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開に関する調査報告

著者 和泉 順子

出版者 法政大学国際文化学部

雑誌名 異文化. 論文編

巻 21

ページ 57‑87

発行年 2020‑04‑01

URL http://doi.org/10.15002/00023207

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1.はじめに

2018 年度在外研究(短期)のため、2018 年 10 月 1 日にヘルシンキ 経由でエストニアの首都タリンに赴いた。エストニアは日本ではまだ 一般にはそれほど認知度は高くないが、1991 年にソビエト連邦から 独立回復して以来 10 年余りで世界最先端の e-Government(以下、

電子政府)を展開し、現在も着々と成果を積み上げている。本在外研 究の目的は、現在は主に情報科学分野で世界的に注目されているエス トニアの電子政府に関わる公的あるいは民間サービスの現状から、そ の情報技術の社会的な展開を調査することである。

タリン到着後半月程かけて居住環境を整えたが、一時居住許可

(Temporary Residence Permit 以下、TRP)の発行是非に関する決 着には申請から 3 か月半ほどの時間と交渉を要し、これを必要とする 銀行口座開設などの生活基盤を整えるまでにはさらに 1 か月半を費や した。結果的には今回の滞在に対して TRP が降りなかったため、エ ストニア国民が享受している公的サービスの詳細を体験・調査するこ とはできなかった。またエストニアの生活情報に関しては渡航前に参 考となる文献等が少なく、かつ調査していた情報の一部が的確ではな かったため生活環境を整えるまで多少の困難があったが、異文化体験

エストニアにおける電子政府関連サービスの 社会展開に関する調査報告

A Study Report on the deployment of services build on the e-Government

system in Estonia

国際文化学部 准教授 和泉順子

IZUMI Michiko

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としては大変豊かであった。

在外研究受け入れ先のタリン工科大学では用意された居室および大 学内外の図書館で文献等の調査を行い、電子政府が国民に受け入れら れた理由や、2019 年 3 月および 5 月に行われた国会議員選挙および EU 議会選挙の電子投票を含む事前投票の様子について担当教員と意 見交換や議論を行った。また、タリン市内で開催される関連国際会議 や展示会などに参加し、情報セキュリティや ICT リテラシ教育、あ るいは就学後の選択肢の一つである起業に関する考え方についても情 報を収集した。さらに情報技術に直接関係はないが、文化的イベント として 2019 年 5 月に国会 100 周年の一般公開が、2019 年 7 月には世 界文化遺産にも登録されている歌と踊りの祭典が開催されたため一部 参加した。他にタリン市内でのハローワークのような場所や Job Fair を見学し、移住者を含む求職者への情報提供やサポート体制も見学し た。これらの活動や在外研究の延長期間を含む後半に行ったデジタル ノマドに関する調査研究から、情報化社会における働く「場所」に関 する考え方を、日本および EU 加盟国であるエストニアとで比較考察 した。

2.エストニア・タリン、およびタリン工科大学に関する概説 2.1 エストニア、および首都タリンの概説

エストニアはバルト三国に属する人口約 133 万人の国であり、2004 年に EU および NATO に加盟した北欧の国である。1918 年にロシア 帝国より独立して以降、ナチス・ドイツ軍やソビエト連邦の占領・再 占領・併合下にあったが、ラトビア・リトアニアと連動した「歌う革 命」や「人間の鎖」などの活動を通して 1991 年にソビエト連邦から 独立回復した。現在の公用語はエストニア語であるが、若年層を中心 に英語を話せる人も増えている。また世界初となる電子投票による国 政選挙も行なうなど電子政府として成功している。再独立の頃にはま

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だ大変高価であったコンピュータを公立の全ての学校に導入しネット ワークを敷設して次世代教育に 注力した「タイガーリーププロジェ クト(Tiger’s Leap)」、あるいは 2007 年に世界初のサイバー戦争と も言われる国家規模でのサイバー犯罪に対応したことから、翌年には NATO サイバー防衛協力センタ(NATO CCDCOE : Cooperative Cyber Defense Centre of Excellence)が首都タリンに設置され、以 後情報セキュリティに関する情報収集および研究開発拠点となってい ること等が知られている。

…以上が、エストニアに渡航する前に事前に知り得た情報の大半で ある。日本ではエストニアに関する書籍はまだ少なく、またインター ネットでの検索結果の多くは旅行滞在記である。近年は留学や起業の ためにエストニアに移住する日本人も増えている1[1]が、著者が渡 航準備をするまでに得られた情報は少なく、またインターネット上の 情報も「短期滞在者の視点」にやや偏っていたと言える。本学の担当 授業で「ネットで検索できない情報はたくさんある」と学生に伝えて いるが、それを体現する結果となった。

実際には英語のサイトをよく探せばもう少し詳細な情報が出てく る。例えば、上記の情報に加え、公用語はエストニア語であるが、ロ シア語話者も一定数居住しており、特に首都タリンでは統計によると 4 割以上がロシア語話者であることは、統計データとして英語で公開 されている。しかし、実際に住んでみて初めて、公共交通機関内など に掲示される生活情報の多くはこの二カ国で記述されていること、あ るいは事前情報の通り観光地や大学構内などでは英語を話せる人がほ とんどで特に問題ないが、一般的に商品や案内情報に英語表記がない

1 在エストニア日本大使館に 2019 年 5 月に問い合わせた結果、186 名との回答 を得た。2017 年(148 人)頃まではほぼ同率(平成 25 年以降、毎年 10-20% 程)

で微増していた在留邦人数が、2018 年から 2019 年にかけては明らかに増え ている。

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(エストニア語、ロシア語、ラトビア語、リトアニア語はある)もの が少なくなく、観光客の多くない地域では英語が話せる店員も限られ ていること等がわかった。このため、図らずも“日本を訪れる日本語 がさっぱりわからない外国人”の疑似体験ができた。

