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失神の診断・治療ガイドライン (2012年改訂版)

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(1)

失神の診断・治療ガイドライン

(2012年改訂版)

Guidelines for Diagnosis and Management of Syncope (JCS 2012)

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本救急医学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,

日本不整脈学会

班 長 井 上   博 富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二 班 員 安 部 治 彦 産業医科大学不整脈先端治療学

尾 辻   豊 産業医科大学第2内科

小 林 洋 一 昭和大学内科学講座循環器内科学部門 住 友 直 方 日本大学小児科学系小児科学分野 髙 瀬 凡 平 防衛医科大学校集中治療部 鄭   忠 和 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科

循環器呼吸器代謝内科学

中 里 祐 二 順天堂大学医学部附属浦安病院循環器内科 西 崎 光 弘 横浜南共済病院循環器内科 堀   進 悟 慶應義塾大学救急医学

松 㟢 益 德 山口大学大学院医学系研究科器官病 態内科学

山 田 典 一 三重大学大学院医学系研究科循環器内科学 吉 田   清 川崎医科大学循環器内科

協力員 河 野 律 子 産業医科大学第2内科

清 水 昭 彦 山口大学大学院医学系研究科保健学科 鈴 木   昌 慶應義塾大学救急医学

住 吉 正 孝 順天堂大学医学部附属練馬病院循環器内科 濱 崎 秀 一 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科

循環器呼吸器代謝内科学 林 田 晃 寛 川崎医科大学循環器内科

水 牧 功 一 富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二 宮 武   諭 済生会宇都宮病院救急診療科 渡 辺 則 和 昭和大学内科学講座循環器内科学部門 外部評価委員

奥 村   謙 弘前大学循環呼吸腎臓内科学 島 田 和 幸 自治医科大学循環器内科 山 口   徹 虎の門病院

山 科   章 東京医科大学第二内科

(構成員の所属は

2011

7

月現在)

改訂にあたって……… 2

Ⅰ.総 論………

3

1.定義 ……… 3

2.原因と病態生理 ……… 3

3.疫学 ……… 4

4.診断へのアプローチ ……… 7

Ⅱ.各 論………

9

1.起立性低血圧 ……… 9

2.反射性失神 ………10

3.体位性起立頻脈症候群 ………21

4.不整脈 ………23

5.虚血性心疾 ………25

6.心筋症 ………27

7.弁膜症 ………29

8.先天性心疾患 ………30

9.その他の心疾患 ………31

10.大動脈疾患 ………32

11.肺塞栓症,肺高血圧症 ………33

12.小児の失神 ………35

13.入浴と失神 ………37

14.採血と失神 ………39

Ⅲ.救急での対応………40

1.救急部門(ED)における一過性意識消失と失神 ……40 2.救急部門(ED)における失神患者へのアプローチ …41

目  次

(2)

 失神は日常診療の場でよく遭遇する病態であり,救急 来院例の

1

2

%を占める1)-3

Framingham

研究では

26

年間の追跡期間中に男性で

3

%,女性で

3.5

%が少なく とも

1

回の失神を経験している4.最近の米国での検討 では,失神の罹病率は

0.8

0.93/1,000

人・年であった5 原因疾患によっては生命に影響しないが,失神時に軽微 な外傷ばかりでなく骨折,硬膜下血腫,自動車事故等の 合併症を起こし得る.しばしば再発し,ときに精神的な 問題を生じることもある6

 診断手技として,不整脈には電気生理検査,反射性(神 経調節性)失神にはチルト試験が広く行われ,さらには 植込み型のループレコーダーが導入され,失神の原因と なる病態生理の理解が進み,不整脈に対する非薬物治療 の進歩とあいまって,適切な診療が可能になってきた.

本ガイドラインは可能な限り我が国の研究成果を取り入 れた.無作為比較試験が少ないことから,エビデンスレ ベルが必ずしも高くない研究成績も採用し,エビデンス

レベルについての記載は省いた.診断・治療方法の推薦 の度合いは以下のクラス分けに従った.

①クラスⅠ 有益であるという根拠があり,適応であ ることが一般に同意されている.

②クラスⅡ

a

:有益であるという意見が多い.

③クラスⅡ

b

:有益であるという意見が少ない.

④クラスⅢ 有益でないかまたは有害であり,適応で ないことが同意されている.

 今回の改訂にあたっては,旧版7で統一されていなか った用語を整理し,検査や治療に関する最新の情報を追 加し,我が国の日常診療の現場で失神の診療にあたる医 療従事者に,現時点での標準的な診療指針を提供するよ う心掛けた.本ガイドラインは唯一絶対の診療方針を提 示するものではなく,診療方針は個々の患者の状況に応 じて適宜取捨選択されるべきものである.

 なお,治療法として推奨された薬剤には保険適応外の ものも含まれており,使用にあたっては注意のこと.

ACC/AHA/ESC

American College of Cardiology/

American Heart Association /European Society of Cardiology

 米国心臓病学会

/

米国心臓協会

/

欧州心臓 病学会

ARVC

arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy

不整脈原性右室心筋症

ASD

atrial septal defect

 心房中隔欠損[症]

CSM

carotid sinus massage

 頸動脈洞マッサージ

dDAVP

1-Deamino-8-D-arginine Vasopressin

 デスモプ

レシン

ECD

endocardial cushion defect

 心内膜床欠損[症]

ED

emergency department

 救急部門

ESC

European Society of Cardiology

 欧州心臓病学会

HCM

hypertrophic cardiomyopathy

 肥大型心筋症

ICD

implantable cardioverter defibrillator

 植込み型除

細動器

NET

norepinephrine transporter

 ノルエピネフリント ランスポーター

PCI

percutaneous coronary intervention

 経皮的冠[状]

動脈インターベンション

PCPS

percutaneous cardiopulmonary support

 経皮的心 肺補助[法,装置]

