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第4回フォーラム成果集表紙01

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平成24年3月

独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 瀬戸内海ブロック水産試験場長会

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はじめに 独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所と瀬戸内海ブロック水産試験場長 会は、「瀬戸内海水産フォーラム」を隔年で開催しています。フォーラムは、瀬戸内海の水産業 と環境に関わる分野で特に関心の高いテーマをとりあげて、研究機関で得られた成果をさまざま な視点から発表・解説することで、一般市民の方々や漁業者の方々へ情報を発信するとともに、 瀬戸内海の水産業が抱える問題の解決に役立てることを目的としています。また、問題解決には、 現場や行政機関も交えた多様な視点で取り組むことが必要ですので、今回は、水産庁瀬戸内海漁 業調整事務所、(社)瀬戸内海環境保全協会、及び瀬戸内海研究会議の後援もいただきました。 さて、今回のフォーラムのテーマは「きれいな海は豊かな海か?」です。ご存じのように、一 時は「死の海」とまで言われていた瀬戸内海も、関係する方々の努力により、見違えるようにき れいになりました。しかし、その一方で、海苔の栄養が足りずに「色落ち」という現象が発生し たり、多くの魚介類の漁獲量が減少したりしているため、水産業においては、「『水清ければ魚 棲まず』ではないか?」という声も聞かれています。もとより、瀬戸内海には、観光、レクリ エーション、海運等さまざまな利用の仕方がありますので、水産業のために元の汚い瀬戸内海に 戻すという乱暴な選択肢はありません。しかし、水産業も海域利用の大きな要素の一つですし、 観光にも貢献できますので、現在水産業が陥っている苦境を整理し、他の利用の仕方との調和を 図りながら、水産業を回復させる工夫をすべきだと考えております。 今回のフォーラムでは、環境と水産業の全体像に造詣の深い瀬戸内海研究会議会長の松田治先 生、瀬戸内海の環境変化に関する長期間にわたる詳細な資料を整備している瀬戸内海環境保全協 会の石川潤一郎課長、海の栄養不足の影響を最も強く受ける「ノリ養殖」に詳しい兵庫県水産技 術センターの原田和弘主任研究員、物質循環を上手に利用することで成り立つ「かき養殖」に詳 しい広島県水産海洋技術センターの川口修研究員、原因が複雑でよくわかっていないものの、漁 獲量の減少が明らかな周防灘のアサリに詳しい、当水研の浜口昌己主幹研究員が、それぞれの立 場から発表し、パネルディスカッションを行いました。その際、会場の皆様からも、活発なご意 見やご質問をいただきました。 本書はこのようなフォーラムの講演内容、質疑応答、総合討論を整理したものです。皆様に、 水産業が困っている状況を理解していただき、どのようにすれば水産業を回復させることができ るかを考えるきっかけにしていただければ幸いです。当所も、沿岸漁業への貢献、環境行政への 提言を目指し研究開発を進めていく所存でございますので、引き続き皆様のご支援をお願い申し 上げます。 平成24年3月 主催者代表

独立行政法人水産総合研究センター

瀬戸内海区水産研究所長

時村 宗春

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目 次

講演

基調講演 「豊かな海」をめざす里海と水産業 … 1 瀬戸内海研究会議 会長 松田 治 資料から見る栄養塩類を中心とした瀬戸内海の環境の変遷 … 3 社団法人瀬戸内海環境保全協会 業務課長 石川 潤一郎 播磨灘の栄養塩環境の変化と漁業生産-兵庫県の養殖ノリを事例に- … 5 兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター 主任研究員 原田 和弘 かき養殖海域の物質循環から見える環境配慮型養殖 … 7 広島県立総合技術研究所 水産海洋技術センター 研究員 川口 修 広島大学大学院 生物圏科学研究科 山本 民次 瀬戸内海最大の自然干潟域の漁業と海洋環境の変遷 … 9 独立行政法人水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 主幹研究員 浜口 昌巳

講演に対する質疑応答

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パネルディスカッション

…14 座 長 : 寺脇 利信 (独立行政法人水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 生産環境部長) パネラー : 松田 治 (瀬戸内海研究会議 会長) 石川 潤一郎 (社団法人瀬戸内海環境保全協会 業務課長) 原田 和弘 (兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター 主任研究員) 川口 修 (広島県立総合技術研究所 水産海洋技術センター 研究員) 浜口 昌巳 (独立行政法人水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 主幹研究員) 小林 一弘 (水産庁 瀬戸内海漁業調整事務所 指導課長)

