ハイブリッドワークショップの創造と展開
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.25-1 No.97. を学ぶか」 「どのように学ぶか」という生徒の学びを中心にした教育への転換 が求められている2)。よりよい社会を創るために、社会と連携しながら、未 来の創り手となる生徒の育成をはかることである。このような教育を実現す るためには、教師がいかに教えるのかではなく、生徒自身の学ぶ意欲や姿勢 をどのように高めるのかが必要である。 それは、教員が教えたから生まれるものではなく、生徒自身の意欲をどの ように引き出していくのかが肝心である。生徒の意欲とは、学びと社会がつ ながった時に大きく喚起される。そのために、教員が学校を超えて、社会と つながる水平的学習の実践をおこなうことが必要である。 これまでの研究では、一つの共同体(例:学校)における学習を捉えるこ とが主であったが、現在では複数の共同体を通じた学習を対象とする境界横 断論に関心が広がってきている。それはある共同体と別の共同体との間の乖 離やつながり、それらの間をまたぐ過程でみられる変化といった複数の状況 間をまたぐ学習過程に着目する領域である。エンゲストロームはこれまでの 研究が「段階」を垂直的に上がるようにされていたのに対して、組織を越境 する水平的な移動が重要であると指摘している3)。 このような越境をどのようにインフォーマルに入れていくのかが課題であ る。本稿では、社会とつながる水平的学習の事例として、オンラインとリア ルとを融合させたコミュニケーションツールによって、どのように越境的な 学習が進んだのかについて論じる。. 3.越境するインキュベーターとしての Facebook「反転授業 の研究」グループ 「反転授業の研究」(以下、反転 G と略)は、物理ネット予備校の田原真. 人が2012年12月に立ち上げた Facebook グループである。. このグループのビジョンは、「テクノロジーを利用することによって学習. 者中心の学びを作り出していこうと考えている人が、対話を通してアイディ アや理解を深めていこうというグループです。多様性のあるメンバー間の対 話により、自己組織化的に集合知を得ることを活動の目標にしています。ま た、メンバーが協力し合って集合知を得ることを体験することにより、21世 紀型スキルを磨くための自己研鑽の場」である。 当初、当時広がりつつあった反転授業の ICT スキルや方法論を学ぶ集ま. りとして始まったが、その後、ICT スキルの習得と共に、スキル的なものか ら、対人的なダイアログ(対話)を学ぶ場へと広がってきた。. 当初数名から出発した参加者数も、2014年11月、次期指導要領にアクティ ブラーニングが盛り込まれることが注目されたことから一気に拡大して、 2016年末現在4,000名を越える大グループとなった。. 筆者は2014年夏頃に参加した。当初は大した期待せずに入ったが、他のグ. ループとは違って、先進的なメンバーがイノベーティブな活動をしているこ とで興味を抱いた。この当時、私は教師と学生とで構成する学習集団のイノ ベーションについて問題提起をしていた。つまり、教員と学生だけの閉鎖的 な学びの空間を、学外からのボランティアや見学者を入れる開放的な学びの 空間へと転換させる必要性である。 代表の田原が年に一回帰国して、反転 G メンバーとオフ会を開いている。. その関西オフ会前日に、同年12月私の授業に田原他の反転 G メンバーが私. の授業現場を見学に来た。これに触発された田原がその後に開催された反転. 99.
