中学校技術科における21世紀型スキル育成 : 形状 記憶合金エンジンカー教材製作
著者 松永 泰弘, 石上 雄規
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 23
ページ 159‑168
発行年 2015‑02‑27
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00008897
静 岡大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要 N。23p159〜168(2015)
く実践報告〉
中学校技術科における21世紀型スキル育成
―形状記憶合金エ ンジンカー教材製作 一 松永泰弘* 石上雄規**
Development of 21 st Century Skills for Technology Classes in Junior High School
Manufacturing of SMA Engine Car as a Teaching Material Yasuhiro Matsunaga Yuuki Ishigami
要旨
ATC21s(The Assessment and Teaching Of 21st Century Skills)が 提唱す る 「21世紀型スキルJ卜 いを養い 伸 ばす教育への転換が求められている。 中学校技術において、21世紀型スキルを伸ばす授業実践例 として、形状 記憶合金エ ンジンカー教材製作の授業を提示する。
キーワー ド: 中学校技術 21世紀型 スキル 形状記憶合金エンジンカー
1 緒 言
平成 24年度か ら完全実施 された新学習指導要領中 学校技術 うにおける 目標において 「技術を適切に評価 し活用す る能力 と態度 を育てるJとい う文言が新たに 加わった。技術・家庭科教育に求められ る生涯学習の 基礎 となる力は,生活体験 を見つめ直 し問題点を解決 す ることの良 さや喜びを実感 しなが ら価値観 を形成 し,
生涯 にわた り自己の生活 をよ り良 く豊かに改善 してい く意欲や態度 を追究することにある。
ま た 、 ATC21S(The Ass¨ sment and Teaching of 21st Century Skills)が提 唱す る 「21世紀型 ス キル 」
1つで は、 これ か らのグ ローバル社会 を̲■き抜 くた め に求 め られ る一般 的 な能 力 として、批判 的思考力、問 題 解 決能 力、 コ ミュニ ケー シ ョン能 力、 コラボ レー シ ョン能力 な ど、次代 を担 う人材 が身 に付 けるべ きス キル を規定 してお り、知識重視 の教育か ら 21世紀型 スキル を養い伸 ばす教育への転換 が求 め られ てい る。
世界大学総長協会 2014年横 浜総会 引では、持続可
能 な社会 を実現す るた めの教育ESDには、批判的思考、
創 造性 、 コ ミュニ ケー シ ョン、 コラボ レー シ ョンの重 要性 が確認 され た。21世紀型 スキル 、ESDと もに、 こ れ か らの子 どもた ちに必 要 とされ る力 につ いて同 じ方 向性 を持 ってい る とい え る。
本研 究 で は 、 中学校 技 術 にお ける、21世紀型 スキ ル を伸ぼす授業実践例 として、形状記憶合金エ ンジン カー教材製作の授業 を提示す る。
Allに使 用 され る形状記 憶合 金 は,能動 カテーテル 、 ハイブ リッ トカーのエ ンジンの 自動制御 開閉グ リルユ ニ ッ ト、触覚デ ィスプ レイ に応用 され るな ど、形状記 憶合金 は多岐 にわた る研 究、 開発 が され てお り、実用 域 は更 に広 が る もの と予想 され る。 この よ うな教材 を
*静岡大学教 育学部 技術 教育 講座 **知徳 高校教諭
使 用す る こ とで、 日常生活 との結̲l・つ きを学び、生徒 の興味・ 関心を惹 きつ け、学習意欲 を高めることがで き る学習 内容 として提示 した。また、 これ まで小 中学 生 を対象 に した授業実践 を行い、教育的価値 の考察 ・ 検討 を行 つて きた6い。
形 状.・L憶 合金エ ンジンは、変形 させ た後,お湯 に付 けただ けで も とに戻 るとい う驚 き・不思議 さを備 えた 材 料 で あ る。本実践では、中学校技術 にお ける形状記 憶合金 エ ンジンカー (図 1)製作 の授業 実践 つの内容 につ い て検討 を行い、 ものづ くりの技能だ けでな く、
