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昭和大学横浜市北部病院こどもセンター

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Academic year: 2021

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(1)

多発するリンパ節腫脹を契機に診断された  自己免疫性好中球減少症の 1 乳児例

昭和大学横浜市北部病院こどもセンター

齋藤 秀嘉  阿部 祥英  氏家 岳斗 渡邊 佳孝  曽我 恭司  梅 田  陽

抄録:症例は月齢 8 の男児である.発熱,右頸部と側胸部の腫脹を主訴に当院に紹介された.

造影 CT で輪状の造影効果を伴うリンパ節が左顎下部,右頸部,右側胸部に多発しており,化 膿性リンパ節炎が示唆されたが,cefazolin は無効で,meropenem,vancomycin,azithromycin の投与を要した.入院後 20 日まで好中球減少(58 〜 496 /µl)が持続し,精査の結果,抗好 中球抗体である human neutrophil antigen 1a および 1b が血清から検出され,自己免疫性好 中球減少症の診断に至った.自己免疫性好中球減少症は本症例のような重症感染症の原因にな ることは少ない.また,多発リンパ節腫脹を契機に診断された症例がないので報告する.

キーワード:自己免疫性好中球減少症,多発リンパ節腫脹,乳児

は じ め に

 自己免疫性好中球減少症は抗好中球抗体により好 中球が破壊され,成熟好中球数の減少をきたす疾患 である1).発症頻度は 10 万人あたり 1 人と報告され ており2),その多くは乳児期に反復する感染症を契 機に診断され,多くは重症感染症には至らない.ま た,自己免疫性好中球減少症でリンパ節腫脹が多発 する症例の報告は少ない.今回われわれは,多発す るリンパ節腫脹を契機に診断された自己免疫性好中 球減少症の 1 例を経験したので報告する.

症 例 提 示  患者:8 か月,男児.

 主訴:発熱,右頸部・側胸部腫脹.

 家族歴:特記すべき事項なし.

 既往歴:湿疹(近医で加療中).

 生活歴:ペットなし,動物との接触歴なし.

 予防接種歴:インフルエンザ菌(2 回),肺炎球 菌(2 回),四種混合(2 回),BCG.

 現病歴:当院受診 4 日前から発熱を認め,当院受 診当日の朝に右頸部,右側胸部の腫瘤に気づかれ た.近医を受診後,当院を紹介され,同日入院した.

 入院時現症:身長 67 cm(−1.5 SD),体重 8,235 g

(−0.7 SD),体温 36.3 度,心拍数 130 /分,血圧 96/50 mmHg,呼吸数 26 /分.

 意識清明,顔面発赤あり,咽頭発赤なし,呼吸音 は清で,心音も異常を認めなかった.腹部は平坦・

軟で,腫瘤は認めなかった.眼球結膜充血なし,口 唇紅潮,四肢末端の変化は認めなかったが,BCG 接種部位の軽度発赤を認めた.右頸部と右側胸部に それぞれ径 3 cm,2 cm のリンパ節腫脹を認めた.

境界明瞭,辺縁整で圧痛,発赤を認めたが,熱感は 認めなかった.その他の部位のリンパ節は触知しな かった.

 検査所見(表 1):血液検査で CRP 値の上昇を認 めたが,好中球数は 800 /µl と減少していた.好中 球機能や IgG 値に異常は認めなかった.抗体価の 上昇なく,サイトメガロウイルス(CMV)感染症,

Epstein-Barr  virus(EBV)感染症,トキソプラ ズマ症,猫ひっかき病は否定的であった.胸部単 X 線に異常は認めなかった.ツベルクリン反応は陽性

(発赤径 15 mm,中央部やや硬結あり)だったが,

Interferon-Gamma release assay(IGRA)は陰性 であった.

症例報告

責任著者

(2)

1  WBC8,020lTP6.7g/dlIgG937mg/dlIgE1,205IU/mlCMV-IgG  Stab0Alb3.4g/dlIgA44mg/dlCMV-IgM  Seg10BUN5.6mg/dlIgM95mg/dl

α

-ラ0.15Ua/ml  Lymph73Cr0.17mg/dl

β

-ラ1.13Ua/mlEBV 抗VCA-IgG10  Mono11Glu92mg/dlCH5043U/ml17.70Ua/mlEBV 抗VCA-IgM10 Eosino6T-bil0.4mg/dlC3130mg/dl6.38Ua/mlEBV EBNA RBC441

