• 検索結果がありません。

資源展開戦略に関する一考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "資源展開戦略に関する一考察"

Copied!
31
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 9 8 0年代から9 0年代にかけて,米国では不況の波が押し寄せ,企業はその 組織改革を迫られることになった。その際,多くの企業は 「縮小均衡」 を図っ た。経営者達は,こぞってダウンサイジングという形での,リストラクチャ リングとリエンジニアリングを進め,その一環として,大規模な人員削減を

資源展開戦略に関する一考察

合 力 知 工

はじめに

Ⅰ.資源展開戦略の構成要素と経営資源の分類 1.資源展開戦略の構成要素

2.経営資源の分類 3.情報的資源の特殊性 4.経営資源の定義に関する考察

Ⅱ.E.T.ペンローズの経営資源用役論と人的資源の特殊性 1.E.T.ペンローズの経営資源用役論

2.人的資源の特殊性

Ⅲ.経営資源の配分

1.H.I.アンゾフの成長ベクトル

2.ボストン・コンサルティング・グループのPPM 3.多角化戦略を成功に導く要因に関する考察

Ⅳ.コア・コンピタンス経営の可能性

1.情報的資源の価値を維持・高揚させるためのオーバー・

エクステンション戦略

2.組織学習によるコア・コンピタンスの形成

−43−

( 1 )

(2)

断行した。

周知のように,企業の事業や資産,設備の収益性を測る指標である投資利 益率は,投下した資本に対して得られる利益の割合として表される(要する に利益が分子,投下した資本が分母となる)が,この割合を高める方法は2 つある。つまり,分子を増やすか,分母を減らすかである。分子を増やすに は,現在の事業を見直し,新しい事業の機会を見極める能力や顧客ニーズの 変化を読み取る能力など高度な力が必要であるが,分母を減らすのは,例え ば人員削減などにより簡単に実現可能となる。

ある時期の業績結果としての数字だけをみれば,経営者としての戦略の成 功度は前者も後者も同じように思えるかもしれないが,企業の持続的な成長 を考えれば,前者と後者とでは大きな差が生まれるかもしれない,という問 題意識を持つことは非常に重要である。

これまで不況にあえぐ日本企業の多くが,優秀な効率性と生産性の実績を 出した米国企業の合理的経営を取り入れてきたが,そのうち上記の問題意識 を持っている企業はそれほど多くないかもしれない。いや,ほとんどが結果 としての効率性や生産性だけを見て,将来のことなど考えずに,苦しい現状 を乗り切ることだけを視野に入れて,即効的な戦略に手を出している。

かつて日本的経営と呼ばれるものがあった。確かに,モラールの低下をも たらすような集団依存的な側面もあったが,個々のスキルやノウハウを全体 で共有して,そこから新たな知識を創造するような強みもあった。実際,日 本企業のこの強みを積極的に取り入れるために日本企業と提携して,復活を 果たした米国企業も多数ある。

人的な資源を含め,すべての企業が,日々,その経営資源を活用しながら ビジネスを展開している。しかし,保有する経営資源の種類,中身,それに 対する企業の考え方,その活用の仕方などは企業によってさまざまであり,

その多様性が,企業の差別化ひいては経営戦略に大きく影響を及ぼしている

−44−

( 2 )

(3)

といえる。

本稿では,企業の経営戦略に大きく影響を及ぼすと考えられる経営資源の あり方について,他の研究を踏まえながら再考し,企業に成長をもたらす経 営資源の展開(蓄積と配分)について論及していく。

Ⅰ.資源展開戦略の構成要素と経営資源の分類

1.資源展開戦略の構成要素

C. W. ホファー=D. シェンデル(1 9 7 8)は,経営戦略を「組織がその目的 を達成する方法を示すような,現在ならびに予定した資源展開と環境との相 互作用の基本的パターン」と定義し,いかなる組織の戦略にも, 「ドメイン

(コアとなる事業領域)の決定(企業が戦略を遂行する対象となる戦略空間 を決定する概念) 」 「資源展開(企業が長期的目標を達成し,その存続・発展 を図るために,人的資源・物的資源・資金的資源・情報的資源などの経営資 源の蓄積・配分を効果的に展開する概念) 」 「競争優位性(企業がそのドメイ ン決定や資源展開のパターンを通じて,競合者に対して競争上の優位な地位 を確立する概念) 」 「シナジー(企業のドメイン決定や資源展開から得られる 相乗効果を意味する概念) 」という4つの構成要素が存在すると規定してい る(Hofer,C. W.and Schendel,D. [1 9 7 8] ,邦訳 pp. 3 0 ‐ 3 2) 。

ホファー=シェンデルは,これらの構成要素のうち,特に「資源展開」を 強調している。なぜなら,基本的なスキルが生み出され,競合他社と差別化 された方法で資源が獲得され展開されるのでなければ,他の3つの要素が活 かされることがないと彼らは考えるからである。

決められたドメインのなかで,企業が一定の地位を確立するためには,競 争に必要な経営資源を蓄積し,その蓄積した資源を選択的に配分しなければ ならない。経営資源の蓄積と配分にかかわる戦略が資源展開戦略であり,ド メインにおける経営目標を達成するために,必要な関連資源をいかに蓄積す

資源展開戦略に関する一考察(合力) −45−

( 3 )

(4)

るか(経営資源の蓄積) ,ドメインにおける競合相手に対して優位性を保つ ために,蓄積した経営資源をいかに選択的に配分するか(経営資源の配分)

の決定が,資源展開戦略の2つの構成要素である(石井淳蔵他[1 9 8 5] ,p. 9) 。 ドメインとは,組織の独自の事業活動の領域のことであり,ドメインを定 義すると,最も典型的には「わが社の事業とは何か」という組織の社会的存 立基盤にかかわる問いに答えることであるといえる。環境の生み出す機会や 脅威に,組織が蓄積した経営資源を適合的に展開させることを,戦略である と考えるならば,ドメインの定義は,組織がその経営資源を展開すべき環境 の機会集合の関連範囲を特定することでもある(石井淳蔵他[1 9 8 5] ,p. 1 7) 。

しかし,ドメインとは企業の単なるポジショニングのみを意味するもので はなく,それには企業の目的はもちろんのこと,経営理念も反映されるべき である。ドメインの決定は,企業の置かれた環境に応じて変更される場合が あるが,もし,その変更の「判断」がトップ・マネジメントに特有の経営理 念を反映するものでなければ,競合他社との差別化は図りにくくなるであろ う。トップ・マネジメントは,自社の経営資源の蓄積状況を常に把握し,市 場の流れを読みながら,どの場面でどのような配分をするかを判断しなけれ ばならない

