中国ステンレス業界
【要約】
中国は世界最大のステンレス生産・消費国。2006 年ごろからの急激な成
長により、西欧や日本などを凌駕する地位を獲得。
中国が純輸出国となった 2010 年以降、ステンレスの国際需給は悪化、国
際市況は下落トレンドを辿っている。
ステンレス価格への影響が大きいニッケルは、鉱石産出国での製錬能力拡
大や中国でのニッケル銑鉄の生産増により、供給過剰に陥っている。
牽引役である中国のステンレス市場は成熟に向かうため、世界のステンレ
ス市場の成長は需給ともに鈍化する見込み。生産能力増が需要増を下回っ
て推移することにより、供給過剰は縮小に向かうと予想される。
国内外でニッケルの供給能力は拡大する一方、需要が伸び悩むため、ニ
ッケルは当面供給過剰が続く。ただし、中長期的には、生産能力の増加
が小幅に留まるとみられることから、需給バランスの改善が見込まれる。
ステンレス価格は、需給環境の改善により底打ちする見込みであるが、
改善幅は限定的とみられ、2006~2007 年頃の高値水準の回復は期待薄。
中国はニッケル価格高騰に対応して、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル
銑鉄の生産を拡大させた。低価格原料の存在により、中国のステンレスメ
ーカーの価格競争力は高く、他国比やや高い利益率につながっている。
しかし、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰
や、ニッケル国際市況の低迷を考慮すれば、今後は国際的な水準に収斂
して行く可能性が高いと考えられる。
2014 年 1 月
HKIR.2013-63
【香港・上海駐在報告】
目 次 1. 中国ステンレス業界 ...3 (1) 市場規模...3 (2) 業界構造...5 (3) 用途別の需要構造...6 (4) ステンレスの輸出入状況...7 2. 足元の市場動向 ...8 (1) 需給動向...8 (2) ステンレス市況...9 (3) ステンレスのマテリアルフロー ...10 (4) 価格競争力...11 3. 今後の見通し ...12 (1) 需給見通し...12 (2) ニッケルの需給見通し...15 (3) 市況見通し...15 4. 中国ステンレスメーカーの業績 ...16 5. 結論...17
1. 中国ステンレス業界 (1) 市場規模 ◇ 中国は世界最大のステンレス生産・消費国 中国のステンレス市場は、経済の急成長を背景に 2006 年ごろから急速に拡大し、生 産・消費量で西欧やアジア(除く中国)を抜いて世界一となっている(図表 1)。 ステンレスの見掛消費量は、リーマンショック以降、4 兆元の大型景気対策による建 設ラッシュに加え、販売支援策で拡大した家電や自動車に対する需要が下支えとなり、 年平均伸び率は 2004 年~2008 年の 9.6%から、2008~2012 年には 19.9%に加速(図 表 2)。 図表1:中国及び各地域におけるステンレス生産量・見掛消費量の推移 生産量 20,690 22,840 24,570 24,546 28,707 28,147 26,219 24,905 31,094 33,621 35,363 5.5% 西欧・アフリカ 8,628 9,043 9,422 8,795 10,000 8,669 8,272 6,449 7,878 7,883 7,829 -1.0% 中・東欧 279 322 318 310 376 364 333 237 340 391 359 2.5% 米州 2,735 2,830 2,933 2,688 2,951 2,604 2,315 1,942 2,609 2,486 2,368 -1.4% 中国 1,140 1,780 2,362 3,160 5,299 7,206 6,943 8,805 11,256 14,091 16,087 30.3% アジア(除く中国) 7,908 8,865 9,535 9,593 10,081 9,304 8,356 7,472 9,011 8,770 8,720 1.0% 見掛消費量 20,690 22,840 24,570 24,546 28,707 28,147 26,219 24,905 31,094 33,621 35,363 5.5% 西欧・アフリカ 6,818 7,013 7,783 7,021 8,394 7,369 7,109 5,220 6,972 6,953 6,698 -0.2% 中・東欧 453 467 383 378 899 871 897 672 869 1,087 1,047 8.7% 米州 3,479 3,282 3,805 3,518 4,079 3,578 3,328 2,457 3,567 3,624 3,686 0.6% 中国 3,475 4,451 4,941 5,833 6,821 7,506 7,139 