• 検索結果がありません。

協同組合の今日的意義

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "協同組合の今日的意義"

Copied!
52
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

2007 12 DECEMBER

協同組合の今日的意義

●協同組合理論の展開と今後の課題

●農業協同組合の新たな位置づけについて

2 0 0

7

60 12

12

2007

12

月号第

60

巻第

12

号〈通巻

742

号〉

12

日発行

(2)

農林中金総合研究所は,農林漁業・環境 問題などの中長期的な研究,農林漁業・

協同組合の実践的研究,そして国内有数 の機関投資家である農林中央金庫や系 統組織および取引先への経済金融情報 の提供など,幅広い調査研究活動を通じ 情報センターとしてグループの事業を サポートしています。

ギャップを埋める作業

組織に求められる役割・使命は時代を経るに従って変わっていく。

そして,求められる役割を果たすために必要な「あるべき姿」(制度・体制・人材・考え 方など)と現状の間には,必ずギャップ(隔たり,すき間)がある。経営者の仕事はこのギ ャップを埋めていくことにほかならない。

例えば,人材・人的資産について見てみると,業務が高度化・専門化し,新しい業務へ の取組みも増えてくる一方で,その一時点での人的資産は必ずしも十全に業務をカバーす るものではない。つまり,あるべき人的資産・人材ポートフォリオとその時点での「現状」

との間にギャップが生じているということだ。人的資産の場合,ギャップを埋めるための 最も重要な手段が能力開発・研修・育成であることは間違いない。また,どうしても間に 合わない場合は必要な知識・スキルを有する人材の補充(採用)が必要になる。

「あるべき姿」との間に,何が足りていて,どこが足りないか,将来的にも安定的に役 割を担っていくために不足はないか・・・という視点で,まずギャップ分析を行い,足りな い部分を着実に埋めていく。ひとつずつ,辛抱強く,地道に。

もっと大きな範疇には,現行制度そのものが現状あるいは本来担うべき役割を果たすた めに十分に機能するものであるのかどうか,「あるべき姿,制度」との間にどれだけ隔た りができているのか,を検証する作業がある。制度改正はこの作業から始まる。

協同組合組織の役割も時代に応じて変化する。そしてその変化に今の制度あるいは法体 系がマッチしているのかどうか,ギャップはないか,の検証がまず必要である。あるいは それ以前に,組織として協同組合の枠を越えることが求められないか,ほかの組織形態が より適合的ではないか,という分析が必要になる場合があるかもしれない。

ここで注意すべきは「あるべき姿」をどのような視点で描くかということだ。今の時代 に担う役割を担保できる姿を描くのか,さらに将来的に担うべき役割・機能を先取りした 理想形を描くのかによって,内容は異なる。理想形とのギャップはより大きくなるが,将 来像を織り込んだものでないと,すぐに時代遅れになるだろう。

そして,そのギャップを埋めるにあたって大事なことは,無批判に類似の制度を移植す るのではなく,自らの頭でとことんよく考えることだ。

今月号のテーマは「協同組合の今日的意義」。何が本当に重要なことなのか,失っては いけないものは何なのか,十分に議論すべき時期がきている。

(株)農林中金総合研究所常務取締役 岡山信夫・おかやまのぶお

今 月 の 窓

99年4月以降の『農林金融』『金融市場』

などの調査研究論文や,『農林漁業金融統計』

の最新の統計データがこのホームページから ご覧になれます。

また,メールマガジンにご登録いただいた 方には,最新のレポート掲載の都度,その内 容を電子メールでお知らせするサービスを行 っておりますので,是非ご活用ください。

農中総研のホームページ http://www.nochuri.co.jp のご案内

*2007年11月のHPから一部を掲載しております。「最新情報のご案内」や「ご意見コーナー」もご利用ください。

【農林漁業・環境問題】

・米国2007年農業法とWTO対応

――農産物計画の動向――

・農業収奪から農業支援へと着実に転換しつつある中国

・長いもの産地ブランドづくりと輸出振興

――北海道帯広市――

・JA東京むさしにおける食農教育の取組み

【協同組合】

・オランダの農業・食品産業とラボバンクの事業展開

・森林組合を巡る近年の政策動向

――「集約化事業」の位置づけと背景――

・農協利用構造の変化と組合員との関係再構築の課題

【組合金融】

・2006年度の農協金融の回顧

【国内経済金融】

・賃貸住宅建設会社の経営戦略と賃貸住宅経営

・高齢者雇用への企業の対応

・動き出した民営郵貯と地域金融サービスへの影響

・人口減少と求められる対策

・高齢化と家計の貯蓄率の動向

【海外経済金融】

・原油市況高騰の背景と今後の動向

本誌に掲載の論文,資料,データ等の無断転載を禁止いたします。

みど くろ 最 新 情 報

トピックス

2007〜08年度改訂経済見通し 今月の経済・金融情勢(11月)

(3)

農 林 金 融

60

巻 第

12

号〈通巻742号〉 目  次 今月のテーマ

今月の窓

談 話 室

協同組合の今日的意義

(株)農林中金総合研究所常務取締役 岡山信夫

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 鈴木宣弘

――

本誌において個人名による掲載文のうち意見に わたる部分は,筆者の個人見解である。

統計資料 ――

38

貿易自由化・規制緩和の波と日本の食料・農業・農村

24

清水徹朗

―― 2

協同組合理論の展開と今後の課題 ギャップを埋める作業

農業協同組合の新たな位置づけについて

原 弘平

―― 13

平成

19

年度第1回農協信用事業動向調査結果

本田敏裕

―― 33

室屋有宏

―― 26

外国人ジャーナリストが見た日本の「食」と「農」

――IFAJ日本大会参加者へのアンケート調査の概要――

<第

60

巻総目次>巻末添付

(4)

