論 文
1.はじめに
繰延税金資産の合理性の確認については,回 収可能性,非経常的な特別な原因,課税所得の 合理的な見積り,将来の不確実性の考慮,将来 減算一時差異の解消のスケジューリングについ ての特別な留意が必要とされる(1)。経営者の見 積りや予測に恣意性が入ると,意図的に会計情 報が歪められたり,期間損益の調整が行われる 余地が生じるからである。
例えば,繰延税金資産の圧縮に伴う多額の損 失の発生や自己資本比率の低下を回避するため に,経営者が恣意的に将来課税所得を過大に見 積るといった事例等が想定される。
会計利益を増加させ損失を回避するために,
税効果会計がアーニングスマネージメントの 手法として利用されていることは,Miller et al.(1998), Phillips et al.(2003)等,米国・英 国における多くの先行研究により実証分析され ている。また,Desai et al.(2006)は分析的手 法によりインセンティブ報酬契約が租税回避行 動の決定要因になることを示し,コーポレート・
ガバナンスの基本的な品質が低い企業において は,役員報酬の業績への連動性が高まれば,節
税による企業価値向上よりも会計上の業績向上 を狙うようになると指摘している。日本におい ても,銀行業における税効果会計実務において,
自己資本比率をかさ上げしBIS基準をクリア するために,銀行が税効果会計を裁量的に適用 している点を指摘した奥田(2001),須田(2003)
等,いくつかの実証研究が行われている。
本論文では,株主が経営者と利益連動型報酬 契約を締結する場合に,経営者に対する報酬体 系が繰延税金資産の回収可能性の見積りに与え る影響を考察し,コーポレート・ガバナンスの 観点から,見積もりの妥当性を確保するための 合理的な条件を検討する。
2.モデル
プリンシパル(株主)はエイジェント(経 営 者 ) と 2 期 間 の 線 形 報 酬 契 約
を締結する。
はエイジェントに支払う報酬を控除する前の期 間 の当期損益(2), は固定報酬,
はインセンティブ係数, は第 2 期の 当期損益 に対する第 1 期の当期損益 の重 み付けを表わすものとする。 と は報酬契 約時にプリンシパルが決定し契約期間中固定さ
*早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程4年
平 野 典 男
*税効果会計を利用した利益調整とインセンティブ
れる。なお,契約期間中の途中解約や再交渉は できないものとする。
第 1 期末にエイジェントは当期の課税損失が となることを観察し,来期の期待 課税所得 を見積もって繰延税金資産
を計上し,第 1 期の当期損失 を確定する。
は税務上の欠損金となり,当該欠損金は第 2 期まで繰越可能とする(3)。
また,第 1 期,第2期を通じて当該欠損金以 外の一時差異,永久差異はないものとする(4)。
第2期にエイジェントは努力 をし て,課税所得 を生み出す。
は努力1単位あたりの限界利得,
は撹乱項であり平均 0,分散 の正規分布 に従う確率変数とする。第 2 期末,課税所得 から法人税等と,繰延税金資産の解消に伴う法 人税等調整額を差し引いて当期利益 が計上 され,エイジェントの報酬額が決定される。以 上,タイムラインは図1のとおりである。
さて,第1期末において,エイジェントの期 待課税所得は となるが,プリ ンシパルは , の何れも観察できず, 確定 後も,第 1 期末にエイジェントが見積もった期 待課税所得が妥当であったか否かを過去に遡及 して検証することは出来ないものとする。ここ で,将来課税所得に関してエイジェントがプリ ンシパルに報告するレポートを,
(1)
とする。 は,報告の誠実性を示 すパラメータであり, であれば,エイジェ ントはその合理的な見積もり を正し く報告していることを示すが,
であればエイジェントは将来課税所得を自から の見積もり額よりも過大(過小)に報告してい ることを示す。 は,プリンシパルからは観 察できない。繰延税金資産 D は,将来回収可 能とされる範囲までしか認められないので,実 効税率を とすると,