(3) 100. 特集:イノベーションデザイン論. G のセミナーにも同様の仕組みを導入した4)ことで、筆者自身もさらに関. 心を持った。. このグループにおけるセミナーとは、毎月無料のオンライン勉強会と、 3ヶ月毎の有料セミナーである。テーマは、アクティブラーニング、動画作 成、授業設計、学習効果測定、参加型組織、学習する組織、ファシリテー ションなど、必ずしも反転授業に限定せず、アクティブラーニングやファシ リテーションにまで広がっている。 当初、代表の田原がオンラインファシリテーターとなり、講師が参加者に講 義をおこなうというオーソドックスな形式だった。それが私の授業見学1年後 には、講師と参加者の間に、運営ボランティアという制度を導入し、ボラン ティアが参加者に寄り添いながらセミナーを実施していく形が始まった4)。そ の形式は、以後今日まで継続されており、2016年のセミナーからは私も運営ボ ランティアに加わっている。 このグループには、代表の田原の他に、初期から山口県立萩商工高校の松 嶋渉も主要メンバーとして加わっている。彼は、田原のカウンターパートと してグループ内での活動をおこないつつ、本業の高校教育において、サイボ ウズやベンチャー企業関係者と共同プロジェクトをおこなったり、萩市内の まちづくりグループと組んで地域と連携した教育を展開し、アクティブラー ニングや問題解決型学習(Problem-based Learning)の分野で全国的に著名で ある。松嶋も田原と一緒に私の授業を見学に来て、教育機関の閉鎖性を破ろ うとする点で私と共通する意図を持っていることを確認した。 岩手県立花巻北高校下町壽男校長は遅れてこのグループに入ってきた。け れども、既に彼はアクティブラーニング分野において全国的な知名度があっ たため、彼のブログ記事はグループ内だけでなく、全国的にも波及力があっ た。松嶋と下町は2016年2月に出会って以来互いに敬意を持つ関係であり、 私も二人と個別につながっている。 いずれにしても、このグループは、反転授業以外にアクティブラーニン グ、ファシリテーションなどの専門家が集う場になっており、そこでのやり とりから新しいイノベーティブな動きが生まれるインキュベータ的な役割を 担っているのである。. 4.反転 G とハイブリッドワークショップ. オンライン上でのユーザ同士の意見交換、多くの場合、SNS や掲示板な. どの文字ベースのやりとりであった。互いの姿や言葉を見聞きしながら話す. Web 会議であっても、参加人数が数名に限定されており、参加者のグルー. プワークはできなかった。また、専用回線と専用端末同士でおこなうテレビ 会議は高額のシステムであり、一般的な利用には向かなかった。一方で、無 料ツールであるスカイプは全世界のユーザ数が3億人を超えるにもかかわら ず、機能や安定性の点でかなり見劣りした。. それが一変したのが、2016年1月、Zoom が一気にバージョンアップしたこ. とであった5)。それによって、オンラインで数名だけしか話せないというスカ イプの限界が破られ、Zoom では50名が一気に参加でき、しかも、参加者が. 小グループに分かれて対話するブレイクアウトルーム機能が追加されたので. ある。これによって、本格的な Web 会議が広がる可能性が一気に高まった。. 反転授業の研究グループとは別に、Zoom の可能性に注目していたメンバー. がいた。日本ファシリテーション協会(Facilitators Association of Japan: FAJ)の.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.25-1 No.97. メンバーである。たまたまワールド・カフェ6)20周年を記念するイベントが、. IAF(International Association of Facilitators)が中心となって様々なイベントが. 日本で行われた。既にそれ以前から、IAF ではオンライン方式のワールド・カ. フェ6)をおこなっていたが、当時 Zoom にブレイクアウトセッション機能がま だなく、Maestro、Social Webinar、Zoom というツールをミックスした構成で実. 施せざるをえなかった。しかし、ツールの組み合わせが複雑だったため、多く. の参加者はツールの入れ替え作業に戸惑いを感じていた。 2016年1月の Zoom 大幅バージョンアップ後の動きで注目すべきは、同年. 8月に台湾・花蓮で開催された IAF アジア大会だった。ファシリテーショ. ンの世界で長年の貢献者である香取一昭が、“Hybrid Online Facilitation -. Technologies Accelerate Global Collaboration”というテーマで分科会を行い、 国際的なハイブリッド・ワークショップを初めて開催したのである。. 