農林金融2007・12

2

- 624

〔要   旨〕

1 世界各地に協同組合が存在しており,株式会社が大きな影響力を有している日本におい ても,農協,生協などの協同組合が一定の勢力を有しているが,今日の経済社会における 協同組合の存在意義や今後の展開についての理論的解明が求められている。

2 欧州において協同組合は,いち早く産業革命を迎えたイギリスにおいて始まり,ドイツ ではライファイゼンによる信用組合が設立された。協同組合が普及するにつれて協同組合 に関する研究も盛んになり,19世紀の経済学者の多くは協同組合に高い関心を持ち,一定 の評価をしていた。

3 日本における協同組合の普及も資本主義経済の発展と関係しており,明治政府は,商品 経済が浸透しつつある農村部の安定のため,ドイツの信用組合制度を導入することを検討 し,1900年に産業組合法が制定された。産業組合法制定の前後に,産業組合制度の形成・

普及に関与した人々による解説書が多く書かれた。

4 産業組合は,1930年代に農村経済更生運動の担い手として位置づけられ,こうしたなか で産業組合によって資本主義を改革するという協同組合主義(産業組合主義)が唱えられ た。これに対して近藤康男は,産業組合の機能は商業利潤の節約であり,資本主義そのも のを変革することはできないと批判した。

5 戦後の民主的改革のなかで農協が設立され,農協のあり方を巡る研究が盛んになった。

戦後の協同組合理論は近藤理論をどう克服・発展させるかを中心に展開したが,70年代に なると協同組合論は多様化し,「近代経済学」による協同組合研究も進められた。

6 米国でも農協は広く普及しているが,その協同組合理論は企業理論を適用したものであ り,欧州や日本の協同組合論とは異なる展開を示した。その米国において,20年ほど前か ら,経済学の転換を背景にゲーム理論,情報の経済学,組織の経済学,所有権理論などを 適用した新しい協同組合理論が現れている。

7 今後の協同組合,農協のあり方を検討するために,情報,リスク,制度の経済学など米 国で展開されている経済理論は参考になり,今後,日本においても,これらの手法を活用 して,協同組合の存在意義や協同組合金融の理論,協同組合の経営問題に関する研究が進 展することが期待される。

協同組合理論の展開と今後の課題

(5)

農林金融2007・12

3

- 625 現在,世界各地に多くの協同組合が存在

しており,

ICA

(国際協同組合同盟)によ れば,協同組合に参加している人は世界全 体で8億人以上いる。日本においても,株 式会社が大きな影響力を有している現代の 経済社会のなかで,農協,生協をはじめ多 くの協同組合が存在しており,一定の勢力 を有している。現在存在しているものは存 続してきただけの理由があり,協同組合,

特に農協が今日の日本で存在しているのは 理由があってのことである。

経済のグローバル化が進み,市場経済,

規制緩和の主張が強まっているが,そのな かで協同組合の存在意義とは何であり,今 後どう展開していくべきであろうか。これ までこの問題に関して数多くの著書,論文 が書かれてきたが,本稿では,これまでの 協同組合理論の歴史をたどるとともに,今

後の協同組合理論の課題について考えてみ たい。

人類(他の動物も同様)は,いつの時代 においても,生存のために様々な共同体,

協同組織を形成してきたが,今日に至る

「制度としての協同組合」が形成されたの は,いち早く市民革命,産業革命を迎えた イギリスにおいてである。イギリスでは,

18

世紀以降,エンクロージャーによって農 村共同体が解体され,都市部への人口集中 が起き工場労働者が形成されたが,資本主 義の初期の段階において労働者が酷使さ れ,長時間労働や児童労働が問題になった(注1) こうした問題の発生に対応して社会改革運 動が起き,政府は救貧法や工場立法を制定 したが,一方で,労働者の困窮を改善する ための協同組合が設立されるようになっ 目 次

はじめに

1 欧州における協同組合の形成と 経済学者の諸見解

2 日本における協同組合の形成と 初期協同組合論

3 「協同組合主義」とその批判 4 戦後における協同組合研究の展開

(1) 農協の設立と協同組合研究の進展

(2) 近藤理論の批判と克服

(3) 協同組合論の多様化

(4) 協同組合の「近代経済学」的解明 5 米国における協同組合理論の新展開

(1) 米国の協同組合理論の特徴

(2) 経済学の転換と新しい協同組合理論の出現

(3) 新世代農協の出現とその評価 6 協同組合理論の今後の課題

(1) 協同組合の存在意義

(2) 協同組合金融の理論

(3) 協同組合の経営問題

はじめに

1 欧州における協同組合の 形成と経済学者の諸見解

(6)

た。そのなかで思想的に特に大きな影響を 与えたのがロバート・オウエンであり,オ ウエンの協同組合思想の影響を受けたロッ チデール公正先駆者組合1844年設立) 運営原則が,後に

ICA

の協同組合原則に発 展していった。

一方,イギリスより資本主義の発達の遅 れたドイツでは,ライファイゼンが高利貸 資本から農民を救済するための農村信用組 合を設立し(1862年),それが欧州をはじ め世界各地に広がっていき,さらに農産物 販売のための協同組合も各地に誕生した。

このように,協同組合は,商品経済,貨 幣経済が発展するなかで個々では弱い立場 にある労働者,市民,農民,中小事業者が,

自らの経済的地位の向上や生活防衛を目的 に設立したものであり,その思想,事業が 多くの人々の共感を呼んで世界各地に普及 していった。

協同組合が普及するようになると,協同 組合をめぐる論争・研究も盛んになった。

アダム・スミスを受け継いで古典派経済学 を発展させたリカードはオウエンの協同組 合思想を批判したが,(注2)

