13-9 橋梁のリスク評価手法に関する研究
研究予算:運営交付金(一般勘定)
研究期間:平 23~平 27
担当チーム:橋梁構造研究グループ
研究担当者:七澤利明、真弓英大、飯島翔一
【要旨】
我が国における道路橋の多くは高度成長期に建設され、多くの橋梁が高齢化を迎えようとしている。このように管理 橋梁の高齢化が進む中、橋梁の損傷による社会的リスクは今後益々高まっていくものと推測され、厳しい財政制約の中 で効率的な管理を行うための手段としてリスク評価手法の確立が求められている。
本研究は、こうした状況を踏まえ、道路橋を構成する部材の損傷リスクを相対的・定量的に評価する手法及びリスク 発生による人命や社会への影響について検討を行い、これらを合わせて橋梁管理体系に組み入れるリスク評価手法につ いて提案することを目的として実施するものである。
キーワード 道路橋、リスク、評価
1.はじめに
床版の疲労、鋼部材の疲労、コンクリート部材の塩害・
アルカリ骨材反応による損傷といった橋の耐荷性能に重 大な影響を与える損傷事例も多数報告されている。高度 経済成長期に建設された膨大な数の道路橋の多くが築後 50 年を経過し、老朽化が急速に進むと予測されるため、
落橋等の重大事故を未然に防ぐ予防保全が重要となって いる。更に、我が国の道路橋は、世界的に見ても非常に 厳しいレベルの自動車交通や自然環境にさらされてきて おり、今後、急速に劣化損傷が増加する可能性がある。
(図-1)
我が国の道路橋点検では、各部材の損傷の程度を評価
し、対策区分を判定しているが、損傷が橋へ与える影響 や結果の重大性は明確には規定されていない。
橋梁は建設から50年を超えると劣化は急速に進行する と言われており、厳しい財政事情の下で、その健全性を 適切に評価し、予防保全の考え方を取り入れながら戦略 的に維持管理するための、点検、評価・診断、補修・補 強技術の確立を急ぐ必要がある。
このため本研究では、こうした状況を踏まえ、道路橋 を構成する部材の損傷リスクを相対的・定量的に評価す る手法及び損傷発生による人命や社会への影響について 検討を行い、これらを合わせて橋梁管理体系に組み入れ るリスク評価手法について提案するものである。
図-1 道路橋の架設年度別の橋数の推移
2.先進事例の収集
我が国における道路橋リスク評価の参考となる知見を 得るため、先進事例である国外(英国)の道路橋リスク 評価事例の収集を行った。
2.1 国外(英国)の道路橋を対象としたリスク評価 事例の収集
実用的な道路橋のリスク評価手法についての知見を得 るために、先進事例である英国の以下の機関より聞き取 り調査を実施した。
① 英国道路庁(Highways Agency、HA):
英国交通省の独立行政法人で、大臣より委任され、イ ングランドの幹線道路の管理を行っている機関。
② ロンドン市交通局(Transport for London、TfL):
ロンドン市における公共交通機関の大半の管理を行っ ている行政機関。
主な聞き取り内容は次の通りである。
・リスク評価の運用目的
・評価手法
・リスクの要素
・優先順位の区分け
対策の優先順位付けのおおまかな比較を図-2 に示す。
① 英国道路庁におけるリスク評価の概要
・リスク評価の目的:補修・補強における要対策箇所の 優先順位付け。
・リスクの定義:発生確率(Likelihood)×影響の程度
(Consequence)
影響の程度は、安全性・機能性・持続性・環境の4つ の要素について、それぞれ劣化の重大さを導き出し、発 生確率と組み合わせた結果をリスク全体レベルの評価マ
トリックス(図-3)で評価する。評価したそれぞれのリ スクについて優先順位づけのマトリックス(図-4)に照 らし合わせ、優先順位が最も高いリスクが主スコア
(Baseline Score)、その他のリスクが補助スコア
(Supplementary Score)となり、これらを足し合わせた ものがトータルスコアとなる。優先順位づけのマトリッ クス(図-4)のうち、 ” H safety* ” が対策の優先順位が最 も高く、緊急に措置を講じなければならないものである。
② ロンドン市交通局におけるリスク評価の概要
・リスク評価の目的:補修・補強における要対策箇所の 特定。
・リスクの定義:発生確率(Likelihood)×影響の程度
(Consequence)
影響の程度は、安全性・機能性・環境の3つの要素につ いて、それぞれの劣化の重大さを導き出し、各要素につ いて、マトリックスに基づき評価する。複数のリスクイ ベントがある場合には、各要素毎に最も Initial Risk Score が高くなるリスクイベントにより算出する(図-5, 図-6)。このとき、重み付け(Weighting)を組合せてリス ク値を算出する(図-7)。
2.2 具体の損傷事例
具体の損傷事例として英国道路庁の「鉄筋の腐食」の 例を以下に示す。
① リスクイベントの種類・発生確率・影響
登録されている様々なリスクより選択する(表-1)。
② リスクの発生確率
当事象は、検査報告から錆が確認されており、原因は 凍結防止剤の散布であり、今後も継続して起こりえる事 象であることから、発生確率は「確実」(Certain)の評
図-2 英国道路庁・ロンドン市の道路橋リスク評価フロー
価となる(表-2)。
③ 影響の重大さ
この事象における影響の重大さは、安全性、機能性に ついては「影響なし」と評価、持続性については劣化の 進行が早いことから 3~4 年のうちに対策を行わなくて は、その後の対策に支障が生じるとの判断により、「中 間」(Medium)と評価、環境については外観への悪影響 の程度より、「低い」(Low)と評価となる(表-3)。
