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これからの理学療法研究 ─世界への発信─

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 706 42 巻第 8 号 706 ~ 707 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 4. これからの理学療法研究 ─世界への発信─* ─循環器理学療法の立場から─ 神谷健太郎**. 4,740 名を対象に含む 33 の無作為化比較対象試験をメタ解析し,. はじめに. 運動療法は死亡率には影響を及ぼさないが,すべての原因によ. 循環器疾患,なかでも心不全に対する運動療法の考え方は,. る再入院を 25%,心不全による再入院を 39%低下させ,ミネ. 安静が常識であった時代から治療としての運動療法へと大きく. ソタ心不全質問票で評価した QOL を 5.8 ポイント改善させる. 転換してきた。このパラダイムシフトがおきる過程で臨床研究. ことが明らかとなっている 9)。. が果たしてきた役割は大きい。本稿では,心不全に対する運動. こうして慢性心不全に対する身体活動の変遷を振り返ってみ. 療法のタイムラインを振り返り,これからの理学療法研究につ. ると,安静が心不全の重要な治療であった時代から,運動療法. いて考えたい。. が自覚症状や運動耐容能の改善だけでなく,予後改善のための 重要な治療であるという位置づけに 180 度転換してきたことが. 慢性心不全の治療と運動療法の変遷(図 1)1). わかる。. 1970 年代中ごろまで,慢性心不全に対する運動負荷試験や運 動療法は,心不全の増悪や心機能悪化,重症不整脈や心停止な. 今後の課題とその情報発信について. どを助長する恐れがあるため行われなかった 2)。1970 年代後半. 心不全患者に対する運動療法のエビデンスが蓄積されクラス. から,心不全に対する運動負荷試験や運動療法が安全に行える. Ⅰの推奨を得るにいたった過程では様々な臨床研究が行われて. のではないかという研究結果が発表されはじめた。Lee らは,. きた。臨床研究は,現在の定説や既知の情報を整理し,目の前. 1979 年に心筋梗塞後の心不全患者 18 名に運動療法を行い,心. の患者へそれを適応する過程でなんらかの矛盾(エビデンス診. 機能の悪化を認めることなく運動耐容能や NYHA クラスの改. 療ギャップ)を感じ,日々の臨床で試行錯誤をする中で生まれ. 3). 善を認めたと報告した 。その後,1980 年代前半には運動耐容. てきた新たな治療や評価を検証するものである。その成果を世. 能の指標である最高酸素摂取量が安静時の左室駆出率では推定. 界への発信する手段として国際誌への論文掲載が必須であり,. 4). できないこと ,後半には骨格筋の変化が運動耐容能の制限因. そのためにはその分野でコアとなる雑誌やガイドラインにおい. 子となっていることが明らかとなり 5),運動療法の重要性が認. てなにがわかっていて,なにが未解決であるのか,また,新た. 識されるようになった。1990 年代に入り,Mancini らによって. な知見の臨床的な意義があるのかを十分吟味したうえで行う必. 最高酸素摂取量が予後予測や心移植時期の決定に有用であるこ. 要がある。逆に,そこが明確であれば,世界に発信できる臨床. 6). とが提唱され ,1990 年代中ごろからは,運動療法の介入試. 研究は特別な研究機関でなくても実施可能である。しかし,こ. 験も運動耐容能だけでなく,生命予後や再入院,心臓リモデリ. れらの知見を国際誌に掲載する過程は,はじめて取り組もうと. ング抑制などの効果検証が行われるようになった。なかでも,. するものには果てしない道のりのように感じる。幾多の苦難を. 1999 年の Belardinelli らの報告は運動療法により心臓死のリス. 乗り越えて英語で論文を執筆し,ようやく投稿にこぎつけて. 7). クを 63%低下させるというインパクトのあるものであった 。. も,専門家のレビューにまわることなく掲載拒否通知が 2 週間. 21 世紀に入り,米国心臓協会から position statement として. 以内に届くということは決してめずらしくない。各分野のトッ. “Exercise standards for testing and training”が発表され,慢. プジャーナルであれば採択率は 10%に満たない。研究経験が. 性心不全に対する運動療法が心不全に対する包括的なアプロー. 少ない臨床家がこの過程を一人で行うことはきわめて難しく,. チのひとつとして推奨されるに至った. 8). 。2014 年のコクラン. 経験者の助言と指導が不可欠である。本邦の理学療法士による. レビューでは,NYHA Ⅱ~Ⅲの LVEF が低下した心不全患者. 世界への情報発信をより活発に行っていくうえでは,この過程. *. Future Research in Cardiovascular Physical Therapy ** 北里大学病院リハビリテーション部 (〒 252–0375 神奈川県相模原市南区北里 1–15–1) Kentaro Kamiya, PT: Department of Rehabilitation, Kitasato University Hospital キーワード:研究,循環器,心血管疾患. を経験した指導者をいかに多く生みだすことができるかにか かっているように思う。. 若手理学療法士にむけて 臨床研究を行う意義は端的にいうと社会貢献である。自らが.

