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日本人アトピー性皮膚炎患者におけるフイラグリン遺伝子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 長 谷 部 育 恵

学 位 論 文 題 名

日本人アトピー性皮膚炎患者におけるフイラグリン遺伝子      変 異 と 皮 膚 バ リ ア 機 能 障 害 に 関 す る 研 究

学位論文内容の要旨

[背景と日的]2006年表皮バリア関連蛋白で、顆粒層のケラトヒアリン顆粒の主成分 であるフィラグリンの遺伝子(FLG)変異がアトピー性皮膚炎(AD)の重要な発症因子で あることが示された。また皮膚バリア機能評価法としてTEWL(transepidermal water loss:経表皮水分蒸散量)および角質水分量が用いられており、各々電気的な湿度測定 機器の利用により、生理的な条件下で非侵襲的に表皮バリア機能を測定することがで きる。本研究の目的は、1) AD患者においてFLG変異を有することによる角層バリア機 能への影響にっいて調査すること、2)日本人AD患者におけるFLG変異の検索、3)FLG 変異が患者皮膚においてどのようにフィラグリンの生成に関係するかを調べることで ある。

【対象と方法】ユ, FLG変異を有する患童ユ壷さない患者で皮膚バリZ機饉瞳宣量遡定 FL6変異を有するAD患者、同遺伝子変異を有さないAD患者を各12人抽出した。国際的重 症度基準OSCORAD(objective severity scoring of AD,score range0−83)を重症度 の判定基準に用いて、各々の患者の臨床的重症度を調べた。加えて詳細な問診と採血に よる特異アレルゲン検査を施行した。

  次に臨床的に皮疹がない前腕屈側、伸側、背部の3か所からTEWL、角質水分量、皮膚 厚を3回ずつ測定し、平均をとった。角質水分量と角質厚はCorneometer・ASA‑M2 (ASAHI BIOMED,Yokohama,Japan)を、TEWLはEvaporimeter AS―TWl (ASAHIBIONIED,Yokohama, Japan)を用いて測定した。

2. AD患者におけるフィラグリンQ登現堕捻討

同意の得られた患者には皮膚生検を施行し、filaggrin repeatを検出可能な抗フィラ グリン抗体(mouse mAb 15C10゜、Novocastra社)による免疫組織化学染色を行った。

3.新規変墨と旦本人AD患者におけるFLG変異のスクリーニング

FL,ロの繰り返し配列をシークエンス可能なプライマーを用いて、新たに19人の日本人 AD患者FLG変異を スクリー ニングし た。計137人 の日本人AD患者と134人 の一般コ ントロール の末梢血 からDNAを採 取し、新 たに発見 した変異 の有無を検 索した。

堊:麺規壁堡壅墨量査主る患者でのフiラグリンmR墜量堕捻討

新 た に 発 見 し た 凡 ビ 変 異 を 有 す る 患 者 皮 膚 に お い て 、rea1一timereverse transcription―PCR法を用いてmRNA発現量を測定した。

【結果】!:壁壁壅墨量壷空蚕雛塾壷さない群も塵盧:!竺Z捲壟Lま低下し玉!ニ塰。

兄ロ変異を有する群も、有さない群も角質水分量は減少していた。そして、角質水分 量はフィラグリン変異を有する群は有さない群に比べてわずかに低下していたが、統 計学的有意差を認めなかった。それに対してTEwLは変異を有さない群が、変異を有す る群よりも有意に上昇していた。

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2. FLG変墨童査主る群の塾Zヒピニの堕庄塗艶重痙塵とTEWLとの間には垂堕塑閣童墾 めた。

Fビ変異を有する群では、アトピーの臨床学的重症度OSCORADと角質水分量との間に は負の相関、アトピーの臨床学的重症度とTEWLとの間には正の相関を認めた。しかし、

変異を有さぬい群ではそれらの相関は全く認めなかった。

3.  FLG変 異 を 有 す る 患 者 で は 角 質 肥 厚 と 顆 粒 層 の 低 墜 塵 を 認 塑 窒 エ 患者皮膚を用いた組織学的な検討では、FLG変異を有する群では、変異を有さない群 よりも皮膚厚の増加を認めた。それと同時にFLG変異のため、プロフィラグリンを主 要 な 構 成 成 分 と す る ケ ラ ト ヒ ア リ ン 顆 粒 は 低 形 成 と な っ て い た 。 4. FLG変異を有する群のみ臨床的重症度とダニ、ハウスダスト、ネ三上塵遮厘豊墨!直 値堕担園していr.̲oー

