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平成23年度問題別研究会資料|牛における人工授精の現状と今後の研究展開

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平成23年度 問題別研究会

牛における人工授精の現状と今後の研究展開

独立行政法人

 

 農業・食品産業技術総合研究機構

畜 産 草 地 研 究 所

平成23年10月24−25日

畜産草地研究所 平 23 −1 資   料

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目   次

開 催 要 領 牛人工授精の現状 1)大家畜生産技術向上対策事業(牛受胎率改善対策事業)における        受胎率向上に関する取り組み結果の概要・・・・・・・・ 酪農学園大学酪農学部  堂地 修 2)生産現場における肉用牛の受胎率に関するアンケート調査結果から・・・・・・・・・・・ 1畜産草地研究所・2九州沖縄農業研究センター・3農林水産省 農林水産研修所 吉ざわ 努1,3・平子 誠1・下司雅也1・高橋昌志2・永井 卓1 3)人工授精の現場の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北海道家畜人工授精師協会  石塚隆司 4)牛選別精液の子宮角内深部注入による人工授精 ( 野外事例 )・・・・・・・・・・・・・・・ リプロ・ETサポート  砂川政広 5)人工授精用牛 X,Y 精子の選別・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 信州大学農学部  濱野光市 特別講演 1)動物保護の歴史と動物実験のあり方~欧米と日本の比較から・・・・・・・・・・・・・・ 東京財団  橳島次郎 牛人工授精における低受胎に関する今後の研究展開 1)乳牛における歩数計を用いた発情検出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北海道農業研究センター  坂口 実 2)精漿成分による牛の子宮機能調節・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 酪農学園大学獣医学部  片桐成二 3)独立行政法人家畜改良センター新冠牧場における排卵同期化    発情同期化を活用したホルスタイン種の人工授精の成績について・・・・・・・・・・・ 家畜改良センター新冠牧場  木村嘉孝 4)機能性サプリメントを活用した栄養管理の高度化による        高泌乳牛の繁殖性改善技術の開発・・・・・・・・・・・ 畜産草地研究所  平子 誠 5)雌を妊娠させやすい雄牛の評価と新規精液凍結法による        繁殖性向上技術の開発とその実証・・・・・・・・・・・ 畜産草地研究所  渡辺伸也 参考資料 1)家畜改良目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 農林水産省 1 2 7 10 14 17 19 23 27 31 34 37

(3)

平成 23年度問題別研究会「牛における人工授精の現状と今後の研究展開」

-開催要領- 1. 開催趣旨  近年、欧米先進国やわが国では牛の人工受精における低受胎が問題となっているが、有性生殖動物 である牛の受胎率向上のためには、雌雄両側からのアプローチが必要である。そこで、牛の人工授精 に関する現状を再確認すると同時に、低受胎の発生要因を取り除くため、今後、取り組んでいくべき 雌雄の研究展開の方向性を議論する。併せて、これまでの問題別研究会等において問題提起されてき た家畜繁殖領域における生命に関する研究の高度化に伴う研究内容と市民感覚との乖離の克服を目指 した議論も行う。これらによって、牛の受胎率低下の研究に取り組む研究者にとって有用な情報を提 供する。 2. 開催日時 10 月 24 日(月)13:00 ~ 17:15        10 月 25 日(火) 9:00 ~ 11:40 3. 開催場所 日本教育会館(東京都千代田区一ツ橋 2 ‐ 6 ‐ 2) 4. 主  催 畜産草地研究所 5. 内 容 第 1 日目 10 月 24 日(月)   挨  拶   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13:00 - 13:15   テーマ:【牛人工授精の現状】 (1) 新しい家畜改良増殖目標と牛の受胎率について 13:15 - 13:30    農林水産省生産局  大藪武史 (2) 牛の人工授精における受胎率の調査  ①大家畜生産技術向上対策事業(牛受胎率改善対策事業)における    受胎率向上に関する取り組み結果の概要        13:30 - 13:50 酪農学園大学酪農学部  堂地 修 ②生産現場における肉用牛の受胎率に関するアンケート調査結果から 13:50 - 14:10    畜産草地研究所  下司雅也 (3) 牛の人工授精現場における最新動向  ①人工授精の現場の問題           14:10 - 14:30 北海道家畜人工授精師協会  石塚隆司 ②性判別精液を用いた牛の人工授精   ア.牛選別精液の子宮角内深部注入による人工授精 ( 野外事例 ) 14:30 - 14:50        リプロ・ETサポート  砂川政広   イ.人工授精用牛 X,Y 精子の選別   14:50 - 15:10 信州大学農学部  濱野光市 (休  憩)

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(4) 特別講演   動物保護の歴史と動物実験のあり方~欧米と日本の比較から     15:30 - 16:15         東京財団  研究員  橳島次郎 (5) 総合討論   16:15 - 17:15   第 2 日目 10 月 25 日(火)    テーマ:【牛人工授精における低受胎に関する今後の研究展開】 (1) 牛の人工授精時の受胎率を高めるための研究取組  ①乳牛における歩数計を用いた発情検出           9:00 - 9:20     北海道農業研究センター  坂口 実  ②精漿成分による牛の子宮機能調節      9:20 - 9:40   酪農学園大学獣医学部  片桐成二  ③独立行政法人家畜改良センター新冠牧場における排卵同期化・発情同期化を 活用したホルスタイン種の人工授精の成績について 9:40 - 10:00 家畜改良センター新冠牧場  木村嘉孝 (休  憩) (2) 実用技術事業を活用した牛の人工授精の受胎率を改善するための研究取組  ①機能性サプリメントを活用した栄養管理の高度化による高泌乳牛の繁殖性改善技術の開発          10:20 - 10:35 畜産草地研究所  平子 誠  ②雌を妊娠させやすい雄牛の評価と新規精液凍結法による繁殖性向上技術の開発とその実証                 10:35 - 10:50       畜産草地研究所  渡辺伸也 (3) 総合討論       10:50 - 11:35 (4) そ の 他 11:35 - 11:40 閉  会               11:40 6. 参集範囲 農林水産省生産局、地方農政局、農林水産技術会議事務局、独立行政法人試験研究機関、        都道府県試験研究機関・行政機関・指導普及機関、大学、民間企業等 7. 事 務 局 農研機構 畜産草地研究所 企画管理部 業務推進室 運営チーム 〒 305-0901 茨城県つくば市池の台2  Tel:029-838-8593( 直通)Fax:029-838-8606

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大家畜生産技術向上対策事業(牛受胎率改善対策事業)における

受胎率向上に関する取り組み結果の概要

酪農学園大学

堂地 修

大家畜生産技術向上対策事業(牛受胎率改善対策事業)における受

胎率向上に関する取り組み結果の概要

酪農学園大学

堂地 修

本事業は牛の繁殖成績の低下傾向に歯止めをかけ、全国の受胎率を50%に回復させるこ とを目標として平成20年度から22年度までの3年間実施された。北海道の道北に位置するA およびB地区をモデルとして平成17年度から平成21年度までの農家別の受胎率を調査した。 また、本事業では現地の酪農家および人工授精技術者を対象とした研修会も実施し、繁殖 成績に影響を与える重要管理点を定め、それをチェックするシートを作成した。 A地区(酪農家8戸)の平均初回受胎率は、平成17年度39.3%、平成18年度42.3%、平成 19年度43.7%、平成20年度44.2%、平成21年度46.4%で、当初はA地区が位置する町内、支 庁管内および全道平均より低かったが、平成21年度にはほぼ同じ値にまで上昇した。B地 区(酪農家7戸)の平均初回受胎率は、平成17年度41%、平成18年度39%、平成19年度34 %、平成20年度37%、平成21年度32%で、B地区が位置する町内、支庁管内および全道平 均より低く推移した。特に平成21年度は急落した。これは長雨等の天候不良に伴う粗飼料 の品質低下の影響が大きいと考えられた。 AおよびB地区とも、酪農家別の受胎率の推移はさまざまであった。年度を追うごとに 受胎率が上昇する農家、徐々に低下する農家、および変動しない農家がみられた。しかし、 ほぼ毎年度50%以上の受胎率を確保している多頭数飼養農家もみられた。また、A地区の 平均総受胎率は88%で、B地区は85%であった。総受胎率においても農家間の差は大きく、 ほぼ毎年度90%以上を確保している農家もみられた。 以上より、本事業で実施した受胎率調査では、地区による差、農家による差がみられた。 今後、受胎率の向上を図るためには、本事業で作成した重要管理チェックシート等を活用 し、農家および人工授精技術者の双方に対して、各地域の酪農経営体系に適合した技術支 援体制を充実させる必要があると考えられた。