新 素材 や新 エネル ギー 開発 な どの新 しい技llに触 れ 、
図1 教材用形状記憶合金エ ンジンカー7●
159
図2 エンジシカー組立図(jW―Cad図 面)7め
松永泰弘・石上雄規
土ネルギーの利用 における技術 と社会・環境 との関わ りについて学習す る。また、実験 と試行錯誤を繰 り返 し、問題解決能力や 自発的、創造的な学習態度 を養 う ことを重視 した授業実践を行 うも
2 教材用形状記憶合金エンジンカー
製 作 す る形 状記 憶合 金 エ ンジ ン には、 プー リー式 熱 エ ンジン (図 3)を採 用 し、材料 と して、TiNi形
状 記 憶 合 金 フイ ヤ ー 、銅 線 、大 プ ー リー 、 中プ ー リー 、ブ ッシュ を用い る。
実 践 で使 用 した エ ンジ ンカー の シ ャー シは穴 あ き アル ミ板 を用い、軽量化 とボール盤 での穴あけ作業
図3 プー リー式形状記憶合金熱エンジン
図4 動作原理 D 材 料
をなくし、作業時間の短縮 を図る。 また、これまでタ イヤにCDを用いていたが、材料の確保の難 しさか ら、
合板で製作 されたタイヤを用いる。エンジンカーの製 作に使用 した材料を表 1に 示す。
エンジンの動作原理 を図4に示す。下プー リーのお 湯に入 る側① とお湯か ら出る側②で温度差が生 じるこ とで、下プー リーによって形状記憶合金 に生 じる①側 と②側のモーメン トに差が生 じる。その差が回転力 と な り、停止す ることなく回転を継続す る。
3 形状記 憶 合金 エ ンジ ンの性 能試 験
TiNi形状記憶合金および形状記憶合金エンジンの 性能について実験 し、生徒の探究について探 る。
31 TNi形状記憶合金の変態温度測定
示差 走査熱 量計 (perkin elmer社製 DSC7)に て TiNi形状記憶合金のマルテンサイ ト変態開始・終了 温度 とオーステナイ ト変態開始・終了温度を測定する。
TiNi形状記憶合金 フイヤニ約 5m(重量 000564g) を25℃か ら80℃、80℃から25℃に20℃/minで加熱 冷却 を行い、図5,6に DSC曲線 を示す。形状記憶合 金 は、加熱時に吸熱 を伴つて、逆変態 しマルテ ンサイ ト相か らオーステナイ ト相へ戻る。また、冷却時には 発熱を伴い、オーステナイ ト相か らマルテンサイ ト相 へ変態する。
ンノ
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図5 35 34 33 32 3︲ 3︒ 29 28 27 2
■
・4
・5
・6
・7
・8
冒 ニ ー ロヽ 羅 富 ニ ー ロヽ 議
表 1
50 52 54 56 58 温度FC]
DSC曲 線 (25℃か ら80℃へ加熱)
48 50 52 54 56 温 度FC]
DSC曲 線 (80℃か ら25℃へ冷却)
図 6
② MH
名 称 寸 法[lom]
TiNi形状 記 憶 合 金 ワ イ ヤ ー (AF50℃)
φ03×530 2
″ル ミ板 160X130×10
I型 ア ー ム(口宮 模 型) 5
型 ア ー ム (田官 標 型 ) 3
大 プー リー 鯛 宮模 型) 3
中プー リー(日官模型) 3 六 角 シ ャ フ 603× 3×150 丸シャフ ト(田官模型) φ03×3×100 2 両 ネ ジ シ ャ フ ト(田宮模
F̲l)
φ03×3×100 1
クランク(田宮模型) 2
トラ ック タイ ヤ ホ イ ー ル
̀円 菅 蘊 利 ヽ
2 ペ ッ トボ トル (底 が 四 角
の 幸、の ヽ
1
o120 3
ゴ ム 適 量
ブ ッシ ュ部 品各 種
160
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中学校技術科における21世紀型スキル育成
抑 鰤 加 劉 劉
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﹈e 簸 暮 回 基準値 との差か ら求めたオーステナイ ト分率を図 7 に示す。マルテ ンサイ ト変態開始温度 』4533℃、終 了温 度 』學97℃、 オ ー ス テ ナ イ ト変 態 開始 温 度
′s526℃、終了温度 И′567℃をえる。
40 '51 ´鼈 66 61 66 温度(℃)
図7 温度に対するオーステナイ ト分率変化
32 エ ンジンの回転数測定
リング状の形状記憶合金 ワイヤー の接合部分 の個体 差 に よ り、エ ンジ ンの回転数 は影響 を受 ける。そ こで、
製 作 した3つのエ ンジンについて性能試験 を行 う。