2.2 タリン工科大学の概説

受け入れ先となったタリン工科大学(TTÜ: Tallinna Tehnikaülikool, TUT: Tallinn University of Technology)は 1918 年、エストニア独立 と同年に設立されたエストニア唯一の工科大学である。2018 年 12 月に はキャンパス内では5Gネットワークが展開されることが発表され(図1)、2 自動運転(図 2)を始めとする種々実験が行われるなど、エストニアの 工学系教育の要(the flagship of Estonian engineering and technology education)として国内外に知られている。工科大学といっても工学部だ けではなく経済や行政、ビジネス、法律、あるいは海事(maritime affairs)に関する学部もあり、卒業生には起業家や主要企業での主軸と

2 https://www.ttu.ee/estonias-first-5g-network-will-be-set-up-at-taltech 図 1 タリン工科大学 構内

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なっている人も多い。現在の首相であるユリ・ラタス(Jüri Ratas)氏の 出身校でもある3。2018 年 9 月に 100 周年記念式典が行われた際には、略 称や大学ロゴをそれまでの「TTÜ」あるいは「TUT」から「Taltech」

に変更するとの宣言が出されている4

3.エストニアにおける電子政府関連サービスの社会展開について 3.1 電子政府と X-road

エストニアが 1991 年に自国政府を擁立するにあたり、電子政府と いう方向性を打ち出した理由の一つは、独立回復直後は資金も資源も 極めて少なかったこと、ただしソビエト連邦併合下におけるサイバネ ティクス研究所5(現サイバネティカ社)がタリンにあるなど人的資源 は残っていたことにあると言われている。したがって「電子政府」を 構築することが最も速くかつ安価、効率的であったため情報技術を活 用することがガイドラインとして策定された(e-Governance:1997 年)。一度入力した情報を他で重複して入力し直すことのない(“only once”)安全な情報システムを想定すると同時に、学校教育現場への 情報端末とネットワーク敷設という将来に対する投資(Tiigrihüpe, Tiger's Leap)や、インターネットへのアクセスを人権の一つとする こと6,7、国民に対する ID の配布とそれにひもづくサービス(以下、

3 なお、現在のエストニア大統領(ケルスティ・カリユライド Kersti Kaljulaid 氏)はエストニア最古で最難関のタルトゥ大学出身の女性である。2019 年 11 月現在、首相も大統領も 40 代。

4 https://www.ttu.ee/news/news-2/university-2/tallinn-university-of- technology-to-adopt-short-name-taltech/

5 Cybernetics 研究所は当初、Academy of Science of Estonia(エストニア科 学学会)として機能していた。Research unit of Institute of Cybaernetics of the Academy of Sciences of Estonia, established in 1960. https://cyber.ee/

about-us/our-story/

6 https://investinestonia.com/president-kersti-kaljulaid-access-to-internet-is- considered-a-human-right/

7  “It is often asserted that the Internet is a human right. Of course, the

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e-service)の拡充と発展等多くの思い切った政策をとった。その結果、

今では学校および地方政府は 100% コンピュータを導入・活用し、独 立回復から 30 年も経たない現在、世界中から注目される電子国家と なっている。電子政府の初期の成功事例としてはもう一つ、2000 年 から始まった e-Cabinet といわれるペーパーレス化の成果も挙げられ る。配布資料をなくしたことから国会の会議への遠隔参加が可能に なったと同時に時間も 1/8 に短縮されただけでなく、現在では一般的 な契約や登録情報に関しても国民が日常的に自ら電子署名したファイ ルをオンラインでやり取りして業務や社会生活を送っている。2001 年には e-service の根幹を形作るデータベース群とその情報流通のた めの X-road が動き出す。Digital ID(以下、eID)の活用は 2004 年 頃から進められ、2005 年には世界

初となる e-Vote(以下、電子投票)

による国政選挙が行われた。数々 の地方選挙・国政選挙の手段とし て用いられており、電子投票8の利 用率は 2017 年の選挙では 32% 程 だったが、2019 年の国政選挙およ び EU 議会選挙ではいずれも 40%

以上の利用率であった(詳細は後 述)。今日では、公的サービスの 99% が直接窓口に出向いたり紙の 書類を用意したりしなくても良い

Internet is a technical tool and only access to the Internet can be a human right.”

https://www.humanrightsestonia.ee/en/internet/

8 https://www.valimised.ee/en

在外研究期間中に、Riigikogu (parliamentary) elections – 3 March 2019 と、

European Perliament elections -26 May 2019 があった。

図 2 自動運転の公道実験

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e-service として提供されている9。例えば 2000 年以降使われている e-Tax10などは、one click で完了する。内容は「ログインして納税関 係情報を表示して確認をする 3-5 分程度、必要なら適宜修正する」だ けで短時間で終了するため、納税者の約 95%が電子的に手続きして いる。

eID を活用した e-service は他にも例えば 98% の処方箋が電子的に 発行されるなど日々の生活の中に定着し、普及している。将来に向け た電子政府の在り方については、Digital Agenda 2020 For Estonia[2]

に記載されている。

エストニアの電子政府を含むサービスおよび政策等の電子的な取り 組みの総称として e-Estonia という呼称が用いられることがあるが、

この実現に際しては、2001 年から稼働している X-Road と呼ばれる オープンソースのバックボーンシステムが重要な役割を果たしてい る。エストニアの Information System Authority (RIA)によると、

X-Road と呼ばれてきたこのシステムはフィンランドでも稼働するこ とになるため、2018 年からは X-tee と呼称を変えており、X-Road と いう名前はエストニアとフィンランドの共同開発技術を指す時に使う ようになっている11。X-tee は官民合わせた様々な e-service のデータ

9  https://e-estonia.com

“Citizens can select e-solutions from among a range of public services at a time and place convenient to them, as 99% of public services are now available to citizens as e-services. In most cases there is no need to physically attend the agency providing the service.”

