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学位申請論文 アルキル基末端のシクロヘキシル基が 結晶構造と偶奇性に与える効果の研究 2019 年 3 月 柿原 俊太

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学位申請論文

アルキル基末端のシクロヘキシル基が 結晶構造と偶奇性に与える効果の研究

2019 年 3 月

柿原 俊太

(2)

目次 1 章 本研究の目的と背景

1.1 本研究の目的 1

1.2 炭化水素 2

1.3 dmit 錯体 5

1.4 (四級アンモニウム)―[Ni(dmit)2]錯塩 6

1.5 結晶化法 7

1.6 本論文の概要 8

1.7 引用文献 10

2 章 末端置換基の違いによる偶奇性の変化 2.1 序論 20

2.2 実験方法 23

2.3 結果と考察 25

2.4 結論 46

2.5 引用文献 50

(3)

3 章 末端にシクロヘキシル基を持つカチオンの[Ni(dmit)2]錯塩の結晶構造

3.1 序論 54

3.2 実験方法 57

3.3 結果と考察 59

3.4 結論 82

3.5 引用文献 82

4 章 飽和不飽和六員環を両方持つカチオンを用いた[Ni(dmit)2]錯塩の結晶構造 4.1 序論 86

4.2 実験方法 87

4.3 結果と考察 89

4.4 結論 106

4.5 引用文献 107

5 章 総括と展望 110

謝辞 112

出版目録 113

研究業績目録 114

(4)

1 1章 本研究の目的と背景

1.1 本研究の目的

本研究ではアルキル基末端の置換基の違いによる効果を[Ni(dmit)2]錯体を用いて結 晶構造の観点から明らかにすることを目的としている。アルキル基は液晶分子や界面活 性剤など幅広い分野で利用されている。これらはアルキル基のもつ疎水性や柔軟性、ア ルキル基同士の集合性を利用している。また、アルキル基を有する化合物では偶奇性が 見られることがある。偶奇性は炭素数の偶奇によって末端部のメチル基の配向が異なる ために生じると考えられており、集合構造や物性に鎖長による依存性が生じる。偶奇性 を示す場合、鎖長に対して物性値をプロットするとジグザグのグラフが得られる。アル キル基による変化を網羅的に解析することで偶奇性による物性や構造の予測の指針と なる可能性を秘めている。偶奇性の発見には鎖長を 1 つずつ増やしていく必要がある が、特定鎖長で異なる挙動を示すことがあり、アルキル基の挙動には未知の部分が残さ れている。さらに、アルキル末端に置換基を導入することでこの偶奇性の現れ方に変化 が生じることがある。末端部の置換基によって生じる相互作用によって、アルキル化さ れた分子の集合構造が変化することが原因であると考えられるが、末端置換基は相互作 用と同時に末端部の嵩高さを付与することが多く、明確な原因の究明には至っていない。

さらに、末端部の相互作用によってアルキル基自身がオールトランス配座からゴーシュ 配座に変化したり、これらが混在したりするケースが見受けられることが理解を困難に していると考えられる。

本研究で用いた[Ni(dmit)2]錯体は電荷移動錯体として知られている。[Ni(dmit)2]錯 体はアクセプター分子であり、ドナー分子との組み合わせや結晶化条件の制御によって その結晶は分離積層型、交互積層型の二種類の構造に大別される。分離積層構造では部 分酸化状態となった際に高い電気伝導性を示すことがあるが、電解酸化法を用いるなど 結晶化に工夫が必要である。一方で交互積層構造では電気伝導性は低くなる傾向にある が、溶媒の蒸発による結晶化が可能である。電気伝導性に関する研究は Ni の他に Pt,

(5)

2

Pd, Au, Cu などで盛んであり、多くがπ電子系の平面型ドナー分子を用いた研究であ る。本研究においては[Ni(dmit)2]錯体の Ni の価数を3価とし、結晶化が容易な化学種 として研究を行った。交互積層構造となることが予想されるため、高い電気伝導性は期 待できないが、室温下、空気中で安定となる点、カチオン交換が容易な点から、アルキ ル基の炭素を 1 つずつ増やしていく、偶奇性の研究に好適な分子である。

以上の背景から、アニオンを[Ni(dmit)2]-、カチオンをアルキル第四級アンモニウム とする錯塩を合成し、末端置換基の違い及びアルキル基の鎖長や鎖数の違いによる結晶 構造変化を調査した。鎖長変化をさせながら網羅的にデータを集約することで、構造や 物性の予測の一助となると考える。

1.2 炭化水素

炭化水素は炭素と水素のみから成り、もっとも単純な組成の有機分子群である。炭素 は四本の結合能を有するため、その結合の組み合わせから様々な構造の炭化水素が得ら れる。大別すると鎖式炭化水素と環式炭化水素となり、さらに飽和炭化水素、不飽和炭 化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などに分類される。飽和炭化水素の炭素は sp3 炭素のみであり、鎖式の場合にはアルカン、環式の場合はシクロアルカンと呼ばれる。

官能基として命名する際にはこれらはアルキル基、シクロアルキル基と呼ばれ、疎水性 の付与に利用される。アルキル基は、その柔軟性から液晶分子やイオン液体などに広く 利用されている。これらは van der waals 力によってアルキル基同士が集合しやすいと いう性質を利用したもので、ファスナー効果とも呼ばれる。また、アルキル基は個体状 態ではオールトランス配座が最も安定であるが、周囲の条件や相互作用によってゴーシ ュ配座となることもある。図 1-1 に示すようにアルキル基は置換基として導入される位 置からの炭素数の偶奇によって、末端となるメチル基の配向が交互に異なる。この違い によって集合構造が異なることが知られている。R. Prabhu らは液晶分子におけるスペ ーサ部のアルキル鎖長の偶奇によって相転移温度に違いが現れる例を示している 1。 Chitoshi Kitamura らは 1,4,5,10-tetraalkyltetracene (

n

= 1-6)において結晶構造におけ

(6)

3

るアルキル基の配向が鎖長によって異なること及びアルキル基の配向によって固体状 態における色が異なることを報告している 2。また、他にもアルキル基の偶奇性に関す る報告例は多くある。融点3-8や相転移エンタルピー9-16、集合構造 17-30などで偶奇性が 報告されている。Eiko Mochizuki らはアルキル基をもつチミン誘導体で鎖長の偶奇に よって結晶外形や積層構造に偶奇性が見られることを報告している 31。Kibum Kim ら は alkyl dicarbamate において STM による 2 次元配列に関して偶奇性が現れることを報 告している32。また、この偶奇性は末端部を嵩高くすることで強調されることも報告さ れている。R. D. Ennulat らの報告ではコレステロールにアルキル基を導入した場合で