1)

(ドメインの定義は必ずしもトップだけのおこなう行動ではな く,構成メンバー間の相互作用によって生じるという場合もある) 。

2.経営資源の分類

一般に,経営資源は人的資源(研究者,エンジニア,生産管理者,熟練工,

非熟練工,販売員など) ,物的資源(ビル,工場,オフィス,倉庫などの建 物や土地,生産設備,サービス・配送設備,情報機器などの機械や装置,原 材料,部品,製品,仕掛品など) ,資金的資源(自己資本,他人資本など) , 情報的資源(のれん,ブランド力,スキル,企業風土,ノウハウ,技術開発 力,知的所有権,対外的な信用力,販売チャネル,顧客群,など)の4つに

−46−

( 4 )

(5)

短期資金

汎 用 性 企 業 特 性

自己資本

熟練労働 技術力,顧客情報 ブランド力,信用 原材料,土地

一般機械設備 一般流通網

内製機械 系列流通網 未熟練労働

分類される。

重視すべき経営資源の種類は,企業規模,業種,企業を取り巻く環境など によって異なる。従って,これを活用すれば必ず企業に収益をもたらす,と いうようなオールマイティかつ唯一絶対的な経営資源は現実的には存在しな い。

伊丹敬之・加護野忠男(2 0 0 3)は,経営資源と組織能力は「利用」される ものであり,かつ「蓄積」されるものでなければならないという。これは,

経営戦略のなかに資源・組織能力の利用計画と蓄積計画の双方が組み込まれ ている必要があるということを意味する。伊丹・加護野は,資源の汎用性と 固定性という観点から,経営資源を分類している(図表Ⅰ−1) 。

図表Ⅰ−1 伊丹・加護野による経営資源の分類

出所:伊丹敬之・加護野忠男[23],p.3.

資源展開戦略に関する一考察(合力) −47−

( 5 )

(6)

まず,汎用性の視点から経営資源を見てみよう。

現金・預金・有価証券などの資金的資源は汎用性が最も高い。土地や設備 などの物的資源も一般には汎用性が高いが,企業のなかで内製されたものは 汎用性が低く, 企業特異性 (ある企業にとってのみ意味を持つという特異性)

が高い。また,人的資源も汎用性と企業特異性の両側面を持つ資源である。

これは資源の特性に応じて異なり,未熟練の労働力は汎用性が高くなり,熟 練した労働力は企業特異性を有するといえる。

人的資源や物的資源よりも企業特異性が高いのは,企業の内外に蓄積され た知識としての情報的資源である。組織能力と言われるものの実体は,ノウ ハウ・技術・顧客情報・信用力・ブランドイメージなどにより蓄積された,

知識という情報的資源なのである。

情報的資源の多くは企業特異的であり,他の企業が自由に使えるものでは ない。それは情報的資源の多くが,企業の具体的な日常の仕事のプロセスの 副産物として蓄積されていくからである

2)

次に,固定性の観点から見てみよう。これは言い換えれば,外部からの調 達の容易さの程度による分類である。可変性の強い資源とは,必要に応じて 市場から調達できるという性格のものであり(パートタイマーや派遣社員な ど) ,固定性の強い資源とは,保有量を増減させるのに時間がかかり,その 調整に相当のコストがかかる性格のものといえる。短期契約の労働,原材料 や簡単な機械,外部導入資金などが比較的可変的な資源の例であり,熟練労 働者,大規模工場施設,長期固定的な自己資本などは固定的資源の例である といえよう。但し,これらの固定的経営資源も,カネさえ出せばほとんどが 入手可能である。それに対し,顧客の信用,ブランドの知名度,組織文化,

従業員のモラールの高さなどの情報的資源は固定性が極めて強く,カネでは 買えないようなものが多い(伊丹敬之・加護野忠男[2 0 0 3] ,pp. 3 0 ‐ 3 2) 。

−48−

( 6 )

(7)

3.情報的資源の特殊性

多くの研究者は,4つの経営資源のうち,情報的資源が最も重要であると 考えている。なぜなら,情報的資源は,人的資源・物的資源・資金的資源の 蓄積および配分の戦略展開とともに生み出され,またその生み出された資源 が既存の情報的資源と組み合わされて新しい能力を形づくっていくという性 格を有するため,企業の個性の源泉となりうるからである。

加護野忠男(2 0 0 3)は,情報的資源を大きく2つに分類している。一つは,

企業の内部に蓄積されていくものであり,他の一つは企業の外部に蓄積され ていくものである。後者の具体例としては,ブランドイメージ,企業の信用 力,評判などがあり,これらは「企業情報」と呼ばれる。企業情報は,企業 を取り巻く環境に属する人々や組織によって持たれている,企業に関する情 報であり,すなわちその源泉が外部市場にあるものである。一方,企業の内 部に蓄積されていく情報的資源には, 「環境情報」と「情報処理特性」と呼 ばれるものがある。環境情報とは,市場や技術についての企業の日常活動を 通じて,外部環境から企業内部に取り込まれ,蓄積されていく情報的資源で ある。例えば,顧客データベース,セールスマンの顧客情報,技術者の技術 的情報,熟練労働者のノウハウなどが挙げられる。企業情報と環境情報が,

企業と外部環境とのやりとりを通じて蓄積されるのに対して,情報処理特性 は企業内部の人々の情報のやりとりを通じて蓄積されていく。具体的には組 織のメンバーの志向,組織風土,組織特有の価値観,企業家精神の大小,モ ラールの高低などが挙げられる。

さらに加護野は,情報的資源には人的資源・物的資源・資金的資源にはな い3つの性質があり,この3つの性質があるからこそ,企業特殊性が高くな り,また競争優位の源泉にもなるとしている。その第1の性質は「自然蓄積 性」である。組織や組織メンバーがさまざまな経験をして学習していくとい う性質により,情報的資源は,それらの経験や学習を通じて蓄積されていく。

資源展開戦略に関する一考察(合力) −49−

( 7 )

(8)