PDA

patent ductus arteriosus

 動脈管開存[症]

PDE

phosphodiesterase

 ホスホジエステラーゼ

POTS

postural (orthostatic) tachycardia syndrome

 体位

性(起立)頻脈症候群

SNRI

serotonin noradrenaline reuptake inhibitor

  セ ロ トニン・ノルエピネフリン再吸収阻害薬

SNRT

sinus node recovery time

 洞結節回復時間

SSRI

selective serotonin reuptake inhibitor

 選択的セロ

【略 語】

改訂にあたって

3.救急部門(ED)における失神患者のリスク層別化 …44 4.外傷予防 ………44 5.救急部門(ED)における失神の診療アルゴリズム …44

Ⅳ.自動車運転………44 文 献………47

(無断転載を禁ずる)

(3)

総 論

1

定義

 失神を表す英語

syncope

の語源はギリシャ語の“

syn

(英語では

with

together

)と“

koptein

”(英語では

cut off

strike

)に由来する(英語の

faint

syncope

と同義).

失神は「一過性の意識消失の結果,姿勢が保持できなく なり,かつ自然に,また完全に意識の回復が見られるこ と」と定義される.「意識障害」を来たす病態のなかでも,

速やかな発症,一過性,速やかかつ自然の回復という特 徴を持つ

1

つの症候群である

.

前駆症状(浮動感,悪心,

発汗,視力障害等)を伴うこともあれば伴わないことも ある.失神からの回復後に逆行性健忘をみることがあり,

特に高齢者に多い.

 失神前状態

near-syncope

pre-syncope

は,失神に至る 寸前の状況を指す表現として使用されるが,真の失神の 前駆状態であることもあれば非特異的な「めまい感」を このように表現することもある.

2

原因と病態生理8),9

 失神を来たす病態は様々であるが,共通する病態生理 は「脳全体の一過性低灌流」である.表

1

に失神の原因 となる疾患をまとめた8.表

2

には,意識障害を来たす 病態で,失神との鑑別を要するものをまとめた1),8.表

2

のものを失神に含める立場もある9が,本ガイドライ ンは欧州心臓病学会(

European Society of Cardiology

ESC

)のガイドライン8に倣い,脳全体の一過性低灌流 によるものを失神として扱うこととする.

 脳循環が

6

8

秒間中断されれば完全な意識消失に至 り,収縮期血圧が

60mmHg

まで低下すると失神に至る10 また脳への酸素供給が

20

%減少しただけでも,意識消 失を来たす11.適切な脳循環を維持するために生体には 以下の機構が備わっている.

1

脳血管の自動調節機構

 血圧が変動しても脳への血流量を維持する機構で,生 理的状態では,収縮期血圧が

70

150mmHg

の範囲内で は脳血流量は一定に保たれる.

2

脳血管局所の代謝性・化学性調節機構

 

PO

2が低下した場合や

PCO

2が上昇した場合に脳血管 の拡張を促す.

トニン再吸収阻害薬

TCPC

Total cavopulmonary connection

 上下大静脈肺 動脈吻合

TOF

tetralogy of Fallot

 

Fallot

 四徴[症]

VSD

ventricular septal defect

 心室中隔欠損[症]

VVR

vasovagal reaction

 血管迷走神経反応

表 1 失神の分類 (文献 8 より改変引用)

1

.起立性低血圧による失神  ①原発性自律神経障害

   純型自律神経失調症,多系統萎縮,自律神経障害を伴

Parkinson病,レビー小体型認知症

 ②続発性自律神経障害

   糖尿病,アミロイドーシス,尿毒症,脊髄損傷  ③薬剤性

   アルコール,血管拡張薬,利尿薬,フェノチアジン,

抗うつ薬  ④循環血液量減少    出血,下痢,嘔吐等

2.反射性(神経調節性)失神

 ①血管迷走神経性失神

  (1) 感情ストレス(恐怖,疼痛,侵襲的器具の使用,採   (

2

)起立負荷血等)

 ②状況失神

  (

1

)咳嗽,くしゃみ

  (

2

)消化器系(嚥下,排便,内臓痛)

  (3)排尿(排尿後)

  (4)運動後   (5)食後

  (6)その他(笑う,金管楽器吹奏,重量挙げ)

 ③頸動脈洞症候群

 ④非定型(明瞭な誘因がない

/

発症が非定型)

3

.心原性(心血管性)失神  ①不整脈(一次的要因として)

  (1)徐脈性: 洞機能不全(徐脈頻脈症候群を含む),房 室伝導系障害,ペースメーカ機能不全   (2)頻脈性: 上室性,心室性(特発性,器質的心疾患や

チャネル病に続発)

  (

3

)薬剤誘発性の徐脈,頻脈  ②器質的疾患

  (

1

心疾患:弁膜症,急性心筋梗塞

/

虚血,肥大型心筋症,

心臓腫瘤(心房粘液腫,腫瘍等),心膜疾患(タン ポナーデ),先天的冠動脈異常,人工弁機能不全   (2) その他:肺塞栓症,急性大動脈解離,肺高血圧

(4)

3

圧受容器反射機構

 動脈圧が低下した際に,交感神経緊張が反射性に亢進 し心拍数を増加,心収縮性を増加,末梢血管抵抗を増加 させて,動脈圧を維持する.

4

循環血液量調節機構

 腎臓,ホルモン等により循環血液量を維持する機構で あり,瞬時に動員されるものではないが,この機構が不 十分であると失神を生じやすくなる.

 これらの代償機転にもかかわらず,脳循環の自動調節 機構の範囲を超えて血圧が低下し,しかもある一定以上 の時間持続した場合に意識消失が生じる.