図 1-1. アルキル基の配向の違い

偶数

奇数

図 2-1. 末端フェニル基による偶奇性の強調20

(7)

4

は偶奇性が見られないが、そのアルキル基末端にフェニル基を導入することで偶奇性が 発現する33

シクロアルカンは環式であるため、ノルマルアルカンに対して構造的な柔軟性は低い。

炭素数の小さいシクロアルカンでは配座の変換が少ない。また、炭素数が大きくなると 環に歪みが生じ、構造が複雑となる。一般的にアルカンに対してシクロアルカンの方が 融点や沸点が高い。このようにシクロアルカンはノルマルアルカンとの違いがあるが、

燃焼熱の観点からは次のように比較できる。シクロアルカンの CH2ひとつあたりの燃 焼熱を表 1-1 に示す34-37。基準としてアルカンの燃焼熱も示してあり、アルカンの燃焼 熱との差を示してある。この中でシクロヘキサンはアルカンと同じ燃焼熱となっており、

ノルマルアルカンに最も近い脂環式炭化水素であると言える。また、このことからシク ロヘキサンが平面形をとらないことが示唆される37。シクロヘキサンには舟形、イス形、

ねじれ舟形が知られており、イス形が最安定である。ついでねじれ舟形、舟形の順に安 定性が下がる。これらのイス形とのポテンシャルエネルギー差はそれぞれ 26 kJ/mol、

45 kJ/mol である38。一置換シクロヘキサンとなるとイス型には置換基がエクアトリア ル位を占めるものと、アキシアル位を占めるものの 2 種類存在する。これらは室温では 非常に速い平衡にあり、それぞれを単離することは難しいが、-100℃以下では NMR で 別々に観測することができる。イス形配座において、一般には、アキシアル位はエクア トリアル位よりも不安定である38。アキシアル位に置換基が存在すると、置換基の近く に3,5位の炭素に結合するアキシアル水素があり、立体反発が起こるためである。こ

表 1-1. シクロアルカンのメチレン基1個あたりの燃焼熱

n Hc/n (kcal/mol) (Hc/n)-157.4 (kcal/mol) n Hc/n (kcal/mol) (Hc/n)-157.4 (kcal/mol)

3 166.60 9.2 11 158.40 1.0

4 163.95 6.6 12 157.70 0.3

5 158.70 1.3 13 157.80 0.4

6 157.40 0.0 14 157.40 0.0

7 158.30 0.9 15 157.50 0.1

8 158.60 1.2 16 157.50 0.1

9 158.60 1.4 117 157.20 -0.2

10 158.60 1.2 alkane 157.40 0.0

(8)

5

れを1,3-ジアキシアル相互作用といい、一置換シクロヘキサンではアキシアル置換 基は環の地軸から離れるように少し傾きを持つ39。メチルシクロヘキサンを例にとると、

室温において約95%はメチル基がエクアトリアル配座となる。置換基が大きくなると アキシアルとエクアトリアルの配座異性体間のエネルギー差は大きくなる。置換基が tert-ブチル基の場合、このエネルギー差は 5.6 kcal/mol であり、アキシアル配座はエク アトリアル配座の 1/10000 程度である39

1.3 dmit 錯体

dmit (= 2-thioxo-1,3-dithiole-4,5-dithiolato)は平面型の π 電子系配位子で、遷移金 属との錯形成によって平面形ないしプロペラ形の構造をとることが知られている。これ らはアニオン性錯体であり、結晶中では対カチオンを有する。プロペラ形となるのは Sn や Ag を用いた場合で、結晶中で三次元的なネットワーク構造を作ることが特徴である

40-47。一方で、平面形となる金属イオンは Au, Pt, Pd, Ni, Cu などが知られている48-73

平面形の dmit 錯体は電荷移動錯体としての研究が多くなされている。電荷移動錯体は 電荷移動相互作用によって作られる分子間化合物である。電荷移動錯体が電気伝導性を 持つ場合には、電子供与体(ドナー分子)と電子受容体(アクセプター分子)がそれぞ れ独立にπ電子を重ね合わせて積層する。このような結晶構造を分離積層構造と呼ぶ

(図 1-2(a))。部分酸化状態となると 1 次元的にバンドが積み重なり、積層方向に電流 が流れる。このような結晶構造を得るには電解酸化法を用いるなど、結晶化に工夫が必 要である。これに対し、一般の電荷移動錯体は交互積層構造と呼ばれるドナー分子とア クセプター分子が交互に積み重なった構造となる(図 1-2(b))。このような積層構造で は電気伝導性は低い74。研究対象としている[Ni(dmit)2]錯体において、分離積層構造は 電解酸化で得られることが知られている75-98。電解酸化で得られた結晶では Ni は部分 酸化状態をとっており、電荷移動が可能であるためであると考えられている。Y. Kosaka らはハロピリジンラジカル 99、T. Akutagawa らはアルカリ金属を含むクラウンエーテ ル100、M. Bousseau らは TTF101、I. Johannsen らは TSF を用いた[Ni(dmit)2]錯塩の分

(9)

6

離積層構造を報告している 102。一方で交互積層構造は主に溶媒の蒸発によって得られ る。Ni は 3 価であり、[Ni(dmit)2] 錯体は平行二量体を形成している。[Ni(dmit)2]錯体 単独では電子スピンが孤立しているが、二量体を形成することでスピンの打ち消しが起 こるため磁性や伝導性は期待できない103。また、交互積層構造はカチオンとアニオンが 交互に並んでいるために分離積層構造で見られるようなアニオン同士の重なりによる 導電経路がない104-120。物性研究の観点からはメリットの少ない交互積層構造であるが、

結晶化法が簡便であること、カチオン交換が容易に行えることが利点としてあげられる。

すなわち、マイナーチェンジを繰り返しながら単結晶を得るような研究に好適な分子で あると言える。

1.4 (第四級アンモニウム)-[Ni(dmit)2]錯塩

第四級アンモニウムを対カチオンとしている[Ni(dmit)2]錯塩に関する報告例は比較 的多くある121-134。L. Valade らはテトラブチルアンモニウムをカチオンとした結晶構造 を報告している 135。A. Kobayashi らはジエチルジメチルアンモニウムをカチオンとし ている 136。G. Liu はベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムをカチオンに用いて いる137。Y. Wang らはヘキサデシルトリメチルアンモニウムをカチオンとしている138。 しかしながら、これらは鎖長がばらばらであり系統的な変化を調査することはできてい ない。K. Dai らはトリメチルアルキルアンモニウムを用いた結晶構造を報告している。

