レバレッジ,裁定および市場流動性
著者 丸茂 俊彦
雑誌名 同志社商学
巻 63
号 4
ページ 280‑292
発行年 2012‑01‑25
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012853
レバレッジ,裁定および市場流動性
丸 茂 俊 彦
Ⅰ はじめに
Ⅱ モデル
Ⅲ レバレッジと裁定を伴う資産市場均衡
Ⅳ 比較静学分析
Ⅴ 政策的含意−レバレッジ規制とヘッジファンド規制
Ⅵ おわりに
Ⅰ は じ め に
証券化商品が取引される危険資産市場に参加する投資家は,パッシブトレーダー,ア クティブトレーダー,アービトレージャーおよびノイズトレーダーの
4
つのタイプに分 類できる。これらの投資家の投資スタイルの間には,レバレッジを効かせた取引を行う か,ポートフォリオ運用スタイルが積極的か消極的か,裁定取引を行うか,など様々な 違いがある。まず,パッシブトレーダーは,レバレッジ取引を行わず,マーケット・イ ンデックスなどの同一の資産ポートフォリオを中長期に保有する消極型投資スタイルの 機関投資家(年金基金やミューチュアルファンド)などの金融機関である。次に,アク ティブトレーダーは,レバレッジを効かせた取引を行い,頻繁に資産ポートフォリオを 組み替える積極型投資スタイルの投資銀行(証券ブローカーやディーラー)などの金融 機関である。さらに,アービトレージャーは,資産間の価格差に着目し,裁定取引によ り利益をあげることを目的としたヘッジファンドなどの金融機関である。最後に,ノイ ズトレーダーは,ランダムに取引を行う個人投資家である。本稿の目的は,パッシブトレーダー,アクティブトレーダー,アービトレージャーお よびノイズトレーダーという
4
タイプの投資家が同時に存在する資産市場モデルを用い て市場均衡価格を求め,レバレッジ取引や裁定取引が資産市場における市場流動性に及 ぼす影響について分析することである。2007−2009年の世界的金融危機の中で起きた証 券化商品の市場価格の暴落や市場流動性の枯渇問題を考察するためには,資産価格の下 落局面において市場参加者の投資スタイルの違いが市場流動性に及ぼす影響について理 論的に分析することには一定の意義があるといえよ1
う。
────────────
1 2007−2009年の金融危機時における流動性の問題についてはBrunnermeier(2009)が参考になる。ま
た,市場流動性と資金流動性の相互関係についてはBrunnermeier and Pedersen(2009)によるモデル! 44(280)
本稿と先行研究の関係は,以下の通りである。Adrian and Shin(2009)は,2007−2009 年の金融危機時に起きたバランスシート調整の特徴を見るために,総資産成長率とレバ レッジ成長率に関する経済主体別のデータを調べ,家計部門において両者に負の相関が ある一方で,投資銀行部門において正の相関があることを指摘し
2
た。また,He, Khang
and Krishnamurthy(2010)は,2007−2009
年の金融危機後に資産価格が下落する間に,主にレポ取引を通じてレバレッジを効かして資金調達を行っていた投資銀行の資産規模 が大きく減少したという事実を指摘してい
3
る。
これらの事実は,投資銀行部門においてアクティブなバランスシートの調整が行われ ていたことの証拠であり,レバレッジと市場流動性の間にプロシクリカルな関係が存在 することを示唆してい
4
る。さらに,裁定と市場流動性との関係では,
Gromb and Vayanos
(2010)が,裁定取引による現実の市場価格と理論価格との間の乖離(ミスプライシン グ)の修正や,裁定による市場流動性供給を妨げる要因の一つとして,裁定者に課され るレバレッジ制約の問題をあげている。本稿の問題意識は,2007−2009年の金融危機で 問題となった証券化商品市場における市場価格の暴落や市場流動性枯渇の問題に対し て,レバレッジ取引や裁定取引などの投資スタイルが及ぼした影響を理論的に明らかに し,レバレッジ規制やヘッジファンド規制に関する政策的含意を導くことにある。
本稿で用いるモデルは,Shin(2010)のモデルと
Gromb and Vayanos(2010)のモデ