10 https://www.emta.ee/eng

“Today, you can pay your taxes in Estonia only in one click - all you need is 3-5 minutes for the tax filing process and it's done! That is why each year, around 95 per cent of all tax declarations in Estonia are filed electronically.”

11 https://www.ria.ee/en/state-information-system/x-tee.html

“X-tee is a data exchange layer used in Estonia. Until 2018, it was named X-Road in English. Since 2018, however, X-Road is only used to refer to the

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ベ ー ス と デ ー タ 利 用 者 を 安 全 に 繋 ぐ 情 報 流 通 シ ス テ ム で あ り、

XAdES, ASiC, VPN, RSA, TSL, RFC3161, OCSP, PKI などの技術を 用いて認証、マルチレベルの承認、署名暗号化されたデータトラフィッ クなどを実現しており1213、X-Road への人間の利用者からのリクエス トは全体の 5%ほどに留まる等の統計データは Web で公開されてい る14。中央集中型ではなく全ての情報は分散データシステムとして管 理されており、24/7 アクセス可能である。

このように、電子政府が実際に日常の社会サービスの一つとして機 能していることから「エストニア国民が政府を信頼する理由」につい て質問すると、担当教授だけでなく他の人からも「政府を信頼してい るわけではない」という回答が返ってきた。担当教授との議論からは、

政府は信頼していないけれど、電子政府(の仕組み)は信頼できると 考えている人は少なくない、電子政府システムのデータ収集や管理の 透明性確保と、ユーザビリティ(利便性)の高さが関係しているだろ う、との見解だった[3]。このように、国民のほとんどが日本のマイ ナンバーカードにあたる ID カードを保持し、eID を用いた公共ある いは民間のサービスを日常的に利用しているのは、政府への信任とは 関係なく、電子政府が提供するシステムの透明性と利便性に依拠して いることが分かった。透明性や安全性の確保には主に技術的な対策が 施されているが、利便性に関しては、技術的というよりはむしろ、「他 に間違えようがない」といえるほどシンプルなデザインと、サービス を適用させるための迅速な法整備(法改正)などの社会適応性の速さ が重要な役割を果たしていると言える。

technology developed together by Estonia and Finland through MTÜ Nordic Institute for Interoperability Solutions. The Estonian X-tee is now also called X-tee in English.”

12 https://www.ria.ee/en/state-information-system/x-tee.html 13 https://youtu.be/9PaHinkJlvA

14 https://www.x-tee.ee/factsheets/EE/#eng

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3.2 eID と身分証明書

エストニアに旅行や休暇などで 3 ヶ月以内の滞在する場合、日本国 籍の旅券所持者であれば特にビザや居住許可は必要ない15。しかし3ヶ 月以上の滞在を予定している場合は査証(以下、ビザ)か居住許可が 必要になるため、日本出国前に適切な申請をしておく方が望ましいと される。基本的には D ビザと言われるロングステイビザ(Long-Stay VISA)か、一時的な居住許可(TRP)を渋谷区にある在日エストニ ア大使館に申請し取得することになる。D ビザ取得は実質 1,2 週間ほ どで可能だが、TRP は審査が厳しく 2 ヶ月程時間がかかる。特に問 題なければ日本で申請してエストニア国内の国境警察署(PBGB:

Police and Border Guard Board)16で取得することは可能であり、ビ ザや TRP なしでも 3 ヶ月は居住可能であることから、入国後に手続 きすることを勧められることもある。

D ビザは旅券に発行されるいわゆる『入国許可』であり居住許可で はないため、居住者を対象とした公共サービス(例えばタリン市内に ある国会図書館や大学図書館を含む図書館の利用や、公共交通の無料 化など)は受けられない。3 ヶ月以上 1 年未満の滞在に適しており、

滞在期間中の就労も可能である。申請には健康保険加入の証明や目的 に応じた証明書類(短期留学やインターンシップ、滞在受入先からの 確認書類など)が必要になる。

一方、TRP は一時的ではあるものの居住許可であり、基本的には 婚姻や親族の移住に伴うもの、あるいは一年以上のエストニア国内で の就学か報酬が発生する就労・起業など場合に申請する。就学や雇用 合意書をはじめとする必要書類も多く、家族を伴っての居住申請であ れば婚姻や出生を証明できる戸籍謄本の英訳とアポスティーユ認証が 15 シェンゲン協定の期間を超えない範囲に限る

16 https://www.politsei.ee/en

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必要になる場合もある。居住許可自体の審査は厳しく、取得できる外 国人は毎年人口の 0.1% 以下に留める規定になっているが、日本とア メリカは例外的に規定適用外となっている。TRP 申請が通ると(選 挙権などの一部の権利を除く)居住者対象のサービスを利用できるた め、一人一人にエストニアの市民番号にあたる eID が割り当てられ、

2011 年以降はその eID が明記された IC チップと写真入りの居住許可 カードが発行されている。このカードはエストニア国内あるいは EU 域内で有効な身分証明書になる。

筆者の滞在は 10 ヶ月であったため、在日エストニア大使館で申請 した際に D ビザだけで十分であり申請に時間もコストもかかる TRP は必要ないだろうと助言されていたが、公的サービスの利用を希望し ていたため D ビザを取得した上で TRP 申請も日本で行ない、エスト ニアで発行されるのを待った。しかし、居住が 1 年未満であることと エストニア国内で報酬が発生する就労ではないこと、つまりエストニ アに納税するわけではないことから TRP 発行不可となった。これに 伴う eID の割り当ておよび居住許可カードも発行されなかった。

ところで、日本のマイナンバー制度は、設計する際にエストニアの eID を参考にしたことで知られている(図 3)が、エストニアの eID はマイナンバーと違って「保護すべき個人情報」としては扱われてい ない。eID は、国民一人一人に割り当てられた数字 11 桁の ID であり、

