• 検索結果がありません。

非 契 約 者 間 の 『 違 約 金 』 請 求

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "非 契 約 者 間 の 『 違 約 金 』 請 求"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)論. 説. 私人による権利救済の可能性. 非契約者間の﹃違約金﹄請求. 一 問題の所在. 性1. 問題の所在. 一一実効的な権利救済手段の欠如−違法行為抑止の必要. 一. 次のような事例を考える︒. 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶. 五 四 三. 生 田 敏 康. ﹁違約金﹂請求の可否. 支払った﹁違約金﹂の返還請求の可否 結びに代えて. 三六九.

(2) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三七〇. a︑Xは自分の所有地︵契約駐車場︶にたびたび他人︵契約者以外の者︶が自動車を無断駐車するのに腹を立て﹁当地は. Xの私有地です︒つきましては無断駐車をされた方からは金三万円をいただきます︒﹂という看板を公道と接する見やす. いところにたてた︒ある日︑この看板にも関わらず︑Yが無断駐車したのを見つけたXは︑Yに対し︑この看板の文句を. b︑aにおいてYはこれに従い︑三万円をXに支払ったが︑その後︑Xの請求はそもそも根拠のないものと考えるに至. 理由に三万円を請求した︒. り︑Xに対して支払った三万円の返還を請求した︒ 以上においてXまたはYの請求は認められるか︒. ここに挙げた事例︵しかし︑日常しばしば見受けられる光景である︶は︑素人による法的根拠のない恣意的請求に すぎず︑とるに足らないことかもしれない︒. すなわち︑伝統的な考えに立つ限り︑この場合︑契約関係にないYに対して︑不法行為に基づく損害賠償請求権. あるいは不当利得返還請求権の行使は格別︑Xが﹁違約金﹂を請求しうる根拠はどこにもないからである︵その意. 味で表題はパラドッタスである︶︒しかし︑仮に損害賠償請求ないし不当利得返還請求をなしえたとしても︑その損. 害あるいは不当利得の範囲は︵侵害が長期的・継続的でない限り︶きわめて微々たるものにならざるをえず︑その実. 効性はなきに等しいものとなろう︒結局︑一方において被害当事者は︑泣き寝入りをし︑他方において侵害者はや. り得︑という不公平な事態を認めることになる︒ひいては︑実効的なサンクションの欠如から︑ますます違法行為.

(3) を助長する恐れがないとはいえない︒また︑Xの目的は︑そもそも損失の補償ではなく︑所有権を中心とする財産 権秩序の回復なのである︒. そこで︑このような場合にはむしろ︑Xの主張が認められてもよいのではないか︑という素朴な疑問が生ずる︒. このことは︑将来の違法行為の抑止という観点からも一定の効果をもつものであろう︒あるいは﹁違約金﹂の請求. はともかく︑少なくとも受領した﹁違約金﹂の保持は不当利得にならない︑と考えてもよいのではないか︒. 以上の問題意識に鑑み︑本稿では︑標記のテーマにつき︑①違法行為の抑止に関して従来の不法行為を中心とす. る被害者の救済制度には限界があり︑より実効的な救済手段が必要とされていることを指摘し︑それを補完する手. 段として私人による権利救済の可能性をのべ︑②それが法的手段としてどの程度の効力を有するものなのか︑ある いは与えるべきなのかを検討したいと思う︒. 本稿のテーマは︑それ自体はきわめて些細なものであるが︑債権の効力あるいは請求権とは何か︑契約の成立と. 実効的な権利救済手段の欠如−違法行為抑止の必要性1. は何か︑不法行為制度の目的ひいては民事における救済とは何か︑などを考える上で︑好個の素材であるといえよ ・つ︒. 二. へー︶. このような場合のXの救済は︑他の方法で達成できないわけではない︒すなわち︑所有権に基づいて妨害排除請. 三七一. 求権を行使することは可能である.しかし︑例外的に自力救済が認められるような場合を除けば︑この権利を行使 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶.