ルに関係がある。Shin(2010)は,バーゼルⅡ規制下で銀行が採用しているVaR
とい うリスクマネジメント手法が金融システムの安定性に及ぼす影響について理論モデルを 用いて分析しているが,このモデルではパッシブトレーダーとアクティブトレーダーの2
タイプの投資家しか存在しな5
い。一方,Gromb and Vayanos(2010)のモデルでは,
アービトレージャーとノイズトレーダーの
2
タイプの投資家しか存在しない設定の下で 裁定取引の限界が論じられている。本稿のモデルでは,4つのタイプの投資家が同時に 存在する設定の下で資産市場均衡を導出している点,および市場流動性の問題を考察し ている点,が上記2
モデルとの違いである。本稿の構成は以下の通りである。Ⅱでは,モデルの設定を説明する。Ⅲでは,レバレ
────────────
! が参考になる。
2 Adrian and Shin(2009)は,その他にも商業銀行部門と非金融(および非農業)企業部門についても資
産成長率とレバレッジ成長率の関係を調べたが,両者間の有意な相関結果は得られなかった。
3 その一方で,預金で資金調達していた商業銀行の資産規模はむしろ増加したという事実をHe, Khang and Krishnamurthy(2010)は報告している。
4 バランスシートが時価で評価される場合,資産価格が上昇すると,バランスシート上で総資産の名目価 値が増加するが,負債の名目価値は一定であるため,自己資本は総資産以上のスピードで増加するはず である。つまり,家計や機関投資家のように資産価格の変動に対して受動的に資産運用を行う部門で は,総資産が増加するとレバレッジ比率が低下する。一方,投資銀行のように積極的に資産運用を行う 部門では,資産価格の上昇により自己資本に余裕ができレバレッジ比率が下がると,短期借入を増やし てさらに資産を購入することで,レバレッジ比率の成長率を引き上げることになる。
5 VaRが金融システムの安定性に与えた影響については,Shin(2009, 2010)を参照のこと。
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (281)45
ッジと裁定を伴う資産市場で成立する市場均衡価格を求める。Ⅳでは,モデルの与件の 変化が資産の市場均衡価格に与える影響について比較静学分析を行う。Ⅴでは,本稿の モデル分析結果を踏まえて,レバレッジ規制とヘッジファンド規制に関する政策的含意 を論じる。最後に,Ⅵで結論を述べる。
Ⅱ モ デ ル
第
0
期と第1
期の2
期間からなる経済を考える。この経済には1
種類の安全資産と1
種類の危険資産が存在する。安全資産の利子率は0
と仮定する。第0
期に危険資産の取 引が行われ,第1
期に危険資産のペイオフが実現する。第0
期に,危険資産収益〜r
は〜 − 〜 〜
不確実な確率変数である。r の平均を
r≡E
[r]とし,任意の定数をσ
>0とおくと,r〜 − − −
は
r∈[r− σ , r+ σ
]の値をとり(ただし,r>σ
),一様分布に従うと仮定する。した〜 〜
がって,rの分散は
V
[r]=σ
2/3となる。投資家は,第
0
期に初期資産をw
0円保有し,危険資産を市場価格p
円でx
枚購入す る。b=w0−px とおくと,投資家は,b>0ならば安全資産をb
単位購入し,b<0なら ば銀行借入をb
単位行う。ただし,銀行借入利子率は安全資産利子率と同じ0
である と仮定す6
る。危険資産市場は完全競争市場であるため,投資家は危険資産の市場価格
p
円を所与として資産選択を行う。第1
期に危険資産の収益r
が実現し,投資家にrx
円 のペイオフが支払われる。第1
期における投資家の最終的な資産額w
1円は,次の(1)式で表される。
w
1=(w0−px)+rx (1)危険資産市場には,パッシブトレーダー,アクティブトレーダー,アービトレージャ ー,およびノイズトレーダーの
4
タイプの投資家が存在する。以下,投資家毎の主体均 衡を解いて,危険資産の個別需要を導出する。第
1
にパッシブトレーダーは,レバレッジを効かせた資産運用を行わず(bP=w0P−px
P>0),第0
期と第1