J.S.ミルは協同組合

を評価しており(『経済学原理』(1848)) マーシャルも協同組合を評価したが,一方 で そ の 欠 点 も 指 摘 し た(『 産 業 経 済 学 』

(1879))。また,一般均衡理論の創始者で あるワルラスは一時期協同組合運動にかか わっていたし,限界革命の提唱者の一人で あるジェボンズにも協同組合についての論 考があった。(注3)

このように,

19

世紀の経済学者にとって

協同組合は無視することのできない重要な 社会運動であり,新古典派経済学(いわゆ る「近代経済学」を構築した経済学者も協 同組合に強い関心を持ち,一定の評価をし ていたことがわかる。

(注4)

(注1)当時のイギリスの労働者の状況については,

F.エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の 状態』(1845),K.マルクス『資本論』(1867)

に詳細な記述がある。

(注2)丸山武志「オウエンの協同原理対リカード の市場原理」(『オウエンのユートピアと共生社 会』(1999))

(注3)中久保邦夫「初期協同組合運動と経済学者」

『協同組合奨励研究報告』第12輯(1986)

(注4)ケンブリッジ大学でマーシャルの後任とな ったピグーの主著『厚生経済学』(1920)には協 同組合に関する章があり,ケインズの同世代の 経済学者ロバートソンも協同組合について論じ ている。また,マルクスはオウエンを社会主義 の先駆者として評価しており,レーニンは社会 主義建設に果たす協同組合の役割を主張した。

日本において協同組合が形成されたの は,欧州と同様に資本主義経済の発展と密 接に関係しており,日本は明治維新以降,

世界の資本主義体制に組み込まれ,そのな かで生糸の販売組合などが設立された。

また,農村部において商品経済,貨幣経 済が浸透していくなかで没落する農民が多 く現れてきたため,明治政府は農村社会の 安定のためドイツの信用組合制度を導入す ることを検討し,

(注5)

1900

(明治33年)に産

業組合法が制定された。その後,産業組合 は,農会(農業技術普及組織)の支援を受け て農村部を中心に急速に普及していった。

農林金融2007・12

4

- 626

2 日本における協同組合の 形成と初期協同組合論

(7)

明治期には国民のほとんどは農村部に居 住しており,明治政府の産業組合育成政策 は農村の安定が日本の国家体制の安定につ ながるという考えに基づいていた。産業組 合法制定において中心的役割を果たした平 田東助が,後に内務大臣になり,中央集権 的な地方自治制度形成の中心人物であった 山県有朋と密接な関係にあったことがその 象徴であり,

(注6)

こうした産業組合の国家との 関係が,戦後の農協にも部分的に影響を与 えていると指摘できよう。

明治初期の日本では,欧米の制度を学ぶ ため多くの本が翻訳されたが,翻訳された 経済書のなかに協同組合の紹介があった。

(注7)

また,産業組合制度の形成・普及に関与し た人々による著書も書かれたが(例えば,

平田東助・杉山孝平『信用組合論』(1891),

高橋昌・横井時敬『信用組合論』(1891),品 川弥二郎・平田東助『信用組合提要』(1896) 柳田国男『最新産業組合通解』(1902),佐藤 寛次『産業組合講話』(1913)),そのなかで も,柳田国男の著書は,単なる産業組合制 度の解説書ではなく,協同組合の思想的背 景も書かれた優れたものであった。(注8)

なお,日本における最初の消費組合(後 の生協)

1879

年に設立された共立商社で あると言われているが,日本の消費組合も 欧州と同様に都市部の工場労働者の生活改 善のための組織として出発したものであ り,労働運動,社会主義運動の指導者が消 費組合の普及に深く関与していた。

(注9)

(注5)ドイツの信用組合制度の日本への導入にお いて,ドイツ滞在経験のある品川弥二郎と平田 東助が中心的な役割を果たしたが,東京帝国大

学教授として招かれたエッゲルトは,その著書

『日本振農策』(1891)でドイツの信用組合制度

(農事信用制度)を紹介し,日本における組合制 度の導入を提言している。

(注6)佐賀郁朗『君臣平田東助論』(1987)

(注7)杉本貴志「経済学者と協同組合」(白石正 彦監修・農林中金総合研究所編『新原則時代の 協同組合』(1996))

(注8)柳田国男は民俗学者として著名であるが,

学生時代は農政学を学び,大学卒業後農商務省 に就職し,その最初の仕事が制定されたばかり の産業組合制度の普及であった(岩本由輝『柳 田国男の農政学』(1976),藤井隆至『柳田國男 経世済民の学』(1995))。

(注9)日本における消費組合の形成に寄与した人 物として,高野房太郎,片山潜,堺利彦,賀川 豊彦らがいる(奥谷松治『改訂増補 日本生活協 同組合史』(1973))。

こうして農村部を中心に急速に普及して いった産業組合であったが,

1930

年代に世 界恐慌の影響等によって日本の資本主義が 困難な状況に陥ると,政府は農村部の救済 のため,産業組合を通した農村運動(農村 経済更生運動)を展開した。こうしたなか で影響力を強めたのが「協同組合主義(産 業組合主義)」である。

協同組合主義(産業組合主義)とは,「共 存共栄」という言葉に象徴されるように,

階級対立を超えて協同組合(産業組合) よって資本主義の矛盾を解決していこうと する考え方であり,千石興太郎や本位田祥 男は,協同組合(産業組合)を普及し経済 のなかで支配的地位を得ることにより資本 主義がもたらす問題の解決が可能であると 主張 した。(注10)

東 畑 精 一 は 『 協 同 組 合 と 農 業 問 題 』(注11)

