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IMF理事会による決議「第8条,第14条について」

著者 柴田 茂紀

雑誌名 同志社商学

巻 58

号 4‑5

ページ 79‑86

発行年 2007‑02‑10

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007360

(2)

《紹 介》

IMF 理事会による決議「第 8 条,第 14 条について」

柴 田 茂 紀

は じ め に

実際の通商政策を分析する際には,国内外の政治経済的な背景と同時に,関係国・組織の内部 で展開される政策決定過程を意識する必要がある。本稿で紹介する資料は,IMF(International Monetary Fund,国際通貨基金)が作成したガイドラインのひとつであり,貿易自由化の際,必 要となる手続きがまとめられている。この文書は,日本政府が貿易自由化をすすめる過程でも参 考にされており,自由化に関する協議の相手であったIMFの背景を理解する上でも有用であ

1

る。

IMFは,(1)通貨に関する国際協力の促進,(2)貿易の拡大,(3)為替の安定 (4)多角的 支払制度の樹立の支援,為替制限の除去,(5)国際収支不均衡是正,を目的とする国際機関であ る。そのため通貨や為替の安定とともに,貿易の拡大につながる自由化(為替制限の除去)を重 視している。だからこそIMF協定では,世界貿易の安定を実現するため,経常取引に対する為 替制限が禁じられているのである(第8

2

条)。しかし,第二次世界大戦を経た混乱のなかで,す べての加盟国が自由化を進めるのは難しく,一時的な例外措置として,暫定的に為替制限等の措 置を続けること(過渡期規定)が認められた(第14

3

条)。その過渡期規定を援用し,為替制限を 実施している国は「14条国」と呼ばれ,IMF第8条の義務を受諾・履行している「8条国」と 区別される。

本稿で紹介する資料は,IMFが経常取引の自由化過程において,その根拠となる第8条と第14

────────────

1 この文書は,外務省経済局国際機関課(1961)などで概要が紹介され,また,通商産業省通商局国際経 済課(1962)に全訳がある。しかし,両者とも入手手段が限られており,また,後者については,第8 条でも重要な概念である経常的国際取引(current international transactions)を「当面の国際取引」とす るなどの誤りが散見されるため,本稿にて抄訳しながら内容を整理する。

2 加盟国の一般的義務を規定するIMF協定第8条は,6つの項目から成り立っている。つまり,第1項

(序言),第2項(経常的支払いに対する制限の回避),第3項(差別的通貨措置の回避),第4項(外国 保有残高の交換可能性),第5項(情報の提供),第6項(現行の国際協定に関する加盟国間の協議)で ある。これらのうち,第2項,第3項,第4項に関する義務が,IMF 8条国には求められている。ただ し,例外として第7条第3項(b)による不足(稀少)通貨宣言を行った場合と,第14条第2項による 過渡期規定においては,加盟国の為替制限を認めている。不足(稀少)通貨宣言とは,ある加盟国の通 貨(ドルなど)に対する他の加盟国の需要が極めて大きく,IMFがその通貨を需要国の求めに対して 供給することが困難になった場合に行う宣言であり,第14条とは注3の通りである。

3 過渡期について規定するIMF協定第14条は,5つの項目から成り立っている。第1項(序言),第2 項(為替制限),第3項(基金に対する通告),第4項(制限に関する基金の措置),第5項(過渡期の 性質)である。第2項では,「戦後の過渡期には,加盟国は,この協定の他の条の規定にかかわらず,

経常的国際取引のための支払い及び資金移動に対する制限を存続し,および変化する状況に適応させる ことができる」とした上で,「加盟国は,その外国為替政策について基金の目的を常に尊重しなければ ならない。また,事情の許す限りすみやかに,国際支払い及び為替の安定を容易にするような通商上及 び金融上の取極を他の加盟国と締結するため,すべての可能な措置をとらなければならない」とされて いる。

197)79

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条の扱いをめぐる政策文書のひとつである。IMFがいわば二十年史として公刊した3冊のう ち,資料編にも所収されてい