最初の 1 桁が性別等、次の 6 桁が生年月日、最後の 4 桁がシリアルコー ドとして生成される。現在のエストニアの人口の 98% 以上にあたる 国民が、電子政府が展開する投票や納税などの公的サービスだけでな く、病院、学校、金融、日用品の買い物に至るまで様々なサービスを オンラインで利用する際や実社会での身分証明のために、eID とそれ に紐づいた本人の写真が記載された ID カードを保有している。この ID カードを保持している国民と居住許可のある外国人は、タリン市

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内の公共交通の無料化、国会図書館やタリン大学・タリン工科大学な どの大学図書館をはじめとする公共図書館の無料利用17が可能にな る。初期は ID-card18(ID カード)とカードリーダを用いて運用され ていたが、現在では情報の媒体はカードだけでなく SIM と Mobile ID に紐づけられた Mobile-ID19、携帯アプリである smart-ID20も用いら れる。また、上述のように、国民だけでなく一時的あるいは長期滞在 許可が得られている外国人用もこれと同様の滞在許可カードが発行さ れ、ID カードの携帯が義務化されている。ID カードの IC チップに は 公 開 鍵 暗 号 方 式 RSA で 2048bit 公 開 鍵 が 内 蔵 さ れ て お り、

e-service を利用する場合にはまずこの ID を用いた本人確認が必須に なる。

17 居住者でない人は図書館ごとに利用者カードを作成(2€ 程度)すれば利用可 能。

18 https://www.id.ee/?lang=en

19 https://www.id.ee/index.php?id=36881 20 https://www.smart-id.com

2018 年 11 月現在、Smart-ID 利用者は 1,314,953 名。

図 3 日本のマイナンバー制度と eID

e-Estonia e-Governance in Practice – revised and updated edition – より

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この ID カードを用いた本人確認は身分証明書として実社会でも活 用されている。ID カード・居住許可カードを所持していなければ、

医療や教育など相談を含む公共サービスや個人の銀行口座開設、郵便 のオンラインでの再配達依頼やスーパーのデリバリサービス等、eID と居住許可が確認できる ID カードがあれば無料で即座に受けられる サービスが受けられない、あるいは時間や費用、エストニア語の語学 力(エストニア語で電話をかける)等が必要になる。

ID の申請や発行は国境警備局(Police and Border Guard Board: 

PBGB)の所管であり、申請した ID(Card)は国境警備局のいずれ かのオフィスに取りに行くことになる。前述の通り、ID の番号自体 は個人情報ではなくカードにそのまま記載されている。紛失・盗難等 があったとしても番号だけ(カードだけ)では e-service 利用時に本 人になりすますことはできないため特に問題はなく、紛失と再発行の 手続きを国境警備局で行えば新規カードが発行される。

eID は 2004 年頃から使われており、この 15 年ほどの間に 4 回ほど 更新の推奨がされている。更新しなくても使えるかもしれないが、セ キュリティ上安全が確保されないこと、費用はかからないこと(保障 期間をすぎてからの更新には費用がかかる可能性があること)などが 広く公知されるため、多くの人は更新手続きをするようである。なお、

この eID システムはエストニアの national PKI 上で動いているが、

PKI 構築と関連サービスは民間企業である SK という民間企業が行 な っ て い る。Sertifitseerimiskeskus(Certification Centre) で あ る SK は 2001 年に Swedbank、SEB、Telia Eesti によって設立された 民間企業であり、認証のための電子証明書とエストニアの ID(ID-card, Mobile-ID, Digi-ID, residence permit card and e-resident’s Digi-ID)

の電子署名を発行し、運用している。ID を利用するソフトウェア的 な環境の更新などは SK のホームページで確認することができる。

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エストニアに限らず、EU 圏では eID に関するレギュレーション

(eIDAS[4])があり、加盟国は 2018 年秋までに各国で eID を整備 し将来的には加盟国同士で eID を連携させることになる。エストニ アでは上記の通り既に eID が利用展開されている。それと同時に、

エストニアの ID カードを持っていない外国人も、EU 域内の国であ れば、多くの場合は各国が発行している ID カードが代替となり身分 証明可能である。一方、日本を含む EU 域外の国々から来た外国人は、

エストニアで有効な eID やその ID カードを持たない。身分証明だけ であれば各国で発行された旅券で代替可能であるが、eID に紐づく電 子的なサービスの利用を希望しても現状では難しいものが多い。

電子政府としてのサービス群(e-service)や実社会の公共サービス はエストニア政府が用意しているものであり、納税している国民・滞 在許可者のための便利で快適な社会インフラである。そのため、エス トニアに納税していない短期滞在予定の外国人がそのサービスの対象 外であることは極めて合理的だが、医療情報の互換性(the eHealth Digital Service Infrastructure)や銀行口座開設などは、EU 域内の 外国人は問題なくエストニア国民とほぼ同等のサービスを受けられ る。日本のような EU 域外の外国人にとっては EU の強い連携は羨ま しく思えた。

なお、在エストニア日本大使館職員やその家族の ID について話を 聞いたところ、彼らは外国人用の居住許可とはまた別の Diplomat ID

(外交官 ID)のカードが発行されており、数年前からその ID カード に IC チップがつくようになったとのことだった。この ID カードで 電子的なサービスがどこまで可能かは不明であるが、ID カードには エストニアの eID と顔写真が記載されており、身分証明書としては 勿論利用できるため、図書館利用や銀行口座開設は可能である。ただ し、市内交通の無料化などのサービスは適用外とのことであった。