(4) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三七二. する︵判決を取得し︑それを債務名義として執行する︶ことは︑時間︑費用︑労力からいってほとんど非現実的であ. ろう︵そもそも訴えを提起するときには侵害がやんでいて︑訴えの利益がなくなっているであろう︶︒そこで残された可. 能性として︑不法行為に基づく損害賠償請求が考えられるが︑これも前述のように︑かような事例においては実効 性を持たない︒. すなわち︑不法行為制度の目的が︑従来の伝統的理論のように︑狭い意味での被害者の救済︑すなわち不法行為 ︵2︶ によって被った損失の填補にあると解する以上︑侵害行為が一時的・単発的なものである限り︑損害はほとんどな. く︑救済の必要はない︑ということになるからである︒しかし︑そうした思想は不法行為制度の目的をあまりに狭. くとらえるもので妥当でない︒むしろ︑それを広い意味での被害者の救済︑すなわち将来にわたって起こるであろ ︵3︶ う侵害行為の未然の抑止もまたそこに含まれると解することも不可能ではあるまい︒とくに本件のような場合にお. いて救済を拒絶することは︑事実上侵害行為を容認するに等しいものと見られ︑さらなる侵害行為を誘発する危険 があり︑抜本的解決にならない可能性がある︒. 以上のように︑不法行為制度の目的が違法行為の抑止にもあるとすれば︑海外において承認され︑我が国でもそ ︵4︶ の導入が提唱されている懲罰的損害賠償の利用の可能性が考えられる︒この制度の目的は︑周知の通り︑違法行為 ︵5︶ の抑止とともに不法行為者の不法利得の剥奪にあるとされている︒これが承認されれば︑被侵害者にとって有益な ︵6︶ 救済手段になりえよう︒しかし︑懲罰的損害賠償を認めるにせよ︑これが事後的救済であることには変わりなく︑. その意味で即効性に欠け︑また︑結局は︑裁判官による司法的統制を経た上で︑賠償が命じられるものであるか. ら︑その対象は比較的大がかりなケースに限定されると想像され︑このような日常的な紛争を解決するには大げさ.

(5) すぎるといえよう︒ここで要請されるのは︑﹁簡易﹂かつ﹁利用可能な﹂救済方法なのである.. そこで侵害に対してあらかじめそのサンクションを告知し︑違法行為を抑止するという方法が考えられるのだ. が︑そのサンクション︵﹁違約金﹂の支払義務︶が法的に承認されれば︑これはきわめて強力かつ利用可能な救済手. 段となりえよう︵いわば︑﹁契約的﹂手法をもって︑事実上︑懲罰的損害賠償を認めたのと同じ効果をもつといってよいだ. ろう︶︒しかし︑そこには解決すべき問題がある︒第一は︑そもそも﹁違約金﹂を請求できるか︑ということであ. る︒第二は︑請求権の有無はともかくその受領が正当化されるのか︑すなわち︑仮に侵害者が﹁違約金﹂を支払っ. ても非債弁済とならないか︵すなわち支払った侵害者からの不当利得返還請求を認めざるをえないのではないか︶︑とい. う問題である︒これらの問題につき︑まず︑第一の問題を検討した後︑第二の問題を取り上げる︒. たとえば︑加藤一郎・不法行為﹇増補版﹈︵一九八O︶三頁以下の記述にそれが見られよう︒なお︑判例も︑不法行為制度の. は別である︒. ︵!︶無断駐車に関しては︑もとより︑行政上の取締りによってその防止が図られることもあるであろう︒しかし︑ここでの問題と ︵2︶. 九年七月一一日民集五一巻六号二五七三頁︶︒. 本質は︑基本的には損害填補機能にあるとし︑制裁ないし予防的機能は﹁反射的︑副次的な効果﹂にすぎない︑という︵最判平成. ︵3︶不法行為制度のもつ違法行為の抑止機能を強調するものとして︑田中英夫11竹内昭夫﹁法の実現における私人の役割︵四・. 一〇六号︵一九七二︶六六六頁︑同一〇八・一〇九号︵一九七三︶一一二頁︑後藤孝典・現代損害賠償論︵一九八二︶一五八頁︑. 完︶﹂法協八九巻九号︵一九七二︶一〇三﹈二頁︵とくに一〇六四頁以下︶︑三島宗彦﹁損害賠償と抑制的機能﹂立命館法学一〇五・. 五︶三頁︵一九頁︶︑内田貴・民法H︵一九九七︶三〇三頁など︒. 森島昭夫・不法行為法講義︵一九八七︶四六六頁以下︑山田卓生﹁不法行為法の機能﹂不法行為法の現代的課題と展開︵一九九. ︵4︶判例はこれを否定する︵前掲最判平成九年七月一一日︶.その根拠として︑不法行為制度の本質論︵前掲注︵2︶参照︶のほ. 三七三. かに︑民事責任と刑事・行政上の制裁との役割分担を挙げる︒学説において懲罰的損害賠償︵または制裁的慰謝料︶を認めるもの. 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶.