図.1-2 積層構造の分類 (a)分離積層構造 (b)交互積層構造

(a) (b)

アニオン カチオン

(10)

7

アルキル鎖長を変化させて系統的に結晶構造を得ており、アルキル基に由来する偶奇性 を報告している139。また、カチオン長とアニオン長との関係によって積層構造を分類す る CLCA 則を提案している。M. Saeki らはアルキル末端置換基をフェニル基として末 端フェニル基による偶奇性の強調を報告している 140。さらに、末端フェニル基と [Ni(dmit)2]錯体とのπ電子相互作用によって[Ni(dmit)2]錯体が垂直二量体を形成する 珍しい結晶構造を報告している。

1.5 結晶化法

単結晶を得るための結晶化法には様々な方法があるが、電荷移動錯体の単結晶育成に 良く用いられる方法を紹介する74

・溶媒蒸発法

対象分子を溶解することのできる溶媒(良溶媒)を用い、溶媒を少しずつ蒸発させる ことで溶解度を下げていき、結晶を成長させる方法である。揮発性のある溶媒であれば 静置しておくだけで結晶育成が可能であるため、もっとも簡便な方法となる。密閉後、

ピンホールを開けることで蒸発速度を調整することができるため、生じる結晶の大きさ の制御も可能である。

・溶媒拡散法

液液拡散とも呼ばれる。対象分子を溶解した溶液の上に対象分子が溶解しない溶媒 (貧溶媒)を載せ、両液が混合していく過程で溶解度が下がることを利用する。貧溶媒を 載せる際、良溶媒の混合液を少量挟む方法や、複数種の溶媒を用いることで結晶成長を 制御することが可能である。しかしながら、良溶媒と貧溶媒が混ざり合うことが必要で あり、かつ基本的には良溶媒の比重が貧溶媒の比重より大きいことが条件となるため、

使用できる溶媒の組み合わせに限りがある。また、組み合わせによって、溶媒和した状 態では貧溶媒を加えても結晶が析出しないこともあるので注意が必要である。電荷移動

(11)

8

錯体の結晶化ではドナー分子とアクセプター分子をそれぞれ別の溶媒に溶かし、液液界 面で結晶を析出させる手法や、結晶化の際に貧溶媒に溶かしたカチオン種と元のカチオ ン種を交換する手法なども用いられる。

・蒸気拡散法

良溶媒に対象分子を溶解し、密閉容器中で貧溶媒を蒸発させることでその蒸気と良溶 媒を混合し、溶解度を下げて結晶を析出させる方法である。蒸気圧が良溶媒 < 貧溶媒 でなければならないが、貧溶媒蒸気は少量ずつ良溶媒と混ざるため、比重による影響を 受けにくい。

・電解結晶化法

H 型管などを用いて行う結晶化法で、溶液中に電流を通すことで電極上、あるいはそ の下に結晶を析出させる。適切な電流値と溶媒の組み合わせを見つけるまでに時間がか かることや、溶存酸素などにより結晶化が阻害されることがあるため注意が必要である。

この方法では電流の作用によって混合原子価状態を作りやすいため、分離積層構造が期 待できる。

1.6 本論文の概要

本論文ではアルキル第四級アンモニウムをカチオンとして用いた[Ni(dmit)2]錯塩結 晶において、末端置換基が結晶構造や偶奇性に与える影響について調査している。アル キル基を有する化合物では集合構造や物性に偶奇性が現れることが知られているが、ア ルキル末端置換基に関する研究例は未だ少ないのが現状である。アルキル基による偶奇 性は末端部の嵩高さによって強調されることがあるとされており、先行研究においても 末端フェニル基によって偶奇性が強調される例が報告されている140。しかしながら、ア ルキル基を有するカチオン種による報告例 139ではアルキル基はオールトランス配座を とっているのに対し、末端フェニル基を有する場合では末端フェニル基と[Ni(dmit)2]

(12)

9

錯体との相互作用によってゴーシュ配座が見られていたため、偶奇性の変化がアルキル 末端置換基の嵩高さの影響であるか、π電子相互作用に由来する影響であるか明確では なかった。本研究においてはフェニル基と同じ六員環であり、かつ熱力学的にアルキル 基に近いと考えられるシクロヘキシル基を導入したカチオンを合成し、[Ni(dmit)2]錯 体との錯塩を作り、単結晶 X 線構造解析によって構造や偶奇性に関する研究を行った。

2章では末端シクロヘキシル基をもつアルキル第四級アンモニウム(C

n

cHx)をカチ オンとした[Ni(dmit)2]錯体に関して、結晶構造、偶奇性の観点から末端フェニル基を有 するもの(C

n

Ph)、アルキル基のもの(C

n

)とカチオン長 < アニオン長の範囲で比較し ている。末端フェニル基を有する系では偶数鎖長において[Ni(dmit)2]-錯体との間にπ

-π相互作用が生じており、これによってアルキレン基がゴーシュ配座をとっていた。

対して、末端シクロヘキシル基を導入したカチオンでは[Ni(dmit)2]-錯体との間に強い 相互作用は見られず、アルキレン基はオールトランス配座をとっていた。また、末端シ クロヘキシル基はアルキレン基のオールトランスの延長とみなせるような配向であっ た。C2cHx 塩でのみ結晶中に溶媒として用いたアセトン分子が含まれていた。これに より予想される構造とは異なる構造が得られた。C

n

、C

n

cHx、C

n

Ph 塩を比較するため にカチオン中心となる N 原子からアルキル基に向かう C 原子 2 つまでの 3 原子からな る平面(N-C-C)を定義し、[Ni(dmit)2]-との二面角が 45°より大きいものを垂直、小さ いものを平行に分類した。(C

n

cHx)[Ni(dmit)2]では8種類の偶奇性が見られた。この内、

Ni-Ni 距離、アニオン長、カチオン長、(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面角について末端置換基 の違いによる特徴が見られた。Ni-Ni 距離とアニオン長においては末端置換基の剛直性 の違いによる偶奇性の反転が見られた。また、カチオン長や(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面 角では末端シクロヘキシル基による偶奇性の強調が見られた。さらに、カチオン長にお いては偶奇性の現れ方がシクロヘキシル基よりもフェニル基のほうが大きかったため、