(2) これからの理学療法研究 ─世界への発信─. 707. 図 1 慢性心不全治療と運動療法のタイムライン 1)出版社より許可を得て転載 PDE:ホスホジエステラーゼ,ACEI:アンジオテンシン変換酵素阻害薬,CRT:心臓再同期療法, ICD:植え込み型除細動器,ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬. 行おうとしている臨床研究の矛先がそこに向かっているかどう かを,常々問いかけることが重要である。そのうえで,臨床的 に意義のある情報を自ら世界へ情報発信をできる理学療法士に なるには,まず,教科書や臨床の中で定説となっていることが 本当に裏づけが取られている事象であるか疑問をもつこと,既 知のエビデンスをよく学び,日々の臨床で遭遇する様々な疑問 (クリニカルクエスチョン)との差に気づくことである。これ が臨床研究を行う源となる。加えて,世界に情報発信をしてい る研究者の講演や話を多くきくこと,世界を牽引している学会 の学術集会に参加し,お手本となるような研究を多く目にする こと,英語論文の執筆経験が豊富な指導者の指導を受けること が重要と思われる。スポンジのように吸収できる若い時期に, できるだけよい刺激をたくさん受けられるように自ら動き,そ の環境に身をおくように努力することが近道となる。. 文 献 1) 神 谷 健 太 郎: 心 不 全 に 対 す る 理 学 療 法 技 術 の 検 証, 理 学 療 法 MOOK17 理学療法技術の再検証─科学的技術の確立に向けて─. 福井 勉,神津 玲,他(編) ,三輪書店,東京,2015,pp. 175–182.. 2) Katz, AM, Konstam, MA: Heart failure: pathophysiology, molecular biology, clinical management, 2nd ed, Philadelphia, Lippincott/Williams, 2000. 3) Lee AP, Ice R, et al.: Long-term effects of physical training on coronary patients with impaired ventricular function. Circulation. 1979; 60: 1519–1526. 4) Franciosa JA, Park M, et al.: Lack of correlation between exercise capacity and indexes of resting left ventricular performance in heart failure. Am J Cardiol. 1981; 47: 33–39. 5) Massie B, Conway M, et al.: Skeletal muscle metabolism in patients with congestive heart failure: Relation to clinical severity and blood flow. Circulation. 1987; 76: 1009–1019. 6) Mancini D, Eisen H, et al.: Value of peak exercise oxygen consumption for optimal timing of cardiac transplantation in ambulatory patients with heart failure. Circulation. 1991; 83: 778– 786. 7) Belardinelli R, Georgiou D, et al.: Randomized, controlled trial of long-term moderate exercise training in chronic heart failure: Effects on functional capacity, quality of life, and clinical outcome. Circulation. 1999; 99: 1173–1182. 8) Fletcher GF, Balady GJ, et al.: Exercise standards for testing and training: A statement for healthcare professionals from the american heart association. Circulation. 2001; 104: 1694–1740. 9) Taylor RS, Sagar VA, et al.: Exercise-based rehabilitation for heart failure. Cochrane Database Syst Rev. 2014; 4: CD003331..

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図 1 慢性心不全治療と運動療法のタイムライン 1) 出版社より許可を得て転載

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