④ リスク値の決定
上記より、リスクレベルの評価対象が持続性と環境に ついてのみとなる。リスク全体レベルの評価マトリック
ス(図-3)において、持続性(Sustainability)は発生 確率が「確実」(Certain)と影響の重大さが「中間」
(Medium)の組合せより ”C Likelihood + M Consequence”
となることからリスクは ”High Risk”、環境(Environment)
は発生確率が「確実」(Certain)と影響の重大さが「低
い」(Low)の組合せより ” C Likelihood+ L Consequence ” となることからリスクは ” Medium Risk ” となる。
⑤ 優先順位付け
優先順位付けのマトリックス(図-4)において、持続 性 は ” High Risk ” で あ る こ と か ら 優 先 順 位 は ” H Sustainability ” 、環境は ” Medium Risk ” であることから優 先順位は”M Environment” となり、持続性が環境よりも優 先順位が高くなる。以上より、対策を行うことが望まし い”Desirable”(Priority3)に該当することとなる。
優先度 分類
リスク 基準値
摘 要
80以上 安全性および使用性の大きなリスクがある ことを示し、一時的および/もしくは恒久的 対策が実施されなければならない。
80未満 40以上
使用性の大きなリスクがあることを示し、使 用性のレベルおよび/もしくは耐久性を保 つために工事が必要である。事業期間内にリ スク低減策が実施されなければならない。
40未満 3/5年間において対策は必要でない、しか し、より長期間でみると耐久性への潜在的影 響がある。また、長期間でみると、安全性お よび使用性が損なわれる可能性がある。スキ ームは、事業期間内に収まらなくてよい。
表-1 リスクの種類
持続性(Sustainability) 環境(Environment)図-3 リスクの全体レベルの評価マトリックス
(英国道路庁)
図-6 優先度の分類 (ロンドン市交通局)
図-4 優先順位付けのマトリックス(英国道路庁)
図-5 リスクレーティングマトリックス
(ロンドン市交通局)
図-7 優先順位付けのマトリックス
(ロンドン市交通局)
3.橋梁点検データの分析 3.1 高リスク部材の抽出と分析
損傷発生頻度が高い部材について、8つの地方整備局 が管理する約21,000橋の道路橋の定期点検データのマク ロ分析を行い、高リスク部材の抽出を行った。
3.1.1 分析の手法
道路橋の点検データに基づく部材の損傷発生頻度のマ クロ分析事例について、橋梁定期点検要領
1)(以下、 「点 検要領」 )に基づいて実施された点検のデータ、および橋 梁管理カルテデータ(設計基準、補修履歴など)を用い た分析を行った。
点検要領では、 26 種類の損傷に着目して、 損傷の程度、
対策区分が判定される。本検討では、鋼部材の亀裂、コ ンクリートのひびわれなど橋全体系の安全性に重大な影 響を及ぼす可能性の高い主要な損傷(表-4)を対象に分 析を行った。また、高リスク部材の抽出だけでなく、そ の部材と「道路橋示方書・同解説」 (以下、 「道示」 )をは じめとする技術基準の変遷、施工年代などとの関連性に ついても分析を行った。
3.1.2 分析結果
技術基準の変遷、施工年代との関連性があると考えら れる高リスク部材の例を以下に示す。損傷発生頻度は、
対策区分 C「速やかに補修等を行う必要がある」の部材数 を対象全部材数で割った値(%)とした。
① 鈑桁の疲労亀裂:
たわみの許容値に着目した技術基準の変遷を表-5 に示 す。この変遷と損傷発生頻度の関係を図-8 に示す。損傷 発生頻度は、年代 3 は年代 2(0.6%)の約 3 倍の 1.8%と なり、年代 4 になると 0.8%に減少する。たわみの許容値 が大きい年代 3(1964-1971)の設計基準の部材が高リス クであることが分かる。
② RC 床版のひびわれ:
RC 床版については、既にひびわれの補修が行われた橋 梁が多い。補修履歴のある橋梁において、どの部材(径 表-3 影響の大きさ
表-2 リスクの発生確率
0.0%
0.5%
1.0%
1.5%
2.0%
年代1 年代2 年代3 年代4 年代5 技術基準の年代
損傷発生頻度
対策区分C 全部材数:約93,000
図-8 鈑桁の疲労亀裂発生頻度 表-5 鈑桁のたわみ許容値の変遷
技術基準の年代 たわみの許容値(m)*1 1955以前 S14鋼道示 死荷重および等分布荷重に 対しL/600
2 1956-1963 S31鋼道示 活荷重に対しL/600 3 1964-1971 S39鋼道示 活荷重に対しL/500 4 1972-1993 S47道示 活荷重に対しL/(20、000/L) 5 1994以降 H6道示 同 上
* L:支間長(m)、年代4は10<L≦40
年代4と5は活荷重が異なる
表-4 分析した損傷
部材 損傷 原因
鈑桁 亀裂 疲労
鋼床版 亀裂 疲労
RC床版 ひびわれ 疲労
上部工(RC+PC) ひびわれ、鉄筋露出 塩害 下部工(RC) ひびわれ、鉄筋露出 塩害 下部工(RC) ひびわれ、鉄筋露出 ASR ポステンPCT桁 ひびわれ、鉄筋露出 グラウト不良
間)が補修されたかは不明である。ここでは、全部材に ついて補修が行われたと仮定した。最小全厚等の仕様に 着目した技術基準の変遷を表-6 に示す。この変遷と損傷 発生頻度の関係を図-9に示す。 年代2および年代3では、
