著者 中嶋 学
雑誌名 同志社政策科学院生論集
巻 8
ページ 1‑13
発行年 2019‑02‑25
権利 同志社大学政策学部・総合政策科学研究科政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000406
概 要
本稿は、大学生の講義における他の学生との ネットワークが、講義内容の理解に影響を与え るのか否かについて検討することを目的とし ている。確率的アクター指向モデル(stochastic
actor-oriented model)
を用いて、学生の「出会い」
と「情報交換」という
2
種類のネットワークと 講義の理解度の関係を分析した結果、(1)講義 の理解度が同程度である学生間でネットワーク が形成されるわけではない、(2)繋がりのある 学生間で講義の理解度が同程度となるわけでは ない、(3)講義の理解度の高い学生は「出会い」
ネットワークを多くの学生と形成しないことが 明らかとなった。これらの結果は、本稿におい て分析した
2
つのネットワークがともに弱い紐 帯のネットワークであることから生じたと解釈 できる。弱い紐帯を通じてはテスト範囲や課題 の有無などの情報は交換されるが、講義内容に 関する情報は交換されないので、講義の理解度 が同程度であることが学生間の弱い紐帯のネッ トワーク形成に影響を与えることはなく、また、弱い紐帯のネットワークが講義の理解度に影響 を与えることもない、さらに、テスト範囲や課 題の有無といった情報を、出会ったことのない 他の学生から得る必要がないので、理解度の高 い学生は「出会い」ネットワークを多くの学生 と形成しないのである。よって、「大学生の講 義における他の学生との弱い紐帯のネットワー クは、講義内容の理解に影響を与えない」が本 稿の結論となる。
1.はじめに
大学生(あるいは大学院生)は、他の学生と の繋がりを形成すること、つまり、ネットワー クを形成することを奨励されており、大学(あ るいは大学院)では、ネットワーク形成のスキ ルの向上(de Janasz and Forret 2008)やネット ワーク形成の機会の提供(Park et al. 2011)を 目的とする講義が行われ、また、学習面でのア ドバイスやサポートを互いに行うグループを 設けること(Brouwer et al. 2018)やグループ・
ワークを中心に据えた講義を行うこと(Kapucu
et al. 2010)でネットワーク形成の手助けが行
われている。日本においても、講義におけるグ ループ・ワークが、サポートの提供や貴重な情 報の交換を可能とするネットワークの形成を手 助けしていることが明らかにされている(中嶋 他 2018)。学生のネットワーク形成が奨励される理由 は、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)
を得ることできるからであり(de Janasz and
Forret 2008; Hansen and Bagde 2013; Park et al.
2011)、さらには、ソーシャル・キャピタルを
得るためには、ネットワークを形成するだけ では不十分であり、賢くネットワークを形成 することが必要になるとの指摘もある(Baker1994)。ソーシャル・キャピタルは複数のタイ
プに分類され、例えば、石田(2004: 11-12)は、ソーシャル・キャピタルを「個体利益の社会関 係資本」と
「集合利益の社会関係資本」
に分け、前者を「特定の個人または特定の組織が他の人
(組織)と取り結ぶ関係(ネットワーク)に注
目し、それらが彼/彼女あるいは当該組織にも たらす利益」、そして、後者を「特定の社会や大学生のネットワークとソーシャル・キャピタル
中 嶋 学
組織・集団に所属するメンバー間の関係(内部 関係)が当該社会や集団およびそこに属する成 員にもたらす利益」と説明している1
。本稿で
は、個体利益の社会関係資本としてのソーシャ ル・キャピタルに注目する。個体利益の社会関 係資本としてのソーシャル・キャピタルの代表 的な論者とされるLin(2001=2008: 38)は、 「目
的的行為によってアクセス・動員される社会構 造に埋め込まれた資源」とソーシャル・キャピ タルを定義しており、また、賢くネットワーク を形成することを奨励するBaker(2000=2001:
3)
は、「個人的なネットワークやビジネスのネッ
トワークから得られる資源」とソーシャル・
キャ ピタルを定義し、資源の具体例として、「情報、アイデア、指示方向、ビジネス
・
チャンス、富、権力や影響力、精神的サポート、さらには善意、
信頼、協力など」を挙げている。つまり、本稿 におけるソーシャル・キャピタルとは「資源+
アクセス」(Foley and Edwards 1999: 167)を意 味している。同様のソーシャル・キャピタルの 捉え方をしている研究では、例えば、転職のた めに有用な情報(Granovetter 1973=2006)や生 活におけるサポート
(Wellman 1979=2006)
が、ネットワークを通じて得られることが明らかに されており、Lin(2001=2008: 25-26)は、ソー シャル・キャピタルの効果として、(1)繋がり を通じて有用な「情報」を入手できること、
(2)
意思決定者などとの繋がりを通じて意思決定に
「影響」を与えることができること、(3)知人
などとの繋がりが「信用証明」となること、(4)
社会集団への繋がりを通じてメンバーとしての アイデンティティ・権利が「補強」されること の
4
点を挙げている。それでは、ネットワーク形成を奨励されてい る大学生は、ネットワークを通じてどのような 資源を得ているのだろうか。本稿の目的は、大 学生の講義における他の学生とのネットワーク が、講義を履修する最大の目的である講義内容 の理解に影響を与えるのか否かについて検討す ることである。以下、本稿は次のように構成さ れている。次章では先行研究の検討を通じて本 稿の問題意識を明確にする。第
3
章ではデータ収集や分析方法などの研究方法について説明 し、続く第
4
章では分析結果を説明する。最後 の第5
章においては、分析結果についての考察 を行い、そして、本稿の結論を提示する。2.問題設定
