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広 島 国 際 学 院 大 学 現 代 社 会 学 部 現 代 社 会 学 ~

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(1)

アクション・リサーチによる知的障害のある青年の

コンビュータ教育とコンビュータ・ワ}クの可能性

目黒輝美

大下和之、平尾竜一、小谷英治、坂本治代

要約 アクション・リサーチは、教育、医療、福祉、地域開発などの分野における実践的

i

研究方法としてイギリス、アメリカなどで多くの研究がある。その特徴は、研究者と研究対 象者との関わりの平等性にあり、研究の評価は研究課題が如何に改善されたか又は変革され たかを指標として行われる。福祉分野においては、社会生活上の諸課題を解決することがそ のサービスの目的であり、この点で、アクション・リサーチが有効な理論となると考えられ る。本研究においては、 Stringer(1999

)が提唱する「コミュニティに根ざしたアクション-i

リサーチ」を基礎理論とし、知的障害者通所授産所

H

作業所川の利用者

O

の事例をとりあげ、

i

知的障害者のコンピュータ基礎講習の計画、実行、終了後の結果考察と今後の課題を明らか にする。この事例を通じて知的障害者のエンパワメントにアクション・リサーチが果たした 役割を検証する。 キーワード:アクション・リサーチ、知的障害者、コンビュータ圃ワーク

1 知的障害者とアクション・リサーチ

1

-1

はじめに 知的障害のある若者が、学校から社会へ自立していくこと(トランジション)を考えるにあたっ て重要なのは「働く」環境を準備することである。「働く」ことは、単に賃金を得る労働だけでは ない。身体や精神を使って何らかの作業を行い、物を作ったり、サービスを提供するなど多様な活 動が含まれる。物を作るという労働は、農作物の育成から工場での製品の生産まであらゆる生産活 動を含むものであり、サーピスの提供は、人間生活に必要なすべての面での活動が含まれる。しか しながら、現代社会においては、これらの労働は社会生活のあらゆる場面で賃金労働として位置づ けられ、人々の生活の糧となっている。ほとんどの人は、生活のために働く必要があり、すべての 人は等しくこれらの賃金労働をする機会を得ることができるとなっている。 ひるがえって、知的障害者にとって賃金労働につく機会は非常に制限されている。それには、三 つの要因が相互に関わりあっているといえよう。それは、経済環境・雇用環境(マクロレベル)、 雇用主の理解・態度(メゾレベル)、障害者の雇用可能性(ミクロレベル)の三つである。その相 関関係を図 lで示す。それぞれの円が拡大すれば、それに応じて中心の雇用実現は拡大する。すべ てが同じに拡大しなくても、どれかの円が拡大すれば、それに応じて障害者の雇用の可能性も広が るのである。障害者の雇用は、これらの三つの要素が重なり合うところに発生するので、その部分 を拡大する対策が必要である。 〈現代社会学ワ) 77

(2)

1

三つの要素の相関関係 障害者の雇用可能性 障害者の雇用実現 出典:Terumi Me田ro,2000,(リーズ大学学位論文要約)、 広島国際学院大学現代社会学部『現代社会学~ 119頁 特に知的障害のある人は、障害の多様性のゆえに雇用主の理解を得るためには多大の努力が必要 となる。また、雇用可能性から見たときに、仕事において要求される多様な能力を全面的に獲得す ることは難しい。特に臨機応変に対応するという点で困難を持つ人が多いので、決まった手順で行 うことのできる仕事が主となり、職種が非常に限られてくる。 知的障害者通所授産所

H

作業所を利用している 30人の内、一般企業に就職していた経験を持つ人 が 9人、 3割近くを占めているO それぞれが、会社の倒産やリストラ、いじめなどにより就労継続 ができずに作業所に通所することとなった。就労の継続困難の原因は、ほとんどが本人の生産性(態 度なども含めた)という問題と、雇用主や同僚が望ましいと考えることとの開に詑離が起こったこ とである。厳しい経済環境が雇用主の排除的な気持ちを助長したことも明らかである。障害者の雇 用を拡大する政策として、厚生労働省による雇用主に対する様々な雇用促進の対策(2)が行われてお り、一定の成果を産み出しているが、多くの知的障害者はその恩恵を十分受けているとはいいがた しミ。 しかしながらこれらの問題を同時に解決する方策がある。それは、知的障害に理解のある人が雇 用主となる事業を立ち上げ、彼らが活躍できる場を提供することである。この事業は、マクロレベ ルに対応し、収益をあげる事業でなければならない。メゾレベルにおけるこれらの対策は、スウェー デンではサムハル{旬、イギリスではレンプロイ(4)などの福祉企業がこの役割を果たしており、日本 においても福祉工場や特例子会社、重度多数者雇用事業所にその可能性を見ることができる。また、 一般企業として成功しているココ・ファーム・ワイナリー(5)などにその先進を見ることができる。 ミクロレベルにおける障害者の雇用可能性については、当事者のモチベーションがその出発点と なる。その仕事がしたい、その仕事で認められたい、その仕事で達成感を得られることができるな どの人間として当然の思いを一人ひとりが実現できる環境を準備することが可能性を開花させる前 提である。仕事にその人を合わせるように訓練するのではなしその人にあった仕事を提供するこ とである。そのためには、教育・訓練の中でその人の得手不得手を正しく認識し、その人が可能性 を伸ばせるプランを準備し、自信と技術を身につけられるよう支援することである。それがエンパ 78 (現代社会学ワ〉

(3)

