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小児における原因不明の僧帽弁閉鎖不全症 日 時 場 所

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(東女医大誌 第50巻 第4号頁364〜371昭和55年4月)

〔症例検討会〕

小児における原因不明の僧帽弁閉鎖不全症

 日 時  場 所

(発言者)

 司会

受持

文責

昭和54年1月26日

東京女子医科大学本部講堂

心研小児科 高尾

心研外科和田

野研小児科 河村

心研小児科 西川

心研小児科 中沢   学 生 上野

篤良教授 寿郎教授  司助手 俊郎助手  誠講師

(受付 昭和55年1月24日)

 高尾:疾病による症状や徴候が似ていても,その成因 が異なっていることが少なくありません.また,今まで 教科書などに記載されていない,医学校で教わらなかっ たような  新しい病気に接することもあります.

 今日は,そのような際にわれわれがどのようなアプロ ーチで対処してゆくと,医学の進歩に貢献することがで きるか  といった問題を背景にし,実際の症例を示し ながら,臨床上の過去の経験,鑑別上の思考過程,新し い発想,関連領域の進歩した治療の応用などをめぐって 話を展開したいと思います.

 では受持の西川先生,患者を紹介して下さい.

 西川:昭和4工年6月30日生れの男児.主訴は食欲不 振,全身倦怠感.家族歴は兄に気管支喘息,母方叔母に

リウマチ性心臓弁膜症の疑いがある.現病歴:発熱を主 訴に某大学病院を受診し,昭和46年1月16日より2月17 日までリウマチ熱の疑いで入院治療をうけた.退院後1 ヵ月間ペニシリンを服用していた.昭和46年10月喘鳴,

咳1軟,呼吸困難があり近医を受診し,はじめて心雑音 を指摘された.同年12月当科を紹介され僧帽弁閉鎖不全

(Mitral regurgitation=MR)と診断された。急性期にリ ウマチ熱の主要症状は揃っていなかったが,一応それに よるMRとしてペニシリンの投与を続け,外来で経過 を追っていた.

 高尾:このような男児が紹介されてきて,病歴にあっ たようにリウマチ熱と言われた.では,上野さん,リウ マチ熱の診断基準は?

 上野(学生):発熱,多発性関節炎,輪状紅斑,舞踏

病,それとASm値の上昇,心電図上のPRの延長な

ど.

 高尾:そうです.もう一度復習します.

 中沢:表1はJonesの改定基準である.基準は大基準 と小基準に分かれており,大基準一つプラス小基準二つ あるいはそれ以上揃った時に診断するが,溶連菌の感染 の先行は必須である.心炎は,Gallop rhythm,心尖部 の収縮期または拡張中期雑音,また既にリウマチ性心 疾患のある患者では心雑音の変化がある,など.また pericardial friction rubがあったり,心嚢内液体貯留を 認めたりする.胸部レ線で心拡大が進行し,心不全があ

  Clinico口Pathological Co㎡erence (120)3

0rigin.

ACase of a child Mitral insu缶ciency with unknown

(2)

表1 修正Jones基準

主基準

副  基  準

1.心  炎 臨床症状

2.多関節炎 1.リウマチ熱の既往または非活動性リウマチ性 心臓病の存在

a 小舞踏病

2.関節痛

4.輪状紅斑 3.発  熱 5,皮下小結節 検査所見

4.急性期反応(血沈促進,CRP陽性,白血球増多)

5,PR延長

溶連菌感染の先行

 1.ASO値 成人1回測定:250 Todd単位以上        5歳以上の小児1回測定:333Todd単位以上  2.ほかの溶連菌抗体

 3.狸紅熱の先行

 4.咽頭溶連菌の検出は意義がない

る場合も胃炎の診断となる.多関節炎は,移動性のこと が多く,疹痛,自発運動制限があり,他覚的に圧痛,局 所発赤,熱感があり,二つ以上の関節に出現する.舞踏 病は不随意運動で特徴的である.皮下小結節は関節の伸 側のうえにみられるか触知される弾:丸様の固いもので 肘,膝,三関節,後頭部または胸椎や腰椎の二二突起の

うえにみられることもある.輪状紅斑は反復性の赤い皮 疹で主に体幹にみられる.顔面にはみられず移動する.

小基準として関節炎のない例における関節痛,発熱,急 性期反応陽性(CRP陽性,血沈充進,白血球増多),心 炎のない例での心電図上のPR時間延長である.