9,046 10,796 12,751 14,765 15.6% アジア(除く中国) 6,158 7,306 7,508 7,495 8,176 8,448 7,366 7,211 8,530 8,812 8,853 3.7% その他 307 321 151 301 338 376 380 299 361 394 315 0.3% 2002-2012 年平均伸び率 2012 2011 2010 2005 2004 (千トン) 2002 2003 2006 2007 2008 2009 (資料)国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)、中国金属材料流通協会ステンレス分会(CSSC)資料をもとに 三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表2:中国におけるステンレス生産量・消費量・輸出入量の推移 -3,000 2,000 7,000 12,000 17,000 22,000 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 (千トン) 生産量 輸入量 輸出量 見掛消費量 9.6% 19.9% (資料)CEIC、新日鐵住金ステンレス資料をもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
こうした需要の急増を受け、中国は積極的に生産能力を増強。その結果、2006 年に は世界一のステンレス生産国となり、2012 年の生産量は 2006 年の約 3 倍の 1.6 億ト ンに達し、世界全体の 45%を占めている。なお、中国以外の主要生産国の生産量を みると、インドを除き減少基調を辿っている(図表 3)。 図表3:世界主要ステンレス生産国における生産量の推移 中国 5,299 11,256 14,091 16,087 45% 20% 日本 4,073 3,427 3,247 3,166 9% -4% インド 2,006 2,022 2,163 2,279 6% 2% 韓国 2,278 2,048 2,157 2,167 6% -1% 米国 2,460 2,201 2,074 1,977 6% -4% イタリア 1,832 1,583 1,602 1,696 5% -1% ドイツ 1,724 1,509 1,502 1,313 4% -4% ベルギー 1,522 1,306 1,241 1,241 4% -3% 台湾 1,724 1,514 1,203 1,109 3% -7% フィンランド 1,303 998 1,003 1,078 3% -3% 上位10カ国合計 24,221 27,864 30,283 32,113 91% 5% 世界合計 28,706 31,090 33,621 35,363 100% 4% 2010 2006 (千トン) 2006-2012 年平均伸び率 シェア 2012 2011 (資料)ISSF データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
0% 20% 40% 60% 80% 100% 韓国 欧州 台湾 米国 中国 2012年 (上位1社) (上位4社) (上位2社) (上位3社) 2007年 (上位1社) (2) 業界構造 ◇ 上位集中度の低い業界構造となっている 世界市場における 2012 年の上位 10 社の市場シェアは 66%となっているものの(図 表 4)、地域別でみると、西欧では合従連衡を経て現在の主要 3 社へ集約しており、 韓国や台湾においても、大手 1 社が市場シェアの 6 割以上を占めるなど、上位集中 度の高い業界構造となっている(図表 5、次頁図表 6)。 一方、中国では、中国金属材料流通協会によれば、依然として 200 社超のステンレ スメーカーが参入し、製造技術面で劣り、老朽化した小規模の生産設備の有する中 小事業者が多く存在しているのが実情であり、上位集中度は低い。 かかる状況下、中国政府は、老朽化した製造設備を抱える小規模事業者の再編・淘 汰を促進する政策を打ち出しており、今後、大手企業への集約が進展するとみられ る。 