第2の性質は, 「多重利用可能性」である。情報的資源には,何回使っても,

使い減りしないという性質がある。技術や熟練などは,むしろ使うほどに深 みや味が出てくる。さらに,ある分野で蓄積された技術的知識や顧客情報は,

別の分野で活用することも可能である。第3の性質は, 「消去困難性」であ る。蓄積された情報的資源は,完全に消去してしまうのが困難である。 (加 護野忠男編[2 0 0 3] ,p. 8 1 ‐ 8 3) 。

野中郁次郎は情報的資源のうち,企業の内部に蓄積される,環境情報と情 報処理特性に注目している。野中によれば,環境情報は「知識」として蓄積 され企業の能力となり,情報処理能力は構成メンバーに共有されたものの見 方に集約され,認知レベルの「共有されたパラダイム」が現実の実行レベル において「共通の行動様式」となる。つまり,彼は,環境情報と情報処理特 性をそれぞれ「知識」と「行動様式」と置き換えて考え,知識と行動様式の 体系こそが,企業の直接の影響下にある経営資源であると考える。そして,

彼は,知識と行動様式の体系を蓄積し,新たな組み換えをおこない,改善す るといった現象を「学習」という概念で捉え,組織学習という考え方こそ,

「シナジー効果」を説明するカギであるとしている(石井他[1 9 8 5] ,pp. 7 1 ‐ 7 2) 。

4.経営資源の定義に関する考察

経営資源の定義としては,例えば,伊丹敬之(1 9 8 4)は「事業活動に必要 なさまざまな資源や能力の全体」とし, 「ノウハウやブランドイメージ,あ るいは情報のルートや支配力といった見えざる資産とでもいうべき『企業の 能力』 とそれを担う意味でのヒト (単純な労働力とはやや違う意味でのヒト)

という資源が最も大切なもの」と考えている(伊丹敬之[1 9 8 4] ,p. 4 4) 。 但し,伊丹は,情報的資源と人的資源とを同等に重要といっているわけで はなく,経営資源のうち最重要であるのは情報的資源であり,人的資源はあ

−40−

( 8 )

(9)

くまで情報的資源を担うゆえに重要であるという前提で,経営資源を2つの 視点から分類している。まず,伊丹は経営資源を,事業活動への必要性のタ イプから「物理的に不可欠」という経営資源と, 「事業をうまくやっていく」

のに必要な経営資源とに分類し,前者の色彩をもつものの多い資源が人的資 源,物的資源,資金的資源であり,それらを組み合わせて成果の上がる事業 活動をもたらす源泉となるのが情報という経営資源に含まれるさまざまな

「見えざる資産」であると考えている(伊丹[1 9 8 4] ,pp. 4 8 ‐ 4 9) 。

また,齊藤毅憲(2 0 0 3)は,経営資源を「企業が利用可能な資源」と「企 業活動をおこなうために必要な資源」とを組み合わせて, 「企業にとって利 用可能であり,かつ必要である資源」 と定義し,以下のような考察をおこなっ ている(齊藤毅憲編[2 0 0 3] ,pp. 5 5 ‐ 5 6,p. 6 8) 。

! 経営資源とは,厳密には「企業にとって利用可能であり,かつ必要で ある資源」のことをいい,企業はこれを有効に活用していく方策を考え ることが第一に求められる。

" 経営資源には有限性がある。その要因のひとつは企業の財務能力の有

無であり(企業にとって利用可能,あるいは必要であると判断された資 源であっても,財務能力を超えてそれらを調達しようとすれば企業は破 綻する) ,別のひとつは経営能力の有無である(利用可能かつ必要な資 源を調達できる財務能力があっても,それらを企業活動に活かせる経営 能力がなければ意味がない) 。

# 「利用可能ではあるが,企業活動にとって必要ではない (なくなった)

資源」は,過去には経営資源であったかもしれないが,今後は経営資源 とは言い難いものである。これは,企業の「ぜい肉」となり企業活動に 負担をかけることにもなりかねないので,スリム化,ダウンサイジング 化していく必要がある。

$ 「 (現在のところ)利用不可能であるが(将来)必要と思われる資源」

資源展開戦略に関する一考察(合力) −41−

( 9 )

(10)

については,自社の経営資源としていけるよう,戦略的に獲得・蓄積し ていくための方策を検討していく必要がある。

! 質的に優れた経営資源を確保するためには, 「交換」と「改良・開発」

という2つの方法がある。人的資源に関しては,後者の方法が望ましい。

理由は2つある。まず,人的資源には,他の資源と異なり,感情や人格 があるということが挙げられる。企業側の一方的な論理の押し付けによ る「交換」やそれを確保するための「廃棄」は,社会的な問題に発展す る可能性がある。また,人的資源には,自発的な努力により,成長でき るという特性があるというのもその理由のひとつである。

以上のように,経営資源を範疇化して整理することは,トップ・マネジメ ントが資源展開戦略を進めていく上で極めて重要であると思われる。しかし,

「利用可能ではあるが,企業活動にとって必要ではない(なくなった)資源」

については,現在「不必要」であっても,将来的に再度「必要」となる可能 性がある資源もあるので,むやみに棄却するのではなく,全社的観点から十 分に検討する必要がある。

図表Ⅰ−2 経営資源の定義と主要な検討課題 企業活動にとっての必要性

必要な資源 不必要な資源

企業に とって の利用 可能性

利 用 可 能 な 資源

経営資源

→ 有効的蓄積・配分の検討が必要

過去の経営資源

→ 棄却の検討が必要 現在のところ

利用不可能な 資源

将来の経営資源

→ 戦略的獲得・蓄積の検討が必要

経営資源ではない

→ 見極めの検討が必要 注:齊藤毅憲編[23],p.6.に筆者が加筆修正

−42−

( 10 )

(11)

Ⅱ.E.T.ペンローズの経営資源用役論

1.E. T. ペンローズの経営資源用役論

E. T. ペンローズ(1 9 8 0)は,経営資源という観点から,企業を「生産資 源の集合体」であると見ている。企業は,資金的資源のほかに物的資源と人 的資源を有する。物的資源には,生産工程の中でただちに完全に使い果たさ れるものや,長期間にわたって使用される恒久性のあるもの,内製されるも の,外部から調達されるものなどが含まれる。これらはすべて企業が購入し たり,借用したり,生産したりするものであり,企業運営の根幹をなすもの である。また,企業には利用できる人的資源,すなわち未熟練労働者,熟練 労働者,業務・財務・法律・技術・経営のスタッフがある。あるものは長期 契約で雇用され,企業にとっては実質的投資を意味する(Penrose Edith T.