×

104lAST39U/lC436.7mg/dl0.45Ua/ml Hb9.9g/dlALT14U/l14.10Ua/ml Ht30.4CK105U/l

100Ua/ml15mm Plt51.4

×

104lLDH345U/lIGRA (QuantiFERON Na137mEq/l69.6 K5mEq/l4080-IgM  PT-INR0.98Cl103mEq/l99.3-IgG APTT34.1secCRP6.79mg/dl 

α

2+ Fib565mg/dl 1+ FDP5µg/mlHNA1a D-dimer2µg/mlHNA1b IGRA, Interferon-Gammreleasassay; HNA, Human Neutrophil Antigen

(3)

臨床経過(図

1

 入院後,頸部リンパ節炎の診断でcefazolin(CEZ)

を 50 mg/kg/日で投与したが,炎症反応は改善し なかった.入院後 3 日目に左顎下リンパ節の腫脹が 出現し,頸部造影 CT を施行した.輪状の造影効果 を伴うリンパ節が左顎下部,右頸部,右側胸部に多 発しており(図 2),CEZ が無効の化膿性リンパ節炎 と判断されたため,抗菌薬をmeropenem(MEPM,

120 mg/kg/日)と vancomycin(VCM,60 mg/kg/

日)に変更した.また,猫ひっかき病も否定できず,

azithromycin(AZM,10 mg/kg/日)を 3 日間投与

した.その後速やかに解熱し,炎症反応,リンパ節 腫脹も徐々に改善したため,MEPM,VCM の投与 は 7 日間で終了した.汎血球減少,末梢血中の異常 細胞,LDH の上昇はなかったが,好中球減少が持続 したため,自己免疫性好中球減少症を疑った.広島 大学にて抗好中球抗体を検索したところ,Human  Neutrophil Antigen(HNA) 1a,HNA 1b に対す る抗体を認め,自己免疫性好中球減少症と診断した.

 自然経過で好中球数は上昇し(表 2),入院後 27 日目には好中球数は正常範囲まで回復した.その後,

感染症の反復はない.

図 1 臨床経過

発熱は体温が 37.5℃以上だったことを意味する.

図 2 造影 CT 病変部を三角形で示す.

a:左顎下部に輪状に造影される低吸収域病変を認める.

b:右部に輪状に造影される低吸収域病変を 2 か所に認める.

c:右側胸部に輪状に造影される低吸収域病変を認める.

(4)

考  察

 本症例は,多発するリンパ節腫脹と好中球数減少 を認めたため,免疫不全症を鑑別するに至り,その 結果,自己免疫性好中球減少症と診断された乳児で ある.多発するリンパ節腫脹を呈した自己免疫性好 中球減少症の乳児例は報告がなく,本症例の特徴的 な点である.

 好中球減少症は末梢血の好中球数が 1,500 /µl 未 満で定義され,特に 500 /µl 未満では易感染性が問 題になる.小児において,好中球減少はウイルス感 染症の急性期にはしばしば経験されるが,その多く は急性期を脱すれば自然に回復する.小児の慢性特 発性好中球減少症のなかでは自己免疫性好中球減少 症が最も多い3)

 自己免疫性好中球減少症では主として Fc gamma  Receptor(FcγR)IIIb 上に発現している HNA 1 に対する自己抗体が産生され,破壊亢進により好中 球数が減少する4).これまでの報告では発生頻度は 10 万人あたり 1 人とされていたが1),近年の報告で は抗好中球抗体検査の発達により,これまで慢性良 性好中球減少症と診断されてきた多くが自己免疫性 好中球減少症であると考えられている5).好中球抗 原であるHNA 1抗原の発現頻度には人種差があり,

本邦では HNA 1a,欧米では HNA 1b が優位である が,自己免疫性好中球減少症の原因になる抗体は本 邦,欧米ともに HNA 1a に対するものが 30 〜 70%

と最多である1).41 症例の慢性好中球減少症を対象 とした研究では,29 例に抗体が認められ,そのうち 55%が HNA 1a 抗原に対する抗体,14%に HNA 1b 抗原が検出されている1).一方,本例のように HNA 1a 抗原と HNA 1b 抗原の双方に反応を認めた場合 は汎 Fc

γ

R IIIb 抗原に対する抗体の存在が疑われ,

前述の研究では 7%に同抗体が検出されている.汎 Fc

γ

R IIIb 抗原に対する抗体は Evans 症候群など の自己免疫疾患に合併した二次性自己免疫性好中球

減少症で検出されることがある1).本例では好中球 以外の血球の異常は認めず,自己免疫疾患を疑う所 見も認めていない.また,好中球数の自然回復も確 認され,自己免疫疾患に合併した二次性自己免疫性 好中球減少症ではなく,乳幼児自己免疫性好中球減 少症と診断した.なお,本症例において,汎 Fc

γ

R  IIIb 抗原に対する抗体が認められたことが,感染症 の重症化に関連したかは不明である.

