製造現場向き生産管理支援システムの開発と特徴
増野 貢*1
Development and Characteristic of Production Support System for Manufacturing Field
Mitsuki Mashino
多種多様で生産形態の異なる製造現場において次々変化する物流処理は,汎用ソフトでは対応しにくく特注向き という分野である。この場合,「データベース(DB)+プログラム開発言語」は定番であるが,柔軟で自在な処理,論 理的な設計・開発になじみやすいとの考えから,データベース構築も含めてプログラム主体で生産管理支援システ ムを開発した。ここでは,開発事例の特徴である物流データに関連する各DBに即座にアクセスする工夫例およびユ ーザインタフェースも考慮した応用例を紹介する。
1 はじめに
中堅・中小企業は,事務業務だけでなく製造現場も 含めた生産管理システムへの関心は高い。汎用的な生 産管理システムパッケージあるいは特定業種向きのパ ッケージに自社の運用方法を迎合させる導入法は,初 期投資は少ないが,自社仕様にカスタマイズする場合 には相応の時間と予算も必要である。自社の生産形態 にマッチしたシステム開発を指向する場合は,ニーズ まとめや IT 化への手順など特に重要である。一方,
システム開発メーカが新たに特定現場の物流処理など に取り組む際,蓄積したノウハウだけでなく基本から のシステム構築も必要になる。
今回は,すでに報告した鋳物製造現場の生産管理シ ステム 1,2)をベースにして,一般的な生産管理の観点 から基本設計と特徴などについて報告する。まずソフ ト開発の定番は,「データベース(DB)+プログラム開発 言語」3)であるが,製造現場で次々変化する仕掛品な どの物流処理の観点からは,現在主流のリレーショナ ル DB は必須ではない。そこで,柔軟で自在な処理,
論理的で整合性ある設計になじみやすいとの考えから,
データベース構築も含めてプログラム主体で生産管理 支援システムを開発した。この事例の特徴として,流 動的な仕掛品に関連する各 DB 内のレコード番号を仕 掛品コードに追加することによって,各 DB に即座に アクセスして所望のデータを得る工夫例を紹介し,そ の応用例も示す。これらは,比較的シンプルなシステ ム構成では事足りるが,マルチユーザに対する DB 専 用ソフト開発の補足として,微妙な DB 周辺やユーザ
インターフェースを自作する際,有用と考えられる。
2 生産情報の流れ
受注から完了に至る生産情報の流れを図 1 に示す。
受注後,工場で生産される仕掛品は,顧客 DB,製品 DB,受注 DB,一時的に取掛 DB など経由しており,今 の生産状況が仕掛 DB に保存される。
図1 受注から完了までの生産情報の流れ
生産工場内では,仕掛品はいくつかの工程を経て仕 上工程に至る。図2に示す生産状況画面の大まかな利 用手順は以下である。まず,特定する仕掛品は製造工 程と製造ラインを指定して,材質や顧客などで検索す る。ついで,特定品に対して,実績日と数,担当者,
遅れや不良原因など入力して,チェックを付けたもの を次工程に送る。
*1 機械電子研究所
図2 例:生産工場における仕掛品の生産状況
3 開発システムの特徴
データベース構築および全体・細部に渡ってプログ ラム開発する。基本設計は以下である。
3-1 データベースのアクセス高速化
製造工程において,仕掛品に関する各データベース の系列と親子関係を図3に示す。顧客DBをルートに製 品DB,受注DB,仕掛DBに至る各ノードは親1子nのツリ ー構造である。このような事例は特殊ではない。
図3 仕掛品に関する各データベースの系列と関連
問題は,上記のような親子関係にあるデータベース 群を,速やかに同時アクセスすることである。ここで は,プログラム開発言語 Visual Basic に付属する基 本的なデータベースソフトを用いる。その DB ファイ ル編成は DB 保存先の任意のレコード位置に直接読み・
書きするランダムアクセスファイルである。この編成 法を利用した工夫は以下である。
a)製品データベースを顧客別に整理
特定の製品を追加・修正・検索など行う際には,一覧 表示された顧客群から特定の顧客を選んだ後,表示さ れた製品DB一覧から選択する。この場合,雑多な顧客 が混在した製品DBは避け,顧客別に製品DBに分別する ことによって,アクセスの高速化を図った(図4参照)。