期の間に資産運用ポートフォリオの組み替えを行わない金融機 関である。この金融機関は機関投資家に対応する。パッシブトレーダーは,リスク回避 的で絶対的危険回避度α
一定の効用関数を持つと仮定すると,パッシブトレーダーが 第0
期に期待効用EU
[w1P]を最大化することと,次の(2)式を最大化するよう資産選 択を行うことは同値になる。────────────
6 後述するように,本モデルにはVaR制約が存在するため負債の債務不履行が起きないことから,銀行 借入利子利率は安全利子率と同じ0になると仮定することに矛盾はない。
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
46(282)
E
[w1P]−α2V
[w1P]=(w0P−pxP)+rx− P−ασ2
6(xP)2 (2)
(2)式を
x
Pについて解くと,パッシブトレーダーの危険資産需要x
Pは,次の(3)式 になる。x
P=max(
3(r−ασ−p)2, 0 ) (3)
ここで,パッシブトレーダーの危険資産需要が正になるためには,危険資産の市場価格
− −
がその期待収益よりも小さくなる(r>p
" r−σ
)必要がある。第
2
に,アクティブトレーダーは,レバレッジを効かせた資産運用を行う(−bA=pxA−w0A>0)金融機関であ
7
る。この金融機関は投資銀行に対応する。アクティブトレーダ ーは,多数の資産からなるポートフォリオを保有することでリスク分散が可能になるこ とから,リスク中立的で あ る と 仮 定 す る。仮 に,負 債 の 額 面 価 値−bA=pxA−w0A>0 が,将来実現する可能性のある危険資産の最低収益水準(r−σ− )
x
A以下ならば,負債 の債務不履行は起こらないことから,負債はリスク・フリーな資産とみなすことができ る。そこで,この条件式をVaR
制約と呼ぶことにすると,この制約下では債務不履行 が起きないので,借入利子率は安全資産利子率と同じ0
になる。アクティブトレーダー は(5)式のVaR
制約下で,次の(4)式で表される期待効用を最大にするよう資産選 択を行う。E
[wA]=−(pxA−w0A)+rx− A (4)px
A−w0A!
(r−σ− )x
A (5)(4)式より,r>p− である限り
x
Aを増加させた方がアクティブトレーダーの期待効用は 高くなるが,xAを増加させるといずれ(5)式のVaR
制約が有効になる。したがっ て,アクティブトレーダーの危険資産需要x
Aは,(5)式が等号で成立する水準に決ま るので,次の(6)式で表される。x
A=max(
σ−(w−r0A−p),0)
(6)────────────
7 本稿のモデルにおけるアクティブトレーダーの部分は,Shin(2010)の「VaR型モデル」を参考にして いる。
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (283)47
ここで,アクティブトレーダーの危険資産需要が正になる(xA>0)ためには,
− − −
σ
>r−p! 0
⇔r !p>r− σ
(7)が成立している必要がある。つまり,危険資産の市場価格がその期待収益以下になる
− −
(r
!p>r− σ
)必要がある。第
3
に,アービトレージャーは,同じ危険資産に関する現在価格と将来価格の価格差 を利用し,裁定取引を行うことで利益をあげることを目的とした金融機関であ8
る。この 金融機関はヘッジファンドに対応する。いま,第
0
期と第1
期の中間に第0.5
期があ り,アービトレージャーのみが,第0.5
期に新しいニュースなどの追加的情報が得るこ とができ,その情報を利用して第0.5
期に売買可能であると仮定する。さらに,この追 加的情報は,中間期である第0.5
期の市場価格に反映されると仮定する。第
0
期において危険資産収益r
は確率変数となり,第0
期時点では〜r
0,第0.5
期時点 では〜r
0.5となる。ここで,第0.5
期に追加的情報が得られた結果,危険資産収益の値が〜 − −
取り得る範囲の上限値と下限値が
ε
>0ずつ狭まる(r0.5∈[r−σ
+ε , r+ σ
−ε
])と仮 定する。つまり,追加的情報が得られたことで,危険資産収益のボラティリティが低下− 〜
する。したがって,第
0
期時点では,危険資産収益の期待値はr
0≡E[r0],分散は〜 − 〜