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3.3 e-Residency

e-Residency は 2014 年 12 月に開始されたエストニア政府による e-service の 一 つ で あ る。 公 式 ペ ー ジ に ”E-Residency is a new digital nation for global citizens, powered by the Republic of Estonia” とあるように、エストニア政府が世界中の e-Residence(電 子国民)に ID を発行している。入国や滞在・居住許可には全く関係 ないが、エストニアあるいは EU 圏の契約に有効な電子署名機能はあ る。また、エストニア発の欧州を視野に入れたビジネスの立ち上げと 展開を促進することが目的の一つである21ため、ビジネス用の銀行口 座は開設可能である。有効期限は 3 年間であるが、2018 年 11 月 1 日 以降に発行される ID カードには 2 年間の延長が付与されるとの発表 があった22

e-Residency に関する統計データは Web 上に公開されている(図 4)23。総数は 2018 年 11 月現在で約 47,000 人余りとなっており、申請

21 Deloitte: E-residency brought €14.4 million to Estonia in first three years 22 https://medium.com/e-residency-blog/estonia-is-extending-the-validity-

period-of-32-000-digital-id-cards-810d6dbaf73b

23 https://app.cyfe.com/dashboards/195223/5587fe4e52036102283711615553 図 4 e-Residency 統計情報

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は国別に見るとロシア、ウクライナ、日本、米国が多く、また EU 圏 内としてもフィンランド、ドイツが高い割合を占めている。

男女比では、2018 年 11 月現在、88:12 で男性が圧倒的に多い。ま た年齢別で見ると全体の 3 割以上が 31-40 歳であり、ついで 41-50 歳、

30 歳 以 下 が 多 い こ と が わ か る。 申 請 動 機 別 で 見 る と ”Location independent international business(41.1%)”, ”Bringing business to Estonia(26.9%)”の二つで全体の 3 分の 2(68%)以上を占めて おり、起業やビジネス展開を目的としたものが多いことが伺える。現 在も e-Residency については官民両輪での協力と議論が続いており、

2018 年 6 月には e-Residency 2.0[5]を発表して、エストニア人及び e-Resident の両方の利便を検討するための議論を続けている24

こ の 仕 組 み に エ ス ト ニ ア の eID は 内 包 さ れ て い る た め、

e-Residency に申請すると同じ法則性を用いた eID が割り振られ、IC 付きのカードが発行される。しかし e-Residency はオンライン、つま り仮想世界のサービスを前提としているため e-Residency カードには 本人の写真がなく、現実社会での身分証明書としては有効ではない。

したがって、例えば e-Residency としてだけでは上述の国民及び滞在 許可のある外国人用のサービスは提供されない。またマネーロンダリ ングなどの犯罪を防ぐため、私的な銀行口座も e-Resident であるだ けでは開設できない。ビジネス用の銀行口座は開設できるが、手続き に一度はエストニアに入国する(あるいは代行サービスを使う)必要 があることや報告書提出の義務等がある。

24 “The goal of e-Residency 2.0 is to build on what has already been developed for e-residents and decide the future direction of the e-Residency programme so that both Estonians and e-residents can be given even more opportunities to benefit.”

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3.4 e-Vote: 電子投票

X-tee と eID を使った電子投票は 2005 年に世界初の議会選挙電子 投票に用いられ、その後継続して地方選挙あるいは国政選挙の手段の 一つとして一般に活用されている。2017 年では全体の 3 割ほど、2019 年の選挙では全体の 4 割以上が電子投票による投票となっている25

電子投票による投票の年齢別割合(図 5)を見ると、年々高齢者の 割合が高くなっている。

担当教授との会話から、これは単に電子投票が高齢者にも使いやす いというだけでなく、2005 年当時に value range だった 25-34, 35- 44,45-54 歳も、2017 年の選挙、つまり 12 年経つと 37-46, 47-56,57-66 の範囲に入ること、つまり電子投票システムに不備がなく利便性を享 受できている限り、この年齢層(あるいはそのもう少し上)が増える のは当然のことであることが分かった。なお、若年層の割合が減って いるのではなく、高齢層も含めて利用者自体は増えている(図 6)。

25 https://www.valimised.ee/en/archive/statistics-about-internet-voting- estonia

図 5 電子投票による投票の年齢割合 -- valimised.ee の統計データより --

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電子投票は選挙自体の代替手段というよりは、「事前投票」システ ムの一つの形式という捉え方である。事前投票(advanced poll vote)

の割合は年々増加おり(図 7)、その中でも電子投票の割合は伸びて いる。

日本にも事前投票制度として不在者投票制度(郵便投票、洋上投票 など)や在外選挙制度、あるいは 2003 年の公職選挙法改定により実 現した期日前投票制度はあるが、有効票を事前に受け取り、決められ た投票所で投票あるいは郵送するシステムであり、一度投票するとや り直しはきかない。一方、電子投票のシステムでは一度事前投票をし た後、気が変わって他の党や候補者に票を入れ直す、ということが可

図 6 電子投票の投票者数推移

図 7 事前投票の割合

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能である。このように複数回投票した場合(multiple e-Vote)、最後 の票が有効票として処理される。電子投票システムでの投票が可能な 期間は 7 日間程であり、選挙当日の 5 日から 7 日ほど前までに投票は 締め切られる。例えば 2017 年の地方選挙は以下のようなスケジュー ルで行われた(図 8)26

選挙前の準備段階としては、2019 年に行われる議会議員選挙の場 合、前年の 2018 年 12 月に e-Voting のシステム検証、つまり有効な ID を持っていて有効票を投じることができるかどうかを有権者が事

26 https://www.valimised.ee/en/municipal-council-election-2017 図 9 2017 年地方選挙スケジュール

図 8 電子投票の割合

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前に検証できるサイトが Open していた(図 10)。図にある通り、有 効票の検証はスマートフォンでも行えるが、投票にはコンピュータが 必要である(スマートフォンは未対応)。また、図 11 の予定表にある ように、投票日 3 月 3 日に対して電子投票の期間は 2 月 21 日から 27 日まで、7 日間であり、これは他の事前投票(在外投票および期日前 投票)の期間と共通である。この期間に電子投票システムで投票した 有効票は、期間中であれば再投票が可能である。複数回投票した場合、