(6) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三七四. として︑田中H竹内・前掲注︵3︶一〇三三頁︑三島・前掲注︵3︶立命館法学一〇八・一〇九号二二八頁︑後藤・前掲注︵3︶. 一八七頁︑森島・前掲注︵3︶四七四頁など︒消極的な見解として︑四宮和夫・不法行為︵一九八五︶二六七頁︑澤井裕・テキス. トブッタ事務管理・不当利得・不法行為﹇第一一版﹈︵一九九六︶一一六頁以下︑山田・前掲注︵3︶一九頁など︒なお︑懲罰的損. 害賠償に関する近時の文献として︑早川吉尚﹁懲罰的損害賠償の本質﹂民商一一〇巻六号︵一九九四︶一〇三六頁︑三沢元次﹁懲. 後藤・前掲注︵3︶一一〇〇頁は﹁右利得を加害企業の手に与えることを承認するからこそ︑加害行為への誘引やみがたいもの. 参照︒. 罰的損害賠償論﹂東洋法学三六巻一一号︵一九九三︶五七頁︑道垣内正人﹁懲らしめとしての損害賠償﹂法学教室一五四号︵一九九 ︵5︶. があることを考えれば︑加害者に利得を与えてはならないとすることこそが正義とされなければならない﹂とする︒なお︑道垣. 前述の妨害排除請求も事後的救済であることには違いない︒また︑差止請求も考えられなくもないが︑通説・判例によれば︑. 内・前掲注︵4︶五八頁参照︒. ︵6︶. ﹁違約金﹂請求の可否. 現実的でない︒. 損害賠償を求める場合より強い違法性が要求されるから︵﹁違法性段階説﹂︑最判平成七年七月七日民集四九巻七号一八七〇頁参. 三. もそも﹁違約金﹂は自己の所有地を利用させないために設定しているのであるから︑契約の成立を認めることとは. ある︒すなわち︑被侵害者は他人︵あるいは契約者以外の者︶に自己の所有地を利用させる意思はないのであり︑そ. だから︑侵害者と被侵害者の間に駐車場利用契約が締結されているといえるかもしれない︒しかし︑それは誤りで. 第一に︑侵害者は看板の警告を認識した上で︑空き地︵あるいは契約駐車場︶を利用する意思で利用しているの. このような﹁違約金﹂はそもそも請求できるのであろうか︒できるとすればその根拠は何であろうか︒. 照)、.