3

疫学

1

失神の発生率・頻度

① 一般人口における失神の発生率  (population-based study)

  一 般 人 口 に お け る 失 神 の 発 生 率 に つ い て,

Framingham

研究の

1985

年の報告では,男性の

3.0

%,

女性の

3.5

%が少なくとも

1

回の失神を経験していた4

2002

年の報告では,失神の発生率は

6.2/1,000

人・年,

積算発生率は

10

年間で

6

%であった.発生率は年齢とと もに上昇し,

70

歳以上で著明な増加を認め,性差はな かった(表

3)

12.一方,質問票を用いた横断研究では,

失神の発生率(

1

回は失神を経験していた割合)は

19

39

%であり,有意差をもって女性の発生率が高かった.

失神の初発年齢の中央値は

14

25

歳で,若年に発生の ピークを認めた(表4)13)-16.これらを総合すると,失 神の発生率は若年者と高齢者にピークを有する二峰性の 分布となる8

 我が国には失神に関する

population-based study

が存在 しないため,一般人口における失神の発生率は不明であ る. 背 景 と な る 人 種, 人 口 構 成 が 異 な る が,

Framingham

研究の結果から単純に計算すると年間約

79

万 人( 平 成

22

年 度 の 日 本 の 総 人 口

1

2,800

万 人 ×

6.2/1,000

人・年)が失神しており,横断研究の報告を

考慮すると発生数はこれより多いと推測される.

表 3 コホート研究における失神の発生率,原因別頻度と予後 著者名 報告年 追跡

患者数 平均

年齢 追跡

期間 失神

患者数 失神患者

平均年齢 性別

(男性) 失神の発生率

Soteriades

12)

2002

米国

7,814 51歳

平均

17.0

822 65.8歳 42% 6.2/1,000

人年

積算発生率(10年)

6.0%

Savage

4)

1985

米国

5,209 46歳 26

172

52

歳,

50

*2

41%

積算発生率  男 3.0%,女 3.5%

原因 予後

心原性 血管迷走

神経性失神 起立性低血圧 不明 心原性 血管迷走神経性失神

とその他 不明

10% 21% 9% 37%

死亡ハザード比*1

95%CI

1.48 2.01

2.73

1.08

0.88

1.34

1.32

1.09

1.60

84%

isolated syncope

*3

isolated syncope

は,失神のない群と比較して死亡リスクの上昇なし

1 失神のない群との比較で多変量補正後  95%Cl:95%信頼区間

2 初回失神の平均年齢

3 isolated syncopeは疾患の病歴がない失神と定義 表2 失神と鑑別を要する意識障害の原因(文献1, 8より引用)

1.

意識消失(完全~不完全)を来すが,脳全体の低灌流を 伴わないもの

 ①てんかん

 ②代謝性疾患(低血糖,低酸素血症,低二酸化炭素血症を 伴う過呼吸)

 ③中毒

 ④椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作

2.意識消失を伴わないもの

 ①脱力発作(

cataplexy

 ②転倒発作(

drop attacks

 ③転倒

 ④機能性(心因性)

 ⑤頸動脈起源の一過性脳虚血発作

(5)

② 病院受診者における失神の頻度  (hospital-based study)

 欧米の報告では,救急部門(

emergency department

ED

)受診者における失神疑いの一過性意識障害患者の頻 度は

0.9

1.7

%で,入院率は

36

68

%であった(表

5)

17)-23

Framingham

研究では,失神を経験した人のうち医療機

関を受診したものは

56

%であった12.オランダの研究 では,一般人口の失神の発生率

18.1

39.7/1,000

人・年 に対して,一般診療の受診が

9.3/1,000

人・年,

ED

受診

0.7/1,000

人・年と報告されており,

ED

を受診する失 神患者は,一般人口における失神を経験した人の選択さ れた集団といえる23

 我が国の医療統計である厚生労働省「患者調査」では,

疾患分類に失神の診断名は存在せず,全国規模での失神 患者の統計は存在しない.東京都内の大学病院における 救急車搬送患者の主訴を検討した報告では,急病患者の うち一過性意識障害を主訴とする患者は

13

%で,一過 性意識障害の

79

%が失神であった24.同一施設からの 報告であるが,外因を含めたすべての救急車搬送患者の うち,

3.5

%が失神患者であった25),26.平成

21

年度の東 京消防庁の救急出場件数は約

65.6

万件あり,概算する と東京都(人口約

1,300

万人)で年間約

2.3

万人が失神 のため救急搬送されていると推測される.したがって,

我が国の

ED

においても失神は頻度の高い症候である.

2

失神の原因別頻度

 失神の原因は多岐にわたり,その分類方法は報告によ り幅があるが,予後の比較という観点からは,心原性,

非心原性〔主に反射性(神経調節性)失神,起立性低血 圧 〕, 原 因 不 明 の 分 類 が 用 い ら れ る こ と が 多 い.

Framingham

研究における失神の原因別頻度は,心原性

10

%,非心原性のうち血管迷走神経性が

21

%,起立 性低血圧が

9

%,原因不明が

37

%であった(表

3)

12.欧

米の

hospital-based study

の報告は,主に

ED

を受診した 失神疑いの一過性意識障害患者を対象としており,原因 別頻度は心原性失神が

5

37

%,反射性(神経調節性)

失神が

35

65

%,起立性低血圧が

3

24

%,原因不明

5

41

%であった.また,この中には,

3

20

%の割 合で非失神の病態による一過性意識障害が含まれていた

(表5)17)-23),27.以上をまとめると,研究間の差が大き いが,反射性(神経調節性)失神の頻度が最も高く,心 原性失神がそれに次ぐ.原因不明が占める割合も少なく なく,失神の原因を確定することの限界が示唆される.