香取によれば、「IAF の大会では、それまでに何回かリアルのワールド・. カフェをホストしてきたのですが、2015年12月から Zoom に breakout session 機能が追加されたことを田原さんから伺っていました。既にオンラインでの ワールド・カフェを何回か実験的に行っていたので、今回はリアルとバー チャルをつないでみたいと考えた7)」とのことである。ここで反転授業の研 究グループとファシリテーターとが本格的につながったのである。. Zoom の大幅バージョンアップは、開発元の努力の結果である。しかしなが. ら、オンラインとリアルとを結びつけるという発想は、リアルの世界で会議 ファシリテーションに精通しているファシリテーターだからこその貢献であ る。かれらだからこそグループワークとリアルのグループワークをつなげら れたのである。その媒介項が田原であり、反転授業の研究グループである。 香取は次のように語っている。『「ハイブリッド・オンライン」という言い 方をしたのは私が初めてだったと思います。実施に当たっては、田原さん (マレーシア在住)とエイミー・レンゾ(Amy Lenzo)さん(カルフォルニ ア在住)に共同ホストとストーリーテリングをお願いしました。田原さんが もし台湾においで頂けなければマレーシアから参加していただこうと考えて いたのですが、花蓮に来ていただけたのでリアルの会場でご一緒させていた だけたのは幸いでした。』『台湾大会までには、Zoom で分科会もできるよう. になっていたので、2015年のオンライン・ワールド・カフェとリアルのワー ルド・カフェをつないでみようと考えたわけです。また、IAF の大会ではリ. アル会場でのセッションだけが行われてきましたが、そろそろ「リアルと. バーチャルをシームレスに繋ぐ」新しいカンファエレンスのあり方も提案し てみたいという想いもありました。8)』 このように ICT の技術革新とリアル対話の手法に精通したファシリテー. ターとの出会いによって、「リアルとバーチャルをシームレスに繋ぐ」新し いカンファエレンスの形式が生まれたのである。次章では、具体的な内容に ついて論述する。. 5.ハイブリッドワークショップの特徴 ハイブリッドワークショップは、オンラインのグループワークと、リアル のグループワークを同時におこなう会議方式である。一般に、講演会やセミ ナーでは、発表者から参加者全員に対して一方向の知識伝達が行われるが、 近年、参加者同士の横の関係で意見交換することが増えてきた。 たとえば、司会者が参加者に対して、「ただいまの報告についてお近くの. 101.
(5) 102. 特集:イノベーションデザイン論. 参加者同士で話し合ってください」と促すと、壇上だけを見ていた参加者 は、隣同士に座りながらもそれまで一言も言葉を交わさなかった隣席の人と 自己紹介したり、テーマについて話し合ったりする。しかし自己紹介すると 参加者同士の思わぬつながりが生まれ、話し合う中で興味ある意見が聞けた りする。両者の間にあった壁がこれによって一気に崩れ、参加者の周りに安 心、安全な空間が生まれる。以上のようなリアルの対話をオンラインでも同 時に実施するのが、ハイブリッドワークショップである。 リアル側では、参加者を小グループに分けて話し合うことはよくおこなわ れてきたが、オンラインで小グループに分けることは Zoom の登場以前には かなり難しかったのである。. もちろん、オンライン側とリアル側とが同時に同じ内容で進行する必要が あるので、それを可能にする役割が必要である。つまり、ハイブリッドワー クショップを実施するためには、オンライン側ファシリテーター、リアル側 ファシリテーター、両者をつなぐテクニカルサポートの三者が場をホールド するということができれば可能になる。 議事進行は、両ファシリテーター同士で話し合いながら進めて行くことに なる。リアル側からイニシャルトークがおこなわれると、それをオンライン 側の参加者が聞き、リアル側ファシリテーターの進行にオンライン側ファシ リテーターもあわせていく。オンライン側がイニシャルトークをおこなう場 合には、その逆をおこなう。 ハイブリッドワークショップの特徴は、オンラインとリアルのグループ ワークを同時におこなうことである。たとえば、15分間グループ対話をおこ なうとすれば、両ファシリテーターで事前に時間や進行について打ち合わせ をおこなう。ワークショップの進行時間が変動すれば、それに合わせて両者 で話し合って時間や進行を変動させる。両ファシリテーターの息の合った打 ち合わせがおこなわれていれば、本番では、オンラインはオンライン側ファ シリテーターが、リアルはリアル側ファシリテーターが参加者の対話を進行 させていけばいいのである。