ワメントであるといえる。 イギリスにおける障害者の雇用訓練に関わる必要な要素として、①信頼でき、②真面目で責任感 を持ち、③仕事に対する意欲を持ち、④自主通勤ができ、⑤指示を理解し実行でき、⑤社会的礼儀 を守ることができ、⑦ゆっくりでもいいが仕事を一定して続けることができ、③同僚と良い関係を 持つことが出来るようになることであると FEU(1989)が述べている。ほとんど同じことが日本 においても養護学校高等部の進路指導で提起されている。藤村 (1988)は、生徒との協働作業の中 で、次の10項目を提示した。①仕事をする意欲がある、②時間どおりに仕事にいく、③挨拶や応答 が正しくできる、④自分の精神をコントロールして仕事に集中できる、⑤支持されたことを理解し て実行する、⑥ゆっくりとでもいいから間違えずに一定した仕事をする、⑦アドバイスを素直に聞 く、⑧同僚とうまくっきあう、⑨清潔な身だしなみ、⑮仕事をより好みしないである。イギリスと 日本においてほほ同じことが課題としてあげられている。これらの項目には、環境に対応できる能 力を知的障害者が持つという目的が明示的であるが、彼ら自身が主体的にこれらの力を獲得したい と考えるようになることが必要である。 本論文では、知的障害者のコンピュータ・ワークの可能性についての事例研究を行った。上記で 述べた雇用可能性に関わって、コンピュータ・ワークの訓練を受ける知的障害者が、アクション・ リサーチの参加者として主体的に活動する環境を整えることにより、エンパワメントの実現をめざ すものである。加えて、⑮の「仕事をより好みしない」という項目のアンチテーゼとして、知的障 害者であっても人間として「好きな仕事をする」選択肢が保障されるべきであるという視点から考察 する。 次に、本研究の方法論であるアクション・リサーチについて述べる。

1-2

アクション・リサーチの系譜 アクション・リサーチはKurtLewin (1944) から始まる研究方法で、教育、組織、保健、医療、 福祉など幅広い分野でその研究を発展させてきた。アクション・リサーチの最も重要な特徴は、研 究の対象に利益をもたらしたいと考える研究者が、自身の専門的な研究実践の場へ中心的にコミッ トするという点にある。これについては、 Dadds (1996)がすべてのアクション・リサーチに共通 する特徴であると明確に述べている。研究者は、実践の中心となる当事者と共に、その現場にある 課題を解決する活動を行う中で、自身の専門的研究を発展させる。 Burns (2000) は、「状況的J、 「協同的」、「参加的」、「自己評価的」な特徴を持つと述べる。 Lewinのモデルを参照しながら、 Burnsは、アクション・リサーチには二つの段階、すなわち「診断」と「治療」があるとする。診 断の段階では、第1に課題や普遍的なアイデアを同定し、評価し、公式化する。第 2に、実態を把 握する。第

3

に、関連する研究論文や比較するべき論文を検討し、仮設を立てる。そして最後にそ の諜題を「ブレーンストーミング」することによって仮説を一般化する。治療的段階では、第 1に、 研究過程を選択し、関係する人々や団体との交渉を行う。第2は、アクションプランをたて、その 達成度を評価・検討する。最終的にはそのプロジ、エクトの総括的な評価と解釈を行う。 Hart & Bond (1995)は、もっと単純に「①計画をたてる、②実行する、③観察する、④熟考する」 という枠組を提出している。これらの諸段階を、 Kemmis& McTaggart (1986)は、「計画、観察、 思索、そして更なる計画の立案」、 Coghlan& Brannick (2001)は、「分析、行動計画、実践、評価」、 Stringer (1999)は、「見る、考える、活動する、評価する」など、研究者による表現はそれぞれ異 〈現代社会学 7) 79

(4)

なるけれども、その過程は螺旋的に継続し、展開していくものと捉えている。したがって、サイク ル毎に一つの課題は達成するが、研究活動には終わりがない。現場がある限り、そこでの問題は絶 え間なく発生していくものである。現場にいる当事者がこのアクション・リサーチの方法を習得す ることは、その組織や団体の発展を保障していく力になる。最初に専門家として関わった研究者は、 もはや必要がなくなる場合も考えられるが、それがアクション・リサーチの究極の目標と言えるか もしれない。また、これらの当事者が研究者として成長することにより、その分野の新たな研究を 発展させるものとなるであろう。 このようにアクション・リサーチは非常に多様な理論を展開してきたが、その中で特にアクショ ン・リサーチを社会的弱者をエンパワーする理論であるとして研究を展開している

S

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(1

9

9

9

)

の「コミュニテイに根ざしたアクション・リサーチ」を、本研究は基礎理論とする。彼は、 これまで研究対象者とされていた人々を対等な研究参加者(以後当事者と言う)として位置付けた。 定量的にははかれない現実社会のさまざまな問題を発見し、分析し、課題を明らかにし、その課題 を解決する道筋を、研究者と当事者の相互的な関係の中で見出していくことをめざしている。

1

-3

コミュニティに根ざしたアクション・リサーチ 本研究の基礎理論である

S

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1

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9

9

)

による「コミュニテイに根ざしたアクション・リサー チ

(Community-basedA

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)

Jは、従来は研究の対象者であった当事者を、研究過程 の重要な担い手と位置付ける。研究者は、当事者とともに、研究を促進する促進者としての役割が 重要であり、研究者と当事者との対等な関係のもとでの協働研究がなによりも重要であるとする。 共通の問題意識と協働行動により、サイクルを繰り返しながら、参加するすべての関係者が達成感 を得ることができるような研究をめざすべきであると主張している。 アクション・リサーチ研究過程の特徴は