V
[r0]=σ
2/3となる一方,第0.5
期時点では,危険資産収益の期待値はr
0.5≡E[r0.5],分〜 〜
散は
V
[r0.5]=(σ
−ε
)2/3となる。ここで,第0
期における危険資産収益の分散V
[r0]=
σ
2/3よりも,第0.5
期の追加的情報の条件付分散V
[r〜0.5]=(σ
−ε
)2/3の方が小さく なる点に注意する。アービトレージャーが第
0
期に初期資産のw
0S円を担保に,第0
期時点の取引では価 格p
0円でx
0S単位のロング(またはショート),第0.5
期時点での取引では価格p
0.5円でx
0.5S単位のショート(またはロング)の反対売買を行うならば,第1
期のアービトレー ジャーの最終的な資産額は次の(8)式で表されるw
1S=w0S+(r0−p0)x
0S+(r0.5−p0.5)x
0.5S (8)ここで,モデルの仮定より,以下の
3
点が成立する。第1
に,第1
期における危険資 産収益の実現値は,取引時点にかかわらず同一の危険資産であることから必ずr
にな る。────────────
8 本稿のモデルにおけるアービトレージャーの部分は,Gromb and Vayanos(2010)の「異時点間の裁定
(Intertemporal Arbitrage)モデル」を参考にしている。
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
48(284)
r≡r
0=r0.5 (9)第
2
に,アービトレージャーが反対売買を行うという仮定から,第0
期の取引である一 定枚数のロングポジション(またはショートポジション)を形成した場合は,第0.5
期 の取引で同じ枚数の反対売買を行う必要がある。したがって,x
0S+x0.5S=0 (10)が成立する。最後に,第
0.5
期の市場価格p
0.5は,次の(11)式で示されるように,第0.5
期に得られた追加的情報の条件付きの期待値と同じになる。p
0.5=r0.5 (11)(9)式,(10)式および(11)式を(8)式に代入して整理すると,
w
1S=w0S+(r0.5−p0)x
0S (12)が得られる。
アービトレージャーはリスク回避的で,絶対的危険回避度
β
一定の効用関数を持つ と仮定すると,アービトレージャーが第0
期に期待効用EU
[w1S|0]を最大化すること と,次の(13)式を最大化するよう資産選択を行うことは同値にな9
る。
E
[w1S|0]−β2
V
[w1S|0]=(w0S−p0x
0S)+E[r0.5|0]x
0S−β2
V
[r0.5|0](x0S)2=w0S+(E[r0.5|0]−p)
x
S−β2{V[r0]−E[V[r0.5]|0]}(xS)2
=w0S+(r−p)−
x
S−β 2⎧
⎨
⎩ σ2
3−(σ−ε)
2
3
⎫
⎬
⎭(xS)2
=w0S+(r−p)−
x
S−βε(2σ−ε)6 (xS)2 (13)
(13)式を
x
Sについて解くと,アービトレージャーの危険資産需要x
Sは,次の(14)式になる。ただし,以下では
p
とx
Sに関する時間の添え字0
を省略する。x
S=max(
βε(23(−rσ−−εp)),0)
(14)────────────
9 (13)式の中で,V[r0]=E[V[r0.5]|0]+V[r−0.5|0]となることを用いている。
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (285)49
ここで,同じ危険回避的なリスク選好を持つアービトレージャーとパッシブトレーダ ーの目的関数である(2)式と(13)式の中にある分散を表す部分を比べると,
σ2
3−ε(2σ−ε)
3 =(σ−ε)
2
3 >0 (15)
となることから,危険資産収益の分散は,パッシブトレーダーの直面する分散よりも,
アクティブトレーダーの直面する分散の方がより小さくなることがわかる。したがっ て,
α
≧β
ならば,x
P=max(
3(ασ−r−2p),0)
<xS=max(
βε(23(−rσ−−εp)),0)
(16)が成立する。つまり,アービトレージャーのリスク回避度
β
がパッシブトレーダーの リスク回避度α