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「豊かな海」をめざす里海と水産業

瀬戸内海研究会議 会長 松田 治 [問題の背景と経緯] 里海は親しみやすく、懐かしささえ覚える言葉ですが、実際には比較的新しい言葉で、 まだ発展途上の考え方ともいえます。しかし、この里海は次第に市民権を持つようになり、 近年では国の制度や事業等にも取り上げられるようになりました。国際的にもSatoumi と して注目を浴びています。何故なのでしょう? Satoumi が、「日本発、瀬戸内海育ち」と か「瀬戸内海生まれ、日本発」と称されるように、里海の考え方は瀬戸内海とは切っても 切れない形で進化してきました。その主な理由は、今回のフォーラムのテーマでもある「き れいな海は豊かな海か?」という問いと深い関係にあります。 瀬戸内海は戦後の高度成長期の極端な水質汚染により、一時は「瀕死の海」と称される までに水質が悪化しました。しかし、他の海域に先駆けて、1973 年には瀬戸内海環境保全 臨時措置法が制定されるなど、対応も早く、いわば「きれいな海」をめざすトップラン ナーとして40 年近くを走り続けてきたのです。しかし、近年、瀬戸内海では、水質は改善 されたものの、失われた生物生息環境や低下した水産資源水準が回復せず、あるいは著し く低下した生物多様性はそのままといった状態が続いています。つまり、「きれいな海」は 必ずしも「豊かな海」をもたらさないという現実を突き付けられて、「豊かな海」をめざす 里海が評価され始めたともいえます。 水産業は漁業生産をあげる産業ですから、「きれいな海」だけでは成り立ちません。「豊 かな海」をめざす里海は、瀬戸内海が従来の水質管理中心主義から生態系管理へと大きく 方向転換する上で、軸となりうる考え方の一つです。また、実践活動としての「里海づく り」は地域主導の持続的な水産業の実現に大いに役立つもので、地産地消の推進や一般の 人や子供たちの“海離れ”の解消にも役立てることができます。 [日本の沿岸と瀬戸内海の現状] 2010 年 10 月に名古屋で開催された生物多様性条約 COP10 を機会にして、日本の生物多 様性の現状全般に関わる評価が取りまとめられました。その主要な結論として、「特に、陸 水生態系、沿岸・海洋生態系、島嶼生態系における生物多様性の損失が大きく、現在も損 失が続く傾向にある」ことが指摘されています。しかも、生態系ごとの損失の状態として、 沿岸・海洋生態系は「過去50 年ほどの間に大きく損なわれており、長期的に悪化する傾向 で推移」と総括されました。その代表格が瀬戸内海なのです。 [沿岸域管理に関係する制度の変化] 沿岸海域の中でも海水が交換しにくく汚染しやすい閉鎖性海域では、一般海域とは異 なって、有機物や栄養塩類の排水基準が設けられ、特に東京湾、伊勢湾、瀬戸内海では化 学的酸素要求量(COD)、全窒素(TN)、全リン(TP)の総量負荷削減施策が続けられて

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きました。このような水質管理の仕組みが海域の環境改善に大きな役割を果たしたのは事 実です。しかし、最近では、水質は改善されたものの、水産資源状況や生態系が回復して いないという報告が多くなされています。瀬戸内海では藻場や干潟が大幅に消滅し、ノリ の色落ちが多発しています。このような状況の中で、制度の大きな転換が始まりました。 例えば、近年の水産基本法(2001)、自然再生推進法(2002)、海洋基本法(2007)、21 世紀環境立国戦略(2007)、農林水産省生物多様性戦略(2007)、生物多様性基本法(2008)、 生物多様性国家戦略2010 の制定や策定などです。このような新しい法律や国家戦略を反映 して、産・官・学・民を通じてさまざまな新しい取り組みが始まっています。環境省は地 域の優れた里海づくりを支援する「里海創生支援事業」(平成 20-22 年度)を進め、平成 22 年度からはモデル海域で「海域の物質循環健全化計画策定事業」を開始しました。水産 庁は平成21 年度から「環境・生態系保全活動支援事業」を漁業者や地域住民の藻場、干潟 やサンゴ礁の保全活動を支援する目的で進めています。さらに、平成22 年度には新たな方 向性を示す生態系に配慮した「水産環境整備推進に向けて」を取りまとめ、ごく最近、播 磨灘地区の水産環境整備マスタープランが第1 号として承認されました。 [瀬戸内海環境管理施策の現況] 東京湾、伊勢湾、瀬戸内海で長年続けられてきた総量負荷削減は、現在、第 7 次削減を 迎えていますが、重要な経緯として、第6 次削減の「在り方」検討の際に、3 海域で全て削 減という従来の方針が大きく転換して、栄養塩管理が新たなステージに入りました。第 6 次からは大阪湾を除く瀬戸内海ではさらなる負荷削減をしなくてよいことになったからで す。これは、ある意味で、「流入負荷削減神話の終焉」ともいえる大きな出来事でした。 第 7 次でもこの方針は踏襲されましたが、負荷削減により水質的環境基準が達成された 後の適切な栄養塩管理など具体的施策については、まだ、明瞭な道筋が示されていません。 これに関して、平成 22 年度には環境省の「今後の瀬戸内海の水環境の在り方懇談会」(通 称「在り方懇」)が論点整理を行いました。また、これに先行して瀬戸内海環境保全知事・ 市長会議は、すでに2005 年に里海の考え方に基づいた「瀬戸内海の環境保全と再生に関す る特別要望」を決議し、「生物多様性の確保と水産資源の回復(豊かな里海)」と「美しい 自然とふれあう機会の提供(美しい里海)」の実現を目指した運動を進めています。 [最近の動きと将来展望] COP10 後の動きとしては、COP10 の議決に沿った生物多様性国家戦略の見直しが進め られ、環境省も「海洋生物多様性保全戦略」を策定しました。瀬戸内海についていえば「水 質管理中心主義から生態系管理へ」の方向転換の具体策、すなわち、生態系と物質循環、 あるいは生物生産と生物多様性に配慮してより豊かな海を取り戻すための新たな目標の設 定と指標並びに評価システムが求められています。しかし、現状では、この転換が進展し ているとは言い難く、具体的な施策は依然として未整備です。このような新たな転換をよ りよい形で実現するためには、水産サイドからも、“水産サイドから見て瀬戸内海をどのよ うな海にしたいのか?”、具体的な指標や評価手法の開発を含めて、できる限り実際的で検 証可能な形の提案を続けてゆくことが大切です。

