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庭 山 英 雄

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Academic year: 2022

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(1)

国 連 被 拘 禁 者 人 権 原 則 を め ぐ っ て

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JJ

論 説

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9 9 9 9 9 9 9

庭 山 英 雄

9-~4-491

(香法

' 9 0 )

(2)

p l e s o r   f   t h e   P

r   c t

e c t i o n   o f   A l l   P e r s o n s   u n d e r   A n y o   F r m   o f   D e t e n t i o n   o r   I m p r i s o n m e n t )

が国連総会において採択 された︒同原則は①捜行機関に対する可法的抑制②自白怖嬰のための身柄拘束の不甘利用の繁止③被疑者・被告人と

弁設人との接見交通権の完全保閻④起訴の前後を間わない国選弁護・保釈の保間︑などを規定したものであったから︑

国連総会が以ドの諸草案を採択するよう要請する︒

私自身は一九七八年のウイーン予備会議に引き続き布特別決議を行なった本会議にも参加していたから︑

国連被拘禁者人権原則がいつ採択にポるのかいささか気にかかるところであった︒待っこと一

0

年︑新原則は一九八

八年枠に遂に成立を見た︒感慨ひとしおであったのは独り私のみなのであろうか︒

さて︑表題の国連新似則は

な原

則要

綱草

案︒

する罪についての法典草案︑

この三九個の原則は大きく三つ いわゆる

a

拷間の梵止抑圧のための協定草案︑

b

人類の平和と安全とに対

c

形式のいかんを間わず抑留ないし拘禁に付されているすべての人の保護のために必要

侵害するように解釈されてはならない﹂ ;本原則については市民的および政治的権利に関する国際規約上の権利を制限もしくは

との一般条項のほか三九個の原則から成る︒ 他方︑国際刑法学会は一九じ九年几月二日にハンブルグにおいて次のような特別決議を行なっていた︒;本大会は 発表したのは酋然のことであった︒ 日本弁護士連合会がこれに日をつけていち口十く贔国連被拘禁者人権原則と拘禁:法案﹂︵改訂版:九八九年七月刊︶を 一九八八年︱一一月几日に:あらゆる形態の抑留・拘禁ドにあるすべての人々を保護するための原則﹂

( B o d o f y   P r i

n c i   , 

新原則の内容

9 ‑ 4  492 (香法'90)

(3)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

の部分にわかれる︒第一部

( ‑

S

原則

は総則の部分であり︑人道的処遇の要求︵原則一︶︑無罪の推定︵原則八︶

など広く基本原則について定めているが︑新原則全体の実効性に関心のある向きは原則七の一項が次のように明言し

ている点に注目しなければならない︒ぶ各国政府は本原則に包含される権利・義務に反する行為をすべて禁止し︑その

ような行為に適切な制裁を課し︑不服申立に対しては公平な調脊を実施しなければならない︒﹂

第二部︵九\二八原則︶は新原則の中心部分であり︑被拘束者︵被疑者にかぎられない︶の処遇についてかなり細 かく規定しているが︑刑事司法に関するわが国の間趙状況との関連では接見交通権の完全保障をめざす原則一八の三 項︑被疑者の国選弁護人依頼権を保障する原則一七の二項︑自白をとるための身柄拘束の不当利用を禁止する原則二

一の一項に注目する必要があろう︒わが国の捜費官による取調べの密室性を打破する目的からは次の規定が有効と思

われる︒﹁抑留・拘禁された者の取調べの時間︑取調べの間隔︑取調べ担当者その他立会者の氏名は法定の形式にした

がって記録・確認されなければならないL

︵原

則二

三の

一項

︶︒

第三部︵一一九\三五原則︶は権利救済手続等について定める︒懲罰法定主義︑不服申立権︑損害賠償請求権などの

ほか︑原則二九の一項は﹁関係法令の厳密な順守を監腎するため抑留・拘禁施設運営責任者とは区別された機関によ り任命された資格・経験を有する責任者によって定期的に施設は訪問されなければならない﹂と第三者訪間委員会制 度の整備について定めている︒わが国の刑事抑留・拘禁施設の閉鎖性は驚きというほかない︒今どき第三者訪問委員

会制度になんら関心を示さぬ監獄法改正など論外というべきであろう︒

t ‑

ニ一部構成︵と叶っても私が勝手に分けたものであり︑原文には分類はない︶で新原則はほぼ尽くされているが︑

原則三六以下に補足的に四つが加えられている︒補足とされたのはそれら四つがいずれも刑事被拘束者のみに適用さ れる規定だからであり︑重要性において決して他の規定に劣るものではない︒たとえば原則二七第一段﹁犯罪の嫌疑

9  ‑ ‑ ‑ 4  493 

(香法

' 9 0 )

(4)

によって抑留された者は逮捕後すみやかに司法官憲のもとに引致されるものとする﹂は代用監獄禁止の意味をもつ︒

また原則三九本文﹁法定の特別の場合を除いて︑司法官憲が権限行使のため別の決定をしないかぎり犯罪の嫌疑によ

って抑留された者は公判までの間釈放される権利を有するしは被疑者の保釈請求権の保障を意味する︒

本原則作成の発端は一九七五年の国連総会で採択された第三四五三号決議であった︒同決議は

保護小委員会﹂で採択された﹁恣意的に逮捕︑抑留・拘禁︑追放されないすべての人の権利についての研究

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付された﹁恣意的な逮捕︑抑留・拘禁からの自由についての原則草案﹂

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を基礎にして本原則草案を起草するよう国連人権委員会

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n  Ri g h t s )

 

同委員会は一九七六年五月五日に前記﹁差別防止・少数者保護小委員会﹂

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に対しさきの基礎資料に加えて﹁被逮捕者の接見交通権についての

研究﹂その他﹁総会・経済社会理事会・人権委員会に提出された関連文書﹂をもとに本原則を起草するよう依頼した︒

右小委員会は世界人権宣言︑国際人権規約

B

規約︑拷問禁止宣言︑被拘禁者処遇最低基準規則などを参照し︑

に要

請し

た︒

二 ︑

新原則の成立経緯

れも日本政府にとっては頭の痛い原則であろう︒

さら

および同研究報告書の末尾に ﹁差別防止・少数者 これらはいず 四

9  ‑ 4  ‑494 

(香法

' 9 0 )

