博士学位論文内容の要旨
氏 名 川又
カ ワ マ タ寛
ヒ ロ徳
ノ リ所 属 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 学 位 の 種 類 博士(作業療法学)
学 位 記 番 号 健博 第
93号 学位授与の日付 平成
27年
3月
25日 課程・論文の別 学位規則第4条第2項該当
学 位 論 文 題 名 健康高齢者に対する予防的・健康増進作業療法プログラムの効果
ランダム化比較試験副論文①
わが国における健康高齢者に対する健康増進領域の作業療法の効果 に関する文献レビュー
副論文②
地域で生活する健康な高齢者に対する健康増進・障害予防作業療法 プログラム(65
歳大学)の効果に関する予備的研究
副論文③
健康高齢者に対する人間作業モデルに基づく予防的・健康増進作業 療法プログラムの効果~プログラム終了6
カ月後の状況~
論 文 審 査 委 員 主査 教 授 小林 法一 委員 教 授 繁田 雅弘 委員 教 授 小林 隆司
【論文の内容の要旨】
わが国は,世界のどの国も経験したことがない高齢社会を迎えている.したがって,わ が国の高齢社会への取り組みは,世界の先駆けとなると考えられる.作業療法(以下,
OT) に目を向けると,海外ではシステマティックレビューやランダム化比較試験(以下,
RCT) によって,健康増進および一次予防領域における
OTの
QOL向上などの効果が明らかにさ れている.一方,本邦においては,
OTの理論を反映した介入研究やそのエビデンスが不足 しており,その状況と課題を文献レビューにより明らかにした. [副論文
1]
そこで,
OTの概念的実践モデルの
1つである人間作業モデル(以下,
MOHO)に基づ
博士学位論文内容の要旨
く
OTプログラム(以下,
MOHOプログラム)を考案し,地域で生活する健康な高齢者の
QOLに与える影響を検討する目的で,以下
3つの実験をおこなった.
はじめに,予備実験として,東京都荒川区,豊島区,兵庫県神戸市に住む健康高齢者
87人を,各地区を層として後述の
MOHOプログラムをおこなう群(以下,実験群)と,手工 芸プログラムをおこなう群(以下,対照群,一部経過観察群を含む)とに割り付け,
RCTを実施した.
MOHOは意志や習慣,遂行能力,そして環境の相互作用から作業参加が創出 されることを説明するモデルである.その
MOHOの特徴を活かし,参加者が
MOHOを通 して生活や人生を省みる知識を獲得し,作業への参加を通して
QOLの向上を図ることが
MOHOプログラムの目的である.
MOHOプログラムは,
MOHOの基本的構成要素である
「興味」 「役割」 「習慣」などの
10の概念についての講義と,参加者が現在までの健康な生 活を支える要素や将来への備えを理解できるような演習を,
1回
120分全
15回おこなった.
対照群には,
OTの臨床で使われることが多いアンデルセン手芸などの手工芸を行うプログ ラムを,
MOHOプログラムと同じ時間数おこなった.分析対象者は,実験群
30人(
72.3±4.7
歳) ,対照群
33人(
72.6±4.3歳)で,有意差は認められなかった.事後測定値から 事前測定値を差し引いて算出した変化量を比較した結果,実験群の方が
SF-36の体の痛み
(
p=.01) ,
QOL26の心理的領域(
p=.02) ,生活満足度指標
Z(
p=.01)で有意に高い結果 であり,
MOHOに基づく健康増進・障害予防プログラムには,
QOLを向上させる効果が あることが示唆された. [副論文
2]
次に,予備実験に基づきサンプルサイズを算出し,予備実験の対象者に加えて,札幌市,
秋田市などで新たに参加者を募集し,各地区を層として,
220人をランダムに実験群と対照
群とにランダムに割り付け,
RCTを本実験としておこなった.割り付け時,年齢等ベース
ラインに有意差は認められず,最終的にデータに不備がない実験群
80人(
71.1±4.7歳) ,
対照群
79人(
71.4±4.7歳)を解析対象とした.変化量を比較した結果,
SF-36の体の痛
み(
p=.05)と
QOL26の環境領域(
p=.02)では実験群が有意に高かった.
MOHOプログ
博士学位論文内容の要旨
ラムは,高齢者自身が健康的な生活を過ごすために必要な身体的能力から環境の影響に至 るまでの幅広い作業の見方について学び,実践するという,ヘルスリテラシー向上の取り 組みであるといえ,これが
QOL向上に影響したと考えられた.本実験は,予備実験に基づ く適切なサンプルサイズにより
RCTを実施し,内的妥当性を高める配慮をおこなったが,
研究資金や資源の問題から二重盲検ができず,また,脱落者を解析に含めていないという 課題が残った.研究の質を高めるために,
RCTの国際的な統合基準である
CONSORT声明 の遵守や,われわれ以外の作業療法士にも実施可能なマニュアルの整備やトレーニングプ ログラムの実施などが今後の課題となった. [主論文]
最後に,
MOHOプログラムが地域で生活する健康な高齢者の
QOLに与える中長期的な 効果を明らかにする目的で,札幌市,秋田市,荒川区の
3地区に在住の健康高齢者
76人を 対象に,プログラム実施
6か月後の時点で郵送によるフォローアップをおこない,プログ ラム開始時と終了
6ヶ月後の
QOL26総合得点の変化量を比較した.割り付け時から終了
6ヵ月後までフォロアーアップできたのは実験群
23人(
70.7±4.6歳) ,対照群
20人(
70.8±4.0