製品DB名を顧客コードにしたので顧客の数だけ製品DB
群がある。
図4 顧客別に分けた製品データベース
b)仕掛コードにレコード特定情報の追加
仕掛品に関連する各DBからデータ取得や各DBへの読 み・書きを速やかに行うため,仕掛コードには顧客DB,
製品DB,受 注 DBおよ び仕 掛 DBの各 レコ ー ド特 定 情報
(製品DB名含)を追加した(図5参照)。対象とする仕 掛コードのレコード特定情報を分析するによって,所 望のデータベースに即座にアクセスできる。
図5 レコード特定情報をもつ仕掛コード
迅速に目的の各DBにアクセスすることは,CPUやハ ードディスクへの負荷減少の点でも,有益である。
3-2 進捗状況に関する機能と関連する処理
生産状況画面では,次工程への移動だけでなく,工 程戻しやデータ修正,在庫計算なども行う。厄介なの は分割出荷であり,この場合は,図3で示すような親1 子nのツリー構造が崩れるので工夫が必要である。
なお,工程表タブでは各工程で必要な工程表を表示 する。原因・担当者タブでは各工程での不良原因や担 当者など登録・削除を行う。これは,シーケンシャル ファイルで作った小さなDBで事足りる。
製造ライン・工程における仕掛品は生産進捗一覧画 面で状況を見渡せる。履歴画面では特定品について受 注,顧客・製品なども含めて詳細に見ることができる。
仕上げの済んだ仕掛品については,請求書,月報な どの後処理がある。身近な汎用ソフトExcelを用いて 請求書を作成するため,出荷・後処理画面の中で必要 なデータテーブルをExcelシートに渡す。月報は品質 管理などで活用できる。
4 おわりに
受注から出荷・後処理にいたる一連の生産管理支援 システムにおいて,主に製造現場で次々変化する生産 情報処理について,生産工場における仕掛品の生産状 況を例に基本設計と特徴を述べた。
3-3 ユーザインターフェース 新分野にアプローチするソフト開発メーカにとって,
基本からシステム構築する場面に遭遇したとき,報告 した基本設計など参考になれば幸いである。
ユーザインターフェースについての工夫例をいくつ か紹介する。
イ)統一的な操作手順
マウス操作は左上から右下が基本である。また,製造 工程,ライン,材質などの検索条件下でリスト表示さ れた仕掛品に対して,絞り検索やチェックしたものが 次工程移動など処理対象である。
5 参考文献
1)増野貢他:福岡県工業技術センター研究報告 No.16,
pp.111-113(2006)
2)増野貢他:福岡県工業技術センター研究報告 No.17,
pp.124-127(2007) ロ)タブ切り替えによる画面ベージめくり
生産状況だけでなく,原因・担当者や工程表などは関 連するタブをクリックすればよい。
3)小泉修:図解でわかるデータベースのすべて,日本 実業出版社(2007)
ハ)50音「あ~わ」から始まる顧客メニュー
キータッチが苦手な担当者でも容易に顧客選択できる。
3-4 考察
以上,生産状況画面の特徴や機能,その周辺につい て述べたが,データベースのアクセス高速化やユーザ インタフェースなどの特徴は他の画面でも同様である。
結局,顧客,製品DB,受注処理,進捗別検索,取掛計 画などの画面とLAN経由でのデータ共有化,データの バックアップを含めたものが製造現場向き生産管理シ ステムである。現場の各担当者と管理者双方の立場か らの見える化を考慮した。
本報告は,データベースのレコード番号を直接操作 する基本的な方法で,各DBへ同時にアクセスする工夫 例を紹介したものである。企業内で閉じたシステム構 成ではこれで事足りる場合もある。しかしながら,マ ルチユーザに対する保守・セキュリティ機能を十分満 足 す る に は , ミ ド ル ウ ェ ア な ど を 介 す る DBMS(Data Base Management System)が 適 切 で あ る3)。 こ の よ う な大きなシステム開発の補足として,かゆいとところ に手の届くDB周辺やユーザインターフェースなど自作 する際,本報告の工夫や応用例が役立てば幸いである。
最も時間を費やすのは,生産現場のノウハウなど隠 れたナレッジを抽出して仕様まとめすることである。
生産現場とのすり合わせが重要である。なお,生産管 理 シ ス テ ム 導 入 を 検 討 す る 中 小 企 業 に と っ て , 文献1,2)が参考になれば喜ばしい。