前の環 境探索の必要性を示すものといえる。Ⅴ. 早期離職を防止する就業継続力の育成
職業選択に関する準備は必要であるが,職業キャリ アの形成には就職後に与えられた環境の中での成長が 欠かせない。スーパー(Super,D.E.)は職業的発達理 論を唱え「人は役割や職業を通して自己概念を明らか 図 3 中小企業に就職するイメージ 出所:学生アンケート調査より筆者作成にしていく」と説いている。8)就職前の環境探索は離 職防止に不可欠であるがそれだけでは十分ではなく, 職業的発達理論のように仕事の経験を通して成長し改 めて自己を認識することが必要であると考える。言い 換えれば仕事や職場環境に不満を抱いた時点で,それ らの不満を乗り越え自分のキャリア形成につなげる就 業継続力の保持が早期離職の防止には必要であるとの 考え方だ。 労働政策研究・研修機構が実施した早期離職者に対 する調査は,回答数は多いがすでに離職をした若者に 対する意識調査である。離職者に対する調査では,仕 事や職場環境に対する不満を乗り越えられなかった若 者の回答が多いのではないかと推測できる。現在就業 中の若者は,これまでに離職を考えたことはなかった のか。あるとすれば仕事や職場環境に対する不満を乗 り越え,離職を踏みとどまった要因はどこにあるのか。 仕事や職場環境に不満が生じたとしても,それを乗り 越える力をつけることが職業を通しての自己の成長に なるのではないか。離職を思い留まった要因を調査す るために,在職中の若手社員に離職を考えたことの有 無と離職に至らなかった要因を調査した。 調査対象者の選定に当たり,業種の偏りをなくすこ とと入社 5 年目までの若手社員を対象とすることを考 えた。そのために福井県立大学の公開講座として「若 手社員の仕事力向上講座」9)を開催し,地域の若手社 員を集めその受講者に協力を仰いだ。調査は2013 年, 14 年に実施した同講座に参加した入社 1 年目から 5 年 目までの若手社員に質問票を配布し,回答を記入して もらう形式で実施した。回答は無記名,提出者が特定 されないように郵送での回収とした。有効回答数は 52 名,入社 1 年目が 27.0%,2 年目が 35.7%,3 年目が 28.6%,それ以外が 8.7%である。勤務する業種は多い 順に販売・小売業が 31.0%,製造業が 17.2%,サービ ス業が 10.3%,金融業が 8.0% となり,運輸業,建設業 などその他の業種は 5% 以下であった。医療・福祉 サービス業の勤務者の参加,回答はなかった。 この公開講座は筆者が講師を務め,若手社員に対し て基本的な仕事の進め方,特に職場における報告・連 絡・相談の重要性につきケーススタディを中心として 考えていく内容の講座である。また,グループワーク として自分たちが現在抱えている悩みや困難の抽出と, 解決法の検討なども行い講義をするだけでなく,若手 社員が抱えている就業継続における問題点の把握にも 努めた。講座に参加した受講者の様子から職場の中で の上司,先輩とのコミュニケーションの不足や人間関 係で悩む若手社員が多いことが推測された。 アンケート調査は講座の開始前に任意で回答しても らう形式をとった。主な質問項目は,「これまでに辞 めたいと思ったことはあったか」「離職を思い留まっ た理由」「就業継続に力となったこと」などを選択肢 から回答し,その結果をこれまでの離職願望の有無に 分け分析した。さらに後輩に対してのアドバイスとい う形で,「離職を防ぐために学生時代に身に付けるこ と」「学生時代に行った方が良いこと」を自由記入で 求め,その文言から多く回答のあった事項を抽出し分 析した。 今回の調査で「入社後に辞めたいと思ったことがあ る」と回答した若者は,有効回答数の約半数 55.0% 存 在した。離職を回避した理由を回答の多い順にグラフ 化したものが図 4 になる。このうち,「収入がなくな ると困る」「ほかに良い勤め先がない」という理由が 図 4 離職回避の要因 出所:「若手社員の仕事力向上講座」参加者アンケートより筆 者作成 図 5 就業継続に力となること 出所:公開講座受講者調査結果より筆者作成