 高尾=溶連菌の感染は非常に多くごくありふれてい て,扁桃炎,狸紅熱など代表で,またそれに引き続く腎 炎も重要である.さて,昭和46年にこのようなMRの 男児がいて,はっきりはしないのだが,リウマチ熱によ る弁膜症としてfollow upしており,この場合,再発予 防が大切なのでペニシリンを服用していた,ところが2 年後のある日ある患者が某医大から紹介されてきた.そ れはMRが強く心不全が進行性なので弁置換術の対象 となるか否かとのことであった,ではその患者の病歴を 紹介する.

 中沢:6歳男児で胸部レ線上,強い心拡大があり左房 左室の拡大が著明であった(写真1),心電図は左房性

Pがあり,v4で大きなQ波とR波の減高, STの上昇,

T波の陰転があり,心筋硬塞像を示した(図1).某医 大での左室造影で大きな左室(LV)と, MRのために 左房(LA)が造影されている(写真2).

 高尾=リウマチ性弁膜症で希には冠動脈内血栓がある 例があるが,通常は冠動脈の変化はこない.この児は心 電図上心筋硬塞パターンがあり,冠動脈異常の存在が疑

写真 ン像

  (当科初診時)

彗謡継襟

 1 ∬ 皿 。V、 。V、 。V, V、R V、R

釜絆†遮憲蕪

 V・ V2 V3 V4 V5 V6 V7

       mV   c皿

       Ml Le二ωs= L  = 1

 図1 症例2の心電図V、.、のR波の減高,IV、で   のST上昇,他の誘導(V5.7,1〜皿,aVL, aVF)

  でのST−T変化がある

一365一

(3)

;照ご1灘,

  噸ボ輔

藩響1

・鍵

轟灘轡饗

写真2 症例2の左室造影:拡大した左室(工V),

 ↑および an で示した部分は冠動脈瘤 われる.先天性冠動脈奇形プラスリウマチ性弁膜症と考 えるのは少し不自然であった.そこでもう一度左室造影

(写真2)をみると,某医大の医師も見ていたのだが,

矢印で示された場所に動脈瘤様陰影(an)がみえる.そ れは壁が不整で数珠玉状である.これは心電図の所見と 合うが,すると原因は何か.先天性冠動脈痩の聴診所見 はないし,Bland−White・Garland症候群(左冠動脈が肺 動脈の根元から出ていて心筋硬塞のパターンを示す)に

も合わない.それでもう一度病歴を振り返ってみた.

 中沢:この二番目の男児は当科初診2年前に発熱,肉 眼的血尿,手背足背の紅斑があり,10日間の外来治療で 軽快せず,某国立病院へ入院した.ASO値0単位,白 血球増多,血沈充進,CRP陽性,血小板数増加を認め た.心拡大なく心電図も正常であった.第15病日より手 足に強い全身の皮膚剥離が出現した.この7ヵ月後短期 間にわたった同様の発熱,発疹が出現した.その1年1

ヵ月後, (最初の発症から20ヵ月後)遊んでいる最:中突 然動悸を訴え某医院で胸部レ線上の心拡大を指摘され,

それが当科受診へとつながった.

 高尾=昭和30年代の終りから40年のはじめにかけて,

乳幼児で熱がでて,目が赤くなって,発疹がでて,首の リンパ節が腫れて,手や足の先の方が浮腫状にテカテカ 腫れて,触れると痛い.解熱してくるにつれて手足の先 の皮膚がむけてくる.舌は狸紅熱でみられるような苺状 舌を示している.溶連菌感染に関しては,大部分の症例 ではASO値が上昇していない.中に心電図上PR時間 延長の例があり心筋炎の存在も疑われるようになった.

左房(LA)はMRのためである.

これらをまとめて昭和42年日赤病院の川崎氏が,急性熱 性皮膚粘膜リンパ節症候群として発表した.その後そう いう小児の心電図判読のconsultationを受けるようにな った.そのうち,川崎病にかかった子供が急に死ぬこと が分ってきて,剖検すると冠動脈が血栓で閉塞していた り,冠動脈瘤が破裂して心タンポナーデだつたり,そう いう症例の報告が少しずつ増えてきた.