水 温 は 70℃ で一 定 に保 ち、湯 に測定装置 を浸 して か ら1分間で測 定準備 を行 い、そ こか ら3分間測 定 を
行 う。試験 中、上プー リー部 の雰囲気温度 を波」定す る。
ただ し、形状記憶合金エ ンジンが水面 となす角度 を θ
=45° で 固定 した (図 8)。
下 プー リー部 を湯 に入れ る深 さ んを変化 させ 、各々 の回転数 を測定す る。また、深 さを変化 させ る際は、
1分間、冷水 で装置 を冷やす こ とと した。 回転数 の計 測 に は 非接 触 のデ ジ タル タ コメー ター 回転 計 (H10KI 社製 D卜22343)を 使用 した。上プー リー に位相差 πの 位 置 に反射板 を二箇所 取 り付 け、計測精度 を高 めた。
また、水温 を一定に保つためにユニ ッ ト恒温槽サーモ ミンダー (TAITEC社製 S■ 10R)を 使 用 した。 オース テナイ ト変態終了温度 4は 567℃で あるた め、形状
が 回復 す る温度 は 567℃以 上 に保 つ 必 要 が ある。本 実験 で は安 定 して 回転 を行 う 70℃ を基 準 温 度 と した。
用意 した3本の リング状 ワイヤー を用 いて、深 さ
た‐5mm,10mm,15mlnと 変化 させた時の回転数 の計測 結果 を図 9〜11、 また、平均回転数 を表2に示す。
回転数 が上昇、下降を繰 り返 してお り、安 定 してい ない こ とがわか る。 これは、形状記憶合金エ ンジ ンは 高い回転数 を得 る と、下プー リー部 の形状記 憶合金が 湯 に浸 か ってい る時間が短 くな り、温度差が小 さくな
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ム出ヽゴエ ゲ Vヽ・、■ぃハ4■■憾.ぜ1ぽ.`
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│::彰il[:§: 60 100
時間[s]
図9 回転数測定結果 (か5mm)
50 100 160 時間‖
図10 回転 数測 定結 果 (力=10nlm)
50 100 150 時間EsI
図11 回転数測定結果 (か15m)
Rh{i-;..,*...,..^..'r' rt'''}
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Jゝハイ¬い″‐ ` V`VVl・
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繋 曇
[:3!表2 平均回転数[rpn]
黙み 形状記憶
合金A
形状記憶 合金B
形状記憶 合金 C
5nlr 258
10■lll 261
15mm 279 図8 水 面 となす 角度 θと深 さ ″
161
`か'ヽヤ‐ ヽ1・ 、、町ず
..広 へr
"'■
V
一 形状記憶合金A
― 形状記憶合全B
一 形 状記憶 含金0ヒ
松永泰弘・石上雄規
るため、エンジンの回転数が落ちることによる。
個体差 に関 しては特 に、形状llE憶合金 Cと形状記 憶合金A、 Bと の間で大きな個体差が見られた。結び
目の個体 差 に よ り、深 さ ″=5nulの 時の形状記 憶合金A、
Cにお いて、最大で約50rpmの差 を生 じる こ とがわか る。 リングCの結 合部 は リン グA,Bに比較 し、なめ ら か に接合 され てお り (図 12)、 回転時 に大 きな影響 を与 えて い る と考 え る。
図13,表 3よ り各深 さ みにおいて ワイヤーの形状が 回転中、2〜3段階で振動 していることが観測 された。
また、図14から、 トルクは深 さ ルや回転数 と比較 し て、入水時間に影響 されることがわかる。 フイヤーの 入水時間 ′の増加で トルクの増加 がみ られ る。
表3 入水 中の ワイヤーの長 さ(mm) 深 さ h 1段階 2段階 3段階
5 0nlH 42 1 412 38 8 10 0nul 56 6 55 5 549
12 5Π肛 68 0 72 0
15 0に肛 79 2 80 6 813
20 01肛 86 9 86 8 86 5
11■す
ング A 図12
(b)リ ングB (c)リ ングC 形状記憶合金の接合部
3‑3 エンジン回転中のワイヤーの挙動
形状記憶合金エ ンジンの性能に関す る、著者の研究 つにおいて、 トル クと回転数のグラフか ら、深 さ、回 転数が変化 しても、フイヤーの入水時間が同=であれ