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資料から見る栄養塩類を中心とした瀬戸内海の環境の変遷

社団法人瀬戸内海環境保全協会 業務課長 石川 潤一郎 [はじめに] 瀬戸内海は、本州、九州、四国に囲まれた日本最大の閉鎖性海域であり、温暖な気候と 豊かな魚介類に恵まれ、古くから人間の生活に寄与してきた地域であります。また、灘や 瀬戸と呼ばれる変化に富む海や多くの島々からなる美しい景色と自然の多いところで、日 本で初めての国立公園に指定されました。 しかしながら瀬戸内海は、昭和40 年頃からの高度経済成長期において油や工場排水や家 庭排水等が瀬戸内海に流入し、赤潮の発生等により大きな漁業被害が発生する等環境の悪 化が進み、「瀕死の海」と呼ばれた時期がありました。このため昭和 45 年に水質汚濁防止 法が、昭和48 年に瀬戸内海環境保全臨時措置法(昭和 53 年瀬戸内海環境保全特別措置法 として恒久化、以下瀬戸内法という)が制定され、関係府県市や、事業所、漁業団体、環 境活動団体等が協力し瀬戸内海の環境改善に向けた活動が進められてきました。このよう な状況の中、瀬戸内法の趣旨の周知と環境保全に向けた意識の高揚を図る目的で、昭和52 年に社団法人瀬戸内海環境保全協会(以下「瀬戸協」という。)が設立され、瀬戸内海知事・ 市長会議構成団体(33 団体)、瀬戸内海環境保全地区衛生組織(7 団体)、漁業協同組合連 合会(10 組合)、全国漁業協同組合連合会、財団法人国立公園協会の正会員 52 団体と、瀬 戸内海沿岸で事業を営んでいる企業83 社(賛助会員)にて構成されています。 瀬戸協の主な事業活動は、①普及啓発活動、②情報収集・発信事業、③調査研究事業と なっています。 [活動内容] 主な事業活動として、瀬戸内海の環境保全の大切さを理解していただくための情報を収 集し、発信していく活動を行っています。主な内容は、総合誌「瀬戸内海」(平成6 年より) と「瀬戸内海の環境保全」資料集(昭和53 年より)の発行です。この「瀬戸内海の環境保 全」資料集は、昭和53 年に第 1 号が出版され、今年で 33 年間継続して発行(有料)され ており、この間、多くの科学者や行政の方に引用等活用されています。データについては、 毎年、環境省水大気環境局の監修のもとに、瀬戸内海の概況、埋め立て状況、水質・底質 の現況、赤潮の発生状況、油による海洋汚染、瀬戸内海の環境保全対策を中心に編集して おり、それらに関連する資料も含まれています。 このような長期的に蓄積されたデータからは色々な視点でデータを再整理することがで きます。例えば、瀬戸内海において化学的酸素要求量(以降「COD」という)、窒素、リン の総量削減が導入されたことにより陸域からの栄養塩類の負荷が徐々に低下して取り組み の成果が出ていると思われますが、海域のCOD、窒素、リン濃度は総量削減の導入の前後 では顕著な変化は見受けられません。(COD の総量削減は昭和 53 年度から、窒素、リンの 総量削減は平成 13 年から導入されています。)また、栄養塩類濃度が関係するといわれて いる赤潮の発生件数については、昭和51 年度 300 件近く発生していた赤潮は、昭和 52 年 以降、COD の総量削減効果により 200 件以下に減少しておりますが、昭和 62 年以降は 100

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件前後で推移しています。 瀬戸内海における漁獲量については、昭和 60 年頃をピークとして減少傾向にあります。 この原因としては、藻場・干潟が埋め立てによる生物生息場所の消失や水環境の悪化等に より生物の生息環境が悪くなったからであると言われています。 このような事例がこの資料集に掲載されているデータにより検討することができると思 われます。以下に、資料集に掲載されている事例として陸域からのCOD 発生負荷量、海域 における水質(COD)の推移、瀬戸内海における赤潮発生件数の推移を示しました。 [今後の課題・展望] 長期間にわたる瀬戸内海の概況をはじめとして海文化にいたる幅広い分野の貴重なデー タの収集を今後とも継続していく必要性を感じるとともに、環境の変化に応じたデータを 収集するために、学識研究者の意見を取り入れて編集内容の検討も視野に入れながら「瀬 戸内海の環境保全」資料集の発行を継続していきたいと考えています。 図 3.瀬戸内海における赤潮発生件数の推移 図 2.瀬戸内海における水質(COD)の推移 図 1.瀬戸内海における COD の発生負荷量の推移

