博 士 ( 農 学 ) 一 町 田 紀 子
学 位 論 文 題 名
作物における動物ウイルス抗原の産生に関する研究 学位論文内容の要旨
遺 伝 子 組 換 え 技 術 を 利 用 し た 植物 で の 有 用 物 質の 発 現 は 、 従来 の 外 来 遺 伝子 発 現 系 と 比較 し 特 殊 な 設 備 を 必 要 と せ ず 、 圃 場 な ど で の大 量 栽 培 が 可能 で あ り 、 植物 の 収 穫 や 加 工な ど 既 に 確 立し た 技 術 を 使 う こ と が 出 来 る の で 、 他 の組 換 え 蛋 白 質発 現 系 と 比 べ経 済 的 で あ る 。大 腸 菌 や 動 物細 胞 で の 発 現 系 を 用 い た 場 合 に 考 え ら れる 病 原 体 ・ 毒素 な ど の 混 入が 最 小 限 に 抑 えら れ る の で 、安 全 性 が 高 い 。 ま た 、 可 食 性 の 植 物 で 抗原 蛋 白 質 を 発現 さ せ た 場 合は 、 加 工 す る こと な く そ の まま 経 口 投 与 す る こ と が 可 能 で あ る 。 以 上の 利 点 よ り 、近 年 植 物 発 現系 を 利 用 し た 抗原 蛋 白 質 産 生の 研究 開発 が行わ れてい る。
本 研 究 で は 、 本 来 植 物 が 生 産 しな い 動 物 病 原 微生 物 由 来 抗 原蛋 白 質 を 植 物の 遺 伝 子 組 換え 技 術 を 利 用 し て 植 物 生 産 さ せ 、 経 口 投 与 ワク チ ン お よ び診 断 ・ 検 出 薬素 材 へ と 利 用 する 系 の 開 発 を目 標 と し て行 っ た 。 即 ち、 重 篤 な 被 害 をも た ら し て いる 下 痢 症 ウ イル ス で あ るロ タウイ ルス および 、 同 じ く 下 痢 症 を 引 き 起 こ す 原 因 ウ イ ルス で は あ る が致 死 性 は な く、 ま た 単 一 の サブ ユ ニ ッ ト 蛋白 質で ウイ ルス様 粒子(viruslike particle: VJ̲P)を形成するNorwalk‑like virusの抗原蛋白質を動物病原 微 生 物 由 来 抗 原 蛋 白 質 と し て 、 こ れ らの 蛋 白 質 を 発現 す る 組 換 え植 物 の 作 出 を 試み た 。 さ ら に、
抗 原 蛋 白 質 が 免 疫 誘 導 の 現 場 で あ る 腸管 ま で 到 達 可能 な よ う に デリ バ リ ー シ ス テム の 検 討 も 行つ た。
1. ロ タ ウ イ ル ス抗 原 の 植 物 発現
ロ タ ウ イ ル ス は 、 人 を 含 む ほ と ん ど の 哺 乳 類 に 感 染 し 、 重 篤 な 下 痢 症 状を 引 き 起 こ し、 乳 幼 児 死 亡 数 が 年 間90万 人 に も の ぼ る ウ イ ル ス で あ る が 、 そ の 病 原 性 の 強 さ ゆ え 、 未 だ 安全 か つ 効 果 的 な ワ ク チ ン は 開 発 さ れ て い ない 。 そ こ で 本 研究 で は 、 安 全か つ 効 果 的 なロ タ ウ イ ル ス経 口 ワ ク チ ン 素 材 の 開 発 を 目 的 と し て 、ウ シ ロ タ ウ イ ルス の グ ル ー プ共 通 中 和 抗 原で あ り 、 内 核層 構 成 蛋 白 質 で も あ るVP6蛋 白 質 遺 伝 子 を ジ ャ ガ イ モ に 導 入 し た 。 当 該 植 物 体 に お け る 発 現 解 析 に よ り VP6蛋 白 質 が確 認 さ れt0.006%全 可 溶 化 蛋 白 質(total soubleprotein:TSP)1、当該 植物体 粗汁液 を マ ウ ス に 注 射 し た 結 果 抗 体 価 が 上 昇 し 、 植 物 発 現VP6蛋 白 質 が 免 疫 原性 を 有 す る こと が 確 認 さ れ た 。 