早期離職の歯止めになることは,雇用環境が悪化した 年には離職率が低下し,雇用環境が改善すると離職率 が増加することで説明できる。実際にリーマンショッ クにより新規学卒者の就職率が低下した 2009 年は, 高校卒 35.7%,大学卒 28.8%とその前後の年に比べ 3 年目の離職率は下がっている。 注目すべきは「自分で選んだ職場だから」という理 由でもうすこし頑張ってみようと離職を思い留まり, また「上司や先輩への相談」でアドバイスを得て離職 を回避していることである。このような理由は労働政 策研究・研修機構が実施した早期離職者への調査には 見られなかった。「自分で選んだ職場だから」という 理由は梅崎,田澤の Vision の高い学生は離職率が低 いという調査結果にもつながるものと考えられ,上司 先輩への相談が離職回避につながることはスーパーの 職業発達理論にも結び付くと言えよう。
Ⅵ.就業継続に必要なこと
早期離職の防止には,職業選択に対する準備だけで なく就職後に困難や悩むことがあった際にそれを乗り 切り就業を継続できる力の育成が必要になる。その就 業継続力においてはコミュニケーション能力の保持が 大きな役割を果たすのではないか。今回の調査で就業 を継続する上で力になることはどのようなことだと思 うか選択してもらった。その結果が図 5 になる。「上 司や先輩に相談できる雰囲気のあること」「相談でき る社内外の友人の存在」が,1 位,2 位を占めている。 相談をすることが,早期離職を回避することに有効で あることは就業継続力の問題であり,早期離職が職業 選択に関する環境探索,自己探索とのミスマッチだけ に起因するとは結論付けられないであろう。 離職を考えたことのある若手社員と職場に適合して いる若手社員には職業選択や大学生活の過ごし方に差 異が認められるのか。同じ調査で「就職先選択のアド バイス」「学生時代に身に付けること」を後輩に対す るアドバイスとして自由記入を求め,記入の多い内容 を離職願望の有無により分類したものが図 6 になる。 「就職先選択のアドバイス」として,離職願望があっ た場合には「会社・仕事の内容をよく知る」の回答が 多く,離職願望はない。つまり職場に適応していると 考えられる若手社員は,「自分の興味関心のある仕事 の選択」の回答が多い。自分が興味関心のある仕事を 選択できているために,仕事や職場に満足していると いう結果は当然であろう。それに対し,離職願望が あった若手社員は,仕事内容や職場をもっとよく調べ て就職すれば,辞めたいという気持ちは起きなかった のではという自己責任を職場や職種等の環境に責任転 嫁しているようにも感じられる。 また後輩に対してのアドバイス「学生時代に身に付 けること」に対する自由記入の内容にも,離職願望の 有無で大きな差が見られた。「コミュニケーション能 力」という記入がどちらも多かったが,職場適合者は 離職願望があった若手社員に比べ 2 倍の人数がコミュ ニケーション能力を身に付けておくべきと回答してい る。職場に適合するためにはコミュニケーション能力 が必要であり,仕事上での悩みや困ったことに対して 早期に先輩や上司に相談できる人間関係の構築ができ ていることが早期離職の防止に効果がある,まさにコ ミュニケーション能力の保持に関わる。 若手社員のコミュニケーション能力の必要性に関し ては,経団連が毎年会員企業を対象に実施している 「新卒者の採用に当たり求める能力」の調査結果にも 表れている。「主体性」「チャレンジ精神」などを押え 「コミュニケーション能力」を求める企業の割合は, この 10 年間第 1 位である。2013 年の調査では 86.6% の企業がコミュニケーション能力を求めると回答して おり,その割合は毎年上昇している。Ⅶ.まとめ
早期離職の防止には,職業選択に当たり環境探索, 自己探索を十分に行う必要がある。大学で実施されて いるキャリア教育の学習内容の分析においても,社会 的学習や自己分析といった環境探索,自己探索に結び つく内容を取り入れている大学が多いことが検証され ている(中里:2011)。福井県立大学のキャリアデザ 図 6 離職防止へのアドバイス 出所:公開講座受講者調査結果より筆者作成イン受講学生を対象に行った調査でも,学生が持つ企 業や就職のイメージには一部に偏向性が見られること も明らかになった。そして企業見学など環境探索の実 践で仕事や職場に対する意識が変化するという結果も 得られている。その意味においては環境探索,自己探 索を十分に行ったうえで職業選択,就職先を選定する ことは大いに意味があると考えられる。 労働政策研究・研修機構が実施した早期離職の要因 に対する調査からは,給料の不満や労働時間の不満, 就職先の将来性への不安など,環境探索の不足が離職 の原因と推測される。その一方で離職を考えたが,思 いとどまり就業を継続している若者もいる。