[1 9 8 0] ,邦訳 p. 3 2) 。

しかし,ペンローズは上述したような「個体としての資源」を,経営資源 とは考えていない。すなわち,生産活動に投入されるのは決して資源そのも のではなく,それらが提供できる「用役」のみであると考えるのである。資 源のもたらす用役は,資源の使用方法によって異なり,全く同じ資源が,別 の目的または別の用途に用いられる場合や,あるいは別のものと一緒に用い る場合には,異なった用役,または用役の集合を提示する(Penrose[1 9 8 0] , 邦訳 p. 3 3) 。例えば,生産的用役とは, 「人・時間」 「機械・時間」 「石炭何 トン」といったものではなく,人,機械,石炭が生産工程中に提供している 実際の用役である(Penrose[1 9 8 0] ,邦訳 p. 9 6) 。つまり,ペンローズは経 営資源を「利用可能な用役の束」と見ているのである(Penrose[1 9 8 0] ,邦 訳 p. 8 7) 。

事業の規模がどのようであっても,企業は生産しようとしている製品の数 量と形態に適した生産的用役を得ることのできる資源を持たなければならな

資源展開戦略に関する一考察(合力) −43−

( 11 )

(12)

い。だが,たいていの場合,資源は不連続な量でしか入手ができない。すな わち,たとえ「一単位」の用役だけが必要な場合であっても, 「一束」の用 役(と資源)を求めなければならない,とペンローズは指摘する。この事実 があるからこそ,先の齊藤(2 0 0 3)の考察において強調したように,経営資 源の詳細な範疇化が必要となるのである。

企業は,いったん現在および計画中の事業に必要な資源を入手した以上,

入手した各種資源の各単位から得られる用役をできるだけ有利に使用しよう とする動機を持つことになり,例えば,多角化などの道を模索するであろう。

あるいはまた,どのような資源でも現在の事業に十分利用されていない限り,

企業にとってはそれをもっと十分に使用する方法を見出す動機が存すること になる。現在の資源から得られるにもかかわらず使用されていない生産的用 役は無駄であり,もしその資源が有利に利用できるならば,その資源は,そ れを持っている企業にとっては,競争上の有利性を与える用役となりうる

(Penrose[1 9 8 0] ,邦訳 pp. 8 7 ‐ 8 8) 。また,経営資源のなかには,いつも部分 的にしか使用されないものや,環境の変化とともに使用効率が落ちてしまう 資源もあるが,企業はその資源を「遊休」させないように,有効活用の方法 を講ずるべきである。

2.人的資源の特殊性

さて,前節では「用役」に主眼を置いたペンローズの経営資源論について 概観したが,彼女は,資源から直接的あるいは潜在的に得られる生産的用役 の不等質性が各企業それぞれに特異な性格を与える,と言及している。企業 の従業員は,種々の不等質な特異性を持つ用役を提供することができるだけ でなく,企業の物的資源もまた別の用法に使うことができ,そして,これら の用法は異なる種類の用役を提供できるのである。用役が持つこの種の不等 質性は,企業がそれを使って仕事をしている物的資源から得られるものであ

−44−

( 12 )

(13)

るが,もしその物的資源を使っている人々が,その使用方法について別の考 えを得たならば,同じ資源を異なる方法と異なる目的に使用することができ るようになる。言い換えれば,企業の二種類の資源−人的資源と物的資源−

の間には相互作用があり,この相互作用によって,各々から得られる生産的 用役も影響を受けるのである(Penrose[1 9 8 0] ,邦訳 p. 9 8) 。

そして,資源の持つ生産的用役は,その資源の潜在的能力をすべて使い果 たすものではないと考えてよい。換言すれば,知識の進歩が,すべての資源 の用役範囲と量とを,常に増大させるのである。利用しうる用役の中で,一 定のときに一定の企業で有利に使用されうるのは,その中のほんの一部であ る。

用役利用の可能性は,知識の変化とともに変化する。資源の物的特性,そ の利用方法,あるいは資源を有利に利用できる製品についての知識が進歩す るに従って,より多くの用役が利用できるようになったり,以前利用されな かった用役が利用できるようになったり,さらに,それまで利用されていた 用役が利用されなくなったりする。従って,従業員の知識の型と物的資源か ら得られる用役との間には密接な関係がある(従業員だけでなく,むしろ経 営トップにこの知識が必要となる。そして,この知識は組織において共有さ れるべきである) (Penrose[1 9 8 0] ,邦訳 p. 9 9) 。

知識の自動的な増大も新知識探求への刺激も,ともに人並みの独創性を備 えた企業であれば,その性格そのものの中に組み入れられている。人的資源 も物的資源も,その既知の用役に従ってそれぞれの市場で購入されるが,そ れが企業に同化されるやいなや,その提供しうる用役の範囲は変化し始める。

この変化によって与えられる成長への潜在力は企業によって異なるが,これ が実現される限り,企業の成長は,外部環境の変化にのみ関連づけられるの ではなく,別の関連性によってもおこなわれるのである(Penrose[1 9 8 0] , 邦訳 p. 1 0 2) 。

資源展開戦略に関する一考察(合力) −45−

( 13 )

(14)

ペンローズといえば,未利用資源の有効活用を多角化の理論的根拠に据え たことで著名であるが,筆者はむしろ,近年の「情報的資源」の礎を築いた 研究者のひとりとしての功績を重視したい。ペンローズは情報的資源という 概念は用いていないが,彼女の使用する「不等質な特異性」 「資源の潜在的 能力」 「知識の増大・探求」などの言葉は,まさに情報的資源を示唆するも のである。但し,それは全く同一というわけではなく,特に,人的資源との 関連のさせ方が非常に異なっている。

近年の研究では,例えば前章4節において, 「情報的資源と人的資源とを 同等に重要といっているわけではなく,経営資源のうち最重要であるのは情 報的資源であり,人的資源はあくまで情報的資源を担うゆえに重要である」

と言及されていたし,また, 「企業の情報的資源としてややわかりにくいも のに組織文化とか,従業員のモラールなどがある。それらはすべて人に体化 されたものだが,人そのものが大切な資源なのではなく,その人たちの頭と 心に宿る目に見えないものが大切なのである。その目に見えないものも情報 の一種と考えて,これらも情報的経営資源の一部と考えよう」 (伊丹・加護 野[2 0 0 3] ,p. 3 2)というように,情報的資源が人的資源から抽出された形 で捉えられ,それが企業に個性を与え,競争力の源泉になり得る資源である と論じられている。