(7) 矛盾し︑したがって契約は成立していないと見るべきである︒. ︵7︶. このように︑侵害者と被侵害者の間に契約関係がない以上︑契約責任の追及としての﹁違約金﹂を請求できる根. 拠はない︑というべきである︒では︑侵害者と被侵害者の間には︑一種の﹁事実的契約関係﹂が発生し︑それにも. とづいて﹁違約金﹂を請求しうると考えられないであろうか︒これも結論からいえば否定的に解すべきであろう︒ ︵8︶. すなわち︑事実的契約関係理論そのものが今日︑その正当性に疑問が呈されている︑という議論は別にしても︑こ. の理論が目的としたのは︑社会的接触によって生じた︑ある者と他のある者の関係につき︑合意の存在の認定︵契 ︵9︶ 約成立の認定︶が困難な場合にもそれを擬制し︑契約責任を認めることに対する批判を回避することにあった︵意. ︵m︶ 思ではなく﹁事実﹂そのものを法律効果発生の要件として直裁に認めよう︑という発想である︶︒つまり︑そこにおいて ︵n︶. ︵12︶. ︵13︶. 念頭におかれたのは︑たとえば︑交通機関︑水︑電気・ガスその他のエネルギーの供給などのいわゆる﹁社会類型. 的行為﹂あるいは﹁社会的給付義務﹂が問題となる領域であって︑﹁合意による契約締結の余地はありえない﹂が︑. その給付の人の生存に不可欠な性質あるいは大量的・定型的処理の必要性から︑この理論が形成されてきたのであ. った︵この理論のコ・ラリーとしてたとえば行為無能力を理由とする契約の取消が否定される︶.しかし︑そこでも﹁自. ︵M︶ ら決定した行動により意識して給付関係に参加するかぎり︑やはり私的自治を肯定しなければ﹂ならないのであっ. て︑逆にいえば︑そこに何らかの︵当事者双方の︶意思的契機がなければ︑事実的契約関係の存立の基盤を失うで. あろう︒これに対して本稿のテーマのようなケースにおいては︑前述のとおり︑当事者の一方︵被侵害者︶がそも. 三七五. そも反対の意思を有しているのであるから︑事実的契約関係を擬制することは無理であろう︒ ︵15︶ もっとも︑本件のケースは無賃乗車のような事例︵これが事実的契約関係に当たるかどうかについては議論がある︶ 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶.

(8) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三七六. とは確かに共通するものがあるが︑やはりこれとも区別されるべきである︒鉄道等の公共交通の運送契約において. は︑無賃乗車かどうかは︵その旨を宣言でもしない限り︶外部から認識できないものであり︑運送事業者は︑無賃乗. ︵16︶. 車者であっても︑これを拒絶できないのであって︑結局︑契約は有効に成立するといわざるをえない︒また︑この. ような不正乗車に対しては︑法規等で運賃のほかに一定額の割増運賃が課せられることがあるが︑これは上述のと. おり契約の成立を前提とした上での違約罰とみなすべきであろう︵しかしながら︑このような割増運賃は︑事実上の ︵17︶ 懲罰的損害賠償であるといってよい︒その点︑本稿のケースと類似する︒︶︒. 以上のように︑駐車場の利用契約の成立及び事実的契約関係の成立に関しては否定的に解すべきことがわかった. が︑これはそもそも土地所有者が自己の土地を他人に利用させない意思を有している以上︑当然の結論である︒む. しろ︑この場合は︑被侵害者︵土地所有者︶の意図は︑空き地︵駐車場︶を利用しない︑という一種の不作為︵不可. 侵︶義務を潜在的侵害者に課し︑その違反に対して違約金を請求するものと見るべきであろう︒この不作為義務は. 容易に肯定される︒なぜなら非契約者であっても︑不法行為の成立要件の前提としての一般的な不可侵義務︵﹁他. 人の財産権を侵害してはならない﹂︶を負うことはいうまでもないからである︒もっとも︑﹁違約金﹂の請求は前述の. とおり︑不法行為的構成をとる限り︑当然にはできない︒そこで考えられるのは︑ある種の不可侵義務を債務とす. る契約が成立し︑その不履行を要件として﹁違約金﹂の請求をなしうる︑と解するものである︒では︑こうした不. 可侵契約が︵潜在的︶被侵害者と︵潜在的︶侵害者の間に成立しているといえるのだろうか︒. 契約成立の前提として︑当然︑契約当事者が存在しなければならないことはいうまでもない︵本来︑契約という. のは当事者間の合意に対して法的拘束力を与えるものだから︑相手方の存在しない契約というのは背理である︶︒したがっ.