農林金融2007・12

5

- 627

3 「協同組合主義」とその批判

(8)

あった」(「わが国における協同組合研究」)と指 摘しており,加用信文は,「先生(東畑精一)の 本心が,資本主義の改革としての協同組合主義 を信奉されているわけではない」と書いている

(「協同組合名著シリーズ第7巻月報」)。

(注13)井上晴丸は,近藤康男の協同組合理論を高 く評価しながらも,日本資本主義の総体的把握 という視座が欠けていると批判し,日本の資本 主義機構と産業組合の関係を包括的に解明した

(『日本産業組合論』(1937))。

(注14)斉藤仁編『日本資本主義の展開と産業組合』

(1979)参照。

(1) 農協の設立と協同組合研究の進展 戦争に敗れた日本は

GHQによる占領統

治下に置かれ,民主的改革が進められたが,

農協制度の創設も戦後改革の一つであっ た。

GHQ

1945

12

月に「農地改革に関 する覚書」を日本政府に示したが,そのな かで「非農民的勢力の支配を脱し,日本農 民の経済的,文化的向上に資する農業協同 組合運動を助長し奨励する計画」の策定を 日本政府に命じた。

これを受けて農業会は解体され,47年に 農業協同組合法が制定され,新たに民主的 原理に基づく農協が設立されることになっ た。農協は,地主階層が指導的な地位を占 めていた産業組合とは異なり,戦後の農地 改革によって生まれた自作農による民主 的・自主的な組織として出発したが,実際 には,農協は農業会の施設,職員,組合員 をほとんどそのまま引き継ぎ,農業会の

「看板替え」とも呼ばれた。

こうしたなかで,

52

年には,その後協同

農林金融2007・12

6

- 628

(1932)で,協同組合を「同一地域居住に 基づく特定人格者の結合」と規定したうえ で,産業組合の機能を解明したが,同書は,

協同組合は資本主義経済を揚棄する力とな りうるとして,協同組合主義に経済学的,

社会学的な考察を加 えた。(注12)

これに対して近藤康男は,『協同組合原 論』(

1934

)で,産業組合の機能は商業利 潤の節約(流通過程の合理化)であり,産 業資本の利潤確保のためには役立つとして も,産業組合(協同組合)によって資本主 義そのものを変革することはできないとし て,協同組合主義とそれを擁護した東畑精 一を批判した。こうした批判は日本資本主 義論争によって影響力を増したマルクス経 済学からのものであり,農業における階級 関係(地主−小作関係)や産業資本との関 係を軽視したそれまでの協同組合論とは異 なり,困窮した日本農業の現実を踏まえた 鋭い批判であったため,近藤康男の主張は 大きな影響を与 えた。(注13)

しかし,こうした批判を受けながらも,

産業組合は,その後,戦時中に農会と統合 して農業会となり1943年農業団体法),国 家主義的な戦時統制経済のなかに組み込ま れることになった。(注14)

(注10)協同組合主義と必ずしも同義ではないが,

椎名重明は,19世紀末以降に現れた社会の組織 化の傾向を「団体主義(コレクティズム)」とし て整理している(『団体主義』(1985))。

(注11)同書は,当初(1932年),那須皓との共著 として出版されたが,1947年に那須の執筆部分

(一章のみ)を削って東畑精一の単著として再版 している。

(注12)ただし,臼井晋は,『協同組合と農業問題』

について,「同書は,必ずしも協同組合主義を熱 烈に主張したものではなく,むしろ分析の書で

4 戦後における協同組合 研究の展開

(9)

組合研究の重要な拠点となる(財)協同組 合経営研究所が設立され,

55

年には,多く の研究者が参加した協同組合研究会が発足 し,新しく生まれた農協のあり方,今後の 方向について活発な論争・研究が行われた。

(2) 近藤理論の批判と克服

戦後の民主的制度改革のなかで,戦時中 に弾圧されていたマルクス経済学が復活 し,協同組合理論においても近藤康男の影 響力が再び強まった。近藤康男は,『続・

貧しさからの解放』(

1954

),『協同組合の 理論』(

1962

)で戦前の『協同組合原論』

の主張を引き継ぎ,独占資本と農協の関係 を解明して当時の農協,特に全国連のあり 方を批判し,農協内部からの民主的改革を 主張したが,戦後の協同組合研究は,この 近藤理論をどう克服し発展させるかを中心 に展開していった。(注15)

美 土 路 達 雄 は ,「 農 協 の 理 論 と 現 実 」

1956

)という論文で,近藤康男の協同組 合論は,①農協運動者の真剣な取組み・努 力に対する過小評価,②農協を運動体とし て組織と経営の正しい関連において総合的 にとらえていない,という2点において不 十分であり,農協は「商業利潤の節約」だ けではとらえきれない組織であると批判し た。

伊東勇夫は,農協には客観的側面(=資 本的側面)と主体的側面(=組織的側面) 二面があるが,近藤康男は協同組合の組織 体としての能動的・主体的機能を過小評価 していると批判し,商業利潤の排除は産業

資本に貢献する面を持ちながらも,農協の 組合員にも利益をもたらす側面があること を指摘した『現代日本協同組合論』1960

三 輪 昌 男 は ,『 協 同 組 合 の 基 礎 理 論 』

1969

)において,近藤康男の商業資本概 念について詳細に検討し,協同組合が商業 資本であるにしても,協同組合は他の商業 資本より流通費用を低くすることができ,

それによって得られた商業利潤を組合員に 分配することができると主張 した。(注16)