それに対し,ペンローズは,人的資源こそが種々の不等質な特異性を持つ 用役を提供し,企業の物的資源もまた別の用法に使うことができ,これらの 用法によってさらに異なる種類の用役を提供できるとしている。つまり,も しその物的資源を使っている人々が,その使用方法について別の考えを得た ならば,同じ資源を異なる方法と異なる目的に使用することができるように なるわけで,ここに人的資源の重要性が認められるのである。

理論的には,人と情報とを切り離して考えることは可能であるが,実際に は,情報は人の中にある。企業にとっては,その中身の情報(知識)だけが

−46−

( 14 )

(15)

重要であっても,それを切り離して抽出することは不可能であり,従って,

残りの不要な部分をいかに効率的に活用するかを企業は戦略的に考えなけれ ばならないといえる。

組織的学習という観点からすれば(組織的学習という条件が整えば) ,人 的資源は計り知れない可能性をもっている。なお,人的資源の有用性は,企 業組織の学習システムの整備の程度に比例する。学習システムが整備されて いない企業では,人的資源は物的資源や資金的資源と同様に汎用性が高いも のとして扱われるので,それらと同様にすぐに移転されるし,廃棄もされる。

しかし,学習システムが整備されている企業では,個々人のエンプロイアビ リティが高められ,自律的で特異性の高い人材を育成しようとするのである。

Ⅲ.経営資源の配分

1.H. I. アンゾフの成長ベクトル

さて,これまでは,主として経営資源の蓄積について見てきたが,ここで はその配分について考察してみたい。

H. I. アンゾフ(1 9 6 5)は,経営戦略の策定においては「企業内における 共通の関連性」が重要であると説き,それを決定するための構成要素として,

「製品−市場分野の識別・決定」 , 「成長ベクトル(現在の製品−市場分野と の関連において,企業がどんな方向に進んでいるかを示す−市場浸透,製品 開発,市場開発,多角化の4類型) 」 , 「競争上の利点(当該企業に強力な競 争優位性を与えるような個々の製品−市場分野の特性を明確にすること) 」 ,

「シナジー(新しい製品−市場分野の進出にあたって,企業がどの程度の利 益を生み出す能力があるかを測定するもの) 」の4つを提示した(Ansoff,H.

Igor[1 9 6 5] ,邦訳 pp. 1 3 5 ‐ 1 4 0) 。ここでは, 「製品市場分野の決定」という 観点から,企業が成長のために選択・集中することが可能な方向として提示 された「成長ベクトル」について見てみよう(図表Ⅲ−1) 。

資源展開戦略に関する一考察(合力) −47−

( 15 )

(16)

! 市場浸透戦略:現在の製品を現在の市場分野で展開することによって 成長を図る戦略

" 市場開拓戦略:現在の製品を新規の市場分野で展開することによって

成長を図る戦略

# 製品開発戦略:新規の製品を現在の市場分野で展開することによって 成長を図る戦略

$ 多角化戦略:新規の製品を新規の市場分野で展開することによって成 長を図る戦略

多様化する市場ニーズに適応するためだけでなく,未利用資源を活用する ためにも,多角化戦略はより重要なものとして位置づけられるべきであろう。

但し,多角化戦略には既存分野関連型と同非関連型があり,トップ・マネジ メントは両者の違いを十分に認識しておく必要がある。前者の場合であれば リスクが低くそれだけ成功の可能性が大きいが,後者のリスクは高い。後者 のように,全く無関連の異業種に参入する場合,よほどの製品開発力と市場 開拓力がなければ成功は困難であるが,前者では,共通する経営資源を効果 的に利用することにより, 「1+1=2+α」になるような相乗効果(シナ ジー効果)が生じる。

2.ボストン・コンサルティング・グループの PPM

ボストン・コンサルティング・グループ(1 9 7 7)は,戦略展開を策定する

図表Ⅲ−1 成長ベクトル

品・事

市場浸透戦略 製品開発戦略

市場開拓戦略 多角化戦略

−48−

( 16 )

(17)

SBU 組織単位

事業部 事業部 事業部

※1つのSBUは,一事業部内の一部署や一生産ライン,単一製品であったり,複数の事 業部にまたがったり,ひとつの事業部そのものであったり,いろいろな場合がある。

手法として PPM(Product Portfolio Management)を開発し,それは多くの企 業に導入されることとなった。

PPM とは「多くの製品系列や事業を持っている企業で,各製品・事業に ついて, 『市場成長率』と『マーケットシェア』の両面から評価し,全社的 な見地から,製品・事業の戦略方向を決め,限られた経営資源の最適な配分 を検討する手法」である。

なお,PPM では,特に資金的資源の有効配分について強調されている。

! PPM の内容

第1段階:企業を構成する主要事業(あるいは製品)を識別する。これら は,SBU(Strategic Business Unit:戦略事業単位)と呼ばれる

(図表Ⅲ−2) 。

図表Ⅲ−2 組織単位とSBU

資源展開戦略に関する一考察(合力) −49−

( 17 )

(18)

第2段階:SBU を収益性,成長性の点から,一つ一つ評価し,各 SBU に どれだけの資金を配分すべきかを決定する。その際,SBU は,

市場成長率とマーケットシェアの2次元で構成されたマトリッ クス上に位置づけられる(図表Ⅲ−3) 。

※SBU(Strategic Business Unit:戦略事業単位)とは,戦略策定の際の製 品・サービスの単位である。同じ事業部に属していても,別のまとまり

(ユニット:単位)として検討し戦略を立案した方がよい場合,あるい は異なる事業部に属していても1つのまとまりにすべき場合などがある。

このような戦略策定に合わせた単位のことを SBU という。SBU は PPM の分析単位である。

! 各セルの内容と SBU の戦略方向 各セルの内容は①〜④の通りである。

①高成長で高シェア:花形(STAR) →よく稼ぐが出費も多い。

②低成長で高シェア:金のなる木 (CASH COW) →よく稼いで出費も少ない。

③高成長で低シェア:問題児(WILD CAT) →出費が多い。

④低成長で低シェア:負け犬(DOG) →一般的にはここには資 金は投入しない。

これらのセルの中に,例えば,図表Ⅲ−3の A〜G のような形で,SBU は位置づけられる。また,図表Ⅲ−4は,SBU の戦略方向の一例を示した ものである。

SBU は,ひとつのセルの中にずっと留まるわけではなく,環境の変化お よびそれに対する企業の戦略のあり方によって,マトリックス上を移動して

−40−

( 18 )