4

つある。 (1)民主的である:すべての人々の参加を可能とする; ( 2 )平等である:人々の価値の同等性を認める; ( 3 )自由である:抑圧的で人を落ち込ませる状況からの自由を提供する;

(

4

)人生を活性化する:人間の持ち前の可能性を聞かせる

(

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1999 :

1

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)

これは、研究に参加する研究者及び当事者の技術的・実践的能力を高めるだけではなく、その社 会的・感情的生活に肯定的な影響を与えることができるということである。この研究方法は、個人 の誇り、尊厳、アイデンテイテイ、統制、責任、連携、居場所、帰属などの人間的発達を促す過程 を含むものである。一人一人が、平等に参加し、同意の下に活動するので、対象者が研究のために 利用されたり、研究の目的となることにより個人の尊厳が犯されることはない。

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は、一連の研究手続きを次のように提示している(i

b

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d

)

。 (1)日常活動を活性化させるために、 ① 目標と手続きを検討する(我々は何をするべきか? それをどういう風にするべきか) ② その効果を判断する(どの程度我々の目標を達成できたか? 活動はいかに効果的であっ たか?) ③ 次なる活動と戦略をたてる(何を為すべきか?どのようにするべきか?)

(

2

)特定の問題や危機を解決するために、 ① 問題を確定する 80 (現代社会学的

(5)

② 背 景 を 探 る ③ その個々の要素を分析する ④ その解決のための戦略を立てる (3)特別な計画やプログラムを開発するために、 ① 計 画 す る ② 実 行 す る ③ 評価する 本研究では、知的障害者のコンピュータ・ワーク訓練を行うにあたり、上で述べたアクション・ リサーチ理論を実践する。それにより、専門家が主導する職業指導や生活指導においては従属的な 対応になりがちであった知的障害者が、主体的にコンピュータ技術を修得し、将来展望を聞くこと のできる力量の育成をめざす。

1

-4

知的障害者の職業支援とアクション・リサーチ 知的障害者は、その知的能力が「低い」という評価基準のもと、主体者として活動する能力も「低 い」という位置付けをされてきた。 IQに基づく障害区分は、それが人間の諸活動を判断する指標 として明示的ではない。人の生活能力は、その人の持つ個性、生育環境、受けた教育の質によって 大きく変わるものであり、 1Q 80の人のほうが、 1Q60の人より生活能力が「高い」という結果に なるとは限らない。そういう視点からみると、療育手帳保持者であるということが、その人々の生 活面や仕事面での能力の限界を示すものと考えるべきではない。むしろ「能力に限界がある」とい う教育者や指導者の思いこみによる教育や指導が、知的障害者の能力の発達を指導者の思いこみの 範囲内に押しとどめているという実態が往々にして見られる。確かに、コミュニケーション能力に 障害があったり、計算が苦手だったり、仕事の手順を覚えるのに時間がかかったり、こだわりがあ ったりと色々な弱点はある。しかしそれ以上に、その人しか持ち得ない長所がたくさんある。エン パワメントは、この長所に視点をおいて、その人の可能性が開花することを自明とする思想であり、 知的障害のある人、一人ひとりをその長所(ストレングス(6)) の視点から見ていくことである。 知的障害者のエンパワメントを実現するプロセスとして、アクション・リサーチが有効に機能す るという仮説を提示した。指導者に指示されて作業や仕事を行うのではなく、自分たちの置かれて いる状況を自ら判断し、何をするべきかを考え、それを実行し、失敗や苦労の中で、解決するプロ セスを見つけること、そしてそれを良い結果や改革に結びつけていくことは、知的障害者にも十分 にできると考えられる。その促進者として研究者や指導者が関わりあっていく方法を見出すことは、 知的障害のある人々の社会参加の実現にとって重要な課題である。 知的障害者のエンパワメントの獲得に関して、過去のM作業所(7)の実践がある。これは、アクシ ョン・リサーチの明確な理論の下での実践ではないが、障害のある当事者の長所を伸ばす中で、全 人格的な発達が可能となった事例として考察する。 事例1は、養護学校を卒業した軽度の知的障害のあるS (女性)が6年間の実習で得た調理技術 と調理師になりたいという目標を持つまでの概略である。彼女は最初から調理の仕事をしたいと希 望していた。職業訓練は、現場で行うのが最も効果的であると考え、

M

作業所では、デイケアセン ターの給食を事業として受託し、調理師とともに

S

の実習先として運営することとなった。指導に 〈現代社会学的 自

(6)

あたる調理師は、知的障害のある人と接するのは初めてであったが、 M作業所の施設長と協力をし て、

S

の職業指導を担当した。厳しい技術者であるこの調理師の厳しい指導を

S

は受け止め、好き な仕事ができるという喜びでその厳しさを乗り越えた。その根元にあったのは、優れた技術を身に つけることが、人に喜ばれる秘訣だということをデイケアセンターの利用者の料理に対する評価か ら学んだことである。その後、

H

作業所で開設されたキッチンで実習を行うことになったが、新し く入ってきた後輩のよき先輩として指導的役割を果たしながら、調理師になる夢を追っている。彼 女のモチベーションを高めたのは、事例

