九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
海洋における希土類元素の炭酸塩スキャベンジング
西野, 博隆
http://hdl.handle.net/2324/2236033
出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 西野 博隆
論 文 名 Carbonate scavenging of rare earth elements in the oceans
(海洋における希土類元素の炭酸塩スキャベンジング)
論文調査委員 主 査 九州大学 教授 赤木 右 副 査 神戸大学 教授 寺門 靖高 副 査 九州大学 准教授 石橋純一郎
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
海洋の希土類元素(ここではLaからLuまでの14元素を指す)は深度の増大につれ濃度が増 加する栄養塩型の濃度分布を示す。その分布には未だ理解されていない特徴が多い。例えば、なぜ 一般の栄養元素の分布と異なり、表層において希土類元素の濃度がほとんどゼロにならないのか。
何が表層で希土類元素を吸収しているのか。なぜ、軽希土類(LaからNd)濃度が多くの海洋で中 層域で低くなるのか。なぜ、それらの元素の平均滞留時間が短いのに、例えば Nd の同位体比とケ イ酸濃度との相関のように平均滞留時間が長くなくては説明が困難な特徴を示すのか。このような 特徴は溶存成分と粒子成分との相互作用で理解されるはずであるものの、粒子のどの成分に希土類 元素が存在し、分布に影響しているのか、未だ良く分かっていない。
西野君は、このような希土類元素を巡る海洋化学の問題を第一章で概観した上で、希土類元素の 鉛直分布を理解するために、新しい二つのアプローチを採用した。二章と三章ではそれぞれのアプ ローチについて論じている。一つ目のアプローチでは、実際の報告されている希土類元素の鉛直分 布のデータと栄養元素(SiとP)の鉛直分布のデータを組み合わせ、表層で吸収される希土類元素 の組成と深層で吸収される希土類元素の相対分配定数を求めるアルゴリズムを作り、計算によって、
太平洋、大西洋、インド洋で、表層で希土類元素を吸収するプランクトン種を推定し、深層で吸収 される希土類元素の相対比を求めた。その結果、太平洋ではケイ素が、大西洋ではPに代表される プランクトンの活動により、表層水から希土類元素が吸収されていること、一方深層では、スキャ ベンジされる割合が炭酸塩の飽和深度以深で減少することと、スキャベンジされる部分の相対分配 定数の特徴が実験的に求められた炭酸塩の分配定数の示す特徴と類似していたことから、炭酸塩に よるスキャベンジングが働いているという結論を導いた。以上は、海洋の希土類元素の鉛直分布は、
表層と深層で異なる粒子成分が介在しているとすれば、比較的簡単なメカニズムにより説明し得る ことを示した。
二つ目のアプローチでは、一つ目のアプローチでその重要性が浮き彫りにされた炭酸塩スキャベ ンジングについて、海洋での議論に有効な希土類元素の炭酸塩への分配定数を求める実験系を考 案・応用し分配定数求めた。今まで、希土類元素の炭酸塩への分配定数はいくつか報告されている が、求めた方法により、その特徴、絶対値に大きなばらつきがあり、どの値が海洋で実際に有効か 疑問であった。西野君は、海洋においては、生物の作る炭酸塩の殻が沈降することで分配が開始し、
それが炭酸塩飽和深度を越す時に今度は溶解に転じることに注目し、海水にサイズの異なる炭酸塩 を加えて希土類元素を分配させ、次にそれを二酸化炭素の分圧を変えることでその炭酸塩粒子を溶 解させる実験系を考案した。この方法で、求めた分配定数は、一つ目のアプローチで得られた深層
での分配についての特徴をよく再現し、軽希土類元素で相対的に大きいことが分かった。さらに、
分配定数は系の二酸化炭素分圧で変化し、この変化が熱力学計算で求められる希土類元素の炭酸錯 体の相対存在度の変化で説明できることから、炭酸塩の分配は実験時間程度の速やかさで進行する ことを示した。
公聴会においては、さらに研究背景、成果についての質疑応答を行い、研究者として自立的に研 究する能力を確認した。
以上の西野君の研究は海洋の希土類元素の分布を理解する際に、炭酸塩粒子の演じる役割が重要 であることを如実に物語っている。同君の研究成果は、海洋での希土類元素の循環を明らかにする 糸口となるだけでなく、マンガン団塊の成因、レアアース泥の堆積など希土類元素に関連する様々 な現象についての議論に影響を与えることが期待される。よって、同氏は博士(理学)の学位を受 ける資格があると認める。