(5)

国連被拘繁者人権原則をめぐって(庭山)

九\三五原則︑

一九八七年もバックして再び八\三〇原則︑

一 九

一九八五年は

その

後︑

に国際法曹委員会︑

アムネスティー・インタナショナルなどからも意見を聴取して最初の草案を作成し︑

九月一八日付でこれを人権委員会に提出した︒同委員会の勧告にもとづいて事務総長は一九七九年六月一五日付で右

草案を各国政府宛に意見を求めて送付したのであった︒

各国宛送付された草案は三五原則から成るもので︑まだ一般条項は付されていなかった︒そして同草案を検討して

一年以内に回答

( R e p l i e s )

を寄せたのは次の二

0

か国であった︒オーストリア︑

コス

タリ

カ︑

アメ

リカ

ユーゴスラビヤ︑

意見を寄せた︒それらのうち西ドイツ︑

ベルギー︑ギリシャ︑デンマークの諸国が一九八三年秋までに

(8 ) 

アメリカの両国の回答は再度にわたる念入りなものであった︒

話は前後するが︑人権委員会第六委員会のワーキンググループは一九八一年秋から逐条審議を始めた︒

\九原則︑翌年は九\一三原則︑三年目は一四\一八原則︑

八八年に至ってようやく全体修正の順であった︒

たと思われる︒会議は年平均一

0

回近

く︑

四年目の一九八四年は一九\二八原則︑

一九八六年はややバックして再びニニ\二八原則︑

かくして同年一

その年は一 一月二三日に第六委員会を通過︑同︱二月九日に総

会決議成立の運びとなった︒発端の決議以来実に一四年ぶり︑下働きのワーキンググループの苦労は大変なものだっ

一九八六年にはなんと一五回にも及んでいる︒

ここで便宜﹁本原則の適用範囲﹂に触れておこう︒本原則は序説的なところで﹁以下の原則はあらゆる形態の抑留 もしくは拘禁下にあるすべての人々の保護のために適用される﹂と述べるのみでなんら説明を加えていない︒したが

って本原則はわが国においても︑被疑者・被告人のみならず精神保健法関係の強制入院患者︑伝染病予防法・結核予 ナ

マ︑

スウェーデン︑

スイ

ス︑

チュニジア︑

ウクライナ共和国︑

ソ 連

イギ

リス

ロ ス

エルサルバドル︑西ドイツ︑ ハンガリー

イラ

ク︑

イタリー︑象牙海岸︑

日本

ニジ

ェー

ル︑

ノル

ウェ

イ︑

バルバドス︑白ロシヤ共和国︑

キプ

一九七八年

9  ‑ ‑ ‑4  ‑ ‑ ‑ 4 9 5  

(香法

' 9 0 )

(6)

三 ︑

防法などによる被強制収容者︑少年法・児童福祉法などによる被収容者︑

収容者にも適用があると解されるべきである︒

れたものであった︒

それゆえ身柄拘束の種類を限定することは当初から意図されていなかった︒しかし各国の事情か らして審議の過程でその適用範囲はしばしば問題となった︒結局︑国際人権規約

B

規約九条一項の定義が解決の決め

手となったようである︒

明らかでない︒

日本政府の主張

成立経緯からもわかるように︑本原則は

さらに出人国管理及び難民認定法による被

﹁差別防止﹂﹁少数者保護しぶ恣意的身柄拘束の禁止Lを目途として立案さ

さきにもちょっと触れたごとく日本政府は一九八

0

年四月一七日付で回答を寄せている︒その後さらにコメントを 行なったか否か︑私の手持の英文資料では明らかでない︒本原則草案は最終的に全員一致で可決とされているが︑日

本政府代表が決議の場でどのような態度をとったかについても私には明らかでない︒

しかしもし決議に参加していた

としたら日本政府の責任はいったいどうなるのであろうか︒甚だ興味のもたれるところである︒

政府の回答を以下に見てみよう︒

①序説ー語義について

﹁出入国管理法違反で抑留された者が﹃あらゆる形態の抑留・拘禁下にあるすべての人々﹄

それはともかく日本

の中に人るのか必ずしも

したがってその定義がまずもって明確にされるべきである︒また﹃司法もしくはその他の官憲﹄がフ

I ‑

/¥ 

9  ‑‑ 4  ‑ 496 

(香法

' 9 0 )

(7)

国連被拘繁者人権原則をめぐって(庭山)

いうべきであろう︒ 当然であろう︒そのためか本原則の

これが当回答の冒頭に述べられていることであるが

﹁本原則に包含される権利・義務﹂ ランス法における

"

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g e

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c a t i

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d e

s   p e i n

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"

(刑執行に責任をもつ判事︶を意味するなら納得しがたい︒そ 

れが抑留・拘禁の適切な運営を保障する最善の政府機関とは考えられないからである︒﹂

その他の官憲﹂については﹁法にもとづき︑

くはその他の官憲しなる用語は本原則中にしばしば出てくるので︑

その地位ならびに在任資格によって︑権限・公平性・独立性について最

も強い保護が与えられている裁判官その他の官憲﹂という説明が用語説明の個所に新たにつけ加えられた︒二司法もし

この定義をより明確にした点は日本政府の功績と

③第六条について

各国政府は法により繁止し︑

巾 語 ﹂

ならない﹂と規定しているのを批判したものであるが︑ ﹁あらゆる形態の﹂という以上︑出入国管理法違反も入るのが

の説明の個所でもなんら触れられていない︒これに対し﹁司法もしくは

日本の回答はこういう︒﹁本草案に示された権利・義務に反する行為を法律で禁止することは妥当ではない︒右の権

利が制定法によって保障されるか︑それとも行政機関の実務︵規則の定立を含む︶によって保障されるかは各国政府

の責任にゆだねられるべきである︒﹂これは草案六条一項がぶ平原則に包含される権利・義務に反する行為をすべて︑

そのような行為に適切な制裁を課し︑不服巾立に対しては公平な調有を実施しなければ

日本の法令と実務とには

に反するものが多くあることを自ら意識したためであろうか︒

日本の回答はこうもいう︒:そのような違反を知る者はその巾実を

L f f J

もしくは他の適切な機関に報告するべきだと

規定するのは好ましくない︒﹂これは草案六条一一項の 7

本原則違反行為について信頼できる知識を有する者はこれを逮 捕・抑留・拘禁に関係する上級機関もしくは他の者に報告し︑必要な場合には審脊権もしくは救済権限を有する適当

︶ 

  4 ‑497  (香法'90)

(8)

な機関に報告しなければならない﹂を批判したものであるが︑

い︒本原則の順守を願う者が保障規定の策定を考えるのは当然であろう︒なお本保障規定は﹁法執行官行動規範草案

第八

条し

( D r a f t C o d e   o f   C o n d u c t   f o r   L a w   E n f o r c e m e n t   O f f i c i a l s ,   a r t .  