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播磨灘の栄養塩環境の変化と漁業生産

-兵庫県の養殖ノリを事例に-

兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター 主任研究員 原田 和弘 [背景] 播磨灘は兵庫県の瀬戸内海側に位置し、岡山県、香川県及び徳島県まで広がる海域です。 兵庫県では、播磨灘の19 定点で 1973 年度から毎月 1 回漁場環境を観測しており、現在も 調査を継続しています。これまで約 40 年近くに渡って収集した観測データの中で、大き く変化した水質項目として、栄養塩濃度(窒素やリン等)と水温が挙げられます。このう ち今回のフォーラムでは、播磨灘の栄養塩濃度の変化について紹介することとします。 播磨灘で調査を開始した 1970 年代は、高度経済成長による産業活動や社会生活の進展 等に伴って水質汚濁が進み、海域はいわゆる富栄養化した状態にありました。水質汚濁を 防止するための様々な法整備によって、播磨灘では窒素やリンの濃度は徐々に低下し、現 在では逆に貧栄養と呼ばれるほどの状況となっています。 兵庫県においてノリ養殖は、瀬戸内海側の漁業生産金額の約4 割を占める基幹漁業種で あり、有明海等と並んで全国有数の養殖ノリ生産地となっています。ところが、近年は栄 養塩の中でも、特に溶存態無機窒素(以後、DIN とします)濃度の低下に伴って、兵庫県 では養殖ノリに「色落ち」被害が生じるようになりました。海藻である養殖ノリは陸上植 物と同様に、窒素やリン等の栄養素を必要とします。播磨灘ではリンに比べて、窒素の濃 度が低下したことによって、養殖ノリの色素を合成する栄養が足らず、本来黒褐色である ノリの色が黄色っぽくなってしまう状態(これを色落ちと言います)が、1990 年代後半以 降頻発するようになりました。色落ちしたノリは、見た目の悪さや遊離アミノ酸等の旨味 成分不足によって食味も優れないため、販売されないか、非常に安価な値段で取引されて しまいます。 このフォーラムでは、播磨灘の栄養塩環境の変遷と、養殖ノリをはじめとする漁業生産 変化の現状を知って頂き、これからの海洋環境はどうあるべきかを、共に考えて頂く契機 になればと考えています。 [研究成果の内容] 播磨灘の栄養塩濃度の変動には大きく分けて、「陸域負荷」、「外海水の影響」及び「底 泥からの溶出」が関与していると考えられています。また、二次的な変動要因として、「植 物プランクトンの大量発生」や「冬季の貧栄養水塊の移動」等が挙げられます。これらの うち、陸域負荷が播磨灘の栄養塩濃度の変動に与えている影響について解析を試みた結果、 播磨灘北部からの陸域負荷(河川水や生活、産業排水等)の影響が、少なからず関係して いることが示唆されました。また、外海水や底泥からの溶出が播磨灘の栄養塩環境に与え る影響は大きいという報告もあり、無視できない存在です。このように、播磨灘の栄養塩 濃度に与える主要因は複数存在し、それぞれが関係し合って変動していると考えられます。 兵庫県の養殖ノリ生産量は、養殖技術の進展に伴って増加した後、安定した生産が続い

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ていましたが、1990 年代後半からはノリの色落ちが頻発するなど、不安定化してきていま す(図1)。その一因として、DIN 濃度の低下が挙げられます。播磨灘の養殖ノリは、12~ 翌年 3 月頃を中心に生産されています。養殖ノリ生産期における DIN 濃度は、全体的に 年々低下する傾向を示しています(図2)。月別に見ると養殖ノリに色落ちが発生するとさ れるDIN 濃度(3μmol/L)を、1995 年頃から 3 月が下回るようになり、2000 年頃からは 2 月もその数値を下回る頻度が高くなっていることがわかります。このように、養殖ノリ生 産期間でも良質なノリを生産できる期間が徐々に短くなりつつあるのが実態です。また、 養殖ノリの生産開始には水温低下が重要なカギを握っていますが、地球温暖化に伴って、 冬季の水温低下が遅延する傾向が認められています。これも、養殖ノリの生産期間を短縮 させる一因となっています。これらの要素に加え、貧栄養でも増殖できる植物プランクト ンの発生による栄養塩の消費等、養殖ノリ生産の不安定要素は増しているのが現状です。 さらに、播磨灘では養殖ノリの色落ちが頻発し始めた頃と同時期から、漁業生産量(養 殖業を除く)の低下も顕著になっており、特に小型底びき網漁獲量はDIN 濃度との関連性 が疑われています。 このように、播磨灘では養殖ノリの色落ちや漁業生産量と、栄養塩濃度低下(特にDIN) の間に関連性が示唆される状況があるため、兵庫県では、ある程度人為的に管理できる陸 域負荷に重点を置いて、養殖ノリ生産期に下水処理場における栄養塩管理運転(排出基準 値内での窒素排出量増加運転)やダムからの一次放流等の対策を講じると共に、漁業者自 身も施肥、ため池の池干し等、試行錯誤しながら海域の栄養塩回復に取り組んでいます。 [今後の課題・展望] これまでの環境行政や社会の協力によって、海域や河川の水質環境はある程度の改善を 見ました。一方、現状では海洋の生物生産と栄養塩に関する新たな課題が生じていると考 えられます。海洋の水質環境については、養殖ノリは勿論、水産分野だけで論じられるも のではありませんが、漁業を生業にしている方々にとって、生産量の低下は非常に切実な 問題であり、時間的な猶予はあまりないように感じます。 また、海域の食物連鎖や物質循環を円滑に進めるには、栄養塩の管理だけでなく、かつ て広く存在し、自然の水質浄化及び生物成育場としての機能を果たしていた干潟や浅場の 再生等も並行して進めることが不可欠と考えられます。 瀬戸内海に携わる関係機関による総合的な海洋管理施策の推進とともに、社会的な理解 と協力を得ながら、早急に対策を打つことが必要と考えています。 5 10 15 20 1980 1985 1990 1995 2000 2005 年 出 荷 枚 数 (億 枚 ) 5 10 15 20 平 均 単 価 (円 /枚) 出荷量 単価 図 1.兵庫県の養殖ノリ出荷量と単価 0 3 6 9 12 15 18 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 年 D IN 濃度( μ m o l/ L ) 12月 1月 2月 3月 0 3 6 9 12 15 18 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 年 D IN 濃度( μ m o l/ L ) 12月 1月 2月 3月 図 2.養殖ノリ生産期の DIN 濃度変化