と同程度かそれ以下ならば,アービトレージャーはパッシブトレーダ ーと比べてリスク許容能力がより高く(絶対危険回避度がより小さく),かつ危険資産 収益のボラティリティを下げることが可能になるため,アービトレージャーの危険資産 需要はパッシブトレーダーのそれよりも大きくなる。最後に,ノイズトレーダーは,ランダムに取引を行う個人投資家である。ノイズトレ ーダーの危険資産需要
x
N=uは外生的に一定のパラメータで,正負いずれの値もとり うる(u≧<―0)と仮定する。
x
N=u (17)Ⅲ レバレッジと裁定を伴う資産市場均衡
危険資産の総需要は,4つのタイプの投資家の個別危険資産需要である(3)式,(6)
式,(14)式および(17)式を合計することで得られる。他方,危険資産の総供給
X
は 価格に関して非弾力的で,外生的に一定であると仮定する。この時,危険資産市場の均 衡は次の(18)式で表される。x
A+xP+xS+xN=X (18)(18)式を整理すると,p と−
r
の大小関係により次の2
つのケースに場合分けできる。ここで,超過需要関数を
F
(p)とG
(p)とおくと,市場均衡を表す(18)式は,次の(19)式と(20)式で表される。
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50(286)
p>r
−ならば,F
(p)≡−βε3(p−−r)(2σ−ε)+u−X=0 (19)
p<r
−ならば,G
(p)≡ w0A
σ−(r−p)− +(3 ασ−r−2p)+βε3(−r−p)
(2σ−ε)+u−X=0 (20)
(19)式と(20)式を
p
について解くと,危険資産の市場均衡価格p*は次の(21)式
と(22)式になる。ただし,(21)式ではu>X
,(22)式ではu<X
が成立する必要が ある。p>r
−ならば,p*=r+
− βε(2σ−ε)3 (u−X) (21)
p<r
−ならば,p*=r−
− 2−r+B−!B2−4C
2 (22)
ここで,(22)式の中の
B
とC
は次の2
つの式で定義される。B
≡−1+ ασ2βε(2σ−ε)
3{ασ2+βε(2σ−ε)}(X−u) (23)
C
≡−βε(2σ−ε)[−3− −(r r−σ)+ασ − − −{2 w0A+(r−σ)(X−u)}]−3r(r−σ)ασ2
3{ασ2+βε(2σ−ε)} (24)
ただし,(22)式において市場均衡価格
p*>0
が存在するためには,次の条件式− − −
3(r r−σ)
w0A+(r−−σ)(X−u)> ασ
2βε(2σ−ε)
ασ2+βε(2σ−ε)かつ
r>r*≡
−B+! B
2−4C
2 (25)
が成立している必要があ
10
る。
────────────
10 (25)式の導出に関しては補論を参照されたい。
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (287)51
Ⅳ 比較静学分析
以下では,モデルの与件である
8
つの外生変数が変化した場合に,(21)式と(22)式で導出した市場均衡価格
p*がどのように変化するかについて比較静学分析を用いて
調べてみる。8つの外生変数とは,以下順に,危険資産の期待収益−r,ノイズトレーダ
ーの危険資産需要u,危険資産の総供給 X
,危険資産収益のボラティリティσ
,第0.5
期の追加情報によるボラティリティーの低下幅ε
,パッシブトレーダーの危険回避度α
の上昇,アービトレージャーの危険回避度β
の上昇,アクティブトレーダーの初期資 産額w
0Aの増加,である。第
1
に,危険資産の期待収益が上がると,市場均衡価格は上昇する。dp*
dr−=−!!F/!−r
F/!p*>0, dp*dr−=−!!G/!−r
G/!p*>0 (26)
第
2
に,ノイズトレーダーの危険資産需要が大きくなるほど,市場均衡価格は上昇す る。dp*
du=−!!F/!u
F/!p*>0, dp*
du=−!!G/!u
G/!p*>0 (27)
第
3
に,危険資産の総供給が増加するほど,市場均衡価格は下落する。dp*
dX=−!!F/!X
F/!p*<0, dp*
dX=−!!G/!X
G/!p*<0 (28)
第
4
に,危険資産収益のボラティリティの上昇は,市場均衡価格がファンダメンタル より高い(または低い)とき,市場均衡価格をより高く(またはより低く)させる。つ まり,危険資産価格の上下の振幅をより大きくする。dp*