8)

にもとづいて作られたものである︒

③第八条について

検討の対象となった草案の規定は﹁被疑者を逮捕して抑留する責任のある機関はできるかぎり捜査機関と区別され

なければならない︒

それら両機関は司法もしくはその他の官憲の監督に服するものとする﹂であった︒これに対する

日本の回答は次のようなものであった︒﹁逮捕・抑留機関が捜在機関と区別されるべきか否かは各国ごとに異なる政府

機関の構造と密接にかかわっている︒したがって世界的規模でそのような統一基準を定立することは決して望ましい ことではない︒

むしろ問題の焦点は被逮捕・抑留者の権利を保障する制度が確立されているか否かにこそある︒﹂

日本においては右の草案に接したためか︑右回答の時期と相前後して一九八

0

年中に警察庁の方針により全国の警

察署において捜査担当者と拘禁事務担当者とを組織上分離する手段がとられた︒しかし代用監獄の弊害が除去されな

( 1 6 )  

かった事実は弁護士による種々の調査によって明らかである︒したがって右の分離は拘禁二法条への批判をかわすた

めと見られてもやむをえないと思われる︒問題の焦点はまさしく回答の指摘するとおりであるので︑確実な﹁手段﹂

を定立しようとするなら︑

④第九条について なぜ

日本政府としては代用監獄制度をあきらめるほかないであろう︒

同条二項は人権規約

B

規約第三項と﹁恣意的逮捕・抑留からの自由についての原則草案

L

五条とを受けて﹁抑留された者および︑

もし弁護士がいるならその弁護士は抑留命令およびその理由につきすみやか

にすべての通知を受けるものとする﹂︵本原則一一の二項に同じ︶と規定した︒これに対して日本の回答は次のように

﹁好

まし

くな

い﹂

‑ 0

条 ︑

一三

条お

よび

かについての理由が明らかでな

9  ‑ ‑4 ‑ 4 9 8  

(香法

' 9 0 )

(9)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

るように他の適切な手段が取られているからである︒﹂

反論した︒﹁被抑留者に抑留命令のコピーを交付すべしとの二項について言えば︑われわれはそのような特定の規定を

設けることが必要だとは考えない︒なぜなら日本においては被抑留者がそのような記録の内容をよく知ることができ

本条の問題点は次の第一一条のそれと異なるところはないので︑そこで一緒に論ずることとしたい︒

固第一一条について

本条は審議の過程で整理されて本原則成案では原則︱二として次のように規定された︒﹁1以下の事項は正確に記録

されるものとする︒切逮捕の理由⑯逮捕の時間︑被逮捕者を拘束場所に連行した時間および最初に司法もしくはその

他の官憲の前に連行した時間い関係した法執行官の氏名⑯拘束施設に関する正確な情報︑2上記の記録は抑留された

者またはもし弁護士がいればその弁護士に対し法定の形式により通知されるものとする︒﹂しかし草案段階ではこれは

次のような内容であった︒﹁1逮捕の理由と時間︑被逮捕者が拘束場所に連行された時間および司法もしくはその他の

官憲の面前に出頭した時間は︑関係法執行官の名前および拘束場所の特定と共に︑法定の形式にもとづいて記録され

るものとする︒

2そのような記録のコピーは被抑留者ならびにその弁護人に交付されなければならない︒﹂

右の草案に対し日本の回答は﹁一項に規定されている事実記録のコピーを被抑留者に交付すべしとの二項について

言え

ば︑

われわれはそのような具体的規定を設ける必要があるとは考えない︒というのは日本では他の適当な手段が

とられていて被抑留者はそのような記録内容をよく知らされているからである﹂と批判した︒たしかに日本では︑ま

ず逮捕状には﹁被疑者の氏名及び住居︑罪名︑被疑事実の要旨︑引致すべき官公署その他の場所︑有効期間﹂などの

記載が要求されており︵刑訴二

00

条︶︑次いで勾留請求にさいしては﹁その逮捕が逮捕状によるときは︑逮捕状請求

書並びに逮捕の年月日時及び場所︑引致の年月日時︑送致する手続をした年月日時及び送致を受けた年月日時が記載

9  ‑ ‑4  ‑ ‑ 4 9 9  

(香法

' 9 0 )

(10)

護士と接見交通する権利を有するものとする︒﹂ へと表現が変わった︒もしコピー交付が実現すれ されそれぞれの記載についての記名押印のある逮捕状﹂が資料として提供されなければならないと規定されている︵刑 被告弁護側はそれらの内容を知ろうと思えば知りえないわけではないが︑彼らが記録内容を十分に知りうるような

﹁コピー交付に代わる他の適当な手段﹂が積極的に設けられているわけではない︒しかし日本の立場も考えてか︑草案

の﹁コピー交付﹂は削除されて成案では﹁法定の形式による通知﹂

ば﹁関係した法執行官の氏名﹂や﹁拘束施設に関する正確な情報﹂をも被告弁護側が知りうるのにと︑私には残念で ならない︒日本政府にはそれを

知られたくない﹂事情がなにかあるのであろうか︒ S l

⑥第一五条について 草案一五条は人権規約

B

規約一四条:一項とぶ心意的逮捕・抑留からの自由に関する原則草案し

0

条とにもとづい

て次のように規定した︒

11

被抑留者は逮捕後できるだけ早く法的な援助を受ける資格を打するものとする︒2もしも

被抑留者が法的援助を受けていないなら︑

有す

る︒

訴規一四八条一項一号︶︒

その者は司法もしくはその他の官憲によって弁護士をつけてもらう権利を

その者が十分な資力を付しない場合には無償とする︒3

被抑留者は逮捕後可及的すみやかに自己の選んだ弁

これに対し日本政府は砥被疑者に対し国選弁護人依頼権をげえる必要があるとは考えない﹂と回答した︒しかし八

年間にわたる恨爪な討議の結果︑国連総会は次のように結論した︒﹁1被抑留者は弁護士の援助を受ける権利を有する︒

その者は関係当局により逮捕後すみやかにその権利を告知され︑権利行使のための適切な便宜を与えられるものとす る ︒

2被抑留者が自己の選任する弁護士をもたない場合には︑司法の利益のために必要なすべての事件において︑資

カのない場合は無料で司法もしくはその他の官憲によって弁護士の選任をうける権利を有する︒﹂︵原則一七︶

1 0  

9  ‑ 4 

500  (香法'90)

