氏 名 授 与 し た 学 位 専攻分野の名称 学 位 授 与 番 号 学位授与の日付 学位授与の要件
学位論文の題目
論 文 審 査 委 員
吉岡 洋祐 博 士 歯 学
博甲第5711号 平成30年3月23日
医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻
(学位規則第4条第1項該当)
Molecular alterations of newly formed mandibular bone caused by zoledronate
(ゾレドロネート投与が下顎新生骨の材質特性に及ぼす影響)
松本 卓也 教授 宮脇 卓也 教授 川邉 紀章 准教授
学位論文内容の要旨
【緒言】骨強度は骨密度と骨質にて評価され,骨質は構造特性と材質特性にて評価される.骨粗鬆症治療薬 であるビスフォスフォネート製剤(BP)は骨折防止を促す一方,頭頸部領域では薬剤の副作用として外科処 置後の顎骨壊死,またインプラント手術の手術成績への影響など顎骨手術の際に考慮すべき事項となってい るが,その原因,予防法は確立されていない.顎骨の骨質に関する研究の多くが構造特性に関する研究であ り,材質特性を分析した研究は非常に少ない.材質特性の解析方法の一つに顕微ラマン分光装置が挙げられ る.顕微ラマン分光装置は分子の振動情報により非接触かつ非破壊的に分子構造解析,結晶性評価等が可能 であり,近年,材質特性の評価において標準的なツールとなっている.本研究では顕微ラマン分光装置を用 いて,BP の代表薬であるゾレドロネート投与が下顎新生骨の材質特性に及ぼす影響を明らかにした.
【方法】卵巣摘出術および偽手術が施された 8 週齢 Wistar 雌性マウス 36 匹を使用した.順応 17 日後に,計 36 匹を以下の 3 群に分類しそれぞれの群にゾレドロネートまたは生理食塩水を皮下投与した.1. 卵巣摘出 術施行ラットにゾレドロネート(120 ug/kg; ヒト骨粗鬆症治療薬相当量)を皮下投与した ZOL 群,2. 偽手 術施行ラットにゾレドロネート投与相当量の生理食塩水を皮下投与した SHAM 群,3. 卵巣摘出術施行ラット にゾレドロネート投与相当量の生理食塩水を皮下投与した OVX 群に分類した.薬剤投与 2 日後に 3 種混合麻 酔(塩酸メデトミジン,ミタゾラム,酒石酸ブトルファール)による全身麻酔下にて左側下顎枝に直径 1.0mm の貫通孔を作製した.貫通孔作製 28 日後に,3 種混合麻酔による全身麻酔下にて右側大腿骨および下顎骨を 採取した.また,貫通孔作製 1 日後に ZOL 群より 1 匹のラットが死亡したため研究より除外した. peripheral quantitative computed tomography(pQCT)および micro computed tomography (microCT)を用いて右側大腿 骨を,pQCT および顕微ラマン分光装置を用いて下顎骨を評価した.
【結果】非脱灰大腿骨(SHAM 群 n=12; OVX 群 n=12; ZOL 群 n=11)を pQCT,microCT を用いて右側大腿骨の BMD および海綿骨パラメータを計測した.ZOL 群では OVX 群と比較し bone mineral density(BMD; mg/cm3),bone volume/ tissue volume (BV/TV; %),trabecular thickness (Tb. Th; um),trabecular number (Tb. N;
1/mm)の有意な増加,trabecular separation (Tb. Sp; um)の有意な減少を認め,SHAM 群と比較し BMD,BV/TV,
Tb. Th の増加,Tb. Sp の低下を認め,Tb. N においては有意差を認めなかった.加えて,非脱灰下顎骨(SHAM 群 n=12; OVX 群 n=12; ZOL 群 n=11)を pQCT および顕微ラマン分光装置にて解析した.pQCT にて下顎新生骨 の BMD を計測したところ各群間に有意差を認めなかった.顕微ラマン分光装置にて下顎新生骨の材質特性パ
ラメータを計測した.ZOL 群の下顎新生骨において,OVX 群と比較し BMD,B-type carbonate substitution に有意差を認めなかったが,Mineral/matrix の有意な増加,Crystallinity,Relative proteoglycan content および Collagen structural integrity の有意な低下,すなわちミネラル化度の亢進,結晶性の低下,プロ テオグリカン量の低下およびコラーゲン構造の完成度の低下を示した.