近藤康男の協同組合理論は,一面の真理 をついてはいるものの,農協の現場で苦労 している組合長や農協の職員にとっては納 得しがたい理論であったことは否定でき ず,こうした批判によって近藤理論の限界 が明らかになったということができ,70年 代に入ると近藤理論を巡る論争は下火にな っていった。

(注15)資本主義経済との関係で協同組合を分析し た研究者として,本稿で紹介した者以外に,綿 谷赳夫,風戸伊作,新井義雄,穴見博,服部知 治らがいる。

(注16)三輪昌男の著作に関して,篠浦光は,三輪 昌男の近藤理論批判の試みは失敗に終わり,協 同組合理論は精緻の度を加えるにつれていっそ う不毛なものになると指摘しており(『農村協同 組合の展開過程』(1972)),風戸伊作も同様な評 価をしている(「協同組合理論の混迷−三輪昌男 批判−」『論争・日本農業論』(1975))。ただし,

三 輪 自 身 は , そ の 後 ,『 農 協 の 理 念 と 現 実 』

(1979),『農協改革の新視点』(1997)で,『協同 組合の基礎理論』とは異なる視点から農協を論 じている。

(3) 協同組合論の多様化

こうしたなか,桑原正信(京都大学教授)

を中心とした農業開発研修センターと近畿 農協研究会は,

74

年に『現代農業協同組合

農林金融2007・12

7

- 629

(10)

論』(全3巻)を刊行し,農協について事 業,財務,経営,労務等に関する総合的な 分析を行った。本シリーズは,農協の現実 から出発して農協の問題を多面的に解明し ようとしたものであり,実務者から高い評 価を得たが,こうしたアプローチは,武内 哲夫・太田原高昭『明日の農協』(1986)

に受け継がれている。

一方,石見尚は,『協同組合新論』

1977

『第三世代の協同組合論』

1988

)において,

協同組合論は新しい時代にふさわしい理論 展開が必要であるとし,協同組合運動は,

1970

年代以降,分権型の自主管理とエコロ ジーの特徴を持った新しい時代(第三世代)

に入ったと主張した。

このように,70年代より協同組合論は多 様な展開を示すようになったが,(注17)白石正彦 は,日本における協同組合研究は

1980

(レイドロー報告『西暦2000年の協同組合』が 発表された年)が大きな画期であるとして いる『農業経済学研究の動向と展望』「第16 章 農協」1996

協同組合論,農協論の多様化は,日本の 農協,農家,農業の変化を反映したものと いうこともできるが,協同組合の理論を構 築するという姿勢が弱くなったことは否定 できず,また日本農業そのものに関する関 心や分析が乏しくなったことも指摘できよ う。

(注17)なお,1976年から「協同組合奨励研究報告」

(年1回刊行)の発刊が始まり,また1981年には 日本協同組合学会が設立され,協同組合研究者 の貴重な研究発表の場となった。

農林金融2007・12

8

- 630

(4) 協同組合の「近代経済学」的解明 戦後の協同組合研究の多くは「マルクス 経済学」の枠組みで進められてきたが,そ の一方で,「近代経済学」(注18)による協同組合 の解明も一部で試みられてきた。

1節で触れたように,今日に至る「近代 経済学」(あるいは「新古典派経済学」の創 始者であったマーシャルやワルラス,ピグ ーは協同組合に強い関心を持っており,協 同組合に対して一定の評価をしていた。ま た,日本における近代経済学導入の中心人 物であった福田徳三は協同組合について論 じていたし,(注19)シュンペーターのもとで学び 戦後の「近代経済学」の発展に大きな影響 を与えた東畑精一にも,既に紹介したよう に協同組合に関する著作があった。

戦後では,日本の「近代経済学者」の多 くは協同組合に対してあまり(ほとんど)

関心を示していないが,木下公士は,米国 の協同組合論の影響を受けて,組合員の利 益最大化を前提にした協同組合の均衡分析 に関する論文をいくつか書いており,さら に組合員相互の利害調整に関してゲーム理 論による解明も行った。ただし,こうした モデルによる分析は,現実の農協とはほと んど接点のない「空論」であり,農協の直 面する問題の解明にはあまり役立たず影響 力は持ち得なかった。

80年代になると,協同組合に関する計量

経済学的分析が行われるようになり,農協 の生産性や範囲の経済に関する研究成果 が,長谷部正編著『農協経営の計量分析』

1997

)としてまとめられている。

(11)

(注18)日本では,戦後の一時期まで「マルクス経 済学」が支配的であり,米国で支配的なミクロ 経済学,マクロ経済学など数学,モデルを使っ た経済学を「近代経済学」と称してきたが,も はやこうした経済学の二分法は適切ではないで あろう。川村保は,近代経済学による農協論を

「非正統的農協研究」としているが(「日本の農 協論の現状と課題」『これからの農協』(2007)),

米国では新古典派経済学が「正統派(orthodox)」

「主流派(mainstream)」とされており,何が

「正統」な経済学であるかは時代と地域によって 異なる。

(注19)福田徳三『国民経済講話』(1919)

(1) 米国の協同組合理論の特徴

米国は市場経済の国であり,農業経営の 規模も大きく,一見農協とは無縁の世界の ように思えるが,実際には数多くの農協が 存在しており,農協は農産物流通において 大きな役割を果たしている。特に,穀物の 集荷や酪農において農協は大きなシェアを 有しており,レモン,オレンジで有名なサ ンキストもカルフォルニア州の果実生産者 協同組合である。米国における農協の普及 過程では農民運動(グレンジ,ファーマー ズユニオン,ファームビューロー)が大きな 役割を果たし,(注20)特に,