両ファシリテーターには、互いの状況を理解 しながら進行させていくという Zoom 操作と、対話を促進するファシリテー. ションの経験が必要である。. しかし、ファシリテーターよりも重要な仕事はテクニカルサポートであ る。ブリッジと呼ばれることもある。テクニカルサポートは、Zoom の経験. だけでなく、音声、動画、インターネット環境に精通している必要がある。 その上で、会場設営、機材設定、リハーサル、ワークショップ本番、撤収の すべての知識を頭に入れておく必要がある。 テクニカルサポートの力量がもっとも試されるのが、大きなリアル会場で 実施する場合である。会場の音響設備を使用して、Zoom の音声と動画を会. 場に聞こえるようにするのと同時に、会場の音声を Zoom 側に聞こえるよう. にする必要がある。つまり、オンラインとリアル双方の参加者が互いに相手 の音声と動画を見聞きできることで対話を円滑にすることができる。こうし た技術的な課題とファシリテーション力とが合わさってはじめてハイブリッ. ドワークショップは可能になる。まさにハイブリッドワークショップは、. IT とコミュニケーションの協働によって可能になった手法である。. アクティブラーニングの世界では、教師の役割の転換が求められている。. すなわち、教えることから、学習者に寄り添う「学びの同伴者」として次の 二つの役割が求められる。一つの役割は教室をホールドすることである。学.
(6) デザイン学研究特集号 Vol.25-1 No.97. 習者が自分の意見を自由に発言し、他人の意見を受け止めて学び合いので きる教室を構築することである。 もう一つは教室を外に広げることである。 同じ教室に同じ教員と学習者だけで学んでいると、それぞれに固定した役割 が与えられていく。教室内では教員の影響力が多いので、その影響力を前提 にした人間関係が前提となってしまう。教員がすべての学習者の意欲を喚起 できるわけではない。むしろ、第三者がそこに関わることで、より多くの学 生の学習意欲が喚起されうる。そこで、たえず教室を外に広げて、常に多様 な価値観がもたらせるようにすることで、多様な視点で学習者や教員を見る ことができるのである。 この二つの役割があることで、学習者は自由に対話を広げると同時に、外 との接点を持ち続けることができる。教室を広げるためには、繋いでいくた めの「外側」を持つ必要があり、教師が外部のネットワークに繋がる必要が ある。 教室外とつながる方法として、ハイブリッドワークショップは、極めて効 果を発揮する。リアルの教室だけでなく、オンラインでつながることさえで きれば、国境や年代、職業、関心を越えてつながることができる。あるテー マについて話し合うときには、通常は教室内のメンバーだけで話をしがちで ある。しかし、リアルのメンバーだけで話し合うよりもオンラインのメン バーを入れると、斬新な発想になりやすい。つまり、これまで考えなかった 写真1 花巻ハイブリッドワークショップ参 加者. アイデアが出るというアイデアの多様性、物の見え方自体が変わるフレーム ワークの転換がおこるのである。このようにアクティブラーニングを単に教 室内での活動に限定せず、教室外とのつながりを生み出すツールとしてハイ ブリッドワークショップがある。. 6.花巻のハイブリッドワークショップ 2016年春に、花巻北高校下町寿男校長から、松嶋渉と私に対して、同年11 月終わりに開催される教員研修会後の2時間にイノベーティブな企画をした いという提案があった。その時点で企画は未定であったが、反転 G でハイ. ブリッドワークショップが始まっていることから、それを実行しようという ことになった。そこで、9月頃から、松嶋が「世界と繋がりながら語り合う ハイブリッド・ワークショップ∼夢を思い描き、未来を切り開く子どもたち を育てるために∼」というテーマの企画を告知した9)。 教員研修会では、講師の話自体はいいにしても、それを受け止める主催者. や参加者のマインドが変わらない限り、アクティブラーニングを具体化する ことにはならない。次期指導要領にアクティブラーニングが盛り込まれる ことが決まった2014年以来、高校や大学では教育改革が急速に進行してい る。けれども、アクティブラーニングを単なる教え方に矮小化したり、教師 が学生に「自主性」を強制するという矛盾が生じている教育現場も少なくな い。要は、この改革は生徒だけが転換を求められているが、教師自身は変わ りたくないという教師側の保守的な考えがうかがえる。そこで、このワーク ショップでは、教師自身が未来に向けてどのようなアイデアを持ち、行動す るかを語ることにした。 同じような境遇や思考方法を持つ高校教員ばかりで話し合ってもイノベー ティブなアイデアは生まれない。むしろ、花巻会場にも他の参加者が集まっ て、高校教員だけではないリアルの参加者を集めた。反転 G に呼びかけ、下. 町を慕う方を含めて、山口県、京都、東京、岩手県から10名程度が全国から. 103.