(9) て︑侵害以前に契約の成立を認めることは無理であろう.契約的構成に基づいて﹁違約金﹂請求をする場合は︑侵. 害と同時に上記の不可侵契約が成立することを前提に考えざるをえないが︑はたしてそのようにいえるのだろう. か︒これについても否定的に解すべきである︒つまり︑この場合も駐車場利用契約の成立を否定したのと同じ論理. が当てはまるのであり︑今度は侵害者が被侵害者の土地を利用する意思はそもそも不可侵義務を債務とする契約と 矛盾するからであ る ︒. 百歩譲って︑仮に契約の成立は認められないとしても︑この場合には︑ある種の侵害者による一方的債務負担行 ︵18︶. 為が推認できると構成することも考えられるかもしれない︒しかし︑基本的に現行法がこのような債権発生原因を. 用意していない以上︑民法典にないこの種の債務負担行為に対して法的効力を与えるのは疑問であるし︑仮に認め. るとしても︑債務負担者の明確な意思の存在を要件とすべきである︵もっとも︑一方的な給付約束を信頼した者が被. ︵19︶ 害を被った場合の約束者の責任が問題となりうるが︑本件の場合は︑そのような信頼は存在しないケースといえよう︶︒も. とより︑﹁違約金﹂の定めを認識しながら行為をした以上︑被侵害者からの﹁違約金﹂請求を拒むことは信義則. ︵矛盾行為禁止原則︶違反ともいえないこともないが︑後述のいったん支払われた﹁違約金﹂の返還を拒絶する場合. ︵20︶. と異なり︑そもそも債務︵請求権︶自体の存否が疑わしい場合に︑それの履行を強制することはできないというべ きであろう︒. また︑訴求力はなくても︑給付保持力としての請求権︵すなわち︑一種の自然債務に対応するところの請求権︶は認. めるべきである︑と解することも可能かもしれない︒しかし︑これも否定されるべきである︒というのは︑たとえ. 三七七. ば︵やや非現実的な例であるが︶︑被侵害者が侵害者に対し債務を負っている場合に︑この﹁違約金﹂債権をもって 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶.

(10) ︵21︶. 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三七八. 相殺することが可能になり︑事実上︑違約金に対する強制執行を承認したことと同一の結果をもたらすことになっ てしまい︑妥当ではないからである︒. さらに︑実際的な見地からも﹁違約金﹂請求を認めることは困難であろう︒すなわち︑﹁違約金﹂の額は︑もっ. ぱら被侵害者による一方的な︑いわば恣意的な金額であるから︑この請求を認めた場合︑法外な金額が請求される. 危険が生じるであろう︒このような司法的統制を経ていない額を内容とする請求権を法的に承認するのは︑好まし. くない︒つまり︑これを承認した場合の恣意的運用の危険性︵副作用︶が︑認めることの効用より大きくなる可能. 性があるからである︵契約上定められる損害賠償の予定・違約金︵民法四二〇条参照︶が双方の当事者の合意の効果とし. て大幅に私的自治が認められる︵合意したからこそ拘束される︶のとは︑事情が異なるのである︶︒また︑懲罰的損害賠. 償が﹁加害者の悪性が強い﹂ときに認められるものであるから︑この要件との権衡からいっても︑侵害者に強い悪. 性を要求すべきであろうが︑本件の場合にこれが認定されうるかは疑わしい︵もっとも警告にも関わらず違法な侵害 をしているのだから︑このような悪性がないともいえないが︶︒. 以上の考察から︑被侵害者による侵害者に対する﹁違約金﹂請求は︑否定的に解すべきものと思われる︒. ﹃事実的契約関係理論﹄について﹂法協一〇〇巻六号︵一九八三︶一一〇一一頁︑神田博司﹁事実的契約関係と行為能力﹂民法の争. ︵7︶ 事実的契約関係理論については︑さしあたり︑新版注釈民法一三巻︵一九九七︶二八二頁︵五十川直行執筆︶︑同﹁いわゆる. 五十川・前掲注︵7︶注釈民法一一八四︑三〇四頁参照︒. 点1︵一九八五︶一四頁など参照︒ ︵8︶. 五十川・前掲注︵7︶注釈民法二八九頁︒. ︵9︶ 神田・前掲注︵7︶一五頁︒ ︵10︶.