(2)
(3)
となる。第 1 期の会計情報を整理すると図2 となる。
第 2 期には,エイジェントは の努力をし,
課税所得 を計上するが,第 1 期 末の繰延税金資産の計上額との関係で当期利益
は以下の4つの場合に分別される。
(4)
(5)
(6)
(7)
契約の締結 第1期末 課税所得確定
将来課税所得 の見積もり
繰延税金資産 の計上により 当期利益確定
第2期 行動の選択
第2期末 課税所得 当期利益確定
図1.タイムライン
(4)は,繰延税金資産 を第 2 期末に 取り崩し,税引前利益から法人税等調整額とし て差し引くケースである。第 2 期の課税所得
は税務上の欠損金の絶対額 を下回るため 税金の支払いは発生しない。税務上の欠損金は 第 2 期末で繰越期限切れになると仮定している ので,実際の課税所得 がエイジェントの報 告した期待課税所得 を下回ったとしても 繰延税金資産は全額取り崩されることになる。
(5)は,第 2 期の課税所得 が税務上の 欠損金の絶対額 を上回るため,支払税額 を法人税等に計上するとともに,法
人税等調整額で繰延税金資産 を全額取り 崩す場合である。
(6)は,繰延税金資産 を第 2 期末に 取り崩し,税引前利益から法人税等調整額とし て差し引くケースである。第 2 期の課税所得
は税務上の欠損金の絶対額 を下回るため 税金の支払いは発生しない。
(7)は,第 2 期の課税所得 が税務上の欠 損金 を上回るため,支払税額 を 法人税等に計上するとともに,法人税等調整額 で繰延税金資産 を全額取り崩す場合であ る。第 2 期の会計情報を整理すると図3となる。
図2.第 1 期の会計情報 課税所得
法人税等 法人税等調整額 当期損失
繰延税金資産(期末)D
図3.第2期の会計情報 課税所得
【(4)式】 【(5)式】 【(6)式】 【(7)式】
法人税等 法人税等調整額
当期利益
前年度当期損失 繰延税金資産(期首)
繰延税金資産(期末)
3.エイジェントが将来課税所得を税務 上の欠損金の絶対額より下回ると想 定する場合
さて,以降,エイジェントはリスク回避的と 仮定し,エイジェントの努力の金銭的コストを
とする。
このとき,第 1 期末時点のエイジェントの 期待報酬は, と を変数とする2変数関数,
(8)
で表わされる。
エイジェントが負の指数効用関数をもつと仮 定すると,エイジェントの期待効用は次式とな る。
(9)
ここで, は絶対的リスク回避係数,
は確実性等価を表わす。
さて,第 1 期末の時点では,エイジェントが 想定する将来課税所得は, と なるが,エイジェントが将来課税所得を税務上 の欠損金よりも下回る(
但し は最適努力水準)と判断するとき,エ イジェントの将来課税所得に対するレポート には 2 つのケースが考えられる。
1) の場合
即ち,エイジェントの想定どおり,将来課税 所得が税務上の欠損金を下回ると報告して繰延 税金資産 を計上する場合である。この ときエイジェントの確実性等価 は以下と なる(5)。
(10)
(10)式を最大にする努力水準は,一階条件 より,
(11)
となる。
まず, のとき, となるから,
(補遺1-Ⅰ参照)の範囲内で,
と無差別に最適努力水準が決定される。これ を(10)に代入すると,最適努力を前提とする 確実性等価は次式になる。
(12)
次に, のとき,(11)を(10)に代入す ると,最適努力を前提とする確実性等価は次式 になる。
(13)
これを で微分し 1 階条件を求めると
(14)
2階条件は正となるから(6),(13)は(14)
を最小値とする厳密な凸関数となる。
のとき, となるが, の と り う る 範 囲 は
( , )( 補 遺 1
- Ⅱ 参 照 ) で あ る か ら,(13) は が
( , )の近傍で最
大になる。(グラフ1参照)
の と き, の と り う る 範 囲 は,
かつ,
ⅰ) ,
(1- > 0 のとき)
ⅱ) ,
( のとき)
ⅲ)
( のとき)
と な る の で( 補 遺 1 - Ⅲ 参 照 ), 例 え ば,
の 場 合 は,
ならば = 0 のときに は最大になり,