4

る。

資料とその整理

1950年代末から60年にかけて,各国の国際収支状況が改善するに伴い,多くの加盟国は,14 条国から8条国へと移行する段階になりつつあった。そこでIMF理事会は,加盟国が8条国に 移行する場合の指針として,ひとつの決議を採択した。それが本稿で紹介する「第8条および第 14条について(Article VIII and Article XIV)」(Decision No. 1034(60/27),June 1, 1960)であ る。本節では,その本文を抄訳しながら,この文書の背景を整理していく。

「第8条,第14条について」(1960年6月1日)

近年,多くの加盟国で,国際収支および外貨保有残高の実質的な改善がみられた。それ は,通貨の対外交換性が幅広い範囲で回復されるという重要な変化につながった。ほとんど の国際取引は,いまや交換性を回復した通貨で行われており,いくつもの国が支払制限の撤 廃に向かって大きく前進している。その結果,多くの加盟国がIMF第8条第2項,第3項 および第4項の義務を正式に受諾する可能性を検討できる位置に到達したか,あるいは近づ きつつあるように思われる。これまでIMFが決定してきた諸決定──たとえば複数通貨措

5

置,双務協

6

定,国際収支の均衡を維持するための差別的な制限措置,または安全保障上の理 由による支払い制限──には,IMFの見解が示されている。今回の決定は,各加盟国がIMF 協定第1条にあるIMFの目的を達成する際,新たな指針となるべく採択された。

ここで重要な概念が交換性(convertibility)である。交換性とは,一国の通貨(対内支払手段)

が自由に外貨(対外支払手段)と交換できる状態を指

7

す。IMF 8条国とは,経常取引に関してそ

────────────

4 Horsefield ed.,(1969), pp. 260−61.

5 単一為替レートを設定することは,IMFの主たる目的のひとつである。IMF第8条第3項には,2つの 例外(不足通貨宣言の行われた場合,戦後の過渡期及びIMFが承認を与えた場合)を除き,加盟国が 差別的通貨取極または複数通貨措置を行ってはならない旨を規定している。なお,IMF専務理事は,1947 年12月,加盟国に対し,各国は複数通貨措置に関する書簡を送り,IMFとの協議の必要性を指摘して いる( Multiple Currency Practices (Decision No. 237−2, December 18, 1947, in Horsefield ed.,(1969), p.

261−65)。

6 双務協定は,貿易支払いに関する二国間協定であり,相互の受払いを両国の中央銀行の政府勘定で清算 する方式である。一定期間の信用取引を行い期末に決済するため,外貨の節約が可能になる。外貨不足 のなかで貿易を円滑化するには,二国間貿易の拡大均衡を目指す双務協定が有効であった時期もあっ た。例えば日本がこの制度を利用したことについては,柴田(2006)を参照。しかし,最終的には多角 的決済関係の構築が望ましく,IMF理事会は1955年6月,双務協定について「交換可能通貨地域の拡 大とともに,加盟国特に通貨の交換性を回復した加盟国は,為替制限を伴う双務協定依存を廃止する努 力をなすべきである。もしこれがなされなければ,交換性の達成及び維持が妨げられることになるであ ろう。よってIMFは今後1年間に双務協定に依存している諸国と,双務協定存続の必要性,協定の早 期撤廃の可能性およびその具体的方策を協議しようとするものである」旨の決議を採択した( Bilateral- ism and Convertibility(Decision No. 433(55/42), June 22, 1955, in Horsefield ed.,(1969), p. 258)。 7 通貨の交換性を最も抽象的に定義すれば,「ある支払い手段の発行者が,その支払い手段の保有者に対

して,それを他の支払い手段に交換すること」であり,「古くは,鋳貨の金属への兌換(conversion)!

