2 国際交流センターの活動
2.1 報告
豊川小学校跡地を活用した文化誌作成プロジェクトワーク
―留学生と地域住民の交流を通した地域活性化の試み―
平田 未季
要 旨
本稿では,秋田大学「地(知)の拠点整備事業」(大学COC事業)の一環として,秋田県潟上 市豊川地区(以下,豊川地区)で行った留学生によるプロジェクトワークの実際を紹介する。
本活動では,同地区の歴史・文化と「人の物語」を伝える文化誌を作成することを目的とし,
2012年に閉校された豊川小学校跡地に建てられた潟上市多目的交流施設(以下,豊川コミュ ニティセンター1))を拠点として,秋田大学に所属する留学生33名が,(i)豊川地区での「ワク ワク」を探す,(ii)豊川小学校関係者にインタビューを行い記事を作成するという2つの活 動を行った。また,豊川コミュニティセンターで活動成果を住民に向け発表した。本稿では,
留学生による地域活性化の取り組みの一事例として,今回のプロジェクトワークの活動内 容について詳しく紹介すると同時に,上記の2つの活動の内の1つである留学生が豊川地 区で見つけた「ワクワク」の発表内容と,それに対する地域住民のコメントに基づいて,現 時点での活動の成果と今後の課題について述べる。
【キーワード】:プロジェクトワーク,文化誌,地域活性化,留学生,秋田県潟上市豊川地区
1.活動の背景
秋田大学は,少子化,過疎化が進む県内各地域の現実を踏まえ,「地域と共に発展し地 域と共に歩む『地域との共生』を目指」2 )し,連携協定を結ぶ秋田県内の3つの市から提案 された課題の解決に取り組むべく,文部科学省が実施する2014年度「地(知)の拠点整備事 業」3 )に申請し採択された。この採択を受け,上記の課題の解決を含め,地域志向を重視し た学内の教育・研究・社会活動を支援するため,2014年度に秋田大学地域創生センターによ り「地域志向教育研究経費」が設けられた。
本活動は,この「地域志向教育研究経費」の助成を受け,秋田大学基礎教養科目「日本社会 入門Ⅱ」において,上記の課題の1つである(1)に取り組むため,豊川地区で留学生を主体と
1)以前は豊川小学校の向かいに,地区住民が活動を行うための「豊川コミュニティセンター」が存在したが,老朽化により,豊川小 学校の閉校と前後して取り壊された。現在の潟上市多目的交流施設は,この旧「豊川コミュニティセンター」の名前を別称として 引き継いでいる。
2)秋田大学の基本目標の1つとして挙げられている(「秋田大学の基本理念・基本目標・教育目標」http://www.akita-u.ac.jp/
honbu/info/in_idea.htmlより)。
3)「平成25年度の文部科学省の新規重点補助事業で,自治体等と連携し全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を進める大 学等を支援することで,地域再生・活性化の拠点となる大学の形成を目指すことを目的としている。平成25年度は,全国319校の 大学等が申請し,秋田大学は52校の採択校の一つとしてとして選定された。」(「秋田大学地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」
するプロジェクトワークを企画・実行した。
(1)本活動が取り組んだ課題
テーマ:「地域文化振興による元気な地域づくり」
課題:「豊川小学校跡地を活用した,地域住民の心のよりどころとなる多目的交流施設 等による地域活動の活性化」
課題提案自治体:潟上市
本活動が留学生を主体とするプロジェクトワークによって豊川小学校跡地の活用,及び 当該地域の活性化を目指そうとした背景には以下の3つの要因があった。