 本症例のような乳児において,多発するリンパ 節腫脹を呈する疾患の鑑別には,ウイルス感染症

(EBV,CMV など),細菌感染症(ブドウ球菌感染,

連鎖球菌感染,猫ひっかき病),トキソプラズマ症,

結核,川崎病や悪性疾患が挙げられる6).トキソプ ラズマ症は,多発するリンパ節腫大を認めることが あるが,本症例においては血液検査結果から否定的 であった.ツベルクリン反応は陽性の所見であった が,BCG 接種後であったほか,IGRA が陰性で抗 結核薬を使用せずに症状の改善を認めたため,結核 の罹患は否定的と判断した.川崎病では多房性リン パ節腫大が認められることは知られているが,部位 は頸部に限局することが多く,本症例のように顎下 や側胸部のリンパ節腫大を認めることは少ない7,8). 一方,前述のように本症例で診断された自己免疫性 好中球減少症は一般的に重篤な感染症に進展するこ とが少ない.また,抗菌薬治療を要する例において も,その原因は主に肺炎や急性中耳炎,胃腸炎であ る.敗血症や顎下リンパ節炎,頸部リンパ節炎で発 見された自己免疫性好中球減少症の報告はある

1‑3,9‑12),多発するリンパ節腫脹を認めた報告例は

ない.

 厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班が提 供する原発性免疫不全症を疑う 10 の徴候13)には,

乳児の体重増加不良・発育不良,1 年に 2 回以上の 肺炎,気管支拡張症,2 回以上の深部感染症,抗菌 薬の内服で2か月治癒しない感染症,重症副鼻腔炎,

1 年に 4 回以上の中耳炎,1 歳以降の真菌感染症,

表 2 白血球数と好中球数の推移

入院後日数 0 2 4 5 7 9 12 15 20 26 141 184

白血球 (/µl) 8,020 8,620 5,410 5,890 5,750 5,800 5,050 6,360 5,510 6,660 8,530 9,040 好中球 (/µl) 802 172 108 59 288 58 152 95 496 1,685 2,180 2,350

(5)

家族歴とある.本症例はいずれにも合致せず,表 1 に示すように免疫機能検査に明らかな異常を認めな かった.また,抗好中球抗体が FcγRIIIb に結合す ることで膜表面に変化が生じ,貪食機能が低下する ことが示唆されているが14),本症例において好中 球貪食機能は基準値範囲内であった.多発リンパ節 腫脹,好中球減少に対して,悪性疾患も鑑別に挙 がったが,抗菌薬投与により多発リンパ節腫脹は改 善した.また,抗好中球抗体を検索した結果,自己 免疫性好中球減少症の診断に至ったので骨髄穿刺は 施行していない.

 本症例のリンパ節腫脹は,症状,画像所見,血液 検査所見から細菌感染症が関与したと判断された.

また,入院後,原因菌として頻度の高いブドウ球菌 を想定して投与した CEZ は効果が乏しかったが,

MEPM,VCM に変更後に病状が改善したことも細 菌感染症だった可能性が高いことを支持する.湿疹 があり,皮膚が細菌の侵入門戸になった可能性があ るが,神経叢,血管の近傍であったため,リンパ節 生検や病変の穿刺吸引を行っておらず,残念なが ら,原因菌の同定には至らなかった.また,乳幼児 自己免疫性好中球減少はウイルス感染時等に抗体が 産生されると考えられているが5),本症例には明ら かな先行感染はなかった.

結  語

 多発するリンパ節腫脹を契機に診断された自己免 疫性好中球減少症の 1 乳児例を経験した.多発リン パ節腫脹の原因として悪性疾患を積極的に疑う所見 がない場合,好中球数減少をきたしている例では自 己免疫性好中球減少症を鑑別に挙げる必要がある.

 本症例の要旨は,第 51 回都筑区小児科医会と昭和大学 横浜市北部病院との連携勉強会(小児科連携勉強会)で 発表した(2018 年 2 月,横浜).