 年齢別に原因別頻度を検討した報告28)-31を表

6

に示 す.若年者では反射性(神経調節性)失神の頻度が高く,

高齢者では心原性失神,起立性低血圧の頻度が高くなる 傾向を認める.また,高齢者では失神の原因が複数存在 する割合も高くなる15

 我が国の報告をみると,

ED

に救急搬送された患者を 対象とした研究26,神経内科を紹介受診した患者を対象 とした研究31では,原因別頻度は欧米の報告とほぼ同様 であった.一方,循環器病棟の入院患者を対象とした研 究では心原性失神が最多であったが32,これは診療部門 の特性(患者の選択バイアス)によるものと考えられる

(表

5).

3

失神の予後

①失神発症後の死亡および有害事象のリスク

 

Framingham

研究からの報告では,心原性失神を起こ

した人は,失神を経験しなかった人と比較して死亡のハ ザード比が

2

倍となり,心血管系イベントのハザード比

2

倍以上であった.一方,血管迷走神経性失神を起こ した人は,死亡,心血管系イベントのハザード比ともに 失神を経験しなかった人と同等であり予後良好であった

(表

3)

12

 欧米の

hospital-based study

でも,心原性失神患者の累 表 4 横断研究(質問票)における失神の発生率,初発年齢と複数回の失神を経験した割合

著者名 報告年 調査数 年齢(歳)

平均

or

中央値

発生率(1回は失神を経験

した割合),

%

失神の初発年齢

(中央値),歳 複数回の失神を 経験した割合,

%

全体 男性 女性 全体 男性 女性

Ganzeboom

13)

2003

オランダ

394 21 39 24 47

15 15 15 62

Ganzeboom

14)

2006

オランダ

549 48 35 28 41

18 20 17 64

Chen

15)

2006

米国

1,925 62 19 15 22

25 33 22 47

Serletis

16)

2006

カナダ

290 39 32 25 40

14

*女性>男性 有意差あり

(6)

表 5 Hospital-based study における失神疑いの一過性意識障害患者の ED 受診者に占める割合,入院率と原因別頻度

著者名 報告年 患者数 年齢(歳)

平均or中央値 性別

(男性),

%

診療 部門

ED

受診 者に占 める割 合,

%

入院率,

%

原因,

%

心原性

失神

反射性

(神経調 節性)

失神

起立性 低血圧 非失神

の病態 不明 欧米の報告

Ammirati

17)

2000

イタリア

195 63 44 ED 68 21 35 6 20 18

Sarasin

18)

2001

スイス

650 60 48 ED 1.1 11 38 24 8 14

Crane

19)

2002

イギリス

210 55 39 ED 1.7 36 7 38 3 11 41

Blanc

20)

2002

フランス

454 57 43 ED 1.2 63 10 48 4 12 24

Disertori

21)

2003

イタリア

980 60 47 ED 1 46 11 45 6 16 19

Blanc

1)

2005

フランス

524 58 41 ED 1.3 47 7 46 12 5 28

Brignole

22)

2006

イタリア

745 66 50 ED 0.9 39 13 65 10 6 5

Olde

Nordkamp

23)

2009

オランダ

672 46 49 ED+

循環器科

0.9 5 39 5 17 33

Chen

27)

2003

米国

987 58 56

循環器科

37 56 6 3 20

欧米の報告の頻度の幅

0.9

1.7 36~

68 5

37 35~

65 3

24 3

20 5

41

日本の報告

Suzuki

26)

2004

日本

715 58 55 ED 3.5 10 37 21 32

藤沼31)

2009

日本

103 53 55

神経内科

(外来)

15 22 7 14 43

Tanimoto

32)

2004

日本

118 66 64

循環器科

(入院)

52 17 25

ED:救急部門

表 6 各年齢群における失神の原因別頻度 著者名 報告年 診療部門 年齢群

(歳) 患者数 性別

(男性),

%

原因,

%

心原性

失神

反射性(神 経調節性)

失神

起立性

低血圧 非失神 の病態 不明

Romme

28)

2008

オランダ

ED +

循環器科,神経

内科,内科

40 158 39 1 73 3 11 12

40

59 175 66 6 63 7 11 13

60 170 61 20 45 17 6 12

Del Rosso

29)

2005

イタリア 循環器科

65 224 50 12 69 1 20

65 261 58 34 52 3 11

Ungar

30)

2006

イタリア 老年科

65

~74

71 42 11 62 4 14

75 160 43 16 36 31 9

藤沼31)

2009

日本 神経内科

60 55 45 9 31 0 22 38

60 48 67 21 12 15 4 48

ED:救急部門

(7)

積死亡率および突然死の発生率は,非心原性失神や原因 不明の失神患者と比較して高く,心原性失神は予後不良 であることが示されている18),33)-35.我が国の救急車搬 送患者を対象とした研究でも,心原性失神の患者は非心 原性失神の患者と比較して死亡率が有意に高く,欧米の 報告と同様の結果であった26.一方,進行した心不全患 者においては,失神はその原因によらず突然死と関連の あることが報告されている36.したがって,失神後に発 生する死亡や有害事象の多くは,失神の背景にある疾患 の重症度と関連していると推測される8

②失神の再発リスク

 

Framingham

研究では,失神の再発率は

22

28

%であ った4),12.また,質問票による横断研究では複数回の失 神を経験している割合は

47

64

%と高値であった(表

4)

13)-15.失神の再発を予測する最も強い因子はこれま でに経験した失神の回数であり,経験した失神の回数が 多いほど再発のリスクが高くなる37.失神の再発自体は,

必ずしも死亡や突然死との関連を認めていないが,繰り 返す失神は他の慢性疾患と同様に生活の質を低下させ日 常生活に深刻な影響を及ぼす38),39

③失神による外傷合併のリスク

 失神では立位保持ができなくなった際に,受け身をと れずに転倒することが多く,外傷合併のリスクがある.