有効票は最後の票であるが、さらに電子投票期間後に票を変更したい 場合は、投票日に投票すればそれが有効票(電子投票システムによる 票は全て無効票)となる。

この選挙の場合、2019 年 1 月初旬あたりから街中に候補者の広告 が出されるようになったが、日本のように選挙ポスターが法律で定め られた規定の掲示板に貼られるわけではなく、普段は商業広告を掲載 するバス停の壁や駅近くの壁面等に掲示されており(図 12)、景観を 損なうことなく選挙活動をしている雰囲気が好ましく感じられた。

日本の期日前投票は主に、有効票を受け取り(住民票の住所の郵便 箱から回収し)、選挙前日までに投票所に出向く期日前投票か、必要 事項を記入して期限までに郵送する不在者投票であり、どちらも投票 後に意見を変えることはできない。投票日が猛暑や雪、台風などの悪 天候になる場合もある上、休日に時間を作って投票所まで出かけなけ ればならないのは不自由であり、かつ古い学校の体育館や公民館など バリアフリー化があまり進んでいない投票所は高齢者や心身に障害が ある人にとっては不便である。したがって、台風や混雑を避けて、あ るいはショッピングセンターや大学など利便性の高い場所に設置され た事前投票所に出向き、選挙日の前日までに期日前投票を済ませる人 は日本でも増えている27。2013 年参議院議員選挙、2014 年衆議院議員 27 http://www.soumu.go.jp/main_content/000365958.pdf

(21)

図 10 電子投票事前検証の画面

図 11 投票期間の告知(2019 年 3 月国会議員選挙)

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選挙では期日前投票はどちらも 25%近い割合を占めている。

NHK による意識調査(2017 年衆議院選挙に関する秋田県男鹿市 スーパーでの期日前投票をした人たち 756 人からの回答)28では、期 日前投票制度がなくても投票に行く、と回答した人は 8 割を超えてお り、かつ半数以上が投票する候補者を選挙期間前から決めている。つ まり、もともと投票に行く予定だった人が早めに投票をした、その半 数以上は選挙期間中の候補者の演説や意見表明には重きを置いていな い、ということがわかる。このように現状では日本で期日前投票を済 ませる人の多くは選挙公示後すぐに投票を済ませる傾向があり、選挙 日近くになって意見を変えたくなったとしても変更票を投じることは できない。選挙期間中に出張等で自宅に中長期間いない有権者は不在 28 https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2018/04/0423.html

図 12 選挙ポスターと街の景観

(23)

者投票も選択できない現状では、電子投票システムの有効性は高い。

日本でもインターネット投票導入は検討されている[6]29が、実現し ていないことに関しては、エストニアにおけるこの電子投票システム の規模性については技術的に問題になったことはないことから人口

(投票数)の寡多の問題ではなく、主にその運用面での課題が残され ているものと考えられる。

以上の電子政府関連サービスの社会展開例から、エストニアの e-service ではユーザインタフェース(UI)は極めてシンプルであり、

多くの場合 Web アプリケーションであるため機種に依存したエラー 等も少ないことが重要な役割を果たしていることが分かった。電子投 票に限らず Web で e-service のポータルサイトにアクセスし、ID カー ドを挿して照合(本人認証)する。その後該当するサービス(例えば

29 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/touhyoukankyou_koujyou/

index.html

図 13 インターネット投票導入の検討

(総務省 投票環境の向上方策等に関する研究会 第 3 回資料より)

(24)

税金の申告や学校の成績確認など)を表示し、内容をよく読んで操作 すれば、コンピュータの扱いに慣れていなくても、基本的にはエラー なくサービスが利用できる。ICT リテラシを学んでいない人たちで あっても意図したサービスが正しく利用でき、かつ 24 時間 365 日、

メンテナンスで使えないという時間帯はなく、いつでも好きな時に サービス利用でき、かつ複雑なエラーメッセージが出ることもないた め、e-service に対する満足度は高いように思われる。そのため、

state e-service、電子政府に対する「信頼」も相対的に高い。

他にも、e-service の中でも特によく使われているものの一つに e-Prescription(電子処方箋)がある。これは病院で処方され印刷さ れた処方箋を患者が薬局まで持ち込む日本と異なる。患者は病院で診 察を受ける際に eID で受付を済ませているため、診療後のカルテの 処理だけでなく処方箋も本人の ID に紐づいて電子的に発行される。

電子的に処方箋が発行された(薬が処方された)場合、患者は薬局に そのまま薬を受け取りに行けば良い。薬局で自分の eID を使って本 人照合できれば薬局が必要な処方箋を X-tee 経由でダウンロードして 薬を渡す仕組みであり、ペーパーレスの効果だけでなく、病院や薬局 は他の病院で処方されたものも含め薬の重複や過度の処方をチェック できる。これは eID に紐づく e-service が福祉や行政サービスだけで なく銀行や教育などの様々な民間のサービスを含めた社会全体で承 認・利用されていることが前提である。さらに、前述のレギュレーショ ンにより EU 域内での ID 連携の仕組みは前進しており、2019 年 1 月 にはフィンランドとエストニアで電子処方箋の流通が可能になった。

つまり、フィンランドの医師が発行した電子処方箋を元にエストニア で薬を購入することができる。海外でも自分の既往歴や医師の処方箋 を元に適切な薬が購入できるのは大変便利な仕組みである。

(25)