図表4:世界・中国ステンレスメーカーランキング(2012 年) (百万トン、%) 生産量シェア 生産量シェア 太鋼ステンレス 3.1 9% 太鋼ステンレス 3.1 18% POSCO・張家港POSCOステンレス 3.0 8% 宝鋼集団(上鋼五廠、宝鋼徳盛含む) 2.7 15% 新オウトクンプ 2.7 8% 青山控股 1.6 9% 宝鋼集団(上鋼五廠、宝鋼徳盛含む) 2.7 7% 聯衆(広州)ステンレス 1.5 8% アセリノックス 2.2 6% 張家港POSCOステンレス 1.1 6% アペラム 1.9 5% 酒泉鋼鉄 1.0 6% 燁聯鋼鉄・聯衆(広州)不銹鋼 1.8 5% 四川西南ステンレス 0.7 4% 青山控股 1.6 4% 北海誠徳ニッケル業 0.6 3% AST 1.2 3% 河南青山金匯ステンレス 0.6 3% ジンダルステンレス 1.1 3% 呉航不銹鋼 0.6 3% 上位10社合計 23.3 66% 上位10社合計 13.3 76% 世界合計 35.4 100% 中国合計 17.6 100% 中国 世界 (資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表5:各地域におけるステンレス業界集中度 (資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会、各社資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
2012
ALZ Ugine J&L Specialty Steel Fabrique de Fer du Charleroi
Acesita Outokumpu
Avesta British Steel Stainless
Thyssen Krupp
AST Acerinox North American Stainless
Columbus 2000 1996 1998 1994 1990 1992 新オウトクンプ アペラム アセリノックス 図表6:欧州ステンレス業界における再編動向
(資料)ISSF、Hatch Beddows 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
(3) 用途別の需要構造 ◇ 中国のステンレス生産量は国内消費の他、海外市場動向にも左右される ステンレスの用途別の需要構造をみると、中国では「厨房・家電」と「建設」の両 需要分野の全体に占める割合が、欧米やアジア(除く中国)よりも高く、アフリカ 諸国などを含むその他地域と同水準となっている(図表 7)。 これは、中国におけるステンレスの用途が発展段階にあるためで、今後、消費者の 収入増や産業構造の高度化に伴い、輸送用機器や産業用機器、石油化学といった分 野での需要拡大が見込まれる。 なお、輸出依存度の高い厨房・家電分野がステンレス消費量の 4 割超を占めている ことから、中国におけるステンレス生産量は、国内市場のほか、海外市場の影響を 受けやすい構造といえよう。 図表7:地域別にみた用途別の需要構造 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 世界全体 中国 アジア 米州 欧州 その他 その他 輸送用機器向け 産業用機器向け 石油化学向け 建設向け 厨房・家電向け (注) (除く中国) (注)「厨房・家電向け」のステンレス需要は、国内市場向け製品のほか、海外市場向けの製品も含む。 (資料)SMR、Aperam 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
(4) ステンレスの輸出入状況 ◇ 中国の輸出拡大によりアジアは純輸出地域へ 世界のステンレス取引の構造をみると、西欧とアフリカは引き続き純輸出地域である ものの、アジアの輸出量が近年大幅に拡大(図表 8)。 これは、中国において需要の急増を受けて、積極的に生産能力が増強されたことが大 きい。中国は、かつては不足分を輸入していたが、2010 年には純輸出国に転じ、足元 ではアジア各国のほか、北米や欧州にも輸出。なお、ニッケルなど原料について輸入 に依存している状況は不変。 図表8:地域別ステンレス純輸出量の推移 -3,000 -2,500 -2,000 -1,500 -1,000 -500 0 500 1,000 1,500 2,000 NAFTA 中南米 西欧 東欧 中東 アフリカ アジア 中国 (千トン) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 純輸出 純輸入 うち中国 (資料)ISSF、中国金属材料流通協会ステンレス分会データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
2. 足元の市場動向 (1) 需給動向 ◇足元改善がみられるものの、供給過剰が続く 2002 年から 2012 年までの世界のステンレス需要は、大半の地域で消費量が緩やかな 伸びにとどまるなか、需要の急増する中国が牽引し、年平均 5.5%の伸び率で成長(前 掲図表 1)。 一方、供給量は、中国が積極的に生産能力を増強したため(図表 9)、需要を上回る ペースで拡大。世界的に供給過剰な状態が続いている。 こうした状況下、世界大手各社は生産能力の増強を抑制するとともに、生産調整に 取り組んだことから、近年では生産設備の稼働率が緩やかに回復しているものの、 稼働率は依然として 8 割程度に留まっており、供給過剰は解消されていない(図表 10)。 