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かき養殖海域の物質循環から見える環境配慮型養殖

広島県立総合技術研究所水産海洋技術センター 研究員 川口 修 広島大学大学院生物圏科学研究科 山本 民次 [背景] 広島県のかき養殖むき身生産量は1987 年代の 32,000 トンをピークに以後減少し、ここ 10 年は 20,000 トンで推移しています。この減少の原因は赤潮などがあげられますが、背 景には海底に有機物が多量に溜まったことによる、いわゆる「漁場の悪化」があると指摘 されています。平成19~21 年に、広島県は広島大学と共同し、「江田島湾におけるかき養 殖適正化技術開発」という研究を実施しました。この中で、①異なる3 種類の養殖方法の 有機物負荷特性、②底生生態系も含めた養殖海域の物質循環、③筏の配置と海水流動、を 明らかにしてきました。本発表では、ここで得られた研究成果から、かき養殖を中心とし た物質循環を紹介するとともに、環境に配慮した養殖への取り組みについて紹介します。 [江田島湾かき養殖場の物質循環] 江田島湾は、閉鎖性が強く常に平穏な海域であるため、様々な筏上作業や、台風時の避 難のため、夏季には江田島湾外(広島湾)から多くのカキ筏が持ち込まれ、高密度で養殖 されます。このようなことから、高密度のかき養殖にともなって排泄される糞など、多量 の有機物が分解される過程でおこる底層の貧酸素化が常態化して問題となっています。そ こで、江田島湾を対象にリン循環を表す生態系モデルを構築し、底生生態系を含む江田島 湾の物質循環に対するかき養殖の寄与について解析しました。 その結果、年間で一次生産の70%にあたる植物プランクトンがカキによって摂食されて おり(図1)、7 月にはこれが 92%に及ぶことが明らかとなりました。また、海底へ負荷さ れるリン全体の74%がかき筏から排出されており、同湾の物質循環と海底への有機物負荷 に対する養殖かきの寄与の大きさが明らかとなりました。さらに、動物プランクトンを経 由して海底に負荷されるリン量は大きく見積もっても動物プランクトンの摂餌量の 23% であるのに対し、カキを経由した海底への負荷はカキの摂餌量の 26%であったことから、 かき養殖は水中の有機物を効率的に海底へ運搬していることがわかりました(図1)。 植物プランクトン 動物プランクトン カキ 海底 粒状態リン 74.7 14.8 52.0 8.9 3.4 13.6 図 1.江田島湾における年間平均のリン循環の一部抜粋(単位は kg P/d)

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[海底への有機物負荷特性の養殖方法別比較] 広島県で主流の垂下式養殖は、カキの産卵期である 7~8 月に付着器(コレクター)を 海に垂下し、幼生を付着させる「採苗」、その後、潮間帯に移動させ、弱い稚貝の淘汰や強 い種苗の確保を目的として一日に数時間干出させる「抑制」、そして、養殖海域に移動させ て成長させる「本垂下」という3 つの工程で実施されています。近年では、この抑制期間 や本垂下期間が多様化し、主に「イキス」、「ヨクセイ」、「ノコシ」の3 つの養殖方法が採 用されており(図2)、特に養殖期間が長いノコシが 1980 年代以降増加してきています。 江田島湾におけるそれぞれの養殖方法別の負荷量や収穫量を見積もり、負荷量/生産量 比を比較したところ、ノコシでは筏あたりの収穫量が最も多いものの、負荷量/生産量比 も最も大きく、海底の有機物汚濁を引き起こしやすい養殖方法であることが明らかとなり ました(表1)。 図 2.養殖実施形態別の養殖工程 表 1.養殖実施形態別の負荷量、収穫量、負荷量/生産量比 ヨクセイ イキス ノコシ 筏あたり総負荷量(kgP/raft) 4.1 5.2 8.7 筏あたりの収穫量(tWW/raft) 2.2 1.9 2.9 負荷量/生産量比(kgP/tWW) 1.91 2.71 2.94 [環境に配慮したかき養殖方法の提言] 上述したとおり、かき養殖は水中の有機物を効率的に海底へ運搬するため、水中から海 底へと栄養物質を局在化させる要因となっています。さらに、養殖場は海域の一部に存在 するため広島湾全体の有機物を養殖場海底へ集中させます。先に紹介した生態系モデルの 感度解析結果から、江田島湾では筏台数を現行の1,800 台から規則台数である 800 台程度 まで減少させることで貧酸素を縮小できると推定されました。つまり、夏季に過度に集中 するかき養殖を分散させることで江田島湾の海底環境を回復・維持できると考えられます (空間的分散)。また、養殖形態を変化させることで、生産量当たりの海底への負荷量を軽 減できることが明らかとなったので、積極的にノコシ養殖からヨクセイあるいはイキス養 殖への移行が望まれます(低負荷型養殖生産)。 [今後の課題] 現在、かき養殖業者から「餌が少ない」との声はよく耳にします。実際に広島湾では冬 季の透明度が上昇傾向にあります。しかし、夏季においては透明度に変化がなく、むしろ 植物プランクトン量を示すクロロフィルa 量は増加傾向にあります。今後、ここで紹介し た環境に配慮したかき養殖を実践していくよう、漁業者への啓蒙と啓発が必要と考えます。 [参考文献] ・川口修,平田靖,若野真,山本民次,陸田秀実.カキ養殖の実施形態別有機物負荷特性 の評価.日水誌 2011;印刷中