さ ら に 、 発 現 は 確 認 さ れ た が 発 現 量 が 低 か っ た た め 、植 物 発 現 用 遺伝 子 に2種 類の エ ン ハ ン サ ー を 付 加 し 、 当 該 遺 伝 子 を用 い て 形 質 転 換ジ ャ ガ イ モ を作 出 し た 。 形質 転 換 体 の 発現 解 析 の 結 果、 発 現 量 をO.1%TsPに 向 上 さ せる こ と に 成 功し た 。
経 口 ワ ク チ ン 素 材 と し て は、 効 果 的 に 粘膜 免 疫 を 刺 激す る た め に 抗 原構 造 が 消 化 管内 で 分 解 さ れ な い ま ま 腸 管 粘 膜 ま で 到 達 する こ と が 望 ま しい 。 そ の た めに は 、 ロ タ ウイ ル ス の コ ア膜 を 構 成 す るVP2蛋 白 質 遺 伝 子 を 発 現 さ せ 、VP6蛋 白 質 と 会 合 さ せ る こ と で 内 核 粒 子 を形 成 さ せ 、 腸管 ま で 到 達 さ せ る 事 が 重 要 で あ る 。 ま た 、 感 染 防 御 抗 原 で あ るVP4蛋 白 質 を発 現 さ せ る こと は 、 よ り ―298―
効果的 なワク チン素 材開発 として 重要で ある。 そこで、VP2およ びVP4の各蛋白質遺伝子をそれ ぞれジ ャガイ モに導 入し形質転換体を作出した。これらの形質転換操作を行い得られたジャガイ モにつ いての 遺伝子 解析・ 発現解 析の結 果、VP2遺 伝子で は導入 は確認され、VP4遺伝子では導 入 ・ 転 写 が 確 認 さ れ た も の の 目 的 蛋 白 質 の 発 現 は 確 認 さ れ な か っ た 。
2.Norwalk‑Iike virus抗原の植物発現
ジャ ガイモ でのロ タウイ ルスVP6蛋 白質の 発現は 確認さ れたが 、VP2蛋白質の発現が認められ ず、ロタウイルスでのwPを形成は困難であることが判明した。
Norwalke‑Iike virusは単一のサブュニツ卜蛋白質のみでVLPを形成することができることが知 られており、Norwalk‑Iike virus‑No剛mk株においては、組換え植物体内でのu´P形成が報告され ている(M鵠0nみ鹹1996)。
そこで、組換え植物内でのu亅Pを形成させることを目標に、N0r丶硼kIIikeurus−Cmba株キャプ シド 蛋白質 遺伝子 をタバコおよびジャガイモヘ導入した。それぞれの植物体の粗汁液における発 現解 析によ りNom甜kllikevirusキャプシド蛋白質が確認された。さらに、形質転換ジャガイモか ら試料を調整しマウスに注射した結果抗体価が上昇し、植物発現N0rwmk‐likevirusキャプシド蛋 白質 が免疫 原性を 有することが確認された。また、同様の方法で形質転換タバコ(T1)から試料 を調整し発現解析を行った結果、N0rwむk.likevimsキャプシド蛋白質の発現が認められた。本研 究 で 用い た 試 料 調整 の 手法 では、 試料中 にuJを形 成して いない サブュ ニット 蛋白質は 得られ ないとされており(1牡eda釘ロ′.1984)、今回得られたN0rwmk‐likevirusキャプシド蛋白質はVLP を形成していることが示唆された。
3.Norwalk‑Iike virus抗原とロタウイルス抗原の融合蛋白質の発現
Norwalk‑Iike virusのキャプシド蛋白質遺伝子をタバコおよびジャガイモにそれぞれ導入した結 果、双 方の植 物において目的蛋白質の発現が確認され、さらに植物体内でウイルス粒子が形成さ れていることが推測される結果が得られた。