図表9:世界における生産能力増加量 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 2000-2005 2005-2010 (千トン) 欧州 中国 その他 (資料)Aperam データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表10:世界における過剰生産能力及び稼働率の推移 0 3,000 6,000 9,000 12,000 15,000 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 (千トン) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 生産能力過剰分 稼働率 (資料)ISSF データをもとに三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
-500 0 500 1,000 1,500 2,000 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 生産量 消費量 余剰分 (千トン) 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 LMEニッケル現物価格(左軸) EU取引価格(右軸) アロイサーチャージ(右軸) (ユーロ/トン) (ユーロ/トン) 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 '09 '10 '11 '12 '13 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 LMEニッケル現物価格(左軸) 中国無錫(右軸) (ユーロ/トン) (ユーロ/トン) (2) ステンレス市況 ◇ ステンレスの生産コストの大半はニッケル 中国における金属専門の調査会社(安泰科) が纏めたステンレス生産のコスト構造をみ ると、ニッケルが全体に占める割合は 85% を超えている(図表 11)。このため、ステ ンレス価格はニッケル価格の変動に影響を 受けやすい構造となっている。 ◇ ステンレス価格はニッケル価格と連動して、足元下落基調 2007 年に大きく高騰したニッケル市況は、2011 年以降、中国を除いて世界的にステ ンレス需要が低迷していることで LME 在庫が積み上がり、軟調に推移しており(図 表 12、13)、ステンレス市況も、つれて下落基調を辿っている(図表 14、15)。 図表12:ニッケル在庫・価格の推移 図表13:世界ニッケル需給状況の推移 図表14:ニッケルと欧州ステンレス価格の推移 図表15:ニッケルと中国ステンレス価格の推移 図表11:ステンレス生産のコスト構造 ニッケル含有原材料 フェロクロム: 3.7% その他の合金: 2.0% 人件費: 1.4% 燃料・電力費: 1.2% 補助材料: 1.1% その他: 3.4% ニッケル含有原材料 87.2% (資料)安泰科資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 0 10,000 20,000 30,000 40,000 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 0 50,000 100,000 150,000 200,000 在庫量(右軸) LMEニッケル現物価格(左軸) (年) (トン) (ユーロ/トン) (資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 (資料)INSG、ISSF データより三菱東京 UFJ 銀行企業 調査部作成
(3) ステンレスのマテリアルフロー ◇ 中国は、原料の大半を輸入に依存しているが、ニッケルは供給過剰 中国はニッケルやクロム、マンガンといっ たステンレス生産に必要な金属資源が少 なく、原料の輸入依存度が高い(図表 16)。 しかしながら、中国では製錬能力の拡張が 続くなか、近年、低品位ニッケル鉱を用い たニッケル銑鉄の生産量も拡大したことに 加えて、地金輸入量も上昇しているため、 ニッケルの供給は過剰となっている(図表 17)。 図表17:中国におけるニッケルのマテリアルフロー (資料)安泰科、石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表16:中国ニッケル鉱石自給率の推移 0 200 400 600 800 1,000 '00 '02 '04 '06 '08 '10 '12 0% 20% 40% 60% 80% 100% 純輸入量 生産量 自給率(右軸) (千トン (資料)CEIC データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 ステンレス 480 電気メッキ 45 合金鋼・機械 45 *: 金属量ではなく、みかけ量 その他 30 #: 中間製品におけるみかけ量 ニッケル鉱石 ニッケル ( 単位:千トン) 国内生産 国内生産 国内消費 90 446 600 輸入 輸入 輸出 91 / 411# 中間製品輸出入 320* 466 278 -33 余剰分
