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クリニカルリーズニングに基づく理学療法の捉え方(症例呈示

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Academic year: 2021

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クリニカルリーズニングに基づく理学療法の捉え方(症例呈示) 615 はじめに  臨床場面でのクリニカルリーズニングは命題的知識と生物社 会心理的側面を基盤とした展開が重要である。本稿では症例を 呈示しながらクリニカルリーズニングを基盤とした臨床展開に ついて述べる。 (症例呈示)1)34 歳男性 会社員 診断名:腰椎椎間板症 主 訴:下腹部が痛い 現病歴:半年前より右腹部の体側から鼡径部にかけて違和感が あった。徐々に体動とともに同部の痛みへと変化し,椅子から 立ち上がり,体幹前屈動作,くしゃみにて同部の症状が出現す るようになった。近医受診し腰部レントゲン実施するも異常所 見みられず,鎮痛剤,湿布処方された。その後も症状改善なく 内科疾患を疑われ血液検査,腹部エコー検査を行うが異常所見 はなかった。その間も右体側∼下腹部への疼痛は増強してお り,就寝時の寝返りでも同部症状が出現するようになった。仕 事は会社員で事務職であるため一日中座ってパソコンでの仕事 がほとんどである。重量物をもつことはなく,普段はスポーツ 等体を動かすことも少ない。子供が小さく休日は子供と遊んで 過ごすことが多い。 (画像所見):X 線画像での大きな所見はない。MRI にて T2 画 像で第 1 腰椎椎体に血管腫,第 5 腰椎,第 1 仙骨間の椎間板変 性が認められた(図 1,2)。 (問診が終了した時点での著者の推論)安静時の症状がなく, 寝返り,椅子からの立ち上がり,前屈動作で症状が出現するこ とから疼痛の主因は炎症性よりは,機械的刺激による可能性が 高いのではないかと仮説をたてた。 身体所見:(背臥位)右股関節屈曲 100°,内旋 20°にて同部症 状再現した。Active Straight leg raising test(以下,ASLR-T) 右陽性(* ASLR-T では通常骨盤は回旋がみられないが,右 側挙上時に骨盤が右回旋した。陽性時の解釈では外腹斜筋等の outer 筋の過緊張が示唆される2)3))胸骨下角狭小化(90°以下, 右肋骨弓下制)右外腹斜筋過緊張(触診にて腸骨稜上部の緊張 を認める)。 (側臥位)over-test 右陽性,右大転子周辺組織過緊張を認めた。 (触診にて確認。同部は大腿筋膜に該当する。)右外腹斜筋,腰 方形筋過緊張を触診にて確認。

( 腹 臥 位 )prone knee bending( 以 下,PKB) 両 側 陽 性( 大 腿四頭筋過緊張),股関節外旋 10°にて骨盤回旋を確認(大腿 筋 膜 張 筋 − 腸 脛 靱 帯(TFL-ITB) の 過 緊 張 を 示 唆4))。skin rolling test で腰部の roll up 困難(腰部筋の緊張示唆)であった。 スプリング test にて第 4 腰椎,第 5 腰椎(以下,L 4 5)陽性。 (端坐位)体幹前屈にて右上後腸骨棘(PSIS)の追い越し現象 (図 3)が認められた。このときに右腸骨周辺から鼡径部周辺 の疼痛が再現した。 (立位)体幹前屈,右側屈にて同部への症状再現し右腸骨の前 方回旋がみられ,右仙腸関節のアンロックを確認した。片脚立 位にて右下肢支持で右腸骨前方回旋がみられ右仙腸関節のアン ロックを確認(stork-test 陽性)(図 4)。  ここで,stork-test についての著者の見解を述べる。このテ ストは Gillet test ,stork test, または運動学的テスト(kinetic test)として知られている4)。片脚立位の際に検者は左右の上 理学療法学 第 40 巻第 8 号 615 ∼ 617 頁(2013 年)

クリニカルリーズニングに基づく理学療法の捉え方(症例呈示)

白 尾 泰 宏

**

専門領域研究部会 運動器理学療法 特別セッション「教育講演」

Clinical Reasoning Based Thinking of Physiotherapy

**

慈愛会 今村病院分院 スポーツ整形外科リハセンター (〒 890‒0064 鹿児島市鴨池新町 11‒23)