(19)

※       の大きさは,収益性の大きさを表す。

C

D

E

A

B

F

G

花形 問題児

金のなる木 負け犬

マーケットシェア

図表Ⅲ−3 PPMのイメージ図

資源展開戦略に関する一考察(合力) −41−

( 19 )

(20)

いく。企業にとって望ましい資源展開は,自社資源の中から,より多くの 「問 題児」を発見し,そこに「金のなる木」から十分な資金を投入し,より多く の「花形」に育てることである。しかし,もし「問題児」も「花形」も十分 な資金を得られなければすぐに「負け犬」化してしまうし,また「金のなる 木」の十分な資金を投入すべく「花形」を持たない企業も,その「金のなる 木」を「負け犬」化させてしまうことになるだろう。ボストン・コンサルティ ング・グループは, 「金のなる木」を資金源とし, 「花形」あるいは「有望な 問題児」に資金を集中する一方で, 「負け犬」や望みの薄くなった「問題児」

を淘汰していく選択を「成功の循環」と呼んだ(合力知工[2 0 0 4] ,pp. 1 8 ‐ 1 9) 。

3.多角化戦略を成功に導く要因に関する考察

資源配分戦略の要として多角化戦略が考えられるが,C. C. マルキデス

(1 9 9 7) は,経営資源を戦略的に活用して多角化を成功させるためには,トッ プ・マネジメントが以下の6つの質問に正確に答えられることが必要不可欠 であるとしている(Markides,Constantinos C. [1 9 9 7] ,pp. 1 0 0 ‐ 1 0 1) 。

! 「現在の市場で自社が競合他社より優れているもの−戦略的資産−は 何か」

まず, 自社の強みの特質を厳密に測定する必要がある。 その測定された

図表Ⅲ−4 SBUの戦略方向の一例

事項

SBU 戦略方向

A,B 成長性は大きいが,競争力は小さい。

利益も少なく,資金もまだまだ必要。

投資効率を向上させ,選別して,優 秀なものは育成させ,資金を投入。

C,D 成長性大,競争力大。収益性は増大

化傾向。 積極的に資金を投入。

E 成長性小,競争力大。安定した収益 を確保。

効率化を図り,合理的な資金配分を 考える。

F,G 成長性,競争力ともに小。 資金回収。縮小・撤退の検討。

−42−

( 20 )

(21)

資産を 「戦略的資産」 と呼ぶ。 戦略的資産の認識とドメインの定義を混同 して理解している企業が多い (例えば, 「エンターテイメント事業」 をドメ インとする企業が, その戦略的資産を 「エンターテイメントに関するノウ ハウ」 と考える場合など) 。

戦略的資産とは, そうした漠然としたものではなく, 例えば 「卓越した 流通ネットワーク」 「創造的な従業員」 「差別化された情報システム」 など,

競合他社よりも優れた具体的資産である。

! 「新規参入市場で成功するためには, どのような戦略的資産が必要か」

ひとつの市場で優れていることが,新しく,あるいは関連している市 場で成功を保証するわけではない。仮に,ある市場における,ある有力 な資産が,新規参入市場でもある程度の卓越性をもっていたとしても,

その「ある程度」以外の部分で,他社がそれを上回るくらい卓越した資 産を有する場合,新規参入市場の進出は失敗に終わる危険性が高い。多 角化を考えている企業は,自社が征服しようとしているドメインで競合 上の優位性をつくりあげるに足る戦略的資産をもっているかどうかを確 認しなければならない。

" 「競合企業に彼らと同じやり方で追いつき,追い越せるか」

もし, ! の分析で,自社に重要な戦略的資産が欠けていると分かって も,その進出を諦めるのは早計である。M&A などをおこない競合上の ルールを変えることで自社に欠けているものを補完したり,社内で開発 したりする可能性は常にある。

# 「多角化が,本来一緒にしておく必要のある戦略的資産をばらばらに してしまっていないか」

多くの企業は,新規市場に時間をかけて試した戦略的資産を導入しな がら失敗する。それは,お互いに補完しあって効果を発揮している戦略 的資産を切り離しても大丈夫であると錯覚して,実際にそれらを切り離

資源展開戦略に関する一考察(合力) −43−

( 21 )

(22)

してしまい,単独では機能できなくしているためである。それらの能力 間に存在するシナジーを活用しなければならない。

! 「新規参入市場において,他社から模倣されないような戦略的資産を 活用して,勝者になっているかどうか」

多角化をおこなっている企業の多くは,新しい競合企業にいち早く裏 をかかれることがよくある。それは,多くの場合,その戦略的資産が容 易に真似されたり,真似はできなくても別の何かで代用されたり,購入 されたりするかどうかの可能性を考慮しないためである。真似や代用や 購入がされにくいような戦略的資産−例えば,強力なブランド力など−

を有する企業は強い。

" 「多角化から何を学ぶことができるか, また学ぶのに十分な組織になっ

ているか」

知的能力のある企業は,多角化を学習する方法を知っている。そのよ うな企業は,新規ビジネスが,現在のビジネスを改善するのにどのよう に役立つのか,その進出が別の業界進出への踏み台になるのか,またど のようにして組織の効率を改善するのに役立つのかを検証する。

Ⅳ.コア・コンピタンス経営の可能性

1.情報的資源の価値を維持・高揚させるためのオーバー・エクステン ション戦略

先に述べたように,情報的資源は企業に個性を与え,競争力の源泉になり 得る資源であるが,いつもそうであるとは限らず,企業にとって足かせにな る危険性も秘めている。技術革新などによる熟練技術の価値軽減化(アナロ グからデジタルへの移行などに見られる) ,組織文化の停滞・官僚化などが その例である。

この問題を解決するための方策のひとつとして,伊丹敬之(1 9 8 4)は「ア

−44−

( 22 )

(23)

ンバランスな戦略」の必要性を説いている。アンバランスな戦略とは,選択 された戦略行動と企業の環境や資源との間に適合関係がきちんとできていな い戦略を意味する(伊丹[1 9 8 4] ,p. 2 9 2) 。但し,これは組織をアンバラン ス化させることに重点を置いているのではなく,組織メンバーがそのアンバ ランス状態から均衡を保とうとするプロセスにおける一連の行動に重点を置 くものである。