末端置換基の剛直さと偶奇性の強調に相関が見られた141

3章ではアルキル基とシクロヘキシルアルキル基が熱力学的に近いことから共通点 が多く見られたため、カチオン長 > アニオン長のものまで含め、鎖長、鎖数の違いが

(13)

10

結晶構造に与える影響について考察した。カチオン長 < アニオン長の領域において、

(C

n

)[Ni(dmit)2] で は 積 層 構 造 が 鎖 長 に よ ら ず 類 似 し て い た の に 対 し 、 (C

n

cHx)[Ni(dmit)2]では鎖長ごとに異なる構造となることが明らかとなった。また、カ チオン長 > アニオン長の領域においてはカチオン長が近い値となる(C

n

)[Ni(dmit)2] と(C

n

cHx)[Ni(dmit)2]で構造に類似性が見られた。これらの結果から[Ni(dmit)2]錯体 の分子長を基準として対カチオン長によって構造変化の主たる要因が末端シクロヘキ シル基とアルキレン基に分かれることが明らかとなった。

4章では飽和不飽和環を両方もつカチオン(BnC

n

cHx)を用いた[Ni(dmit)2]錯塩につ いて鎖長による結晶構造変化について報告した。シクロヘキシルアルキル基を有するカ チオンの[Ni(dmit)2]錯塩結晶ではカチオンの配向変化が顕著であり、フェニルアルキ ル基を有するカチオンの[Ni(dmit)2]錯塩結晶ではアニオンの配向変化が明瞭であった。

これらに対し、双方を有するカチオンを用いると鎖長ごとに全く異なる構造となること が明らかとなった。特に、(BnC2cHx)[Ni(dmit)2]では[Ni(dmit)2]が 1 次元的に連なっ た新奇の構造を得ることが出来た142。また、(BnC4cHx)[Ni(dmit)2]では[Ni(dmit)2]が 2 次元的な配向を示しており、これについても新奇構造が得られた。また、カチオン長

< アニオン長の領域では 4 種類の偶奇性が見られた。

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., 2017, 33, 15

(23)

20 2 章 末端置換基の違いによる偶奇性の変化

2.1 序論

アルキル基を有する化合物では融点1-7や相転移エンタルピー8-10などの物性や集合構

11-17 に 偶 奇 性 が 現 れ る こ と が 知 ら れ て い る 。

G. Dutkiewica

ら は

pyrazine

alkanedicarboxylic acid

の 共 結 晶 に 関 す る 偶 奇 性 を 報 告 し て い る 18。 α

,

ω

-

alkanedicarboxylic acid

のメチレン炭素が偶数の場合にはジカルボン酸とピラジンが

1

1

の割合で共結晶となるが、奇数の場合には

2

1

となる。また、末端置換基を導入 して末端部を嵩高くすることで偶奇性が強調される例も報告されている。

R. D. Ennulat

らの報告ではコレステロールのアルキル誘導体では相転移温度で偶奇性が見られてい ないが、そのアルキル基末端にフェニル基を導入することで偶奇性が発現していた 19

本研究で用いる

[Ni(dmit)

2

]

-錯体は平面型となることが多く、電気伝導性20-22や磁性23-

29、結晶構造 30-36などの分野の研究が盛んである。

[Ni(dmit)

2

]

錯塩の結晶構造は分離積 層構造と交互積層構造に分類することができるが、本研究では交互積層構造が多く見ら れた。

Ni

を三価とすると錯塩の安定性が非常に高くなるため、長期の保存や複数の対 カチオン種の比較に便利である。そのため炭素数をひとつずつ増やしていくという偶奇 性に関する研究には好適な分子である。

本研究の先行研究について紹介する。

K. Dai

らがアルキル第四級アンモニウムについ てアルキル鎖長を変化させながら得た結晶構造に関する報告をしている。彼らはトリメ チルアルキルアンモニウム(

C n

)をカチオンとして、

n = 3, 5

18

について

[Ni(dmit)

2

]

錯塩(図

2-1

)の結晶構造を明らかにした37。これらは全て溶媒蒸発法によって得られ た結晶であり、交互積層構造であった。彼らは積層構造の特徴からカチオンとアニオン の長さの関係によって構造を分類する

CLCA

則を見出した

(

2-2)

。これはカチオン長 がアニオン長の半値より短い場合にはカチオンがアニオンの長軸方向に

2

つ並ぶ

Structure I

、カチオン長がアニオン長の半値より長い場合にはカチオンが積層方向に

2

つ並ぶ

Structure II

に分類されるというものである。さらに、

M. Saeki

らがアルキル末

(24)

21

端にフェニル基を導入したカチオン

(C n Ph)

を用いた

[Ni(dmit)

2

]

錯塩(図

2-3

)に関する研 究を報告している38。末端フェニル基を有することで偶奇性が強調され、かつ偶奇性の 種類が増加した。彼らの報告ではアニオン長、カチオン長、末端フェニル基とアルキレ ン基間の二面角、末端フェニル基と

[Ni(dmit)

2

]

の二面角、

[Ni(dmit)

2

]

同士の配列様式の

5

種類の偶奇性が報告された

(

2-4)

。中でも、

(C n )[Ni(dmit)

2

]

で見られなかったアニオン の配向に関する偶奇性では垂直二量体という珍しい

[Ni(dmit)

2

]

錯体の様式が見られた

(図

2-5

)。この垂直二量体は末端フェニル基と

[Ni(dmit)

2

]

錯体との間のπ電子相互作用 によるものであると考えられており、この相互作用の結果アルキレン基がゴーシュ配座 をとることが明らかとなった。

(C n Ph)[Ni(dmit)

2

]

では偶奇性が

5

種類見られていたが、

図 2-3. (CnPh)[Ni(dmit)2] 図 2-2. CLCA 則37 図 2-1. (Cn)[Ni(dmit)2]

(25)

22

アルキレン基がゴーシュ配座をとるために偶奇性の強調が末端置換基の効果であるか、

π電子相互作用によるものであるかは明らかではなかった。そのため、本研究では末端 部の相互作用による効果を抑制し、アルキル基の性質を維持したまま末端置換基の影響 を 調 査 す る た め に 末 端 シ ク ロ ヘ キ シ ル 基 を 導 入 し た カ チ オ ン

(C n cHx)

を 用 い て

[Ni(dmit)

2

]

錯塩

(

2-6)

