日本における医療機器の質の評価 ―回収・有害事 象分析―
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(2) 東京女子医科大学大学院医学研究科および 早稲田大学大学院 先進理工学研究科. 博士論文審査報告書. 論. 文. 題. 目. 日本における医療機器の質の評価 ‐回収・有害事象分析‐ Evaluation of Quality on Medical Devices in Japan - Analysis of Device Recalls and Adverse Events -. 申. 請. 者. 森. 清隆. Kiyotaka. MORI. 共同先端生命医科学専攻 治療機器臨床応用・開発評価研究. 2014 年 7 月.
(3) かつて技術立国と呼ばれ電子機器や自動車などの分野で世界をリードして きた日本においては、医療機器産業の活性度は必ずしも高くはない。現在国 内で使用される医療機器の多くが海外で設計・開発や製造された輸入品に頼 る状況である。さらに、その輸入品に関してもデバイスラグといった現象に よって諸外国と比べると最新の医療機器へのアクセスが遅れる状況が存在し て き た 。こ の よ う に 、最 新 の 医 療 機 器 が 日 本 で は 使 用 で き な い と い う 状 態 は 、 本邦における患者にとっては諸外国と比べて新しい治療が受けられない等と して問題視されてきた。近年、これらデバイスラグといった事象は、企業な らびに行政の前向きな取り組みによって解消の方向へと向かっているものの、 輸入依存やデバイスラグの問題が、日本における患者にとってどれ程の不利 益をもたらしていたのかについての検証は、これまであまり行われてきてい ない。一般的に、製品上市直後における不具合の頻度はその後の期間よりも 高い事が知られている。医療機器においては、使用者である医師の習熟度も 考慮されることから、導入直後における安全性リスクの高さはさらに助長さ れる可能性がある。従って、デバイスラグを伴いながらの輸入依存の状態は 患者にとっての安全性という視点からは、一概に否定されるものでは無いと いう考えもある。今日、日本発の医療機器の開発や新しい医療機器への早期 アクセスが望まれている。新しい医療機器への早期アクセスによって救われ る患者が存在する一方で、その事によるリスクもまた存在する。本論文は、 新しい医療機器への早期アクセスによるリスクを明らかにし、これまでに日 本がデバイスラグなどによって享受していた安全性の高さを明らかにする事 で、今後、デバイスラグの是正や日本発の医療機器開発によって日本の患者 が受容してゆくであろうリスクの提示を行うものである。 本 論 文 は 5 章 で 構 成 さ れ て い る 。第 1 章 で は 、本 論 文 の 背 景 に つ い て 述 べ 、 次の二つの仮説の提示を行っている。一つ目の仮説は「日本における医療機 器 の 質 は 、米 国 と 比 較 し て 良 好 に 保 た れ て い る 」で あ り 、二 つ 目 の 仮 説 は「 日 本はデバイスラグによって安全性を享受している」である。これら二つの仮 説について、本論文を通じて検証を行っている。 第 2 章では、日本における医療機器の回収の動向を明らかにしている。回 収とは医療機器の安全性、有効性、品質に問題のある製品を市場から一掃す る シ ス テ ム で あ る 。は じ め に 回 収 ク ラ ス と 医 療 機 器 ク ラ ス 分 類 の 相 関 を 示 し 、 例外を除いては両者のクラス分類が機能している事を明らかにしている。日 本における医療機器の回収においては、不具合の原因の半数以上が製造原因 で あ る 事 と 比 較 し 、自 動 車 産 業 に お い て は 設 計 原 因 が 多 い 点 が 対 照 的 で あ り 、 産業間での違いについても明らかにしている。医療機器は、自動車産業に比 べて多品種少量生産型であると考えられるが、この事が不具合原因の違いに 現れており、医療機器の製造技術、製造管理における課題を示唆している。 今回の対象品目においては医療機器の製造国は米国が多く、品質に関して日 本側から関与は困難である。日本においては、製造販売業者による的確な情 報収集による製造業者へのフィードバックによって是正措置を促す事が日本 . No.1.