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瀬戸内海最大の自然干潟域の漁業と海洋環境の変遷

瀬戸内海区水産研究所 主幹研究員 浜口 昌巳 [背景] 瀬戸内海の沿岸の大部分は、高度経済成長期に開発され、干潟やアマモ場が次々に失わ れてきました。そのようななかで、周防灘には今でも広大な自然干潟が残されており、瀬 戸内海の他の地域では見られなくなった貴重な動植物が生息しています。一方で、周防灘 沿岸の干潟域は、二枚貝や小型底引きの対象となる水産物の漁場として活用されており、 同海域におけるアサリ、ハマグリ、バカガイ等のそれぞれの水産対象種の最盛期の生産量 は瀬戸内海全体の9 割以上を占めていました。しかし、平成になって以降、周防灘では二 枚貝の生産量の減少が著しく、なかでも、アサリは全国の生産量が現在最盛期の約4 分の 1 であるのに対し、同海域では局所的には数千分の 1 と国内の主要なアサリ漁場の中では 減少率が最も高く、これらの貝類の生産量を回復させることが急務となっています。 図 1.周防灘の自然干潟 図 2.自然干潟にのみ残るヨシ原 [研究成果の内容] 本研究では、周防灘をモデルとして、山口県、福岡県、大分県の浅海定線調査デ-タ並 びに干潟の漁業資源の代表種であるアサリの生産量データを解析しました。海洋環境と生 産量の関係については、アサリの生理・生態的特性を加味して、季節毎に分解するととも に、中津干潟でのアサリの成長速度から対比する年度を考慮しました。このようにして処 理した各海洋環境とアサリ生産量の間接的影響を調べるために、仮説検証型パス解析を行 い、アサリ減少原因に関連する環境項目を抽出しました。次いで、かつての主要なアサリ 漁場であった中津干潟に注目し、そこに注ぐ一級河川・山国川の特性や流域の降雨量につ いても検討し、河川の出水の影響を検討しました。 海洋環境の中では、仮説検証型パス解析により、設定した仮説の中では大分・福岡県沿 岸域では餌欠乏の可能性が示唆されましたが、山口県沿岸域では異なる結果となり海域に よって減少原因が異なるのではないかと考えらます。しかし、両方の海域とも、海洋環境 では水温、塩分、DO、栄養塩動態が生産量の減少と関係するのではないか、という結果 が得られましたので、海洋環境の変化が両地域のアサリ減少の一因となっているようです。

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このうち、水温については日本沿岸の水温は約2℃程度上昇しており、これとアサリの生 産量の減少については現在検証中です。一方、塩分は栄養塩類の豊富な陸水の流入が多け れば下がります。また、DO は、海域の栄養塩が豊富ですと発生しやすいのですが、近年、 周防灘では貧酸素水塊の発生は減少しています。アサリの餌は、海水中に漂う植物プラン クトンや干潟や海底表面で増える付着藻類を直接捕食している、ということが報告されて います。これらは、海の栄養塩を利用して増殖しますので、餌欠乏の可能性が考えられる 海域では栄養塩が減少したことが生産量減少の一因ではないかと考えられます。 表.仮説検証型パス解析により得られたアサリ生産量減少と関連する項目 次に、川は海へ陸域から栄養塩を運ぶことが知られていますが、周防灘の代表的なアサ リ漁場であった中津干潟に注ぐ山国川との関係を調べてみました。 図 3.耶馬渓の降水量と山国川の流量 図 4.耶馬渓の多雨期の降水量の変化 山国川は同じく河口にアサリ漁場がある熊本県の白川と比較すると、保水力の弱い安山 岩を主体とする地域を流れ、渇水時と出水時の流量の差が大きないわゆる“暴れ川”であ り、河口干潟に存在するアサリ漁場へのインパクトが大きいことが知られています。近年、 温暖化による影響なのか、国内各地で集中豪雨が多発するなど降水の変化が見られていま す。図3 には山国川の上流域における耶馬渓のアメダスの降水量と河川流量の変化を調べ た結果ですが、降水量と流量の相関は極めて高く、上流域の降水がそのまま山国川の流量 に反映されることがわかります。ついで、図4 には同じアメダスで観測された多雨期の積 算降水量とこの間の1 日当たりの降水量変化を調べた結果を示します。これによると、近 年、多雨期の期間積算降水量は減少しているものの、1 日当たりの降水量は増加している ことが明らかです。このことは、雨が短時間に集中的に降ることを表しており、山国川の 出水の頻度が以前と比較すると増していることを示しています。これにより、中津干潟の アサリが山国川の出水により大量へい死する確率が上がっていると考えられます。 このように、海洋環境や地球規模の環境変動が、干潟の漁業生産に影響を及ぼしている 可能性があります。今後は、これらの環境要因が干潟の主要な漁業資源である二枚貝類の 生産に及ぼす影響を詳細に調べ、対策方法を検討する必要があります。