の結晶構造を明らかにし、偶奇性に与える効果の検討を行った。

図 2-4. (CnPh)[Ni(dmit)2]で見られた偶奇性38

(a)末端フェニル基―アニオン間二面角 (b)アニオン間角度 (c)アニオン長 (d)カチオン長 (e)末端フェニル―アルキル基二面角

(a) (b)

(c) (d)

(e)

(26)

23 2.2 実験方法

・シクロヘキシルアルキルブロミドの合成(

n

= 1, 2)39

シクロヘキサンメタノールまたはシクロヘキサンエタノール(7.2 mmol)、conc. HBr 5.32g、conc. H2SO4 0.3mL を室温で 24 時間撹拌した。イオン交換水―酢酸エチルで 抽出し、酢酸エチル層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ過によって硫酸マグネシウ ムをのぞき、得られた濾液をエバポレーターで濃縮してオイル状物を得た。未精製のま ま次の反応に用いた。

・シクロヘキシルアルキルブロミドの合成(

n

= 3-5)40

アルゴン気流下、無水 THF 溶媒中で金属マグネシウムをヨウ素によって活性化させ た。撹拌しつつブロモシクロヘキサンを滴下し、Grignard 試薬を調製した。2 時間撹拌 した後、Li2CuCl4を触媒として加え、次いでα,ω―ジブロモアルカンを滴下した。2 時 間後、得られた溶液を 10%塩化アンモニウム水溶液に加え、ヘキサンによって目的物 を抽出した。エバポレーターで濃縮し、無色~淡黄色油状物を得た。カラムクロマトグ ラフィーをヘキサンで行い、無色の目的物を得た。

図 2-5.アニオン二量体の配向 (a)垂直 (b)平行

(a) (b)

図 2-6. (CncHx)[Ni(dmit)2]

(27)

24

・ω―シクロヘキシルアルキルトリメチルアンモニウムブロミドの合成

アセトニトリル中でトリメチルアミン (2 mmol)とω―シクロヘキシルアルキルブロ ミド (2 mmol)を混合し 1 週間撹拌した。エバポレーターで濃縮し、白濁したオイル状 物を得た。未精製のまま次の反応に用いた。

・dmit 配位子[dmit(COPh)2]の合成41

ジメチルホルムアミド 50 mL (0.65 mol)と二硫化炭素 45 mL (0.76 mol)を混合し、

氷冷下で金属ナトリウム 5.75 g (0.25 mol)を加え撹拌した。36 時間撹拌した後、メタ ノールに溶解させた塩化亜鉛 5 g (0.037mol)を加え、次いでアンモニア水 50 mL、メ タノールに溶解させた臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム 20.3 g を加えて 30 分撹拌し た。氷浴で冷却した後、生成した赤褐色沈殿を吸引濾過で回収した。これをクロロホル ム-メタノールで再結晶法によって精製した後アセトンに溶解させ、これに塩化ベンゾ イルを加え生じた黄色沈殿を吸引濾過で回収した。さらにこれをクロロホルム-メタノ ールで再結晶化させ用いた。

・(ω―シクロヘキシルアルキルトリメチルアンモニウム)―[Ni(dmit)2]錯塩の合成41 窒素バブリングを行ったメタノールに金属ナトリウムを加えた。dmit 配位子を加え、

次いで酢酸ニッケルを加えた。30 分~60 分撹拌したのち、ω―シクロヘキシルアルキ ルトリメチルアンモニウムブロミドを加え、吸引ろ過によって紫色粉末を得た。これを アセトンに溶解し、ヨウ素とヨウ化ナトリウムの混合アセトン溶液によって Ni を酸化 した。得られた溶液を 30~60 分撹拌し、エバポレーターで乾固させ、緑色粉末を得た。

アセトン―メタノールを用いた蒸発法により再結晶した。

合成は元素分析及び IR 測定によって確認した。単結晶はアセトン-メタノールの混 合液を蒸発させることによって得た。ただし、鎖長2の結晶に関してはアセトンのみを 用いて結晶化した。

(28)

25

元素分析の測定には

Perkin-Elmer 2400II CHN analyzer

を、IR の測定には

JASCO FT/IR- 4200 spectrometer

を用いた。IR 測定は KBr 法で 4 cm-1の分解能で行った。

(C1cHx)[Ni(dmit)

2

]; Found: C, 31.72; H, 3.47; N, 2.36%. Calc for C

16

H

22

NNiS

10

: C, 31.62; H, 3.65; N, 2.30%. IR (KBr, cm

-1

): 1059(s), 1394(m), 1447(m), 1653(w).

(C2cHx)[Ni(dmit)

2

]; Found: C, 33.06; H, 3.48; N, 2.33%. Calc for C

17

H

24

NNiS

10

: C, 32.84; H, 3.89; N, 2.25%. IR (KBr, cm

-1

): 1059(s), 1394(m), 1447(m), 1653(w).

(C3cHx)[Ni(dmit)

2

]; Found: C, 34.18; H, 3.72; N, 2.30%. Calc for C

18

H

26

NNiS

10

: C, 34.01; H, 4.12; N, 2.20%. IR (KBr, cm

-1

): 1055(s), 1347(m), 1447(m), 1653(w).

(C4cHx)[Ni(dmit)

2

]; Found: C, 35.03; H, 4.03; N, 2.04%. Calc for C

19

H

28

NNiS

10

: C, 35.12; H, 4.34; N, 2.16%. IR (KBr, cm

-1

): 1061(s), 1349(m), 1447(m), 1653(w).

(C5cHx)[Ni(dmit)

2

]; Found: C, 35.94; H, 4.25; N, 1.98%. Calc for C

20

H

30

NNiS

10

: C, 36.19; H, 4.56; N, 2.11%. IR (KBr, cm

-1

): 1059(s), 1394(m), 1447(m), 1653(w).