部材数の 30%以上が補修されている。補修未実施橋梁につ いて、損傷発生頻度は、年代 3 は年代 2(1.6%)の約 2 倍の 3.3%となり、年代 4 になると 1.9%に減少する。年代 3 は、年代 2 に比べて補修済み部材割合は減少しているが、
損傷発生頻度が増加している。桁のたわみの許容値が緩 和されたこと(前述) 、および鉄筋の許容応力度が大きく なったことが要因として考えられる。年代 1 から 4(1977 年以前)の設計基準の部材が高リスク部材であることが 分かる。
大型車交通量と損傷発生(対策区分 C)の関係を図-10 に 示す。大型車交通量が大きくなるほど損傷が増加すると いう関係には明確になっていないことが分かる。
③ コンクリート上部工の塩害:
コンクリートの塩害に関する技術基準の年代は、 「道路 橋の塩害対策指針(案) ・同解説」 (日本道路協会、昭和 59 年)が出版される前の年代 1 と以降の年代 2 に分ける。
コンクリート(RC および PC)の上部構造について、原因 が塩害とされるひびわれ、もしくは剥離・鉄筋露出を分 析対象の損傷とした。損傷発生頻度と架設年(5 年単位)
の関係を図-11 に示す。1970-1974 の損傷発生頻度が最も 大きく 1.3%であり、次が 1965-1969 の 0.7%である。
1975-1979 では 0.4%に減少する。年代 1 の中でこのよう な傾向を示している要因として、1960-1974 は高度経済成 長期で架設数がピークであり、熟練工が不足したこと、
また、1965 頃よりポンプ圧送が普及し、単位水量の多い 低品質のコンクリートが使われることが多かったことが 考えられる。年代 2 の初期の 1985-1989 は、損傷発生頻 度は 0.2%である。1965-1974 に架設された部材が高リス ク部材であることが分かる。
3.2 リスクの細分化
橋梁定期点検結果から、橋梁に発生する損傷の傾向を 分析し、リスクを細分化した。ここでの重大損傷とは、
表-6 RC 床版の最小全厚等仕様の変遷
技術基準の年代 最小全厚等仕様* 1 1955以前 S14鋼道示 許容応力度130N/mm2 2 1956-1963 S31鋼道示 配力筋25%、最小全厚14cm 3 1964-1967 S39鋼道示 許容応力度140N/mm24 1968-1977 S43鋼道路橋床
版設計暫定基準 配力筋70%、最小全厚16cm 5 1978以降
S53道路橋RC 床版設計施工指 針
許容応力度に対し20N/mm2程 度の余裕を持たせる
* 許容応力度は鉄筋、配力筋量は主鉄筋量に対する割合
図-10 大型車交通量と RC 床版のひびわれ発生
1001000 10000 100000
1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010
大型車交通量(台/日)
技術基準の年代
対策区分C
年代1 年代2 年代3 年代4 年代5
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
0.0%
0.5%
1.0%
1.5%
1949以前 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010
損傷発生頻度
対策区分C 架橋数(PC+RC) 全部材数:約364,000
年代1 年代2
架設年代
図-11 上部工の塩害発生頻度
図-9 RC 床版のひびわれ発生頻度
0%5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
45%
年代1 年代2 年代3 年代4 年代5
技術基準の年代
損傷発生頻度
補修済 対策区分C 全部材数:約19,300
速やかに補修をする必要のある損傷や、地域の交通に影 響を及ぼす損傷のことである。
3.2.1 分析対象
使用したデータと対象とした橋梁数は次のとおりであ る。
①橋梁定期点検要領(案)
1)(以下、点検要領)に基づい て実施された点検データ、及び橋梁管理カルテデー タのうち、点検結果が対策区分 E と判定された橋梁 28 橋
②土木研究所で実施された過去の橋梁に関する技術相 談のうち、重大損傷と判断される 13 橋
③国土交通省 HP
2)に公開されている損傷事例のうち 17 橋
3.2.2 損傷の種類と原因の分析
点検要領に基づいて実施された点検データから、対策 区分 E と判定された部材の損傷の種類を整理した(図 -12) 。損傷の種類は、変形・欠損、亀裂、腐食が特に多 く、その損傷原因を図-13 に示す。検査結果の原因(確定・
推定)をとりまとめた結果、変形・欠損の原因は、防水が 70%を占め、次いで材料の劣化が約 20%となっている。亀 裂の原因は、疲労が約 40%を占め、防水・排水工の不良が 約 15%となっている。腐食の原因は、防水・排水工の不良 が約 85%、材料劣化が約 15%となっている。このことから、
防水・排水工不良は、橋梁の損傷(変形・欠損、腐食)
に大きな影響を及ぼしていること、疲労は亀裂を引き起 こす原因となっていることがわかる。
本検討では、変形・欠損、亀裂、腐食を、損傷が生じ た場合の地域の交通に及ぼす影響が大きい重大損傷とし、
以降の分析を行った。
3.2.3 損傷の発生過程
重大損傷に至る損傷進行過程を整理した。
点検要領に基づいた点検調書に記載の所見を分析した 結果、12 パターンに分類された。また、土木研究所が所 有する過去の技術相談に関する資料の分析を行った結 果、15 パターンに分類された。さらに、国土交通省 HP に掲載されているデータについて分析を行った結果、11 パターンに分類された。これらの分析結果を鋼 I 桁橋・