人 的 資 本 の 形 成 へ の 効 果 は ソ ー シ ャ ル・
キャピタルの「とりわけ重要な効果」であり
(Coleman 1988
=2006: 223)、
学生のネットワー クが学業達成度に影響を与えることが先行研 究により明らかにされてきた(Antrobus et al.1988; Baldwin et al. 1997; Hansen and Bagde 2013;
Lomi et al. 2011)。例えば、米国の大学生を対
象とした研究では、学生の学業達成度が親友の 学業達成度と統計的に有意に相関していること が明らかにされている(Antrobus et al. 1988)。この結果をソーシャル・キャピタルの観点から 解釈すると、学生は親友から授業に関する情報
・
アドバイス・サポートなどの資源を得ることが できるので、学生と親友の間では学業達成度が 同程度となったと考えられる。しかし、その一 方で、同程度の学業達成度の学生間において親 友関係が形成されたという可能性も存在するこ とから、学生のネットワークと学業達成度の関 係についての研究を含むソーシャル・キャピタ ルの研究は、選択(selection)と影響(influence)
の効果を区別できていないという問題を抱えて いると指摘されている(Lomi et al. 2011; Mouw
2006)。選択の効果の代表は、類似した行為者
は良好な社会関係を形成しやすくなる、つま り「類は友をよぶ」という同類性の効果である(McPherson et al. 2001)。
類似した行為者間では、コミュニケーションが容易になり、行動の予見 性が高まり、そして、信頼の形成が促進される ことにより、良好な社会関係が形成されやすく なるのである(Brass et al. 2004)。その一方で、
影響の効果は、社会的影響(social influence)
あるいは社会的伝染(social contagion)として 論じられており、行為者の信念・態度・行動な どが繋がりのある他の行為者と類似するという
1「集合利益の社会関係資本」は、さらに、社会全般に対する利益である「公共財としての社会関係資本」と特定の集団に対する利益であ る「クラブ財としての社会関係資本」に分類することが可能である(稲葉 2011: 5)。
効果である(Monge and Contractor 2003)。繋が りのある行為者間では、情報の交換・共有を 通じた学習の結果として類似した信念・態度・
行 動 な ど が 発 達 す る の で あ る(Marsden and
Friedkin 1993)。本稿の問題関心である学生の
ネットワークと講義の理解度の関係でいうと、ある時点(t2)において、2人の学生間に繋が りがあり、かつ、2人の講義の理解度が同程度 であるという状態に至るには、選択の効果と影 響の効果の
2
つの可能性があるのである。つま り、選択の効果では、t2に先行する時点(t1)において、2人の間に繋がりは存在しないが
2
人の講義の理解度が同程度であり、2人の間で は講義に関するコミュニケーションが容易にな るという同類性の効果により、t2において繋が りが形成される。その一方で、影響の効果では、t1
において、2人の講義の理解度は異なるが2
人の間に繋がりが存在しており、2人は繋がり を通じて講義に関する情報・
アドバイス・
サポー トなどを交換するなかで社会的影響により、t2 において講義の理解度が同程度となる。以上の議論から明らかなように、大学生の講 義における他の学生とのネットワークが、講義 内容の理解に影響を与えるのか否かについて検 討するためには、選択の効果と影響の効果を区 別して把握することが必要となる。また、2つ の効果を区別して把握することは、講義の開設 や履修規則を決める者、あるいは、講義担当者 に対して重要な示唆を与える。例えば、講義に おけるグループ・ワークのグループ内に理解度 の高い学生と低い学生が混在していると、選択 の効果がある場合には、理解度の高い学生同士 あるいは低い学生同士の間で局地的なネット ワークが形成され、協力・調整の問題が生じる ことが予測されるので、講義担当者は、理解度 の高い学生と低い学生の関係構築に配慮するこ とが必要となる。その一方で、影響の効果があ る場合には、理解度の低い学生は高い学生から 情報・アドバイス・サポートなどを得ることに より理解度が向上するというメリットがある が、理解度の高い学生は低い学生に影響されて 理解度が低下することが予測されるので、講義
担当者は、理解度の高い学生へのマイナスの影 響の軽減に配慮することが必要となる。
学生のネットワークと学業達成度の関係を含 むソーシャル・キャピタルの研究の問題であ る選択の効果と影響の効果の区別を可能とす る有力な手法が、確率的アクター指向モデル
(stochastic actor-oriented model: SAOM)
である(Snijders et al. 2010; Steglich et al. 2010)。SAOM
は、行為者のグループのネットワーク・データ を複数の時点で収集したネットワーク・パネ ル・データ(network panel data)を使用して、行為者間のネットワークの変化を分析するため の統計分析手法として開発されたが(Snijders
2001, 2005)、機能が拡張され、ネットワーク・
データに加えて行為者の行動2を複数の時点で 収集したネットワーク−行動・パネル・データ
(network-behavior panel data)
を 使 用 し て、行 為者間のネットワークの変化と彼らの行動の 変化の共進化(coevolution)を分析することが 可能となった(Snijders et al. 2010; Steglich et al.2010)。つまり、行動が類似している行為者間
で繋がりが形成されるという選択の効果と、繋 がりのある行為者間で行動が類似するという影 響の効果を同時にモデル化し、それぞれの効果 を区別して把握することが可能となったのであ る。SAOMを用いたネットワークの変化と行動の 変化の共進化の分析は、国、組織、個人など様々 なレベルで行われており、学生のネットワーク と学業達成度の関係についての分析も行われて いる。例えば、イタリアの学生を対象とした研 究では、学業達成度が同程度の学生間で友人あ るいはアドバイスというネットワークが形成され ること、同時に、友人あるいはアドバイスという 繋がりのある学生間で学業達成度が同程度とな ることが明らかにされている(Lomi et al. 2011)。