(11)

国連被拘梵者人権原則をめぐって(庭山)

右の原則によれば国連総会は被疑者段階の国選弁誰の実現をはっきりと要求する︒ただし﹁司法の利益のために必 要﹂という条件が新たにつけ加えられた︒そこで司法の利益とはなにかが問題となる︒これを考えるにあたっては国 際刑法学会の決議が参考となろう︒同会は一九七九年のハンブルク大会において国選弁護人選任の要件として﹁司法

の最善の利益L﹁被告弁護側の利益﹂﹁複雑重大な事件しの三つを掲げている︒これからすると司法の利益を判断する

にさいしては被告弁護側の利益を優先して考えなければならないこととなるが︑むろんそれが正当と考えられる︒

さて﹁刑事司法﹂の関係者には大きくわけて訴追側︑被告弁護側︑裁判所の三つがある︒したがって﹁司法の利益﹂

といってもどこにウエイトをかけるかで解釈は大きく異なってくる︒このことは﹁最善の

Lという語句を冠してみて

も大きく異なるところはない︒しかし狭義の﹁司法﹂

の解釈には刑罰権力に重きをおくものと人権保障機能に重きを おくものとの二つがある︒国際刑法学会決議がわざわざ﹁最善の﹂とことわったのはおそらく後者に重きをおくべし

との趣旨であろう︒

の第一六条について 草案一六条は人権規約

B

規約一四条三項と﹁恣意的逮捕・抑留からの自由に関する原則草案﹂ニ︱条とにもとづい

て次のように規定した︒﹁

1

被抑留者は自己の弁護士と相談するための十分な機会を与えられるものとする︒2

被抑留

者とその弁護士との間で交わされる書面は検閲されてはならない︒

他の法執行官の見えるところで行なわれてもよいが︑聞こえるところで行なわれてはならない︒

護士に訪問されて接見交通する権利は︑抑留場所の安全と秩序とを維持するため不可欠と司法もしくはその他の官憲

によって判断され︑ 3

被抑留者とその弁護士との接見は警察もしくは

留者とその弁護士との間の接見交通で本原則に示されたものは特権と見なされるものとする︒﹂

4

被抑留者がその弁

かつ法によって明示された例外的な場合を除いては中断もしくは制限されてはならない︒

5

被抑

︐  5 0 1  

(香法

' 9 0 )

(12)

条文でさらに不都合な点は︑条文全体が

﹃ 便

宜 ﹄

これに対し日本の回答は﹁被抑留者とその弁護士との間の書面の交換について検閲を許さないとの一六条二項の適 否は明らかでない︒なぜなら右の書面が抑留目的を害さないと信ずるに足りる理由がないからである﹂と批判した︒

しかし国連決議は次のように答えて検閲禁止の基本はくずさなかった︒﹁

3

抑留または拘禁された者が遅滞なく︑また

検閲されることなく完全に秘密を保障されて自己の弁護士の訪間を受け︑弁護士と相談もしくは通侶する権利は停止 されたり制限されたりしないものとする︒ただし法律もしくは規則

( l a w

f u l

r e g u

l a t i

o n s )

に明示され︑かつ司法もし

くはその他の官憲により安全と秩序とを維持するため不可欠と判断された例外的な場合を除くものとする︒﹂︵原則一

そこで問題は右の但書の意味である︒まず﹁司法官により不可欠と判断された場合﹂については芝原教授が他の機会

に﹁すなわち立案趣旨によれば︑この制限は捜脊上の理由とか拘禁施設における規律上の理由からなされてはならず︑

例えば特に被告人がテロリズムに関する犯罪で訴追されているような場合で︑被告人が再び犯罪を犯すことを謀議し ていることが疑われる事案等において保安上の理由を根拠としてのみ許されるとする︒しかもこの制限は司法官憲に

よってのみ決定されうるし︵傍点筆者︑芝原邦面﹃刑事司法と国際準則﹄︿一九八五年﹀ニニ八頁︶と述べている点が

参考となろう︒したがって法規による場合も右に準ずると解釈されて当然であろう︒

⑧第一八条について

検討対象とされた条文内容は﹁もしも被抑留者もしくは被拘禁者が要求するなら︑

近いと合理的に考えられる拘束場所に拘束されなければならない﹂であった︒これに対し日本政府は﹁﹃被抑留者の家

は抑留場所や刑執行施設を決定するにさいして考慮されるべき菫要な要素ではない︒ところでこの

族の訪問の便宜﹄

﹃で

きる

だけ

八の

三項

できるだけ同人の通常の住居に

という語句によって制限されているとしても︑右の

9 ‑ 4~502

(香法

' 9 0 )

(13)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

の任意性を争うさいに大きな障害となっている が﹃被抑留者が要求すれば﹄同人に与えられるべきだとされている点である﹂と批判した︒

﹁身柄拘束の場所は身柄を拘束する側で決める﹂との基本趣旨であろうが︑これはまたまことに率直な主張ではある︒

日本における実務の実際をそのまま表現したものであろうが︑最終決議は﹁抑留もしくは拘禁された者が要求した場

合には︑可能な場合には︑通常の住居に合理的に近い抑留・拘禁施設において拘束されるものとする﹂︵原則二

0 )