(11) 11 12 13 14. 四宮和夫・民法総則﹇第四版補正版﹈︵一九九六︶一四一頁︒ 神田・前掲注︵7︶一四頁︒. 神田・前掲注︵7︶一六頁︒. 神田・前掲注︵7︶一五頁︒. 行為が強行法規または公序良俗に反する場合は︑契約法ではなく︑不法行為または不当利得の問題として処理すべきという見. が事実的契約関係理論を導入した嘱矢は︑まさにこのような事例であった︵ωの自NB臼璽いわゆる﹁駐車場事件﹂判決︶.. たとえば︑鉄道営業法一八条は︑不正乗車に対し割増運賃を課すことを規定し︑これを受けて鉄道運輸規程一九条は﹁乗車シ. このような割増運賃制度が違法行為の抑止︵不正乗車防止︶に一定の効果を有していることは誰も否定できないであろう︒こ. もっとも︑契約の申込には一定の拘束力が与えられている︵民法五二一条一項および五二四条︶.. 立法的な統制を経ているから︑その適正さが担保されているのである︶.. 一方的給付約束については︑ハンス・シュトル︵安永正昭訳︶﹁比較法的見地からみた給付約束に対する契約外の信頼責任﹂. し︑これは﹁一定の範囲で自分の言葉に拘束されるという意味で﹁契約類似のもの﹂である﹂とする︵シュトル・前掲一. 非契約者間の ﹃ 違 約 金 ﹄ 請 求 ︵ 生 田 ︶. 三七九. 二四頁︶. なお︑この法理による契約締結上の過失責任の基礎づけに関するドイツの学説に関しては︑池田清治・契約交渉の破棄. 正当化﹂. 神戸法学雑誌二八巻二号 ︵一九七八︶一二二頁参照︒シュトルはコ方的な給付約束による信頼惹起が︑特別の信頼責任の承認を. ︵19︶. ︵18︶. は︑. 的になる危険性がある︑ という理由から﹁違約金﹂の請求を否定しているにすぎない︵たとえば鉄道事業における割増運賃制度. の場合は︑ 本文に記したとおり︑契約ないし事実的契約関係を認めがたいこと︑司法的統制を経ていないことからその請求が恣意. 害賠償であると見てよいし︑ その実効性は評価されてよい︒実は︑本件の事例もこれと本質的には同じであると思う︒ただ︑本件. のような場合に︑ いちいち不当利得または損害の算定を要求することは非現実的である︒これもまた︑契約的手法による懲罰的損. ︵17︶. タル区間二対スル相当運賃及其∠ 一倍以内ノ増運賃ヲ請求スルコトヲ得﹂と定める︒. ︵16︶. 十川・ 前掲注︵7︶注釈民法二九九頁参照︶︒. あり ︑法的救済という面からより評価されてよいのではないか︵﹁駐車場事件﹂については︑神田・前掲注︵7︶一四頁および五. すなわち︑ 損害ないし不当利得額の算定が困難なことを理由に契約的手法︵事実的契約関係理論︶を用いたという点にその意義が. 所︶. 解が有力である ︵神田・前掲注︵7︶一六頁︑五+川・前掲注︵7︶注釈民法二九三頁︶.しかし︑BGH︵ドイツ連邦通常裁判. 15.

(12) 早法七四巻三号︵︼九九九︶ とその責任︵一九九七︶九三頁参照︒ ︵20︶奥田昌道・債権総論﹇増補版﹈︵一九九二︶ 七四頁︒ ︵21︶奥田・前掲注︵20︶九一頁.. 四 支払った﹁違約金﹂の返還請求の可否. 三八O. 以上の場合と異なり︑いったん︑被侵害者の請求に応じて侵害者が﹁違約金﹂を支払った場合に︑侵害者がこれ の返還の請求をすることはできるだろうか︵前掲bの事例︶︒. 前節において﹁違約金﹂を請求できる根拠はないことを検証した︒では︑請求権︵債務︶の不存在にも関わらず. 支払ったことは非債弁済にならないだろうか︒︵狭義の︶非債弁済となるためには﹁債務の存在しないこと﹂の不. 知が要件となる︵民法七〇五条参照︶︒しかし︑本件の場合︑仮に債務があると誤信して弁済しても返還請求はでき. ないと解すべきであろう︒なぜなら︑本件のYからXに対する返還請求は︑みずから違法な行為をしておきなが ︵22︶︵23︶. ら︑それによって相手方に生じた利益状態︵﹁違約金﹂の取得・保持︶を覆す行為と評価されるべきであり︑このこ とは信義則に反して許されないと解すべきであるからである︵﹁タリーンハンズの原則﹂︶︒. この場合の﹁違約金﹂の額は︑侵害者がみずからの違法行為の賠償金として任意に支払った以上︑斜酌されるべ. きでないだろう︒結局︑問題となるのは︑この﹁任意性﹂が欠けるとみなされる場合に限られよう︵たとえば︑脅 迫されて支払ったような場合︶︒.