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80(198

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の通貨の交換性を有している国である。

交換性の回復は,支払先の区分(居住者/非居住者)と,取引内容の区分(経常取引/資本取 引)の組み合わせで4つに大別できる。つまり,経常取引に関する非居住者勘定(漓)と居住者 勘定(滷),資本取引に関する非居住者勘定(澆)と居住者勘定(潺)のうち,どの勘定の支払 制限を撤廃するかによって区分されるのである。

IMF協定では,経常勘定における交換性(漓・滷)が義務付けられていたが,ほとんどのIMF 14条国は,その両者を同時に回復するというよりも,まず非居住者勘定の交換性(漓)を先に 回復し,その数年後,居住者勘定の交換性回復(滷)に着手することでIMF 8条国へと移行す る傾向にあった(表)。

非居住者の交換性とは,非居住者が一定の条件で取得した自国通貨に対し,外貨との交換を保 証することである。非居住者からみれば制限がほとんどないため,事実上の交換性(de factocon- vertibility)とも位置づけら

8

れ,対外交換性(不完全交換性,部分交換性)の回復ともいわれてい た。本資料でも,対外交換性(external convertibility)と表記されている。1958年末に西欧の主 要国がこの段階に到達したため(漓),IMF 14条国から8条国への移行についての文書が作成さ れたのである。

14条国が8条国に移行する用意が出来た場合には,直ちにその旨をIMFに通告しなければな らない。本文書は,その指針として採択されたものである。4点が挙げられているが,第1点は 以下の通りである。

1. IMF第8条は,第2項および第3項にて,加盟国がIMFの承認なく経常的国際取引の支 払いおよび資金移

9

動に関する制限,差別的な通貨取極め,または複数通貨制度を実施しては

────────────

" が交換性の意味であり,逆に金属の鋳貨への鋳造(coinage)は交換性の意味に含まれない」とも説明

される(岩本・阿部編(2003)195頁)。交換性概念については,Gold(1971)および滝沢(1980)が 詳しい。なお,交換性のある通貨はハードカレンシー(硬貨),そうでない通貨はソフトカレンシー

(軟貨)と呼ばれる。

8 詳細は,滝沢健三(1990)66頁。

9 経常取引については,第19条(i)に以下のような規定がある。「経常取引のための支払とは,資本移 動を目的としない支払いをいい,次のものを含むものとし,且つこれらに限られない。

(1)外国貿易,役務を含むその他の経常的業務並びに正常な短期の銀行及び信用操作に関して行わ なければならないすべての支払

(2)貸付に対する利子としておよびその他の投資による純収入として行わなければならない支払

(3)貸付の賦払償還または直接投資の消却のための多額ではない支払

(4)家族の生計費のための多額でない送金 !

表 交換性回復の年月日(経常勘定)

非居住者交換性の回復(漓) 正式な居住者交換性の回復(滷)

(8条国移行)

西欧主要国 1958年12月29日(14ヶ国) 1961年2月15日(9ヶ国)

日本 1960年7月1日 1964年4月1日

(著者作成)

IMF理事会による決議「第8条,第14条について」(柴田) (199)81

(5)

ならないと規定している。ある措置がIMF第8条第2項の経常的国際取引に関する支払い 及び資金移動についての制限であるかを判断する基準は,政府が直接,その措置を実施して いるかによる。ある措置がIMF第8条の規定に反しているか不明な場合,加盟国はIMFと 協議することができる。

IMF第8条の義務を受諾せず,第14条第2

10

項の規定を援用して暫定的に為替制限を実施して いる加盟国は,IMFとその制限の存続について年次協議(コンサルテーション)を行うことに なってい

11

る。当初IMFは,過渡期を業務開始後5年と想定し,それ以降も過渡期の制限を必要 とする国について,年次協議を行い,制限の緩和ないし廃止の方向に努力していくこととしてい た(IMF第14条第4項)。しかし実際,1950年以後この文書が作成されるまで(1960年まで)

に14条国から8条国に移行した国は,ホンジュラス(1950年),カナダ(1952年),ドミニカ

(1953年),ハイチ(1953年),およびキューバ(1954年)という南北アメリカの5カ国に限ら れ,その他の加盟国は14条国にとどまっ

12

た。55年から61年(表,参照)の期間にIMF 8条国 へと移行した国はなく,当初の想定とは異なり,過渡期は長期化していたのである。そのため,

IMFにとっては14条に基づく年次協議の意義が大きくなっ

13

た。

第14条に基づく制限措置はあくまでも過渡期の例外であり,年次協議では,IMFが当該国の 経済状態を調査し,該当する制限措置の妥当性と緩和の可能性が検討された。そのため,協議と いうより審査に近いと指摘される場合もあ

