緒 言
Allergic bronchopulmonary aspergillosis(ABPA)は 近年,診断基準を確実に満たさなくても臨床経過・検査 結果から総合して ABPA として報告されているものも ある.また,治療においてもステロイドホルモン(ステ ロイド)を使用せず,抗真菌剤のみで改善したという報 告もある.我々は,喘息症状・中枢性気管支拡張症を欠 くが過去の報告例と照らし合わせ ABPA と診断した症 例に対し,イトラコナゾール(ITCZ)の投与により症 状・検査データは改善したが中止により再燃し,同薬投 与再開により有効性を認めたのでここに報告する.
症 例
症例:67 歳,女性.
主訴:咳嗽・喀痰.
既往歴:気管支喘息や他のアレルギー性疾患を含め特 記すべきことなし.
家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:2002 年 8 月 22 日頃より咳嗽・喀痰を自覚し た. 近医を受診し血液検査にて好酸球増多・CRP 陽性,
胸部 X 線検査にて左肺の異常影を認め精査加療のため 9 月 11 日に当院へ紹介入院となった.
入院時現症:身長 155 cm,体重 48.8 kg,体温 36.4℃,
脈拍 86 回!分整,血圧 120!70 mmHg,貧血・黄疸なく,
表在リンパ節は触知しなかった.胸部聴診では心音清,
肺野にラ音は聴取しなかった.腹部,四肢に異常は認め なかった.
入院時検査成績(Table 1):血算では白血球数は正常 だが好酸球数は 1,494!
µ
l と増加していた.CRP と赤沈 が異常値を,そして IgE 値(RIST)は高値を示してい た.Aspergillus fumigatus(A. fumigatus)に対する特異 的 IgE 抗体(RAST)は score 4 を示した.A. fumigatus に対する沈降抗体検査は陽性であった.ラテックス凝集 法による血中アスペルギルス抗原は陰性であった.アス ペルギルス抗原の皮内反応は施行しなかった.動脈血ガ ス分析では軽度低酸素血症を認めたが,肺機能検査では 正常パターンを示した.入院時胸部 X 線(Fig. 1):左上中肺野に辺縁不整な 浸潤影を,そして下肺野に辺縁不正な結節影を認めた.
入院時 CT 所見(Fig. 2a,b):左 B3と舌区に浸潤影 を認めた.明らかな中枢性気管支拡張像の指摘は困難で あった.
気管支鏡検査:左上幹入口部に黄色痰を,そして左 B3 入口部に黄褐色の粘液栓を認め,左舌区で気管支肺胞洗
●症 例
イトラコナゾール再投与が有効だった再燃アレルギー性 気管支肺アスペルギルス症の 1 例
宇治 正人1) 洲鎌 芳美2) 西田 恵子3) 松下 晴彦3)
要旨:症例は 67 歳女性.咳嗽,喀痰を主訴に来院した.血液学的検査,胸部 X 線・CT,気管支鏡検査な どをもとに後述する理由からアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)と考えた.イトラコナゾー ル(ITCZ)単独投与で治療を開始したところ,それらの症状・データは徐々に改善してきた.一時休薬す ると同様の症状・データの悪化を認め,投薬再開で改善を認めた.本症例では気管支喘息と中枢性気管支拡 張症を認めなかったが ABPA と診断するに至った根拠,そして ITCZ 単独治療中止後の ABPA 再燃と同薬 再開により治療効果を認めたことから,気道内のアレルゲンの源であるアスペルギルスを ITCZ で除菌する 意義について若干の考察を加えて報告する.