・単結晶 X 線構造解析

Bruker 社製 APEX II ultra を用いて測定を行った。単結晶をガラスキャピラリーの 先端に付け、173K で測定した。初期位相は直接法及び固有位相決定法によって求めた。

構造精密化には SHELXL-97 及び SHELXL-2014 を用いた42, 43。非水素原子は異方性、

水素原子は等方性として精密化した。ケンブリッジデータベースへの登録番号は (C

n

cHx)[Ni(dmit)2] (

n

= 1 - 5) に対してそれぞれ 1830701-1830705 である。

2.3 結果と考察

2 章では C

n

cHx (

n

= 1 - 5)の錯塩結晶について取り扱う44。これはカチオン長 < アニオン長となる範囲である。得られた結晶ではシクロヘキシル基は全てイス形であり、

アルキレン鎖はオールトランス配座であった。これらの結晶学データを表 2-1 に示す。

(C2cHx)[Ni(dmit)2]でのみ結晶化に用いたアセトンが結晶中に含まれていた。これらを

(29)

26

比較するためにイオン対においてカチオン中心となる N 原子と、末端置換基に向かう 炭素 2 原子からなる(N-C-C)平面を定義し、[Ni(dmit)2]錯体の Ni 周り(S-S-Ni-S-S)の 平面との二面角を測定した。この角度が 45 °よりも大きいか小さいかによって’垂直’、’

平行’に分類した。これらのイオン対、積層構造及びオルテップ図を図 2-9 ― 2-15 に 示す。(C1cHx)[Ni(dmit)2]では 6 分子が結晶学的に独立しており、この内 4 分子が 2 組 のイオン対を形成していた。(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面角は 88.69 °, 38.93 °でありそ れぞれ垂直、平行に分類した。(C2cHx)[Ni(dmit)2]では 4 分子が結晶学的に独立してお り、この内 2 分子が 1 組のイオン対を形成していた。(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面角は 26.75 °であり、平行に分類した。CLCA 則による分離から

n

= 1, 2 では Strucure I 層 が見られたが、カチオンのアンモニウム部分が層からはみ出していた。また、

n

= 3, 4, 5 では Structure II に分類された。

n

= 3, 4, 5 では結晶学的に独立な分子はすべてイオ ン対を形成していた。(C3cHx)[Ni(dmit)2]では平行のみが見られ、角度は 26.15 °であ った。(C4cHx)[Ni(dmit)2]では垂直、平行がいずれも見られ、角度はそれぞれ 87.70 °, 16.71 °であった。(C5cHx)[Ni(dmit)2]では垂直が 1 種類、平行が 2 種類見られた。こ れらの角度はそれぞれ 88.80 °, 27.92 °, 28.14 °であった。以上より、平行に分類さ れるイオン対はすべての鎖長で見られたため、平行に分類されるイオン対に関して偶奇 性の調査を行った。Ni-Ni 距離、アニオン長、Ni-Ni-S 角度、環長さ、環前長さ、N-Ni- S 角度、(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面角、カチオン長の 8 種に偶奇性が見られた。これら は図 2-16 のように定義する。これらの偶奇性について末端シクロヘキシル基と末端フ ェニル基の場合の比較を行った。(N-C-C)-[Ni(dmit)2]二面角、カチオン長に関しては アルキル基の場合も含めて比較を行った。

(30)

27

表2-1 結晶学データ

(C1cHx)[Ni(dmit)2] (C2cHx)2[Ni(dmit)2]2∙C3H6O (C3cHx)[Ni(dmit)2] (C4cHx)[Ni(dmit)2] (C5cHx)[Ni(dmit)2] Fomula C16H22NNiS10 C37H54N2Ni2S20O C18H26NNiS10 C19H28NNiS10 C20H30NNiS10

Fw 607.65 1301.44 635.71 649.73 663.76

T /K 173 173 173 173 173

Crystal system Triclinic Monoclinic Triclinic Triclinic Triclinic

Space group P-1 P21/c P-1 P-1 P-1

Unit cell a /Å 8.6700(13) 20.344(2) 9.0165(10) 13.774(3) 12.161(3)

b/Å 16.395(2) 11.3499(12) 12.0614(14) 14.089(4) 14.842(4)

c /Å 26.774(4) 25.333(3) 13.0834(16) 15.924(4) 25.538(7)

α /deg 99.627(2) 99.366(2) 87.343(6) 99.613(6)

β /deg 90.896(2) 109.4150(10) 105.650(3) 69.257(8) 98.622(5)

γ /deg 94.277(2) 104.630(2) 70.604(6) 106.585(6)

Volume /Å3 3740.2(10) 5516.8(10) 1284.3(3) 2717.0(12) 4259.4(19)

Z 6 4 2 4 6

δcalc /Mgm-3 1.619 1.567 1.644 1.588 1.553

GOF 1.003 1.028 0.953 1.024 1.012

Final R R1 0.0423 0.0627 0.0491 0.0589 0.0456

indices [I > 2σ(I)] wR2 0.0902 0.1681 0.0851 0.1308 0.0938

R indices R1 0.0654 0.0878 0.0889 0.0970 0.0793

(all data) wR2 0.1034 0.1894 0.1006 0.1547 0.1124

(31)

28

図 2-9. (C

n

cHx)[Ni(dmit)2] の イ オ ン 対 (a)(C1cHx)[Ni(dmit)2] (b)(C2cHx)[Ni(dmit)2] (c)(C3cHx)[Ni(dmit)2] (d)(C4cHx)[Ni(dmit)2] (e)(C5cHx)[Ni(dmit)2]

(a) (b) (c)

(d)

(e)

(32)

29

図 2-10. (CncHx)[Ni(dmit)2](n = 1-5) の 積 層 (a)(C1cHx)[Ni(dmit)2] (b)(C2cHx)2[Ni(dmit)2]2∙C3H6O (c)(C3cHx)[Ni(dmit)2] (d)(C4cHx)[Ni(dmit)2](vertical) (e)(C4cHx)[Ni(dmit)2](parallel) (f)(C5cHx)[Ni(dmit)2]

(a) (b) (c)

(d) (e) (f)

(33)

30

図 2-11. (C1cHx)[Ni(dmit)2]のオルテップ図

図 2-12. (C2cHx)2[Ni(dmit)2]2∙C3H6O のオルテップ図

(34)

31

図 2-13. (C3cHx)[Ni(dmit)2]のオルテップ図

図 2-14. (C4cHx)[Ni(dmit)2]のオルテップ図

(35)

32

図 2-15. (C5cHx)[Ni(dmit)2]のオルテップ図

(36)

33

・末端置換基の違いによる結晶構造の比較

今回偶奇性の比較対象とした(C

n

Ph)[Ni(dmit)2](

n

= 1 - 5)のイオン対及び積層構 造を図 2-17, 2-18 に示す。(C

n

Ph)[Ni(dmit)2]では偶数鎖長において[Ni(dmit)2]が垂直 二量体を形成することが特徴的である。これは末端フェニル基と[Ni(dmit)2]錯体との 間のπ-π 相互作用が原因であると考えられている。一方で、(C

n

cHx)[Ni(dmit)2]で は[Ni(dmit)2]はすべて平行二量体であった。C2cHx と C2Ph 塩では共に結晶学的に非 等価なカチオンが2つあり、カチオン長はそれぞれ 7.5340Å, 7.4687Å(C2cHx)、7.391Å, 7.298Å(C2Ph)であった。カチオン長は C2cHx のほうが長いにもかかわらず、C2cHx