(4) における安全性の向上への貢献手段であると考察している。また、米国で製 造された医療機器の不具合は、製造業者による発見が多く、日本の臨床現場 での不具合事象に至る前に回収に至っている事から米国の品質管理が機能し ている事を示唆している。本章の結果より、日本においては医療機器産業の 創出へ向けた活動が行われているが、今後の産業活性化へ向けて医療機器の 品質をマネジメントする能力が一つの要であると考察している。 第 3 章では、本研究の仮説①「日本における医療機器の質は、米国と比較 して良好に保たれている」についての検証を行っている。仮説の検証には日 米における回収頻度の比較を用いている。その結果として、日本における医 療機器の回収頻度は米国と比べて低い事を明らかにしている。この事から日 本における医療機器の質(有効性・安全性・品質)は米国と比べて良好に保 たれている事を示唆している。また、日米間の回収ラグを初めて明らかにし ており、例外を除いては日米間には回収ラグが殆ど存在しないことを示して いる。更に、同一の品目での回収において、日米間で回収のクラス分類に不 一致が存在するケースがある事を明らかにしている。今回の結果の考察とし て、初期故障率が高いと考えられる革新的な製品の割合が米国においては高 い事が、回収頻度による評価において俯瞰的な医療機器の質に影響を及ぼし ていると考察している。そして日本では革新的な医療機器開発が少ない事に 加えデバイスラグやデバイスギャップによって初期故障のフェーズを免れて いる可能性を考察として挙げている。 第 4 章では本研究の仮説②「日本はデバイスラグによって安全性を享受し ている」についての検証を行っている。仮説の検証には、米国規制当局が収 集・公開する有害事象報告を参照し、患者あたりの有害事象報告件数の経時 変 化 を 用 い て い る 。 C y p h e r T M ス テ ン ト と PA R A D Y M T M 植 込 み 型 除 細 動 器 の 2 品目による検証を行い、いずれの品目においても日本導入前よりも後の方 が植込み患者あたりの有害事象報告件数は少ない事を明らかにしている。 CypherTM ス テ ン ト の 植 込 み 生 存 患 者 あ た り の 有 害 事 象 報 告 件 数 の 年 推 移 グ ラ フ は Death、 Injury、 Malfunction の い ず れ の 項 目 で も バ ス タ ブ 曲 線 と 形 状が類似している。この結果は仮説②を支持するものと考察している。医療 機器としての製品ライフサイクルにおいて、これまで日本においては世界の 中で比較的後期での導入という結果を辿ってきた。この事はデバイスラグと して問題視され、近年では解消の方向へ進んでいる。その一つの事例として 世 界 初 の 末 梢 動 脈 疾 患 治 療 用 薬 剤 溶 出 型 ス テ ン ト Zilver PTXTM の 例 を 挙 げ て い る 。こ の 製 品 は 米 国 よ り も 日 本 に お け る 承 認 が 1 0 ヶ 月 先 行 し て い る が 、 日米での上市後に世界的なクラスI回収が実施されている。有害事象報告件 数 の 推 定 で は 46%もの事 象 が日 本 において発 生 した事 になり、回 収 数 量 においても 日 本 は米 国 の 3.8 倍 にも上 っている。これによりデバイスラグ解 消 によって今 後 日 本 に おいて受 容 するリスクを事 例 として提 示 している。一 方 で 、 本 章 で は リ ス ク の 観 点 か らのデータ提示を行っているが、諸外国においては日本と比べて早期に革新 的な医療機器へのアクセスが可能で、それによって救われた患者が多く存在 . No.2.
(5) している事にも言及しており、早期アクセスがもたらすベネフィットについ て認めている。 第 5 章では本論文のまとめとして総括を行っている。近年、企業や行政に よるデバイスラグの解消への取り組みによって新しい医療機器への国内での 早期アクセスが可能となっており、日本発の医療機器の開発も活性化し始め ている。そのことが日本における患者にとってどれだけのベネフィットとリ スクをもたらすのか、これまで意思決定を行うためのデータは十分示されて いなかった。本論文により、日本はこれまで医療機器開発後進国であること で、国内での医療機器の良好な質(有効性・安全性・品質)を維持していた 事が明らかとなり、医療機器の上市にあたっては上市初期において有害事象 の発生が多い事を示して、新しい医療機器への早期アクセスによるリスクを 明らかにすることに意義を見出している。さらに、提言として、患者にとっ てより良いレギュラトリーシステム構築のために、医療機器個々のリスクと ベネフィットのみならず、社会システムとしての規制のリスクとベネフィッ ト評価の継続を挙げている。最後に、日本の医療機器産業の取るべき選択と して、日本は国際社会の一員として応分のリスクを取って医療機器の早期開 発を行うべきであり、日本の産業、日本における患者のためだけでなく、世 界中の患者へ貢献するために日本がリスク受容を行うという選択肢と、日本 の国民性、経済規模、開発インフラ等から鑑みて、後発医療機器に特化し適 度なデバイスラグを許容し続ける事で、安全性を享受し、膨大な新医療機器 開発コスト負担を避けて日本の医療の持続性を図るという選択肢を提示して いる。本研究は、今後の日本の革新的医療機器開発の意志決定における判断 材料をもたらしたことで、社会に寄与するものであり、意義のある研究と言 える。 以上より、本論文は博士(生命医科学)の学位論文として価値あるものと 認める。. 2014 年 3 月 (主査)早稲田大学教授, 医学博士(東京女子医科大学). 伊関. 洋. 有賀. 淳. 早稲田大学客員教授, 東京女子医科大学教授 博 士 ( 医 学 )( 東 京 女 子 医 科 大 学 ) 早稲田大学教授 博 士 ( 工 学 )( 早 稲 田 大 学 ). . No.3. 岩崎清隆.
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