0 < ≦ なら
ば, が の近傍で は最大に
なるといった具合に, の大きさに よって が最大になる は変化する。(グ ラフ2参照)
2) の場合
即ち,エイジェントは将来課税所得が税務上 の欠損金の絶対額を下回ると想定しているにも かかわらず,上回ると報告して繰延税金資産を
計上する場合である。 である
にもかかわらず となってい るから過大見積り が行われたことに なる。
このときエイジェントの確実性等価 は 以下となる(7)。
(15)
これを最大にする努力水準は, と なる。これを(15)に代入すると,最適努力を 前提とする確実性等価は次式になる。
(16)
ま た, の 範 囲 は,
となる。
3) の場合と の場合の比較
(13)と(16)を比較しよう。 のとき グラフ3となるが,(13)の の範囲は
で あ っ た か ら,(13) と(16) の 交 点 = よりも の範囲は左側にある ので,(13)の最大値よりも(16)が上回る。(補 遺2参照)
従って, のとき,エイジェントは を最大にするために,将来課税所得を過大に見 積もり,繰延税金資産 を計上すること になる。
つぎに のとき,(16)は = + となり,(12)に一
致する。従って,エイジェントの確実性等価は
,
の何れであっても変らず(即ち とは無差別),
エイジェントは敢えて虚偽申告を行う動機が生 じないので,真実報告がなされる。
また, のとき,グラフ4となる。
( 即 ち ) の 場 合 は(13)の最大値は
と な る か ら, こ れ よ り
(16)を差し引くと, となるの で,将来課税所得をゼロと報告し,繰延税金資 産を計上しないこと でエイジェン トは を最大にすることができる。
ま た,
の と き ,
を満足す
るので(補遺 3 参照), が の近 傍となるときに(13)は最大になり(13)が(16)
を上回る。従って,将来課税所得を過少に報告
し,繰延税金資産 を
計上することでエイジェントは を最大に することができる。
のときは, と
なるので,(16)が(13)を上回る。従って,
将来課税所得を過大に報告し,繰延税金資産-
を計上することでエイジェントは を 最大にすることができる。
よって以下の命題が導かれる。
命題1 エイジェントが将来課税所得が税 務上の欠損金の絶対額を下回ると想定する場 合, のときにはその回収可能性を正し く見積もり,繰延税金資産 を計上する。
しかし, のときには,エイジェントの 確実性等価を最大にするために将来課税所得 を過大に申告し繰延税金資産 を計上す る。また, のときには
の 場 合 は 将 来課税所得を過少に見積もり,繰延税金資産 を計上しないか,もしくは を計上し,
の 場合は将来課税所得を過大に申告し繰延税金資 産 を計上する。
4.エイジェントが将来課税所得を税務 上の欠損金の絶対額と同額かこれを 上回ると想定する場合
エイジェントが,将来課税所得を税務上の欠 損金の絶対額と同額かこれを上回ると予想する
とき ,前章同様にエ
イジェントの将来課税所得に対するレポート には 2 つのケースが考えられる。
1) の場合
エイジェントが将来課税所得を過少に見積も り 繰延税金資産 を計上する場 合,エイジェントの確実性等価 は以下と なる(8)。
(17)
これを最大にする努力水準は,
(18)
となる。
まず, のとき, とな るから, の範囲内で, と 無差別に最適努力水準が決定される(9)。これを
(17)に代入すると,最適努力を前提とする確 実性等価は次式になる。
(19)
次に, のとき,(18)を(17)に代入す ると,最適努力を前提とする確実性等価は次式 になる。
(20)
これを で微分し 1 階条件を求めると
(21)
2階条件は正(10)となるから,(20)は(21)
を最小値とする厳密な凸関数となる。
のとき, となるが,
の
と り う る 範 囲 は
で あ る(11)か
ら,(20)は が の
近傍で最大になる。(グラフ5参照)
の と き, の と り う る 範 囲 は,
かつ,
ⅰ)
のとき)
ⅱ)
のとき)
ⅲ)
のとき)