キーワード:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症,イトラコナゾール,除菌,再燃,診断基準 Allergic bronchopulmonary aspergillosis(ABPA),Itraconazole(ITCZ),Eradication,
Recurrence,Criteria for diagnosis
〒590―0808 大阪府堺市旭ヶ丘中町 4―3―1
1)大阪府立身体障害者福祉センター附属病院
〒545―8586 大阪府大阪市阿倍野区旭町 1―5―7
2)大阪市立大学大学院医学研究科病理病態学
〒594―0071 大阪府和泉市府中町 4―10―10
3)和泉市立病院
(受付日平成 16 年 9 月 6 日)
Table 1 Laboratory data on admission
Biochemistry Serology
Complete blood cell count
TP 8.0 g/dl
CRP 2.95 mg/dl RBC 405 × 104 / μl
Alb 4.1 g/dl
ESR 48 mm/hr
Hb 12.5 g/dl
T-Bil 0.8 mg/dl IgG 2,100 mg/dl
Ht 36.1 %
AST 12 IU/l
IgA 285 mg/dl
WBC 8,300 / μl
ALT 8 IU/l
IgM 258 mg/dl
Nt 52.0 %
γ-GTP 16 IU/l IgE(RIST) 630 IU/ml
Ly 27.0 %
ALP 188 IU/l Specific IgE(score)
Mo 2.0 %
LDH 195 IU/l A. fumigatus 4
Eo 18.0 %
BUN 10.3 mg/dl Precipitating antibody
Ba 1.0 %
Cre 0.5 mg/dl
A. fumigatus (+)
Plt 21.6 × 104 / μl
Na 142 mEq/l
Pulmonary function test Blood gas analysis
K 4.1 mEq/l
VC 2.42 L
pH 7.436
Cl 104 mEq/l
%VC 103.8 % PaCO2 42.3 torr
FEV1.0 1.82 L PaO2 75.7 torr
FEV1.0% 74.9 % SaO2 95.2 %
a a
b b
浄(以下 BAL),左 B3にて肺生検を行った.生食 150µ
lで行った BAL では, 回収率 6.6% と不充分であったが,
総細胞数 8.0×106!
µ
l,細胞分類はマクロファージ 1.6%,リンパ球 1.6%,好中球 95.4%,好酸球 1.4%,好塩基球 0% と,著明な好中球の増多を認めた.
肺生検組織像:左 S3の浸潤影部から採取した経気管 支肺生検の H-E 染色組織所見では,肺胞壁の軽い浮腫 状の肥厚と器質化病変が認められ,リンパ球・好中球・
好酸球の浸潤を認めた.真菌は認めなかった.
臨床経過(Fig. 3):2002 年 9 月 12 日の気管支鏡検査 後より抗生剤レボフロキサシン(LVFX)300 mg!日を 投与したが咳嗽・喀痰などの症状は変わらず,肺浸潤影 も増悪しており,CRP は 3.60 mg!dl,白血球数は 7,400!
µ
l(好酸球数は 2,146!µ
l)と増悪を認めた.入院後の喀 痰培養で常在菌しか検出されず,気管支鏡検査の粘液栓培養からA. fumigatusが検出された.またβ刺激薬を用
いた気道可逆性試験では改善率 14.4% を認め軽度の気 道可逆性ありと判定した.以上の臨床経過および検査結 果を Rosenberg らの診断基準1)と比較すると,一次基準 は 4 項目,二次基準は 2 項目しか満たしていないが過去 Fig. 1 Chest radiograph on admission showing infiltra-
tive shadows in the left lung.
Fig. 2a, b Chest CT on admission showing consolida- tion in the left upper lobe but no apparent central bronchiectasis.
の報告例と照らし合わせた結果 ABPA と考えた.2002 年 9 月 17 日に LVFX を中止し ITCZ 200 mg!日の投与 を開始した.その後徐々に咳嗽と喀痰が減少し ITCZ 投 与 5 日目には白血球数 5,400!