我が国の報告では,救急搬送された失神患者の

17

%が 外傷を合併していた25

ED

受診者を対象とした欧米の 報告では,外傷の合併率は

26

31

%,うち骨折等の重 症外傷が

5

10

%,打撲や血腫等の軽症外傷が

21

25

%であった21),22),40.失神の原因と外傷の合併率には明 らかな関連性は認められなかった40

4

診断へのアプローチ

 失神患者を診る場合の基本的な診断方法を表

7

および 診断フローチャートにまとめた(図

1).初期評価とし

て主に病歴聴取・身体所見・心電図検査が含まれるが,

何よりも病歴聴取が重要で,それぞれの病態に特徴的な 前駆症状,随伴症状の有無を確認する.例えば,長時間 の立位時に悪心・嘔吐を伴う場合は反射性(神経調節性)

失神が疑われる.一方,運動時に動悸あるいは胸痛が先 行すれば器質的心疾患に伴う不整脈が疑われる.降圧薬 服用の有無,突然死の家族歴の有無等も診断の参考にな る.身体所見では,器質的心疾患を示唆する所見,血管 雑音,血圧の左右差,自律神経失調を伴う神経疾患に特

徴的な所見,外傷の有無等に注意する.

 病歴聴取・身体所見(血圧測定も含む)・心電図検査 による初期評価に加え,状況に応じて頸動脈洞マッサー ジ,心エコーを行う.不整脈性失神が疑われる場合には 心電図モニターを,反射性(神経調節性)失神や起立性 失神では臥位・立位の血圧測定あるいはチルト試験を,

非失神性の一過性意識消失発作が疑われれば神経学的検 査や血液検査を施行する.これらの初期評価では,失神 であるか否かをまず確定すること,その時点で失神の原 因診断がつけば,必要に応じて治療を開始する.初期評 価後も失神の原因診断が不明な場合には,まずリスクの 階層化を行い(表8),ハイリスク所見の有無をチェッ クする.ハイリスク所見を有すれば基礎心疾患や心機能 等を考慮しながら運動負荷心電図,ホルター心電図,さ らには必要に応じて心臓電気生理検査,心臓カテーテル 検査,冠動脈造影等を包括的に行った上で早期に原因診 断を確定する必要がある.失神の頻度にもよるが,週に

1

回以上の頻度で失神あるいは失神前駆症状があればホ ルター心電図が有用である.失神の発生間隔が

4

週間以 内に繰り返している場合には,体外式イベントレコーダ

表 7 診断へのアプローチ

1.基本的検査

 

1

)病歴  

2

)身体所見  

3

)起立時の血圧測定  

4

)心電図

 5)胸部X線写真

2.特定の疾患が疑われた場合

 1)反射性(神経調節性)失神および類縁疾患   ①チルト試験

  ②頸動脈洞マッサージ

  ③長時間心電図(ホルター心電図,体外式イベントレコ ーダー,植込み型ループレコーダー)

 

2

)心疾患   ①心エコー図

  ②長時間心電図(反射性失神に準じる)

  ③運動負荷試験   ④電気生理検査

  ⑤心臓カテーテル検査,冠動脈造影  

3

)大血管疾患(肺血管を含む)

  ①

MRI

  ②造影

CT

  ③肺血流スキャン   ④血管造影  4)神経系疾患

  ①神経内科,脳外科へのコンサルテーション   ②頭部画像検査:CT,MRI等

3.

失神以外の意識障害が疑われた場合

 

1

血液検査:血糖値,動脈血ガス分析,薬物血中濃度等  

2

)頭部

CT

MRI

MRA

 

3

)頸動脈エコー  

4

)脳波

 5)精神・心理的アプローチ  6)その他,病態に応じた検査

(8)

ーも有用と考えられる.また,植込み型心電計(植込み型 ループレコーダー:

implantable loop recorder

)の使用は,

発生頻度が少ないかあるいは不定期に繰り返す場合には 考慮される.リスクの階層化において,ハイリスク所見 はないが短期間に繰り返す再発性失神の場合,反射性(神 経調節性)失神が疑われればチルト試験等を行い,必要 に応じて心原性失神も考慮の上精査を行う.この際,植 込み型ループレコーダーの使用は非常に有益であり,し

かも評価の初期段階での使用が勧められる41.ただしハ イリスク所見がない再発性失神患者には,最初から植込 み型ループレコーダーを考慮すべきではなく,心原性以 外の原因が否定的な場合に評価の初期段階ではじめて考 慮すべきものである.ハイリスク所見もなく,失神発作 が初回かあるいはまれな場合には,さらなる精査は必要 なく評価をこの時点で終了する.失神と鑑別を要する非 失神性意識障害の鑑別を要する場合には,脳波,頭部の 画像検査(

CT

MRI

),頸動脈エコー,血液検査が必要 になる.患者の訴えによっては精神・心理的アプローチ が必要な例もあるが,生命に関わる器質的疾患がないこ とを確認しておく.

 表7の検査をすべて行う必要があるわけではなく,示 唆される病態に応じて選択する.

植込み型ループレコーダーの適応 クラスⅠ

1

ハイリスク所見はないが,心原性以外の原因が否定 的で,デバイスの電池寿命内に再発が予想される原 因不明の再発性失神患者の初期段階での評価

2

ハイリスク所見を有するが包括的な評価でも失神原

因を特定できず,あるいは特定の治療法を決定でき なかった場合

クラスⅡ

a

1

頻回に再発あるいは外傷を伴う失神歴がある反射性 表 8 失神患者の高リスク基準

1

.重度の器質的心疾患あるいは冠動脈疾患:心不全,左室 駆出分画低下,心筋梗塞歴

2

.臨床上あるいは心電図の特徴から不整脈性失神が示唆さ れるもの

 ①労作中あるいは仰臥時の失神  ②失神時の動悸

 ③心臓突然死の家族歴  ④非持続性心室頻拍

 ⑤二束ブロック(左脚ブロック,右脚ブロック+左脚前枝

or

左脚後枝ブロック),

QRS

120ms

のその他の心室内 伝導異常

 ⑥ 陰性変時性作用薬や身体トレーニングのない不適切な洞 徐脈(<

50/分) ,洞房ブロック

 ⑦早期興奮症候群  ⑧QT 延長 or 短縮  ⑨

Brugada

パターン

 ⑩不整脈原性右室心筋症を示唆する右前胸部誘導の陰性

T

波,イプシロン波,心室遅延電位

3

.その他:重度の貧血,電解質異常等

図1 診断のフローチャート

失 神

一過性意識消失(失神の疑い)