FLロ変異を有するADでは臨床的重症度とダニ、ハウスダスト、ネコ上皮抗原特異IgE と に 正の 相 関を 認めた 。この傾 向は変異 を有さない 群では認 められな かった。

5.新規FLG変墨p:Lys4022Xが同定されt̲o

新規の日本人AD患者において新規の遺伝子変異p.Lys4022Xを認めた。この変異はフ ィラグリン遺伝子のりピート配列の最終リピートの11番目にあり、現在報告された変 異で最もC末端寄りの変異であった。

6. 今 回 同 定 し た 新 規 変 墨 墾 盒塑 日 杢 △ AD患 者の27%にFLG変 異墾 墾 塑童 。 137人のAD患者でこの新規変異をスクリーニングしたところ、2.9%に認めた。健常コ ントロール134人には同変異を有する者はいなかった。過去の報告と合わせて、AD患 者の約270がFLG変異を有していた。一般コントロール群と比ベアトピー患者群では 統計 学的に有 意に変異の 保有率が 高いことが示された(x 2pニニ6.5X10―6)。

7.新 規変墨塾Lys4022Xを有する患者c塵盧から抽出したFLG堕mRNAは減少していな かったが ヨ生塵臺れたフィラグリンの量は低下していた。

新規変異を有する患者皮膚から抽出したFLGmRNAはコントロールと比して有意な減少 を認めなかった。しかし、組織学的には著明な顆粒層の低形成を認め、またフィラグ リン染色では生成されたフィラグリンの量の低下を認めた。

【考察】日本人AD患者をFLG変異の有無によって分け、FLG変異を有する患者では皮 膚のバリア機能と臨床的重症度が相関することを示した。FLG変異を有さない患者に 韜いては、皮膚のバリア機能と臨床的重症度は相関を認めなかった。これらのパラメ ーターと重症度との相関が、FLG変異を有する群のみで認められたことは、FLG変異を 有する群では、皮膚のバリア機能障害が基礎にあって、その機能障害がADの発症に大 きく関わっている可能性を示唆する。

  また、過去に報告されている中で最もC末端に近いFLGの新規遺伝子変異を発見し た。FLGで報告されている変異は最後のエクソンにあるためnonsense一mediated mRNA decayは起きず、患者の変異アレルからは不完全なプロフィラグリンが生成される。

新規変異を有していた患者皮膚によるReal−time PCRにおいてもmRNA量には著変なか った。しかし、免疫組織学的に患者皮膚の顆粒層を形成するフィラグリンタンパクの 減少を認めている。理論上、兄ロの最も3 側に変異を持っアレルから完全なプロフイ ラグリンに最も近いペプチドが生成され、最も多くのフィラグリンが生成されるはず であるが、今回の研究ではこの変異を持つ患者も重症なAD臨床像を示しており、変異 間での臨床症状の差は特に認められなかった。本研究はC末端の存在がフィラグリン の 生 成 に 不 可 欠 で あ る と い う 過 去 の 報 告 を 裏 付 け る も の で あ っ た 。   【結論】兄ロ変異を有することは直接に皮膚のバリア機能低下をもたらして、ADの発 症と重症化にっながることが示された。また、ダニ、ハウスダストなどの経皮的感作 も重要であることが示唆された。皮膚のバリア機能を把握することはADの経過観察に も有用であると同時に、変異のある病児においては特に、早期から保湿剤を使用しス

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キンケアに努めることで、AD発症と重症化を予防できる可能性があると考えた。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

日本人アトピー性皮膚炎患者におけるフイラグリン遺伝子      変 異 と 皮 膚 バ リ ア 機 能 障 害 に 関 す る 研 究

  アト ピー 性皮膚炎(AD)と近年発見された、皮膚 バリア機能を司るフィラグリン遺伝子 (FLG)変異 につ いて の一 連の 研 究内 容が 発表 され た。

  前 半 で は 日 本 人AD患 者 をFLG変 異 の有 無に よっ て分 け、FLG変 異を 有す る患 者で は 皮 膚の バリ ア機 能と 臨床 的重 症度 が相 関す るの に対 し、 同 変異 を有さない患者では両 者 間 に 相 関が 認め られ なか った こと が示 され た。FLG変 異を 有す る群 では 、皮 膚の バ リ ア機 能障 害が 基礎 にあ って 、そ の機 能障 害がADの 発症 に 大き く関わっている可能性 が 示 唆 さ れた とい う内 容で あっ た。 後半 では 、過 去に 報告 され て いる 中で 最もC末 端 に 近 いFLGの 新 規 遺 伝 子 変 異 の 発 見 が 発 表 さ れ た 。 新 規 変 異 を もつ 患者 皮膚 によ る Real−time RT−PCRにお いてmRNA量に は著 変な いの にも 関 わら ず、免疫組織学的に患 者 皮膚 の顆 粒層 を形 成す るフ ィラ グリ ンタ ンパ クの 減少 を 認め 、臨床的にも重症なAD 臨 床 像 が 示さ れた 。本 研究 はC末端 の 存在 がフ ィラ グリ ンの 生成 に不 可欠 であ ると い う 過去 の報 告を 裏付 ける もの であ ると いう 内容 であ った 。