1920

年代の農業不況 の際に農務省の支援もあって農協は広く普 及していった。

こうして設立された協同組合について,

1920

年代から活躍したノースやサピロの思 想が大きな影響を与えたが,協同組合につ いて初めて本格的な経済学的解明を試みた のは,エメリアノフの『協同組合の経済理

(Economic Theory of cooperation

1942

)であった。(注21)エメリアノフは,協同 組合を「諸経済単位の集合体」としてとら え協同組合の機能について解明したが,こ れが米国の協同組合理論の出発点となっ た。その後,ロボトカ(

1947

)やフィリッ プス(

1953

)が「企業の理論」を協同組合 に適用してエメリアノフの理論を発展さ せ,さらにヘルムバーガーとフーズ(

1962

が「組織の理論」によって協同組合を解明

(注22)した。

(注20)近藤康男『協同組合の理論』(1962)によ る。

(注21)山本修は,協同組合を経済理論の立場から 最初に扱ったのはドイツのリーフマン(1923)

であり,エメリアノフの研究はリーフマンの協 同組合理論を精緻化したものであると指摘して いる(「協同組合の企業的特質」『現代農業協同 組合論(第1巻)』(1974))。なお,当時の米国 における協同組合理論については,足羽進三郎

『農業協同組合の研究』(1976),黒澤一清『協同 組合原論』(1974)が,簡単な紹介をしている。

(注22)飯国芳明は,米国の協同組合理論は需給論 的接近とゲーム論的接近の2つに大別できると しているが(「協同組合活動の特徴」『農業経済 研究』)(1987),佐伯尚美は,これを共同利用施 設説と特殊な企業説の対立として整理している

(「企業としての協同組合」『日本の企業』(1989))。

(2) 経済学の転換と新しい協同組合 理論の出現

このように,米国の協同組合理論は欧州 や日本とは異なる独自の展開を示したが,

その米国において,

20

年ほど前から協同組 合理論において新たな展開がみられるよう になっている。

その背景には,経済学における大きな転 換がある。第二次大戦後,経済学をリード する中心国はイギリスから米国に移った

農林金融2007・12

9

- 631

5 米国における協同組合 理論の新展開

(12)

と,付加価値を追求して収益を上げた場合 には出資に応じて利益の分配を行うこと,

出資証券の流通を認め額面以上の取引を認 めることなど,資本について株式会社の要 素を取り入れた新しいタイプの協同組合で ある。

その新世代農協に理論的根拠を提供して いるのが所有権理論であり,従来の協同組 合は所有権があいまいであるためにその発 展には限界があるとして,協同組合の資本 に対する考え方の転換を主張 した。(注25)

こうした米国の新しい取組みは興味深い 動きであるが,新世代農協は米国の農協の ごく一部に過ぎず,過大な評価は行うべき でないであろう。また,日本と米国では農 業構造や市場構造が大きく異なっており,

この種の協同組合が今後日本で広く出現す ることはないであろう。

(注25)新世代農協については,C.D.メレット,N.

ワルツァー『アメリカ新世代農協の挑戦』(2003)

原著は A  cooperative  Approach  to  Local Development (2001)に詳しい解説がある。

新世代農協の理論的背景については,M.L.Cook T h e   F u t u r e   o f   U . S .   A g r i c u l t u r a l C o o p e r a t i v e s :   A   N e o - I n s t i t u t i o n a l A p p r o a c h ( A m e r i c a n   J o u r n a l   o f Agricultural  Economics,  1995.12)参照。た だし,米国では,こうした新古典派的協同組合 理論に対する批判も起きている。(P.Mooney, T.W.Gray  Cooperative  Conversion  and Restructuring  In  Theory  and  Practice

(2002,  RBS  Research  Report  185,http://

www.rurdev.usda.gov/RBS/pub/rr185.pdf)

以上,協同組合の形成から今日に至るま での協同組合に関する論考を概観したが,

農林金融2007・12

10

- 632

6 協同組合理論の今後の課題

が,ジョン・ロビンソンは,1972年に米国 経済学会で行われた講演「経済学の第二の 危機」で,米国のサミュエルソンに代表さ れる新古典派経済学は現実を説明できず深 刻な危機に陥っていると指摘した。しかし,

米国では,既に

70

年代から,ミクロ経済学 の分野において一般均衡理論の前提(情報 の完全性,取引費用ゼロ)を再検討する研 究が始まっており,その後,経済学は,ゲ ーム理論,情報の経済学,組織の経済学,

契約理論など新たな理論的展開を示すよう になっている。(注23)

協同組合に関しても,経済学の新しい理 論を取り入れた研究が行われるようになっ ており,協同組合をゲーム理論,新制度派 経済学,所有権理論など新しい経済学のツ ールで解明しようとする論文が多く現れて いる。(注24)

(注23)新制度派経済学については,菊澤研宗『組 織の経済学入門』(2006)に包括的でわかりやす い解説がある。

(注24)米国の協同組合理論の新展開については,

R.E.Torgerson,  B.J.Reynolds,  T.W.Gray Evolution  of  Cooperative  thought,  theory and  purpose (Journal  of  Cooperative 1998),http://www.uwcc.wisc.edu/info/

torg.html,J.S.Royered. Cooperative Theory:  New  Approaches (1987)ACS Service report 18,http://www.rurdev.usda.

gov/rbs/pub/sr18/contents.htm,参照。

(3) 新世代農協の出現とその評価 こうしたなかで,米国で近年注目されて いるのが新世代農協である。新世代農協と は,協同組合の形式をとりながらも,協同 組合のこれまでの運営方法に修正を加え,

協同組合の出資を出荷権と結びつけるこ

(13)

が,現実には市場の失敗があるために協同 組合が存在しているとし,市場の失敗とし て,①資材メーカーの寡占状態,②地理的 要因による穀物の集荷コストと処理コスト の乖離,③農家の情報入手の困難性(情報 コストの存在),④取引費用の存在,を挙げ ている。そして,協同組合を組織すること の利点として,①規模の経済のメリット,