してこれを容れなかった︒日本政府は自分たちの主張が通らなかった理由を再思すべきであろう︒

⑨第二

0

条について

同条は﹁

1

取調べの時間的長さ︑取調べの行なわれる時間的間隔︑取調べを行なった公務員

( O f f i c i a l s )

の名前およ

びその他取調べに立ち会った者の名前は法に規定された方式で適切に記録されなければならない︒

その弁護士はそれら記録にアクセスできるものとする﹂と規定した︒これに対して日本の回答は﹁そのような規定を 設ける必要性は全くない︒というのは日本においては他に適当な手段がとられていて被抑留者は本条に言及されてい るような情報についてはよく知ることができるようになっているからである﹂と反論した︒しかし原則二三は次のよ

間およびその間隔︑取調べ担当者その他立会者の氏名は法に規定された方式により記録され確認されるものとする︒

2抑留もしくは拘禁された者または法により付された弁護士は上記情報にアクセスできるものとする︒﹂

被告弁護側のアクセス権についてはさきに第一︱条に規定があったが︑

べに関するものであり︑

には調書を作る義務はなく︑ うに規定してその態度を変えなかった

︵表現はより洗練されてはいる︶ 0

1

抑留もしくは拘禁された者の取調べの時

︵参

照庭

山﹁

取調

べは

2被抑留者および

それは逮捕についてであった︒本条は取調 わが国の問題状況からはより重要性をもつと思われる︒日本では取調べを行なっても取調官 とくに否認事件にあってはなんの記録も残されない例が多い︒これが公判において自白

なぜ密室で行われるか﹂法学セミナー一九八

︐  5 0 3  

(香法

' 9 0 )

(14)

九年 一

0

月号四四頁︶︒その音心味で日本の反論は納得しがたい︒日本の回答はいったい政府の誰が作っているのであろ

⑩第ニ︱一条について

本条は次のように規定した︒﹁1

抑留もしくは拘禁された者もその者の要求またはその弁護士もしくは家族の要求に より︑現行の保健医療制度のもとにおいて利用できる自己の選任した医師によって診察してもらう権利を有する︒

だし抑留場所の安全と秩庁とを維持するため︑

ものとする︒

2抑留もしくは拘禁された者が医学的検脊を受けた事実︑医師の名前および検府の結果は適切に記録さ

れ︑それら記録は検行を受けた者︑その弁調士もしくは家族によってすみやかに利用できるものとする︒﹂

これを検討した日本政府は次のように回答した︒﹁

抑留もしくは拘梵された者の保健の責任は挙げて国にあるの1 2

で︑それらの者に医師を選ぶ権利を与えるのは同の立場と矛盾することとなろう︒しかしながら被抑留者がすでに医 師の継続的診療を受けており︑抑留施設の管理者が引き続き同医師の診療を受けるのが望ましいと判断したときはそ

のかぎりでない︒

に対

して

は︑

4

0

う つ カ

または捜在の不当な遅延を避けるために必要な合理的な条件には従う

1 3 われわれは医学的検在を受けた被抑留者にその検脊記録を見る権利を与えるべきではない︒なぜ

ならその記録内容についての知識がしばしば右の診療管理に悪影襲口を及ぼすことを知っているからである︒﹂

このような批判にもかかわらず国連総会は次の三つに整理してさらに詳しく規定した︒﹁抑留もしくは拘禁された者

その者が抑留・拘禁施設に収容された後できるだけ早期に適切な医学的検査が提供され︑その後必要な

場合何時でも医学的診療が提供され︑かつこの診療は無料でなければならない﹂︵原則二四︶︒﹁抑留もしくは拘禁され

た者またはその弁護士は︑第:一者の医学的検牡もしくは意見を司法もしくはその他の官憲に要求しまたは申し立てる

権利を有するものとする︒

ただし抑留・拘禁施設の安全と秩序とを維持するための合理的な条件のみには従うものと

一 四

︐ 

4 ‑504  (香法'90)

(15)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

とはまことにむずかしいものだと改めて感ずる︒ する﹂︵原則二五︶︒﹁抑留もしくは拘禁された者が医学的検在を受けた事実︑医師の氏名および検脊結果は正しく記録され︑これら記録へのアクセスは保障され︑そのための手続は各国法の関連法規に従うものとする﹂︵原則二六︶︒

これらを読み比べてみるとき︑被拘束者の医療についての彼我の人権感

9見の格差に駕かざるをえない︒日本は右の

国際水準にもっと歩みよる努力をするべきであろう︒

仰第二三条について 本条は﹁恣意的逮捕・抑留からの自由についての原則草案﹂二四条にもとづいて;本原則に違反してえられたいか

なる証拠も被抑留・拘禁者に対するいかなる手続においても許容されない﹂と規定した︒これに対して日本政府は﹁当

原則に違反してえられた証拠を不許容とすることは妥判でない﹂と批判した︒それを受けてか国連総会決議は﹁証拠

を得る上で本原則の各条項に違反した場合︑

注意

一 五

そのことは抑留もしくは拘禁された者に対する当該証拠の証拠能力の決

定において考慮されるものとする﹂︵原則二七︶として妥協した︒

わが最高裁は令状主義の精神を没却するような重大な違法があっても﹁これを証拠として許容することが将来にお ける違法な捜在の抑制の見地から相当でないと認められた場合﹂でなければその証拠能力は否定されないとしている

︵最判昭五三・九・七刑集三二巻六号一六七二頁︶︒さきの日本政府の主張はこの線(‑九七八年に出されている点に

にそったものと思われるが︑日本政府の主張が容れられて慶賀に堪えない︒しかし果たしてこれで違法排除の

実を挙げうるか否か疑間なしとしない︒その意味では明快な草案ーーー;一条の規定は︱つの見識をポしたものと言ってよ

い︒実質的に草案を作ったであろうワーキンググループに対して敬意を表したい︒それにつけても国際人権法の定立

︐  5 0 5  

(香法

' 9 0 )

(16)