初期評価

非失神

特定の検査,

専門医の診断による確定

治 療 リスク階層化

低リスク

再発性失神 低リスク

1回 or まれ

評価終了 適宜,循環器系や 反射性失神の検査

心電図記録に基づいて 遅れて開始される治療 高リスク

早期評価,

治 療

診断未確定 確定診断

治 療

(9)

(神経調節性)失神の疑いを含む患者で,徐脈に対す るペースメーカ治療が考慮される場合

 我が国では平成

21

10

月より保険償還されている.

本機器は皮下に植込む心電計で,約

3

年間の電池寿命を 有し,失神症状出現時の心電図所見をとらえることがで きるため失神の原因診断に極めて有用な手段である.症 状出現時に患者自身あるいは他者によりイベント記録を 行うことにより,数分前にさかのぼって心電図が保存さ れる.また,あらかじめ設定された心拍異常(徐脈,心 停止,頻脈等)が発生した場合には心電図が自動的に保 存される.種々の検査を施行した後でも失神の原因が同 定されなかった患者

506

名に対して植込み型ループレコ ーダーを用いて調べた結果,失神時の心電図が得られた 患者は

176

名(

35

%)にのぼった37.その内訳は,

56

に心停止,

11

%に頻脈が記録され,残り

33

%には不整 脈は認めなかった.つまり,あらゆる検査を施行しても 原因不明の失神患者の約

2/3

は植込み型ループレコーダ ーによりさらに診断可能となったことになる.一方これ までの研究で,失神前駆症状と不整脈との関連性は比較 的薄いことが示されているため,失神前駆症状のみの患 者に植込み型ループレコーダーを用いることは現時点で は推奨されていない8

 植込み型ループレコーダーの有用性に関しては,(

1

抗てんかん薬治療抵抗性のてんかん疑い患者,(

2

)治療 後にも自然発作を繰り返す再発性血管迷走神経性失神が 疑われる患者,(

3

)心臓電気生理検査で陰性であるにも かかわらず発作性房室ブロックが疑われる脚ブロック患 者,(

4

)心臓電気生理検査で陰性であるが,失神の原因 として心室頻拍が疑われる基礎心疾患を有する非持続性 心室頻拍患者,(

5

)原因不明の転倒を繰り返す患者,等 で検討が進められており,今後の結果が待たれる.

各 論

1

起立性低血圧

1

病態生理

 人が仰臥位から立位になると,約

500

800mL

の血 液が胸腔内から下肢や腹部内臓系へ移動し,心臓への還 流血液量が約

30

%減少する.このため心拍出量は減少

し,体血圧は低下する.この循環動態の変化に対し,生 体は圧受容器反射系の賦活により対処する.圧受容器反 射系は,(

1

)頸動脈・大動脈弓部・心肺・大静脈に存在 する圧受容器(伸展受容器),(

2

)迷走神経(求心路),

延髄にある血管運動中枢(延髄孤束核,頭側延髄腹外側 野),交感神経(遠心路)および(

3

)末梢血管・心臓(効 果器)からなる.圧受容器反射系の賦活の結果,心拍数 増加,心収縮力増加,末梢血管抵抗増加,末梢静脈の収 縮を生じる.健常者では,この圧受容器反射系が適切に 機能して血圧の過剰な低下を抑制しているが,圧受容器 反射系のいずれかの部分に異常を来たすか循環血液量が 異常に低下した状態では,起立時に高度の血圧低下を来 たす42

2

診断と原因疾患

 これまでの本学会の失神ガイドライン7では,起立性 低血圧については,主にいわゆる古典的起立性低血圧

classical orthostatic hypotension

)の診断・原因疾患を 述べてきた.しかし,臨床的には起立性低血圧による失 神は,起立不耐症(Ⅱ─

3.

体位性起立頻脈症候群の項参 照)を伴う反射性(神経調節性)失神とその症状・病態 が共通することが多い.このことは表

9

のごとく,

ESC 2009

のガイドライン8で強調されている.古典的起立性 低血圧は,仰臥位または坐位から立位への体位変換に伴 い,起立

3

分以内に収縮期血圧が

20mmHg

以上低下する か,または収縮期血圧の絶対値が

90mmHg

未満に低下,

あるいは拡張期血圧の

10mmHg

以上の低下が認められ た際に診断される43.失神の原因疾患としての起立性低 血 圧 に は, 初 期 起 立 性 低 血 圧(

Initial orthostatic hypotension

44,遅延性(進行性)起立性低血圧[

delayed

progressive

orthostatic hypotension

45)-47, 体 位 性 起 立 頻 脈 症 候 群[

postural

orthostatic

tachycardia syndrome

POTS

48も含まれている(表9).

 一般に,起立性低血圧の診断には能動的立位

5

分間が 推奨されているが49,約

3

分間の起立で起立性低血圧の

90

%が診断可能である50

 起立性低血圧に伴う失神の症状は,朝起床時,食後,

運動後にしばしば悪化する.食後に惹起される失神は殊 に高齢者に多く,食後の腸管への血流再分布が原因とさ れる.