14

る。IMFスタッフは,実施された協議の結果をまと めた上,IMF理事会に勧告(Recommendation)を付して提出する。その勧告には,制限措置の 妥当性や緩和の可能性,国内経済状況および国内政策に関する見解が示されてい

15

る。その勧告の 結果,IMFから「国際収支上の理由に基づく制限の存続は正当化されない」(「BPリーズンな し」)と指摘された場合,BPリーズンによる為替管理は認められなくな

16

る。しかし,加盟国の 多くは勧告をうけて即座にIMF 8条国へと移行するわけではない。対応は加盟国によって異な るのである。たとえば西ドイツは,1957年の段階で「BPリーズンなし」の判定を受け,実際に 経常取引に対する制限もほとんどなく,実質的に8条国と同様の立場にあったにも関わらず,14 条国にとどまってい

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た。同様の判定をうけたオランダ(1959年2月),イタリア(1959年10

────────────

! 基金は,関係加盟国と協議した後,個々の取引を経常取引と認めるか資本取引と認めるかを決定する ことができる」。なお,実務レベルで経常取引と資本取引との区別を明確にするため,IMFは国際収支 表マニュアル(Balance of Payments Manual)を作成している。それでも区分が困難な場合は,IMFと 加盟国との協議の上で決定される。こうして作成・公表される統計がIFS(International Financial Statis-

tics)である。そして,各国の為替管理制度については,毎年,『為替制限に関する報告』を通じて,発

行時点までの各国の為替制限や各国における一年間の為替制限の変化が報告されている。

10 注3を参照のこと。

11 日本を事例にした年次協議については,浅井(2005)が詳しい。

12 de Vries and Horsefield(1969)p. 292.

13 外務省経済局国際機関課(1961)20頁。

14 荒木(1964)205頁。

15 大蔵省財政史室編(1999)76頁。

16 日本関税協会(1962)157−167頁。

17 外務省経済局国際機関課(1961)18頁。

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月),フランス(1960年6月)も14条国から8条国へ移行する意図を示していなかった。

つまり,本文書が作成された当時,西欧諸国はすでに対外交換性を回復し,IMFから「BPリ ーズンなし」の勧告を受けており,IMF 8条国への移行が間近であった。このことは本文書の冒 頭で述べられていると同時に,以下の第2点と密接に関連している。

2. IMF第14条第3項によって,加盟国はIMF第8条第2項,第3項および第4項の義務 を受諾し,IMF第14条の過渡期規定を適用しないことをIMFに通告することができる。

加盟国は,IMF第8条第2項,第3項および第4項の義務の受け入れを通告する前に,IMF の承認を必要とするような措置を撤廃しておき,将来もその必要がないと確認しておくこと が望ましい。もし,加盟国が国際収支上の理由で第8条に基づいてIMFの承認を必要とす る措置の維持,または導入を申し出た場合,IMFは,その措置が必要であり,一時的であ るという場合に限って承認する。IMF第8条の承認を要する措置,および国際収支不均衡 の理由で維持または導入される措置について,IMFは国際収支不均衡のために為替制度を 利用することを,可能な限り避けるべきであると考えており,早期に制限措置を撤廃する方 法や手段について加盟国と検討する用意がある。IMF第8条に基づく承認を必要とする加 盟国は,第8条第2項第3項および第4項の義務を受諾する前に,基金と協議することが有 益である。

IMF 8条国への移行方法は一律ではない。IMFの勧告をうけて1−2年の準備期間をへて移行す

る場合や,IMFから勧告される前に第8条の義務を受諾し,8条国への移行を通告する場合があ る。上記の第2点は,この方式について触れられている。例えば,イギリスは1960年2月の年 次協議の場で,今回が14条国に基づく協議の最後となる点を示唆していた。またアイルランド

(1960年6〜7月),およびスウェーデン(1960年11月)もIMF年次協議において,翌61年に 正式に8条国に移行する旨を通告してい

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る。それ以外の西欧の主要国は,IMFの勧告を受けて から8条国への移行をIMFへ通告し,IMF理事会の承認後に8条国へと移行する手続きを経て いる(下図参照)。なお,8条国に移行する際,多くの場合は,第8条に該当する諸制限はほと んど存在していないが,フランスおよびベネルクス3国はIMFの事前承認が必要な制限を一部 存続することになったため,その制限についてIMFと毎年協議することになっ