となるが,
である(12)から,ⅰ)ⅱ)ⅲ)の何れも のときに は最大になる。(グラフ6参照)
2) の場合
エイジェントがその想定どおりに将来課税所 得が税務上の欠損金と同額かこれを上回ると 報告して繰延税金資産 を計上する場合 である。このとき, の範囲において,
繰延税金資産は の値と関わりなく と
なるので,エイジェントに虚偽報告をする動機 は生じない。従って となる。
このときエイジェントの確実性等価は(13),
(22)
これを最大にする努力水準は,
(23)
となる。これを(22)に代入すると,最適努 力を前提とする確実性等価は次式になる。
(24)
また, の範囲は と
なる。
3) の場合と の場合の比較 のとき,(20)と(24)はグラフ7とな るが,(20)の の範囲は
であったから,(20)と
(24)の交点 より
も の範囲は左側にあるので,(20)の最大値 よりも(24)が上回る(14)。
従って, のとき,エイジェントは将 来課税所得を適正に見積もり,繰延税金資産 を計上することでその確実性等価を最大 にすることができる。
=1のとき,(24)は(19)に一致するから,
過小申告をしても真実報告をしても確実性等価 は等しくなる。このため =1であれば,敢え て虚偽申告を行う動機を持たない。
0 < < 1 の と き,(20) の 最 大 値 は
となるから,
これより(24)を差し引くと, > 0となり(20)が(24)を上回る。したがっ て,将来課税所得を過小に見積もり繰延税金資 産 を計上することでエイジェント は を最大にすることができる。(グラフ 8参照) よって以下の命題が導かれる。
命題2 エイジェントが将来課税所得が税務 上の欠損金を上回ると想定する場合, ≧1の とき,その回収可能性を正しく見積もり,繰延 税金資産 を計上する。しかし, の ときには,エイジェントの確実性等価を最大に するために将来課税所得をゼロと申告し繰延税 金資産を計上しない。
7.エイジェントの努力水準の設定
さて,これまでの議論を の範囲設定で整理 すると図4となる。ところで,0 < <1の場合,エイジェント は の値を変化させることによって,その最 適努力水準を自由に設定できることになる。そ こで,エイジェントは, を最大にするた めに, , のいずれが有利 かを判断することになる。そこで
の場合は(20)と
(13),
の場合は(20)と(16)を比較することになる。
(20)から(13)を差し引くと,
となる。
これをβについての二次関数とみると の
係数は
となるので,これが正であるとき,β> 0 より,
(20)は(13)を上回る。逆に係数が負であるとき,
0 < β <
のとき,(20)が(13)を上回るが,
β> の
ときは,(13)が(20)を上回る。
同様に(20)から(16)を差し引くと,
となる。
これをβについての二次関数とみると の 係数は
と な るので,これが正であるとき,β> 0 より,(20)
は(16)を上回る。逆に係数が負であるとき,
0 <β<
の と き は(20) が(16) を 上 回 る が, β >
のときは,(16)が(20)を上回る。かくして 次の命題が導かれる。
の場合
(12)式=(16)式
(13)式
(13)式
(13)式
の場合 の場合
(20)式
(16)式
(16)式
(16)式
(24)式
(20)式 (23)式
(19)式=(24)式 の場合 (網掛け部分は採用されない戦略を示す。)
の場合
図4. の範囲設定による整理
命題 3 の場合,エイジェントは の値を変化させることによって,その最適努力 水準を自由に設定できる。リスクとその許容度 が十分に大きい場合は繰延税金資産を過少に計 上し,第 2 期の努力水準を高めることにより第 2 期の報酬を増やし確実性等価を大きくしよう とする。リスクとその許容度が十分に小さい場 合は,第 2 期の努力水準を低くし,
の 場 合 は 将来課税所得を過少に見積もり,繰延税金資 産を計上しないか,もしくは を計上し,
の場合は将来課税所得を過大に申告し繰延税金 資産 を計上する。
6.結論と今後の課題