(13) なお︑以上のような結論を採った帰結として︑たまたま﹁違約金﹂を支払った﹁誠実な﹂侵害者が﹁損﹂をし︑. これを払わない﹁不誠実な﹂侵害者が﹁得﹂をする︑という表面的には不公平な結果を将来しかねないかもしれな. い︒しかし︑このような不都合は︑たとえば︑不法原因給付︵民法七〇八条︶においても生じうるのであって︑こ の理由をもって本節の結論を否定することにはならないであろう︒. 五条によって弁済者から利得者に対する返還請求が封じられる根拠に関し︑四宮和夫・事務管理・不当利得︵一九八一︶一四六頁. ︵22︶新版注釈民法一巻︵一九八八︶九七頁︵安永正昭執筆︶参照︒すなわち︑民法七〇八条の趣旨と同じである︒なお︑民法七〇. なお︑この場合は物ではなく︑金銭であるから︑所有権の所在については詮索する必要はない︵物であればその所有権が反射. は︑信義則︵矛盾行為禁止原則︶によるものであるとする︒. 的に利得者に移転すると解さなければ弁済者からの所有権に基づく返還請求の余地を認めることになってしまう.この点につき四. ︵23︶. 宮・前掲注︵22︶ 一五四頁︒︶︒. 五 結びに代えて. 以上の考察から︑一応︑被侵害者は侵害者に対して積極的に﹁違約金﹂の請求はなしえないが︵つまり請求権は. 存在しない︶︑侵害者がいったん支払った﹁違約金﹂に関しては被侵害者による取得が正当化され︑返還の必要は ないという結論に達した︒. 結局︑現行法の体系を前提とする限り︑標記のテーマに関しては残念ながら消極的な結論とならざるをえず︑違. 三八一. 法行為の抑止というテーマからすれば︑幾分︑消化不良な結果といわざるをえない︒本件の場合︑従来の法的救済 非契約者間の﹃違約金﹄請求︵生田︶.

(14) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 三八二. 手段によっては抜本的な解決にはならない︒しかし︑本稿での検討で明らかになったように︑﹁違約金﹂請求は︑. 理論的・実際的理由から認めがたいのである︒よって︑これに代替する私法的な救済手段を探求しなければならな. いが︑さしあたり︑自力救済の要件を緩和するとか︵違法阻却の範囲を拡大する︶︑懲罰的損害賠償制度の導入およ. び簡易な利用を制度的に保障する︑ことなどによって解決するほかはないだろう︒. 本稿では︑日常︑しばしば見受けられる些細な光景を素材に一文を物してみた︒結論としてはあまりに平凡で拍. 子抜けのするものとなったが︑私人が侵害された権利を回復することの困難︑および真に利用可能な救済手段が欠. 如していることの指摘ができたとすれば幸いである︒法典においてはたしかに権利は存在する︑しかし︑それを実 現するのは至難の業である︒.

(15)

参照

関連したドキュメント

22 第108条〔酌量減軽〕

10 新築建売住宅 建築条件付土地 契約形態 土地建物売買契約 建築条件付土地売買契約+建築請負

害者が承諾ないしこれに基く行為者の行為によって追求した価値ある意思の実現が阻止される結果となる︒承諾の効

れるわけではない。

 第 2 は、会社法 385 条第 1 項で、これは旧商法 275 条ノ 2

ログイン後すぐに表示されるメインメニュー画面 ①契約者のお客様名とお客様番号が表示されます。

(18) その行為が前各号のいずれかに該当することを知りつつ、その行為を助長する態様または目的でリンク をはる行為

(18) その行為が前各号のいずれかに該当することを知りつつ、その行為を助長する態様または目的でリンク をはる行為