それでは、日本の学生のネットワークと学業 達成度の関係はどのようになっているのだろう か。SAOMによる日本の学生のネットワーク 形成の分析は行われているが(Igarashi 2013; 中
嶋他
2018)、管見のかぎり学生のネットワーク
と学業達成度の関係についての分析は行われて
2 行動という用語が用いられているが、行為者の行動だけでなく、信念、態度、パフォーマンスなどの変化を分析することができる(Snijders
et al. 2010; Steglich et al. 2010)。
いない。本稿では次の
2
つのリサーチ・クエス チョンに取り組む。1. 講義の理解度が同程度の学生間で、ネッ トワークは形成されるのだろうか(選 択の効果)。
2. 繋がりのある学生間で、講義の理解度 は同程度となるのだろうか(影響の効 果)。
3.研究方法 3. 1 データ収集
SAOMを用いて上記のリサーチ・クエスチョ ンに取り組むために、関西地方の私立大学の文 系学部の
1
年生63
名から収集したデータを使 用する。これらの学生は2016
年度の秋学期に 開講された講義A
あるいは講義B、もしくは、
2017
年の秋学期に開講された講義C
あるいは 講義D
を履修した学生である3。63
名中の14
名が講義A、14
名が講義B、20
名が講義C、
そして、15名が講義
D
を履修していた。それ ぞれの講義の場を利用し、調査票により3
回の データ収集を行った。1回目のデータ収集は講 義の初回、2回目は学期の中間時点、3回目は 講義の最終日に行った4。前述のように、行為
者間のネットワークの変化と彼らの行動の変化 の共進化をモデル化するためには、行為者間の ネットワーク・データに加えて行為者の行動を 複数の時点で収集したネットワーク−行動・パ ネル・データが必要であり、本稿の場合では、複数の時点での学生間のネットワーク・デー タと彼らの講義の理解度のデータが必要とな
る。講義の理解度のデータは
2
回目と3
回目の 調査でのみ収集したので、本稿において使用す るデータは、2回目と3
回目の調査で収集した データに限られる5。また、2016
年度と2017
年度という異なる年度に講義を履修した学生の データを組み合わせて使用するが6、異なる年
度の学生間のネットワーク形成はデータ収集時 に想定されていないので、SAOMの「structuralzeros」
7を使用し、異なる年度の学生間の繋がりは構造的に存在しないことにしている。
3. 2 分析方法
本稿において学生のネットワークと講義の理 解度の関係を分析するために用いる
SAOM
で は、データの収集が行われた時点(本稿の場合 は2
回目と3
回目のデータ収集の時点であり、以降それぞれを
t1
とt2
と表記する)の間で連 続してネットワークの変化が生じており、行為 者はネットワークを変化させる機会が生じた際 に、1つの紐帯を形成あるいは解消することに よってネットワークを変化させると仮定されて いる。また、行動に関しても同様に、データ収 集が行われた時点の間で連続して行動の変化が 生じており、行為者は行動を変化させる機会が 生じた際に、行動のレベルを1
単位ずつ上昇あ るいは下降させることによって行動を変化させ ると仮定されている8。
ネットワークの変化に関しては、連続してネッ トワークの変化が進行している中で、ネットワー クを変化させる機会がどの程度生じるかは速度 関数(rate function)によってモデル化され、そ して、ネットワークをどのように変化させるか は評価関数(evaluation function)9によってモデ
3 講義A、講義B、講義C、講義Dは同一内容の講義であり、重複して履修した学生はいない。
4 1回目、2回目、3回目の調査票の回収率は、講義Aでは、それぞれ100%、92.9%、92.9%、講義Bでは、すべての回で100%、講義Cでは、
それぞれ100%、100%、90.0%、講義Dでは、すべての回で100%であった。本稿の分析に用いるSAOMでは、10%程度までの欠損値
は許容される(Ripley et al. 2017b)。
5 ただし、1回目の調査で収集した性別のデータを使用している。
6 小規模なデータを組み合わせることにより、SAOMによるパラメータの推定値の算出のために十分な情報を得ることが可能となる。た
だし、データを組み合わせる際に、データ間でネットワークの変化および行動の変化が同様のメカニズムで生じることが仮定できなけ ればならない(Snijders et al. 2010; Steglich et al. 2010)。本研究で組み合わせるデータは、いずれも同じ大学の、同じ学部の、同じ学年の、
同一の講義を履修している学生から収集しており、上記の仮定を満たしていると考えられる。
7 後述するように、本稿におけるネットワーク・データは63行63列の行列であり、行列の各要素(i、j)は、2者間に関係が存在する場合は「1」、
存在しない場合は「0」の値をとる。「structural zeros」では、構造的に関係が存在しない行列の要素(i、j)に「10」の値を用いることで、
「1」や「0」との区別を行う(Ripley et al. 2017b)。
8 行動の変数には、2から5つ程度のカテゴリーをもつ順序尺度の変数が使用される(Snijders et al. 2010; Steglich et al. 2010)。
9 評価関数は、以前は目的関数(objective function)という名称であった(Ripley et al. 2017b)。
ル化される。評価関数では、ネットワーク構造、
行為者の属性、2者間関係の属性という
3
つの タイプの変数を用いることができる。ネット ワーク構造とは、互酬性(reciprocity)10や推移 性(transivity)11などのネットワークの構造自 体がネットワークの変化に与える効果を捉える 変数である。行為者の属性には、送り手の効果(sender effect)、受け手の効果(receiver effect)、