 私はこのことを知っていたので,この症例の胸部レ線 燥,心電図,経過そして左室造影像における冠動脈瘤の 存在から, アッ この例はきっと川崎病のあとでこの ようになったのではないかと思っていた.たまたまこの 例が川崎病で心血管造影を行い動脈瘤が造影された第1 例目だつた.そこでこの事をある集会で話したところ,

他の多く施設でも冠動脈の造影を始め,異常のある症例 が増えてきた.この二番目の男児を診たあと,原因不 明のもう一人のMRのことがいつも頭に残っていたの で,これも川崎病のあとだろうと,もう一度見直してみ

た.

発熱 紅斑

リンパ節鳳脹 結膜充血 関節痛 浮腫(手,足)

落層

CRP血沈

ASO

白血環数 9℃

7℃

入院(昭和46年1月16日,4歳)

1

79/120      85/125

5十      2十 50単位以下 50単位以下 37600   20600

15/35     5!18

−      3十 50単位以下50単位以下 1180D   8700

図2

1357911131511212325272931  病日 本症例(症例1)初発時の臨床像と経過

(4)

表2 小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(略  称)診断の手びき 昭和53年8月改訂3版

 本症は主として4歳以下の乳幼児に好発する原因不.

明の疾患で,その症候は以下の主要症状と参考条項と に分けられるが,6つの主要症状のうち,5つ以上の 症状を伴うものを本症として取扱う

 A。主要症状

  1.原因不明の5日以上続く発熱

  2.四肢末端の変化:〔急性期〕手足の硬性浮腫,

    〔回復期〕爪皮膚移行部からの膜様落屑   3.水庖,痂皮を形成しない不定形発疹(体幹に     多い)

  4,両側眼球結膜の充血(一過性のことがある)

  5.口唇,口腔所見:口唇の紅棚,毒舌,ロ野寺     頭粘膜のびまん性発赤

  16.急性期における非化膿性頚部リンパ節腫脹     (一過性のことがある)

 B.参考条項

  しばしばみられる症状または所見

  1.心血管系:心電図の変化(PQ, QTの延長,

    低電位傾向,ST. Tの変化,不整脈)

   異常聴診所見(頻脈,心雑音,奔馬調律,徴    弱心音)

  2.消化器=下痢,啄吐,腹痛   3.尿:蛋白尿,沈渣の白血球増多   4.血液:1) 核左方移動を伴う白血球増多,

    2)軽度の貧血,3)赤沈値の促進,4)CRP    陽性,5)α2グロブリンの増加,6)血小坂    増多,7)ASO値は上昇しない

  時にみられる症状または所見   5.呼吸器:咳歌,鼻汁   6.関節:眼痛,腫脹

  7,その他;1)髄膜刺激症状,髄液の単核球,

   蛋白などの増多,2)軽度の勝星あるいは血清     トランスアミナ一瞥値の上昇,3)胆嚢腫大

備考

  1.本症候群の性比は1.5:1で男児に多く,年齢    分布は4歳以下が80%を占め,致命率は1−

    2%である

  2.再発は2%内外にみられる

  3.心電図所見としては心筋炎様,心外膜炎様ま    たは虚血性変化を示し,いままでの剖検例で    はほぼ全例に冠動脈瘤血栓性閉塞および心筋    炎を認める

  4.本症経過後心筋硬塞様症状や僧帽弁閉鎖不全    の発生をみることがある

  5、この診断の手引きに合致する症例で敗血症を    伴うもの,若年性関節リウマチ1ζ移行したも    の,結節性動脈周囲炎と病理診断されたもの,

   その他疑問点はそのむね付記されたい   6.本症の通称名としては,川崎病が用いられる   7.英文略称は原著通り。MCLS・を用いられる    べき,第9回修正WHO国際疾病分類(446.1)

   でも,これが採用されている.

 西川:昭和46年1月に入院した某大学病院に発症当時 の症状を問い合わせてみたところ,次のようなことが分

つた.同年1月9日38℃の熱発があり,右頚部リンパ節 腫脹,四肢腹部に紅斑,口唇職裂,苺様舌,眼球結膜充 血,手肘膝関節の腫脹疹痛,それに下血があった,入院 経過中に手背足背の硬性腫を認め,その後四部の膜様皮 膚剥離があった(図2).

 高尾:この症例は川崎病様の病歴があったわけである が,ここで川崎病診断の手引ぎを示す.

 西川:表2がそれである.

 高尾:そのような症状と徴候が診断の基準として設け られていて,この症例もいくつかそれにあてはまる,次 の入院時の現症を聞く.