2

で述べる

T

の成長である。養護学校で同級生であった

T

が後から調理の道に入ってきたにも関わらず、

S

よりも高く評価されていることに刺激されたよう に、家庭でも色々な練習をするようになり、しっかり指導されていた基本的技術という土台の上に より確かな技術が花開いたものである。 事例

2

は、自閉的傾向をもっ

T

(男性)で、養護学校卒業後すぐに関所したばかりの

M

作業所に 入所した。養護学校卒業時においてTは、就職の可能性は低く、作業所においてもうまくコミット できるかどうかが危ぶまれていた。入所当初、 M作業所の主要な作業種目であった内職的な仕事 (バーコード貼り、了版の袋詰めなど)は、やればできる器用さは持ちながらも、集中することが できず、野球の実況中継をそっくりまねて外で大声で繰り返すなど、仕事に集中できなかった。作 業所では、週に一日、全員で食事を作って食べる活動を行っていたが、その中でTの料理に対する 敏感性が判明した。テレビ番組の料理レシピをまるごと覚えているなどの能力を示した。

T

のスト レングスは料理だという視点を作業所職員が把握する中で、カレーの宅配という作業種目を作った。 自問的という障害にあっては、コミュニケーションに問題がある場合が多いが、

T

は、「カレーを 作るJr人に食べてもらうJrおいしいといってもらう」関係の中で、対人コミュニケーション能力 を成長させていった。自分流の料理方法へのこだわりも、料理の達人(調理師)と認める人との交 流の中で、料理をおいしく作りたいという思いが、人の料理技術を素直に受け入れる下地となり、 調理師試験を受けて、調理師として就職したいとL寸希望が芽生えるようになった。毎日高齢者や 障害者に給食サーピスを提供する仕事を行っている。大きな声で独り言をいう癖は依然としてある が、グループホームに住み、自分のもらった賃金は貯金をして、自立をめざす段階までTを支えて きたのは、本人の調理という仕事に対する思い入れであった。 これらの事例においては、専門家としての職業指導員が最初から目標と個人プランをたてて、そ れを実施してきた結果というよりは、プロセスとして

S

T

が何をしたいと考えているかを理解す る中で、その希望を生かした環境を整備したこと、そのなかで、彼ら自身がいろいろな課題と向き 合い、それを乗り越えてきた結果である。そのプロセスにおいて、職業指導員は共に働くという立 場に立ちながら適切な支援を行い、効果があったということである。養護学校卒業後6年が必要で あったが、彼らが調理師として自立していくためには、このゆっくりとしたプロセスが必要であっ たし、彼らにとって調理師が生涯の生きがいのある仕事として技術を高めたいという要求を伴った ものとなったことは、エンパワメントといえるであろう。必要なことは、ゆるぎのない自信の持て る何かをその人が獲得する手助けをすることが、知的障害者に関わる人々の仕事であるということ を明確にすることである。 82 (現代社会学ワ〉

(7)

2

知的障害者のコンビュータ教育

サービス業や製造業における知的障害者の雇用については、重度障害者多数雇用事業所や特例子 会社、障害者雇用率などを媒介に徐々に雇用機会の拡大が見られる(手塚、 2000)。コンピュータ・ ワークに関しては、障害者職業総合センターなどでコンピュータ技術を含む事務・販売などのコー スや、大阪市職業リハビリテーションセンターにおけるコンピュータ・コースなと守幾つかの先駆的 な取り組みが始まっている。また、国外においては、事業としてコンピュータ・ワークを行うとと もに、コンピュータ技術を習得した若者を一般就労の場に送り出している事例が、イギリス(J

o

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1992) において見られる。 2001年に出された r21世紀特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告によると、 知的障害児養護学校においても最新の情報技術(I

T

)

を活用した指導の充実が必要とされ、学習 を支援する補助手段として重要な位置づけが行われている(中村、 2002)。又、大杉 (2002) によ ると知的障害児に対する情報教育も国語や音楽などの教科や、総合的な学習及び作業学習などにお いて授業実践が行われている。また、知的障害者に対するパソコン指導のマニュアルが作成される (独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター編、発行年無)など、知的障害 者にとっても情報技術の活用の可能性は広がっていると言えよう。しかしながら、コンピュータを 使いこなす技術を習得するには教科的知識とコンビュータに興味をもっていることが不可欠であ り、コンピュータ・ワークに挑戦する可能性を持った対象は、軽度の知的障害のある生徒が主体と なるであろう。普通高校で学ぶ知的障害者も含めて、コンピュータに興味を持つ人の可能性を発掘 し、新たな職業可能性を開くことは情報化社会に生きるこれからの若者にとって有用な社会参加の 手段となることは明らかである。

2-1

闇査の方法と対象 知的障害者通所授産施設H作業所を研究の場として、本研究の参加者は、最初に「コミュニテイ に根ざしたアクション・リサーチ」についての簡単な導入を学習し、協働研究者として関わること を了解し、それぞれの役割を果たすことを確認した。 コーデイネーターとしてのHは、障害児教育の修士号を持つ研究者であるが、研究者Mと協力し て、知的障害者にコンピュータ教育を行うための援助者としての役割を持つ。実際にコンピュータ 教育の指導にあたるのは、町・社会福祉協議会や民間でコンピュータ教育の指導員をしている

2

人 と企業を退職したコンビュータ技術者 1人の合計 3人のボランテイアである。研究者

M

は、コーデ イネーター、ボランテイア、コンピュータ教育を受ける知的障害者に対して、研究促進者として、 記録と各種資料の提供などを行うことにより、研究が順調に進むよう支援することがその仕事とな る。