類似性の効果(similarity effect)12を用いること ができ、講義の理解度を例にとると、講義の理 解度の高い学生が積極的にネットワークを形成 する(送り手の効果)、講義の理解度の高い学 生がネットワークの相手として選ばれる(受け 手の効果)、講義の理解度が同程度の学生間で ネットワークが形成される(類似性の効果)と いうように、行為者の属性がネットワークの変 化に与える効果を捉えることができる13
。2
者 間関係の属性は、例えば、学生i
と学生j
が同 一の講義を履修している場合に講義の情報を交 換するといった、2者間の関係がネットワーク の変化に与える効果を捉えるために用いられ る。行動の変化に関してもネットワークの変化と 同様に、行動を変化させる機会がどの程度生じ るかは速度関数によってモデル化され、行動を どのように変化させるかは評価関数によってモ デル化される。行動の評価関数では、行動の 線形効果(linear shape effect)および
2
次効果(quadratic shape effect)、他の行為者の影響、行
為者のネットワークにおける位置、行為者の属 性の4
つタイプの変数を用いることができる。行動の線形効果および
2
次効果は基本的な制御 変数であり、行動の変化の方向性を捉える変数 である。他の行為者の影響は、本稿の場合であ れば、学生のネットワークの講義の理解度への 影響という社会的影響を捉えるための変数である。行為者のネットワークにおける位置は、例 えば、繋がりの多い学生ほど講義の理解度が高 くなるという効果を捉えるための変数である。
最後の行為者の属性では、例えば、講義へ出席 している学生ほど講義の理解度が高くなるとい う効果を捉えることができる。
SAOMでは、このように速度関数と評価関 数によってモデル化が行われ、モデルに基づい てシュミレーションが繰り返し行われることに よって、観察されたネットワークおよび行動の 変化を再現するパラメータの推定値が算出され る。算出されたパラメータの推定値が、観察さ れたネットワークおよび行動を再現しているか を判断するための
「convergence t-ratio」
と「overall maximum convergence ration」が算出され、これ
らの数値に基づいて観察されたネットワークお よび行動が再現されていると判断できる場合 は、そのモデルは収斂(converge)したとみな される。また、パラメータの推定値が、統計的 に有意であるかを判断するための標準誤差も算 出される。本稿では、63名の学生間のネットワークの変 化および行動の変化を
SAOM
を用いて分析する ために、RのRSiena(Simulation Investigation for Empirical Network Analysis)パッケージ(Ripley et al. 2017a)を使用した
14。
3. 3 使用する変数 3. 3. 1 ネットワークの変化
3. 3. 1. 1 ネットワークの変化の説明対象となる 変数
本稿においてネットワークの変化の説明対象 となる変数は、63名の学生間の「出会い」と
10 互酬性とは、例えば、学生iが学生jに講義の情報を提供した場合に、お返しに学生jが学生iに講義の情報を提供するという関係である。
11推移性とは、例えば、学生iと学生jが講義の情報を交換し、かつ、学生jと学生kが講義の情報を交換している場合に、学生iと学生 kとの間でも講義の情報の交換が行われる、「友達の友達は友達である」という関係である。
12 属性の変数が名義尺度の場合には、類似性の効果の代わりに、同一の効果(same effect)が用いられる。
13 ただし、後述するように、本稿では行為者iと行為者jとの間の紐帯を方向性がないものとして捉えているので、送り手の効果と受け手
の効果の間の区別がなくなる。よって、本稿の分析で行為者の属性として用いることができるのは、本文の例でいうと、講義の理解度 の高い学生の紐帯が多くなるという属性自体の効果と、講義の理解度が同程度の学生間でネットワークが形成されるという類似性の効 果の2つとなる。
14 Rsienaは、http://r-forge.r-project.org/R/?group_id=461からダウンロードすることができる。RSienaの使用方法については、Ripley et al.(2017b)、鈴木(2017)を参照。
「情報交換」ネットワークである。ロースター
方式15を用いて、学生間の「出会い」と「情 報交換」という2
種類のネットワーク・データ を収集した。「出会い」
ネットワークについては、「あなたは、表に記載されている方々と、今日
以前に会ったことがありますか?それぞれの方 について、1=はい、2=いいえ、を記入して ください。ただし、『会った』
は自己紹介をした、会話をしたなどの最低限のコンタクトがあった 場合であり、教室などで見かけたなどのコンタ クトがない場合を含みません」という質問をし、
それぞれの学生は表に記載された自分を除く他 の学生16について、会ったことがあれば「1」、
なければ「2」を選択した。
情報交換については、「あなたは、表に記載 されている方々と、情報交換(例えば、授業の 情報、遊び・趣味の情報、アルバイトの情報、
クラブ・サークルの情報などのあなたにとって 有益な情報)をしますか?それぞれの方につい て、1=しない、2=月に
1
回未満、3=月に1
回程度、4=月に2、3
回程度、5=週に1
回程 度、6=週に2、3
回程度、7=週4
回以上、を 記入してください」という質問をし、それぞれ の学生は表に記載された自分を除く他の学生と の情報交換の頻度について選択した。そして、「2
=月に1
回未満」をカットオフ値とし、つ まり、月に1
回未満の情報交換を行っている場 合17は情報交換が行われているとみなし、「情 報交換」ネットワークを作成した18。
また、例えば、学生
i
が学生j
と情報交換し ていると回答していても、学生j
が学生i
と情 報交換していると回答しているとは限らない。そこで、本稿では、学生
i
が学生j
と情報交換 していると回答し、同時に、学生j