 起立性低血圧の原因疾患(表

10)

51の中で,体液量減 少や血管拡張作用を有する薬剤に起因するものが最も多 52.特に高齢者では圧受容器反射機能低下等のために,

薬剤による血圧低下作用が生じやすい53.自律神経障害 の重症のものに起立性低血圧が高頻度に合併する54

(10)

3

治療

クラスⅠ

1

.急激な起立の回避

2

.誘因の回避:脱水,過食,飲酒等

3

誘因となる薬剤の中止・減量:降圧薬,前立腺疾患 治療薬としてのα遮断薬,硝酸薬,利尿薬等

4

適切な水分・塩分摂取(高血圧症がなければ,水分

2

3L/

日および塩分

10g/

日)

クラスⅡ

a

1

循環血漿量の増加:食塩補給,鉱質コルチコイド(フ ルドロコルチゾン 

0.02

0.1mg/

日 分

2

3

),エ リスロポエチン

2

.腹帯・弾性ストッキング

3

.上半身を高くした睡眠(

10

度の頭部挙上)

4

.α刺激薬:塩酸ミドドリン 

4mg/

日 分

2

塩酸エチレフリン 

15

30mg/

日 分

3

 起立性低血圧自体が危険であることはまれであるが,

血圧低下に伴う脳虚血等の危険な合併症が問題である.

失神を含む症状の重症度も考慮した治療が必要である

(表11)55)-63

4

予後

 起立性低血圧の予後は,心疾患等の基礎疾患の有無に 依存する.特発性自律神経障害症例の予後は必ずしも悪 くないが,その他の自律神経障害症例の予後は良好とは いえない.加齢とともに低血圧に伴う虚血性臓器障害が 出現しやすくなり,起立性低血圧症例では死亡率が増加 する64.脳卒中発症率の増加や虚血性心疾患発症率の増 65も報告されている.

2

反射性失神

 本改訂版では,失神の発生に自律神経反射が密接に関 係している血管迷走神経性失神(

vasovagal syncope

),

頸動脈洞症候群,状況失神(

situational syncope

)を反 射性失神(神経調節性失神)と総称する66

1

血管迷走神経性失神

①概念

 血管迷走神経性失神は,様々な要因により交感神経抑 制による血管拡張と迷走神経緊張による徐脈が,様々な バランスをもって生じる結果,失神に至る.

表 9.失神を惹起する可能性のある起立不耐症症候群(文献 8 より)

分類 診断試験 立位-症状

発現時間 病態生理 最も頻度の高い症状 臨床像 初期起立性

低血圧

立位試験時の 心拍毎の収縮期

血圧測定

0

30

心拍出量と末梢血管抵 抗の不一致

立位直後の頭重感,め まい,視力障害(失神 はまれ)

若 年 虚 弱 体 質, 老 年,

薬剤(血管拡張薬),頸 動脈洞症候群

古典的起立性

低血圧 立位試験または

チルト試験

30

秒~

3

自律神経活動不全によ る末梢血管抵抗増加不 全または代償反射不全

めまい,失神前駆症状,

倦怠,動悸,視力・聴 力障害(失神はまれ)

老年者,薬剤(血管作 動性および利尿薬)

遅延性(進行性)

起立性低血圧 立位試験または

チルト試験

3

10分

心拍出量低下,末梢血 管抵抗増加不全に起因 する進行性の下肢静脈 還流・前負荷低下

遷延する前駆症状(め まい,倦怠,動悸,視力・

聴力障害,多汗,背部・

頸部・胸部痛)後の突 然の失神

老年者,自律神経不全,

薬剤(血管作動性及び 利尿薬),他の合併症

遅延性(進行性)

起立性低血圧と

反射性失神の合併 チルト試験

3

45

迷走神経活動に起因す る進行性の下肢静脈貯

遷延する前駆症状(め まい,倦怠,動悸,視力・

聴力障害,多汗,背部・

頸部・胸部痛)後の突 然の失神

老年者,自律神経不全,

薬剤(血管作動性およ び利尿薬),他の合併症

立位誘発性

反射性失神 チルト試験

3

45分

初期代償性反射に続く 急激な静脈還流低下・

迷走神経活動増加

反射性失神に典型的前

駆症状・誘因後の失神 若年健常者,女性に多い 体位性起立頻脈

症候群(POTS) チルト試験 症例により 異なる

静脈還流の不適切な不 全状態および過剰な末 梢静脈血液貯留

有症候性洞性頻脈およ び不安定血圧(失神は

まれ) 若年女性

POTS;Postural tachycardia syndrome,立位試験(Active standing)

(11)

②臨床的特徴

 血管迷走神経性失神は,(

1

)一過性徐脈により失神発 作に至る心抑制型(

cardioinhibitory type

),(

2

)徐脈を 伴わず,一過性の血圧低下のみにより失神発作に至る血 管抑制型(

vasodepressor type

),(

3

)徐脈と血圧低下の 両者を伴う混合型(

mixed type

)に分類される.患者の 多くは,程度の差はあれ発作直前に前駆症状として頭重 感や頭痛・複視,嘔気・嘔吐,腹痛,眼前暗黒感等の何 らかの前兆を自覚している.失神の原因となる徐脈には 洞徐脈や洞停止が多いが,房室ブロックもまれではない.

我が国では血管抑制型や混合型による発作頻度が比較的 高いが,欧米ではむしろ心抑制型の発生頻度が高い.