M

は又、経費的な問題の解決および

H

作業所の利用者としての

O

の個人支援を担当する職員と の連携なども担当する。 コンピュータ講習は、第 1年目を基礎講習、 2年目を応用講習として 2年を目途として結論を出 すこととする。基礎講習においては、コンピュータの基本的な技術を習得すること、

2

年目はその 技術を応用して、知的障害者の職業可能性を検討することを目標としている。 Hは、 rpcセミナー」を開催し、基礎講習として知的障害者に配慮したコンビュータ教育を開 始した。ボランティア 3名 (K、 S、 Y) と協力して、コンピュータ学習の指導体制を確立すると 〈現代社会学ワ 83

(8)

ともに、rN町社会福祉施設連絡会」(8)参加の4施設に、講習参加を呼びかけた。アクション・リサー チにおける研究参加者を、当初は知的障害者のみに限らず、精神障害者も対象にする予定であった 為、救護施設N園も含む4施設を対象としたものである。しかしながら、受講希望者はH作業所か ら2名、 N園から 2名の計4人で、 H圏、 S園からは利用者のコンピュータ学習希望がでなかった。 N園の希望者は、精神障害回復者で、一人は途中で園を退所し、もう一人は高齢のため、若い2 人と学習のベースが異なり、ボランティアの指導が不十分という理由により途中で講習参加を取り やめるという結果が生じた。その結果、 1年目 (2003年度)の基礎講習を終了したのは、 H作業所 の2人の知的障害者となった。 H はMと協力しながら 原則月 1度 講習参加者およびボランティアと共に、基礎講習の進捗状 況の把握と問題点の整理を行うとともに、次の課題と達成目標を決定するミーテイングを聞いた。 なお、

8

月末に

H

が国外研修に出発したため、コーデイネーターを

M

が兼任することとした。 H作業所からの参加者Sは、コンピュータ教育が週2日であるため、他の日には同作業所のパン 工房でも作業を行っていたが、 1年目の終了時に、パン工房の仕事に専念することを選んだ為、本 研究においては、 Oの事例を取り上げて、コンピュータ教育の過程、その結果と結論、考察を試み る。 2-2 コンピュータの教育過程 (1) コンピュータ教育課程の準備 Hは、知的障害者に配慮した教育課程である rpcセミナー」に基づいて、基礎講習の年間計画 を提起した。この教育課程に関しては、 O、3人のボランティア、 Mが共に議論を交わし、この教 育課程を参考にしながらも、ボランテイアは自身が利用しているコンピュータ教育資料を活用する ことも含め、連携してコンピュータ教育に関わることが意思統一された。

O

は、教育を受ける立場 として、教育の内容や教え方について自由に意見を述べる権利を持つことを確認した。なお、講習 は、毎週火曜日と木曜日の2日間とし、授業時間は2時間とする。

(

z

)

学習する内容と学習進度 ① 目標:各回の講習を通じて、以下の

IT

スキルの習得を目指すものとする。 ワード文書作成ソフトによる文書作成スキルの習得

エクセル表計算ソフトのよる表作成スキルの習得 e-mailソフトによるメール送受信スキルの習得 インターネットブラウジングソフトによるインターネットスキルの習得ェ ホームページ作成スキルの習得 ② 評 価 項 目 A ワード学習の部 (20時間:週 2回各 2時間)

文書作成の仕組みが理解できる

文字のみの文書を作成することができる . 画像入りの文書を作成することができる B エクセル学習の部 (20時間:週 2田各 2時間)

表計算ソフトの仕組みが理解できる 84 <現代社会学ワ〉

(9)

- 表のデータ入力ができる グラフ入りの表を作成することができる C e-mail学習の部 (10時間:週2回各2時間) メールの流通する仕組みが理解できる メールを作成し、送受信できる ファイルや画像を添付したメールを送受信できる

D

ネットブラウジング学習の部 (10時間:週

2

囲各

2

時間) ネット上にあるホームページの存在が理解できる yahooやgoo等のページにある各コンテンツを使い、ブラウジングができる . 検索エンジンを使い、情報検索ができる E ホームページ作成の部 (20時間:週2回各2時間) ホームページの仕組みが理解できる ホームページを文字のみで作成することができる . 画像入りホームページを作成することができる ③ 達成度の確認及び課題の設定 0自身による学習日誌への記入 ボランテイアによる評価記録 • H、Mを含む全員で、達成度の評価と次の課題の設定 ④ 使用した指導書 • Wordでつくるチラシ・ D M(エムピーシー)

IT

基礎パソコン入門 (FOM出版) さあはじめよう Exce12000 (Fujitsu) Mouse試験問題集Word2000(一般) (インプレス) ドット

PC

(月刊誌アスキー)

その他(各種ホームページ) ⑤ 指導ボランテイアの活動

講習カリキュラムの修正 指導計画の作成・実施 当事者本人の自主学習・自己評価・課題の自主選択の支援 コーデイネーターとの連携 (3) 結果・結論 この結果、

O

はエクセル・ワードおよびインターネットメールの学習を終了し、

6

月から初めて、 次年度の3月には、ホームページ関連以外のすべての項目を学習し終えた。ホームページに関して は、仕組みを理解するところまでは進んだが、ホームページ作成には創造的な能力が要求される場 面が多く、