本論文では,簡単なモデルを用いて,インセ ンティブ報酬契約が税効果会計を利用したアー ニングスマネージメントにどのような影響を与 えるか検討を行った。この結果,株主が経営者 と複数期間の報酬契約を締結するとき,インセ ンティブ係数を各期間を通じて一定にしない場 合には,経営者が繰延税金資産を過大もしくは 過少に計上する可能性があることを確認するこ とができた。
特に,損失発生年度のインセンティブ係数(ぺ ナルティ)が,業績回復が予想される次年度の インセンティブ係数(ボーナス)よりも小さい 場合は,経営者はその期待効用の最大化を図る ために,繰延税金資産が資産性を有する場合で あっても繰延税金資産を過少に計上する,或い は全く計上しないで当期損失を多大に計上し,
次年度の当期利益の底上げを図る可能性がある ことに注目したい。
従来,税効果会計に関わる利益操作について は,繰延税金資産の圧縮に伴う多額の損失の発 生や自己資本比率の低下を回避するために,経 営者が恣意的に将来課税所得を過大に見積もる 可能性について議論されることが多かったが,
これとは逆に,経営者が繰延税金資産を過少に 計上する,或いは計上せずに V 字回復を演出す ることにより自己の効用の最大化を図るといっ たタイプの利益操作があることを示唆している ように思われる。
本論文におけるモデルは,基本的にエイジェ ント一人だけのモデルであって,プリンシパル はエイジェントによる利益操作を想定せずに報 酬契約を締結し,一旦契約を締結した後はエイ ジェントに対するモニタリングや統制は行わな い前提のモデルである。従って,本モデルはコー ポレート・ガバナンスによって受ける圧力が弱 い企業に当てはまるように考えられる。今後,
プリンシパルが契約締結時にエイジェントが税 効果にかかわる利益操作を行うことを見越して 契約変数を決定する場合についての検討が必要 であろう。また,本モデルにおいては,エイジェ ントが虚偽申告を行っても私的コストがかから ないと仮定したが,会計監査や内部統制の強化 等により,虚偽申告を行うことによりエイジェ ントに私的コストがかかる場合に,エイジェン トの行動がどう変化するか検討が必要と思われ る。また,本モデルでは,利益連動型報酬契約 の対象となる利益数値に税効果会計による法人 税等調整額が算入されることを前提にしている が,実際の企業において,役員報酬の算定にあ たり法人税等調整額がどのように取扱われてい るのか確認する必要がある。これらについては 今後の課題としたい。
(補遺1) 3.1)の の範囲。
【制約条件1】 ≧ 0 (25)
【制約条件 2】
(26)
【制約条件 3】
(27)
Ⅰ. =1の場合
(26)(27)に =1を代入し整理すると,制 約条件 1,2,3 を満たす の範囲は,
但し, となる。
Ⅱ. >1の場合
【制約条件1】
【制約条件 2】 (26)を変形すると次式となる。
なお, より と
なるから, である。
【制約条件 3】
となるから,二次方程
式 は2実解
をもつので,(27)を満 たす の範囲は,下記となる。
従って,3 つの制約条件を満たす の範囲は,
Ⅲ. <1の場合
【制約条件1】
【制約条件 2】 (26)を変形すると次式となる。
なお,
である。
【制約条件 3】
① のとき
二次方程式 は
2実解 をもつので,(27)を 満たす の範囲は,下記となる。
② のとき
二次方程式 は
重解 をもつので,(27)を満足する の範囲は,
① のとき
二次方程式 は
実数解をもたないので,不等式(27)の解は全 ての実数となる。
上記3つの制約条件に加え, <1のときに は,以下の制約条件が追加される。
【制約条件 4】 の仮定より,
を満たす の
範囲は, (28)
以上より, の範囲は,
かつ,
ⅰ)
のとき)
ⅱ)
のとき)
ⅲ)
のとき)
(補遺 2)
1)Step 1 (13)式と(16)式のグラフの 交点を求める。
(16) か ら(13) を 差 し 引 き 0 と 置 く と,
これを について整理すると
となるから,
であるとき
2)Step 2 s>1のとき,
であることを示す。