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- 2 -

生産現場における肉用牛の受胎率に関するアンケート調査結果から

(1)

(独)農研機構 畜産草地研究所

(2)

(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター

(3)

現所属:農林水産省 農林水産研修所

吉ざわ 努

(1,3)

・平子 誠

(1)

・下司 雅也

(1)

・高橋 昌志

(2)

・永井 卓

(1)

生産現場における肉用牛の受胎率に関するアンケート調査結果から

吉ざわ 努(1,3)・平子 誠(1)・下司 雅也(1)・高橋 昌志(2)・永井 卓(1) (1)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 (2)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター (3)現所属:農林水産省 農林水産研修所 【目的】 わが国では、乳用牛及び肉用牛のほぼ100%が凍結精液を用いた人工授精によって繁殖して いる。このような状況の中、近年、牛の人工授精による受胎率が低下している(図1)。受胎率の 低下は、空胎期間の長期化につながり、生産性を低下させ、農家の収益に直接影響する大きな問 題となっており、その解決が急務である。しかし、牛の受胎率低下にはいろいろな要因が複雑に 関与していると考えられることから、まず、その要因および研究・技術開発要素を抽出し、それ らに対する明確な対策を考えた上で、生産現場で活用できる技術を確立しなければならない。そ こで、受胎率低下の原因を明らかにするために、和牛繁殖農家、家畜人工授精師・獣医師を対象 とした人工授精及び受胎率に関するアンケート調査を実施した。 図1 初回受胎率の推移(家畜改良事業団:平成19年度受胎成績より) 45 50 55 60 65 70 元年 2年 3年 4年 5年 6年 7年 8年 9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年 18年 19年 年次(平成) 受 胎 率 ( % ) 乳用牛 肉用牛 【材料および方法】 アンケート調査は、社団法人畜産技術協会が実施する平成20年度「民間活力を活用した畜産 技術開発事業」の支援を受け、農家(和牛繁殖農家)、技術者(家畜人工授精師・獣医師)を対象 に実施した。 調査は、九州・沖縄各県の畜産関係試験研究機関に趣旨を説明し、各県が対応できる方法での アンケートを依頼した。調査の方法は、郵送、戸別訪問、関係者が集まる講習会などを活用し、 具体的な対応は各県に一任した。

(8)

調査時期:平成20年8月~10月 調査地域:九州・沖縄8県 調査対象:和牛繁殖農家約800戸、家畜人工授精師・獣医師約300名とした。 平成21年3月の日本畜産学会第110回大会では、乳用牛および肉用牛について、種付きが 悪くなっている実感があるか、発情兆候が弱くなっているかなど、発情に関する直接的事項につ いて農家、技術者の回答を分析し、技術者の約2/3、農家の約1/2は発情兆候が弱くなって いると感じていることから、牛における生理的変化の可能性を示唆した。 更に平成21年10月の肉用牛研究会では、農家を和牛繁殖農家に限定し、さらに項目を「種 付きが悪くなっている実感があるか」、「発情兆候が弱くなっているか」に絞り、農家の経営形態 による違いを明らかにするため、飼養規模、主専従者の年齢、繋養方法、給餌方法、粗飼料の自 給といった飼養環境との関係を検討した。 ここでは、肉用牛研究会で報告した調査結果に加え、現地調査で行った聞き取り調査から、受 胎率に関連があると考えられる項目について報告する。 【結果と考察】 Ⅰ アンケート調査から 1 「飼養規模と種付き、発情兆候との関係」については、飼養規模が小さい農家(繁殖雌牛9 頭以下)の方が、種付きが悪くなっている、発情徴候が弱くなっていると感じる傾向が強いこと が示された。わが国の和牛繁殖農家の多くが9頭以下の飼養であることを考えると、小規模農家 における対策が受胎率向上のためには重要であると考えられた(表1)。 2 「主専従者の年齢と種付き、発情兆候との関係」については、50~59歳で、発情兆候が 弱くなったという回答が多い一方、種付きは悪くなっていないという回答が多いなど相反する状 況であった。主専従者の年齢については、後継者の有無とも関係しており、更なる検討が必要で はないかと考えられた(表2)。

(9)

- 4 - 3 「繋養方法と種付き、発情兆候との関係」については、群管理(フリーストール、群飼)の 方が単独管理(個別単房、繋ぎ)よりも発情兆候が弱くなったという回答が少なく、判定に熟練 を要する鳴き声、粘液、行動等で発情を確認せざるを得ない単独管理の方が、スタンディング発 情を確認できる群管理より発情兆候の微弱化を感じているという結果となった(表3)。 4 「給餌方法と種付き、発情兆候との関係」については、繋養方法と同様に、群で飼料を給与 する方が、発情兆候が弱くなったという回答が少なく、発情兆候を発見しやすいことが示された。 また、種付きが悪くなったという回答も群飼の方が少なかった(表4)。給餌作業の際に発情観察 を行う農家が多く、牛を放す際に確認しやすいなど、群飼にメリットがあると考えられた。 5 「粗飼料自給の程度と種付き、発情兆候との関係」については、粗飼料を完全自給している 農家の方が購入している農家に比べて、種付きは悪くなっていない、発情兆候も弱くなっていな い、という回答が多かった。この理由については、粗飼料を自らの手で生産、調達しようとする 意欲が結果として表れているなど、正の要素と、輸入粗飼料の品質の安定性、価格高騰による給 与量の節減など、負の要素が考えられるが、今後、技術的な検証が必要である(表5)。

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Ⅱ 現地調査から 1 現地調査の概要 現地調査は、平成21年2月にアンケート調査結果を踏まえ、アンケート調査の主要なテーマ である、種付けが悪くなっているか、発情兆候が弱くなっているかについて、種付けが悪くなっ ている、発情兆候が弱くなっていると回答があった和牛繁殖農家、酪農家、家畜人工授精師・獣 医師を中心に、アンケート調査の実施を依頼した窓口機関に調査先の選定を依頼し実施した。 調査先は、4県で、延べ和牛繁殖農家25、酪農家3、家畜人工授精師・獣医師7であった。 2 調査結果から ○発情の発見は飼養者の都合ではなく、牛の気持ちになって 朝牛舎に行ったとき、餌を与えるのではなく、まず、発情の監視を行うこと。餌を与えてしま うと、餌に夢中になってしまい、発情の徴候を示していても、餌の方に関心が行ってしまう。乗 駕行動で発情発見を行う場合は、特に気をつける必要が有る。一通り牛の行動を監視したら、餌 を与え、今度は牛の後ろから粘液などの発情を示す状態を監視する。これを朝晩繰り返す。 ○人工授精の依頼は家畜人工授精師・獣医師の立場に立って 「農家から発情しているので診てほしいという連絡があり、農家に行ってその牛を診ると、2 ~3割は発情ではない。(空振り)」という家畜人工授精師からの聞き取り。 農家は直腸検査をする必要はないが、発情の見方が甘かったり、家畜の番号を間違えたり、い ろいろな要因が考えられる。多くの家畜人工授精師から同じようなコメントがあったことを考え ると、何らかの対応が必要と考える。 (対応) ・発情の行動と外陰部の状況を合わせて判断する。 ・記録を残し、前回の種付け記録や分娩記録徒との比較を行い、判断する。 ・家畜人工授精師への報告(連絡)の際も、家畜の番号、状況(どのような行動、状況か)、前 回の発情や種付けの時期など、報告項目をあらかじめ整理し、授精師に説明するとわかりやすい とのこと。わかりやすく報告(連絡)、状況が説明できる農家ほど受胎率が高いようです。 記録を付けることは受胎率の向上には重要な要因です。 ○和牛繁殖農家は兼業農家が多いことにも要因があると考えられる 和牛繁殖農家は兼業農家が多く、忙しい稲の収穫時期には受胎率が下がるそうです。じっくり

(11)

- 6 - 牛の行動を診ることが重要です。 稲の収穫時期は、暑い夏が過ぎこれから涼しくなる時期ですから、この時期に受胎を逃すのは 経済的にも損出が大きい。 また、酪農家でも、牧草を栽培、自給飼料を確保する農家が増えている状況で、収穫時期には 受胎率が下がるようです。 常日頃から発情や人工授精の記録をつけることは、これらの損出をカバーすることができると 考えられる。 【まとめ】 今回は、飼養環境と種付き、発情兆候の良否との関係について検討し、飼養頭数、繋養方法、 粗飼料自給の程度と種付き、発情兆候についての意識に特定の傾向が見られた。また、現地調査 の結果から、牛のサイドに立った発情の発見、記録を付けることと利用すること、家畜人工授精 師・獣医師との信頼関係の構築など家畜の飼養管理の基本といえる事項を重視し日頃から励行す ることが重要であると整理された。受胎率を向上させるためには、農家の飼養形態による差を認 識するとともに、高齢化や兼業化が進んだ飼養頭数の少ない農家について、発情発見方法を指導 するなど、農家、技術者、指導者が互いに信頼関係を築き、一体となっての飼養管理における基 本事項の励行ときめ細かい取り組みの必要性が示唆された。