鋼箱桁橋、鋼トラス橋、鋼アーチ橋、PCT 桁橋の 4 つの構 造形式毎に整理した。
鋼 I 桁橋・鋼箱桁橋の場合は、大別して 2 パターンに 分類された。一方は疲労等を原因として溶接部に亀裂が 発生し、溶接部から母材に亀裂が進展する過程であり、
他方は漏水等を原因として桁端部、支承部に腐食が発生 し、断面欠損による応力集中や支承機能の喪失により主
桁に亀裂が発生する過程である(図-14)。
鋼トラス橋の場合も、損傷過程は 2 パターンに分類さ れた。一方は斜材コンクリート埋め込み部の滞水から斜 材の破断に進展する過程であり、他方は疲労により亀裂 図-12 対策区分 E の損傷箇所
図-14 鋼 I 桁橋及び鋼箱桁橋の損傷の発生過程フロー図 図-15 鋼トラス橋の損傷の発生過程フロー図
図-17 PC T 桁橋の損傷の発生過程フロー図
防水・排水 工不良
70%
材料劣化 19%
製作・施工 不良
7%
想定外の 荷重
4%
防水・排水工 不良
86%
材料劣化 14%
疲労 42%
防水・
排水工 不良 その他 15%
15%
構造形式・
形状不良 12%
材料劣化 8%
想定外の荷重 4%
地震 4%
[変形・欠損]
[亀裂]
図-13 変形・欠損、亀裂及び腐食の損傷原因
[腐食]
が発生、進展する過程である(図-15)。
鋼アーチ橋の場合も、大別して 2 パターンに分類され た。ひとつは疲労や地震等により亀裂が発生する過程で あり、他方は塗装の劣化や滞水によって吊り材が腐食し 破断する過程である(図-16) 。
PCT 桁の場合は、3 パターンに分類された。塩害により コンクリートの剥離及び鉄筋の露出・腐食する過程、グ ラウトの充填不良により PC 鋼材が腐食し破断する過程、
及び ASR の発生により主桁にひび割れが発生する過程で ある(図-17) 。
3.3 洗掘に着目した 損傷事例の分析
近年(H19~H24)における我が国の橋梁被災要因の約 6 割が豪雨や台風による洪水となっている(表-7) 。これを 踏まえ、過去の洗掘による損傷事例及び洗掘の点検結果 の分析を行い、部材の損傷リスク評価の一つとして、洗 掘に着目したリスク評価の検討を行った。
3.3.1 平成10年8月豪雨による洗掘事例 平成10年8月末の豪雨による福島県・栃木県豪雨災 害の現地調査で得られたデータを元に、洗掘による橋梁 の洗掘被害事例をとりまとめた(表-8) 。この豪雨では5 日間で累積雨量 1,200mm、時間最大雨量 90mm が記録され、
那珂川及び阿武隈川流域で河川堤防の破堤、道路橋の桁 流出、斜面崩壊等甚大な被害があった。
この被害の内容を個別に分析すると、大きく収縮洗掘 と局所洗掘に分けられた。
収縮洗掘は、川幅縮小に伴って、掃流力が増加するこ とから生じる洗掘である。今回の事例では氾濫原を含む
河道部が 元の地形
や橋梁取付盛土などによって河道が狭窄され、洪水流の 極端な収縮によって河床が洗掘されている例が見うけら れた。この洗掘は、架橋地点のみならず、周辺の地形や 土地利用、堤防などに影響される。
局所洗掘は、橋脚などの河川内構造物の周りの縮流、
乱れなどに起因する構造物近傍のごく限られた範囲に生 じる洗掘である。今回の事例では水衝部にある橋台が基 礎や背面盛土の洗掘によって流出・傾斜したほか、流木 による河積阻害により橋台や桁の流出が発生している。
なお、通常、我々が橋脚の洗掘と言えば、この局所洗掘 であり、流水深、流速、河床材料、構造物の形式・寸法、
洪水流と構造物の迎角などによって変化する。
(1)A橋:収縮洗掘
A橋では、左岸側の橋台 がその背後の台地ととも に流出し、それが支持する桁が1径間流出している。こ こでは、架橋周辺で台地が河道に突き出ており、洪水流 の収縮によって、橋梁部だけでなく、突き出た台地が道 路やガソリンスタンドごと流失する結果となった。また、
流木が大量に集積した記録が残っており、完全に河道を 閉塞する状況となっていた。そのため、流木により河道 を塞がれた洪水流は、平地の流出部を新たな流路として 流下し、橋梁から下流の河道は死水域となっていた。こ のように河道が流木によって閉塞されたことが、流れを 大きく堰上げた主要因となり、橋の上下流で1m強の水 位差がある越水が生じ、その結果、橋台や背面台地の洗 掘・消失につながったものと思われる。
(2)B橋:収縮洗掘
B橋では、右岸側の橋台が取付道路とともに流出し、
それが支持する1径間も流出している。残された橋脚や 左岸側の橋台に損傷は確認されていない。右岸側は取付 道路が10mに渡って流出し、流出を免れた道路上には 洪水流の流下跡が残っている。B橋の被災は、本橋の上
変状 分類 素因 誘因
A橋 橋台・桁流出、橋台背面盛土流出 収縮洗掘 流木による河積阻害 地形・橋梁による河道狭窄 全面通行止め B橋 橋台・桁の流出 収縮洗掘 上流で越流した洪水流の流入 橋梁・取付盛土による河道狭窄 全面通行止め C橋 橋台の傾斜、桁・背面盛土の流出 局所洗掘 流木による河積阻害 流下能力を上回る洪水 全面通行止め D橋 橋台の沈下、桁の流出 局所洗掘 上流で越流した洪水流の流入 流下能力を上回る洪水 全面通行止め E橋 桁・背面盛土の流出 収縮洗掘 流木による河積阻害 谷底地形に橋梁が位置 全面通行止め
F橋 橋台の沈下・傾斜 局所洗掘 橋台根固めの不十分 被災橋台が水衝部 全面通行止め
G橋 橋脚の沈下・傾斜 局所洗掘 橋脚根固めの不十分 架橋位置が水衝部 道路閉鎖中