0 10,000 20,000 30,000 輸入地金 輸入フェロニッケル NPI 10% NPI 1.7% (米ドル/トン) x%:ニッケル含有率 ニッケル銑鉄 10% ニッケル銑鉄5% ニッケル銑鉄 1.7% 輸入地金 国産地金 輸入 フェロニッケル 国内 304スクラップ 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 '09 '10 '11 '12 '13 中国無錫 EU取引価格 (ユーロ/トン) (4) 価格競争力 ◇ 中国のステンレス鋼の価格競争力は欧州を上回っている 中国のステンレス価格は、2009 年以降、大半の時期において欧州の市況を下回って いる。2010 年に中国がステンレスの純輸出国となって以来、中国のステンレスメー カーの採算価格は欧州メーカーを下回っており、欧州メーカーは、中国メーカーに合 わせて価格の引き下げを余儀なくされているのが実情。(図表 18)。 ステンレス生産に使用されるニッケル原料としては、ニッケル地金、フェロニッケル、 ニッケル銑鉄などが挙げられる。このうち、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄 は原料としては最も安価(図表 19)。中国では、価格の高騰したニッケルの代替原 料として、低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄の生産量を増加させることで、価 格競争力を高めてきた。 図表18:中国と欧州のステンレス価格推移 図表19:種類別ニッケル原料価格の比較(純ニッケルベース) (資料)青山鉱業資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 (資料)Bloomberg データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部にて作成
3. 今後の見通し (1) 需給見通し ◇ 世界需要の伸び率は鈍化する見込み ステンレスの世界需要は、中国が牽引する形で拡大し続けるとみられるものの、中国 のステンレス市場は成熟に向かうことから、伸び率は鈍化する見通し(図表 20)。 中国以外の地域では、米州及び EMEA のステンレス需要は景気回復に伴い緩やかに 成長する見通し。特に、米州では、自動車や建築などの需要部門での実需増が後押し となり、安定成長を遂げよう。EMEA についても、欧州においての景気が緩やかなが らも持ち直し局面にあることから需要回復が見込まれる(図表 21)。 図表20:世界ステンレス消費量の見通し 2013~2017年平均伸び率 4.0% 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 2010 2011 2012 2013予 2014予 2015予 2016予 2017予 (千トン) EMEA 米州 アジアパシフィック (資料)SMR、Outokumpu、国際ニッケル研究会データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表21:地域別ステンレス消費量の伸び率見通し -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 2012 2013予 2014予 欧州・アフリカ 米州 アジア 中国 世界全体 (資料)SMR、Outokumpu、国際ニッケル研究会データより三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成
◇ 中国のステンレス需要は、経済成長と需要構造の変化により増加基調を辿ろう 中国のステンレス需要は、成熟に向かうことからこれまでのような大きな伸びは見 込めないものの、経済成長に伴う 1 人あたり消費量の増加や用途分野の拡大などが 下支えとなり、引き続き拡大基調を辿る見通し。実際、中国における 1 人あたりの ステンレス消費量は日本や EU などと比べても依然として低い水準にあり、今後も 需要拡大の余地があるといえよう(図表 22)。 また、製品別にみると、需要の牽引役が消費者向け製品から工業向け製品にシフト するとみられ、200 番系に対する需要は減少する一方、400 番系は石油・ガスや交通 運輸向けなどの需要増に支えられ、需要は一段と拡大しよう(図表 23)。 