ば、 トル クは同一であると仮定 し、検証す る。入水中 のフイヤー形状の観察を行い、入水時間の測定を行 う。
湯温、エンジンの傾斜角は、32節と同 じ条件 とし、
下プー リー部 を湯 に入れる深 さを 卜5m10m,125m, 15m,20mと 変化 させ、入水 中のフイヤー形状を撮影 す る。画像の解析か ら入水 中のフイヤー長 さを求め、
入水時間を求める。
か151nnlにおける入水 中フイヤーの形状 を図13に示
す。各深 さにおける入水 中フイヤーの長 さを表 3、 フ イヤーの入水時間
̀と トルクの関係 を図 14に 示す。
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‐ 10mm
‑12,mm
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0 000カ5 00001 0001i5 00002 000025 00000 0Ю 00"
卜′″ πN赫
図14 ワイヤーの入水時間とトルクの関係
4 授業実践の概要
本実践では藤枝市立青島中学校の技術科教諭のもと、
形状記憶合金カーの実践を行つた。実践には著者が TAと して授業に参カロし、教材の準備、授業の流れを 提案した。実践の概要を以下に示す。形状記憶合金エ ンジンカー製作を題材 とした指導計画を表 4に 示す。
【藤枝市立青島中学校における授業実践】
[期間]平成23年6月 29日〜平成24年3月 2日 [対象]藤枝 市立青 島中学校第2学年 (260名)
[時間]月 、水 、木 、金(1,2時限 目) [場所]技術科室
図13 入水中の ワイヤー形状(卜 15mm)
表4 形状記憶合金カー製作を題材 とした指導計画
授業実施 日 授 業時間数 授業内容
① 6/29, 7/6 2時間 事前調査及び金属の性質を理解するための実験
② 7/13, 9/7, 9/14 3時間 形状記 憶合金 リングの製作
③ 9/28 1時間 エンジンカー動力部分の模型の製作
④ 10/5 1時間 製作 した リングを用 いたエ ンジ ンの回転動 作確認 実 験
⑤ 10/12, 10/19 2時間 疑問点、問題′点の把握 と共有、実験を通 し問題解決
⑥ 10/26 1時間 回転原理ま とめ
⑦ 11/2 1時間 形状記憶合金 フイヤーの入水角度及び深度 を測定
③ 1.r/!6, 12/1, 12/14, t/13, L/27, 2/10, 3/2
6時間 エ ンジンカーの組 み立てお よび走行試 験
り乙
αυ
/
ヽ /
ヽ /′ ‑15mm(1師 │
‐ 15mm(2段略
―
':‐
・ 。量 。
中学校技術科における21世紀型スキル育成
5 教 師 の取 り組み お よび生徒 の あ らわれ 本実践において、これまでの授業内容 に新 しい内容 を付 け加 え、21世紀型スキルに関連 して生徒の学び を引き出す取 り組みを行 つた。以下に本実践における 取 り組み、生徒の反応、あらわれ を示す。特に、形状 記憶合金エンジンカー製作を題材 とした実験・製作を 体験す ることによりみ られた、 (中学校教諭 と著者 ら の判断による)特筆すべき生徒のあらわれを下線で表 記す る。 また、21世紀型 スキルに関連す る個所 に太 字で注を表示 した。
51 事前調査
これまでの形状記憶合金の授業実践 つにおいては、
授業最終 日に行 うアンケー ト結果および授業 中の生徒 の観察か ら形状記憶合金エ ンジンカー製作の教育的効 果について検討 を行ってきた。そのため、授業実践前 後における生徒の意識の変化については検討 していな い。そ こで、本実践では実践前後において、生徒の新 学習指導要領の 目標に新たに掲げ られている『 技術を 適切に評価 し、活用す る態度』に関 して授業前後にお いて生徒の意識 に どのような変化がみ られたか調査 を 行い、エンジンカー実践の教育的効果 を検証す ること
とした。質問内容を図 15に 示す。
図15の質問1に関 しては無駄 とされているエネル ギーの利用における技術 と社会、環境 との関わ りなど に関す る生徒の知識の確認 を行 うこと、質問2では 自 動車の走行時、無駄 とされているエネルギーを生徒が
日頃、 どの程度意識できているか確認 を行 うことを事 前調査のね らい とした。同様の質問を授業最終 日に行
図16 事前調査 用紙 中の図
い、これ らのね らいに関 して生徒が、 どの程度、理解 関心を持ち、技術 を適切に評価 し活用す ることができ るよ うになつたか調査す る。 また、各質問においては 図 16に示す図を調査用紙に使用す るクラス と使用 し ないクラスに分け、調査用紙中の図の有無における生 徒の回答の変化に関 して も調査す る。
