日本看護倫理学会誌 VOL.8 NO.1 2016 83
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日本看護倫理学会第8回年次大会 教育講演
仏教における倫理観の神髄
The essence of ethical view in Buddhaʼs teachings
前谷 彰(恵紹)
◉高野山大学文学部 教授(文博)
仏教における倫理観は、最古の経典と目されている
『スッタニパータ』所収の「メッタ・スッタ」に説かれ ている「慈悲」を基底としているが、その偈頌を以下 に紹介することにしよう※。
143偈 吉祥なる目標を持って、まさにその安らぎの 境地に向かう者にとって、なすべきことは次 のとおりである。
前向きで、正直で、率直で、ことば慎み、柔 軟で、自惚れがなく、
144偈 足ることを知り、質素で、ささいなことに煩 わされず、簡素な生活をし、身もこころも落 ち着いていて、鋭敏で、謙虚でどんな家に あっても、糧を貪ることがなく、
145偈 そして、他の賢明な人が非難するような下劣 な行いはしない。
《いのち》あるものはみな、幸福であれ、安穏 であれ、安楽であれ。
146偈 《いのち》あるものはみな、おびえているもの でも強いものでも、余すことなく、長いもの も、大きなものも、中くらいのものも、短い ものも、微細なものも、あるいは粗大なもの も、
147偈 目に見えるものも、見えないものも、遠くに 住むものも、近くに住むものも、すでに生ま れたものも、生まれようと望むものも― す べてのものは、安楽であれ!
148偈 どこにいても、人を騙してはいけない。どこ にいても、誰をも軽蔑してはならない。
怒りや恨みを露わにして、個々の不幸を願う
ようなことをしてはいけない。
149偈 あたかも、母が自分のひとり子を命がけで守 るように、ありとあらゆる存在においてもま た、このようにはかり知れないこころ持ちで ありなさい。
ここにおける、はかり知れないこころ持ちが「慈 悲」であり、人間のあるべき倫理が余すことなく説か れていると言っても過言ではない。しかし、「慈悲」
というこのこころのありようは、仏教における「縁 起」思想(すべてのものは互いに相依って生じせしめ られている関係性に他ならない)を根幹としており、
これがブッダの発見した悟りの境地である。そして、
その境地に至るための実践道たる「八正道」(正見・
正思・正語・正業・正命・正精進・正念・正定)を説 くが、ここにおける漢訳語である〈正〉の原語は〈サ ンマー〉であり、「総体的におしはかる」というのが原 義である。したがって、八正道の第一支分である「正 見」は、「総体的におしはかって見る」を意味し、そう すれば「正思:総体的におしはかって考える」ことが できる云々というメカニズムであり、そのことを理解 し実践することによって、倫理を具えた尊い人格者と なり得るというのが、仏教における倫理観の神髄と言 えるのである。
※ 前 谷 彰(恵 紹)著『ブ ッ ダ の お し え 〜 真 訳 スッタニパータ』pp. 61‒62,2016年・2月発刊 予定