(7) 104. 特集:イノベーションデザイン論. 集まった。彼らや岩手県の高校教員をあわせて、60名程度の参加者であった。 オンライン側の海外組は、ニューヨーク、ニュージーランド、マレーシ ア、スペイン、シンガポール、韓国などであり、国内組は、福岡県、奈良 県、宮城県、千葉県、島根県、兵庫県、大阪府、長崎県、石川県など25名く らいであった。 オンライン側ファシリテーターがマレーシア在住の田原10)、花巻北高校会 場側ファシリテーターが私、テクニカルサポートが松嶋、総合プロデュー サーが下町であった。 ハイブリッドワークショップの進行スケジュールは、以下の通りである。 1.主催者からの趣旨説明(下町壽男) 2.花巻側ファシリテーター自己紹介(筒井洋一) 3.オンライン側ファシリテーター自己紹介(田原真人)とオンライン側 参加者紹介 4.参加者チーム内での自己紹介 5.インスピレーショントークⅠ 才神敦子 & ロナ・ラージス. 『子供がアクティブになるために、大人として出来ること』 6.花巻北高校生によるプレゼン 7.グループワークの説明 8.ワールドカフェ1(15分間) 問1.子どものアクティブさを引き出すために、あなたはどのよう な関わり方をしたいですか? 9.インスピレーショントークⅡ(松嶋渉) 『「学校× ICT ×社会」でシナジーを起こす学習デザイン』. 10.ワールドカフェ2(15分間). 問2.組織を超える学びをどのように可能にしていきますか? 11.ワールドカフェ3(15分間) 問3.未来からの使者である生徒の将来をどのように創っていきま すか? ・ハーベスト(リアルとオンライン双方からの意見表明) ワールドカフェでは4人チームで話し合ったが、そこでのツールとして 「えんたくん」11)を使った。写真のように、直径1メートルの段ボール上に、 同じサイズの用紙を載せて、そこに自由に書き込むツールである。 これは四人全員の膝に載せるので、互いの距離が近くなり話しやすくな る。発表時には、上の用紙だけを持って、それを示しながら説明すると発表 しやすい。 インスピレーショントークは、リアル側から2名を出したが、この姿と音 写真2 花巻ワークショップでの「えんたく ん」の活用. 声がオンライン側にもよく聞こえるようにリアル側に USB マイクとカメラ. を準備した。. インスピレーショントークが参加者の関心をどこまで喚起するかが対話を 促進する大きな動機となる。才神敦子 & ロナ・ラージス(八戸在住)親子. が過去の深刻な親子関係を自己開示しつつ、自分のありのままを見つめるこ とが大切と訴えたことで、参加者の気持ちが一気に開放的になった。 それを敏感に感じた松嶋は、当初インスピレーショントーク二本連続で進 める予定を、才神トーク直後に、参加者同士が話し合う、問1のグループ ワークに切り替えた。この方針変更が後の議論を活発化させる大きな原動力.