そこで 、ウイ ルス抗原の腸管粘膜へのデリバリーシステムの構築を目標に、単独では発現が確 認されなかったロタウイルスVP4蛋白質の抗原エピトープ部位と、Norwalk‑Iike virusのキャプシ ド蛋白 質を融 合させた蛋白質遺伝子を設計・構築し、タバコヘ導入した。当該植物体の粗汁液に おけ る 抗Norwalk‑Iike virus抗 体を用い た発現 解析に より融 合蛋白 質の発 現が確 認され た。
以 上のよ うに本 研究に おいて 、下痢症 関連ウ イルス のーつ であるロタウイルスおよびNorwalk‑
Iike virusの抗原蛋白質、さらには口タウイルスVP4蛋白質の抗原エピ.トープ部位とNorwalk‑Iike
virusのキャプシド蛋白質の融合蛋白質の発現に成功し、新規の経口ワクチン素材および診断・検
出薬素材の生産系を展開することを可能にした。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 攻 題 名
作物における動物ウイルス抗原の産生に関する研究
本 論 文 は 69 頁 か ら なる 和 文論 文 で あり 、 図 24 と 表 5 を含 む 。 別に 、 参考 論 文 7 編が 添えられ ている。
遺伝子 組換え技 術を使い、植物で有用物質を大量に作らせることができれば、
その産 業的貢献 は極めて大きい。このような植物発現系においては特殊な培養設 備が要 らず、圃 場での大規模栽培も可能なので、他の組換え蛋白質発現系と比べ 経済的 である。 また、大腸菌や動物細胞での発現系を用いた場合に懸念される病 原 体 や 毒 素 な ど の 混 入 も な く 、 安 全 性 が 高 い の も 利 点 と い え る 。 本研究 では、植 物が本来生産しない動物病原微生物由来の抗原蛋白質を植物に 作らせ 、経口投 与ワクチンや診断薬あるいは検出薬の素材に利用する系を開発す ること を目標と して実験 を行った 。得られた 結果は以 下のよう に要約さ れる。
1 .ロ タウイル ス抗原の 植物での 発現
ロタ ウイルス は、人を 含むほとんどの哺乳類に感染し、重篤な下痢症状を引き 起こ す。残念 ながら、 安全かつ効果的なワクチンは未だに開発されていない。本 研 究 では 、 経口 ワ ク チン 素 材 の開 発を目 的として 、ウシロ タウイル ス 22R 株の VP6 蛋 白 質 遺 伝 子 を ジ ャ ガ イ モ に 導 入 し た 。 VP6 蛋 白 質 は 22R 株 の 属 す る 血 清 型 グル ー プ A に共 通 の 中和 抗 原で あり、 内核層構 成蛋白質 でもある 。遺伝子 導 入 ジャ ガ イモ に お いて は 、 VP6 蛋 白質が作 られてお り、しか も、植物 で発現 した VP6 蛋白質は 免疫原性 を有する ことが確め られた。
経 口 ワクチン 素材とし ては、抗原 構造が消 化管内で 分解され ないまま 腸管粘膜 まで 到達し、 効果的に 粘膜免疫を刺激することが望ましい。そこで、ロタウイル ス の コ ア 膜 を 構 成 する VP2 蛋白 質 遺 伝子 も 発現 さ せ 、 VP6 蛋 白質 と VP2 蛋白 質 と の 会合 に よっ て 内 核粒 子 を 形成 させて 、腸管へ の到達を 企てた。 VP2 蛋白質 遺 伝 子を ジ ャガ イ モ に導 入 し た結 果、 VP2 の 導入と転 写は確認 されたが 、目的 蛋白 質の発現 は検出さ れなかっ た。
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