dσ=−!!F/!σ
F/!p*>0, dp*
dσ=−!!G/!σ
G/!p*<0 (29)
第
5
に,第0.5
期の追加情報によるボラティリティーの低下幅が大きい場合,市場均 衡価格がファンダメンタルより高い(または低い)とき,市場均衡価格をより高く(ま たはより低く)させる。つまり,危険資産価格の上下の振幅をより大きくする。dp*
dε=−!!F/!ε
F/!p*>0, dp*
dε=−!!G/!ε
G/!p*<0 (30)
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52(288)
第
6
に,パッシブトレーダーの危険回避度の上昇は,市場均衡価格がファンダメンタ ルより低いとき,市場均衡価格をより低くさせる。つまり,価格の下方の振幅をより大 きくする。dp*
dα=−!!G/!α
G/!p*<0 (31)
第
7
に,アービトレージャーの危険回避度の上昇は,価格がファンダメンタルより高 い(または低い)とき,市場均衡価格をより高く(またはより低く)させる。つまり,危険資産価格の上下の振幅をより大きくする。
dp*
dβ=−!!F/!β
F/!p*>0, dp*
dβ=−!!G/!β
G/!p*<0 (32)
第
8
に,アクティブトレーダーの初期資産額の増加は,価格がファンダメンタルより 低いとき,市場均衡価格をより高くさせる。つまり,価格の下方の振幅をより小さくす る。dp*
dw0A=−!G/!w
0A
!G/!p*>0 (33)
以上,本稿におけるモデルパラメーターの変化が市場均衡価格に及ぼす影響に関する 比較静学分析の結果は,次の第
1
表にまとめられる。Ⅴ 政策的含意−レバレッジ規制とヘッジファンド規制
以下では,本稿のモデル分析から得られた結果を用いて,レバレッジ規制とヘッジフ ァンド規制に関する政策的含意について論じる。
まず,2007−2009年の金融危機前に,投資銀行による証券化商品のレバレッジ取引が 急増したことが金融危機時の資産市場価格の急落を招いた反省から,世界中の政府や金 融監督機関の間では,レバレッジ取引の規制を強化する方向性が打ち出されている。レ バレッジ規制強化について本稿のモデルのパラメータで再解釈すると,アクティブトレ
第1表 危険資産の市場均衡価格へのモデルパラメーターの影響
−r u X σ ε α β w0
A
p*>r− + + − + + 0 + 0
p*<r− + + − − − − − +
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (289)53
ーダーのレバレッジ水準(−bA=pxA−w0A>0)を引き下げることは,アクティブトレー ダーの自己資本水準
w
0Aを引き上げることを意味する。(33)式の結果から明らかなよ うに,資産市場において市場流動性が低い(資産価格がファンダメンタル価値よりも低 い)時に,市場流動性を回復する(市場均衡価格の下落幅を小さくする)ためには,ア クティブトレーダーの自己資本を増強することが有効にな11
る。したがって,アクティブ トレーダーのレバレッジ規制を強化することは,市場流動性が不足する事態を避けるた めに有効な政策手段となりうる。
次に,2007−2009年の金融危機間に資産市場価格の乱高下が起きた原因の一つとし て,絶対収益の獲得を目的として投機的取引を行うヘッジファンドの存在が問題視さ れ,ボルカー・ルールの中でもヘッジファンド規制を強化する方向性が定められた。一 般的には,ヘッジファンドの投資スタイルは複雑な計量モデルを駆使したものが多く,
その内容も非公開で匿名性が高いため一概に論じることはできないが,ロング・ショー ト戦略などのマーケット中立な投資スタイルのヘッジファンドは資産間の価格の歪みを 利用した裁定取引を行うため,本稿のモデルのアービトレージャーに対応していると考 えることができる。
本稿のモデルの中で,資産価格がファンダメンタル価格よりも下落している(p*
<r)時に,負の流動性ショックが起きる(u<0)と,資産価格とファンダメンタル価−