µ
l,好酸球数 502!µ
l,CRP 0.34 mg!dl に低下した.また胸部 X 線でも肺浸潤影は 軽度改善した.退院後は ITCZ を継続し症状・血液検査 データ・浸潤影の更なる改善を確認した.2003 年 2 月 に症状がほぼ皆無となったため,患者希望により ITCZ 100 mg!日へと減量しそれでもほぼ無症状のため,2003 年 4 月には投薬を中止した.しかし,約 2 カ月後に再び 症状の悪化(咳嗽・喀痰),好酸球増多(好酸球数 897!µ
l),高 IgE 血症(IgE RIST 値 1,350 IU!ml),胸 部 X 線での異常影の悪化を来たした(Fig. 4).ABPA の再 燃と考え,ITCZ を再開した.すると次第に症状,各種 検 査 デ ー タ は 再 び 改 善 し,2004 年 6 月 現 在 ITCZ 200 mg!日を継続投与中で経過良好である(Fig. 5).考 察
ABPA は通常,気 道 内 のA. fumigatusの 菌 体 成 分 に 対しアレルギー反応を起こし,末梢血好酸球増多症・気 管支喘息・一過性肺浸潤などを生じ,気管支拡張症・肺 線維症まで生じる進行性破壊性の疾患である2).しかし Fig. 3 Clinical course.
Fig. 4 Chest radiograph in July 2003 showing a slight linear shadow and a nodular shadow in the left lung field.
Fig. 5 Chest radiograph in June 2004 showing almost complete resolution of the shadows demonstrated in Fig. 4.
最近では必ずしも Rosenberg らの診断基準をすべて満 たすわけでないが ABPA と考えられる症例が報告され ている3)〜9).これらは,疾患概念の普及・検査技術の発 展により早期の診断が可能となったためであろう.
本症例ではまず,胸部 CT 上中枢性気管支拡張症を指 摘できなかった.この理由としては,中枢性気管支拡張 症という不可逆的臓器障害が生じる前に,血液検査・胸 部レントゲン写真で本症が疑われ早期に発見することが できた事が一因と我々は考えている.これは臨床的・血 清学的・放射線学的検討から,中枢性気管支拡張症を呈 しない ABPA はその病期の中で最も早い病期にあるか ABPA の病勢が激しくない病態にある,と結論付けて いる報告が多いことによる5)〜8).次に本症例では,血清
学上のA. fumigatusに対するアレルギー反応は確認した
が臨床上の喘息症状を認めなかった.しかし喘息を伴わ ない ABPA に対し病理形態学的な観点から解析を行っ ている報告がある.北らは,喘息症状がなくとも気管支 粘膜生検所見から喘息と同様の病変が出ていることを確 認し ABPA と診断している9).また蛇沢らの ABPA に 関する手術例からの病理形態学的研究によれば,粘液栓 を一義的病変と,そして末梢肺野の浸潤影や中枢性気管 支拡張症を二義的病変と考え,診断に際し粘液栓の重要 性を再認識するよう説いている10).そして ABPA が疑 われる症例に遭遇した場合まず粘液栓を検索すべきであ り,その中に組織学的に大量の好酸球およびその真菌が 見出されれば ABPA と診断してよいと考えている.そ うすることにより,喘息のない症例や免疫反応を欠く症 例を速やかに診断できる可能性を示している.本症例で は気管支粘膜生検を施行していないのでその点での検討 はできていない.しかし気管支鏡検査時に粘液栓の存在 を確認し,採取した粘液栓の培養からA. fumigatusを同 定した.これは同時に喘息症状や中枢性気管支拡張症が なくとも,粘液栓が生じえることを示唆する.以上より 我々は本症例を ABPA と考えた.
そして,ABPA をアレルギー疾患としての側面だけ ではなく,粘液栓を増殖巣とするアスペルギルス感染症 としての側面からも病態をとらえようとする意見もあ る10)11).各種抗真菌剤が ABPA に対して使用されてきた 中で,ITCZ は副作用が少なくアスペルギルスに対し高 い抗菌作用を持ち,そして ABPA に対する有効性も認 められるようになってきた12)〜15).Rosenberg らの診断 基準の二次項目である喀痰中のアスペルギルスの存在証 明について,この診断基準が設けられた当時では本症は アレルギー疾患としての認識が強くステロイド治療が行 われていたため,その存在証明は一次項目には含まれな かった可能性がある.しかしアレルゲン除去ということ になれば,その源である気道内真菌の存在証明の必要性
は高くなると考えられる.