4.参加した会議、展示会 4.1 Latitude59

2019 年 5 月 16-17 日に、Kultuurikatel と呼ばれる展示会などがで きるホールにて、スタートアップ企業の展示会として Latitude59 が 開催された(図 13)。混雑回避のため事前に複数の場所で受け取れる バッジとリストバンド以外、会場内でも一枚も配布物のなく、プログ ラムも各種アナウンスもスマートフォンのアプリを通して滞りなく伝 達された。e-Residency や AI などの議論を交わすセッションもあっ たが、主目的としては 2,500 人以上が来場し、150 以上のスタートアッ プ企業が出展する Matchmaking meeting のようである。大統領がキー ノートスピーチで、エストニアが国としてスタートアップを支援して いること、エストニアの学校では現在ロボット教育などが盛んであり 短期的には有効であるが、子供達が学校に行くのは 20-30 年後の世界 を生きるための準備であり、必要なことを模索する必要があること30 などを演説していたのが印象的だった。なお、サイドプログラムとし

30 ”Estonia has a solution – trying to legislate narrow AI in a mainstream way so that we will have a common understanding that every law applies to all forms of narrow AI in a certain way. But this is a short-term solution and it will apply to the future that we can foresee, the next 10-15 years. But the trouble is: are our kids going to school now going to be ready for the world 20-30 years in the future? How can we train them and what should we teach?

(snip) But the massive change in the society will be training and education.

図 14 Latitude59 会場の様子

(26)

て、個人では参加できない「e-Estonia briefing centre」31にも参加す ることができ、エストニアの取り組みや将来構想の一部に触れること ができた。

https://latitude59.ee/

4.2 CyCon2019

2019 年 5 月 28-31 日に、タリン市内の Swissotel にて NATO サイバー 防 衛 協 力 セ ン タ(NATO CCDCOE : Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence)主催、サイバーセキュリティに関する国際会議

(The 11th International Conference on Cyber Conflict)が行われた。

CCDCOE に参加しているのは現在、アメリカ、イギリス、スウェーデン、

フィンランド、ドイツ、エストニアを含む 21 カ国であり、デンマーク、

ブルガリア、ノルウェー、ルーマニアも加盟予定である。日本の情報 セキュリティ関連会議は学術的・技術的なものがほとんどだが、ここ では技術だけでなく法律や政策を含む議論が行われ、国防(National Security)も主要議題の一つであることから軍関係者の参加も多かっ た。エストニアは現在、ルクセンブルグ公国に data embassy(デジタ

31 https://e-estonia.com/about-us/

図 15 CyCon2019 会場の様子

(27)

ル大使館)を設置32しており、一時的に領土を他国から脅かされたとし ても国民情報は散逸せず国家として継続を保つ構想を立ち上げている。

そのため、この会議中にも『国家とは』という議論で必須となる領土 認識の変容に言及があったことが印象的であった。

https://ccdcoe.org/news/2019/cycon-2019-full-programme-now-online/

4.3 Job Fair 2019

2019 年 4 月 2 日に、Kultuurikatel にて行われた一般市民向けの職 業紹介展示会である(図 15)。事前に市内にあるハローワークのよう な職業紹介所も見学していたが、この展示会はその規模を大きくし、

実際に担当者が詳細を説明し、場合によってはその場で申請ができる。

試しに緊急通報システムのオペレータについて質問したところ、専門 の教育機関で 1 年間研修が必要であるがその間も給与や食事が提供さ れること、最終試験には言語の試験もありエストニア語(あるいはロ シア語)が必須であること等の説明があった。ホテルやスーパーなど の民間企業だけでなく、郵便局や軍関係、刑務所なども出展していた のが印象的であった。

Latitude59、CyCon2019 には、どちらにもカリユライド大統領のキー ノートスピーチがあり、また、同 5 月には満員のため参加登録できな かった国際会議でも大統領のスピーチがインターネット上で配信され ていた。手元にある原稿をあまり見ることなく明瞭な英語で講演して おり、どの分野でどのような問題が議論されているのかを把握するた め、かなり勉強されているのだろうと思われた。大統領官邸の HP33 でこれらのスピーチが公開されている。

32 https://e-estonia.com/estonia-to-open-the-worlds-first-data-embassy-in- luxembourg/

33 https://www.president.ee/en/index.html

(28)

5.その他 参加したイベント等

2019 年 5 月 25 日 に 行 わ れ た 国 会 100 周 年(Riigikogu 100) の Open day にも参加した(図 4)。議場の見学だけでなく、事前に公開 されたスケジュールでは、国会議長や首相に直接質問ができる時間や、

新任議員との対話の時間などが取られていた。国会に入る前にセキュ リティチェックはしているが、多くの人が自由に各政党の部屋や食堂 を見て回っていること、子どもの参加者も多かったこと、各政党もプ ロモーションとして風船やキャンディ、ボールペンなどを配布してい ることなど、日本にはない大らかさが印象的であった。

https://m.riigikogu.ee/fookusteemad/riigikogu-100/

なお、在外研究期間はエストニアの首都タリンに滞在していたが、

帰任する 1 週間前に賃貸契約の都合もあって、エストニア第二の都市 タルトゥを訪れた。タルトゥはタリンの南、電車等で 2 時間ほどの距 離に位置しており、エストニア最難関大学(タルトゥ大学)を中心に、

学問と文化の中心地として認知されている。商業・政治の中心である 首都タリンと比べると精神的な首都と言われており、タリンでは 4 割 以上がロシア語話者であるのに対し、タルトゥはほとんどがエストニ ア語話者である。ここには世界文化遺産の一つでもあるシュトルーベ

図 16 Job Fair 会場の様子

(29)

測地孤を含む旧天文台や国立博物館、サイエンスセンタ(AHHAA)

があり、民族文化や独立の歴史から、エストニアマフィアと呼ばれる スタートアップの起点となった Skype で開発に使われていた椅子や 人工衛星など、様々な分野の記録と文化財が広い館内に展示されてい た。国立博物館では入館チケットに RFID タグが埋め込まれていて電 子ブック形式の展示説明にかざすと英語の説明に切り替わるなどの工 夫があった。