(12)

人工授精の現場の問題

      

北海道家畜人工授精師協会副会長

石塚 隆司

人工授精の現場の問題

北海道家畜人工授精師協会副会長

石塚 隆司

1.はじめに 近年、乳牛の人工授精成績に於いて、受胎率の低下が問題になっている。その原因は不明な ところが多く依然として毎年低下傾向にある。そこで今回その一因を知るため、特に農家と授 精技術者の現状について、北海道家畜人工授精師協会の数支部開催の意見交換等と関係協会の 調査およびデータをもとに考察したので報告する。 2.調査方法 平成23年8月25日に開かれた上川、留萌、宗谷支部で構成される道北三地区連絡協議会 のパネルディスカッションでの意見交換、同年8月26日に開催された、根室支部役員会での 検討意見、同年9月、北見支部が集めたオホーツクNOSAIの各家畜診療所(授精所)の意 見、釧路支部の会員の意見等、平成22年に北海道家畜人工授精師協会が調査した牛の受胎率、 同年の北海道酪農検定検査協会が調査した分娩間隔を基に考察した。 3. 結果 受胎するための条件は、1).精液の性状、2).農家および牛の状況、3).技術者の状況 が良好である必要がある。 1).精液の性状については、融解温度や、衛生的な作業には細心の注意を払い取り扱って いることがうかがえる。また、種雄牛別受胎率調査を実施して、低受胎種雄牛の除外をしてい る地域もある。 2).農家の状況は、①多頭化による精神的、肉体的な余裕不足、②天候不順による良質粗 飼料の不足、③粗飼料の保管場所の不備。④農家の世代交代、⑤農家の飼養管理技術の格差等。 牛の状況は、①発情がはっきりしないため、授精しても妊娠鑑定するまで発情が分からない、 ②分娩後、子宮が回復しない、③周産期病などの増加。④薬剤の多用。 3).技術者の状況は、①広域合併や統合による、往診距離、授精頭数の増加、②事務処理 の多忙化、③新卒者の産業動物離れ、④授精業務受付時間の延長、⑤一部の地域で、組織間の 連携の不備などが挙げられる。 初回授精受胎率と分娩間隔のグラフを見ると、初回授精受胎率は低いが分娩間隔の短い支部 がある(図-1)。経産牛の初回授精受胎率の高い日高支部と低い宗谷支部を例に取り、平均 授精回数を比較すると、日高支部では1.88 回、宗谷支部では 2.51 回(表-1)。また、その支 部の中で、初回授精受胎率の高いA(日高支部)授精所は、1.87 回、低いB(宗谷支部)授精 所では、3.03 回となっている。(表-2)

(13)

- 8 - 4.考察 農家の問題としては、多頭化による発情発見の見逃しや遅れ、余裕の無さから授精時に畜主 が不在なため、授精技術者が牛の状態を聞けない場合も多くなっている。また、牛の問題とし て、近年の高泌乳化に飼養管理が追いつかず、無発情や微弱発情などの繁殖障害が増加し、P GやCIDRなどの薬剤の多用化傾向にある。また、授精技術者側の問題としては、広域合併 による、往診距離、授精頭数の増加、非効率地域の存在、授精受付時間の延長、業務煩雑化等 により多忙化してきている。このような事から適期授精が難しくなってきている。 そこで、近年の受胎率低下の原因のひとつとして、早期授精開始や、積極的授精の影響が関 わっているのではないかと考え、今年、北海道家畜人工授精師協会が会誌に毎年掲載している 同協会が調査した支部の受胎率と、北海道酪農検定検査協会の分娩間隔をグラフ化し、各支部 の受胎率と分娩間隔の比較をした。その結果、初回授精受胎率の低い宗谷支部の分娩間隔が他 支部に比べ短い事が視覚で捕らえる事ができた(図-1参照)。また、北海道乳用牛人工授精 実施成績を更に調査を進めると、平均授精回数において宗谷支部が 2.51 回、初回授精受胎率 の高い日高支部では、1.88 回となっている(表-1 参照)。その中で更に授精所の比較をする と、初回授精受胎率の高いA(日高支部)授精所は、1.87 回、低いB(宗谷支部)授精所では、 3.03 回となっている(表-2参照)。 分娩間隔が短いにも関わらず、平均授精回数が多いのは、受胎までに多くの授精を実施して いるということである。前出の農家の状況、牛の状況を考えると、授精技術者は積極的早期授 精を選択せざるを得ない状況の中にあり、授精回数が増える傾向にあるものと考えられる。そ の結果、初回授精受胎率が低くなる傾向にあることが示唆された。 5.おわりに 今回の調査の中で、非常に厳しい状況の中で、農家経済を考慮し分娩間隔をできるだけ短く するために、現場の授精技術者は奮闘している様子が伺えた。今後、授精開始の時期の検討や 授精実施の選択など考慮すれば初回授精受胎率は上がって来ると思われるが、そのためには、 現在の農家や牛の状況また、精液の性状が変わらなくては実施困難である。 現場担当者としては、より良い飼養管理技術の確立、改良効果のみならず生存時間の長い精 液の開発を待ち望むところである。

(14)

- 9 -

表-2 平成22年 2授精所の比較

技術者数 総 授 精 授精 実 頭 数 延頭数 平均 受胎頭数 妊否不 総受 所名 A V 区分 回数 明頭数 胎率 A F1 B B/A C*1 F1 D*2 C/(A-D) A 未 526 342 783 1.49 508 329 3 97.1% 3 経 1,912 276 3,574 1.87 1,756 252 41 93.9% 計 2,438 618 4,357 1.79 2,264 581 44 94.6% B 未 1,834 1,119 3,338 1.82 1,555 1,104 129 91.2% 9 経 6,540 660 19,848 3.03 5,411 649 550 90.3% 計 8,374 1,779 23,186 2.77 6,966 1,753 679 90.5%

【平成

22年】分娩間隔と初回授精受胎率の推移(経産)

428 428 430 452 439 430 430 428 424 426 429 428 424 436 439 36.1 40 37.6 41.8 32.5 35.3 37 47.1 52.5 58.8 46.2 31.5 37.1 37.1 38.4 410 415 420 425 430 435 440 445 450 455 全道 檜山 渡島 後志 胆振 日高 石狩 空知 上川 留萌 宗谷 北見 十勝 釧路 根室 日 数 0 10 20 30 40 50 60 70 分娩間隔 初回授精受胎率 1 1 C/(A-D) 13 3 4,869 648 9,153 4,379 593 108 92.0% 5 45 12,155 1,603 26,541 2.18 9,904 1,306 588 85.6% 17 8 13,804 989 29,221 2.12 11,302 763 194 83.0% 42 31,985 2,155 80,418 26,655 2,029 1,043 86.1% 365 419 371,415 27,485 777,636 2.09 297,630 21,996 15,787 83.7% 526,127 108,665 1,034,164 1.97 434,946 94,375 18,849 85.7% 1 1 C/(A-D) 526 342 783 1.49 508 329 3 97.1% 1,912 276 3,574 1,756 252 41 93.9% 2,438 618 4,357 1.79 2,264 581 44 94.6% 1,119 3,338 1.82 1,555 1,104 129 91.2% 660 19,848 5,411 649 550 90.3% 1,779 23,186 2.77 6,966 1,753 679 90.5% 図-1 1.88 2.51 1.87 3.03

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- 10 - 1

-牛選別精液の子宮角内深部注入による人工授精(野外事例)