図 2-16.(a)Ni-Ni 距離 (b)アニオン長 (c)Ni-Ni-S 角度 (d)N-Ni-S 角度 (e)環長さ、環前長さ (f)カチオン長 (g)(N-C-C)-[Ni(dmit)2]角度

(a) (b)

(c) (d)

(e)

(f) (g)

環前長さ

環長さ

(37)

34

塩は CLCA 則には従わず Structure I となり、C2Ph 塩は CLCA 則通り Structure II と なっていた。Structure I 層が見られた C1Ph, C1cHx, C2cHx 塩を比較すると、N-Ni 距 離が C1Ph、C1cHx(垂直)、C1cHx(平行)、C2cHx 塩でそれぞれ 5.313 Å、4.465 Å(垂 直)、4.538 Å(平行)、4.476 Å であり、C1Ph 塩では静電相互作用の影響が弱いと考え られる。C1cHx、C2cHx ではアニオン長軸方向に並ぶカチオンの1つが[Ni(dmit)2]と 相互作用しており、相互作用しないカチオンのアンモニウム部分が積層からはみ出して いた。一方で C1Ph 塩では静電相互作用が支配的ではなく、結晶全体で釣り合いを取っ ていた。C2Ph 塩では結晶中に 2 組のイオン対が見られ、N-Ni 距離に関しては1つが 4.591 Å、もう1つは 4.942 Å であり、C2cHx 塩では 4.476 Å であるため、

n

= 2 におい ても静電相互作用は C2Ph 塩のほうが弱いと考えられる。C3cHx 塩では N-Ni 距離は C3Ph 塩で見られた2組のイオン対の距離の中間の長さであった。C4Ph 塩においては N-Ni 距離は 4.971 Å であり、C4cHx 塩(4.3162

Å

, 4.3905

Å

)に比べると静電相互作用が 弱いと考えられる。C5Ph 塩では積層構造から末端フェニル基がアニオン長軸方向には み出していたが、C5cHx 塩では末端シクロヘキシル基はアニオン長軸方向からはみ出 さないような構造をとっていた。これは末端シクロヘキシル基の柔軟性による効果であ ると考えられる。これらの結果から、C

n

Ph 塩では静電相互作用による影響が末端フェ ニル基の作用によって弱められていると考えられる。これに対して C

n

cHx 塩では静電 相互作用が支配的であり、末端シクロヘキシル基もその柔軟性によって積層構造を維持 するように配向していると考えている。C

n

Ph 塩では末端フェニル基の相互作用によっ て特にアニオンの配向が変化していたが、C

n

cHx では末端部に強い相互作用が見られ ないためにカチオンの配向が変化していた。これらの錯塩結晶について偶奇性の観点か ら末端置換基の違いについて考察した。末端置換基の違いによる比較を行うために使用 した各値については表 2-2,表 2-3, 表 2-4 にまとめてある。

(38)

35 (a)

図 2-17. (CnPh)[Ni(dmit)2] の イ オ ン 対 (a)(C1Ph)[Ni(dmit)2]45(b)(C2Ph)[Ni(dmit)2]38 (c)(C3Ph)[Ni(dmit)2]38 (d)(C4Ph)[Ni(dmit)2]38 (e)(C5Ph)[Ni(dmit)2]38

(b)

(c) (d)

(e)

(39)

36

図 2-18. (CnPh)[Ni(dmit)2](n = 1-5)の積層 (a) (C1Ph)[Ni(dmit)2]45 (b) (C2Ph)[Ni(dmit)2]38 (c) (C3Ph)[Ni(dmit)2]38 (d) (C4Ph)[Ni(dmit)2]38 (e) (C5Ph)[Ni(dmit)2]38

(a) (b)

(c) (d) (f)

(40)

37

.2-2 Selected geometric parameters (CncHx)[Ni(dmit)

2

]

(C1cHx)[Ni(dmit)

2

] (C2cHx)

2

[Ni(dmit)

2

]

2

C

3

H

6

O (C3cHx)[Ni(dmit)

2

] (C4cHx)[Ni(dmit)

2

] (C5cHx)[Ni(dmit)

2

] Ni-Ni distance/Å 4.106(1)[Ni1-Ni1] 4.267(8)[Ni1-Ni2] 4.656(1)[Ni1-Ni1] 4.316(1)[Ni1-Ni1] 4.572(1)[Ni1-Ni1]

4.436(1)[Ni2-Ni2] 4.391(1)[Ni2-Ni2] 4.503(1)[Ni2-Ni3]

4.098(1)[Ni3-Ni3]

anion length/Å 14.225(2)[S5-S10] 14.221(2)[S5-S10] 14.244(1)[S5-S10] 14.243(3)[S5-S10] 14.243(3)[S5-S10]

14.238(2)[S15-S20] 14.241(2)[S15-S20] 14.242(3)[S15-S20] 14.246(3)[S15-S20]

14.261(2)[S25-S30] 14.247(3)[S25-S30]

Ni-Ni-S/° 58.97[Ni2-Ni2-S15] 59.16[Ni1-Ni2-S15] 52.90[Ni1-Ni1-S10] 60.06[Ni1-Ni1-S5] 54.99[Ni1-Ni1-S10]

N-Ni length/Å 4.458[N1-Ni3] 4.476[N1-Ni3] 4.749[N1-Ni1] 4.849[N1-Ni1] 4.596[N1-Ni1]

4.538[N2-Ni2] 4.738[N2-Ni2] 4.619[N2-Ni2]

5.105[N3-Ni3]

環長さ

/Å 2.956[C23-C26] 2.903[C18-C21] 2.962[C13-C16] 2.884[C20-C23] 2.968[C27-C30]

2.929[C33-C36] 2.954[C33-C36] 2.960[C41-C44]

2.949[C55-C58]

環前長さ/

Å 1.512[C32-C33] 1.610[C17-C18] 1.532[C12-C13] 1.572[C19-C20] 1.528[C26-C27]

1.532[C22-C23] 1.536[C32-C33] 1.526[C40-C41]

1.529[C54-C55]