は従うものとする︒﹂︵原則二九︶

⑫第二五条について

本条は被拘禁者処遇最低基準規則三六条および﹁恣意的な逮捕・抑留・拘禁からの自由についての原則草案﹂二七

条三項をもとに次のように規定した︒﹁1

抑留場所は同施設管理責任者とは区別された権限ある機関によって任命され

た有資格経験者によって定期的に訪問されなければならない︒2

抑留もしくは拘禁された者は一項にもとづいて抑留

場所を訪問した者と当該施設職員の立会なくして会話する権利を有する︒ただし同施設の安全と秩序とを維持するた

これに対して日本政府は次のように批判した︒﹁もしも﹃抑留場所の管理責任者とは区別された権限ある機関しなる

用語が抑留施設︵その機能は日本では法務省によって遂行されている︶

機関を意味するなら︑ の管理運営に責任をもつ中央監督官庁以外の

日本としては本条に賛成できない︒そのことは国によって政府機関の構造の異なる他の諸国と

この回答は草案二五条に対するあからさまな挑戦であったが︑国連総会はその態度を変えず次のように規定した︒

﹁1関係法令の厳密な順序を監督するため抑留施設は定期的に抑留・拘禁施設の運営に責任を有する機関とは区別され

た権限を有する機関により任命され︑

その機関に責任を負う︑資格と経験とを有する者によって訪問されるものとす る ︒

2抑留もしくは拘禁された者は一項にしたがって抑留・拘禁施設を訪問する者と自由にかつ完全に秘密を保障さ

れた状態で連絡

( c o m m u n i c a t e ) する権利を有する︒ただし当該施設の安全と規律とを保持するための合理的条件に 第三者訪問委員会制度は今や国際的な文明基準とも称すべきものである︒これに従いえないという日本政府の態度

はいったいどう理解したらいいのであろうか︒ 同様である︒﹂︵回答第一五項︶ めの条件には従うものとする︒﹂

一 六

9  ‑ ‑4  506 

(香法

' 9 0 )

(17)

国連被拘然者人権原則をめぐって(庭山)

憲に対し賠償を求める権利を有するものとする︒﹂

⑬第一一九条について

( 2 0 )  

本条は被拘禁者処遇基準規則三八条にもとづいて次のように規定した︒﹁

1

被抑

留・

拘禁

者︑

拘禁者が自ら行なえないときはその家族もしくは当事件について信頼できる知識を有する市民それぞれは︑抑留場所

の運営に責任を有する機関もしくは

t

級機関に対し︑被抑留・拘禁者の処遇に関し直接かつ秘密裡に要求ないし申立

( c o m

p l a i

n t )

を行なうことができる︒

一 七

その弁護士︑被抑留・

2すべての要求もしくは申立は不門な遅滞なくすみやかに処理ないし応答され

なければならない︒その要求もしくは申立が拒否もしくは不当な遅延に至った場合には申立人は司法もしくは他の官

これに対し日本政府は﹁この条文の要求にふさわしい実際の手段は各国の法律の範囲内に留めおかれるべきである﹂

︵回

答第

十六

項︶

と反論した︒しかし国連総会はこれに応ぜず次に見るようにさらに詳しく規定したのであった︒﹁

1

抑留もしくは拘禁された者またはその弁護士は︑抑留施設を管理する責任のある機関およびその上級機関に対して︑

必要がある場合は審査・救済権限を有する適切な機関に対して︑処遇とりわけ拷問その他の残虐な︑または非人間的

もしくは品位を宵する処遇に関する要求もしくは不服申立をする権利を有するものとする︒2抑留もしくは拘禁され

た者またはその弁護士が一項の権利を行使する可能性を有しない場合︑抑留もしくは拘禁された者の家族または事件

に関し知識を有する者は誰でも一項の権利を行使できる︒

めた場合守られるものとする︒ 3要求もしくは不服申立に関する秘密は申立人がこれを求

4すべての要求もしくは不服申立は迅速に処理され︑不当な遅延なしに返答されなけ

ればならない︒要求もしくは不服申立が拒否されるか不当に遅延するかした場合不服申立人は司法もしくはその他の

官憲にそれを訴える権利を有する︒一項による要求もしくは申立を行なった被抑留・拘禁者はそれを行なったがゆえ

に不利益をこうむることはないものとする︒﹂︵原則三三︶

9  ‑ 4  ‑ ‑ 5 0 7  

(香法

' 9 0 )

(18)

は国際人権規約そのものに加盟していないが︑

( 2 2 )  

いわ

れる

右の原則の第一の特徴は家族もしくは第三者でも権利行使できる点であり︑第二のそれは裁判所にも訴えることがで きる点である︒日本の刑事施設法案では施設長への苦情申出と法務大臣への審在請求しか規定されていないから︑当

原則違反は明らかである︒早急な是正が必要とされよう︒

四︑国際人権規約との関係

同規約

B

規約︵市民的及び政治的権利に関する国際規約︶

した︒日本では一九七九年六月に批准︑

五三

年発

効︶

︵ 第 一

0

条︶︑無罪の推定・遡及効の は一九六六年に国連総会で採択され︑

八月に公布そして九月に発効の運びとなった︒しかし日本政府は付属選択議

定書を批准していないので日本国民個人は同規約違反を理由として国連規約人権委員会に直接提訴することはできな

い︒イギリスや西ドイツも国際人権規約を承認しながら選択議定書は批准していないが︑

のもとで個人申立権が認められているので両国と日本とでは事情が全く異なる︒さらにいえばアメリカ

いろいろな条件が揃っていて実質的にその内容はよく守られていると

国際人権規約は世界人権宣言︵一九四八年︶の具体化だとされる︒同宣言の刑事法関係には非人道的な待遇又は刑

罰の禁止︵第五条︶︑逮捕・抑留又は追放の制限︵第九条︶︑裁判所の公正な審理

禁止︵第一︱条︶の四か条が定められている︒これを受けて国際人権規約

B

規約には生命に対する権利︵第六条︶︑拷

問又は残虐な刑の禁止︵第七条︶︑奴隷及び強制労働の禁止︵第八条︶︑身体の自由及び逮捕・抑留の手続︵第九条︶︑ ヨーロッパ人権条約(‑九 一九七六年に発効

一 八

︐ 

4508  (香法'90)

(19)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

体化したのが国連被拘禁者人権原則であり︑

以下各論的に人権規約と本原則との関係につき述べる︒まず規約第九条三項は両刑事上の罪に問われて逮捕・抑留 された者は︑裁判官もしくは司法権行使が法定されている他の官憲の面前にすみやかに引致され︑妥当な期間内に裁 判を受ける権利もしくは釈放される権利を有する︒裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず︑釈放 にあたっては︑裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭および必要な場合における判決執行のための 出頭が保証されることを条件とすることができる﹂と規定した︒この中で公布直後とくに問題とされたのは同条前段