Yasuhiro Shirao, PT: Department of Sports Rehabilitation Imamura Bun-In Hospital

キーワード:臨床推論,片脚立位テスト,マッスルインバランス

図 1 レントゲン所見では大きな変化はみられない

図 2  MRI 所見で L5/S1 椎間板の腹側への変性と T2 で L1

椎体部の血管腫が確認された

Japanese Physical Therapy Association

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 616 後腸骨棘(以下,PSIS)あるいは,仙骨の下外側角と立脚側の PSIS に母指をあて動きの違いを確認する。PSIS の位置が上方 へ偏位すればテストは陽性と判断し,仙腸関節がアンロック状 態にあると判断する。このテストで Hungerford は産後骨盤痛 患者とコントロール群を比較し,産後骨盤痛患者では腹横筋, 内腹斜筋,大殿筋の収縮遅延とハムストリングスの先行収縮が 認められたと報告している5)。著者の自験例では半月板損傷術 後患者で stork test 陽性の際,支持側と反対側の広背筋の先行 収縮を認めた。このことから仙腸関節安定性の一要因である force closure は,本来はインナーユニットの先行収縮で機能 するが,これがなんらかの理由により不能になった場合,胸腰 筋膜を介して機能的連結があるハムストリングス,あるいは反 対側の広背筋6)が先行収縮することで,胸腰筋膜を緊張させ 仙腸関節の安定化を補完するものと推察する。以上を踏まえる と,stork test は仙骨のアンロック状態と inner-outer muscle sequence の機能異常を示唆するものと考えられる。 (患者の症状に対する考え):内科でも問題ないといわれ内臓疾 患の心配は軽減したが,下腹部が痛くなる理由がわからないの が不安。腰のレントゲンも問題ないといわれたのになにかほか に問題があるのかわからない。最近,運動不足ではあった。 (身体所見を踏まえての著者の解釈):身体所見では症状側の外 腹斜筋,腰方形筋,大腿筋膜の過緊張が強く疑われる。また, 端坐位での体幹前屈で右側 PSIS が左側 PSIS を追い越す現象や, 立位片脚での支持側の仙腸関節のアンロックが確認されたこと から,これらの過緊張筋による右仙腸関節の不安定性,inner unit の機能不全,それに伴う L4,5 レベルの腰椎椎間板,椎 間関節の機能障害による侵害受容器性疼痛を考えた。(スプリ ング test L 4 5 陽性と鼡径部周辺は L 4 5 の椎間関節からの関連 痛があることを根拠とした7))。追加検査として超音波診断装置 にて腹横筋の応答を確認すると右腹横筋の応答が低下していた (図 5)。このことから,下部体幹筋の muscle imbalance と椎間 関節の機能異常が混在した病態ではないかとの仮説に至った。 図 3  端座位中間位では PSIS は左と比較し右下制しているが,体幹前屈とともに右 PSIS が 上方へ移動し左 PSIS を追い越している 図 4  片脚立位時の支持側の骨盤の動きを上後腸骨棘(PSIS)と第 2 仙骨(あるいは下外側 角)で評価する 左下肢支持側(左写真)では PSIS の動きが変化しないが,右下肢支持側(右写真)では PSIS が上方へ偏位し,仙腸関節のアンロックを示唆する. 図 5 超音波診断装置を用いた abdominal hollowing による腹横筋応答の評価 治療前(左側写真):腹横筋の引きこみが弱く,筋厚の変化が少ない. 治療後(右側写真):腹横筋の引きこみと筋厚変化が確認される.