O

自身が学習の困難性を表明したこともあり、今後の課題として残した。当初の予定は 60時間であったが、実際の学習時間は、 62回124時間を要している。これは当初計画の約2倍の時 間数である。当初の計画と実際の講習時間とに差がある背景は、各々のスキルを一通り学習する過 程では順調に進んだが、その定着のために繰り返しの実習が必要であったためである。また、依頼 〈現代社会学的 85

(10)

された仕事をこなす上で再学習をする場面もあり、習熟することをめざして、初年度いっぱいを基 礎講習にあてたものである。 共同研究者としての

O

は、講習を受けた内容と自身の評価を毎回記録するとともに、作成した作 品を提示した。基礎講習の結果、苦労したこととして以下をあげている。 ① はじめの頃、印刷プレビュー機能を知らなかったから、印刷終了後に不備に気づき、印刷の 再設定をしたこと ② メニューの名前と機能を覚えること ③機能・操作が多くて一度では覚えられなかったこと ④ 入力方式をローマ字入力に変えたため、入力に苦労したこと ⑤ エラー発生時の対処の仕方がわからなかったこと 又、感動したこととして、以下をあげている。 ① メールが初めて送れたこと ② インターネットで探し物を見つけた時 毎回の学習内容の記録は、

O

本人が学習の成果を確認し、問題点を把握し、指導を求めてそれを 克服するというアクション・リサーチの優れた方法が生きたものとなった。 0が毎日記録した課題 とその達成度をもとに、月に一度、 O、ボランテイア、コーデイネーターにより、学習の経過と課 題、次固までの呂標を確認すると共に、ボランテイア指導者の指導のあり方や課題について、 O自 身から意見や要望をだした。最初は、他の人に自分の意見を表明することは苦手であると述べてい た

O

であるが、回を重ねるにつれ、自分の意見を述べる力が育ってきた。例えば、エクセルの表計 算について、一度教えてもらってもなかなかマスターできないので、何回も教えて欲しいとボラン テイアに自分の言葉で伝えることができるようになる等である。 ボランテイア指導者は、知的障害者の教育に関わるのは初めてであったが、次のように

O

の指導 に関わる評価をしている。

K

は、

O

は指示したことを比較的速やかに操作できるが、その横展開・応用となるとなかなか思 うようにいかない、集中力に欠ける点があるなどの問題点はあるが、下書きなどがあればかなりの ことができると、コンピュータ・ワークの可能性を示唆している。エクセルよりもワードを利用し た文書の作成やデジカメによる写真を取り込んだニュースの作成などにより興味を示していると分 析している。 Sは、 Oは知的障害者とはいえ、自分が他のコンピュータ教室で教えている健常者と 変わることなく、むしろ高齢の受講者などよりはよほど早くカリキュラムをこなしていくことがで きたので、特別なカリキュラムをくむ必要はなかったと述べている。多少根気が続きにくいところ はあるが、指導しにくいほどではなく、適度に気分転換を挟みながら進めていくことで克服できた と評価しているO

O.K.S

は、協働行動により、課題の発見とその解決、そして活動の評価、次の課題の設定を しながら、コンピュータ学習を進めている。これは各々が「見るJr考えるJr活動するJr評価する」 というサイクルを協働で繰り返すことにより、アクション・リサーチを実践していると言えよう。 86 <現代社会学ワ〉

(11)

O

は学習した技術を活用して、

H

作業所の各作業や事務的な仕事を請け負った。その主なものは、 ニュース配布用名簿の作成、職員の年賀状の宛名印刷、パン工房のクッキーシール・宣伝用パンフ、 キッチン

H

の宣伝パンフ、

H

作業所で行ったディズニーランド旅行のニュースなどである。それぞ れの仕事は、

H

作業所のスタッフからよい評価を受けた。また他の利用者が昼食休憩時間にコンピ ュータでゲームをしたがる場合にその使い方を教えるなど、

O

は自身のコンピュータ技術を色々な 面で役だてている。この過程で、 Oはコンピュータ技術を活用して仕事をしたいという意欲を示し、

O

自身が教育課程に主体的に関わってきたことをよかったと評価している。

3

.

アクション・リサーチの福祉分野における有効性

Stringer (1999)は、管理的立場にある人間は、その対象である人々にその意図することを正し く理解してもらうことは難しい課題であると述べている。それを防ぐ唯一の方法は、管理的立場に ある人間とその組織や団体に所属するすべての人が対等に参加し、議論し、理解し合う場の共有で あると主張している。この議論を通じて参加者の相互理解とその組織・団体の目的が明確になり、 立てられた計画が成功する可能性を拡大するのである。それが複雑な要素を持つ社会生活の現場に おける諸問題の解決に役立つアクション・リサーチの有効性であると述べている。 本論では、 Stringer (1999)が提示した研究過程の4つの特徴を知的障害者のエンパワメントに おけるアクション・リサーチの有効性の分析指標として用いて考察する。

3-1

民主的:すべての人々の参加を可能とする この点に関しては、研究の最初からすべての研究関係者が参加し、それぞれの役割を明確にした 上で、協力・協働していくことが確認されたことにより、研究参加者全員の良好な人間関係が形成 された。研究促進者、コーデイネータ一、コンピュータ指導者、コンピュータ教育受講者のそれぞ れが、本研究を進めることに合意し、主体的に参加した。特に知的障害者である Oが、研究される 対象ではなく、研究を進める立場で参加したことが重要である。

3-2

平等である:人々の価値の同等性を認める 最初の打ち合わせにおいて、価値の平等性の確認を行うと共に、月 l回のミーテイングにおいて、 ともすれば受け身になりがちな知的障害者