が学生i
と情報交換していると回答した場合に、学生
i
と 学生j
との間で情報交換が行われているとみな している。「出会い」ネットワークも同様に、学生
i
が学生j
と会ったことがあると回答し、同時に、学生
j
が学生i
と会ったことがあると 回答した場合に、学生i
と学生j
が会ったこと があるとみなしている。この結果、「出会い」ネットワークと「情報交換」ネットワークとい う学生
i
と学生j
との間の紐帯に方向性がない2
つの変数が作成された19。2
つのネットワー クともに、63行63
列の対称行列であり、行列 の各要素(i、j)は、「出会い」ネットワーク では会ったことがある場合は「1」、会ったこと がない場合は「0」の2
値をとり、「情報交換」ネットワークでは情報交換している場合は
「1」、
情報交換していない場合は「0」の
2
値をとる。また、2つのネットワークそれぞれについて、
t1
とt2
の2
時点でのデータが存在する。弱い紐帯と強い紐帯はネットワークの重要な 区分であり(Granovetter 1973=2006; Krackhardt
1992)、紐帯の強さは、「ともに過ごす時間量、
情緒的な強度、親密さ(秘密を打ち明け合うこ と)、助け合いの程度、という
4
次元を(おそ らく線形的に)組み合わせたもの」(Granovetter1973=2006: 125)として測定されるが、本稿に
おける「出会い」と「情報交換」ネットワーク は、どちらも弱い紐帯のネットワークだと考え られる。「出会い」ネットワークの紐帯は自己 紹介や会話などの最低限のコンタクトを意味し ており、情緒・親密さ・助け合いという点で弱 い紐帯であり、また、「情報交換」ネットワー クの紐帯は月に1
回未満の情報交換を意味して おり、時間的側面において弱い紐帯である。15 ロースター方式とは、例えば「これまでに誰と出会いましたか」という質問と名前のリストが提供されて、調査対象者がこれまでに出会っ
た人を選択するという方式である。
16 ただし、当然ながら、2016年の秋学期に講義を履修した学生の表には2017年の秋学期に講義を履修した学生の名前は記載されておらず、
同様に、2017年の秋学期に講義を履修した学生の表には2016年の秋学期に講義を履修した学生の名前は記載されていない。情報交換 についての質問も同様である。
17 情報交換のネットワークに関する質問に対し「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」を選択した場合である。
18 SAOMによるパラメータの推定値の算出のために十分な情報を得るためには、t1とt2の間の紐帯の変化数が40以上あるのが望ましい
とされる(Snijders et al. 2010)。「2」をカットオフとした場合の紐帯の変化数は43であり、「3」の場合は34であったので、「2」をカッ トオフとしている。
19 SAOMを用いて紐帯に方向性のないネットワークの分析を行う場合は、2者間でネットワークが形成されるメカニズムについてのモデ
ルを選択する必要がある。本稿では、最も一般的とされる「タイプ3」を使用している。「タイプ3」では、行為者iが行為者jとの紐 帯の形成あるいは解消について主導し、行為者jが同意した場合に、行為者iと行為者jとの間で紐帯が形成あるい解消されると仮定さ れている(Ripley et al. 2017b)。この仮定は、本稿の分析対象である「出会い」および「情報交換」ネットワークについて、適切である と考えられる。どちらのネットワークにおいても、学生iが学生jにアプローチし、学生jがそのアプローチを受入れた場合に、自己紹 介などのコンタクトや情報交換が生じるのではないだろうか。
3. 3. 1. 2 ネットワークの変化を説明する変数 前述のように、SAOMでは、行為者のネッ トワークの変化を捉えるために、ネットワー ク構造、行為者の属性、2者間関係の属性と いう
3
つのタイプの変数を用いることができ る。本研究では、ネットワーク構造として2
つ の変数(「密度(density)」、「推移性(transitivetriads)」)
20、
行為者の属性として3
つの変数(「講
義の理解度」、「出席」、「性別」)、2者間関係の 属性として2
つの変数(「同一の講義」、「グルー
プ・ワーク」)の合計7
つの変数を用いる。選択の効果であるリサーチ・クエスチョン
1(「講義の理解度が同程度の学生間で、ネット
ワークは形成されるのだろうか」)に関連して いるのが「理解度」変数である。2回目と3
回 目のデータ収集の際に、「この授業の内容が理 解できていますか」と尋ね、1(全くそう思わない)、
2(そう思わない)、 3(どちらでもない)、
4(そう思う)、5(強くそう思う)の 5
段階で講義の理解度について尋ねている。「理解度」
変数の記述統計については次章で説明する。
その他の変数をみていくと、「出席」変数は、
3
回目のデータ収集の際に、1(11
回以上欠席)、2(9
−10
回 欠 席)、3(7
−8
回 欠 席)、4(5
−
6
回欠席)、5(3−4
回欠席)、6(1−2
回 欠席)、7(欠席なし)の7
段階で出席の程度に ついて尋ねている。平均値が5.656(標準偏差
=
1.401)であり、学生は平均すると 2
−3
回ほど講義を欠席していることになる。「性別」
変数は、男子学生は「0」、女子学生は「1」の 値をとり、63名中の
31
名が男子学生で32
名 が女子学生である。「同一の講義」変数は63
行63
列の対称行列であり、行列の各要素(i、j)
は、講義
A、講義 B、講義 C、講義 D
という4
つの講義があるなかで、学生が同一の講義を履 修している場合は「1」、履修していない場合は「0」の 2
値をとる。平均すると学生は15.143
名の学生と同一の講義を履修している。「グルー
プ・ワーク」変数も63
行63
列の対称行列であ る。いずれの講義においても学生は2
人1
組あ るいは3
人1
組で文献報告を行っており、学生が文献報告を一緒に行なっている場合は、この 変数の要素(i、j)は「1」となり、一緒に行っ ていない場合は「0」となる。平均すると学生
は
1.143
名の学生と文献報告を一緒に行っている、つまり、大部分の学生が