(8) デザイン学研究特集号 Vol.25-1 No.97. となった。総合プロデューサーの下町に承諾を得てから、オンライン側の田 原と進行変更をおこなった。問1終了後に、インスピレーショントーク2の 松嶋が発表した。彼は「授業は生徒のためにということよりも、まずは教員 自身が好きなことをすべき」と訴えたことで、教員自身のあり方に議論が変 わっていった。教育を変える主体が明確に教員となったのである。 オンラインとリアル双方から順番に発言してもらった。たとえば、リアル 側の対話がこれまでの日本の教育が前提になっているのに対して、オンライ ン側からは日本の教育という前提がそもそも成り立たない海外での取り組み が紹介された。 海外からの発言も音声の遅れがなく非常に親近感を感じる対話となった。 ハイブリッドワークショップ終了後もリアル参加者の多くが帰ろうとせず、 ハイブリッドワークショップの方法や問の作り方について質問攻めに遭っ た。参加者にとって貴重な体験になった。. 7.京都でのハイブリッドワークショップ 花巻ワークショップの約3週間後に、京都で開催された高大連携教育 フォーラム表現技法分科会でもハイブリッドワークショップを実施した。当 初、この分科会ではオンラインは想定されていなかったが、花巻の経験を踏 まえてハイブリッドワークショップが実現可能であることがわかった。そこ で主催者の許可を得て、急遽実施することになった。 分科会コーディネーターである筒井がテクニカルサポートを務め、松嶋が 分科会側ファシリテーターを務めた。反転 G メンバーにはハイブリッドワー. 写真3 分科会参加者. クショップに何度も参加しながら、運営ボランティアをした経験者が多数い る。その中から東京在住の永島宏子にオンライン側ファシリテーターを依頼 した。 分科会参加者は35名で、見学者も常時5、6名いた。オンライン側参加者. は、ニューヨーク、ニュージーランド、韓国、シンガポールの海外組の他、 国内からは仙台、東京、千葉、三重、京都、滋賀など15名以上であった。 進行スケジュールは、以下の通りである。 ・筒井による趣旨説明 写真4 京都ワークショップの参加者. ・永島宏子の自己紹介とオンライン側参加者紹介 ・インスピレーショントークⅠ(松嶋渉:分科会報告者) 「学校× ICT ×社会」でシナジーを 起こす学習デザイン ∼越境する学びの仲間と未来を創る∼. ・インスピレーショントークⅡ(荻野雅由:オンライン) ニュージーランドの日本語教育の高大連携 ─ 越境する学びへのス テップ ─ ・グループワークの説明、グループでの自己紹介(5分間) ・ワールドカフェ(20分間×2回) 問1.あなたにとって越境する学びとは何ですか? 問2.これから越境する学びをどのように広げ、深めていきます か? ・ハーベスト(リアルとオンラインからの意見発表) ・振り返り 京都では、ハイブリッドワークショップに対する関心が強かった。他の分 科会参加者や基調講演者も見学に訪れたり、Zoom の教育利用について関心. 105.