 西川1心拍数108/分,血圧88/66mmHg,皮膚,リンパ 節に異常所見なく,肺野も異常なし.心臓所見として,

第2音は詠進,心尖部に逆流性収縮期雑音(4/6)があ り,腹部で肝を右季肋下に5横指触知した.胸部レ線で 著明な心拡大を認めた(写真3).心電図は(図3)左 上が某大学病院入院時のもので,皿,皿,aVFで波が深 い.右上は当科外来受診時のもので大差はない.以後,

写真3 症例1の手術前のレントゲン

ノ.■ 翼訓解.帥 u繍り・

環ぞ絶勝

工曹サ・v・ 箪・ Ψ・》・

馬へρ      

,:丁 ㌃卜←「笠島r・

1.1【叩・萌革曲 v・・v慣

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鷺鴬聖鬼㌻嚢{唄麟

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篶劔駄堀

   廓冨L■昭勝=いv3

=翼 e踊革鵡uのv・ 1罫 ■一躍L鵡.単.v・

轟菰謙菰

       晒9曙1● 鋸 1■7■乙 暑 ,    験璽■rI鱒」Oi二四.8 艦 9

図3 症例1の心電図

一367一

(5)

表3 小児の僧帽弁閉鎖不全 リウマチ性僧帽弁閉鎖不全

心筋炎

心内膜炎…ビールス性,細菌性,その他 心筋症,とくに特発性肥厚壮大動脈二布狭窄症

(IHSS)および乳児期では原発性心内膜線維弾性症

(EFE)

乳頭筋機能不全…1)MCLS,Polyarteritis nodosaな どに続発する,2)左四動大動脈起始症(Bland−White。

Garland症候群),先天性冠動脈低形成などの先天奇形 に続発する

Prolapsed Mit旧1 Va且ve

僧帽弁奇形…心内川床損症における僧帽弁(前尖の cleft),後尖のcleft,腱索や乳頭筋の異常

修正大血管転換症における系統動脈側房室弁(解剖学 的三尖弁)の機能不全およびEbstein様奇形 その他;心腫瘍,心室瘤

左下,右下と経過したが事変はない,

 高尾:それでこの症例を川崎病に引き続いたMRの 可能性があると考えた.小児にみられるMRは種々の 原因によるがそれをreviewしてみる(表3).

 中沢:僧帽弁は,弁そのもの,腱索,乳頭筋,弁理の 4つの器官から成り立っていて,そのいずれかの異常で 機能不全となる.表3にMRの原因疾患を列挙した。

リウマチ性のものは心内膜炎により弁や腱索に病変が及 び,それが残存する.心筋炎では筋収縮力の低下と心室 の拡大によりMRとなる. MCLS, PNでは心筋硬塞 による乳頭筋機能不全の表われとしてMRを起こす.

infective endocarditis, viralでもbacterialでも, coll agen diseaseに続発したものでもMRを起こす.心筋 症とくに肥大性閉塞性心筋症(HOCM),乳児の原発 性心内膜線維弾性症(EFE)は重要である. prolapsed mitral valveは先天性で単独のこともあり, Marfan症 候群に合併することもあり,また若い女性では数%にみ

られたとの報告もある.また,心炎に続発する例もあ る.僧帽弁自体の奇形では心内二二欠損症にみられる前 尖のcleftはその代表である.修正大血管転換症,これ は解剖学的(形態学的)右心室と解剖学的左心室が入れ 替っていて,血液の流れは正常であるがポンプする心室 が入れ替っている.この場合系統動脈側に三尖弁があ

り,この三尖弁は構造上,系統動脈圧を長年にわたって 支えるには不充分と考えられるし,三尖弁のエブスタイ

ン奇形があることもあり,これらの場合系統動脈側房室 弁閉鎖不全症が起こり,心尖部で全収縮期雑音があり,

MRの所見に似る.

 高尾:MRの鑑別診断はそのようなものだが,この二 例はともに心電図心筋硬塞パターンを示していたので,

この鑑別も必要である.

 河村:ST・T変化,異常Q波の存在する症例の鑑別 診断を表4に示した.MCLS, PNは冠動脈の変化が閉 塞性で,血栓,冠動脈瘤を起こし心筋硬塞へとつなが

る.その他の一部は実例を示した(図4〜図5).