6.おわりに

国民のほとんどが日本のマイナンバーカードにあたる ID カードを 取得し、eID を用いて電子的に公共あるいは民間のサービスを日常的 に利用しているのは、政府への信任とは関係なく、電子政府が提供す るシステムの透明性と利便性に依拠しており、デザインやサービスを 適用させるための迅速な法整備(法改正)などの社会適応性の速さが 重要な役割を果たしていた。日本で情報化推進の議論の際に問題視さ れる「デジタルデバイド(情報格差)」の問題もほとんど生じていな いほど、無駄を省き一貫性を保ったシステム構築をしていると同時に、

質問や議論を重ねる中で、電子政府へ大胆に舵を切ることができたの は旧ソビエト連邦からの独立回復というタイミングで、資源も資金も

図 17 国会 100 周年 Open day の様子

(30)

なくレガシーな公共サービスを維持できないことも大きな要因であっ たこと、eID も最初から受け入れられていた訳ではなく、地道にサー ビスを展開すると同時に、技術だけでなく法律や社会環境も柔軟に適 応・変化させ、データの透明性を確保できる仕組みをつくっていった ことが分かった。

エストニアでは国民一人一人に割り当てられる ID 自体は個人情報 でもなんでもなく、前述のように使い方も極めてシンプルであるため、

X-tee 上での ID の利用にはそれほど大きな心理的障壁はないようで ある。個人情報だから守らなければならない、漏洩してはいけない、

システムが安全でないと大変なことになる、という半ば思い込みに近 い「恐怖心」は、使われている技術を学ぶ機会が少ない人々にとって は心理的な脅威として残り続ける。これはある程度は「教育」の問題 として定義できる。つまり、個人情報であるとしても、どのように取 り扱えばいいか、また何かあった時どこに相談や問い合わせをすれば 良いかが明確に分かっていれば、その恐怖心を緩和することは可能で あると考える。しかし全てを利用者に学んでもらうことを期待するこ とはできない。情報漏洩事件が起こらない限り、エンドユーザにとっ ては「エラーなく正しく処理(利用)ができた」という事実の上に、「使っ てみたら自分でも使えた」「平日の業務時間以外であっても利用でき て便利だった」「意外と簡単に処理できた」「外に出なくて良いから身 体的に楽ができた」などのアドバンテージがあれば、システムに対す る満足度と比例して信頼も向上するものであることから、システム開 発側としても運用環境を統一し、ユーザインタフェイスをシンプルか つ誤解も煩雑さもないデザインにすることが望ましいと考える。

最後に、エストニアも日本と同様に緩やかな人口減少および少子高 齢化の問題があったが、最新の人口統計情報によると自然増加(出生 率の増加)と移民の増加により現在は人口増加に転じている[7]。

(31)

2017 年以降の積極的な少子化対策(特に、子ども 3 人以上を養育す る家庭に対する手当など)34、具体的には子どもが 3 人以上いる家庭で は最低賃金(2019 年は 500 ユーロ / 月)に近い給付が得られること やひとり親に対する手当て、前年に海外で働いていた場合の育児給付 も含め、多面的な支援が展開されていることから、出産・育児や職場 復帰に対する障壁が低くなり出生率が向上している。出生数より死亡 者数の方が若干多いため人口は自然増に転じたとは言えないが、今後 数年で自然増に転じる可能性も高い。その上、国策としてタートアッ プ企業を支援し、積極的に技術者や専門職の起業家のための環境を整 えつつあることから、EU 域内の他国に比べて物価が安く治安も良い エストニアに働き盛りの世代を呼び込むことに成功し、生産年齢人口 内での若者の流入も増加していることから、2015 年を底とし 2017 年 まで微増だった人口は、2019 年 1 月の時点では明らかに増加に転じ ている。日本の外国人労働者に対する環境整備や受入体制は、スター トアップ支援のような起業家の招致や優れた技能や知識を持った専門 家の移住を前提としているとは言いがたく、住環境や社会福祉サービ スのあり方からも参考にすべき点は多い、等の知見が得られた。

参考文献

[1] 外務省 海外在留邦人数調査統計 , https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page 22_000043.html

[2] Ministry of Economic Affaires and Communications, “Digital Agenda 2020 for Estonia”,

https://www.mkm.ee/sites/default/files/digital_agenda_2020_estonia_engf.pdf 34 出産手当(Childbirth allowance)、16 歳以下の子ども一人 60 ユーロ / 月、3

人以上の場合は 3 人目以降は 100 ユーロ / 月の子供手当(Child allowance)、

育児給付(Parental Benefit)だけでなく,近年には子どもが 3 〜 6 人だと 300 ユーロ / 月、7 人以上だと 400 ユーロ / 月、といった 3 人以上の子どもを もつ家族のための手当て(Allowance for a family with many children)も加 算されるようになった。

(32)

[3] Anna Mõtlik, “Trust towards services of e-Government”, Master’s thesis, Tallinn university of technology, faculty of Information Technology, 2016.

[4] REGULATION (EU) No 910/2014 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 23 July 2014.

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:

32014R0910&from=EN

[5] E-RESIDENCY 2.0 WHITE PAPER,

https://s3.eu-central-1.amazonaws.com/ereswhitepaper/e-Residency+2.0+

white+paper+English.pdf

[6] 投票環境の向上方策等に関する研究会 第 3 回 , “ インターネット投票導入の 検討 ”, 2018.02.

http://www.soumu.go.jp/main_content/000535494.pdf

[7] Statistics Estonia, https://www.stat.ee/stat-population-at-beginning-of-year

図 2 自動運転の公道実験
図 10 電子投票事前検証の画面
図 13 インターネット投票導入の検討
図 14  Latitude59 会場の様子

参照

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