(9) 106. 特集:イノベーションデザイン論. を持っている高校からも参加者が来ていた。花巻のトークはいずれもリアル 側から出ていたが、京都ではオンライン側とリアル側が1名ずつ登壇した。 これは、分科会側の議論が現状の日本の教育を前提におこなわれがちなのに 対して、その現状自体を疑うことからはじめるために、海外からのトークを お願いした。 ニュージーランド在住の荻野は、ニュージーランドの教育は、日本と比べ て、自由であり、何度もやり直しがきき、多様な学び方が推奨されている。 写真5 荻野発表スライド. そして、PISA(OECD 加盟国生徒の学習到達度調査)の結果も、日本と比. べて大差ない。つまり、競争意識をあおるよりも、学習は、つながりとコ ミュニティーを生み出すべきという問題提起をした。 松嶋のトークは、花巻の時以上により教員の能動性を求めるものであった。 教師自身がアクティブラーニングを体験し、自身の中からわき出る内発的な かかわりで生きる必要性を訴えた。 グループワーク中には分科会会場でも大スクリーンでオンラインのやりと りが見られるので、互いに影響し合っていた。たとえば、分科会会場ではグ ループワークのアイデア出しのために全参加者に対してポストイットが配ら れた。 それを見ていたオンライン側参加者から、「オンラインではポストイット は無理だけど、メンバーでホワイトボードを共有できるのでそれを使いま しょう」という提案があり、さっそく実行していた。ほとんどのオンライン 参加者は Zoom の使用経験があっても、はじめてホワイトボードを使うメン. バーであった。入力に戸惑いながらも書きはじめると、互いのアイデアが 次々視覚化されていくことで驚きが生まれてきた。. スクリーンに大写しされたホワイトボードの書き込みを見ていた分科会参 写真6 ホワイトボード機能を使ったアイデ ア表出. 加者からは、時差の違いで真夜中に起き出しているオンライン参加者の存在 を知ったり、これに参加したことで越境の意味を理解した、という実感のこ もった書き込みに触発されていた。まさにオンラインとリアルの対話がシン クロした瞬間であった。 ハイブリッドワークショップを経験した参加者からは、高校や大学での教 育利用に関心を持つ声も聞こえて来た。ツールの導入自体に抵抗がある学校 があるにしても、実際には学校外からゲスト講師や講師を招聘しているし、 今後もっと広げたいと思っているはずであり、そのツールと考えることもで きる。. 8.ハイブリッドワークショップが開いた可能性 ハイブリッドワークショップは、花巻や京都以外にも富山県氷見市役所や 山口県萩市の「リモートワークジャーニー@萩」、日本ファシリテーション 協会にも広がっている。また、ハイブリッドとは異なるが、Zoom を使った. フェスティバルとして、オンラインフェスが1月8日に開催された12)。これ. は、当日、Zoom を使ってセミナーを主催する出展者が同じプラットフォー ムに集まり、参加者がいずれの出展者の企画にも自由に参加できるオンライ ンのお祭りであった。 ハイブリッドワークショップを語る際に、まずは Zoom テクノロジーのイ. ノベーションの影響を上げるべきである。これまでスカイプや Line などで のテレビ会議ツールを使っているのとは明らかに一線を画する技術のブレイ クスルーである。.
(10) デザイン学研究特集号 Vol.25-1 No.97. テレビ会議ツール初心者であっても、Zoom を体験すると、視野の広がり. といい、距離感といい、リアルでのコミュニケーションに近い感覚を持つこ とができる。この感覚は、単に相互の口頭情報を伝え合う以上に、互いの非 言語的なサインを伝えやすく、リアルの対話に近い感覚が得られるからだ。 初めて体験したユーザは、リアルに近い感覚をオンラインで得られることに 驚きながらも、同時にそれへの親近感をも抱く。 この特別な感覚は、Zoom のブレイクアウトルーム機能で、多人数が集. まっているメインルームから小ルームに移動して、再度メインに戻ってくる 時にはさらに強く体験できる。いわゆる時空をワープする感覚である。いず れにしても、ZOOM はオンラインツールの技術的発展によってリアルの対 話に近づくことを可能にしたのである。. しかし、技術的発展は、われわれに新たな課題を突きつける。つまり、こ のツールを使ってどのような世界を創るのかという課題である。インター ネットは中央がなく、自律分散的に行動することがシステム的に認められて いる仕組みである。そこではユーザがオープン、かつフラットな関係の中で 自由に活動することが認められている。けれども、それを使って貧富の格差 や情報格差をも生み出している側面もある。このように技術は本来人間に とっては中立的な存在であっても、それが人間社会においてどのように使わ れるのかによってまったく異なった結果をもたらすのである。 