博 士 ( 工 学 ) 伊 藤 健 一
学 位 論 文 題 名
自然浄化機構に学ぶ資源回収型 鉱山廃水処理システムに関する研究
学位論文内容の要旨
休廃止鉱山 では鉄やヒ素等を含む硫酸酸性の坑廃水の発生が問題とをっている。中でも強酸性で高 いヒ素濃度 と莫大を水量を有する旧幌別硫黄鉱山坑廃水の中和処理は、中和殿物の大量発生、中和 殿物中のヒ 素の安全性、高い維持管理コストが大きを課題と顔っている。一方、群馬県の旧西之牧 鉱山地域で は、同様にヒ素と鉄を含む 硫酸酸性の鉱山廃水中において、鉄酸化細菌が溶存2価鉄を 酸化して低 結晶の鉄鉱物シュベルトマナイトを生成し、構造中の硫酸との配位子交換により鉱山廃 水中 のヒ素を最大約6〜8wt%にま で吸着、濃集し、長期的に 安定してヒ素を保持する自然 浄化機 構が観察さ れている。
そこで本研 究では、このシュベルトマナイトの自然浄化機構に学び、坑廃水からシュベルトマナイ トを合成し てヒ素を効率的に除去する 坑廃水対策技術を開発するこ とを目的として研究を行をっ た。これに より、ヒ素を固体中で長期的に安定に保持させるとともに、ヒ素含有殿物を削減するこ とを目標と している。
本 研 究 は 、 6章 で 構 成 さ れ て い る 。 各 章 の 概 要 は 以 下 の と お り で あ る 。 第1章は序 論であり、研究の背景、目的 について示した。
第2章 では 、ま ず対 象の 旧 幌別 硫黄 鉱山 の 坑廃 水、およびCaC〇3とCa(OH)2を用いる現 行の「2 段階中和法 」に対して行顔った水質および中和殿物の分析、および地球化学コードを用いた坑廃水 からのシュ ベルトマナイト生成条件の検討を行なっている。そして、坑廃水からシュベルトマナイ ト を合 成し て ヒ素 を除 去す る新 し い坑 廃水 処理 方法 に つい て、 検討 の 詳細を記述して いる。
第3章では 、試験結果を示し、考察を行 をっている。
(1)坑廃水の水質:対象坑廃水が 高濃度の鉄とヒ素を含み、 放流水はpHが中性でヒ素を検 出しを かった。
(2)中 和 殿 物 の 性 状 : 中 和 殿 物 の 鉱物 組成 は カル サイ トが65.5wt%、フ ェ リハ イド ライ トが 14.7wt%、 その他石英や石膏をどであることが確認された。中和殿物中の大量のカルサイトは中和 剤であるCaC〇3の過剰投入による残留 と推察された。また、ヒ素が カルサイト相とフェリハイド ライト相で 検出されたことから、ヒ素 はカルサイトとの共沈および フェリハイドライトヘの吸着 により中和 殿物に含有すると推測され た。カルサイトは酸性雨をどで比較的容易に溶解してpH9.5 とをり、フ ェリハイドライトはアルカリ環境下では表面電荷が負とをる。よって、カルサイトの溶 解に伴って カルサイト相のヒ素が溶出すること、更にはアルカリ状態下でフェリハイドライトに吸 着したヒ素 が脱離する可溶性を示して いる。
(3)シュベ ルトマナイト生成の地球化学 モデリング:地球化学コー ド(Geochemist Workbench)に よるモデリ ングの結果、pH3〜5.5の範 囲でシュベルトマナイトが生 成する可能性を示している。
また 、殿物発生量を抑えてシュ ベルトマナイトを生成させる 適切をpHは約3.5と推測して いる。
(4)バ ッチ 試験 :(3)を 基に坑廃 水よルシュベルトマナイト を生成させる処理を実施した 結果、
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処理 後は全 ての試 験区で液相よルヒ素と鉄がほば完全に除去された。また、検討した中和剤のう ち、 固相中 のシュ ベルトマナイト以外の鉱物の生成量及び生成した固相の脱水に伴う作業性から CaC〇3が中和剤として適切であることが判明した。
(5)廃コンクリート微粉の中和剤としての検討:バッチ試験でヒ素と鉄を除去後の坑廃水に廃コン クリ ート微 粉を用 いて中 和滴定 した結 果、pH約3からpH7.5へ の調整に要する廃コンクリート微 粉の量は約lg皿であった。中和処理後の廃コンクリート微粉の鉱物組成は、ほば石膏のみであり、
廃 コ ン ク リ ー ト 微 粉 が 工 業 薬 品 と 同 程 度 の 中 和 効 果 を 有 す る こ と が 確 認 さ れ た 。