H橋 橋脚の沈下・傾斜 局所洗掘 橋脚根固めの不十分 架橋位置が水衝部(橋脚位置が流心) 全面通行止め I橋 橋脚の沈下 局所洗掘 ラーメン式橋脚 流下能力を上回る洪水(流心の橋脚が沈下) 全面通行止め J橋 橋台背面盛土の流出 収縮洗掘 流木による河積阻害 橋梁・取付盛土による河道狭窄 全面通行止め K橋 橋台背面盛土の流出 収縮洗掘 上流で越流した洪水流の流入 橋梁・取付盛土による河道狭窄 全面通行止め
L橋 橋台背面盛土の流出 局所洗掘 流木による河積阻害 桁高の不足 全面通行止め
M橋 橋台背面盛土の流出 局所洗掘 流木による河積阻害 流下能力を上回る洪水 全面通行止め
N橋 前面護岸の洗掘 局所洗掘 橋台護岸の不十分 架橋位置が水衝部 全面通行止め
O橋 背面盛土・道路の流出 局所洗掘 橋台護岸の不十分 橋台の河道法線阻害 全面通行止め
表-7 H10.8豪雨災害における洗掘被害事例
橋台 橋脚 洗掘 洗掘
T橋 砂礫 あり c A1・A2橋台で洗掘、橋台下面の一部が露出 維持・補修
U橋 砂礫 あり なし e A1・A2橋台で洗掘、A2橋台ではフーチ ン グ下面の一部が露出 維持・補修
V橋 不明 水衝部 なし あり c P6橋脚周辺で洗掘、橋脚底版の一部が露出 調査・観察
W橋 岩盤 あり e A2橋台周辺で洗掘、フーチ ン グ下面が0.2m露出 緊急対応
X橋 砂礫 あり あり c A1橋台,P1橋脚周辺で洗掘、橋台下面のフーチ ン グ下面露出 Y橋 不明 あり あり P1橋脚周辺で洗掘、フーチ ン グ下面が露出
Z橋 不明 あり c A1橋台周辺で洗掘、A1橋台の一部で橋台下面が露出 維持・補修
AA橋 岩盤 あり c A2橋台周辺で洗掘、A2橋台フーチ ン グ下面が露出 維持・補修
AB橋 土砂 あり c A2橋台周辺で洗掘、A2橋台フーチ ン グ下面が露出 維持・補修
AC橋 岩盤 なし あり S P2橋脚周辺で洗掘、フーチ ン グ底面露出も、岩着のため調査観察判定 調査・観察
AD橋 礫 なし あり c P1橋脚周辺で洗掘、フーチ ン グ下面が露出 維持・補修
河道 条件
損傷 評価 基礎
地盤 状況 点検
評価
表-9 特別点検の点検結果一覧 図-16 鋼アーチ橋の損傷の発生過程フロー図
表-8 H10.8 豪雨災害における洗掘被害事例
橋梁の被災要因(H19~H24)
年次 融雪 豪雨 台風 地震 地滑り その他 合計 備考
H19 0 65 48 58 0 0 171 能登半島地震,新潟中越沖地震 H20 0 39 2 64 0 1 106 岩手宮城内陸地震
H21 0 22 40 2 0 2 66
H22 0 93 8 0 0 0 101
H23 0 42 157 329 0 1 529 東日本大震災 H24 1 125 10 1 0 1 138 合計 1 386 265 454 0 5 1,111
表-7 橋梁の被災要因(H19~H24)
図-18 A 橋車線規制図 流部の右岸側で氾濫原に越流した洪水流が、本橋及び取
付道路上を流下して、本橋の下流側で河川に流入。その 際に越流・落下した水の勢いによって洗掘が進み、取付 道路や橋台ごと流出したものと思われる。
(3)E橋:収縮洗掘
E橋では、5径間のうち3径間にわたって桁が流出し、
また左岸側の取付道路が 150m にわたって流出している。
E橋の被災は、谷底地形全体にわたって洪水が流下、谷 底地形を横切っていた橋梁及び取付道路が流出したもの である。また、橋梁には多くの流木が堆積して残されて おり、洪水時には流木によって河道閉塞も相当進んだも のと思われる。
(4)F橋:局所洗掘
F橋では、左岸側橋台が下流側に沈下、傾斜するとと もに橋台背面から下流側の河岸が流出している。橋台は 下流側で 1.2m 沈下し、その影響で桁が下流側に 40cm 程 度移動し、そのねじれによって上流側の桁2本にせん断 き裂が生じていた。F橋は、河川が右に大きく湾曲して いる区間にあり、出水時には沈下傾斜した左岸側橋台前 面が水衝部となっていた。このため、橋台下流部で洗掘 が生じて河岸が流出、下流側からの吸い出しによって橋 台背面及び基礎底面の土砂が流出し、橋台の下流側が沈 下し、傾斜したと思われる。
3.3.2 洗掘に係る点検調査結果の分析
洗掘に主眼をおいた点検事例として、平成19年度に 行われた「橋梁基礎の洗掘に係る点検」 (以下、特別点検 と記す。表-9)がある。この特別点検は、平成9年の台 風9号による、橋脚基礎の洗掘に起因すると考えられる 橋脚の沈下及び水平移動、上部構造の落橋という事態を 受けて実施されたものである。
特別点検の点検対象橋梁は以下のとおりである。
・基礎形式が直接基礎であり、支持地盤が砂または砂礫 である橋梁
・過去の橋梁定期点検で、洗掘に対する損傷の評価が“c”
または“e”と評価された橋梁
・過去の道路災害経験箇所の調査において、洗掘に対す る安定度が“対策又は防災カルテ作成の必要あり”と判 断された橋梁
この点検結果から見えてくる洗掘による損傷状況は、
特に水衝部において顕著であることがわかった。104 橋のうち、水衝部に位置する橋台もしくは橋脚があった 11橋については、全て重度もしくは中程度の洗掘が確 認され、そのうち4橋で重度の洗掘が確認されている。
また、上流部においては、低水量時の流路が橋台もしく
は橋脚に近接している場合は、洗掘が確認される事例が 多く、9橋でフーチングの重度もしくは中程度の洗掘が 確認されている。このように、水衝部や低水時の流路が 橋台・橋脚に近接している箇所は、洗掘の被害に至る可 能性が高いことがわかった。
4.橋梁の損傷による社会的影響と損失額の算定 橋梁の損傷によ
り実際に通行規制 を実施した橋梁を 参考にした社会的 損失の試算と、社 会的影響を定量的 に算出する手法の 検討を行った。
4.1 橋梁の損 傷により通行止め となった箇所の社 会的損失の算出