の﹁司法官憲の面前にすみやかに連れて行かれ﹂た後︑被疑者の身柄を警察にもどすことができるか否かであった︒

欧米先進国の実状からして﹁警察に戻されてはならない﹂と解釈するのが当然と思われるが︑日本政府はそのように 明示されていないことを理由にこれを容れなかった︒この点に関しては国連新原則も明言していない︒さきにも触れ

たが﹁司法官憲のもとに引致されるものとする﹂︵原則三七の第一段︶としか述べていない︒国際人権規約の解釈にさ

いして参考とされる新原則としては遺憾というほかない︒しかし国連加盟国は一九八九年段階で一五九か国に及んで いる︒この中にはいろいろと問題を抱えている発展途上国も多数含まれている︒欧米先進国主導のもと﹁投票なしで

採択﹂といった状況ではやむをえなかったと見るべきであろう︒

次に規約一四条三項は﹁すべての者は︑

利を有する︒⑯防御の準備のために十分な時間および便益を与えられ︑ 義

があ

る︒

条 ︶ 自由を奪われた者及び被告人の取扱い

一 九

︵第一〇条︶︑公正な裁判を受ける権利︵第一四条︶︑遡及処罰の禁止︵第一五

の七か条が定められている︒これら七か条のうち被抑留・拘禁者に関する部分を三九か条にわたって拡大かつ具

しかも刑事関係に限られないとしているところに本原則の重要な存在意 その刑事上の罪の決定について十分平等に少なくとも次の保障を受ける権

かつ自ら選任する弁護人と連絡すること︒十

9  ‑ 4  ‑ ‑ 5 0 9  

(香法

' 9 0 )

(20)

﹁刑事手続と人権﹂について国際刑法学会

分な支払手段を有しないときは司法の利益のために必要な場合自らその費用を負担することなく弁護人を付されるこ と﹂と規定した︒右の⑮は被疑者の接見交通権の保障について述べたものであるが︑新原則においては一八の三項が

つけ加えられてほぼ完全な保障が実現されるに奎った︒また右の団は被疑者の国選弁護について述べたものであるが︑

新原則においては﹁権利行使のための適切な便宜を与えられなければならない﹂︵一七の一項︶と補完されてその権利

性はより強化されるに至った︒なお人権規約に規定された被疑者の保釈請求権︵九条三項後段︶

五項︶も新原則ではより強化されている︒

や賠償請求権︵同条 一九七四年春に有志と語らって学界内に再審制度研究会を発足させた︒爾来︑再審の門を広げるのに全力を傾けて

いたが︑研究会を重ねているうちに﹁誤判が起きてから騒ぐより誤判の根を絶ちきる方が大切ではないか﹂と考える

ようになっていった︒ちょうどその頃︑世界人権宣言一︱

‑ 0

周年を記念して

を開催の予定なので︑

五 ︑

ついてはその専門家予備会議への報告者とならないかとの呼びかけがあった︒私は渡りに舟と

代用監獄問題を中心としたレポートをたずさえてウイーンに飛んだ︒

翌一九七九年秋︑本会議がハンブルクで開かれた︒同会議では私が予備会議で決議草案に入れてもらったいわゆる

﹁代用監獄禁止条項﹂も審議され可決された︒すなわち﹁司法官憲のもとに出頭後においては被疑者は捜査官憲の拘束

下に戻されてはならず︑通常の刑務職員の拘束下に置かれなければならない﹂︵第三部会決議七条

c

項︶と明言された

お わ り に

二 0

~ー~~

  4 510 (香法'90)

(21)

国連被拘禁者人権原則をめぐって(庭山)

件にも及ぼしうると解してもよいと思われる︒ のである︒この論理︵裁判所出頭後は被疑者は警察とは断絶︶

﹁あ

らゆ

る﹂

の意味は事 これはすでに国際的な文明基準と言ってよいであ

元 ︶

は古くは一九五九年のニューデリー宣言によって明示

( 2 6 )  

され︑最近では一九八八年夏にジュネーブで行なわれた国連の会議において︑さらに一九八九年二月には日本に調査

にきた二人の著名な外国人弁護士によっても確認されているから︑

8)  

ろう

ところで去る︳

0

月一日から七日までウィーンで第一四回国際刑法学会が開かれた︒第三分科会のテーマが

機関と刑事手続との関係﹂となっていたのでぜひ出席したいと考え努力したが︑

最近手もとに届いた討議資料によれば同決議案二条七項には﹁弁護﹂と題して る段階において弁護人に依頼する不可侵

( i n v

i o l a

b l e )

の権利を有する︒

な資力を欠く被疑者・被告人

( a

n a

c c

u s

e d

)  

に対しては公費による助成が与えられなければならない﹂と明言されて いる︒これはもう堂々たる被疑者の国選弁護保障の宣言である︒前々回のハンブルク決議においてはあいまい

( JO )  

うよりむしろ消極︶であっただけに一

0

年の歳月の経過が無駄ではなかったことを雄弁に物語る︒このことは国際学 会レベルでは代用監獄間題はとうに乗りこえられており︑今や重点は被疑者の国選弁詭に移っているとも言えるであ

ろう

他方︑右条項は﹁捜社を含む刑事手続のあらゆる段階において﹂﹁ ︒

an

a c

c u

s e

d ﹂に対して公費助成を要請しているの

で︑わが憲法三七条三項の被告人の原文

t h

e

a c

c u

s e

d に被疑者を含むと解してよいことは明らかである︒また右の学

会決議案には新原則一七のような﹁司法の利益のために必要

Lの制限は付されていないので

それはともかくわが国においてはたとえ代用監獄問題が解決︵拘禁二法案が廃止︶されても被疑者の国選弁護の問

︵ と

この権利の有効な実現を保障するため︑適当 ﹁何人も捜脊を含む刑事手続のあらゆ いろいろな都合で遂に果せなかった︒

﹁司

9  ‑ ‑ ‑4  ‑ ‑ 5 1 1  

(香法

' 9 0 )