2
人1
組で文献報 告を行っている。ネットワーク構造として用い る「密度」変数は、ネットワーク形成に対する 行為者の一般的な性向を捉える変数であり、常 にモデルに含めるべき変数である(Snijders etal. 2010)。「推移性」変数は、「友達の友達は友
達である」というネットワークの一般的な構造 的特徴を捉える変数であり、モデルに通常含め られる変数である(Snijders et al. 2010)。3. 3. 2 行動の変化
3. 3. 2. 1 行動の変化の説明対象となる変数
本稿において行動の変化の説明対象となるの は、前述の
「理解度」
変数である。このように、「理
解度」変数がネットワークの変化を説明する変 数として用いられるのと同時に、行動の変化の 説明対象となる変数として用いられることによ り、SAOMでは選択の効果と影響の効果を同 時にかつ区別して捉えることが可能となる。3. 3. 2. 2 行動の変化を説明する変数
影響の効果であるリサーチ・クエスチョン
2
(「繋がりのある学生間で、講義の理解度は同程
度となるのだろうか」)に関連しているのが「他
者の平均値の効果(average alter effect)」変数 である。この変数は繋がりのある学生の講義の 理解度への社会的影響を捉えており、プラス方 向に統計的に有意な場合は、繋がりのある他の 学生の講義の理解度の平均値が高いほど(低い ほど)当該学生の理解度が高く(低く)なり、マイナス方向に統計的に有意な場合は、繋がり のある他の学生の講義の理解度の平均値が高い ほど(低いほど)当該学生の理解度が低く(高 く)なることを意味する。
その他には、制御変数として、行為者の属性
20 他にもネットワーク構造として「行為者の次数(degree of alter)」や「行為者の次数(2次効果)(squared degree of alter) 」を使用しモデ
ル化を行ったが、「convergence t-ratio」および「overall maximum convergence ration」が悪化したので、最終的なモデルには含めていない。
中 嶋 学
8
である「出席」と「性別」、行為者のネットワー クにおける位置である「次数の効果(degree
effect)」、そして、「行動の線形効果」と「行動
の2
次効果」を用いている。「出席」変数と「性
別」変数は前述のとおりである。「次数の効果」変数は、繋がり多い学生ほど講義の理解度が高 くなるという効果を捉える変数である。そして、
「行動の線形効果」
変数および「行動の 2
次効果」変数は、講義の理解度の変化の方向性を捉える 変数である。
4.分析結果
4. 1 ソシオグラムおよび記述統計による 分析
SAOMによる分析結果を説明する前に、63 名の学生間の「出会い」と「情報交換」ネット ワークおよび講義の理解度を、視覚的にネット ワークを表現するソシオグラム(sociogram)21 と記述統計により説明しておきたい。図
1
−1
および図1
−2
は、それぞれt1
とt2
の「出会い」
21 ソシオグラムの作成は、NetDraw(Borgatti 2002)を用いて行った。
15
についての表は、WからWの間で、名の学生の講義の理解度が高まった一方で名の学 生の理解度が低くなったこと、平均すると講義の理解度がからへと若干高まって いることを示している。
図-「出会い」ネットワーク(W)
○ 講義$
□ 講義%
△ 講義&
▽ 講義'
黒 男子学生 グレー 女子学生
図 1 - 1 「出会い」ネットワーク(t1)
16
図-「出会い」ネットワーク(W)
表 つのネットワークの記述統計
密度 紐帯の変化
ジャッカード係数 W W → → → →
出会い 0.090 0.104 1729 48 20 156 0.696
情報交換 0.042 0.041 1850 20 23 60 0.583
表講義の理解度の記述統計
平均 標準偏差
理解度の変化
上昇 下降
W 3.435 0.802 22 6
W 3.729 0.715
.6$20による分析
○ 講義$
□ 講義%
△ 講義&
▽ 講義'
黒 男子学生 グレー 女子学生
図 1 - 2 「出会い」ネットワーク(t2)
ネットワークのソシオグラムである22
。各図に
おけるノード(node)は学生を表わしている。ノードの形は学生が履修している講義を表わし ており、丸は講義
A、四角は講義 B、上方三角
形は講義C、
下方三角形は講義D
である。ノー ドの色は学生の性別を表わしており、黒が男子 学生で、グレーが女子学生である。ノードの大 きさは、講義の理解度を反映しており、ノード のサイズが大きいほど講義の理解度が高いこと を意味する。また、ノード間の紐帯は、紐帯で 結ばれた学生が会ったことがあることを意味し ている。2つのネットワークの記述統計は表1、
そして、講義の理解度の記述統計は表
2
に示さ れている。ソシオグラムおよび表
1
から、2つのネット ワークともにt1
からt2
の間に紐帯数は急激に 変化していないことが分かる。表1
における2
つのネットワークのジャッカード係数(Jaccardcoefficiet)
は、それぞれ0.696
と0.583
とネッ トワークが安定していることを示している23。
また、表1
は、「出会い」ネットワークにおい てt1
からt2
の間で、48の紐帯が形成され(「0→ 1」として表示されている)、20の紐帯が解 消されたこと
(「1 → 0」
として表示されている)、「情報交換」ネットワークにおいて t1
からt2
の間で、20の紐帯が形成され、23の紐帯が解 消されたことを示している。ソシオグラムから は、「structural zeros」を用いているので学生間 のネットワークは年度間で分裂しているが、そ れぞれの年度内で同一の講義を履修している学 生間および同性の学生間でネットワークが形成 されていることが窺える。しかし、ネットワー クと講義の理解度の関連をソシオグラムから読 み取ることはできない。講義の理解度について の表
2
は、t1からt2
の間で、22名の学生の講 義の理解度が高まった一方で6
名の学生の理解 度が低くなっていること、平均すると講義の理解度が
3.435
から3.729