図表22:国別人口当たりステンレス見掛消費量(注) 0 5 10 15 20 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 日 EU (Kg) 中国 先進国(2012年) 見通し 日 EU (注)2013~2014 年は図表 22 のステンレス消費量伸び率と国連による人口見通しで計算した数値。 EU の数値には、トルコを含む。 (出所)ISSF、UN、中国金属材料流通協会ステンレス分会、日本鉄鋼連盟、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行 企業調査部作成 図表23:中国における製品別ステンレスの消費見通し (資料)ジンダルステンレス、各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 主な添加元素 クロム マンガン ニッケル クロム クロム クロム ニッケル 二相系 400番系 (フェライト・マルテンサイト) 300番系 (オーステナイト) 200番系 (オーステナイト) 12% ・耐蝕・耐熱性が高く、幅広く利用されている ・厨房用品、建築関連、鉄道車両部品、石油ガス輸送、 食品、発電設備など ・耐蝕・耐熱性に優れ、300番系と比べて多少安価だが 高い技術力が必要 ・鉄道車両・産業機器部品、石油ガス輸送設備など ・オーステナイトとフェライトの二つの金属組織(二相) を持ち、耐応力腐食割れ性に優れるうえ、強度も高い ・海水用復水器などの公害防止機器、化学プラント装置 など 種類 ・加工性に優れ低価格だが、ニッケル含有量が少ない ため耐蝕性に劣る ・厨房用品、建築関連など 35% 33% 28% 52% 54% 56% 8% 10% 5% 3% 1% 2008 2015予 2020予 特徴・主な用途
0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 2010 2011 2012 2013予 2014予 2015予 2016予 見掛消費量 生産量 2013~2017年の平均伸び率5.2% 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 2010 2011 2012 2013予 2014予 2015予 2016予 2017予 (千トン) ◇ 世界全体の生産量の伸びは鈍化する見通し 中国において生産能力の拡大が減速していることに加え、供給過剰な市場環境を受 けて、欧州メーカーが業界再編などを通じた生産能力削減を進めていることで、今 後の年平均伸び率は 5.2%へ鈍化しよう(図表 24、25)。 図表24:世界におけるステンレス生産能力増加の見通し (資料)Aperam 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 図表25:世界におけるステンレス生産量の見通し (資料)ISSF、ResearchInChina 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 ◇ 需給環境は緩やかながら改善に向かう見通し 需給環境をみると、中国では、今後、ステンレスの需要・供給ともに伸び率が鈍化 するとみられるものの、需要の増加が供給増を若干上回るとみられるため、需給環 境は改善に向かう見通し。世界の需給環境についても、中国市場の動向を反映して、 改善に向かおう(図表 26)。 図表26:世界ステンレス生産量の伸び率見通し (資料)51bxg 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 能力 増強 のピ ッチ が鈍化 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 2000-2005 2005-2010 2010-2015予 欧州 中国 その他 (千トン)
(2) ニッケルの需給見通し ◇ 当面供給過剰が続くものの、中長期的には改善が見込まれる 原料であるニッケルの供給状況をみると、足元積み上がっている在庫に加え、大型 生産設備の稼動による 20 万トンの生産能力増が予定されているため、当面、供給過 剰が続こう。ただし、中長期的には生産能力の増加が小幅に留まるとみられること から、需給バランスの改善が見込まれる(図表 27)。 図表27:世界におけるニッケル需給バランスの見通し 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 2010 2011 2012 2013予 2014予 2015予 2016予 -30 0 30 60 90 120 生産量 消費量 余剰分 (千トン) (千トン) (資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 (3) 市況見通し ◇ 価格は底打ちし、緩やかに回復すると見られるが、高値水準の回復は期待薄 ステンレス市況は、世界的な需給バランスの改善に加えて、主原料のニッケルにつ いて、インドネシアにおけるニッケル鉱石の輸出制限の影響に加えて、上述の通り 2014 年半ば以降に需給環境の改善から緩やかな上昇が見込まれることから、底打ち し緩やかな回復基調を辿る見通し(図表 28)。 