(22)

現在全国各地の弁護士会において当番弁護士制度についての議論が起きているが︑

本稿はもともと弁護士会の講演用に起草されたので日本政府回答の紹介が中心とされたが︑

( 3 2 )

3 3 )

 

回答の検討に及びたいと思う︒その究極目的が拘禁二法案の批判にあることは言うまでもない︒政府当局の冷静な判

(l)

第―二回国際刑法学会第三部会決議。同決議の全容については刑法雑誌一一三巻――-•四合併号〈一九八

0

年〉三六九頁以下(庭山・

五十嵐二葉﹃代用監獄制度と市民的自由﹄︿一九八一年﹀二三七頁以下所収︶を参照せよ︒

( 2 )

前掲﹃代用監獄制度と市民的自由﹄ニ︱︱︱︱二頁以下を参照せよ︒

( 3 )

参照︑前掲尋国連被拘梵者人権原則と拘禁二法案﹂添付資料のほか︑永野貫太郎﹁国連の新﹃被拘禁者保護準則﹄とわが国の法制 度﹂部落解放研究一九八九年四月号七

0

頁以下︑同﹁国連の採択した新しい被拘禁者処遇基準について﹂日弁連拘禁二法案対策本

部﹃冤罪事件から見た拘禁二法案﹄(‑九八九年六月刊︶︒なお原文については

U N G e n e r a l   A s s e m b l y ,   R e p o r t o   f   t h e   S i x t h   C o m m i t t e e ,

  A/ 

4 3 / 8 8 9 ,  

1  D

e c .   1 9 8 8 .   ( 4 )

これら四条項は一九七九年に開かれた第三四会議の草案にすでに現われている︒各国の反対によりあとに回されたのかと考えて

調べてみたが︑そうではなかったようである︒

( 5 )

以上については

U N G e n e r a l   A s s e m b l y , o   N t e   b y h   t e   S e c r e t a r y ' G e n e r a l ,   A / 3 4 / 1 4 6 ,

1 1  

  S e p t .   1 9 7 9 .   ( 6 )   I b i d . ,   R e p o r t f   o   t h e   S e c r e t a r y ' G e n e r a l ,   A / 3 5 /   4 0 1 ,   1 2   S e p t .   1 9

8 0

︒ほかに参照︑前掲永野論文︒ 断を願いつつペンを掴く︒ 後の展開を大きな関心をもって見守りたい︒

今後は漸次各国政府

れて

か︑

喜ばしい現象である︒今

はな

くせ

るか

英米司法からの報告﹂同特集に触発さ 捜査段階の国選弁護の実現なくしては代用監獄禁止も画龍点晴を欠くこととなる︒私が

さきに﹁イギリスの当番弁護士制度﹂

︵一九八九年五月二日放映︶に参加したのはそのゆえであった︒ ︵香川法学一九八八年一月号︶を発表し︑

NHK

特集﹁ドキュメント冤罪ー誤判 題は依然として残っており︑

9  ‑ ‑4  ‑512 

(香法

' 9 0 )

(23)

国連被拘禁者人権原則をめぐって (庭山)

( 7 )  

Ib id .,   p .  3 f.  

( 8 )  

Ib id .,  A /3 5/ 40 1/ Ad d.   1,   12   Oc t.  1 98 0; A  /3 5/ 40 1/ Ad d.   2,   17   No v.   19 80

;  A/ 38 /3 88 ,  2 8  S ep t. ,  19 83 . 

( 9 )  

Ib id .,  R ep or t  o f  t he   Working  G

ro up .  A /C .  6 /4 1/ L.   19 ,  21   No v.   19 86 ,  p .  1 .  

pa ra . 3 .  

( 1 0 )

前掲永野論文︒

( 1 1 )

( 1 2 )

前掲永野論文﹃冤罪事件から見た拘禁二法案﹄五八頁によれば︑一九八四年︑一九八六年︑一九八七年にもそれまでに検討済の草

案が加盟各国政府宛に送付されたようである︒

( 1 3 )  

Ib id .,  A /3 5/   4 0 1,  p.  12 f.  

( 1 4 )  

Ib id .,

 A

/

 4

3/ 88 9,   p. .     4

( 1 5 )

本草案の成立後の正文については第二東京弁護士会拘禁二法案阻止対策会議﹃被拘禁者処遇と国連関係文書﹄︵一九八八年七月刊︶

六七頁以下参照︒

( 1 6 )

東京弁護士会拘禁二法案対策本部﹃拘禁二法案の争点﹄(‑九八八年一

0

月刊︶五六頁以下︒

( 1 7 )

第三部会決議六条

a項︑前掲﹃代用監獄制度と市民的自由﹄二四

0

頁 ︒

( 1 8 )

第︱二回国際刑法学会第三部会決議六条

e

( 1 9 )

たとえば東弁拘禁二法案対策本部﹃留置施設法案批判﹄︵昭和﹂ハ一年一月刊︶五〇貞を見よ︒被逮捕者については﹁権利としての

医療﹂は認められていないという︒

( 2 0 )

ここで呼称についてコメントしておく︒一九七九年に最初に各国に送られた草案では

Ar ti cl

eが使われていた︵もっと正確にいう

となにも冠されていなかった︶が︑翌年のそれから

Pr in ci pl eが使われるようになった︒日本政府回答は

Ar ti cl

eを用いているの

で︑本稿ではそれにしたがった︒むろん

Ar ti cl

eイコール原則︵狭義︶である︒

( 2 1 )

前掲﹁拘禁二法案の争点﹂八九頁以下の﹁第三者委員会﹂の章を見よ︒実に説得力ある議論が展開されている︒

( 2 2 )

このあたりについては国際法研究者の意見を聴取した︒なお参照︑田畑茂二郎他編﹃基本条約・資料集第六版﹄(‑九八九年八月

刊︶五

0

二頁以下の諸表︒

( 2 3 )

前掲﹁国連被拘禁者人権原則と拘禁二法案﹂一三頁︒

( 2 4 )

このことは再審の菫要性を決して軽視するものではない︒香川県で今問題になっている榎井村事件︵昭和ニ︱年夏に現琴平町で発

9  ‑ ‑4  ‑513 

(香法

' 9 0 )

参照

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