リプロ・

ET サポート

砂川

政広

1. はじめに 牛の人工授精において性選別精液(選別精液)を使用することで雌あるいは雄を選択的に 生産できるようになりました。これは畜産農家からの特に要望が強かった技術であります。 選別精液は、国産のものは 2007 年 2 月から、外国産のものは 2006 年 10 月から販売さ れ野外に供給されています。 社団法人家畜改良事業団(LIAJ)では選別精液の流通に先立ち野外試験を実施しました。 その結果、ホルスタイン種経産牛の受胎率が同未経産牛に比べ有意に低下(34.7%対 52.1%) し て いた こ と から 、LIAJ では選別精液を未経産牛に利用することを推奨しています。し かし、野外では能力、体型既知の面から、また難産回避の手段からもホルスタイン種の選 別精液を経産牛に利用できればより有効と考える畜産農家、技術者が少なくないと考えら れます。実際、LIAJ がとりまとめた~性判別精液を用いた人工授精事例集~(2010 年 3 月) によると、調査場所 13 箇所中 11 箇所では経産牛にも利用され、なかには未経産、経産牛 の区分なく利用している場所もあります。これによると受胎率は多くのところが概ね 30% 程 度 と答 え て おり 、LIAJ の野外試験と同様の結果となっています。したがって、現在、 経 産 牛 に お け る 受 胎 率 向 上 へ の 取 り 組 み を 行 っ て い る 人 工 授 精 実 施 機 関 も 多 い と 考 え ら れ、第 39 回家畜人工授精優良技術発表全国大会では受胎率向上のための調査や工夫が発 表されています。演者は同様の観点から、ホルスタイン種の過剰排卵誘起発情およびシダ ーシンク法の定時授精に選別精液を子宮角内深部に注入していますが、これらの成績につ いてご紹介いたします。 2. 子宮角内深部注入の取り組み 演者はホルスタイン種および黒毛和種からの受精卵採取を主な業務としております。年 間に依頼されるホルスタイン種の採卵頭数は非常に少ないのが現状ですが、選別精液を利 用する採卵が大半となっております。流通当初の頃にも選別精液を使用した採卵を実施し ましたが思うような成績は得られず、1採卵当たり 5、6 本のストローを使うことも奨められ ました。しかし、これでは農家の負担が増し、実用技術に成りにくく、農家からの依頼も 殆どありませんでした。そんな中、乳牛改良に熱心な酪農家から選別精液での採卵を依頼 され、気重なまま引き受けたところ、同酪農家さんから「受精卵移植に使われている深部 注入器で授精するといいらしいよ」との情報を得ました。そこで移植用の深部注入器を使 った選別精液の授精を初めて行いました。以後数例の採卵を重ねても、未受精卵率が特に 高いということもなく、正常卵率は安定していました。このことから、子宮角内深部注入 は選別精液の通常授精にも効果が期待できる考えられ、一酪農家にお願いし、現在、当該 農家が行っているシダーシンク法の定時授精で試しています。また、自ら授精を行ってい る酪農家の後継者らに選別精液の深部注入に取り組んでもらいました。選別精液の子宮角 内深部注入は動物用受精卵注入カテールモ 4 号(ミサワ医科工業製)で行っています。器材

牛選別精液の子宮角内深部注入による人工授精(野外事例)

リブロ・ET サポート

砂川政広

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の構造および注入部位は図1、2 に示したとおりです。 1) 採卵成績 選別精液を深部注入したホルスタイン種の採卵は経産牛および未経産牛でそれぞれ延べ 12 頭、8 頭について行いました。注入時期は発情兆候が発現してから 20 ~ 24 時間としま

動物用受精卵注入カテーテル

4

435

155

深部注入用

418

通常授精用

590

(ミサワ医科工業)

1 深部注入器の構造

外側分岐部

内側分岐部

雌選別精液

通常精液

2 選別精液と通常精液の注入部位

深 部 注 入 用

通 常 受 精 用

雌 選 別 精 液

通 常 精 液

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- 12 - 3 -した。選別精液は国内産 3 種類、外国産 9 種類を使いました。成績は表 1、2 に示したと おりでした。 経産牛および未経産牛における選別精液と通常精液の正常胚率は同程度であり、経産牛 の平均未受精卵率は選別精液が 24.4% で通常精液(31.2%)よりも高いということはなく、 この傾向は未経産牛(14.5% vs 15.1%)でも同様でありました。また、個体毎の成績では、 選別精液を使って採卵した全頭において正常胚が回収でき、最も多い正常胚数はそれぞれ 19 個、13 個でした。本来、野外データー収集において選別精液の子宮角浅部注入の成績 があれば、深部注入の有効性が証明できた思いますが、深部注入を実施した最初の数例の 成績に満足し、浅部注入を実施することはできませんでした。 2) シダーオブシンク法における受胎成績 シダーシンク法(CSy)の定時授精に選別精液の子宮角内深部注入を適応したホルスタイ ン種の概要と受胎成績はそれぞれ表3、表 4 のとおりです。選別精液の受胎率は 50%(17/34) で、 同時期 に実施した CSy における通常精液の子宮体~角浅部に授精した成績との比較 で後者がやや高い(55.3%)ものの有意な差は認められませんでした。 選別精液の種類は LIAJ のホルスタイン種雌精液を 3 種類、同団の黒毛和種雄精液を 1 種類使用しましたがそれぞれの受胎性に大きな違いはありませんでした。 3)深部注入を取り入れ始めた人工授精師および酪農後継者らの受胎成績 酪農後継者 3 人、人工授精師 1 人、獣医師 1 人にホルスタイン種経産牛へのモ 4 号によ る深部注入を奨めましたが、現在までの成績は表5 に示したとおりです。 回収卵数 正常胚数 % 雌選別精液 11.3±9.1 6.4±5.8 57.1 通常精液 12.2±8.0 n 12 20 7.1±4.5 58.41 雌選別精液を深部注入した過剰排卵処理 における採卵成績 (経産牛) 平均値±標準偏差 回収卵数 正常胚数 % 雌選別精液 6.9±4.1 5.0±4.5 56.4 通常精液 9.1±5.0 n 8 8 6.8±2.8 63.02 雌選別精液を深部注入した過剰排卵処理 における採卵成績 (未経産牛) 平均値±標準偏差 頭 数 雌選別精液 34 通常精液 383 シダーオブシンクに供試したホルスタイン種の 授精時の概要 ( 1 フリーストール牛群) 2.9 2.5 産次数 分娩後日数 136 136 授精回数 1.9 1.9 授精日乳量 39 38 期間2010.04~2011.01 授精頭数 受胎頭数 % 雌選別精液 34 17 通常精液 38 21 55.34 雌選別精液を深部注入したシダーオブシンク における受胎成績 ( 1 フリーストール牛群) 50.0 期間2010.04~2011.01

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4 -5 人の選別精液の合計授精頭数は 39 頭 で 51.2%の受 胎 率 で す 。 例 数 は多 少 相違 しますが個人別では 40%~ 60%の 受 胎 率で し た 。5 人中 3 人は既に通常 の 授 精 器 で 選 別 精 液 の 授 精 を 行 っ て い ましたがその受胎率は 27.1%(32/118)で あ り ま し た 。 深 部 注 入 へ の 期 待 が た か まる成績であると思われます。 3. 課題と今後の展望 今 後 、 選 別 精 液 を 安 心 し て ホ ル ス タ イン種経産牛に利用するため、適正な注入方法(特に発情後の授精時間、子宮内の注入場 所、注入に適した媒体、授精前処理等)に係わる情報収集を図る必要があります。また、 選別精液は通常精液に比べ高価な特殊精液でもあることから種雄牛別の受胎性などについ ての情報も重要と考えられます。受胎率向上のための情報が多く発信されることを期待す るところです。 選別精液が流通したことによって牛群を多様な繁殖方法に仕分けることができます。ま ず①選別精液で 2 年後の更新頭数の何割かを確保する。②選別精液にない新しい血液を通 常精液で導入する。①②で充分な雌生産が予想できたら④黒毛和種の通常精液、選別精液 あるいは⑤受精卵利用等によって副次生産部門の強化を図るなどのことができます。これ らのことは、受精卵の性判別技術が開発されたころからいわれていたことですが選別精液 の実用化で、より現実化したといえます。 5. おわりに ホルスタイン種経産牛には卵巣の周期性は正常と診断されても尿膣や子宮内膜炎が存在 しているかも知れません。高位生産の影響で繁殖能力を低下させている牛もいるでしょう。 繁殖に悪影響を及ぼす要因が多々あるなかで極短時間で状態の良し悪し、受胎の可能性を 総合的に判断して人工授精は行われています。こんな中で、通常精液に比べ1ストロー当 たりの精虫数が少ない選別精液で通常精液と同等の受胎率を期待することは難しいと思い ますが、選別精液を良く理解し、何らかの工夫によって受胎率を向上させたいものです。 なお、今回の成績は第 17 回(2010 年 9 月)および第 18(2011 年 9 月)の回日本胚移植研究 大会において発表したものです。 深部注入 頭 数 授精 受胎 % 浅部注入 頭 数 授精 受胎 % 118 32 27.1 実施者 S M T I F 87 14 17 -22 4 6 -25.3 28.6 35.2 -10    5  50.0 7    4  57.1 2    1  50.0 10    6  60.0 10    4  40.0 39   20  51.25 ホルスタイン種経産牛に雌選別精液の子宮角内深部注入 を始めた各実施者の受胎成績 S,I,F: 酪農家, M:人工授精師, T:獣医師