もっとも、国内外においてステンレスの供給能力が過剰である状況に変わりはない ことから、改善幅は限定的とみられ、2006~2007 年の高値水準への回復は期待薄。 図表28:ニッケル価格見通し 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 05/3 07/3 09/3 11/3 13/3 15/3 (米ドル/トン) 見通し
4. 中国ステンレスメーカーの業績 ◇ 中国メーカーの利益率は他国メーカー比やや高い 主要企業の業績推移をみると、中国メーカーの利益率は他国の大手メーカーを上回 っている(図表 29)。 これは、前述の通り、中国メーカーが低品位ニッケル鉱を用いたニッケル銑鉄を原 料として利用することでコスト競争力の強化につなげていることに加えて、中国メ ーカーが近年、商社を介さずユーザーへの直販比率を高めてきたことが大きいとみ られる。 図表29:中国・世界大手ステンレスメーカー利益率の推移 -20% -10% 0% 10% 20% 2008 2009 2010 2011 2012
Acerinox Outokumpu Aperam 太鋼 ステンレス 宝鋼集団( 注 ) 撫順特鋼 世界大手 中国メーカー (注)宝鋼集団のステンレス事業は、2012 年設立の非連結子会社へ移管されているため、同集団の連結決算に含まれ ていない。 (資料)各社資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部作成 ◇ 今後は利益率の低下が懸念される しかしながら、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰に加え て、ニッケル地金の国際市況の低迷によりニッケル銑鉄の価格競争力が弱含むとみられ ることから、中国メーカーの利益率は今後国際的な水準に収斂していく可能性が高いと 考えられる。
5. 結論 ◇ 中国ステンレス業界の現状 中国のステンレス業界は、技術力や需要分野の面において先進国に遅れを取ってい たものの、2006 年ごろから生産能力を急速に拡大し、世界最大のステンレス生産国 となり、2010 年には純輸出国に転じている。 その一方、中国製ステンレスの急増を背景に国際市場は需給環境が悪化し、中国が 純輸出国となった 2010 年以降、市況は下落基調を辿っている。 中国は、ステンレスの主原料となるニッケル調達を依然として輸入に依存している ため、ステンレス価格はニッケル価格との連動性が強いが、ニッケルは、鉱石産出 国での製錬能力拡大や国内でのニッケル銑鉄の生産増により、現状、供給過剰に陥 っている。 ◇ 需給見通し 今後の需給動向をみると、牽引役である中国のステンレス市場は成熟に向かうため、 世界のステンレス市場は需要と供給ともに成長率が鈍化する見込み。生産能力増は 続くとみられるが、需要増を下回るため、供給過剰は縮小に向かうと予想される。 国内外でニッケルの供給能力は拡大する一方、需要が伸び悩むため、ニッケルは当 面供給過剰が続く。ただし、中長期的には、生産能力の増加が小幅に留まるとみら れることから、需給バランスの改善が見込まれよう。 ステンレス価格は、需給環境の改善により底打ちする見込みであるが、改善幅は限 定的とみられ、2006~2007 年頃の高値水準の回復は期待薄。 ◇ 中国主要ステンレスメーカーの業績 中国ステンレスメーカーは商社を介さない直販比率を高めてきたほか、低品位ニッ ケル鉱を用いた低コストのニッケル銑鉄の使用により国際市場においても高いコス ト競争力を有してきたことから、利益水準は他国メーカーよりやや高い。 しかし、足元の中国国内におけるステンレスやニッケル銑鉄の供給過剰や、ニッケ ル国際市況の低迷による原料価格差の縮小を考慮すれば、今後は国際的な水準に収 斂して行く可能性が高いと考えられる。 以 上 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関 しては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情 報に基づいて作成されていますが、三菱東京 UFJ 銀行はその正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに 変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作権法により保護されております。 全文または一部を転載する場合は出所を明記してください。