へと若干高まっていることを示している。
4. 2 SAOM による分析
ソシオグラムからは、ネットワークと講義の 理解度の関連を読み取ることはできなかった が、次に、SAOMによる分析結果をみていき
たい(表
3)。「出会い」と「情報交換」のネッ
トワークのモデルともに収斂しており24
、観察
されたネットワークの変化および理解度の変化 を正確に捉えることができている。まず、表
3
の上の部分のネットワークの変化22 紙面の都合上、「情報交換」ネットワークのソシオグラムは割愛している。
23 ジャッカード係数は、本稿の場合では、表1の「1 → 1」の数/(「1 → 1」の数+「0 → 1」の数+「1 → 0」の数)によって算出される。
SAOMでは急激なネットワークの変化のモデル化が困難なので、SAOMによる分析を行うにはジャッカード係数が0.3以上であること が望ましい(Snijders et al. 2010)。
24「convergence t-ratio」は個別の変数の再現性についての指標であり、すべての変数について絶対値が0.1以下の場合にうまく収斂してい るとみなされる(Ripley et al. 2017b)。2つのネットワークともに、すべての変数について絶対値が0.1以下であった。一方、「overall
maximum convergence ratio」はネットワーク全体の再現性についての指標であり、0.25以下の場合にうまく収斂しているとみなされる
(Ripley et al. 2017b)。「出会い」と「情報交換」ネットワークで、それぞれ0.1819と0.1834であった。
密度 紐帯の変化
ジャッカード係数
t1 t2 0 → 0 0 → 1 1 → 0 1 → 1
出会い
0.090 0.104 1729 48 20 156 0.696
情報交換
0.042 0.041 1850 20 23 60 0.583
表 1 2 つのネットワークの記述統計
表 2 講義の理解度の記述統計 平均 標準偏差
理解度の変化
上昇 下降
t1 3.435 0.802
22 6
t2 3.729 0.715
についてみていくと、速度関数は、「情報交換」
よりも「出会い」ネットワークにおいて紐帯を 変化させる機会が若干多く生じていることを示 唆している。また、評価関数からは、「情報交 換」よりも「出会い」ネットワークにおいて紐 帯の変化に様々な要因が影響を与えていること が分かる。評価関数の各変数についてみていく と、「講義の理解度が同程度の学生間で、ネッ トワークは形成されるのだろうか」というリ
サーチ・クエスチョン
1
に関して、2つのネッ トワークともに「理解度(類似性の効果)」が 統計的に有意でないことは、講義の理解度が同 程度であるか否かはネットワーク形成に影響を 与えないことを示している。ただし、ネットワー クと講義の理解度が無関係なわけではなく、「出
会い」ネットワークについて、「理解度(属性 自体の効果)」がマイナス方向に5%水準で統
計的に有意となっていることは、講義の理解度 の高い学生は、低い学生に比べて、自己紹介や 会話などのコンタクトを多くの学生ととらない ことを示している。ただし、「情報交換」ネッ トワークについては、「理解度(属性自体の効 果)」は統計的に有意となっていない。他にも、「同一の講義」と「出席 (属性自体の効果)」
が、「出会い」ネットワークについてプラス方向に 1%水準で統計的に有意となっているが、「情
報交換」ネットワークについては統計的に有 意となっておらず、「同じ時間に同じ場所にい る」(Kadushin 2012=2015: 15)
という近接性が、特に「出会い」ネットワークの変化に影響して いることが示唆されている(中嶋他 2018)。そ の一方で、「性別(同一の効果)」、「密度」、「推 移性」の
3
つの変数は、両方のネットワークお いて統計的に有意となっている。「性別(同一 の効果)」がプラス方向に1%水準で統計的に
有意であることは、多くの研究において指摘さ れているように(McPherson et al. 2001)、性別 という側面における同類性がネットワーク形成 を促進していることを意味している。「密度」がマイナス方向に
1%水準で統計的に有意であ
ることは、同性であるなどの何らかの条件がな い限り、学生間でネットワークが形成されな いことを示唆している。また、「推移性」がプ ラス方向に1%水準で統計的に有意であること
は、学生間で閉じたネットワークが形成される 傾向があることを示している。次に、表
3
の下の部分の講義の理解度の変化 についてみていくと、速度関数は、2つのネッ トワークにおいて理解度を変化させる機会が同 程度に生じていることを示唆している。評価関 数からは、2つのネットワークにおいて「理解 度」が同様の変数から影響を受けていることが 分かる。「繋がりのある学生間で、講義の理解 度は同程度となるのだろうか」というリサーチ・
クエスチョン2
に関して、2つのネットワーク ネットワークの変化出会い 情報交換
速度関数
2.007
(0.274)
1.622
(0.309)
密度
-1.158***
(0.221)
-1.797***
(0.311)
推移性
0.334***
(0.082)
0.650***
(0.185)
同一の講義
0.620***
(0.232)
0.266
(0.263)
グループ・ワーク
-0.847
(0.518)
-0.734
(0.628)
(属性自体の効果)出席
0.501***
(0.166)
0.055
(0.166)
(類似性の効果)出席
-0.609
(0.943)
1.148
(0.797)
(属性自体の効果)性別
-0.091
(0.323)
-0.382
(0.321)
(同一の効果)性別
0.814***
(0.225)
0.867***
(0.320)
(属性自体の効果)理解度
-0.744**
(0.320)
0.150
(0.377)
(類似性の効果)理解度
0.465
(0.962)
0.680
(1.352)
行動の変化
速度関数
1.672
(0.400)
1.693
(0.403)
行動の線形効果
-0.002
(0.606)
0.258
(0.569)
行動の
2
次効果-1.134**
(0.506)