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人工授精用牛 X,Y 精子の選別

信州大学農学部

濱野光市

人工授精用牛 X,Y 精子の選別

信州大学農学部

濱野光市

1.はじめに 安心・安全な食料の生産と供給が求められている現在,飼料価格の高騰,伝染病の発生 等,特に牛を中心とした家畜の生産をとりまく情勢は極めてきびしい。さらに,近年の牛 の人工授精における受胎率低下は,生産性の低下を招く重大な問題になっている。 このような状況において,効率的な牛の改良,増殖が可能な雌雄産み分け技術の確立が 望まれてきたが,その技術の実用化が進み,普及の段階に入ってきている。 ここでは,性予知産子を作出するためのX 精子あるいは Y 精子を選別するフローサイト メーター法の原理と選別精子の特性について概説する。 2.牛の雌雄産み分け技術 牛の雌雄産み分けは,胚と精子の両レベルで行うことができる。胚の性判別技術は,バ イオプシー等で胚から得た細胞の DNA を調べる方法であるが,望まない性の胚は廃棄さ れることになり無駄が生ずる。これに対し,精子レベルでの雌雄産み分けは,X,Y 精子を 選別後,授精して希望する性の産子を得ようとする技術であり,選別精液は通常の精液と 同様に利用することができる。 3.牛 X,Y 精子の選別 これまで,X,Y 精子の大きさ,密度,荷電性,抗原性等に違いがあると想定し,これら の差に基づく精子の選別が試みられてきた。しかしながら,現時点では DNA 量の違いに 基づきフローサイトメーターで選別する方法以外,再現性のある有効な精子の選別法は見 いだされていない。 フローサイトメーターはレーザーを試料に照射し,そこから発する蛍光や散乱光を分析 して,大きさや DNA 量の違いから細胞を選択,回収することができる装置である。牛で は,X 染色体が Y 染色体より大きく,X 精子は相対的 DNA 含量が Y 精子よりも約 3.8%多 く,フローサイトメーターを用いた X,Y 精子の選別は,蛍光色素(Hoechst33342)で染色 した精子をこのDNA 量に比例した蛍光量の違いに基づいて判別し,分離する方法である。 1989 年,Johnson らはフローサイトメーターで分離した X,Y 精子を外科的に卵管内に人工 授精して,8~9 割の精度でウサギの雌雄産み分けに世界で初めて成功し,その後牛をはじ め多くの動物種で X,Y 精子の選別が高精度でできることが確認されている。 4.人工授精用牛 X,Y 精子の選別 フローサイトメーターによる精子の選別は米国農務省が有する国際特許技術であり,そ の独占的使用権は米国のXY 社が有している。日本国内では複数の精液生産供給団体が XY 社と契約を結び,実証試験を経て商業化している。 現在,精子選別専用の高速フローサイトメーター(SX-MoFlo および SX-MoFlo XDP)が 開発され,精子の選別効率が飛躍的に向上し,1時間あたり 1,000 万以上の精子が高精度

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で選別することが可能になっている。選別精子の人工授精試験の結果では,X,Y 精子のい ずれにおいても,90%以上の精度で子牛が生産され,生時体重,妊娠期間,発育性,雌牛 の繁殖性等に問題は認められなかった。これらのことから,選別精子を利用して作出した 牛体外受精卵が2006 年から,さらに,人工授精用の選別精液は 2007 年から一般配布され ている。選別精液の生産は,新鮮精液が用いられるため,一部の種雄牛に限定されている。 5.選別牛精子の特性 フローサイトメーターによる選別精子は,精液の採取から凍結保存までの処理に長時間 を要することから,選別直後および凍結・融解後の精子の生存性および運動性の低下,さ らには人工授精後の受胎率の低下が懸念された。 しかし,選別の段階で死滅精子は排除され,生存精子のみが回収される仕組みになって いるため,通常精液と大差のない凍結融解後の精子活力を示す精液が生産されている。選 別精液の人工授精後の受胎率は,未経産牛では 50%程度,経産牛では 30~40%であり,通 常精液と比べやや低い傾向にある。海外の報告では,選別精子の先体反応が比較的早期に 誘起されることが示されている。 現在,選別精液が市販され,人工授精や過排卵処理による受精卵生産に利用されている が,受胎率や採卵成績を高めるために,フィールドにおいては授精方法の様々な改良,改 善が進められている。具体的には,授精のタイミングを通常より遅らせる方法,精液を子 宮角深部に注入する方法などが精力的に実施されている。 6.おわりに 選別精液の利用により,計画的な子牛生産が可能になり,確実な収益の増大が期待され る。しかしながら,選別精液の生産においては,その生産効率の低さが問題である。今後, 精子処理法,精液保存液の改良,およびフローサイトメーターの性能の向上等により,生 産効率はさらに改善されると考えられるが,さらに,精子 DNA 含量の違いを利用したフ ローサイトメーター法に替わり得るX,Y 精子の大量選別技術の開発が望まれる。 引用文献 浜野晴三(2010)性判別精液を用いた人工授精技術,LIAJ News,122: 8-15.

戸田昌平(2009)雌雄産み分け技術:「選別精液 Sort90」,Dairy News,676: 5107-5112. 木村博久(2009)牛 X,Y 選別精液の生産とその課題,家畜人工授精,251: 1-16. 湊 芳明(2008)牛の雌雄産み分け用の選別精液の生産技術とその実用性,家畜人工授精, 245: 21-34. 湊 芳明・壱岐直史・船内克俊・戸田昌平・上田 大・内山京子・木村博久(2007)フロ ーサイトメーターによるウシ選別精液の人工授精成績に及ぼす選別時間および産暦の 影響について,第107 回日本畜産学会大会講演要旨:83.

Hamano, K. (2007) Sex preselection in bovine by separation of X- and Y-chromosome bearing spermatozoa. J.Reprod.Dev., 53: 27-38.

Moce, E., Graham, J., Schenk, L. (2006) Effect of sex-sorting on the ability of fresh and cryopreserved bull sperm to undergo an acrosome reaction. Theriogenology, 66: 929-936. Johnson, L.A., Flook, J.P., Hawk, H.W. (1989) Sex preselection in rabbits: live births from X and

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動物保護の歴史と動物実験のあり方 〜欧米と日本の比較から

東京財団

橳島次郎

動 物 保 護 の 歴 史 と 動 物 実 験 の あ り 方 〜 欧 米 と 日 本 の 比 較 か ら

東京財団

橳島次郎

1.はじめに 動物実験の倫理基準 / 動物保護と動物実験倫理の原点 2 . 欧 州 に お け る 動 物 保 護 の 歴 史 と 動 物 実 験 の 管 理 動 物 保 護 の 始 ま り / そ の 後 の 展 開 / 欧 州 に お け る 動 物 の 法 的 地 位 動 物 保 護 法 の 中 の 動 物 実 験 の 位 置 付 け / EUに お け る 動 物 実 験 管 理 規 制 3 . 米 国 に お け る 動 物 保 護 の 歴 史 と 動 物 実 験 の 管 理 4 . 日 本 に お け る 動 物 保 護 の 歴 史 と 動 物 実 験 の 管 理 近 代 日 本 に お け る 動 物 保 護 / 日 本 法 に お け る 動 物 の 地 位 近 年 の 動 物 保 護 の 展 開 / 日 本 の 動 物 実 験 管 理 の 問 題 点 5.おわりに 日本と欧米の差異 / 文化的差異による説明はできるか 動物実験の拠りどころは何か / 考えるべき問題 参照文献 青木人志(2002)『動物の比較法文化』有斐閣. 橳島次郎(2001)『先端医療のルール』講談社, 第四章「人と動物の境はどうなるか」. D. ドゥグラツィア(2003)『動物の権利』岩波書店. 佐藤衆介(2005)『アニマルウェルフェア』東京大学出版会. 橳 島 次 郎(2010)『 生 命 の 研 究 は ど こ ま で 自 由 か 』 岩 波 書 店 .