O

が主体的に参加する中で、ボランティア指導者に対す る教育方法への要望などを自由に提起できる条件が整うと共に、ボランテイア自身も、教育課程を 主体的に組み立て実践していく中で、パワーポイントの習得などの新しい可能性を提示するなど、 積極的な関わりが見られた。この実践を行う中で、

O

H

作業所のスタッフと利用者の対等性に対 する理解を深めた。利用者に対するスタッフの態度における問題点の指摘など、問題意識が高まっ ている。

3-3

自由である:抑圧的で人を落ち込ませる状況からの自由を提供する 上記のふたつが実現している状況では、抑圧的な状況は起こらないはずであるが、 Kの個人的な 言葉づかいが、

O

の小学校時代の教員を思い出させるトラウマとの関係で、

O

にとって抑圧的に受 け取られた。この件に関しては、

O

からの申し出により、

K

及 び

M

との対話の中で解決したという 〈現代社会学

7

)

87

(12)

l件だけが記録するべき抑圧的な事柄としてあげられよう。この点では、すべての参加者が自由に それぞれの役割を果たすことができたと言える。

3-4

人生を活性化する:人間の持ち前の可能性を聞かせる

O

自身の言葉として、「コンピュータ技術を使えば、公務員になれるかな」とか、「コンピュータ で、どれくらいお金が儲けられるかな」等、自身の将来の職業への展望を語る力を身につけたとい う点で、可能性を聞こうという意欲の芽生えが見られることは、

O

の人生が活性化してきたと言え るであろう。また、ボランテイアのKはコンピュータの事業化をめざす項目として、栄養計算の自 前ソフトを作成する意志を表明し、 Oのジョブコーチを引き受けてもいいという意欲を示している。 本意ではない仕事に囲されたことを理由に企業を退職したあとの生きがいのある仕事として、この ボランテイア活動を位置づけている点で、 Kにとっても、この研究が人生を活性化することに役立 っていると言えよう。

S

は、この仕事が楽しいと述べている。

3-5

まとめ 以上本研究は、講習を受けた

O

とボランティアの協働作業によりコンピュータ学習の成果をあげ られたこと、

M

という研究促進者およびコーデイネーターとの連携のもとで、指導者と指導される ものが対等の立場で問題を考え解決していくことにより、参加者の満足と当初の目的を達成すると いう結果を導き出した。

o

のコンピュータ・ワークに対するモチベーションは、最初からコンピュー タ操作が好きであったという条件を加味しでも、ますます高まってきており、その技術を活用して、 H作業所の色々な仕事を積極的に請け負ってこなしていく様子は頼もしい。また、職業リハピリテー ション学会における発表に自ら参加する意欲を見せるなど、 O自身のエンパワーメントが実現して いる。 このように、知的障害者もまた自分の好きな仕事を選択する権利があり、支援者はそれを実現す る環境を準備することが重要であることを示している。「しごとのえり好みをしない」で、専門家・ 指導者がが作成した訓練を受けて、「社会に適応する」ことを求めるのではなく、知的障害者自身が、 自分の仕事、生活、将来の展望を持てるよう支援することが必要ではないか。本研究は、知的障害 のある若者の自己選択・自己決定において、アクション・リサーチ理論がそのエンパワメントを促 進する方法として有効であることを示したと考えられる。 また、ボランテイアの

K

においては、すでに述べたように、

2

年目の応用講座において、パワー ポイントによる職業リハピリテーション学会での報告(資料 1)のプレゼンテーションを指導する こと、栄養計算のソフトを作成すること、

0

のジョブコーチを引き受けることなど積極的な関わり を表明している。 アクション・リサーチの有効性とは、研究に参加するすべての人が、主体的に活動することで自 己実現を果し、その活動を通じて、課題の解決と新たな課題の設定を行うという発展的螺旋の展開 である。この意味では、 O及びボランテイアのこの研究への参加満足度は高く、 2年目の課題の取 組への積極的関与が示されたという点においても、本研究におけるアクション・リサーチの有効性 が示されたと考えられるO 88 (現代社会学ワ〉

(13)

4

おわりに

4-1 2

年目の課題 本研究は、 2003年から 2004年にかけての科学研究費による研究の 1年目をまとめたものである。 コンピュータ・ワークの可能性については、ウエールズのコンピュータ・ワークショップ9)が、 示した可能性を参考にしながら、次の二つを考えている。 ひとつは、コンビュータ活用事業である。事業として発展させるには多くの課題があるが、現時 点で可能性のある事業として、次のものが考えられる。①名刺、葉書、クリスマス・カード、広告 チラシなどの作成、②パワーポイントの作成、③栄養計算、④ホームページの作成助手などである。 ふたつめは、コンピュータを活用して一般就職をする課題である。コンピュータ技術を必要とす る事務職補助など、ジョブコーチによるサポートを受けながら、公務員や福祉関連事業所に就職す る道を追及することも選択肢のーっとなる。この場合は コンピュータ・ワークだけではなく、事 務的諸能力やコミュニケーション能力が要求されるO この点に関しての教育・訓練の必要性がある が、職場実習の機会を得ることなどが対策としてあげられよう。 2年目の2004年度の研究については、新たにコーデイネーターとして通信制学生のRが参加する ことになり、研究促進者

M

、ボランテイアの

K

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、コンピュータ受講生

O

という新しい研究体制 を確立し、以下のような方針を立てた。 (1) 2年目の課題として、パワーポイントとホームページ作成の技術を学ぶ。 l年目の研究の成 果を 7月に行われる「日本職業リハビリテーション学会」において発表する。そのプレゼンテー ションには、