(6)フロースルー試験:実地試験の結果、坑廃水中のヒ素と鉄は処理によりほば完全に除去され た。固相の鉱物組成はシュベルトマナイトが66.5wt%、石膏が19.9wtゲ。であった。ヒ素の含有は 1.23wtワ。であり、ほば全量がシュベルトマナイト相に分配されており、シュベルトマナイトのヒ素 吸着量として1.85wt%であった。この試験結果から、坑廃水を中性まで中和せずpH3,5に調整し て酸化することで、坑廃水からシュベルトマナイトを生成してヒ素を除去すること、除去されたヒ 素はシュベルトマナイトに濃集することが実証された。
第4章では、現状と新しい坑廃水処理方法との比較から、新しい処理方法では現状の処理より中和 剤を1313wtゲ。、薬剤コストを46.7wt%、廃棄物と誼るヒ素含有殿物発生量を4613wtゲ。削減できる ことが明らかとをった。また、シュベルトマナイトによルヒ素を6wt%まで吸着して効率的に坑廃 水より除去することで、除ヒ素後の坑廃水からヒ素を含まをいシュベルトマナイトを生産できるこ とも明らかにしている。
第5章 では、 フロー スルー 試験の シュベ ルトマナイトを主成分とする沈殿物に対して加速変質試 験を行をい、シュベルトマナイトに吸着されたヒ素が長期的に固相に保持され、一部はより安定を スコロダイトへと相変化することを確認している。また、天然試料の分析結果から、シュベルトマ ナイ トに吸 着され たヒ素がスコロダイトヘ相変化することを裏付けるとともに、年代測定により 18,000年以上も安定にヒ素を保持することを示している。
第6章では本研究で得られた知見を総括し、自然浄化機構に学ぶ新しい坑廃水処理方法は現在の坑 廃水処理の課題である「コスト」「殿物発生量」の削減に大きく寄与し、更には産業廃棄物である 廃コンクリートの再利用を促進するとともに、坑廃水からヒ素の吸着材にをるシュベルトマナイト と建材をどに利用可能を石膏を資源として回収できることが示された。そして、この新しい資源回 収型坑廃水処理システムは、鉱山廃水を有価資源として捉えかつヒ素の長期安全性についても地球 化学的に説明された環境負荷低減技術であることを示した。
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学位論文審査の要旨 主査 准教授 佐藤 努 副 査 教授 米田哲 朗 副 査 教授 恒川昌 美
学 位 論 文 題 名
自然浄化機構に学ぶ資源回収型 鉱山廃水処理システムに関する研究
休廃止鉱 山では鉄やヒ素等を含む硫酸酸陸の坑廃水の発生が問題とをっている。中でも強酸性で高 いヒ素濃 度と莫大を水量を有する旧幌別硫黄鉱山坑廃水の中和処理は、中和殿物の大量発生、中和 殿物中の ヒ素の安全性、高い維持管理コストが大きを課題とをっている。一方、群馬県の旧西之牧 鉱山地域 では、同様にヒ素と鉄を含 む硫酸酸性の鉱山廃水中において、鉄酸化細菌が溶存2価鉄を 酸化して 低結晶の鉄鉱物シュベルトマナイトを生成し、構造中の硫酸との配位子交換により鉱山廃 水中のヒ 素を最大約6〜8wt%にまで吸 着、濃集し、長期的に安定 してヒ素を保持する自然浄化 機 構が認め られている。
そこで本 研究では、このシュベルトマナイトの自然浄化機構に学び、坑廃水からシュベルトマナイ トを合成 してヒ素を効率的に除去す る坑廃水対策技術を開発する ことを目的として研究を行をっ た。これ により、ヒ素を固体中で長期的に安定に保持させるとともに、ヒ素含有殿物を削減するこ とを目標 としている。
本 研 究 は 、 6章 で 構 成 さ れ て い る 。 各 章 の 概 要 は 以 下 の と お り で あ る 。 第1章は 序論であり、研究の背景、目 的について示している。
第2章 では 、ま ず対 象 の旧 幌別 硫黄 鉱山 の 坑廃 水、およびCaC03とCa(〇H)2を用いる現行の「2 段階中和 法」に対して行をった水質および中和殿物の分析、および地球化学コードを用いた坑廃水 からのシ ュベルトマナイト生成条件の検討を行をっている。そして、坑廃水からシュベルトマナイ ト を合 成し て ヒ素 を除 去す る 新し い坑 廃水 処理 方 法に つい て、 検討 の 詳細を記述している。