今回の調 査からは,離職の回避には求人状況の良しあしなどそ の時期の雇用環境も影響するが,自分で決めた就職先 であるという自己決定に対する責任を持つことが大き いという結果が見られた。職場に適応している若者は, 就職先の選択では「興味・関心を持つ職種や職業の選 択が重要である」と後輩にアドバイスを記入している 割合が,離職願望を持ったことのある若手社員よりも 多い。大学時代にやりたいことや興味・関心を持つこ とが職場適応につながるという結果は,田澤・溝上・ 木村の分析に結びつく。 就業の継続に対しては困難を乗り越えるために上司, 先輩に相談できる環境を構築するなどコミュニケー ション能力の存在も欠かせないと思われる。キャリア 教育の学習においては直接的にコミュニケーション能 力を育成するわけではない。コミュニケーション能力 は課外活動その他の学生生活においてより育成される 面がある。キャリア教育に多く取り入れられている企 業見学等の社会的学習は,職業選択における環境探索 の側面はもちろんあるが,見学後の学生のレポートに は「職場におけるコミュニケーション能力の必要性理 解した」などのコメントも多く,社会的学習を通して 職場におけるコミュニケーション能力の必要性を伝え ることはできるかもしれない。 今回の調査の有効回答数は 52 名と少ないものの, 就業継続中の若手社員に対し離職を考えたが思いとど まった場合の回避要因に注目したこと,離職願望が あった若者と職場適合者との意識を比較したことに意 義があると考えられる。今後調査対象者を広げ,回答 数や対象者の就業業種を拡大し,調査項目も再検討す ることで早期離職の要因がより明確になることが期待 できるであろう。早期離職の要因が明確になることで, それに対応した教育内容の改善並びに就職後の企業や 職場での職場定着の対策も実施できると考える。 今回の調査にご協力いただいた若手社員の皆様には, この場を借りて改めて感謝申し上げたい。 註 1) 2014 年 5 月,厚生労働省発表の資料による。 2) 2012 年 3 月,内閣府発表資料による。 3) 2012 年 3 月,内閣府発表資料による。 4) 2014 年の調査は,3 月 10 日から 4 月 25 日の生産性本部 主催の新入社員研修参加者に対して実施している。有効 回答数 2,203 人。そのうち 4 年制大卒者が 56% である。 5) 福井県内の事業所に就職した新入社員 310 名の調査である。 6) 福井県立大学キャリアデザイン受講の 1 年生 203 名の調査。 2014 年 5 月。同様に福井県内高校商業科 2 年生 70 名の調 査。2014 年 5 月 7 月。 7) パ ー ソ ン ズ の 職 業 選 択 理 論 に つ い て は, 三 村 隆 男 著 『キャリア教育入門』(pp.34-36)を参照のこと。 8) スーパーの職業的発達理論については,同じく『キャリ ア教育入門』(pp.40-41)を参照のこと 9) 2013 年 10 月福井県立大学にて実施,2014 年 6 月敦賀商 工会議所を会場に実施した 2 回の公開講座参加者に対し てアンケート調査を実施した。有効回答数は 52 名である。 参考文献 [ 1 ]梅崎修,田澤実『大学生の学びとキャリア―入学前から 卒業後の継続調査の分析―』pp.65-76 法政大学出版局 2013 年 [2] 溝上慎一・木村充『活躍する組織人の探求―大学から企 業へのトランジション』第 5 章「就職時の探求:大学生 活の重点と就職活動・就職後の初期キャリアの成否の関 係を中心に」pp.100-110東京大学出版会 2014 年 [3] 小杉礼子『非正規雇用者のキャリア形成』pp.4-6 勁草書 房 2011 年 [4] 竹内倫和「新規学卒就職者の組織対応プロセス:職務探 索行動研究と組織社会科研究の結合の視点から」『学習院 大学経済論集』第 49 巻 第 3 号 pp.143-159 2012 年 [5] 中里弘穂『東アジアと地域経済』第 9 章「新入社員の就 職意識とキャリア形成」pp.189-192 京都大学学術出版会 2009 年 [6] 中里弘穂「大学におけるキャリア教育実践の現状と今後 の展望」『経済教育』第 30 号 pp.181-183 2011 年 [7] 中里弘穂『若者のキャリア形成を考える』pp.27-37 晃洋 書房 2013 年 [8] 中里弘穂「キャリア教育における金融教育の取り入れと 効果」『経済教育』第 33 号 pp.98-103 2014 年