O

が参加する (2) コンピュータ・ワークの事業化の可能性を検討するとともに、コンピュータ・ワークを活用 した一般就職の可能性を探る 4-2 今後の展望 障害者のコンピュータ・ワークを活用した就労および事業化の課題は、多くのモデルケースを積 み上げることにより発展させていくことができる。又、コンピュータ技術の活用により、より多く の就労機会の可能性が創出され、知的障害者が事務職として雇用される可能性が広がることも展望 できょう。この分野の継続的研究の必要性は高い。又、本研究で示したように、当事者参加とエン パワメントの実現にアクションリサーチが果たす役割は大きいと考えられるので、今後より多くの 実践による福祉分野におけるアクション・リサーチの有効性の検証が望まれよう。 資料:

1

年目の研究成果の発表(パワーポイント) 「日本職業リハビリテーション学会」において

O

がボ、ランテイア

K

の援助を受けて作成したプレ ゼンテーションのためのパワーポイントは、以下のようなものである。刷。 〈現代社会学 7) 89

(14)
(15)
(16)

[注】 (1)兵庫県佐用郡にあり、作業種目として、給食サービス、パン工房、ぶどう栽培及び販売、軽作業など を行う。定員は30人。 (2) r障害者雇用促進法」に基づいて、障害者雇用率制度、障害者相談員制度、障害者雇用納付金制度な どを中心に、一般就労の可能性を開くための施策が制度化されている。特例子会社制度、重度障害者多 数雇用事業などの制度も含まれている(厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課、 2002) (3) 1880年に創立されたスウェーデン王国労働省直轄の国営企業グループ。スウェーデン圏内320町村に 800ケ所の事業所を展開している (http://www.proseed.co.p/p/profile/career6.html:06/02l20。) (4) イギリスの「障害者 r雇用』法J(1944)により、 1946年に設立された最初の工場から始まる障害者雇 用事業所で、政府から補助金を受けている。直営の83の工場で障害者を雇用すると共に、訓練により一 般就労が可能となった障害者を雇用市場に送り出したり、援助している。 (5) こころみ学園が経営するワイン醸造場である。知的障害者が働く企業として品質の優れたワインを製 造販売している (http://www/cocowine.com/cocoromilcocoromi.html:06/02l20)。 (6) 人が上手と思うもの、生得的な才能、獲得した能力、スキルなど、潜在的能力のようなものを意味する。 アメリカのソーシャルワーク実践理論においては、 1980年代以降に「ストレングス視点」として、重要 な援助観となっている(秋元他編、 2003:266)。 (7) H作業所の前身で、小規模の知的棒害者無認可作業所であったが、給食サービス、宅配カレー、ぶどう・ ナスの栽培及び販売、軽作業などを行い、社会福祉法人化の基礎を作った。 (8) 救護施設 N圏、身体障害者療護施設 S圏、知的障害者入所更生施設 H圏、知的障害者通所授産施設 H 作業所。 (9) イギリスのカーデイフにあるカレッジにおけるコンピュータ・ワークショップの実践は、一つの示唆 を与えてくれる。このプロジェクトは、地域の継続教育カレッジを実践の場として、コンピュータ教育 と職場実習、それに就職活動への支援を行ったものである。このプロジェクトの特徴は、知的障害のあ る若者が、コンピュータ技術を習得し、一般就職へ進んでいくための「ステップーパイーステップ」ア プローチをとったことである。その内容は、①カレッジにおける講習、②カツレジが行う企業活動、③ 職場訪問、④短期職場実習、⑤長期職場実習、⑥普通教育および訓練への支援を伴う参加、⑦パートタ イム就業、⑧保護雇用、⑨正規の一般雇用である。 (10) このパワーポイントの技術はその後、さる教員の保護者向けプレゼンテーションや、医師の児童むけ プレゼンテーションの受注を受けて、継続的に作成している。また、前記福祉施設ネットワークの案内 用の資料も作成し、今後の展望を考えている。 92 <現代社会学ワ〉

(17)

[引用・参考文献]

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図 1 三つの要素の相関関係 障害者の雇用可能性 障害者の雇用実現 出典: Terumi Me 田 r o , 2000 , (リーズ大学学位論文要約)、 広島国際学院大学現代社会学部『現代社会学~ 1 1 9 頁 特に知的障害のある人は、障害の多様性のゆえに雇用主の理解を得るためには多大の努力が必要 となる。また、雇用可能性から見たときに、仕事において要求される多様な能力を全面的に獲得す ることは難しい。特に臨機応変に対応するという点で困難を持つ人が多いので、決まった手順で行 うことのできる仕事が主となり

参照

関連したドキュメント

<第2次> 2022年 2月 8 日(火)~ 2月 15日(火)

を体現する世界市民の育成」の下、国連・国際機関職員、外交官、国際 NGO 職員等、

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Introduction to Japanese Literature ② Introduction to Japanese Culture ② Changing Images of Women② Contemporary Korean Studies B ② The Chinese in Modern Japan ②

乗次 章子 非常勤講師 社会学部 春学期 English Communication A 11 乗次 章子 非常勤講師 社会学部 春学期 English Communication A 18 乗次 章子

情報 システム Web サービス https://webmail.kwansei.ac.jp/ (https → s が 必要 ).. メール

山本 雅代(関西学院大学国際学部教授/手話言語研究センター長)