損傷により実際 に通行規制が行わ れ た 橋 梁 の 中 か ら、鋼トラス橋の 主構部材の破断、
PC 鋼材の腐食・破 断などによる重大
な損傷が発生した橋梁のなかより、条件の異なる2橋(都 市部・交通量大、中山間部・交通量小)について、 「費用 便益分析マニュアル」 (国土交通省道路局,平成 20 年)
等を活用し、社会的損失(走行時間、走行経費および交 通事故の増加)を算出した。今回の社会的損失は、規制 前に橋梁を通過していた交通量が迂回することによる上 記3つの便益項目の減少量として評価する。
①A 橋(損傷:鋼トラス橋主構部材の破断)
有料道路 迂回路
通常
電子国土webに追記
図
-19 A橋通行止め等の迂回路 A 橋
B 橋 迂回路
通常
電子国土webに追記
図-20 B 橋通行止め時の迂回路
地域:都市部、交通量:約 30,300 台/日、
通行規制: 1 車線規制期間 67 日、通行止め期間 210 日
迂回路: 2.5km 経路増(有料道路含む)
社会的損失:約 13 億円
② B 橋(損傷:吊り橋 PC ケーブルの破断)
地域:中山間部、交通量:約 2,200 台/日、
通行規制:通行止め期間 62 日、 8t 車規制 迂回路: 68km 経路増
社会的損失:約 11 億円(通行止め時)
+ 151 億円( 8t 車規制が 10 年継続と仮定)
今回の事例より、社会的損失は交通量、迂回距離の影響 が大きいことが分かる。特に迂回路が極端に少ない中山 間地域では、迂回距離が大きくなること、長期にわたる 規制が続くことで、社会的損失が非常に大きくなること がわかった。
4.2 社会的影響の算定方法の検討
橋梁が損傷を受け、通行止めや交通規制が行われた場 合、迂回路を設置することによる地域への影響や、交通 事故の増加など地域への影響(社会的影響)が発生する。
このため、橋梁の損傷が生じた場合の交通規制に伴う地 域への影響を定量的に評価する方法を検討した。道路事 業を定量的に評価する方法として「費用便益分析マニュ アル」
3)(国土交通省道路局、平成 20 年 11 月)(以下、
分析マニュアル)がある。本検討では分析マニュアルを 参考に、「走行時間増加損失」、「走行経費増加損失」、
「交通事故増加損失」の 3 項目について評価方法を検討 した。
4.2.1 走行時間増加損失
通行止め等により走行条件が悪化することによる増加 する走行経費のうち、走行時間を対象とした損失。
・走行時間損失 LT = N×α×Q
2×T N:規制日数
α:時間価値原単位(円/分・台)(表-10)
Q
2:迂回交通量(台/日)
T :迂回による走行時間増分(分)
4.2.2 走行経費増加損失
通行止め等により走行条件が悪化することによる増加 する走行経費のうち、走行時間に含まれない項目を対象 とした損失。
・走行経費増加損失 LR = N×Q
2×(β
2×β
2-β
1×β
1) N:規制日数
β
i:走行経費原単位(円/台)
Q
2:迂回交通量(台/日)
L
i:走行経路(i=1 :規制前 i=2:迂回)
4.2.3 交通事故増加損失
通行止め等により発生する交通事故による社会的損 失。
・交通事故増加損失 LA = N / 365N(AA
2 l-AA
1 l) N :規制日数
AA
i l:リンクlにおける交通事故損失額( i=1 :規 制前 i=2 :迂回)(表-11)
4.2.4 規制日数
4.2.1、 4.2.2、 4.2.3 に示した損失を算出するためには、
規制日数(N)が必要となる。規制日数は、損傷の場所や規 模、橋梁の規模、施行のし易さ等、様々な条件により異 なる。このため、過去に通行止めとなった事例を収集し、
規制日数を想定する事とした。本検討では、経年劣化に よる損傷で通行止めになった橋梁 5 例と災害により通行 止めとなった橋梁の 6 例の計 11 例を参考に、規制日数を 設定することとした。なお、交通量が少なく、比較的短 い迂回路を確保出来た橋梁 1 橋を除いて、仮復旧により 通行を再開している。11 事例をもとに設定した規制日数 の例を表-12 に示す。
以上の 3 項目に関する損失を足しあわせて、橋梁の損 傷による社会的影響とした。
表-12 規制日数の設定(例)
表-10 車種別の時間価値原単位
3)表-11 交通事故損失額
3)5.社会的影響を及ぼした事例の傾向分析 5.1 損傷要因の分析
既設橋の重大損傷事例(直轄管理橋梁の定期点検結果 が E 判定とされた事例等)から通行規制が確認された橋 梁を抽出し、橋梁の損傷として多く報告されている損傷
形態を中心に 15 橋抽出し、分析対象橋梁とした(表 -13 ) 。 ここでいう通行規制とは、橋梁に生じた損傷により管理 者が応急的・緊急的に規制を実施したものを指し、定期 復旧工事等による規制は含んでいない。本報告では、 15 橋を対象に行った代表的な分析結果について示す。
損傷リスク判定の精度向上につなげるべく、実際に通 行規制を実施した橋梁の損傷要因の分析を試みた。図-21 に対象橋梁の大型車交通量(12h)と架設年の関係を橋種別
(鋼橋・コンクリート橋)にプロットしたものを示す(大 型車交通量不明の橋梁は除外) 。大型車交通量がそれほど 多くなくても通行規制を伴う損傷は発生しており、交通 量と通行規制の間に明確な関係は認められなかった。一 方で橋種に着目した場合は、コンクリート橋は架設年が 古い橋梁に損傷が多くなっているのに対し、鋼橋では比 較的新しい橋梁で通行規制が実施されている傾向が見え る。これは、コンクリート橋の損傷は、劣化因子の浸透 による鉄筋の腐食など時間に依存する傾向があることが 一因として考えられる。一方で、鋼橋の架設年が 1960 年 代後半から 70 年代前半に集中している。これは、 S39 鋼 道路橋設計示方書(1964)において技術基準が一部緩和さ れ(桁のたわみの許容値) 、 S48 道路橋示方書 (1973) で改 定されるまでの期間とほぼ一致しており、こうした規定 の違いが損傷発生率に影響した可能性がある。橋梁の定 期点検結果のマクロ分析からも準拠した技術基準と亀裂 の損傷発生率には相関があることが分かっており、同様