 血管迷走神経性失神は,長時間の立位あるいは坐位姿 勢,痛み刺激,不眠・疲労・恐怖等の精神的・肉体的ス トレス,さらには人混みの中や閉鎖空間等の環境要因が 誘因となって発症し,自律神経調節の関与が発症に関わ っている67),68.血管迷走神経性失神は体動時に発生す ることは少なく,立位あるいは坐位で同一姿勢を維持し ているときに発生しやすい.失神発作は,日中,特に午 前中に発生することが多く69,失神の持続時間は比較的 短く(

1

分以内),転倒による外傷以外には特に後遺症 を残さず,生命予後は良好である12

③病態生理

 立位により末梢静脈のうっ帯が起こり,心臓への静脈 還流量が減少するため心拍出量が低下し,これによる動 脈圧低下に対して,頸動脈洞や大動脈での高圧系圧受容 器反射により交感神経系緊張と迷走神経系抑制が生じ る.そのため心拍数,心収縮力,末梢血管抵抗が増加し,

立位時の血圧低下を代償する.さらに立位姿勢を継続す ることにより,容積の減少した左室の収縮力増強は左室 の機械受容器を刺激し,

C

線維を介して脳幹部(延髄孤 束核)に至り,ここからの線維により血管運動中枢を抑 制,迷走神経心臓抑制中枢を興奮させ,それぞれ遠心性 線維を介して血管拡張と心拍数減少を来たすと考えられ ている(図2)70),71

 上述の機序のみでは説明困難な場合が存在し,他に,

1

)脳循環,(

2

)心肺圧受容器反射,(

3

)心理的要因等 も血管迷走神経性失神の発症に関与している.

1)脳循環の関与

 失神発症時の中大脳動脈血流速度をドップラーエコー で観察した研究では,失神が起こっているにもかかわら ず中大脳動脈の平均血流速度は低下し,脳血管抵抗が上 表 10 起立性低血圧の原因(文献 8,42,51 〜 53 より改変)

(1)

特発性自律神経障害

  ①純粋自律神経失調(

Bradbury-Eggleston

症候群)

  ②多系統萎縮(

Shy-Drager

症候群)

  ③自律神経障害を伴う

Parkinson

2

二次性自律神経障害   ①加齢

  ②自己免疫疾患

    Guillain-Barre症候群,混合性結合組織病,関節リウマ チ,Eaton-Lambert症候群,全身性エリテマトーデス   ③腫瘍性自律神経ニューロパチー

  ④中枢神経系疾患

   多発性硬化症,

Wernicke

脳症,視床下部や中脳の血管 病変,腫瘍

  ⑤

Dopamine beta-hydroxylase

欠乏症   ⑥家族性高ブラジキニン症

  ⑦全身性疾患

   糖尿病,アミロイドーシス,アルコール中毒,腎不全   ⑧遺伝性感覚性ニューロパチー

  ⑨神経系感染症

   

HIV

感染症,

Chagas

病,ボツリヌス中毒,梅毒   ⑩代謝性疾患

   ビ タ ミ ン

B12

欠 乏 症, ポ ル フ ィ リ ン 症,

Fabry

病,

Tangier病

  ⑪脊髄病変

(3)

薬剤性および脱水症性

  ①利尿薬

  ②α遮断薬

  ③中枢性α

2

受容体刺激薬   ④

ACE

阻害薬

  ⑤抗うつ薬:三環系抗うつ薬,セロトニン阻害薬   ⑥アルコール

  ⑦節遮断薬

  ⑧ 精神神経作用薬:ハロペリドール,レボメプラマジン,

クロルプロマジン等   ⑨硝酸薬

  ⑩β遮断薬   ⑪

Ca

拮抗薬

  ⑫その他(パパベリン等)

表 11 起立性低血圧の治療(文献 55 〜 63 より改変)

1.原因,誘因の除去

  ①活動時の降圧薬中止   ②利尿薬中止

  ③α遮断薬(前立腺肥大治療)中止   ④過食予防

2

.非薬物療法

  ①水分補給,塩分摂取増加   ②腹帯・弾性ストッキング装着

  ③上半身を高くしたセミファウラー位での睡眠   ④前駆症状出現時の回避法(足くみ

, 蹲踞姿勢等)

  ⑤急な起立の回避   ⑥昼間の臥位を避ける

3

.体液量の増加

  ①貧血の治療(エリスロポエチン)

  ②フルドロコルチゾン

4.短時間作用型昇圧薬

  ミドドリン,エチレフリン

5.その他

  オクトレオチド

表 5 Hospital-based study における失神疑いの一過性意識障害患者の ED 受診者に占める割合,入院率と原因別頻度 著者名 報告年 国 患者数 年齢(歳) 平均or 中央値 性別 (男性), % 診療部門 ED 受診者に占める割 合, % 入院率,% 原因, %心原性失神反射性(神経調節性) 失神 起立性低血圧 非失神の病態 不明 欧米の報告 Ammirati 17) 2000 イタリア 195 63 44 ED 68 21 35 6 20 18 Sarasin 18) 2001 スイス
表 21 病歴チェックリスト 心原性失神を示唆 反射性失神を示唆 その他 失神発生時 体 位 □仰臥位 □立位または座位 活 動 □運動中 □首の回旋や圧迫 □運動直後 □排尿中または直後 □排便中または直後 □咳嗽中,嚥下直後 環 境 □医療処置中 □精神的緊張 □痛み □混雑した環境 □長時間の立位 □暑苦しい環境 失神前後の症状 □胸痛・背部痛 □体の暑くなる感じ □頭痛 □動悸 □発汗 □呼吸困難 □悪心 □前駆症状なし □腹痛 既往歴 □うっ血性心不全 □糖尿病 □心室性不整脈 □神経疾患 □虚血
表 24 失神患者の自動車運転に関する指針(ESC ガイドライン 2009 8) より引用) 診   断 ●不整脈 自家用運転手 職業運転手 薬物治療 治療の有効性が確認さ れるまで禁止 治療の有効性が確認されるまで禁止 ペースメーカ植込み 1 週間は禁止 ペースメーカの適切な作 動が確認されるまで禁止 カテーテルアブレーション 治療の有効性が確認さ れるまで禁止 長期間の有効性が確認されるまで禁止 植込み型除細動器 一次予防で 1 か月,二次 予防で 6 か月間禁止 永久的禁止 ●反射性(神経調節性)失神

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