質問1に関 して、図無 しのクラスにおいては全体の 約 3%から17%、 図有 りのクラスにおいては約 10%
か ら40%と適切な回答ができた生徒は半数にも満た なかった。身の回 りで無駄 とされているエネル ギーの 利用に関 して、生徒の知識不足が明確 となった。
質問 2に関 しては質問 1より回答数が多い結果 と なった。 日頃か ら家庭で 自動車に接 しているため、無 駄なエネルギーを想像 しやすかつた と考えられ る。回 答では特に排気ガスを無駄なエネルギー とす る意見が 多 くあった。また、図有 りのクラスにおいてはブ レー キや車 とタイヤの摩擦 を無駄なエネルギー として考 え る生徒 もいた。 自動車の車体 をスケル トンにしたため、
エ ンジンか ら車輪の回4̲Fに至るエネルギー伝達に関す る記述がみ られた。エンジンカーを製作 し、摩擦が走 行時に強 く影響 していることを実感す ることで、事後 調査において『 摩擦』 とい う回答のポイン ト数 も上昇 す ると考えられる。
図の有無による回答数の比較において、図有 りの質 問1に関 しては3〜5種類の回答、質問2に関 しては
5〜7種類回答 と、図無 しの質問以上の回答数であっ た。 このことか ら、調査用紙 に図を挿入す ることによ
り質問の意図が明確化 されたことがわかる。
5‑2 金属の性質を理解するための実験 本―践
では授業導入部分において、形状記憶合金だ けでなく、私達の身の回 りやエンジンカーに も使用 さ れている金属 (銅線、ステール線、銅パイプ、真鍮パ イプ)を取 り上げ、金槌で叩く、やす りで磨 く、電気 を通す、熱 を加 えるといった実験 を通 し、光沢、熱伝 導性が高い、電気伝導性が高い、延性展性 を持つ とい
う金属の性質を理解す る授業内容を加 えた。
これ によ り、新学習指導要領 に挙げ られている『A 技術 とものづ くり』 における(2)のイ『 製作品に用い る材料の特徴 と利用方法 を知 ること。』に関 して、形 状記憶合金だけでなく、身の回 りの金属についても興 味関心を持て、実感 を伴 つた理解につながることを意 識 した。
金属 を研 く、叩 く作業はどの生徒 も熱心に行 つてい た (技術科教諭の評価)。 物 を綺麗にす る、輝かせ る 作業 を盛 り込んだことで、生徒の興味を引 くことがで きた。また、引き伸ばす作業では どこまで薄 くできる か競い合 う生徒 もいた。その中で引き伸ばす ことのた いへんさを実感 し、 「缶、車のフレーム、包丁を作 る 作業を人が行つた らとてもたいへんだJと言っている 質 問1
私達 は 自然界 のエネル ギー資源 を人間が使 えるエ ネッレ ギー に変換 し、生活 に利用 しています。
例 えば、 自然界 のエネル ギーで利用 されていないエ ネル ギーや 、人 間がエネル ギー を使 う時に排 出 され る 無駄 なエネル ギー を利 用 も しくは再利用す る方法は具 体 的 に どの よ うな ものが あ りますか。 図 を使 うな ど自 由に考 えて、挙 げてみ よ う。
【質問2】
自動車が走行 してい る時に有効に使われていないエネ ル ギー もしくは無駄 なエネルギーについて書いて くだ
さい。
図15 事前調査項 目
1 質問1 質問2
松永泰弘 石上雄規
生徒 もいた。
また、授業内で、 「デ ィズニーラン ドで見た ことが ある (銅を引き伸ば してメダル を作 る機械)」 「アル ミ缶 もアル ミを薄 く延 ば したものなんだ。す ごい力で 伸ば したんだろ うな。Jとい う発言があ り、身の回 り
の工業製品の加 工に関 して実感 を伴つた理解ができ、
技術 を評価 している生徒 もみ られた。また、 「金属 を 叩 くと熱 くな るのは、金属の原子が擦れ合 うか らか な。」 とい う発言があ り、金属の性質についても理解 をしてい る生徒がみ られた。 これ らの発言か ら過去の 経験 と結び付いた理解につながつていることがわかる (21世紀型スキル:生活 と職業、工学 との関わ り)
形状記憶合金についてはバーナーの火 に近づけた時に 直線 の状態に戻 るところを生徒に見せた ところ、歓声 が塑が2上L援業の中でも形状記憶合金フイヤーが欲 しいと言 う生徒がお り、他の金属と比べ、特異な性質 を持つ形状記憶合金に興味関心を示していることがわ かる。