-1.121**
(0.540)
他者の平均値の効果
-0.036
(1.055)
-0.471
(1.041)
次数の効果
0.122
(0.107)
0.209
(0.213)
出席
0.566*
(0.334)
0.533*
(0.318)
性別
-0.244
(0.682)
0.074
(0.649)
注: *=p< .10,**=p< .05,***=p< .001;括弧内の数字は標準 誤差
表 3 ネットワークと行動の変化に影響を与える要因
ともに「他者の平均値の効果」が統計的に有意 でないことは、講義の理解度がネットワークか ら影響を受けていないことを示している。さら に、2つのネットワークともに「次数の効果」
が統計的に有意でないこともまた、講義の理解 度がネットワークから影響を受けていないこと を示している。その一方で、「出席」と「行動 の
2
次効果」の2
つの変数が両方のネットワー クにおいて統計的に有意となっている。「出席」がプラス方向に
10%水準で統計的に有意であ
ることは、講義に出席している学生ほど講義の 理解度が高いことを意味しており、「行動の2
次効果」がマイナス方向に5%水準で統計的に
有意であることは、「理解度」の値が高くなる と値の上昇がおさえられるネガティブ・フィー ドバックがあることを意味している。5.考察および結論
本稿は、選択の効果と影響の効果を区別する ために
SAOM
を用いて、大学生のネットワー クと講義の理解度の関係を検討してきた。「出 会い」と「情報交換」
という2
種類のネットワー クと講義の理解度についてのSAOM
による分 析は、学生のネットワークと講義の理解度の関 係について次の3
つのことを示している。第1
に、講義の理解度が同程度である学生間でネッ トワークが形成されるわけではない。第2
に、繋がりのある学生間で講義の理解度が同程度と なるわけではない。しかしながら、ネットワー クと講義の理解度が無関係なわけではなく、第
3
点目として、講義の理解度の高い学生は、低 い学生に比べて、「出会い」ネットワークを多 くの学生と形成しない。それでは、これらの
3
つの学生のネットワー クと講義の理解度の関係は、どのようなメカニ ズムにより生じているのだろうか。本稿でデー タ収集を行った講義A、B、C、D
と同一内容 の講義を2018
年の秋学期に履修した5
名の学 生の自由記述式の調査票への回答を参考にして検討しておきたい。その調査では、「弱い繋が りの人(たち)と、授業についてのどのよう な情報を交換するかを、可能な限り具体的に、
200
字程度で枠内に記入にしてください」25と「強い繋がりの人(たち)と、授業についての
どのような情報を交換するかを、可能な限り具 体的に、200字程度で枠内に記入にしてくださ い」26と尋ねている。回答をまとめると、弱い 紐帯の学生との間では、テスト範囲や課題の有 無といった「大まかな」情報の交換が行われて いる。その理由は、「弱いつながりの人とは深 い話をしないから」である。その一方で、強い 紐帯の学生との間では、同じくテストや課題に ついてであっても、内容に関する「細かな」情 報を互いに提供し合い、分からない事項があっ た場合は助けを求め、また、「この授業はしん どい」など講義についての愚痴をこぼすという ことが行われている。その理由は、「強いつな がりの相手だとある程度相手のことを深く知っ ているので、何でも聞くことができたり、自分 のプライベートなことなど(授業に対する自分 の考え)も情報交換できるからである」。前述 のように、本稿における「出会い」
と「情報交換」
ネットワークは、どちらも弱い紐帯のネット ワークであり、弱い紐帯を通じて講義内容に関 する情報は交換されない傾向があるので、講義 の理解度が同程度であることが学生間の弱い紐 帯のネットワーク形成に影響を与えることはな く、また、弱い紐帯のネットワークが講義の理 解度に影響を与えることもない、さらに、テス ト範囲や課題の有無といった情報を、出会った ことのない他の学生から得る必要がないので、
理解度の高い学生は「出会い」ネットワークを 多くの学生と形成しないというメカニズムで、
上記の
3
つの学生のネットワークと講義の理解 度の関係が生じたと解釈することができる27。
以上の考察を踏まえて、「大学生の講義にお ける他の学生とのネットワークが、講義を履修 する最大の目的である講義内容の理解に影響を 与えるのか否かについて検討する」という本稿 の目的に対して、「大学生の講義における他の25 調査票において、弱い繋がりは、「情報交換を月に1回未満の頻度で行う」と説明されている。
26 調査票において、強い繋がりは、「情報交換を週に2、3回程度以上の頻度で行う」と説明されている。
27講義A、B、C、Dを履修した学生から収集したデータではなく、あくまで同一内容の講義を履修した他の学生から収集したデータを参
考にした解釈であることを強調しておきたい。
学生との弱い紐帯のネットワークは、講義内容 の理解に影響を与えない」という結論、およ び、「大学生の講義における他の学生とのネッ トワークが、講義内容の理解に影響を与えると すれば、テストや課題の内容に関する詳細な情 報の交換や助け合いが行われる強い紐帯のネッ トワークを通じてである」という仮説を提示す ることができる。
したがって、本稿ではデータの性質上分析で きなかった学生の強い紐帯のネットワークと講 義の理解度の関係を分析し、上記の仮説を検証 することが今後の課題となる。他には、本稿に おける講義の理解度は学生の主観的な評価によ るものなので、客観的なデータを使用して講義 の理解度を測定することも今後の課題である。
例えば、通年の講義を履修している学生を対象 としてデータ収集することにより、春学期の成 績と秋学期の成績のデータを得ることができ、
さらには、ネットワークの変化についても情報 量の豊富なデータを得ることができるであろ う。また、本稿では関西地方の私立大学の文系 学部の
1
年生から収集したデータを使用してお り、本研究の結果の普遍化には限界があるので、他の事例からデータ収集を行うことも今後の課 題である。
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