表4 小児期に心筋梗塞パターンを示す心疾患

MCLS

Polyar捻ntis nodosa

心筋炎 心筋症

冠動脈痩

左冠動脈肺動脈起始症(Bland−White−Garland症候群)

冠動脈低形成 修正大血管転換症 その他:心外傷,シ3ック

Hypoplastic Left CQronarア

   Artery

Irし病]/ 取綱皿」四四 瓶r謬激・い一蕾{睡

v4R

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図4 左冠動脈低形成の心電図

 高尾.:普通心筋硬塞が成人で起こるとQ波が深くなる と同時にR波の減高がある.小児でもそういうパターン を示すことがあるが,一般には割合心筋の代償能が良

一368一

(6)

  轟露      1       認、

  ・置潮棒一十h」

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  図5 左冠動脈肺動脈起始症の心電図

く,Q波は深くてもR波が比較的高いということがあ

る.

 以上の鑑別診断とMCLS診断の手引きから,この症

例はMCLS→冠動脈病変→MRと考えられる.そのMR

は進行性で呼吸器感染などを伴って,時には浮腫,肝腫 などの臨床症状を示してきた.そのため入院を繰り返

し,抗心不全治療を行なっていたが,その心不全も内科 的にはcontro1できなくなり,外科治療の適応の有無の 決定のため心カテーテルおよび心血管造影検査を行なっ

た.

 中沢=心カテーテル所見としては肺動脈圧の上昇と,

肺動脈喫入塾(これは一.般に左房圧を表わすと考えられ ている)の上昇がみられ,また,左室拡張末期圧の上昇 がみられる(表5).このデータはMRとそれによる左

表5 心カテーテル所見 圧(mmHg)

i平均圧) 酸素飽和度(%)

肺動脈梗入 (26)

主肺動脈 75/43(55) 48

右   室

75/EDP品9

48

右   房 (7) 50

上大動脈 (7) 52

下大動脈 (7) 44

左   室 1031EDP呂28

大 動 脈 97/73(81) 98

写真4−a 症例の右冠動脈:極めて強い狭小化

醗藤鱗

写真4・b 症例の左冠動脈=主幹部の動脈瘤(矢  印)と右脳動脈への側副血行路が分る

心室の機能不全を示す,冠動脈造影(写真4−a,b)で は,右冠動脈は起始部から細く末梢は網目状でさらに細

く充分のpatencyがない.左冠動脈はその起始部に二つ の動脈瘤があり,側副血行路を通して右冠動脈への血流 がみられる.左心室造影では左心室は拡大し,駆出分画

(ejecti・n fracti・n)は0.33と低下していた.この血行動 態の異常はMRと冠動脈異常の両方によるが,僧帽弁 置換によって改善の余地ありと判断し,さらに冠動脈瘤 は血栓形成の危険であるのでaorticocoronary bypassの 適応もあるのではないかと考えた.

 寓尾:以上のようなことで手術することにした.手術 所見について和田教授,どうぞ.

一369一

(7)

 和田:高尾教授の指摘のようにMRがあれぽ駆出が 無駄になるので,弁の機能を良くするために弁を取り替 える.僧帽弁の場合,子供でも対象となるものでは心臓 が大きくなっているので大人用の弁がはいる.手術所見 は,左心房を開けて機能不全となっている僧帽を取っ て,そこに豚,porcineのxenograft異種弁を植える.

このxenograftは豚の大動脈弁なので乳頭筋や腱索がな く,非常によく動く.この症例は,川崎病後の心疾患で 弁置換をうけた本邦第1例目である.それに加えて冠動 脈瘤のための血流障害があるので,上行大動脈から左冠 動脈の動脈瘤より遠位側へ血管を用いてバイパスをす

る.この手術をA−Cbypass(aortico−coronary bypass)

と言う.

 高尾:そのような手術を受けたあと,その結果と経過 をみるために再度心カテーテルおよび心血管造影を行な った.

 中沢:術後の冠動脈造影(写真5)ではgraftの

patencyがよく保たれているのが分る.また左室造影で はMRがなくなっているのが分る。

写真5 手術後の冠動脈(上2枚)と,左室造影で

 MRはみられない

 高尾=心臓の大きさが術前より小さくなり,心電図の 悪化も認められず,本人は小学校へ通っている.和田教 授,何かはかに外科的にコメントを.