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講演に対する質疑応答

【敬称略】 「基調講演 『豊かな海』をめざす里海と水産業」に対する質疑応答 特になし 「資料から見る栄養塩類を中心とした瀬戸内海の環境の変遷」に対する質疑応答 特になし 「播磨灘の栄養塩環境の変化と漁業生産-兵庫県の養殖ノリを事例に-」に対する質疑応答 質問(会場):下水処理場の緩和運転の実態については? 原田:緩和運転は養殖ノリ生産期に脱窒抑制と硝化抑制の2 手法で試行されている。脱窒 抑制運転を試行している事業場では、処理水中の窒素(DIN)濃度が 150μM 程度上昇 している。 質問(会場):ダムからの放流がなぜ栄養塩負荷の増加につながるのか? 原田:ダムの水は栄養塩を多く含んでおり、ダムから大量の水を流すことでノリに窒素を 供給するが、一次的なものにとどまる。 質問(会場):ダム放流後に赤潮プランクトンが増加した事例はないか? 原田:栄養塩濃度が著しく低下した時期の放流であったため、播磨灘ではそのような実例 はない。

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「かき養殖海域の物質循環から見える環境配慮型養殖」に対する質疑応答 質問(松田(瀬戸内海研究会議)):収益性について。生産者にはいかだ当たりよりも、単 位年度あたりの概念が必要となる。そうすればノコシの収益性が上がるのでは? 川口:考慮してみる。 質問(会場):既にカキいかだ下に存在している堆積物の処理法、対策は? 川口:広島大・山本教授がいくつかの手法を考案、提案している。 質問(会場):いつごろを目途に提言された養殖法(形態)を実現したいと考えているの か? 川口:速やかに提言したような対応策を導入したとしても、その効果が反映され、理想的 な養殖形態を実現するには時間がかかるだろう。 「瀬戸内海最大の自然干潟域の漁業と海洋環境の変遷」に対する質疑応答 質問(木村(山口県水産研究センター)):山口県海域におけるアサリ資源の減少は、主に 過剰な漁獲圧の結果と推定されているが、我々の推定結果と異なるように思われる。「過 剰な漁獲圧」には食害の効果も含まれているのか? 浜口:食害も漁獲と同様の効果を及ぼすことになる。 質問(会場):三河湾ではアサリ漁獲量が減少していない。三河湾のアサリは異なるのか? また、なぜ三河湾におけるアサリ漁獲量は減少していないのか? 浜口:周防灘よりも圧倒的に餌環境が良い。また、三河湾ではアサリの生活史が湾内で完 結していることや漁場管理を厳密に実施していることも重要な要因であると思われる。 質問(会場):パス解析において、被食―捕食関係は考慮されているのか? 浜口:構造的に含まれている。

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質問(会場):山国川から付加されている栄養塩で1 万トンのアサリを賄えるというのは 言い過ぎでは? 浜口:いくつかの仮定に基づく議論である。 質問(会場):底質の変化は影響を及ぼしていないか? 浜口:中津干潟においては底質の影響はあまりないと思われる。 質問(会場):安定同位体比の分析結果(海域によって主な餌料が植物プランクトンか底 生微細藻か異なる)の解釈について? 浜口:安定同位体比の分析結果の違いから、アサリの主な餌料については、海域や時期等 によって異なることが推察されるとともに、環境条件との関係で変化するとも考えられ る。今回の分析結果から、中津干潟のアサリは海水中の植物プランクトンを主な餌とし ており、栄養塩の低下がその生産性に及ぼす影響が大きいと考えられる。 質問(会場):温暖化に適応したアサリの育種等に関する研究は? 浜口:南方由来のアサリを移植することは問題が大きい。ただし、アサリは適応性が高い 生物なので、漁獲管理等を適切に行えば、資源の維持は可能であると考える。

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パネルディスカッション

【敬称略】 座長は水産総合研究センター瀬戸内海水産研究所の寺脇生産環境部長、パネラーは各講演 者に水産庁瀬戸内海漁業調整事務所の小林指導課長を加え、パネルディスカッションを進行 した。 寺脇((独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所):プログラムとは逆になるが、周 防灘、広島湾、播磨灘の順に、質疑などを行い、理解を深め、最終的に松田先生による基 調講演による内容へとつないでいきたい。まず、周防灘のアサリに関する話題提供につい て、ご質問、ご意見は? 質問(会場):水温環境がアサリの資源低下に最も影響を及ぼしているものと考えてよいか? 浜口((独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所):水温だけでは説明できない。 1~2℃の変化がどのような影響を及ぼすかには結論が出ているわけではなく、現在調査中 である。例えば、アサリは変温動物であるので、水温の上昇は、恒常性の維持のために必 要となるエネルギ-の増加を招き、餌の要求量が増すと考えられる。従って、水温が低い 場合より餌不足が生じやすくなるなど考えられ、いずれにしても餌環境が重要になると思 われる。 寺脇:安心で豊かな海の恵みを、安全できれいな瀬戸内海から享受することが望ましい。そ のためには、ある地域・地先に範囲を限った海域実験を行うことが、有効と考えられる。 そして、現地での実験の結果から得られた海水中の栄養状態にうまく合わせて対策を模索 する「順応的な管理」の取り組みを実現することが、今後ますます重要となると思われる。 しかしながら、この問題は、瀬戸内海の水産関係者が想定しているほど、水産関係者以外 の方々のコンセンサスが得られていない。そこで、きれいな海と豊かな海との接点を探る というコンセプトを考えた。例えば海域を限定し、モニタリングを行いながら、実験的に 栄養塩を増やすような試みができないかどうか探ってみたい。まずは、アサリ関連で実験 的に海域を限定して、資源管理等に取り組んでいる事例はないか?