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クリニカルリーズニングに基づく理学療法の捉え方(症例呈示) 617 また,6 ヵ月と症状が長期化していたことから,現症状のメカ ニズム(仮説ではあるが)を説明することで疼痛に対する不安 要素を排除する必要があると判断し,腰部,腹部の過緊張筋に よる機械的ストレスが腰椎椎間板,椎間関節に影響し現症状は 同部からの関連痛の可能性があることを説明し,次にそれに対 する治療内容を説明,同意を得たうえで治療を行った。 (治療プログラム):右大腿外側へホットパックを実施し,その 後大腿筋膜,腰方形筋,外腹斜筋の筋膜リリースを行った(図 6)。治療直後に超音波診断装置にて腹横筋の応答の正常化(図 5),立位片脚での右仙腸関節のアンロックの正常化(stork-test 陰性化),端座位での右 PSIS の追い越し現象の陰性化を確認で きたが,前屈症状は軽減するも残存していた。 (著者の解釈):過緊張を起こしていた outer muscle の筋緊張 を改善することで,腹横筋を含む inner unit 機能が改善し, inner-outer muscle sequence が正常化したことで,stork-test 陰性となったと思われる。次に,L 4 5 の椎間関節の機能不全を ターゲットに同部位への Sustained Natural Apophyseal Glides (以下,SNAGS)を行った。SNGS とはマリガンテクニックの ひとつであり,坐位でターゲットとする椎骨の棘突起に上方へ glide をかけ(本症例では L4 棘突起),患者の体幹前屈ととも に glide の圧を変えないように前屈動作終了まで mobilization を実施するものである。治療終了後の再評価にて坐位,立位体 幹前屈での症状消失を確認できた。ここで,脊柱の柔軟性の維 持目的で Cat-Camel エクササイズ,rocking backward エクサ サイズを指導した。 2 回目治療(初回治療より 1 週後):症状はほとんど消失し, 立ち上がり,前屈動作,くしゃみでも疼痛がなくなったとの ことであった。再評価でも,胸骨下角の正常化,PKB でやや 四頭筋の過緊張は残存していたが股関節外旋時の骨盤回旋は消 失,坐位,片脚立位での仙腸関節アンロックは正常化していた。 (患者の解釈)どうして下腹部が痛くなるのかわからなかった が,腰部への治療で改善したので不安がなくなったとのことで あった。 (著者の解釈)初期評価にて PKB が陽性であり,現在でも骨 盤前方シフトの姿勢であることからインナーユニットの機能不 全を起こしやすい姿勢であり,再発予防のために腰椎の柔軟性 維持と下部腹筋のトレーニングが必要と考えた。したがって, home exercise に大腿四頭筋セルフストレッチと下部腹筋のエ クササイズ(骨盤後傾)8)を追加した。 3 回目治療(初回治療より 2 週後):症状は消失。身体所見は PKB も改善しその他所見はすべて陰性化したため,エクササ イズの確認をして終了となった。 (内省)右下腹部への症状を出現させる可能性のある組織の同 定に関して,最終判断は MRI からの情報を優先した。また, 関連痛の可能性は L1・2 分節神経支配の可能性を否定する根拠 が乏しく詳細な評価が必要であった。 結  語  症例を呈示し,クリニカルリーズニングに基づいた展開を示 した。臨床では問診から仮説立案を行い,画像所見や身体所見 で得られた情報をもとにさらに仮説を具体化させ,物語的推論 と診断的推論を両立させた推論が重要である。 文  献 1) 白尾泰宏:皮膚瘢痕に対する徒手的アプローチ.理学療法.2013; 30: 4. 2) 白尾泰宏:能動的下肢挙上検査における腰部骨盤帯安定性評価に 対する調査,第 45 回日本理学療法学術大会.大会特別号.2010; 37: 1.

3) De Groot M, Pool-Goudzwaard AL, et al.; The active straight leg raising test (ASLR) in pregnant woman: differences in muscle activity and force between patients and healthy subjects. Man Ther. 2008; 13(1): 68‒74.

4) Lee D:骨盤帯 臨床の専門的技能とリサーチの統合.今井安 秀( 監 修 ) 石 井 美 和 子( 監 訳 ), 医 歯 薬 出 版, 東 京,2013,pp. 169‒248.

5) Hungerford B: 6th world congress of low back & pelvic pain, barcelona, 2007.

6) Vleeming A, Snijders CJ, et al.: A new light on low back pain .In second interdisciplinary world congress on low back pain and its relation to the SI joint. Rotterdam: ECO, pp. 123‒131.

7) Bogduk N: Lumber dorsal ramus syndromes. In Boyling JD and Palastanga N (eds): Grieve’s modern manual therapy (2nd ed). Churchill Livingstone, London, 1994, pp. 429‒440.

8) Sahrmann SA:運動機能障害症候群のマネジメント.竹井 仁, 鈴木 勝(監訳),医歯薬出版,東京,2005,pp. 51‒120.

図 6 大腿筋膜に対する筋膜リリース

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図 1 レントゲン所見では大きな変化はみられない
図 6 大腿筋膜に対する筋膜リリース

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