19

た。

3. IMF第8条第2項および第3項の承認を必要とする措置を継続する場合,加盟国はIMF と協議しなければならない。その措置を継続していなければ,IMFとの協議は必要でなく また義務でもない。ただし,IMFは技術的な支援や助言を提供できる。その目的のため に,また,通貨及び金融の発展に関する意見交換の手段として,IMFと加盟国との定期的

────────────

18 同上。

19 日本がIMF 8条国へと移行する際にも,残存制限の承認を受けている(大蔵省財政史室編(1992)81−

82頁)。

IMF理事会による決議「第8条,第14条について」(柴田) (201)83

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な討議は,第8条の下で問題がなくとも非常に有益である。そのような討議は,開催場所や 時期も含めて,IMFと加盟国との間で計画されるべきであり,通常は1年ごとに実施され るべきである。

8条国に移行した場合,14条に基づくIMFとの年次協議の義務はなくなるが,「国際通貨問題 に関する協議および協力のための機構となる常設機関を通じて,通貨に関する国際協力を促進す ること」(第1条)もIMFの設立目的のひとつであり,8条国に移行した場合も1年ごとに討議

(discussion)するよう決議されたのである。

また,貿易制度については,IMFとの協議だけでなくGATT内部での協議も必要となる。そ の三者の関係について明記されたのが第4点である。

4.ガット締約国である加盟国が,国際収支上の理由で輸入制限を実施している場合は,IMF の業務を円滑にするために,その情報を継続的にIMFへ提供する。それによってIMFと加 盟国は国際収支の状況を共同で検討でき,IMFとGATTとの協調に資する。また,ガット 締約国でない加盟国が国際収支上の理由から輸入制限を課している場合,IMFはその加盟 国の輸入制限に関する情報の提供を求めることができる。

IMFが通貨の安定および為替制限の廃止を目的としているのに対し,GATTは関税の引き下 げおよび輸入制限の廃止を目的としている。つまり,IMFは為替面から,GATTは貿易面か ら,国際貿易を進展させる目的をもつ(IMF第1条,GATT前文)。そのため,両者の協調が不 可欠となる。

GATTでは輸入制限の全廃を原則としているが(GATT第11条),例外として国際収支上の理 由がある場合,無差別の輸入制限(GATT第12条)と差別的輸入制限(GATT第14条)の実施 が認められている。その正当性を判定するのはGATT内部ではなくIMFであり,IMFに判断の 優位性が与えられてい

20

る(GATT第15条)。

各国が実施する輸入制限措置の中には,為替制限であるのか貿易制限であるのか区別が曖昧な ものがある。実際,両者の加盟国をみると,IMFの規定に基づいて為替制限を実施している 国,すなわち14条国または事前の承認を得た8条国であっても,GATT上では国際収支上の理 由による輸入制限を行っていない国(ニカラグア)や,差別的輸入制限を行っていない国(セイ ロン,インドネシア,パキスタン,トルコ,南アフリカ)も存在する。一方で,IMFの規定に 基づく為替制限を実施していなくとも(8条国であっても),国際収支を擁護するためにGATT 12 条を援用して輸入制限のみ実施することもあり得

21

る。第4点は,そうした状態も想定した上で,

IMF, GATT,そして加盟国との協調関係を定めている。

なお,数量制限に関するIMFとGATT,そして加盟国との関係を簡略化すると図の通りに整

────────────

20 詳細は内田・堀(1959)474−95頁。

21 外務省経済局国際機関課(1961)22頁。

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理できる。制限措置の正当性を判断するのはIMFであるため,国際収支上の理由による暫定的 な数量制限を実施していた加盟国がIMFから「BPリーズンなし」の判定を受けると,それは GATTに通告され,加盟国はGATTにおいても国際収支の擁護を目的とした数量制限が認めら れなくな