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浜口:尾道周辺海域での住民一体での取り組みを紹介する。重要なのはタネを外から持ち込 まないことである。 寺脇:広域行政の観点からコメントは? 小林(水産庁瀬戸内海漁業調整事務所):水産庁では、漁業者やNPO 等の環境・生態系保 全活動に対して支援事業を行っている。先ほど浜口主幹研究員から説明のあった尾道での 取り組みについても、この事業を活用していただいている。この事業では藻場の造成や干 潟の耕耘の他、計画策定やモニタリングなど活動を幅広く支援できることになっているの でご活用いただきたい。 寺脇:広島湾でのカキ養殖に関する話題提供について、ご質問、ご意見は? 無い場合には、 演者の川口氏には、今後の改善を目指す上での考え、アイデアはあるか? 川口(広島県立総合技術研究所 水産海洋技術センター):提言を実現に結びつける点が課題 である。合意形成が極めて重要であると考える。 寺脇:広域の栄養塩実態の観点からコメントは? 石川((社)瀬戸内海環境保全協会):広島湾奥部海域については、栄養塩が偏在化している のが問題である。偏在化を解消するような技術があればよいのだが。 寺脇:播磨灘でのノリ養殖に関する話題提供について、ご質問、ご意見は? 浜口:下水処理場の緩和運転を実施する際の手続きはどのようなものか、国との協議等が必 要なのか? 原田(兵庫県立農林水産技術総合センター 水産技術センター):県管轄の施設については、 県の関連部局で検討会を設立し、そこで協議している。明石市管轄の施設については、漁 業者からの要望への対応という形で実施している。いずれについても、県内の部局で対応 可能である。ダム放水は効果が一時的かつ経費が多大にかかることから、下水処理場の緩

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和運転に力を入れているのが実情である。ただし、今後の規模拡大には慎重な対応が必要 である。 質問(会場):栄養塩を人工的に付加することはできないのか? 原田:施肥がある。ただし、経費がかかる。また、局所的な栄養塩の増加には寄与するが、 広域の管理には不向きである。 質問(会場):下水処理場における緩和運転に際し、処理水中の窒素とリンの比についても 考慮しているのか? 原田:緩和運転では窒素を対象にしている。したがって、リンの増量にはつながっていない と考えている。 発言(会場):分野横断的なシンポジウム、フォーラムの開催が必要である。 発言(会場):国交省の関連部局では、下水処理の基準がさらに厳しい。したがって、分野 横断的なシンポジウム、フォーラムの開催を引き続き実施していくことが重要である。 寺脇:ここで改めて基調講演の内容をかみ砕き、松田先生から簡潔にご説明いただきたい。 松田:きれいな海と豊かな海を二つの指標として、瀬戸内海がたどった変遷を考えてみる(講 演要旨集裏面にあるテーマロゴをもとに説明)。きれいで豊かな海を考える際には、生態 系の管理という視点が今後ますます必要となるであろう。 質問(会場):里海の概念においては、底泥の大規模な管理(浚渫・覆砂など)も必要とな るのか? 松田:里海の取り組みは極めて多様である。浚渫・覆砂のように人間の手を大々的に加える ことは、里海の概念からは外れているように思われる。

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質問(会場):都市部に住んでいる人間にとっては海が遠い。このような立場の市民に、里 海の理念を理解していただく方策はないか? 松田:海離れについては、社会構造的な問題が大きい。都市近郊の人工海浜のオープンアク セス化、自然海浜の再生などが一般市民の海離れに歯止めをかけるために実施されている 事例として挙げられる。 石川:具体的なヒントとして、カキいかだを利用した環境学習が都市部近郊での海離れ解消 につながるのではないか。 寺脇:本日の議論をもとに、瀬戸内海における栄養塩不足に係る問題について、水産庁や環 境省のみならず、一般市民の皆様に対しても、水産業の現状から見た問題点を理解してい ただくとともに、問題意識の共有化に向けた今後の働きかけの契機としたい。議論を通し て、瀬戸内海環境保全協会や瀬戸内海研究会議との連携を堅持しつつ、広域行政の面から は瀬戸内漁調が、科学的な検証の観点からは瀬戸内水研がサポートを継続することに加え、 更に広い分野間の連携を模索することの重要性を理解させていただいた。熱心な議論に対 し感謝を申し上げて、パネルディスカッションの時間を終了する。

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第4回 瀬戸内海水産フォーラム

「きれいな海は豊かな海か?」

開催日時:平成 23 年 10 月 15 日(土)13:00~17:00

開催場所:アステールプラザ大会議室(広島市中区加古町 4-17)

平成 24 年 3 月 発行

発行者

独立行政法人水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所

瀬戸内海水産フォーラム成果集編集事務局

広島県廿日市市丸石 2-17-5

独立行政法人水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 業務推進課

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参照

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○安井会長 ありがとうございました。.

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