個人視聴データから抽出されたクラス別テレビ視聴行動の分析
00D8102021I 熊倉 章人中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2004年3月
あらまし:番組カテゴリとその視聴時間について コレスポンデンス分析を行い,モニタの視聴選好を 表す3 次元座標を得る.この3 次元座標について クラスタ分析を行い,モニタクラスタを抽出する.
そして,このモニタクラスタの視聴傾向とその特徴 を分析する.
キーワード:テレビ視聴行動,クラスタ分析,コ レスポンデンス分析
1 はじめに
テレビは日常生活に深く根付いているが,テレビ 視聴行動についての研究に出会うことは少ない.視 聴者の需要に即した番組が数多く放送されるよう になれば,視聴者にとって,テレビはより楽しめる メディアになると考えた.そこで,視聴者は具体的 にどのような番組カテゴリを選択しているのかを 明らかにする.
2 使用するデータ
本研究で使用するテレビ視聴データ,モニタアン ケートデータ,番組放送時間データは株式会社ビデ オリサーチから提供されたものを用いる.
2.1 テレビ視聴データ
2003年3月31日〜5月11日の6週間において,
首都圏35km圏内の203モニタのテレビ視聴行動 を収録したデータを用いる.
2.2 モニタアンケートデータ
上記の内,199モニタの年齢,性別,職業,食事 や買い物,日常生活,メディア接触についてのアン ケート結果を収録したデータを用いる.
2.3 番組放送時間データ
2003年3月30日〜5月12日において関東地方 で実際に放送された番組の番組名,放送テレビ局,
放送開始日,放送開始時刻,放送終了日,放送終了 時刻を収録したデータを用いる.
3 分析手法
3.1 クラスタ分析
さまざまな対象が混在している中から,互いに類 似している対象をクラスタと呼ばれるグループに 統合し,分類する方法の総称である.
3.2 コレスポンデンス分析
クロス集計表の行カテゴリと列カテゴリについ て,列カテゴリの反応が類似する行カテゴリ同士,
行カテゴリの反応が類似する列カテゴリ同士を寄 せ集め,視覚的に表現する最適な座標値を見つける 方法である.
3.3 2 標本検定
2 つの正規母集団における母平均の差の検定で ある.
4 対視聴者機能による番組分類
同じ視聴動機によって視聴される番組は類似す る番組属性を持つ番組と考え,同じ番組は類似する 視聴動機によって視聴されると考える.[1]のよく
見た番組とその視聴動機のクロス集計表について コレスポンデンス分析を行う.得られる番組とその 視聴動機の布置から 4 つの対視聴者機能が存在す ると考え,対視聴者機能と番組テーマ,さらに[2]
の番組分類法から,番組カテゴリを表 1 のように 仮定した.
表1 対視聴者機能と番組カテゴリ
対視聴者機能 番組カテゴリ
笑える,気楽に見られる バラエティ,コント,クイズ,
トーク&歌 役に立つ情報,
為になる知識が得られる
雑学,生活情報,ニュース
ハラハラドキドキできる,
共感できる,感動できる
事件・ハプニング,自然,
ドキュメンタリ,人間ドラマ,
トレンディドラマ,映画,
劇場ドラマ,その他のドラマ 癒される J-POP,歌謡ショー 上記以外の対視聴者機能 アニメ,食,旅,野球中継,
サッカー中継,
その他のスポーツ
5 視聴選好によるモニタの抽出
5.1 番組カテゴリ視聴ベクトル・番組カテゴリ 被視聴ベクトル
モ ニ タ mi
(
i=1,2,L,I)
が 番 組 カ テ ゴ リ(
j J)
cj =1,2,L, を視聴した合計時間を と表し,番 組カテゴリ に属する全番組放送時間を と表す とき,モニタ の番組カテゴリ視聴ベクトルを
vij
cj bj
mi
(
i iJ J)
i= v1 b1 L v b
view と定義する.また,番組 カ テ ゴ リcjの 番 組 カ テ ゴ リ 被 視 聴 ベ ク ト ル を
(
j j Ij j)
j= v1 b L v b
viewed と定義する.
5.2 モニタクラスタの抽出
同じ番組カテゴリを視聴するモニタ同士を類似 する視聴選好を持つモニタと考え,同じモニタによ って視聴される番組カテゴリを類似する番組カテ ゴリと考える.番組カテゴリ視聴ベクトルについて コレスポンデンス分析を行い,モニタの視聴選好を 表す3 次元座標を得る.得られたモニタの3 次元 座標についてクラスタ分析を用いて類似するモニ タ同士をまとめる.その結果,10 個のモニタクラ スタを抽出した.
5.3 モニタクラスタの視聴傾向についての分 析
各クラスタに属するモニタと 201 モニタにおい て,視聴傾向(よく視聴する番組カテゴリ,あまり 視聴しない番組カテゴリ,視聴人数の多い番組,番 組視聴時間,視聴時間あたりのチャンネルスイッチ 回数)に差異があるか片側5%の2標本検定を行う.
モニタクラスタ 1 は,番組視聴時間が短く,よ く視聴する番組カテゴリが存在しない.
モニタクラスタ2は,“野球中継”,“ニュース”,
“その他のスポーツ”をよく視聴する.
モニタクラスタ3は,番組視聴時間が長く,“事 件・ハプニング”を含む 8 番組カテゴリをよく視
聴する.
モニタクラスタ4は,6番組カテゴリをよく視聴 し,“事件・ハプニング”をあまり視聴しない.ま た,“トーク&歌”の視聴人数が特に多い.