5‑3 エンジンカー動力部模型の製作 と回転実験 本実践では構造が単純で製作が容易な動力部模型 を 各 自が製作す る中でエンジンの基本構造 を学び、製作 した リングを用いてエンジンの回転を確認する実験を 取 り入れた。 '
実験を通 して動作に関す る疑問点や問題点を生徒一 人一人が把握、他の生徒 と共有を行い、試行錯誤す る 中で解決へ導けるよう、教師側は助言や問題 を共有で きる時間を作 り、生徒の主体性 を尊重 した授業 を行 う こととした。また、その中で生徒の問題解決能力や他
者 との意見のや りとりの中でコミュニケーシ ョン能力 (21世 紀型スキル)を育む授業を 目指 した。
エンジンの製作に関して、どの生徒 も意欲的に取 り 組んでいた。実験では約5害1の生徒は回転 させ ること ができた。残 りの生徒に関 してはプー リーを固定する 軸がずれ、回転をしないケースや リングの接合部が回 転中には どけて しま うケースであつた。
図20 回転実験
回転 の有 無のエ ンジンを
(b)回転方向に関する疑間の記述 図21 ワークシー ト記述内容
図19 エ ンジンの製作
図17 紙 やす りで磨 く作業
図18 金槌 で叩 く作業
164
ì■ ■ ツ贅ヽt̀凛
中学校技術科における21世紀型スキル育成
単純 な構 造 でプー リー が回転 を始 める ことに対 して
生 徒 が多 か った。 また、授業 のま とめ時 に使用 した ワー クシー トにおいて は図 21(a)の よ うにエ ンジ ン が 回転 しない原 因 を他者 と比較 し考 える生徒 や 、 図 21(b)の よ うになぜ 、左 回転 をす るのか疑 間に感 じて い る生徒がお り、疑問や 問題点 を把握 してい ることが わ か る (21世紀型 ス キル :コ ミュニケー シ ョン能 力 、 新 た な問い の発 見)。
授業 が進む につれ て、ま とめワークシー トに変化 が み られ た。 図 22(a)に おいてはプー リーの軸 間距離 が エ ンジンの回転 に影響 を及 ば しているこ とに気付 く生 生 や 、 図 22(b)に はエ ンジ ンをお湯 に浸 け る深 さが浅 い方 が回転速度 が上昇す ることに気付 く生徒 、図 22 (c)に はエ ンジ ンが回転す る原理 を、図 を使 い解 明 し よ うとす る生徒 がみ られた。授業内で も生徒 間で意見 交換 をす るな ど、疑問点を解決 しよ うとす る態度がみ
られた (21世紀型 ス キル :コ ミュニケー シ ョン能力 、 コラボ レー シ ョン能力、FII題解 決能力)。
(b)お湯に浸かる深さに関する記述
■│■■糠犠│・441‐'* 書^:"t窮.̲,1‐,.
r,r If, r${.tt ,, 9il
(c)回転原理に関する記述 図22 ワークシー ト記述内容
5‑4 回転原理のまとめ
回転原理 の説 明に関す る生徒の発言や記77Fにお いて 図 23のよ うに 「形状記憶合金 をお湯 に浸 けると直線 にな り、回転 を始 めるJとい った内容の記述が多 くみ られ た。 しか し、 これ では回転の向きが本来 の向き と 逆 になつて しま う。 そ こで、回転実験の最後 の授 業に お いて、クラス全体を適切 な回転原理 の理解へ と導 く 必 要 が あつた。本実践 においては、教師側 か ら回転原 理 を全 て説 明す るのではな く、理解す る手掛 か りとな る実験や ヒン トを与 え、動作原理 を考察す る時間 を設 けた。 この授業において、動作原理 に関す る生徒 の漠 然 と した理解 が、FJl確な もの とな る ことを 目指 した。
図23 回転原理 に関す る生徒の意 見
授 業 で行 つた回転原理 に関す る実験お よび ヒン トの 内容、予想 され る生徒の反応 を以下に示す。
■形状回復温度の漫1定実験
【予想 される生徒の反応】
・温度が高い方が戻る力が強い。
・大体70℃以上で形状が完全に回復する。
■ヒン ト①
図24にお ける下プー リー部 を、軸 aを中心 と 分 に した左右 (A,B)において回転時、温度分布 に が生 じる こ とを提 示 す る
,r Siri$'l}rl 1.*, i1, r,..i
図24 ヒント① ワイヤーの温度分布変化の動画
(映像の一部)
(a)軸間距離に関する記述
165
=・ │:│・
松永泰弘 石上雄規
【予想 される生徒の反応】
・B側のフイヤーが高温で熱せ られ るため、プー リー で曲げ られたワイヤーが直線 に戻 ろ うとす る形状回 復力が強 く回転をす る。