そして伊丹はアンバランスな戦略を応用して, 「オーバー・エクステンショ ン戦略」を推奨している。これは,企業がその能力や組織風土など見えざる 資産にあった戦略を採用するだけでは現状維持がやっとであり,成長を図り たいのであれば,見えざる資産を部分的にオーバーするような戦略をとる必 要がある,という考えである。但し,これは「無茶」ではなく, 「無理を承 知で取り組むこと」を意味するものであり,とにかく何でもやってみる,と いうことではない

3)

伊丹は,オーバー・エクステンションの効果として, 「緊張・シグナル効 果」と「実地学習効果」を挙げている。緊張・シグナル効果とは,組織内部 に創造的緊張が生まれ,そして蓄積されなければならない見えざる資産が何 であるかの明確なシグナルが組織メンバー間で共有されることである。また,

実地学習効果とは,実際に事業活動のための日常的業務をおこなうプロセス そのものが,その事業活動をうまくおこなうのに必要な見えざる資産の学習 プロセスになるという,業務による見えざる資産の副次的蓄積ルートである

(伊丹[1 9 8 4] ,pp. 2 9 9 ‐ 3 0 2) 。

成長期の本田技研工業(以下,ホンダ)が,昭和3 2年から3 4年にかけて

「5 0 cc オートバイに関する戦略代替案の比較評価」をおこなうための市場調 査を実施した際,その結果として最適であった東南アジア案を退け,米国案 を選択したのも,まさにオーバー・エクステンション戦略の一例であるとい える。当時のホンダの能力では東南アジア案が適切であったが,ホンダはそ

資源展開戦略に関する一考察(合力) −45−

( 23 )

(24)

の適切性からオーバーしようと試みた。

では,ホンダにオーバー・エクステンションを駆り立たせたものは何か。

それは経営者のビジョンである。ホンダは,市場調査の結果,東南アジア市 場が当社にもたらす数字ではなく,米国市場の規模の『潜在性』と『波及効 果』に着目し,現在そこそこの有利性をもたらす東南アジア市場よりも,将 来莫大な有利性をもたらす可能性のある米国市場の開拓の方が先決だという 意思決定を下した。すなわち,ホンダはその時の自社の能力でできる範囲の ことをやろうとしたのではなく,先にビジョンを形成し,その実現のために 能力が不足するのであれば,後から開拓していこうという姿勢で臨んだので あり,この姿勢がホンダに四輪車分野においても飛躍的な成長をもたらした 一因であるのは言うまでもない。

2.組織学習によるコア・コンピタンスの形成

伊丹・加護野(2 0 0 3)は,オーバー・エクステンションにおける「無理」

に関して,その「無理」が意味を持つのは,企業の学習をどの程度促進する かにかかっていると考え,無理が意味を持つ第一の場所は,それが企業の鍵 となる資源,コア(中核)資源を形づくるところであるという(伊丹敬之・

加護野忠男[2 0 0 3] ,p. 4 9 0) 。

ここで,学習プロセスについて考えてみよう。

まず我々は,外部から情報をインプットし,それらを蓄積する。しかし,

情報を蓄積するだけでは,学習していることにはならない。それは,まさに ただ蓄積しているだけに過ぎず,インプットした情報がそのままの形でアウ トプットされることになる。これを learn 型情報蓄積と呼ぼう。

蓄積された情報が意味を持つのは,それらが相互に連関した場合である。

この一連の相互連関のプロセスが学習にほかならない。インプットした情報 が内的に共有され,そこにインプットしたものとは異なる新たな知識が形成

−46−

( 24 )

(25)

learn 型情報蓄積 study 型情報連関

※「    」は情報の流れ,「○」は情報,「    」は相互連関プロセス,「    」は 新たに形成された知識の流れを表す。

され,それがアウトプットされる時,情報は差別化された価値を有すること になる。これを study 型情報連関と呼ぼう。図Ⅳ−1は,それらを図示した ものである。

図Ⅳ−1は個人の頭の中でおこなわれる, 「記憶(learn 型情報蓄積) 」と

「学習(study 型情報連関) 」の一連のパターンであるが,これはそのまま企 業組織にも当てはまる。前者のパターンで蓄積された情報は,どの企業に蓄 積されても同じ形であるので,その価値は非常に低い(蓄積当初は価値が高 かったとしても,やがて陳腐化していく)といえる。一方,後者のパターン で相互連関をもった情報は,他社とは差別化された個性的な知識へと変容し ているので,その価値は非常に高い状態で維持される(相互連関を繰り返す ことにより,どんどん価値が高まっていく場合もある) 。

ペンローズは, 「個体としての資源」を経営資源とは考えず, 「利用可能な 用役の束」を経営資源であると定義した。そして,企業の2種類の資源−人

図Ⅳ−1 learn型情報蓄積とstudy型情報連関

資源展開戦略に関する一考察(合力) −47−

( 25 )

(26)

的資源と物的資源−の間には相互作用があり,この相互作用によって,各々 から得られる生産的用役も影響を受けると考えた。人的資源も物的資源も,

その既知の用役に従ってそれぞれの市場で購入されるが,それが企業に同化 されるやいなや,その提供しうる用役の範囲は変化し始める。ペンローズは

「この変化によって与えられる成長への潜在力は企業によって異なるが,こ れが実現される限り,企業の成長は,外部環境の変化にのみ関連づけられる のではなく,別の関連性によってもおこなわれるのである」としているが,

まさにこの「別の関連性」のプロセスが組織学習のプロセスに相違ないので ある。

資源展開の近年の動向として,コア・コンピタンス(core competences:

中核的能力)の認識が注目されるようになってきている。例えば,企業規模 がまださほど大きくないベンチャー企業の初期や大企業がドメインの再定義 が必要になるような時期にあっては,コア・コンピタンスの存在が必要にな るかもしれないが,このコア・コンピタンスの大部分は組織学習によって形 成されるのである。

G. ハメル=C. K. プラハラード(1 9 9 4)はコア・コンピタンスを「顧客に 対して,他社にはまねのできない自社ならではの価値を提供する,企業の中 核的能力」と定義し(Hamel,Gary and Prahalad,C. K. [1 9 9 4] ,邦訳 p. 1 1) , 個々のスキルや組織という枠を超えた学習の積み重ねであるとしている