  審 査 で はFLG変 異に よっ てお こる 顆 粒層 の減 少や 角質 厚の 肥厚 はフ ィラ グリ ンが 減 少 する ため か、 それ とも 異常 なフ ィラ グリ ンの 生成 が増 え るこ とによるのかと問われ た 。 発 表 者か らは フィ ラグ リン が減 少す るた めと 回答 があ った 。FLG変異 の有 無で 臨 床 像と 組織 像に 特徴 があ るの か問 われ た。 発表 者か らは 臨 床的 には変異の有無を見分 け 難い こと 、病 理組 織学 的に は変 異の ある 群で は顆 粒層 が 減少 、角質厚が増加すると い う 回 答 があ った 。新 規変 異を 有す るAD患者 の一 人( 患者A)に おい ては あま り角 質 厚 が上 昇し てい ない こと が指 摘さ れた 。発 表者 から は当 該 患者 はかってAD症状が強か っ たも のの 、現 在改 善し てお り、 組織 学的 にも 湿疹 性病 変 は少 なく、角質厚が増大し て い な か った とい う回 答が あっ た。FLG変 異の 人種 差の 理由 にっ いて 問わ れた 。発 表 者 か ら はfounder effectが 考え られ ると 回答 があ った 。FLG変異 を有 する 患者 で治 療 の 注 意 点 はあ るの かが 問わ れた 。発 表者 からFLG変 異あ る患 者に おい て経 時的 に皮 膚 バ リア 機能 を評 価す ると 、保 湿の 強化 によ り皮 疹が 改善 す るこ とが経験され、保湿を 積 極的 に行 うこ とで 、湿 疹性 病変 の軽 快に っな がり やす い 可能 性があるという回答が あ った 。患 者の 選び 方に っい て、 平均 年齢 と分 布に つい て 質問 があった。発表者から は 特に 有意 差が ない よう に選 んだ と回 答が あっ た。 角質 水 分量 とTEWLの測定について

一 芳

有  

  浩

邦 吉

本 水

沢  

  野

山 清

寺 鐙

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

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室内の状態に適応するとは具体的にはどのようなことかと質問があった。発表者から は脱衣し、衣服による影響をなくし、また被検者の緊張状態をなくしてから測定した という回答があった。Antigen retrievalとは何かとの質問があった。発表者からは 高圧高温による処置により、抗原を露出し、良好に免疫染色する手法という回答があ った。草木花粉とは何の草木由来かの質問があった。発表者からはスギであるという 回答があった。角質厚の個人差について、精度はどうかとの質問があった。発表者か らははっきりとした数字として精度を表すことはできないが、過去の魚鱗癬症候群患 者における検討で、組織学的皮膚厚と機器を用いて求めた皮膚厚とが非常によく相関 していたこと、また、ばらっきがでないように同じ験者により、同じ部位の皮膚にて 測定するように努めたことが回答された。人種問の変異保有率の差において、環境要 因の関与にっいての質問があった。発表者からは主に現在は欧州の報告が多いが、黒 人での報告もあり、低温乾燥などの増悪因子と変異との関連は、今後検討が必要であ るという回答があった。一般の中でのFLGの変異の頻度にっいての質問があり、回答 者からは欧州人の対照では8%に変異がみられたという回答があった。ADを発症するこ とによりFLG変異を生じる可能性についての質問があった。回答者からは、まず遺伝 性角化疾患である尋常性魚鱗癬でFLG変異が報告されたことより、同疾患に合併する ことのあるADにおいてもFLG変異が発見された経緯があるため、まず変異ありきであ る可能性があるが、経時的にみたという報告はないため、否定はできないと回答があ った。FLG以外にADに影響する変異はないかという質問があった。発表者からは他の バリア機能を司る分子の遺伝子多型などが研究されているものの、FLGほどに決定的 な も の は 現 在 の と こ ろ 発 見 さ れ て い な い と い う 回 答 が あ っ た 。   この論文は疾患の病態メカニズムを明らかにする重要な手掛かりを提起したといった点 で高く評価され、今後の病態解明や治療法の開発などにっながることが期待される。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。

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参照

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