・B側の方が下プー リーのB側がお湯に浸かつている 面積 が広いか ら温め られ るフイヤーの長 さも多い。
だか ら力のバランスが崩れて回転す る。
■ヒン ト②
下プー リーで曲げ られたフイヤーの形状が直線 に回 復す る力がプー リーの回転力に変わ り、温度によって
も回転力が違 うことを実験動画で提示す る (図 25)
【予想 され る生徒の反応】
'ヒ ン ト①でみ られた温度 分布 より、下プー リー部に おいて ワイヤーの形状回復力が働 き、回転力が発生す るが、温度差の違いか らB側の回転力が強 くな り、左 回転をす る。
形状回復温度の測定実験において、生徒は高い温度 (70℃以上)の方が完全 に形状が回復 し、低 い温度 (60℃以下)では形状回復が不完全であることに気付 くことができた (21世紀型スキル :問 題解決能力)。
この実験 をもとにパ ワーポイン トを用いた ヒン ト①の 説明において、『 ワイヤーの温度分布変化』の動画を 提示 した。回転中にフイヤーの温度が図 24にみ られ る形で変化 をしてい く様子を提示 した時点では、予想 していた回答は得 られなかった。次にヒン ト②のプー リーの回転原理の実験映像 (図 25)を提示 した とこ ろ、生徒の意見の中で図 26に挙げる回答があ り、三 え られたヒン トを自分な りにま とめ、回転原理を導 く ことがで きた生徒がみ られた (21世紀型 スキル :問 題解決能力)。
(a)手を離すと右回転する映像 (60℃以下の湯)
(b)手を離すと左回転する映像 (70℃の湯)
図 25 ヒン ト② プー リーの回転原理の実験映像
温度測定
(c)ヒン トの説明風景
(d)意見の共有 図27 実践風景
)警 群
│‖
Ψ 滅
11‖二
│「疵
11:ⅢⅢ
l:j三:符驚
│::力::黎,図26 ワークシー ト内容
(a)動作原理追究
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中学校技術科における21世紀型スキル育成
しか し、全体の5割も満たなかった。そこで垂直に エ ンジンをお湯に浸 けた場合の追加実験を行った。
最初 にエ ンジンの動作を予想 し、実験 を行った。予 想では全体の約8割の生徒が、 これまでの ヒン トを元 に、 「下プー リーの左右 鵬 に働 く力がつ り合い、エ ンジンは動かないJとい う予想 を立て、実験によ りこ れ を実証す ることができた。その実験の中で、生徒か ら「̲Lプー リーを少 し手で動かす とフイヤーの温度分 Jと い う発言があつた。 この意見をクラス全体で共有 した 結果、先ほ どよりも多 くの生徒が回転す る原理を理解 す ることができた (21世紀型 スキル :コ ミュニケー シ ョン能 力 、 コラボ レー シ ョン能力 、 問題解 決能 力)。 この結果か ら、最初に、エンジンをお湯に対 し て斜 めにした時の図を見せて回転原理 を考えるのでは な く、最初 に、お湯 に対 して垂直 に した時、下プー リーの左右 郎 において力がつ り合い、エ ンジンは動 かないことを理解 した上で、回転す る原理 を考える方 が理解 しやすいことがわかった。
55 入水角度及び深度の計測
本実践における、これまでの動力部摸型を使った回 転実験において、エ ンジンをお湯 に浸ける角度、深 さ がエンジンの回転 に影響 を及ぼ しているのではないか とい う生徒の意見があつた。そ こで、生徒たちが 自分 の製作 したエンジンが安定 して回転す る入水角度お よ び深 度 を装置 (図 28)を用 いて計測 し、エ ンジン カーの設計 にその値 を用 いることとした (21世紀型 スキル :コ ミュニケーシ ョン能力 、 コラボ レー シ ョ ン能力、新 たな問いの発 見、問題解決能力).試行 錯誤 しなが らエンジンの最適値を求める実験を行い、
問題解決能力を育む ことができる授業 を 目指 した。
図28 エンジンの最適角度および深度計測装置
授 業では各班 (5人)に計測装置が1台とい うこと
も影響 し、計測 に時間がかかったが、班 内で協力 を し なが ら計汎1を行 う姿 が伺 えた。測定結果 か ら 45° 〜
70° 付近 で安定 した回転 を行 うと答 えた生徒が多 く、
お湯 に浸 ける深 さは 5mm〜10mnlでな るべ く水 面に 近 い方が回転速度が速い と答 える生徒が多かつた。 図