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牛人工授精における低受胎に

関する今後の研究展開

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乳牛における歩数計を用いた発情検出

(独)農研機構 北海道農業研究センター

坂口 実

1

乳牛における歩数計を用いた発情検出

農研機構 北海道農業研究センター

坂口 実

1.はじめに 乳 牛 に お け る 繁 殖 性 低 下 に つ い て は 、 遺 伝 的 改 良 に よ る 乳 量 の 増 加 と 、 不 適 切 な 飼 養 管 理 が 、大 き な 要 因 と し て 議 論 さ れ て き た(Sakaguchi, 2011)。人 工 授 精 を 前 提 と し た 場 合 、 牛 が 明 瞭 な 発 情 行 動 を 示 す こ と と 、 そ れ を 管 理 者 側 が 適 切 に 把 握 す る こ と が 、受 胎 成 立 に は 最 も 重 要 で あ る(Stevenson, 2001)。そ こ で 、北 海 道 農 業 研 究 セ ン タ ー ( 北 農 研 ) で 飼 養 さ れ る ホ ル ス タ イ ン 種 乳 牛 群 に つ い て 、 発 情 発 現 の 状 況 を 調 べ て み た (Sakaguchi, 2010a)。総 計 368回 (92頭 )の 排 卵 に つ い て 、発 情 行 動 の 有 無 と そ の 強 さ を 記 録 し た と こ ろ 、46%は ス タ ン デ ィ ン グ 行 動 ( ST) を 示 す 発 情 で あ っ た が 、17%で は STを 示 さ ず 、 マ ウ ン テ ィ ン グ 行 動 ( MT) と 他 の 徴 候 に よ っ て 発 情 を 確 認 で き 、 残 り の37%で は 、 発 情 を 伴 わ な い 排 卵 ( 無 発 情 排 卵 ) で あ っ た 。 ま た 、 平 均 の 初 回 発 情 時 期 は 分 娩 後55日 で あ っ た 。全 発 情 回 数 に 占 め る MTの 割 合 は 、図 1 に 示 す よ う に 、分 娩 後 5 ~16週 で 大 き く 、9 ~ 12週 で は 約 1/3が MTで あ る こ と が わ か っ た 。 さ ら に 、初 回 発 情 後 に 無 発 情 排 卵( 無 発 情 へ の 回 帰 ) と な る ケ ー ス は 、92頭 中 14頭 に の ぼ っ た 。 し か し 一 方 で ,3 回 目 排 卵 で の 初 回 発 情 の よ う に 、や や 遅 く 発 情 が 回 帰 し た 牛 で も 、空 胎 期 間 を 指 標 と し た 繁 殖 性 は 良 好 で あ っ た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、分 娩 後 早 く な い 時 期 に 発 現 す る 、一 部 微 弱 化 し た 発 情 を 確 実 に と ら え る こ と が 、繁 殖 性 向 上 に は 重 要 で あ る こ と を 再 確 認 し た 。そ こ で 、ST以 外 の 発 情 行 動 も 検 出 で き る 、行 動 量 ( 歩 数 )に よ る 発 情 発 見 法 の 有 効 性 を 検 証 し た ( 坂 口, 2007a) 。 2 . 乳 用 育 成 牛 で の 予 備 的 検 討 最 初 に 、ウ シ 用 の 発 情 発 見 専 用 の シ ス テ ム(「 牛 歩 」、 コ ム テ ッ ク(株 )、宮 崎 )の 発 情 発 見 性 能 を 、 発 情 徴 候 の 明 瞭 な 乳 用 育 成 牛 に お い て 評 価 し た (Sakaguchiら , 2007) 。 一 般 的 に , 発 情 と 判 定 す る 基 準 を 厳 し く す る と 発 図 1 総 発 情 発 現 回 数 に 占 め る マ ウ ン テ ィ ン グ 発 情 の 割 合 観 察 による発 情 検 出 総 数 (TOE) 歩 数 計 による発 情 検 出 総 数 (TPA) 図 2 歩 数 上 昇 に よ る 発 情 発 見 の 効 率 と 精 度 。 発 情 発 見 効 率 = ( PDE) / ( TOE) × 100 (% ) 発 情 発 見 精 度 = ( PDE) / ( TPA) × 100 (% ) 歩 数 計 で発 情 とされ た誤 報 の回 数 歩 数 計 で検 出 でき た発 情 回 数 ( 歩 数 計 で見 逃 し た発 情 回 数 PDE) 発 情 発 見 指 数 = ( 発 情 発 見 効 率 ) ×( 発 情 発 見 精 度 ) / 100

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見 効 率( 発 見 率 )は 低 下 , 発 見 精 度 ( 的 中 率 ) は 向 上 す る 。 逆 に 基 準 を 緩 く す る と , 効 率 は 向 上 す る が 精 度 は 低 下 す る 。 そ こ で 図 2 に 示 す よ う に 、 両 者 の 積 を 求 め る こ と に よ り 得 ら れ た 発 情 発 見 指 数 を 用 い , 異 な る 条 件 下 で の 発 情 発 見 性 能 を 比 較 し た ( 図 3 ) 。 昼 夜 放 牧 条 件 の 頚 装 着 で は 、 閾 値 ( 発 情 と 判 定 す る 歩 数 の 上 昇 倍 率 )を1.2 倍 , 参 照 期 間 ( 倍 率 計 算 の た め24時 間 の 平 均 歩 数 を 比 較 す る 過 去 の 日 数 ) を 3 ~ 7 日 と し た 場 合 , 発 見 率 は100%で あ っ た が ,的 中 率 は20~ 23%と 低 か っ た 。一 方 後 肢 装 着 で は ,発 見 率 お よ び 的 中 率 と も 90% 以 上 と , 良 好 な 成 績 が 得 ら れ た 。 頚 お よ び 後 肢 装 着 で の 発 見 指 数 の 最 大 値 は そ れ ぞ れ32お よ び 83と な っ た 。頚 装 着 で は 、放 牧 時 の 採 食 行 動 を カ ウ ン ト し て し ま う た め 、 的 中 率 が 低 下 し た も の と 考 え ら れ , 搾 乳 牛 で も 同 様 の 結 果 に な る と 予 想 さ れ た 。 パ ド ッ ク 条 件 で は , 発 情 観 察 と と も に , そ の 後 の 排 卵 確 認 も 実 施 し た 。 頚 お よ び 後 肢 装 着 で の 発 見 指 数 の 最 大 値 は そ れ ぞ れ59お よ び 92と な っ た 。 こ れ ら 最 適 条 件 下 で の 歩 数 上 昇 に よ る 発 情 開 始 か ら 排 卵 ま で の 平 均 時 間 と 範 囲 は ,頚 装 着 で24.2( 0 ~ 37) 時 間 , 後 肢 装 着 で は 1.6倍 で 27.0( 22~ 36) 時 間 , 1.7倍 で 25.5( 21~ 35) 時 間 で あ っ た 。歩 数 上 昇 を も と に し た 平 均 発 情 持 続 時 間 は ,頚 で16.6時 間 、後 肢 で 21.6時 間1.6倍 ) ま た は 18.8時 間 ( 1.7倍 ) と な っ た 。 最 後 に 繋 ぎ 飼 養 条 件 下 で は , 頚 , 前 肢 お よ び 後 肢 に そ れ ぞ れ 歩 数 計 を 装 着 し , 発 情 徴 候 か ら 発 情 を 判 定 し ,排 卵 確 認 を 実 施 し た 。頚 で は1.2~ 1.3倍・3 ~ 7 日 で 発 見61~ 91%、的 中 率 33~ 44%の 結 果 が 得 ら れ た 。後 肢 お よ び 前 肢 で は 的 中 率 が 高 く な り ,1.3~ 1.4倍・3 ~ 7 日 で ,両 者 と も ほ ぼ 同 様 の 発 見 率 と 的 中 率 を 記 録 し た 。前 肢 装 着 で は 後 肢 と 比 べ て 装 着 作 業 と 歩 数 計 の 維 持 が 容 易 で , 排 泄 物 の 付 着 も 比 較 的 少 な か っ た 。 頚 , 後 肢 お よ び 前 肢 の 発 情 発 見 指 数 の 最 大 値 は そ れ ぞ れ ,31, 61お よ び 72と な っ た 。発 情 開 始 か ら 排 卵 ま で の 平 均 時 間 と 範 囲 は 頚 で 32.1( 0 ~ 48)時 間 、後 肢 で25.9( 9 ~ 36)時 間 ,前 肢 で 26.3( 11~ 38)時 間 と な り 、平 均 発 情 持 続 時 間 は 頚23.4時 間 、 後 肢 で 17.4~ 17.9時 間 , 前 肢 で は 19.5時 間 で あ っ た 。 こ れ ら の 平 均 時 間 に 、 装 着 部 位 に よ る 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 し た が っ て , タ イ ス ト ー ル 条 件 で は 頚 へ の 装 着 は 実 用 的 で は な く , 少 な く と も 育 成 牛 で は 後 肢 よ り も 前 肢 へ の 装 着 が 図 3 育 成 牛 と 搾 乳 牛 に お け る 異 な る 飼 養 条 件 下 で の 肢 装 着 歩 数 計 に よ る 発 情 発 見 指 数 の 比 較