モニタクラスタ5は,“事件・ハプニング”,“旅”
をよく視聴し,“サザエさん”など“アニメ”の視 聴人数が多い.家族でテレビを視聴するクラスタで あると考えられる.
モニタクラスタ6は,“映画”,“サッカー中継”,
“ドキュメンタリ”,“自然”をよく視聴する.
モニタクラスタ 7 は,番組視聴時間が短く,よ く視聴する番組カテゴリが存在しない.
モニタクラスタ 8 は,番組視聴時間あたりのチ ャンネルスイッチ回数が少なく,よく視聴する番組 カテゴリが存在しない.
モニタクラスタ9は,番組視聴時間が短く,“サ ッカー中継”をよく視聴する.
モニタクラスタ10は,モニタ数が1であり検定 を行うことができない.
5.4 モニタクラスタの特徴についての分析 各モニタクラスタに属するモニタと,テレビ視聴 データとアンケートデータが両方とも欠損しない 197モニタにおいて,年齢,性別,職業などの割合 に差異があるか片側5%の2標本検定を行う.
モニタクラスタ1は,有意な差異が存在しない.
モニタクラスタ2は,男性の割合が高い.
モニタクラスタ3は,女性,20代前半,主婦の 割合が高く,PCによるインターネット利用頻度が 高い.主婦のモニタは 197 モニタより番組視聴時 間が有意に長いため,クラスタ 3 の番組視聴時間 は長いと考えられる.
モニタクラスタ4は,「現在のテレビ番組は楽し い」と考えるモニタの割合が高い.
モニタクラスタ5は,30代後半のモニタの割合 が高い.家族とテレビを視聴すると考えられる.
モニタクラスタ6は,男性,20代後半のモニタ の割合が高く,環境問題に関心があるモニタの割合 が高い.
モニタクラスタ7は,20代前半のモニタの割合 が高く,「現在のテレビ番組は楽しくない」と考え るモニタの割合が高い.
モニタクラスタ8は,大学生の割合が高く,「現 在のテレビ番組は楽しくない」と考えるモニタの割 合が高い.
モニタクラスタ9は,30代前半のモニタの割合 が高い.
モニタクラスタ10は,属するモニタ数が1であ り検定を行うことができない.
5.5 アンケートと視聴傾向の関係
環境問題に関心があるモニタと 197 モニタにつ いて片側5%の2標本検定を行う.その結果,環境 問題に関心があるモニタにおいて“自然”をよく視 聴するクラスタ6に属する割合と197モニタにお いてクラスタ6に属する割合に,有意な差はない.
したがって,“自然”をよく視聴するクラスタに属 するモニタは環境問題に関心があるモニタの割合 が高いが,環境問題に関心があるモニタは“自然”
をよく視聴するモニタクラスタに属することが多 いとは言えない.
番組視聴時間が短いクラスタ 1,7,9 に属する
モニタと197モニタについて,片側5%の2標本検 定を行う.その結果,クラスタ 1,7,9 が「現在 のテレビ番組は楽しくない」と考えるモニタの割合 は,197モニタの「現在のテレビ番組は楽しくない」
と考えるモニタの割合より有意に高い.また,「現 在のテレビ番組は楽しくない」と考えるモニタと 197モニタについて,片側5%の2標本検定を行う.
その結果,「現在のテレビ番組は楽しくない」と考 えるモニタが番組視聴時間の短いクラスタ1,7,9 に属する割合は,197 モニタがクラスタ 1,7,9 に属する割合より有意に高い.
したがって,「現在のテレビ番組は楽しくない」と 考えるモニタの割合が高いクラスタは番組視聴時 間が短いと考えられる.反対に,番組視聴時間が短 いクラスタは,「現在のテレビ番組は楽しくない」
と考えるモニタの割合が高い.
5.6モニタクラスタの性別年齢別内訳
性別年齢区分別にモニタクラスタの内訳を調べ,
その特徴を考察する.
男性モニタには“野球中継”,“サッカー中継”を よく視聴するモニタが多く,女性モニタには幅広い 番組カテゴリをよく視聴するモニタが多いと考え られる.また,20代後半からクラスタ6に属する モニタが登場することから,男性モニタの視聴選好 は20代前半と20代後半を境界として変化するこ とが考えられる.
6 おわりに
本研究では,個人視聴データについてコレスポン デンス分析,クラスタ分析を用いて,10 個のモニ タクラスタを抽出した.各モニタクラスタは,それ ぞれ番組カテゴリについて視聴選好を持っていた.
本研究において仮定した番組カテゴリは,番組に 対する視聴者の認識をどの程度反映しているのか などについて,さらに検証する必要がある.また,
番組選択モデルとして知られる多項ロジットモデ ルや潜在クラス・ロジットモデルを用いて,視聴者 の番組選択を推定することが今後の課題として挙 げられる.
謝辞
本研究を進めるにあたり,丁寧なご指導,及び 適切なご助言を頂きました中央大学理工学部情報 工学科の田口東教授に心から感謝致します.また,
本研究に不可欠なデータの提供にご協力頂きまし た筑波大学社会工学系の猿渡康文助教授,株式会社 ビデオリサーチの大西浩志氏に心から感謝致しま す.
参考文献
[1] 原由美子,友宗由美子,重森万紀,“8つの「テ レビ視聴型」とステーションイメージ”,NHK 放送文化調査研究年報45,pp.165-237,2002.
[2] 原由美子,友宗由美子,重森万紀,高橋佳恵,
“夜間547 番組のタイプ別整理〜新しい番組 分類法への試み〜”,放送研究と調査,2000 年11月号,pp.2-25,2000.
[3] 朝野煕彦,“入門多変量解析の実際 第2版”,
講談社,2000.