29のよ うに表 を作 って回転 の評価 を丸 と三角 を使 い ま とめてい る生徒 もみ られ た (21世紀 型 ス キル :コ ミュニ ケー シ ョン能力 、 コラボ レー シ ョン能力 、間 題 解 決 能力).感 覚 的 で は あ るが 、 この授 業 を通 し て生徒 らは形状記憶合金エ ンジンの性能 を実験 に よ り 確認 す るこ とがで きた。
56 エ ンジンカーの組み立て
エ ンジンカーの組み立てについては先行研究 におい て製作 され た設計図を用い るこ とに した。動力部分 は 可動式 で あるた め、シャー シ との接合部分 はニカ所 に な る.点を留意 した。実験で導いた値 を用 いて角度 を調 節 し、動力部 分お よび シャー シを製 作す る。
徐 々に車 の形 にな るこ とに喜び を感 じなが ら、多 く の生徒 がエ ンジンカーの設計図 を読み進 め、意欲的に 製 作 を してい る。完成 した生徒か らエ ンジンカー とし て の性能 を追求で きるよ う、教師側か らはた らきかけ る必要 が あ る。特 にエ ンジンカー としては走行性能 は シ ャフ トと軸受部の摩擦が影響 していることか ら、摩 擦 に関 して、車 としての追求ができるよ う、教師の支 援 が必要 で あ る。
(b)タ イヤの接着 図30 授業風景
│.■│:´
(a)シャー シの組み立て
ワー クシー ト
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松永泰弘 石上雄規
6 結 言
本研究では、中学校技術における、21世紀型スキ ル を伸 ばす授業実践例 として、形状記憶合金エンジン カー教材製作の授業を提示 した。授業実践においては、
以下の内容を教授 できる授業方法を提案 した。
・ 金属の性質を実感 をもつて理解できる。
・ 新素材や新エネルギーの開発 に関す る新 しい技術 に触れ る。
・ エネルギーの利用における技術 と社会・環境 との 関わ りについて学習できる。
・ 試行錯誤・実験 を繰 り返す ことで、生徒 自らが新 たな問いを発見 し、批判的思考力、問題解決能力 や 自発的、創造的な学習態度 を養 うことができる。
・ 動作原理に関 して理解できる。
・ グループ活動の中で表現力や コラボ レーシ ョン能 力、コミュニケーシ ョン能力、問題解決能力 を養
うことができる。
実践の中では特にエナメル線 を用いて、形状記憶合 金 フイヤーを リングにする過程が難 しく、エンジンの 回転実験や組み立ての最中に リングがほどけて しまい、
再び時間をかけて リングを製作する場面が多々見 られ た。エンジンカーの組み立てが長引いた原因 と考え ら れ、教材化にあたつて更なる改良が必要である。
教材用形状記憶合金エンジンカーはエ ンジンに最適 な動作をさせ るために、プー リーの軸間や形状記憶合 金の長 さ、湯 に浸ける角度など追求できる箇所を数多 く含んだ教材である。そのため、本教材を扱 う教師や 生徒のニーズに合わせて追究箇所 を設定できる面 白さ を含んだ教材だ といえる。追究す ることに時間を充て たい と考える教師は、既に リングになった形状記憶合 金 を使用 し、時間の短縮を図る。細か く、丁寧な作業 を生徒 に学んでもらいたい と考える教師は リングを製 作することを一か ら行 うことになる。 このよ うな、生 徒や教師のニアズに応 えられるように、授業方法の検 討やエンジンカーの改良、解析 を行 つてい く必要があ
る。
本研究は、平成 26年度科学研究費補助金 (課題番 号:24501095)の援助による。
参考文献
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http://ww atc21s org/(2015117確 認)
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3)三宅 なほみ他 :21世紀型 ス キル 学 び と評 価 の新 た なかたち,北大路書房(20141
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5)世界大 学総長協会2014年横 浜総 会 か らの報 告(毎 日新 聞2014718付)
6)松永泰 弘・ 杢谷仁 美 :形状記 憶合金 を用 いた もの づ く り教材用エ ンジンカーの製作に関す る実践研 究,
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7)松永泰弘他 :中 学校 「技術 とものづ くりJにお け
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