第3章で は、試験結果を示し、考察を 行をっている。
(1)坑廃 水の水質:対象坑廃水が高濃 度の鉄とヒ素を含み、放流 水はpHが中性でヒ素を検出し を かった。
(2)中 和 殿 物 の 性 状 : 中 和 殿 物 の鉱 物組 成 はカ ルサ イト が65.5wt%、 フ ェリ ハイ ドラ イ トが 14.7wt90、その他石英や石膏をどであることが確認された。中和殿物中の大量のカルサイトは中和 剤であるCaC〇3の過剰投入による残 留と推察された。また、ヒ素 がカルサイト相とフェリハイド ライト相 で検出されたことから、ヒ素はカルサイトとの共沈およびフェリハイドライトへの吸着に より中和 殿物に含有すると推測された。よって、カルサイトの溶解に伴ってカルサイト相のヒ素が 溶出する こと、さらにはアルカリ状態下でフェリハイドライトに吸着したヒ素が脱離する可溶性を
示している。 ―135−
(3)シュ ベルト マナイト生成の地球化学モデリング:地球化学コード(Geochemist sWorkbench) によるモデリングの結果、pH3〜5.5の範囲でシュベルトマナイトが生成する可能性を示している。
また 、殿物 発生量 を抑えてシュベルトマナイトを生成させる適切をpHは約3.5と推測している。
(4)バッチ試験:(3)を基に坑廃水よルシュベルトマナイトを生成させる処理を実施した結果、処 理後は全ての試験区で液相よルヒ素と鉄がほば完全に除去された。また、検討した中和剤のうち、
固相 中のシ ュベル トマナイト以外の鉱物の生成量および生成した固相の脱水に伴う作業性から、
CロC〇3が中和剤として適切であることが判明した。
(5)廃コンクリート微粉の中和剤としての検討:バッチ試験でヒ素と鉄を除去後の坑廃水に廃コン クリ ート微 粉を用 いて中和 滴定し た結果 、pH約3からpH7.5への調整に要する廃コンクリート微 粉の量は約1飢であり、廃コンクリート微粉が工業薬品と同程度の中和効果を有することが確認さ れた 。また 、廃コ ンクリー ト微粉 を使用 した中 和処理 後の澱 物組成はほば石膏のみであった。
(6)フロースルー試験:フロースル一試験結果から、坑廃水を中性まで中和せずpH3.5に調整して 酸化することで、坑廃水からシュベルトマナイトを生成してヒ素を除去すること、除去されたヒ素 はシュベルトマナイトに濃集することが実証された。
第4章では、現状と新しい坑廃水処理方法を比較・検討している。新しい処理方法では現状の処理 より中和剤を1313wt%、薬剤コストを46.7wt%、廃棄物とをるヒ素含有殿物発生量を46.3wtワ。削 減できることが明らかとなった。また、シュベルトマナイトによルヒ素を6wtゲ。まで吸着して効率 的に坑廃水より除去することで、除ヒ素後の坑廃水からヒ素を含まをいシュベルトマナイトを生産 できることも明らかにしている。
第5章 では、 フロー スルー 試験のシ ュベル トマナイトを主成分とする沈殿物に対して加速変質試 験を行をい、シュベルトマナイトに吸着されたヒ素が長期的に固相に保持され、一部はより安定を スコロダイトヘと相変化することを確認している。また、天然試料の分析結果から、シュベルトマ ナイ トに吸 着され たヒ素がスコロダイトヘ相変化することを裏付けるとともに、年代測定により 18,000年以上も安定にヒ素を保持することを示している。
第6章は本研究で得られた知見を総括して結論としている。
これを要するに著者は、新しく考案した自然浄化機構に学ぶ坑廃水処理方法が、現在の坑廃水処理 の課題である「コスト」「殿物発生量」の削減に大きく寄与すること、坑廃水からヒ素の吸着材に をるシュベルトマナイトと建材をどに利用可能を石膏を資源として回収できる可能性があること、
さらには処分される澱物中のヒ素の長期安全性についても地球化学的に説明された環境負荷低減技 術で あるこ とを示 したもの であり 、環境 資源工 学の発 展に寄 与するところ大顔るものがある。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 (工 学 ) の 学位 を 授 与 され る 資 格 があ る も の と認 め る 。
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