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有 効 と 考 え ら れ た 。 こ の よ う に , 異 な る 飼 養 条 件 下 の 育 成 牛 を 用 い た 予 備 的 検 討 結 果 か ら , 歩 数 計 に よ る 発 情 発 見 シ ス テ ム の 実 用 性 を 確 認 で き た 。 発 情 開 始 時 刻 を 適 期 授 精 の 目 安 と す る こ と を 考 え る と , 発 情 開 始 か ら 排 卵 ま で の 時 間 が 重 要 と な る 。 頚 装 着 で は 排 卵 ま で の 時 間 に ば ら つ き が 大 き い こ と か ら , 肢 に 歩 数 計 を 装 着 す る こ と に よ り 、 排 卵 時 刻 や 授 精 適 期 を よ り 正 確 に 予 測 で き る こ と が わ か っ た 。 3 . 搾 乳 牛 で の 実 用 性 搾 乳 牛 に つ い て は , 育 成 牛 の パ ド ッ ク 飼 養 に 相 当 す る フ リ ー ス ト ー ル 飼 養 , 小 牧 区 1 日 輪 換 の 昼 夜 放 牧 , お よ び フ リ ー ス ト ー ル を 併 用 し た 中 牧 区 で の 時 間 制 限 放 牧 の 3 条 件 に つ い て 検 討 し た ( 坂 口, 2010b) 。 北 農 研 の 屋 外 パ ド ッ ク を 併 設 す る フ リ ー ス ト ー ル 牛 舎 に お い て 、 頚 - 後 肢 お よ び 前 肢 - 後 肢 間 の 比 較 を , そ れ ぞ れ 同 時 装 着 し た 搾 乳 牛 を 用 い て 実 施 し た 。 頚 装 着 で は , 個 体 間 に 歩 数 変 動 の ば ら つ き が 大 き か っ た が , 発 情 発 見 指 数 は 後 肢 装 着 と 同 等 で あ っ た 。 後 肢 で は 検 出 倍 率1.5倍 、 平 均 歩 数 の 参 照 期 間 8-15日 で 、 発 情 発 見 指 数 が 76と 最 高 に な り , 頚 で は 1.7倍 、 14-15日 で 78を 記 録 し た 。 前 肢 と 後 肢 で は 参 照 日 数 の 最 適 値 は 若 干 異 な る も の の ,最 適 な 検 出 倍 率 の 範 囲 は 、 後 肢 で の1.7~ 2.0倍 に 対 し 、 前 肢 で は 1.5~ 2.2倍 と 広 か っ た 。 前 肢 装 着 は 後 肢 装 着 と 比 べ , ふ ん 尿 に よ る 汚 れ が 少 な い こ と も 考 え 合 わ せ る と , 一 般 的 に 推 奨 さ れ る 装 着 部 位 と 考 え ら れ た が , 搾 乳 時 に 装 着 ベ ル ト の 弛 み 等 を 定 期 的 に 観 察 し や す い 後 肢 装 着 も 、 必 要 に 応 じ て 選 択 で き る で あ ろ う 。 そ こ で 以 下 の 比 較 で は , 前 肢 ま た は 後 肢 に 歩 数 計 を 装 着 し て 検 討 し た 。 昼 夜 放 牧 条 件 下 で は フ リ ー ス ト ー ル 条 件 と 比 較 し て , 発 情 検 出 の 最 適 設 定 が ほ ぼ 同 じ で あ る に も か か わ ら ず 、発 見 率 が 約30%低 下 す る た め ,発 情 発 見 指 数 も 低 く な っ た ( 図 3 ) 。 一 方 、 時 間 制 限 放 牧 条 件 下 で は , フ リ ー ス ト ー ル 条 件 下 と 同 等 の 成 績 が 得 ら れ た 。 こ れ ら の 原 因 と し て , 1 日 輪 換 の 昼 夜 放 牧 条 件 下 で は , 朝 夕 の 搾 乳 前 後 、 放 牧 地 と 搾 乳 施 設 間 を 移 動 す る 際 の 歩 数 が 、 転 牧 に よ っ て 変 動 す る こ と が 考 え ら れ た 。 つ ま り , 放 牧 地 と 搾 乳 施 設 間 の 移 動 距 離 が 前 日 よ り も 大 き く な る 場 合 , 発 情 で は な く て も 歩 数 が 上 昇 し , 発 情 と 検 出 さ れ る 可 能 性 が 高 く な る た め 、 的 中 率 が 低 下 ( 誤 報 率 が 上 昇 ) す る 結 果 と な る 。 逆 の 場 合 , 発 情 で あ っ て も 十 分 な 歩 数 上 昇 と し て は 検 出 さ れ な い 可 能 性 が 高 ま り , 発 見 率 が 低 下 ( 見 逃 し 率 が 上 昇 ) す る と 考 え ら れ た 。 こ の よ う に 小 牧 区 , 1 日 輪 換 に よ る 搾 乳 牛 の 昼 夜 放 牧 で は 、 往 復 の 移 動 距 離 が 毎 日 変 動 す る 。 し た が っ て , 高 い 発 情 検 発 見 成 績 を 得 る た め に は 搾 乳 施 設 へ の 移 動 距 離 の 変 化 に 注 意 す る 必 要 が あ る 。 ま た , 可 能 な 限 り 、 前 日 ま で の 移 動 距 離 と 大 き く 変 化 し な い よ う な 順 序 で 牧 区 を 変 え て ゆ く こ と も , 発 情 発 見 成 績 の 向 上 に 必 要 で あ ろ う 。 昼 夜 放 牧 条 件 下 , 発 情 発 見 指 数 が 最 大 と な る 設 定 (1.5倍 ) で の 発 見 率 は 62.5 % で あ る が ,的 中 率 は87.0%と ,他 の 条 件 と 同 じ 水 準 で あ っ た 。し た が っ て ,判 定 倍 率 を1.4あ る い は 1.3倍 へ と 下 げ る こ と に よ り ,的 中 率 の 低 下 を 承 知 の う え で 検 出 率 向 上 を 図 る こ と も , 使 用 目 的 に よ っ て は 有 効 か も し れ な い 。

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4 . お わ り に 以 上 、 歩 数 計 を 用 い て 発 情 時 の 行 動 量 の 増 加 を 検 出 す る こ と に よ る 、 乳 牛 の 発 情 発 見 方 法 の 有 用 性 を 確 認 で き た 。 た だ し 、 転 牧 頻 度 の 高 い 昼 夜 放 牧 条 件 下 の 搾 乳 牛 で の 、 比 較 的 低 い 成 績 は , 歩 数 計 に よ る 発 情 発 見 法 の 一 つ の 問 題 点 と な り う る 。 現 状 の 発 情 検 出 基 準 下 で の 対 応 策 と し て は , 前 述 の よ う に 転 牧 順 序 を 工 夫 し て , 平 均 歩 数 の 日 間 変 動 の 最 小 化 を 図 る ほ か に , 他 の 発 情 検 出 方 法 、 例 え ば テ イ ル ペ イ ン ト 等 を 併 用 す る , と い う こ と が 考 え ら れ る 。 そ れ 以 外 の 方 法 と し て は , 発 情 検 出 の 基 準 そ の も の を 見 直 す と い う 方 向 性 も あ り 得 る 。す な わ ち ,搾 乳 牛 舎 へ の 移 動 は 通 常 、 朝 夕 の 同 一 時 間 帯 に 実 施 さ れ る こ と か ら , こ の 時 間 帯 を 平 均 歩 数 の 計 算 か ら 除 外 す る , と い う よ う な , 昼 夜 放 牧 条 件 に 対 応 し た 発 情 判 定 ア ル ゴ リ ズ ム (Koelsch et al., 1994) や , 根 本 的 に 異 な る ア ル ゴ リ ズ ム ( Firk et al., 2003) を 適 用 す る こ と に よ り , 発 情 発 見 成 績 を 向 上 で き る か も し れ な い 。 引用文献

Maatje, K. et al., (1997) Predicting optimal time of insemination in cows that show visual signs of estrus by estimating onset of estrus with pedometers. J. Dairy Sci., 80: 1098-1105.

坂 口 実 (2007a) 新 し い 発 情 発 見 法 の 開 発 . 新 し い 畜 産 技 術 ― 近 未 来 編 ― , (社 )畜 産 技 術 協 会, pp. 54-55.

坂 口 実 (2007b) 高 泌 乳 牛 の 授 精 適 期 . 農 業 技 術 体 系 , 畜 産 編 , 第 2 巻 ,乳 牛 ① , 基 本 技 術 編, 農 山 漁 村 文 化 協 会 , pp. 技 154の 2-7.

Sakaguchi, M. et al. (2007) Reliability of estrus detection in Holstein heifers using a radiotelemetric pedometer located on the neck or legs under different rearing conditions. J. Reprod. Dev., 53: 819-828.