②商業流通システムにおける利益確保,③ 組合員のニーズに対応した協同組合独自の サービス提供,④リスクの軽減,⑤生産・

販売・加工の調整・統合のメリット,⑥組 合員の利益のための市場支配力の確保,が あるとしている。

このうち,情報,リスク,制度の問題は,

近年の経済学の発展のなかで特に重視され るようになっており,協同組合の存在意義 を考える上で非常に重要な概念であろう。

(注26)D.W.コービア編『アメリカに見る農協の あり方』(1994)第8章。

原著は Cooperatives In Agriculture(1988)

(2) 協同組合金融の理論

日本では,協同組合研究が主に農業経済 学の分野で行われてきたこともあり,農業 金融の研究に比較して,協同組合金融(協 同組織金融)に関する研究は不十分であっ たことが指摘できよう。農協金融に関して は,佐伯尚美による研究があるが,(注27)その研 究は主に実態面の解明を目的としており,

協同組合金融の理論を構築するまでには至 っていない。

しかし,近年,金融理論においても,情 報,リスク,取引費用など新しい経済学を

農林金融2007・12

11

- 633

こうした理論的展開を踏まえ,今後の協同 組合,特に農協のあり方を検討するために 協同組合理論が取り組まなければならない 課題は何であろうか。

(1) 協同組合の存在意義

米国における経済学の進展方向がすべて 正しいものではないにしても,経済現象を 解明し新たな制度設計に向けて新しい分析 手法を生み出すそのエネルギー,意欲は学 ぶべきものがある。協同組合理論において も同様であり,米国の農業,農協と日本の 農業,農協では大きな差異があるため,米 国の協同組合理論はそのままでは日本の農 協に適用できないであろうが,新しい分析 手法は十分検討に値すると思われる。

協同組合は,資本主義がもたらす問題を 克服するために生まれたものであり,その 資本主義批判の伝統は今後も維持していく べきで,協同組合は市場経済主義への対抗 勢力として今後も重要な役割を担っていく であろう。しかし,近藤康男の協同組合論 のように,マルクス経済学の労働価値説に 基づく利潤概念を前提にして,協同組合の 機能は「商業利潤の節約」に過ぎず,資本 主義経済においては「独占資本に奉仕する 国家機構」(『続・貧しさからの解放』)でし かないと断定することは,やや無理があろ う。

協同組合の存在意義については,シャレ ーダーが「協同組合の経済学的評価」(注26)で分 かりやすく整理している。これによると,

市場が完全であれば協同組合は不要である

(14)

適用した理論的発展があり,それらは協同 組合金融に適用できる可能性がある。すな わち,協同組合金融の存在意義を,情報コ ストの削減(相互モニタリング)やリスク 分散の機構として説明できる。こうした分 析アプローチは,近年,グラミン銀行など 途上国のマイクロファイナンスで大きな注 目を浴びているが,その分析枠組みは先進 国の協同組合金融にも適用でき,こうした 観点からの協同組合金融の理論構築と実証 研究が今後の大きな課題であろう。(注28)

(注27)佐伯尚美編著『農業金融の構造と変貌』

(1982)

(注28)藪下史郎『金融システムと情報の理論』

(1995),長谷川勉『協同組織金融の形成と動態』

(2000),黒崎卓『開発のミクロ経済学』(2001)

参照。

(3) 協同組合の経営問題

近年の経済学の発展によって制度の経済 学,組織の経済学,契約理論などの分野が 充実し,かつての一般均衡理論では説明が できなかった企業組織,制度などの問題を 解明する理論が生み出されてきている。こ うした経済理論の発展によって従来経営学 の研究分野と考えられていた領域にも経済 学が貢献するようになっており,経済学と 経営学は距離が縮まり融合するようになっ てきた。(注29)

例 え ば , 所 有 権 理 論 や 契 約 理 論 で は ,

農林金融2007・12

12

- 634

「所有権」「契約」という法的概念を拡大す ることにより,組織の意思決定メカニズム やその効率性を解明することができ,情報 の経済学(情報の非対称性)やプリンシパ ルエージェント理論などによって,経営,

組織の内部構造の分析を行うことができる ようになった。

こうした新しい経済理論は,コーポレー トガバナンスなど協同組合の経営問題にお いても適用することが可能であり,今後協 同組合の経営管理に関する研究が進展する ことが期待される。(注30)

(注29)代表的著作として,ウィリアムソン『市場 と企業組織』(1975),G.M.ホジソン『現代制度 派経済学宣言』(1988),ミルグロム,ロバーツ

『組織の経済学』(1992),青木昌彦『比較制度分 析に向けて』(2001)がある。

(注30)なお,これまでも経営学の立場からの協同 組合研究は多くあり,東畑精一の著書も経営学 的視点を有していたし,藤谷築次による先駆的 論文「協同組合の適正規模と連合会の役割」『現 代農業協同組合論(第1巻)』(1974)や黒澤一 清『協同組合原論』(1974)も経営学的アプロー チによるものであった。

<参考文献>

・伊東勇夫(1986)「わが国における協同組合研究の 軌跡」(『新版 協同組合事典』家の光協会)

・臼井晋(1981)「わが国における協同組合研究」

(『農業経済学の軌跡』農林統計協会)

・斉藤仁編著(1973)『農業協同組合論』昭和後期農 業問題論集第20巻,農山漁村文化協会

・Clare  Le  Vay Agricultural  Co-operative Theory:  A  Review Journal  of  Agricultural Economics, 1983.1

(主任研究員 清水徹朗・しみずてつろう

(15)