の傾向が確認された。
5.2 規制内容と橋梁条件との関係
通行規制を実施することによる地域への影響については 様々な評価手法が提案されているが、その影響は橋梁の 置かれた条件によって異なるものと考え、規制内容と橋 梁条件との関係を分析した。
(1)規制日数と迂回路距離
規制日数と迂回路までの距離(同一河川上の次の橋梁 までの直線距離)の関係を図 -22 に示す.迂回路までの距 離が長くなると、比較的規制期間が短くなる傾向が確認 できた.迂回路が長ければ、走行時間増加、走行経費増 加、交通事故増加による損失が大きくなるため、管理者 がより早急な対応を実施し、規制時間の短縮を図ってい るものと考えられる。
(2)損傷部材と規制内容
損傷部材と規制内容(重量規制、片側通行規制、通行 止め)との関係を図-23 に示す。床版損傷事例では片側通 行規制のみであったが、主桁や基礎の損傷事例では通行 止めの処置がなされている.管理者が規制を判断する際 に、損傷部材によってリスクの程度に違いがあることが わかる。
(3)規制内容と近隣重要施設
0 5000 10000 15000 20000
1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980
⼤型⾞交通量(12h)
架設年 鋼橋
Co橋
図-21 大型車交通量(12h)と架設年
0 1 2 3 4 5 6 7
主桁 床版 トラス斜材 基礎
件数
損傷部材
重量規制 ⽚側通⾏規制 通⾏⽌め
図-23 損傷部材と規制内容
橋梁 橋種 架設年 損傷形態
A橋 鋼鈑桁 1972 床版ひびわれ
B橋 鋼鈑桁 1965 洗掘
C橋 鋼鈑桁 1932 洗掘
D橋 鋼トラス 1969 鋼材腐食
E橋 鋼トラス 1966 鋼材破断
F橋 鋼鈑桁 1971 亀裂
G橋 鋼トラス 1991 亀裂
H橋 鋼鈑桁 1981 鋼材腐食
I橋 鋼鈑桁 1933 鋼材腐食
J橋 RCT桁 1935 床版抜け落ち
K橋 RCT桁 1953 洗掘
L橋 RCT桁 1955 主桁ひびわれ
M橋 RCT桁 1932 剥離・鉄筋露出
N橋 PC箱桁 1975 剥離・鉄筋露出
O橋 RCT桁 1927 剥離・鉄筋露出
表-13 分析対象橋梁一覧
図-22 規制日数と迂回路までの距離
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000
0 500 1000 1500 2000 2500
規制⽇数(⽇)
迂回路までの距離(m)
鋼橋 Co橋
規制内容が橋梁周辺に存在する重要施設(総合病院、
消防署、学校)の配置に影響を受けているのではないか と考え、地図上で橋梁から半径 2km 以内の重要施設位置 を確認した.結果を表-14 に示す.全面通行止めを実施し た 5 事例について見ると、周辺重要施設無しが 3 事例、
重要施設有りが 2 事例となっている。重量規制や片側通 行規制のように供用を確保しながらの規制の場合、 10 事 例中 8 事例が重要施設有りであった。また、損傷橋梁と 同等規模の迂回路が有るにも関わらず通行止めを行わず に供用している事例も 8 事例有り、重要施設へのアクセ スを確保し、社会的影響を最小化させているものと考え られる。
6.定量的評価方法の検討
6.1 分析方法
リスクアセスメントの標準手順として、 ISO/IEC Guide51:1999
4)(ガイド 51 )に示される図-24 のようにま とめられており、リスクアセスメントの標準手順は (1) ~ (4)、リスク分析の標準手順は(1)~(3)とされている。橋梁 のハザードには地震や車両の衝突等の偶発作用も存在す るが、経年劣化により部材が損傷し、損傷の程度が進行 すると橋梁全体の安全性が低下するため、本検討では経 年劣化を対象とした。ハザードの特定とは、橋梁に発生 する損傷等を特定することであり、リスクの見積とは、
橋梁に発生した損傷により被る損害を評価することであ る 。 リ ス ク の 評 価 手 法 は 多 く 存 在 す る た め 、 IEC/ISO31010:2009
6)( JISQ31010:2012 リスクマネジメン
ト)に記載されているリスクアセスメントの技法 31 種類 を参考に、橋梁のリスク評価分析に適用可能な方法を表 -15 のように抽出した。この他、国内の省庁がリスクアセ スメントを推奨している例として、厚生労働省が労働安 全衛生の分野、経済産業省が消費生活用製品製造の分野 があり、それぞれでリスクアセスメントの方法等をまと められているため、これも参考にして手法をとりまとめ た(表-16) 。この中からハザードの特定とリスクの見積 に適した手法を提案することとした。
6.2 橋梁のハザードの特定に適した手法
表-13 に示すように、ハザードの特定には「チェックリ
スト」 、 「 FMEA 」 、 「 FTA 」を分析手法として抽出した。チ ェックリストは、ハザードの洗い出しにおいて、漏れ落 ちが無いようにするリストであり、FMEA は、橋梁の部 材が損傷したときに、橋梁全体にどのような影響を及ぼ すか解析し、大きな影響を及ぼす部材を見つける方法で ある。FTA は橋梁に対して望ましくない事象の発生要因 を検討し、その要因を体系的に整理する方法である。