【結論】本研究は顕微ラマン分光法にてゾレドロネートの投与が下顎新生骨にミネラル化度の亢進,結晶性 の低下,プロテオグリカン量の低下およびコラーゲン構造の完成度の低下,すなわち,材質特性の評価因子 に影響を及ぼすことを示した.BP による顎骨の構造特性の劣化が顎骨手術成績に関与することが報告され ており,今後,顕微ラマン分光装置を用いた BP による既存骨への材質特性変化と顎骨手術成績について検 討が期待される.
論文審査結果の要旨
近 年 、骨 質 は 構 造 特 性 と 材 質 特 性 に て 評 価 さ れ る よ う に な っ て き た 。し か し 、顎 骨 の 骨 質 に 関 す る 研 究 の 多 く が 構 造 特 性 に 関 す る 研 究 で あ り 、 材 質 特 性 を 分 析 し た 研 究 は 非 常 に 少 な い 。 ラ マ ン 分 光 法 は 分 子 構 造 を 解 析 し 種 々 の 材 質 特 性 の 評 価 因 子 を 定 性 ・ 定 量 的 に 可 視 化・計 測 す る こ と で 、材 質 特 性 を 多 角 的 に 評 価 す る こ と が 可 能 で あ る 。本 研 究 で は ラ マ ン 分 光 法 を 利 用 し て ビ ス フ ォ ス フ ォ ネ ー ト 製 剤 (BP)で あ る ゾ レ ド ロ ネ ー ト ( ZOL) が 下 顎 新 生 骨 の 材 質 特 性 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 評 価 し て い る 。
本 研 究 で は 8週 齢 Wistar雌 ラ ッ ト に 卵 巣 摘 出( OVX)ま た は 偽 手 術( SHAM)が 施 さ れ 、処 置 22日 後 に 3群 ( 1.ZOL-OVX群 、 2.OVX群 、 3.SHAM群 ) に 分 け ら れ た 。 ZOL-OVX群 に ZOL( 120μ g /kg: ヒ ト 骨 粗 鬆 症 治 療 相 当 量 ) が 皮 下 投 与 さ れ 、 OVX群 、 SHAM群 に ZOL投 与 相 当 量 の 生 理 食 塩 水 が 皮 下 投 与 さ れ た 。 薬 剤 投 与 2日 後 に 下 顎 枝 に 貫 通 孔 が 作 製 さ れ 、 貫 通 孔 作 製 28日 後 に 大 腿 骨 、 下 顎 骨 が 摘 出 さ れ た 。 ZOLの 骨 粗 鬆 症 治 療 効 果 の 確 認 の た め に 大 腿 骨 が μ CT、 pQCT に よ り 解 析 さ れ 、一 方 、下 顎 新 生 骨 に 対 し て は ラ マ ン 分 光 装 置 、pQCTに よ る 解 析 お よ び 組 織 標 本 が 作 製 さ れ 解 析 が 行 わ れ た 。 そ の 結 果 、 以 下 の 点 が 明 ら か と な っ た 。
1 .ZOL-OVX群 の 大 腿 骨 で は OVX群 と 比 較 し 骨 密 度 、骨 量 、骨 梁 幅 、骨 梁 数 の 増 加 、骨 梁 間 隙 の 低 下 が 認 め ら れ た 。
2 .ZOL-OVX群 の 下 顎 新 生 骨 で は 、OVX群 と 比 較 し 組 織 像 、骨 密 度 、炭 酸 塩 含 有 量 に お い て 変 化 を 認 め ず 、一 方 、石 灰 化 度 の 増 加 、結 晶 性 、プ ロ テ オ グ リ カ ン 量 、コ ラ ー ゲ ン 構 造 の 完 成 度 の 低 下 が 示 さ れ た 。
以 上 の こ と か ら 、 ZOL投 与 下 の 下 顎 新 生 骨 で は 骨 密 度 、 組 織 像 に 変 化 が 生 じ て い な い 場 合 も ラ マ ン 分 光 法 を 用 い る こ と で 骨 ミ ネ ラ ル お よ び 骨 マ ト リ ッ ク ス の 質 の 劣 化 、 す な わ ち 材 質 特 性 の 劣 化 が 生 じ る こ と が 示 さ れ た 。
本研究で得られた知見と BP 投与患者の外科的処置後に生じる顎骨壊死、治癒不全など原因が確立 していない病態との関連性について示唆されており、有意義な研究であると考えられる。よって、審 査委員会は本論文に博士(歯学)の学位論文としての価値を認める。