また,ITCZ の ABPA に対する投 与 量・治 療 期 間・
再燃性についてであるが,本症例は ITCZ 200 mg!日を 約 7 カ月間で漸減・中止し,その約 2 カ月後に症状・肺 浸潤影・血液学的再燃を認め,ITCZ 単独治療を再開し 改 善 し た.Germaud ら は 12 例 の ABPA に 対 し ITCZ 200 mg!日で 6 カ月以上治療し,11 例に有効性を認めて いるが,そのなかで ITCZ 中止後 2〜5 カ月後に 5 例が そして 14 カ月後に 2 例が再燃を来たしたと報告してい る13).また Denning らは,ITCZ 400 mg!日で 4〜6 カ月 の治療が有効であった 6 例の ABPA(3 例は cystic fibro- sis を 合 併)の 中 で,ABPA 1 例・cystic fibrosis 合 併 ABPA 1 例において投薬中止後,血清学的あるいは臨床 症状の再燃を 2〜6 カ月後に来たし ITCZ 再開でそれら が改善したと報告している15).本症例の再燃性に関し て,我々は他著者らと同様に ITCZ を 6 カ月以上投与し てきたが 100 mg!日の治療期間もあるがゆえに再燃した とも考えられる.そこで ITCZ による治療に関しこの疾 病再燃性の一因に気道内のアレルゲン除去率,つまり真 菌除去率を考えた.ITCZ 投与により真菌が減少し,ア レルゲンが減少する.それによりアレルギー反応(末梢 血好酸球数・IgE 値・浸潤影など)の改善がもたらされ る.ここでアレルゲン除去あるいは真菌除菌効果が乏し ければ,菌の再増殖つまりアレルゲンの再増加を来たし,
その結果アレルギー反応の再活性化をもたらす.そして 臨床上あるいは検査データ上の再燃が起こると推測し た.しかし,気道内のアレルゲンの残存または残存菌の 証明については喀痰検査だけでは不充分であり,しかも 治療前後での定量比較となると非常に困難となる.もち ろんこのような微生物の生着を許す,あるいはこのよう な免疫応答を示す宿主側の気道粘膜にも原因があるのか もしれない.
以上,アレルゲンの源であるアスペルギルスとその温 床となる粘液栓の気道内の存在証明,そして ITCZ によ る除菌の意義について考えた.また,疾患概念・病期を 見直した ABPA の新たな診断基準の確立と,ABPA に 対する治療の見地から ITCZ の投与量・期間・ステロイ ドの必要性,そして最終的には不可逆的臓器障害への進 展阻止などが将来解決すべき問題点と考えられた.
引用文献
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Abstract
A case of effective readministration of itraconazole for recurrent allergic bronchopulmonary aspergillosis
Masato Uji, Yoshimi Sugama, Keiko Nishida and Haruhiko Matsushita Department of Internal Medicine, Izumi City Hospital
A 67-year-old woman suffered from productive cough but not from bronchial asthma. Her peripheral blood showed eosinophilia, a high serum level of total immunoglobulin E(IgE), and elevated specific IgE and positive precipitating antibody againstAspergillus fumigatus. Her chest radiograph and computed tomography revealed in- filtrative shadows but not central bronchiectasis. Fibreoptic bronchoscopy detected some mucous plugs which grewAspergillus fumigatus on culture. We therefore made a diagnosis of allergic bronchopulmonary aspergillosis
(ABPA). We treated her using only itraconazole. Her respiratory symptoms, eosinophilia, serum IgE level, and pulmonary infiltration gradually improved, but withdrawal of itraconazole exacerbated her respiratory symptom and laboratory data. Administration of itraconazole again resulted in improvement of her symptoms and labora- tory data. We report a case of ABPA without bronchial asthma or central bronchiectasis and refer to our diagnos- tic rationale. Furthermore, we discuss the decrease of allergens by the eradication ofAspergillus fumigatusin the airway with itraconazole to reduce the allergic reaction and improve the clinical symptoms.