その意味で、Zoom のバージョンアップは、オンラインコミュニケーショ. ンの画期的な技術的ブレイクスルーであった。けれども、ハイブリッドワー クショップはコミュニケーションをより進化させようとする人間のブレイク スルーである。 ハイブリッドワークショップは、技術的発展にとどまらず、元来、技術的 発展とは無関係であった、ファシリテーションスキルを導入し、それによっ て、人間のコミュニケーションを進化させようとしている。コミュニケーショ ンの枠を広げ、国境、地域、文化などの「間」をつなぐツールとして、オン ラインとリアルとが同時に対話できる特性を活かすことができるのである。 ハイブリッドワークショップ時に、リアル側参加者は、オンラインに入る 必要がない。リアル側参加者にとっては、大きなスクリーンを通じて、オン ラインの側から関与して来る13)。リアルのままでもオンラインを感じること ができるのであり、参加のハードルは低い。 一方で、オンライン側参加者は、通常は関わることができない、他文化圏 のリアルイベントや現場に関わることができる。今回の場合には、岩手県の 高校教員や分科会参加者だけが参加可能である希少性を強く感じているの で、彼らはアーリーアダプター的な先進性を持っている。そのため、リアル 側参加者とは異なった発想や経験を持っており、オンラインとリアルでの対 話の方向性が異なっていた。 ハイブリッドワークショップの醍醐味は、リアルとオンラインとの間で、 発想や視点の相違を生み出し、それを互いに伝え合うことである。オンライ ン側参加者が加われば、リアル側参加者だけでの話し合いとは異なる発想や 視点が生まれる。こうした違和感をたえず創り出し、それをどう超えていく のかという発想こそが大切である。 今後の社会は、リアル社会と同時にオンライン社会とが併存する時代であ る。両者がスムーズにつながると同時に、両者の間で意思疎通の混乱が生じ ることもある。しかし、その混乱の中にこそ人間が越えるべき課題が明らか. 107.
(11) 108. 特集:イノベーションデザイン論. となる。 そこでの学びは、これまでの経験にもとづく垂直的な学習ではなく、組織 を越えた水平的学習の中でこそ体験でき、越境することなしには得られな い。そうした体験とそれを越えうるイノベーティブな人材を育成するために も、ハイブリッドワークショップは強力な越境ツールとなる。このツールに よって、未来社会におけるオンラインとリアルの越境体験の先駆に触れるこ とになるのである。 注・参考文献 1)正式名称は「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善 及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」である.以下「中教審答申」と略. 2)中教審答申,pp. 18-19.. 3)香川秀太・青山征彦:越境する対話と学び ── 異質な人・組織・コミュニティをつなぐ, 新 曜社,pp. 35-64,2015.. 4)筒井洋一,山本以和子,大木誠一:CT (授業協力者)と共に創る劇場型授業 ― 新たな協働空. 間は学生をどう変えるのか ,東信堂,2016.. 5)Zoom は,2011年創業の Web Conferencing 企業である.. https://zoom.us. 6)ワールド・カフェは,人々がカフェにある空間のようなオープンで創造性に富んだ会話がで きる場とプロセスを用意することで,組織やコミュニティの文化や状況の共有や新しい知識 の生成を行うファシリテーションプロセス」である.. http://www.humanvalue.co.jp/service/wcafe/. 7)2017年1月27日香取一昭から筒井洋一宛へのメール. 8)2017年1月27日香取一昭から筒井洋一宛へのメール. 9)イベントページは以下参照のこと.. https://www.facebook.com/events/1734676373462196/. 10)オンライン側ファシリテーター田原の記事参照のこと.. http://flipped-class.net/wp/?p=2582. 11)「えんたくん」については,以下参照.. http://www. 段ボール .net/products/detail.php?product_id=39. 12)「オンラインフェス2017」サイトは以下参照.. https://peraichi.com/landing_pages/view/onlinefes2017. 13)この章の記述については,以下の記事を参照した.田原真人:インターネットが鍵を握る!. パラダイムシフトへの新しいシナリオ ,beyond,2017年1月25日.. https://globalleaderlab.com/internet.
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