謝辞 抗

抗体を測定して下さった日

本大学生物資源科学部 丸山総一先生,佐藤真伍先生,抗 好中球抗体を測定して下さった広島大学病院小児科唐川 修平先生,川口浩史先生,小林正夫先生に深謝致します.

利益相反

 開示すべき利益相反状態はない.

文  献

1) 小林正夫,川口浩史.自己免疫性好中球減少 症.日内会誌.2014;103:1639‑1644.

2) Lyall EG, Lucas GF, Eden OB. Autoimmune  neutropenia of infancy.  . 1992;45: 

431‑434.

3) 谷口佳孝,小原 浩,並川麻理,ほか.化膿性 顎下リンパ節炎を契機に診断された乳児自己免 疫性好中球減少症の 1 例.日口腔外会誌.2009; 

55:519‑523.

4) Ravetch JV, Perussia B. Alternative membrane  forms  of  Fc  gamma  RIII (CD16) on  human  natural  killer cells and neutrophils. Cell type- specific expression of two genes that differ in  single  nucleotide  substitutions.  .  1989;170:481‑497.

5) 中村和洋,佐藤 貴,小林正夫.抗好中球抗体 と乳幼児自己免疫性好中球減少症.日小児血液 会誌.2004;18:17‑22.

6) Rajasekaran  K,  Krakovitz  P.  Enlarged  neck  lymph nodes in children. 

. 2013;60:923‑936.

7) 川瀬恒哉,相場佳織,小山典久.急性期に縦隔 リンパ節腫大を合併した川崎病の 1 例.小児感 染免疫.2011;23:241‑245.

8) Tashiro  N,  Matsubara  T,  Uchida  M,  .  Ultrasonographic evaluation of cervical lymph  nodes in Kawasaki disease.  (Inter- net).  2002;109:e77. (accessed  2018  Apr  8) 

http://pediatrics.aappublications.org/content/ 

109/5/e77/

9) Bux J, Behrens G, Jaeger G,  . Diagnosis  and clinical course of autoimmune neutropenia  in infancy: analysis of 240 cases.  . 1998; 

91:181‑186.

10) 上田 大,大曽根眞也,和多田美奈子,ほか.

化膿性リンパ節炎で発症した乳児自己免疫性好 中球減少症の 1 例.耳鼻頭頸.2012;84:151‑154.

11) 佐藤 貴,小林正夫.小児慢性好中球減少症.

日小児血液会誌.2005;19:559‑565.

12) 浅井康一,井澤和司,矢野 潤,ほか.当科で 経験した乳幼児自己免疫性好中球減少症の 5 例.

小児臨.2009;62:1667‑1672.

13) 金兼弘和,今井耕輔,森尾友宏.重症複合免疫 不全症 その発見から今後の展望.日臨免疫会 誌.2017;40:145‑154.

14) 谷口菊代,兼安千晴,岡村美和,ほか.ヒト好中 球抗原 Human Neutrophil Antigen(HNA)1a/ 

1b および 2a に対するモノクローナル抗体の,食

作用に与える影響.臨病理.2007;55:996‑1001.

(6)

MULTIPLE ADENOPATHIES IN AN INFANT LED TO THE DIAGNOSIS   OF AUTOIMMUNE NEUTROPENIA

Hideka S

AITO

, Yoshifusa A

BE

, Gakuto U

JIIE

,   Yoshitaka W

ATANABE

, Takashi S

OGA

 and Yoh U

MEDA Children s Medical Center, Showa University Northern Yokohama Hospital

 Abstract    An 8-month-old infant boy was referred to our hospital due to fever with right cervical  and lateral horacic adenopathies.  Contrast-enhanced computed tomography revealed left mandibular,  right cervical, and right thoracic adenopathies with ring enhancement, indicating possible multiple suppu- rative lymphadenitis.  However, antibiotic treatment with cefazolin was ineffective; therefore, meropenem,  vancomycin, and azithromycin were administered as treatment.  Neutropenia (58 496 cells/µl) persisted  until the 20th day after hospital admission.  Serological tests revealed the presence of human neutrophil  antigen-1a and -1b, leading to the diagnosis of autoimmune neutropenia.  Autoimmune neutropenia rarely  causes serious infections, and we found no reports on the disorder causing multiple adenopathies such as  those noted in the present patient.  Herein, we describe this rare disease presentation of autoimmune  neutropenia in an infant.

Key words:  autoimmune neutropenia, multiple adenopathies, infant

〔受付:4 月 25 日,受理:5 月 14 日,2018〕

参照

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