6.3 橋梁のリスクの見積に適した手法
表-16 に示すように、リスクの見積手法として、 「リス クマトリックス」 、 「リスク指標」 、 「リスクグラフ」を抽 出した。リスクマトリックスは、橋梁の損傷の深刻度と、
橋梁が損傷したことによる社会的影響をそれぞれ縦軸・
横軸とするマトリックスを作り、各マス目に対応させる 方法である。リスク指標は、リスクの各構成要素を半定 量的尺度で評価し、その加算(減算)でリスクの値を計 算する方法である。リスクグラフは、リスクパラメータ 表-15 JISQ31010
5)に示されるリスク分析手法の抽出
表-16 橋梁に適したリスク分析手法一覧
橋梁 規制状態(緊急、応急時) 重要施設(半径2km以内) 迂回路有無
A橋 ⽚側通⾏規制 なし 有
B橋 全⾯通⾏⽌め なし 無
C橋 全⾯通⾏⽌め なし 無
D橋 ⽚側通⾏規制 ⼩学校 有
E橋 全⾯通⾏⽌め 病院3件、⼩学校、中学校 有
F橋 全⾯通⾏⽌め なし 無
G橋 ⽚側通⾏規制 ⼩学校 無
H橋 全⾯通⾏⽌め ⼩学校 有
I橋 重量規制 病院、⼩学校、中学校 有
J橋 ⽚側通⾏規制 病院2件、⼤学 有
K橋 重量規制 消防署、⾼校 有
L橋 重量規制 病院、⼩学校3件 有
M橋 重量規制 ⼩学校 有
N橋 ⽚側通⾏規制 なし 無
O橋 通⾏規制(詳細不明) ⼩学校、中学校、⾼校 有
表-14 規制内容と近隣重要施設
図-24 リスクアセスメントの標準手順
5)と程度をツリー表示し、それらを選択・組み合わせを行 う事でリスクの見積を行う方法である。リスクグラフは、
損傷の程度等を大・小の2つの区分とする必要があるた め、それ以上の区分数とすることができず、橋梁のリス ク評価としては不向きであると考えられる。リスクマト リックスとリスク指標は、ここでは、損傷の程度や発生 頻度を2つ以上の区分とすることが可能であることや、
リスクの程度を自由に設定できる手法であり、橋梁の損 傷の深刻度や社会的影響度を視覚的に表現可能であり、
分かりやすさの面で優れていると考えられるリスクマト リックスを使用することとした。リスクマトリックスの イメージを図-25 に示す。
6.4 橋梁のリスク評価方法の提案
これまでに行った第2 章~第5 章までの検討内容から、
橋梁のリスク評価を行う場合の橋梁の損傷の深刻度と社 会的影響度の評価区分の考え方を示す。
(1)評価の考え方
リスク評価の観点として、安全性と使用性の 2 点があ る。使用性が低下すると社会的影響に及ぼすことなどを 考慮すると、次のように評価することが考えられる。
Ⅰ:安全性及び使用性のリスクが相対的に低い Ⅱ:主として、使用性のリスクが高い。社会的影響度
に応じて適切な対策が必要
Ⅲ:安全性及び使用性のリスクが高い。社会的影響度 に応じて適切な対策が必要
Ⅳ:安全性及び使用性のリスクが高く、早急な対策が 必
要
(2) 橋梁損傷の深刻度の考え方の例 〇鋼橋の場合
主桁等に損傷が生じると安全性に影響し、過去に も通行止めに至った事例も多いことから、主部材に 損傷が発生した場合は損傷は深刻度中以上と考える ことが出来る。そのうち、昭和 39 年道路橋示方書に 準拠した設計の場合は、損傷頻度が高く、今後も損
傷が生じやすいと考えること、通行止めの事例も多 いことから損傷度大と考える。
〇PC 橋の場合
鋼橋と同様な理由から、主部材に損傷が発生した 場合は、損傷の深刻度は中以上とすることが考えら れる。そのうち、塩害に着目した分析で塩害の発生 頻度の高かった「道路橋の塩害対策指針(案)・同解 説 昭和 59 年」が発刊される以前に架設された橋梁 は、著しい損傷に至る可能性が高いことから、損傷 の深刻度大としてよいと考えられる。
〇下部構造の場合
被災事例の分析により、下部構造に洗屈が発生し た場合は、通行止めを実施している事例が多いこと から、損傷の深刻度中以上とすることが考えられる。
そのうち、直接基礎でフーチング下面が露出してい る場合は、安全性への影響が懸念されるため、深刻 度大として良いと考えられる。
(3)社会的影響度の考え方の例
第 4 章で検討を行った A 橋、B 橋は、通行止めを実 施し、社会的にも大きな影響を及ぼしている。この 2 つの橋梁の社会的損失額が、それぞれ 10 億円以上で あったことから、社会的損失額が 10 億円以上の場合 は、社会的影響度を大として良いと考えられる。
なお、上記については、本研究で収集した事例から 提案した考え方であり、今後試行等も含めた詳細な 検討が必要である。
7.まとめ
橋梁点検データの分析、重大損傷事例の分析等から、
橋梁に生じた損傷が落橋や通行止め等に至る条件や深刻 度について明らかにした。また、通行止め等が生じた場 合の社会的影響度の評価方法について、実例に基づく試 算により適用性を検証した。さらに、これらの組み合わ せた橋梁のリスク評価について、海外の事例等を参考に しながら提案し今後は、提案した手法について試行等も 含めた更なる検討を行っていく必要がある。
参考文献
1 )国土交通省道路局:橋梁定期点検要領(案)、2004 2 )国土交通省 HP:道路の老朽化対策
http://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html 3)国土交通省道路局都市・地域整備局:費用便益分析マ
ニュアル、2008.
4)ISO/IEC Guide 51:1999.
5)経済産業省:リスクアセスメントハンドブック実践編、
図-25 リスクマトリックスのイメージ
社会的影響度橋梁の損傷の深刻度