農林金融2007・12

〔要   旨〕

1 我が国の農協制度は,基本的には職能主義的位置づけがなされてきた。しかし今後は,

①農業のみならず,地域としての「農村」を支えるという視点が重要となっていること,

②農業・農村を支えるための国民的合意を得る上で,農協のあり方もより広く社会性をも ったものとなることが必要であること,③農民自体の構造変化,新たな形態の農業経営体 の出現等により農協の「コーディネート機能」の重要性が増していること,等からより広 く公益性を有する組織として位置づけていくことが必要になっている。

2 「農業者のために」という基本的役割を変化させることなく,また一方において農協の 存在の公益性を訴えていくためには,農業および協同組合の国民経済的位置づけを明確に していく必要があり,その枠組みを与える概念として,「社会的共通資本」「社会的経済」

という考え方が大きな意味を持つ。両者は現代の「市場機能万能論」に対する批判的な視 点を共有している。

3 「社会的共通資本」とは,自然環境,医療,教育,等,国民が人間らしい生活を営む上 で不可欠の社会的装置について,国家による官僚的管理,市場による功利主義的管理の両 者を排除し,より社会的な管理を主張する考え方で,「農村」も重要な社会的共通資本と して位置づけられる。

4 「社会的経済」とは,公的セクター,市場セクターのいずれにも属さない経済主体を包 括的にとらえ,国家経済の枠組みにおける第三のセクターとして,その現代社会における 役割を積極的に評価しようとする考え方であり,協同組合は,その主要な部分を構成する。

5 農協は,こうした概念の交差する場所に位置し,「『社会的共通資本』である農業(農村)

の発展を目的とした『社会的経済』組織」として位置づけることが可能である。こうした 位置づけ自体が,ただちに農協の現在のあり方を見直すことにつながるものではないが,

①その公益性をより積極的に主張し,②趣旨に賛同するより広い参加者の運動とすること が可能となる等,将来の方向性に大きな意味をもつ。

6 そうした位置づけが浸透していくためには,一方で,市場機能万能論に代わる,新たな 経済学のパラダイムが形成されていくことが必要であるが,より重要な点は,日常の農協 の活動の実践を通じ,その社会的な性格が広く認識されていくことであろう。

農業協同組合の新たな位置づけについて

13

- 635

(16)

我が国農業協同組合は,

1947

年の現行法 制定から数えても約60年の歴史を有する。

その間多くの制度改正が行われてきたが,

その基本的な位置づけは変化していない。

すなわち,農協とは,「農業者」の協同組 織であり,「農業者」の経済的・社会的地 位の向上を目指すものである,という点で ある。

しかし,経済・社会環境が大きく変化し,

農業・農村・農家が大きく変化し,また農 協自身の事業内容も大きく変容してきた現 在において,こうした職能主義的位置づけ を維持し続けることには,多くの面で難し さも生じている。さらに,現代社会におけ る農協の役割を,より積極的に位置づけ,

その活動に対する国民的コンセンサスを得 ていくうえでは,新たな視点による位置づ けが必要になってきているように思われ る。

本稿は,そうした問題意識にたち,我が 国農協の「位置づけ」を,新たな視点から とらえ直すことができないかを論じたもの である。もとより,こうした「位置づけ」

の変化は,法規・制度・事業活動等,広範 な分野に影響を及ぼし,その検討が不可欠 となろうが,本稿においてはそうした具体 的な事項にまで立ち入った検討は行ってい ない。あくまでも,そうした議論の前提と しての農協の位置づけについて,一つの枠 組みを提示するにとどまる。

本稿の構成についてその概要を示すと,

まず,「1 新たな位置づけの必要性」にお いて,なぜ今日,新たな枠組みの検討が必 要となっているかについての筆者の問題意 識を述べる。次いで「2 社会的共通資本 と社会的経済」において,それぞれの概念 と,農業および協同組合が,社会的共通資 本,社会的経済として位置づけられること を述べる。「3 農協の新たな位置づけとそ の意義」においては,そうした議論を踏ま えた農協の新たな位置づけとその意義につ いて,筆者の考えを述べたい。

冒頭で述べたように,我が国農協は,制 度上,「職能組合」として位置づけられ,

統治の構造等も,基本的にはそうした位置 づけを前提に組み立てられてきたが,(注1)農協

農林金融2007・12

14

- 636

はじめに

1 新たな位置づけの必要性

目 次 はじめに

1 新たな位置づけの必要性 2 社会的共通資本と社会的経済

(1) 市場機能万能論への対抗

(2) 社会的共通資本としての農業

(3) 社会的経済としての協同組合 3 農協の新たな位置づけとその意義 4 今後の課題

参照

関連したドキュメント

しないことを察知すべ きであろ う。 第 3 協 同組 合商 品 の品 質 純 正 と 計 量 の正確 協 同組合の社会責任 と誠実性 。 「ロッチデール の先駆者が真に彼

第1章 総 則 (目 的) 第1条

る。そのような問題は 1996 年初頭から表面化し,後に北海道⚓生協問題

他の一つは,カナダの例である。カナダ もアメリカと同様,協同組合は州の法律に よって規整されている。例えばケベック州 の協同組合法

(注 1 )  なお,国民経済計算は, 2000 年基準と 2005 年基準があり,本稿では 2000 年度までを 2000 年 基準, 2001 年度以降については

、ま たフルトヴァンゲンでは OEKOGENO 包括的住宅協同組合(OEKOGENO Genossenschaftlich inklusives Wohnen

ここにのべたことは実は簡単な若千の例証にすぎないのである。経済的弱

ここに共済とほ,協同組合を基盤として行なわれる保険,すなわち協同組