アルキレン長さ

/Å 1.456[C16-C17] 2.487[C10-C12] 3.730[C16-C19] 4.971[C22-C26]

3.836[C29-C32] 4.982[C36-C40]

5.041[C50-C54]

(41)

38

(C1cHx)[Ni(dmit)

2

] (C2cHx)

2

[Ni(dmit)

2

]

2

C

3

H

6

O (C3cHx)[Ni(dmit)

2

] (C4cHx)[Ni(dmit)

2

] (C5cHx)[Ni(dmit)

2

] N-Ni-S

角度

/° 102.91[N1-Ni1-S5] 109.36[N1-Ni1-S5] 110.22[N1-Ni1-S] 115.13[N1-Ni1-S10] 112.56[N1-Ni1-S5]

94.66[N2-Ni2-S15] 113.15[N2-Ni2-S20] 117.56[N2-Ni2-S20]

120.49[N3-Ni3-S25]

cation length/Å 6.760(5)[C21-C26] 7.534(8)[C14-C21] 9.1169(4)[C7-C16] 9.862(1)[C14-C22] 11.264(4)[C19-C31]

6.698(1)[C30-C36] 7.468(9)[C26-C33] 10.302(8)[C26-C36] 11.267(4)[C33-C43]

6.766(6)[C39-C46] 11.302(4)[C48-C57]

(N-C-C)-anion

angle/° 88.69(2)[N1-C22-C23] 26.75(3)[N1-C16-C17] 26.15(3)[N1-C10-C11] 16.71(1)[N1-C16-C17] 21.69(4)[N1-C22-C23]

38.93(5)[N2-C32-C33] 87.70(2)[N2-C29-C30] 21.03(4)[N2-C36-C37]

86.27(2)[N3-C50-C51]

alkylene-anion

angle/° 24.48(4)[C10-C12] 15.33(4)[C16-C19] 9.35(3)[C22-C26]

78.34(3)[C29-C32] 11.02(3)[C36-C40]

84.26(1)[C50-C54]

(42)

39

2-3. Selected geometric parameters (CnPh)[Ni(dmit)

2

]

(C1Ph)[Ni(dmit)

2

]

45

(C2Ph)[Ni(dmit)

2

]

38

(C3Ph)[Ni(dmit)

2

]

38

(C4Ph)[Ni(dmit)

2

]

38

(C5Ph)[Ni(dmit)

2

]

38

Ni-Ni distance/Å 4.207 5.037 3.533 5.476 3.892

anion length/Å 14.227 14.234 14.198 14.233 14.211

Ni-Ni-S/° 60.33 60.97 82.05(88.67) 64.40 84.98

N-Ni length/Å 5.313 4.942(4.591) 4.703(4.785) 4.971 4.541

環長さ

/Å 2.765 2.788(2.784) 2.785(2.777) 2.778 2.749

環前長さ/

Å 1.497 1.512(1.512) 1.505(1.517) 1.542 1.514

アルキレン長さ

/Å 1.516(1.528) 2.466(2.463) 3.108 5.031

N-Ni-S

角度

/° 66.10 109.56(82.56) 108.83(108.89) 121.28 99.40

cation length/Å 6.508 7.345 8.970 9.176 11.509

(N-C-C)-anion angle/° 39.74 78.17(77.36) 27.72(19.75) 26.68 37.59

表2-4. Selected parameter ((Cn)[Ni(dmit)2])

(C5)[Ni(dmit)2]37 (C6)[Ni(dmit)2]37 (C7)[Ni(dmit)2]37 (C8)[Ni(dmit)2]37 (C9)[Ni(dmit)2]37 (C10)[Ni(dmit)2]37

(N-C-C)-anion angle/° 23.55 21.90 21.93 19.54 20.05 19.67

Cation length/Å 7.462 8.763 9.998 11.224 12.522 13.814

(43)

40

・偶奇性の反転

(C

n

cHx)[Ni(dmit)2]と(C

n

Ph)[Ni(dmit)2]の Ni-Ni 距離及びアニオン長のプロットを 図 2-19, 2-20 に示す。末端シクロヘキシル基のプロットのほうが末端フェニル基のプロ ットよりも変位量が小さい。これらでは末端置換基の飽和不飽和の違いで偶奇性の反転 が確認された。C

n

cHx 塩では Ni-Ni 距離、アニオン長いずれにおいても値が偶数鎖長

図 2-19.Ni—Ni 距離

図 2-20.アニオン長

(44)

41

< 奇数鎖長であるが、C

n

Ph 塩では偶数鎖長 > 奇数鎖長であり、依存性が反転して いる。末端置換基ごとにこれらの依存性は共通しており、Ni-Ni 距離が長くなるとアニ オン長が増加する傾向にある。これは Ni-Ni 距離が長くなることで[Ni(dmit)2]錯体間 のπ電子相互作用が弱くなることによる影響であると考えられる。C

n

Ph 塩では偶数鎖 長の場合において[Ni(dmit)2]錯体が垂直二量体を形成することが報告されている38。こ れは末端フェニル基と[Ni(dmit)2]錯体との間にπ-π相互作用が生じることが原因で あると考えられている。一方で奇数鎖長においては[Ni(dmit)2]錯体は平行二量体を形 成しており、Ni-Ni 距離は平行二量体 < 垂直二量体であることから図のような依存性 になる。しかしながら、C

n

cHx 塩においては

n

= 1-5の全ての鎖長において [Ni(dmit)2]錯体は平行二量体を形成していた。ここで、平行二量体に関して Ni 及び末 端 S 原子によって作られる Ni-Ni-S 角度についてプロットすると図 2-21 のようになる。

この角度が大きくなると平行二量体の重なりが大きくなり、Ni-Ni 距離は小さくなる。

角度が小さくなる場合には平行二量体の重なりが小さくなり、Ni-Ni 距離は大きくなる。

そのため、二量体のずれ方の偶奇性が Ni-Ni 距離やアニオン長の偶奇性の原因であると 考えられる。積層構造の観点から

n

= 1, 2 では Structure I 層が含まれていたのに対し、

n

= 3 - 5 では Structure II 層であったため、二量体のずれの原因が異なると考えられ

図.2-21 Ni-Ni-S 角度

表 2-1  結晶学データ
図 2-11.  (C1cHx)[Ni(dmit) 2 ]のオルテップ図
図 2-13.  (C3cHx)[Ni(dmit) 2 ]のオルテップ図
図 2-15.  (C5cHx)[Ni(dmit) 2 ]のオルテップ図
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参照

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