Sakaguchi, M. (2010a) Oestrous expression and relapse back into anoestrus at early postpartum ovulations in fertile dairy cows. Vet. Rec., 167: 446-450.

坂 口 実 (2010b) 搾 乳 牛 に お け る 歩 数 計 を 用 い た 発 情 検 出 . 日 本 畜 産 学 会 報 , 81: 413-419.

Sakaguchi, M. (2011) Practical aspects of the fertility of dairy cattle. J. Reprod. Dev. 57: 17-33.

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精漿成分による牛の子宮機能調節

酪農学園大学獣医学群獣医学類生産動物医療教育分野動物生殖学ユニット

 片桐成二

精漿成分による牛の子宮機能調節

酪農学園大学獣医学群獣医学類生産動物医療教育分野動物生殖学ユニット

片桐成二

1.はじめに

演者は乳牛において子宮内膜の上皮増殖因子(Epidermal growth factor, EGF)の発現と受 胎性との関係を研究しており、卵巣機能回復後も受胎しない高産乳牛およびリピートブリ ーダー牛において子宮内膜での EGF の発現異常が不妊原因の一つとなっていることを報 告してきた(図1)。現在、その対策としてこれらの牛に精漿を投与して子宮での EGF 発 現および免疫系の活性化をはかる試みを進めているところである。本稿では、子宮内膜に おける EGF 発現と受胎性の関係および精漿が子宮内膜でのサイトカイン発現および受胎 性に及ぼす効果の概要を紹介する。 2.子宮内膜でのEGF 発現とその異常 リピートブリーダー牛では、発情時のエス トラジオール(E2)濃度の上昇遅延とピーク 濃度の低下および排卵後のプロジェステロン (P4)濃度の上昇遅延とピーク濃度の低下が みられ、これらの変化が受精異常および胚死 滅を増加させると考えられてきた(図2)。子 宮内膜での増殖因子発現は、主としてE2およ び P4により調節されることから、子宮での増 殖因子発現異常がリピートブリーダー牛にみ られる内分泌異常と胚死滅の増加を結びつけ るメカニズムとなり得る。また、高産乳牛で は乾物摂取量の増加による代謝の亢進により、 血中 E2および P4濃度はリピートブリーダー 牛と同じ異常を示すことから、高産乳牛にお ける受胎性低下にも子宮内膜での増殖因子発 現異常が関わるものと考えられる(図 2)。 子宮での増殖因子発現と受胎性との関係に 関する研究をはじめるにあたり、まず、胚死 滅との関連を考慮して妊娠認識機構の活性化 時期に子宮内膜での発現が変化する増殖因子 を 検 索 し た 。 そ の 結 果 、 子 宮 内 膜 で の EGF 濃度が発情後 2-4 および 13-14 日目に上昇す ることが分かった。次いで、リピートブリー ダー牛の子宮内膜 EGF 濃度を調べたところ、その約 70%では EGF 濃度のピークが低下 し、周期性変動が消失していた(図1)(Katagiri & Takahashi, 2004)。また、その異常が 3 回以上の発情周期にわたり持続することも分かった(Katagiri & Takahashi, 2006)。一方、高 産乳牛では子宮内膜 EGF 濃度(発情後 3 日目)が低下する傾向にあり、その約 60 および 20%は、それぞれ経産牛の平均値および正常範囲の下限値以下の濃度を示した(Katagiri, 2006)。さらに、分娩後の子宮内膜での EGF 濃度周期性変動の回復時期を調べ、周期性の 回復時期は子宮内膜の再生時期にあたる分娩後 4~7 週目に集中(> 70%)することが分 かった(図3)。 3.子宮内膜 EGF 濃度と受胎性の関係 受精卵移植のレシピエント牛において子宮内膜 EGF 濃度と受胎率の関係を調べたとこ

1. Epidermal growth factor:

EGF

(Katagiri & Takahashi, 2004, 2006) (Katagiri & Takahashi, 2008)

EGF 2-4 13-14 EGF : 70% : 50-60% 5 mg EB + CIDR EGF < 4.9 ng/g > 4.9 ng/g 29/87 (33.3) 269/350 (76.9)* 3 EGF LH P4 P4 EE22 2

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- 24 - ろ、発情後 3 日目の子宮内膜の EGF 濃度が 低値を示した牛では正常値を示した牛に比べ 受 胎 率 が 低 下 し て い た ( 図 1)。また、EGF 濃度の周期性が失われているリピートブリー ダー牛に対する治療処置により、EGF 濃度の ピークが回復した牛では受胎性も回復するこ とが分かった(Katagiri & Takahashi, 2006)。さ らに、最近の研究から EGF 濃度の周期性回復 時期が遅れた牛では、分娩後の受胎時期が遅 れることが明らかとなってきた(図 3)。これ らのデータは、いずれも EGF 濃度の周期性回 復が受胎性の指標となることを示している。 4.精漿による雌性生殖器の機能調節 主に齧歯類を用いた研究により、精漿には胚および胎子の発育、胎盤形成および着床を 促進し、受胎率および産子数を増加させる作用のあることが明らかになっている(Robertson, 2007)。精漿は精子の生存や受精能獲得などの精子への作用に加え、雌性生殖器および胚へ のはたらきを介してこれらの作用を発現しており、雌性生殖器および胚への作用において は精漿による子宮内膜でのサイトカイン発現調節が重要な役割を果たすと考えられている (図4)。また、精漿はマウスの黄体におけるマクロファージの出現、豚ではLHサージか ら排卵までの時間短縮および黄体形成および黄体でのステロイドホルモン産生の調節など 卵巣機能にも影響を及ぼすことが知られている。多くの哺乳動物で交配後最初にみられる 雌性生殖器内の変化は、子宮内への急速かつ 著明な免疫細胞(好中球、マクロファージ、 樹状細胞など)の出現である。マウスでは、 発情時のエストロジェンに感作された子宮頸 管および子宮内膜上皮に精漿蛋白が作用する ことにより顆粒球コロニー増殖因子 (GM-CSF)、インターロイキン(IL)-6、IL-8 などのサイトカインおよびケモカインが産生 され、免疫細胞の浸潤が誘起される。交配直 後子宮腔内に出現した好中球は、プロジェス テロン濃度の上昇に伴いGM-CSFなどのサイ トカイン発現が低下すると急速に消失する (Robertson, 2007)。一方では免疫細胞の出現を 抑制するTGF-の子宮での発現も増加している。また、TGF-は精漿中にも含まれている。 このように、精漿は子宮での炎症を誘起するが、一方でその反応が過度にならないよう調 節する役割も果たすと考えられている。精漿による受胎促進効果は人および家畜において も報告されており、家畜の中では豚の精液が子宮への好中球の動員およびサイトカイン発 現に及ぼす効果が比較的よく調べられている(Robertson, 2007)。 5.牛の精漿が雌性生殖器および受胎性に及ぼす効果 牛の精漿にはTGF-、IL-6、IL-8、TNFおよびプロスタグランジンEなど子宮での免疫系 を調節する作用のある多くの物質が含まれている。しかし、牛では精漿が子宮でのサイト カイン発現および免疫系を介して受胎性に影響を及ぼすことを示した報告はみられない。 人工授精の前および授精と同時に精漿およびTGF-を乳牛および肉牛の子宮頸管内に注 入して受胎率に及ぼす効果を調べた報告では、いずれの処置も有意な受胎率の増加にはつ ながらなかったとしている(Odhiambo et al., 2009)。 図3. EGF周期性変化の回復時期と受胎成績 桐、髙橋(2005) 医学会にデータを追加 % of cows 60-9 0 90-1 20 12 0-150 15 0-180 180日 まで 不受 胎 0 10 20 30 40 50 60 70 (103頭) 内膜再 ホルスタイン種経 106頭 0 10 20 30 40 1- 10 11- 20 21- 30 31- 40 41- 50 51- 60 61- 70 71- 80 81- 90 までに90日 回復せず 分娩後の日数 周 期 性 回 復 頭 数 0 20 40 60 80 100 周 期 性 回 復 (%) EGF周期回復 < 40日 40-70日 > 70日 初回受胎 64.6% 36.4 16.0 図4. 雌 殖器における精漿の役割 ヒト ↑ 性交後のART(AI & IVF-ET)による受胎 マウス/ラット ↑ 胚/胎子発育 ↑ 胎盤形成 ↑ 着床 豚 ↑ 受胎 ↑ 子数 馬 ↓ 子宮内膜炎 子宮内膜の 再構築 免調節機構の 胚発 Robertson, 2005 子 宮 内 膜 子 宮 内 腔 精子選抜? 精漿 マクロファージ 樹 細胞 顆粒 (好中 )

参照

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