22

る。また,同時に,IMF 8条国への移行準備をはじめなければならない。本資料が作成 された時期は,西欧諸国が図のBあるいはCの段階にあった時期であり,8条国移行後のあり 方が検討されていた時期でもあった。実際の政策に利用された文書を扱う場合,そうした文書が 作成された背景を意識する必要がある。

お わ り に

IMFやGATT,世界銀行といった国際経済機関・組織の誕生から半世紀以上が過ぎ,近年そ

の回顧と展望について国内外で活発に議論されてい

23

る。それらの成果を利用して,各国際機関と 日本との関係についての分析も進みつつあ

24

る。近年は,各種の記録が公開されはじめ,かつて存 在していた資料的制約を乗り越え,この分野の研究をすすめる時宜を得ている。

過去の経験は,現在の政策立案過程においても事例のひとつ、あるいは比較の対象として検討 されることがある。その際、各種の統計数値と同時に,政策立案過程で利用された文書に注目 し,そこから浮かび上がる背景を整理する必要がある。そうした幅広い分析を通じてこそ,有益

────────────

22 GATT 11条国の扱いについては,伊関(1963)。

23 たとえばIMFについてはBoughton (2001),世界銀行については,Kapur, Lewis and Webb(1997)が ある。

24 大蔵省財政史室編(1992),(1999),浅井(2006)。

図 数量制限に関するIMF,GATTと加盟国の関係

(加盟国)・・・国際収支上の理由(BPリーズン)による数量制限の実施

(IMF 14条国・GATT 12条国) A

(過渡期規定の実施,IMFとの年次協議)

(IMF)・・・・ 年次協議における「BPリーズンなし」の勧告

IMF理事会での決議,同時にGATTへ通告 B

(加盟国)・・・IMF 8条国移行準備,GATT 11条国へ C

(移行準備(おおよそ1−2年))

(加盟国)・・・IMFに対し8条国移行(義務受諾)の通告 D

(IMF)・・・・IMF理事会の承認 E

IMF 8条国・GATT 11条国 F

(経常勘定における自由化)

注)IMFからの勧告をうけず,自発的に(Bを経ずに)A→C→D→E→Fと進める場合も ある(イギリス,アイルランド,スウェーデンなど(本文))

(著者作成)

IMF理事会による決議「第8条,第14条について」(柴田) (203)85

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な教訓が導き出されるのである。本稿はIMFの政策に関するものであったが,ある政策文書が 作成された背景を視野に入れ,当時の政策立案者がおかれていた状況を理解しようとする基礎的 作業のひとつであった。

参考文献

[1]荒木信義(1964)『IMFの知識』日経文庫。

[2]浅井良夫(2005)「IMF 8条国移行と貿易・為替自由化(上)」『成城大学経済研究所研究報告』(第 42号)。

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[4]de Vries, Margaret G., and Horsefield J. Keith,(1969)The International Monetary Fund 1945−1965, Twenty Years of International Monetary Cooperation, Vol. II : Analysis,Washington D. C. : International Monetary Fund.

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[6]Gold, Joseph(1971),The Fund’s Concepts of Convertibility, IMF Pamphlet Series, No. 14.

[7]Horsefield, J. Keith ed.,(1969)The International Monetary Fund 1945−1965, Twenty Years of Interna- tional Monetary Cooperation, Vol. III : Documents,Washington D. C. : International Monetary Fund.

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1 : History,Washington D. C. : Brookings Institution Press.

[11]日本関税協会(1962)『IMFと日本』日本関税協会。

[12]大蔵省財政史室編(1992)『昭和経済史−昭和27−48年度』第12巻,東洋経済新報社。

[13]────(1999)『昭和経済史−昭和27−48年度』第11巻,東洋経済新報社。

[14]柴田茂紀(2006)「アメリカによる日本・アジア間貿易構想」『同志社アメリカ研究』(第42号)

同志社大学アメリカ研究所。

[15]滝沢健三(1990)『国際通貨論入門』有斐閣。

[16]通商産業省通商局国際経済課(1962)「1962年度IMF対日コンサルテーションについて」(蠱参考 資料)。

[17]内田 宏・堀 太郎(1959)『ガット−分析と展望』日本関税協会。

同志社商学 第58巻 第4・5号(2007年2月)

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