(Hamel and Prahalad[1 9 9 4] ,邦訳 p. 2 5 9) 。彼らは,コア・コンピタンスを 企業力(個別的なスキルや技術ではなく,それらを束ねた総体)の中核であ ると考え,それには以下の3つの条件−「顧客に認知される価値を高めるも の」 「競合他社にはないユニークな競争能力」 「新規市場参入を促す企業力の 拡張を実現するもの」−が満たさなければならないと主張する(Hamel and Prahalad[1 9 9 4] ,邦訳 pp. 2 6 0 ‐ 2 6 4) 。

−48−

( 26 )

(27)

! コア・コンピタンスは, 「顧客に認知される価値を高めるもの」でな ければならない。企業力がコアであるかどうかのひとつの区別は,自社 の利益ではなく,顧客の利益が中心にあるかどうかである。顧客の目に 見えるのは,利益の基礎となる企業力の技術ではなく,利益そのもので ある。従って,何がコア・コンピタンスであるかを見極めようとするな らば,自社の特定のスキルが顧客に認知される価値を十分に高めている かどうかを,絶えず企業は自問しなければならない。 「この製品・サー ビスの価値は何なのか。なぜこの顧客は別の製品・サービスではなく,

この製品・サービスを選択するのか。 この顧客にとって, この製品・サー ビスのうち,どの価値が最も重要であるか。…」といった分析ができれ ば,他社にはない価値を顧客にもたらすコア・コンピタンスを発見でき,

それに力を集中できるはずである。すなわち,コア・コンピタンスとは 企業が独自で考えた競争力ではなく,顧客によって高められるという性 質を有するのである。

" コア・コンピタンスは, 「競合他社にはないユニークな競争能力」で

なければならない。これは,一企業が独占的に企業力を所有していなけ ればならないという意味ではなく,特定企業の企業力のレベルが他社に 比べてはるかに優れているのでない限り,業界のどこにでもあるような 能力をコアと定義づけるべきではないということである。ある特定のス キルが既に業界内で当然のものになっていたり,まだまだスキルが業界 の最高レベルに達していたりしないのに,それが自社のコア・コンピタ ンスであると思い込んではならない。

# コア・コンピタンスは, 「新規市場参入を促す企業力の拡張を実現す るもの」でなければならない。 「現在」 ,企業力がどういう形で特定の製

資源展開戦略に関する一考察(合力) −49−

( 27 )

(28)

品・サービスに使われているかにとらわれずに, 「新しい」製品・サー ビス分野に同じ企業力をどのように使うことができるかを考えたとき,

それが新しい分野での拡張を実現するものであれば,それはコア・コン ピタンスと呼ぶにふさわしい。

コア・コンピタンスは,会計学用語としての「資産」とは異なる。工場,

流通チャネル,ブランド,あるいは特許権などは単体の資源であり,コア・

コンピタンスではない。しかし, 「資源を管理する能力」となれば,コア・

コンピタンスを構成するといえるかもしれない。企業力がすり減ることはな い。一般に,企業力は頻繁に使われるほど磨きがかかり,価値も高まる (Hamel and Prahalad[1 9 9 4] ,邦訳 p. 2 6 5) 。

但し,相対的にその価値が減っていくことはありうる。長期的にみたとき,

品質,素早い顧客対応など,ある時期に他社との差別化を図っていたコア・

コンピタンスが,やがて単なる能力のひとつになってしまう場合があるので ある。しかし,やはりコア・コンピタンスの把握とその活用は企業にとって 有益であり,逆にそれを無視することは企業にとって危険であるということ をトップ・マネジメントは認識すべきであろう。

R. M. グラント(1 9 9 1)は,企業にとって最も重要な経営資源と能力を,

①陳腐化しにくく(従って持続性があり) ,②競争他社が認識したり,理解 したりすることが難しく,③完全に移転することができず,④容易に模倣す ることのできないような,⑤明確な所有権と支配力をもった資源や能力であ る,としている。従って,企業を経営資源とそれを組み合わせる能力の集合 体とみなすとすれば,そこでの戦略策定のエッセンスは,こうした資源とコ ア・コンピタンスを最も効果的に活用する戦略を設計することにあるといっ

−40−

( 28 )

(29)

てよい(大滝精一他[1 9 9 7] ,pp. 1 7 4 ‐ 1 7 5) 。

企業は,現在の競争で有利になるような戦略だけでなく,コア・コンピタ ンスを活用しながら,新しい競争を有利に進めるような戦略を模索しなけれ ばならない。もし,企業がコアとなる能力までも外部からの供給に依存する ことになると,それは長期的にはアイデンティティの放棄をもたらすことに なるだろう。また,コア・コンピタンスに対して鈍感な企業は,不採算事業 を棄却する際に,価値ある資源までも無意識のうちに手放してしまうであろ う。

一般に,人は所与の条件づけや周囲の環境によって決定づけられると言わ れている。しかし,生活のなかで環境が極めて大きな影響力を持つことは認 めるにしても,それによって我々が決定づけられている,あるいはそれらか らの影響を全くコントロ−ルできない,となるとそれは経験的に違うと言わ ざるを得ない。

企業経営者のなかには,こうした環境決定論的パラダイム,すなわち「刺 激−反応モデル」 (ある特定の刺激に対して特定の反応をする,というモデ ル)を信奉する人が多い。そして,このような経営者は組織内での学習を軽 視し,外部からの経営資源の調達による適応を極度に強調する。

しかし,もしこの環境決定論的パラダイムによってのみ企業経営がおこな われるとしたら,企業の「特殊性」や「差別性」などは生じない。実際には,

「刺激」とそれに対する「反応」との間には, 「刺激を分析し,複数の選択肢 を列挙し,そして選択する」学習プロセスが媒介変数として存在し,それが,

企業に特殊性や差別性を与えるのである。

1) 石井他は,ドメインを「企業の目的,哲学,ポジショニングを表明するもので ある」としている。企業の目的は,組織が遂行する業務活動とどのような組織に 資源展開戦略に関する一考察(合力) −41−

( 29 )

参照

関連したドキュメント

この確信を持たせる相互信頼を築くには、社員

であ り、 これ らの機能 は他 のすべての業務 シス テム と関わ りを持つので、会計情報 システムは 機能的に他 のすべての業務 システムを一つにま とめる役割

知識は外部にあるという考えである。知識には技術,熟練等も含まれ,長期的には企業外部の存在に

という)の 4

では,そもそもブランドのオンバランス化が行われる意義とは何であろ

 我が国の株式会社では、経営者である取締役への報酬は、過去においては金銭報酬が主に

26)を想定す れば,これらを地域内部で循環させていくという

併せて日本医薬品企業が 1970