 和田:川崎病の大きな特徴は冠動脈が侵され,血流が 遮断されることであり,冠動脈瘤が破裂すること,その 中に血栓ができることなどである.このため心筋梗塞が 起き,心室の動きが悪くなるし,乳頭筋が梗塞になる

と,今の症例にみられたように閉鎖不全が起こる.この

ようなことが死亡につながり,L5〜2.0%の死亡率の大 部分を占める.冠動脈の閉塞の病変に対して,外科的に はバイパスをつくって血流を保つことができるが,問題 は血管の太さで,これはうまく流れるためには直径1・5 mmは必要である.これより細いと縫合部を中心に血 栓ができるなどで詰まる率が非常に高い.バイパスに用 いる血管にも問題があるが,最近の一例では母親の静脈 をとって患者の動脈の代りにして植えた.動脈系に静脈 を用いることについて当初大変論争になったが,世界中 でもう3万人以上の人達がこの方法で手術を受けて大丈 夫である.このように外科的には詰まった血管があれ ぽバイパスをする.動脈瘤があれはaneurysmorrhaPhy

(動脈瘤縫合術)をする.またはその前後を結紮してバ イパスをする.心筋硬塞に続いて起こる僧帽弁閉鎖不全 に対しては弁置換術を行う.また心室瘤でparadoxical motionがあるような例では瘤切除を行う.川崎病でこ のような手術を受けたのは10例前後で,これは日本以外 では極めて少ない.外科としては子供の冠動脈外科は学 問的にもchallengingで新しい一つの分野である.

 高尾=MCLSはここ10数年の間に日本で多発してい る病気で原因は不明である.動脈系静脈系とも小さい血 管が侵され,そのために種々の合併症,続発症が起こっ ている.われわれが一番恐れていることは,もうすでに この国で1万数千人の子供がこの病気に罹患しているの で,その子供達が成人になると虚血性心疾患に罹り易い 状態にあると言うことである.また,和田教授の指摘の ように,この病気でいろいろな手術が考えられるが,限 られた症例ではそういうことをやらざるを得ないように なると考える.

 今日の症例を復習すると,リウマチ熱の既往は非常に 不確実であった.したがって,われわれはリウマチ熱の 診断基準をいつも憶えておく必要がある.次に小児にみ

られるMRにいろいろな起り方がある.それから,川 崎病MCLSと言う病気があり,その診断の手引きを知 っておかなくてはならないし,非常に重篤な合併症や続 発症を起こすことがあり,川崎病に罹った者の20%ぐら いは心血管系の残遺症が残っている.外科的}こは子供に おいても虚血性心疾患のためにバイパス手術その他が行 われる.

 最後に強調したいことは,臨床家であれぽいつも問題 点……あの病気であればここまで分っている.あの病気 のetiologyはここまでしか分っていない.不思議だ,

分らない,……とそういうことを常に頭に入れながら毎

(8)

日患老をみている.そこで万遍なく情報網を張っておく と,ある日突然ひらめいて……これはこういう病態だろ うと分ってくる.そして病気の理解が深くなって新しい

病態も分ってくる.この症例はそのような臨床医として の病気の見方のプロセスを教えてくれるいい例と考え る.以上で終る.

〔雑 報〕

0幹事会

 日時 昭和55年2月5日(火)午後3時より  場所 東京女子医科大学中央校舎学術室  議題 東女医大誌50巻2号編集 新幹事の人選

。例会

 日時 昭和55年2月22日(金)午後1時半より  場所 東京女子医科大学本部講堂

 演題11

    松村義寛幹事へ定年退職にあたり学会より感謝     状贈呈

編集後記

 3月ともなれば,冬も峠を過ぎ;なんとなく明るい気 分になる.

 長年,原稿の訂正や校正で,お世話をかけた生化学の 松村義寛教授と,外科の太田八重子教授を囲んで,学会 幹事の先生方で茶話会で送別が行なわれた.

 ついこの間のような学会とのお付合いが,もう30年余 となるとは,全く夢のような気持がする.

 若かりし,青年教授は,気持の上では少しも変らない のに,回りの人だけが,移り変りを知っているように,

態度が変ってくるのに驚いたり,乗物でで知らずに老人 用の腰掛けに座って気にならなかったりといったことが 起こる.はてさて,月日の移り行きを痛感させる3月で

あることか.(55.3.6.H・0記)

一371一

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Robertson-Seymour の結果により,左図のように disjoint

(2)特定死因を除去した場合の平均余命の延び

日本全国のウツタインデータをみると、20 歳 以下の不慮の死亡は、1 歳~3 歳までの乳幼児並 びに、15 歳~17

に本格的に始まります。そして一つの転機に なるのが 1989 年の天安門事件、ベルリンの