値との乖離(ミスプライシング)が広がり,市場流動性が不足する状況が生じる。そこ で,アービトレージャーが市場に存在する時,(20)式で明らかにしたように,ノイズ トレーダーの売り(u<0)が起きた場合にはアービトレージャーが反対に買い(xS>0)
を行うことから,ノイズトレーダーにより引き起こされるファンダメンタル価値を無視 した非合理的な流動性ショックに対して,アービトレージャーは市場流動性を提供し,
資産価格のミスプライシングの程度を小さくする役割を果たしている。したがって,ヘ ッジファンド規制を強化する際には,モメンタム型投資など市場価格のミスプライシン グを増大させる投資スタイルのヘッジファンドは規制すべきであるが,マーケット中立 な投資スタイルのヘッジファンドを規制することは,かえって市場の裁定機会を奪うこ とで,資産価格のミスプライシングの増大と,市場流動性の低下を招くデメリットがあ る点に注意しなければならない。
────────────
11 本稿のモデルでは,パッシブトレーダーやアービトレージャーに対して絶対的危険回避度一定の効用関 数を仮定したため,これらの投資家の自己資本水準が市場流動性に影響していない。これは効用関数の 特定化に関するモデルの設定上で生じた結果であり,実際にはこれらの投資家の自己資本水準も市場流 動性に影響を与えることになる。例えば,Gromb and Vayanos(2010)は,アービトレージャーが直面 する自己資本制約やレポ取引における担保不足から生じる借入制約の存在が,資産の市場流動性に影響 し,アービトレージャーによる裁定を妨げる要因となることを示している。
同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
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Ⅵ お わ り に
本稿では,パッシブトレーダーやノイズトレーダーだけでなく,レバレッジを効かせ た投資を行うアクティブトレーダーや,裁定取引を行うアービトレージャーが存在する 資産市場モデルを用いて,流動性ショックが生じた際に,レバレッジや裁定などの取引 を行う投資家の存在が資産市場の流動性に及ぼす影響について分析を行った。
本稿の分析から得られた政策的含意として,レバレッジ規制については,負の流動性 ショックが起きて市場流動性が不足する事態を避けるためには,アクティブトレーダー のレバレッジに上限を設けて,自己資本を増強する必要がある点を指摘した。さらに,
ヘッジファンド規制については,投機的取引は規制すべきである一方で,裁定取引機会 の余地は残すべきである点を指摘した。ただし,ヘッジファンドの投資内容は非公開で 市場における匿名性が高いため,実務上,裁定取引以外の取引のみを規制することは困 難であることから,裁定取引の余地を残して投機的取引のみを抑制する規制制度の設計 を考察することが今後の課題である。
補論 (25)式の証明
(22)式において
p<r
−が成立するためには,−
r>
2−r+B− −!B2−4C
2 >0 ⇔
B
<!
B
2−4C<2 r+B
(A 1)が成立する必要がある。この条件は,以下の
2
つの式に書き換えられる。C
<0 (A 2)− −
r
2+Br+C>0 (A 3)(A 2)式は,次の(A 4)式と同値である。
− − − − −
3
(r−r σ
)ασ
2−βε
(2σ
−ε
)[−3r
(r−σ
)+ασ
{w2 0A+(r− σ
)(X−u)}]− − −
=3(r−
r σ
){ασ
2+βε
(2σ
−ε
)}−ασ
2βε
(2σ
−ε
){w0A+(r− σ
)(X−u)}>0(A 4)(A 4)式を整理すると,(25)式の
1
つ目の条件式が成立する。さらに,(A 3)式が成立するためには,
レバレッジ,裁定および市場流動性(丸茂) (291)55
−
r*=
−B+!B2−4C
2 (A 6)
とおくと,(25)式の
2
つ目の条件式が成立すればよい。(証明終わり)参考文献
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同志社商学 第63巻 第4号(2012年1月)
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