とすると,相加平均と相乗平 均の関係より
と な る の で,両辺を 2 倍し を加えると,
と な る。これを整理すると
となるので,
従って, のとき,
(証終)
(補遺 3)
の と き に
を満たす条件
Step 1 を満足する の条 件
より分母は正となるから,分子が 正となるように を定めればよい。
Step 2 とな
る の条件
より,
を満足 しなければならないが,両辺は正であるから二 乗して整理すると,
となる。
二 次 方 程 式
の 判 別 式 は となるから,2 実解
をもつので,不等式 を満足 する の範囲は, より
Step3
であるから,
Step1,Step 2をともに満たす の範囲は,
となる。
なお, のとき,
で あ る か ら( 補 遺 2 参 照 ),
で あ
れば, を満足する。
注
⑴ 内部統制の評価及び監査に関する実施基準で は,繰延税金資産(負債)の計上プロセスが財務 報告に及ぼす影響が最終的に大きくなる可能性が あるため,重要な勘定科目として個別に評価対象 に加えている。
⑵ 循環計算を回避するためエイジェントに支払う 報酬を控除する前の当期利益を報酬算定の基礎額 とする。
⑶ 通常 7 年間の繰越が可能。
⑷ したがって,この前提では課税所得と税引前利 益は一致する。
⑸ ⑷ 式のケースに該当
⑹
⑺ ⑹ 式のケースに該当。
⑻ ⑸ 式のケースに該当
⑼ 補遺 1 -Ⅰと同様の手順で の範囲を導くこ とができる。
⑽
⑾ 補遺 1 -Ⅱと同様の手順で の範囲を導くこ とができる。
⑿ 補遺 1 -Ⅲと同様の手順で確認できる。
⒀ ⑺ 式のケースに該当
⒁ 補遺 2 と同様の手順で導くことができる。
参考文献
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・日本公認会計士協会(1999)『繰延税金資産の回
収可能性の判断に関する監査上の取扱い』監査委 員会報告第 66 号。
・金融審議会金融分科会第二部会『自己資本比率規 制における繰延税金資産に関する
算入の適正化及び自己資本のあり方について』
・企業会計審議会(2007)『財務報告に係る内部統 制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内 部統制の評価及び監査に関する実施基準の設定に ついて(意見書)』
・一ノ宮士郎(2005)「税効果会計と利益操作―倒 産企業における実証分析―」『経済経営研究』
Vol.25 No.6 日本政策投資銀行設備投資研究所
・奥田真也,山下裕企,米谷健司(2006)『会計利 益と課税所得の差異(BTD)の傾向と決定要因:
3 種の BTD の比較』納税協会連合会
・米山正樹(2005)「税効果会計の導入と現行ルー ルの内的な整合性」『学習院大学経済論集』第 41 巻第 4 号
・奥田真也(2001)「繰延税金とその配分法の市場 における解釈-銀行決算をもとに」『一橋論叢』
第 125 巻第 5 号,32 - 47
・須田一幸(2003)「銀行の税効果会計実務と証券 市場」『年報経営分析研究』第 19 号,9 - 18
・Desai,M., and D.Dharmapala (2006) “Corporate tax avoidance and high-powered incentives”, Journal of Financial Economics 79, 145-179
・Miller,G., and D.Skinner(1998) “Determinants of the Valuation Allowance for Deferred Tax Assets Under SFAS No.109” The Accounting Review73, No.2 213-233
・Phillips,J.,M.Pincus and S.Rego (2003) “Earnings Management:New Evidence Based on Deferred Tax Expense” The Accounting Review78, No.2 491- 521