1つ目は,秋田大学に留学する学生のニーズである。秋田大学に所属する留学生には,以 前より,日本語のみならず日本文化,特に秋田の地域文化,地域社会について学びたいとい うニーズがあった。これらのニーズに応えるため,国際交流センター教員により,2008年度 より横手においてファームステイ等地域に密着した活動を行う教養基礎科目「日本文化入 門Ⅰ,Ⅱ」という科目が開講されている。それに加えて,国際交流センターでは,中島記念国 際交流財団の助成を受け,2009年度より課外活動として仙北市でのファームステイも実施さ れている。これらの活動はどちらも留学生から非常に高い評価を得ている(牲川2014)。これ に対し,「日本文化入門Ⅰ,Ⅱ」と同じく,国際交流センター教員によって行われている基礎 教養科目「日本社会入門Ⅰ,Ⅱ」では,従来,秋田市内の公共施設を中心とした活動,もしく は大学内での講義形式の授業が行われていた。この「日本社会入門」クラスで,豊川地区に おけるフィールドワークを中心とする活動を行うことで,上記の留学生のニーズに応える プログラムをより充実させることが可能となり,より魅力ある留学環境を提示することが できると考えた。
2つ目の要因は,近年,日本の各地域の大学において活発化している留学生による地域活 性化の試みである。近年,各地域の大学は,都市部とは異なる魅力ある留学環境の整備を目 指し,地方自治体等と連携して,地域の特色を生かした留学プログラムを提示している。ま た自治体側も,受動的に留学生を受け入れるだけではなく,留学生と地域住民の交流を通し た新たなまちづくりを試みている。文部科学省が2012年度から実施している「留学生交流拠 点整備事業」はこの流れを後押しするものである。この事業は,大学のみならず地域全体で 留学生受け入れ環境を整備すると同時に,留学生との交流を通した地域の活性化を目的とし ている。大学・地域が一丸となった留学生支援の仕組みを各地で構築するため,2012年度に は山形大学,埼玉大学,関西大学,岡山大学,山口大学,大分大学,長崎大学の7大学が,2013 年度には金沢大学,群馬大学,徳島大学の3大学が事業委託先として選定された。これらの 大学が行った実践的研究の成果は,留学生と地域の交流をもとにしたまちづくりのモデル ケースとして,各地域大学での取り組みを支援・促進するため,関連学会や報告会での成果 発表,各地の大学への出張講義という形で公開されている。本活動は,これらの大学の取り 組みを参考とし,留学生が地域の自治体・住民の受け入れのもと地域について学ぶと同時に,
プロジェクトを通して留学生が地域活性化と新たなまちづくりに貢献するという双方向の 活動を目指し,本プロジェクトワークを企画した。
3つ目の要因は,本活動を通して,小学校がなくなった地域に,地域の大学,そしてそこ に所属する留学生がどのように関わることができるのかを探りたいと考えたことである。
2015年1月,文部科学省は約60年ぶりに公立小中学校の統廃合に関する基準を見直し,各自 治体にクラス数の少ない学校の統合・廃校を促した。しかし,小学校や中学校がなくなるこ とが,その地域にどのような影響を与えるのかについては十分に検討されているとは言いが たい。本活動の拠点は,豊川地区唯一の小学校であった豊川小学校の跡地である。2節にて 後述するが,豊川小学校は135年の歴史を持ちながら,地区の少子化により,2012年に閉校さ れた。地区唯一の小学校の閉校はその地区にどのような影響を与えるのか,また,その地区 に対し,地域の大学,及びそこに所属する留学生はどのように関わることができるのか。上 記の通り,近年,留学生は,大学のみならず地域全体で受け入れるべき存在として,それと 同時に,地域との交流を通して地域に活力を与えともにまちづくりを行いうる存在として 捉え直され始めている。本活動では,プロジェクトワークを通して,小学校の閉校が地域に 与える影響と,その地域への留学生の関わり方を考えていきたい。
以上の3つの要因により,筆者は「日本社会入門Ⅱ」において(1)の課題に取り組むべく,
豊川地区でのプロジェクトワークを企画した。ただし,3つ目の要因である,地域における 小学校の役割と,そこへの留学生の関わりについては未だ分析中である。従って,本稿では,
1つ目の要因である留学生の地域での学びについて,そして2つ目の要因である留学生に よる地域活性化の可能性について,プロジェクトに参加した学生と地域住民のコメントを もとに現時点での結論を述べる。
本稿の構成は以下の通りである。まず,2節で潟上市豊川地区と本活動の拠点である豊川 小学校の沿革を簡単に紹介する。3節では,今後の同様の取り組みに寄与すべく,留学生に よる地域活性化の取り組みの一事例として,今回のプロジェクトワークの目的,クラスの概 要,活動内容について詳しく述べる。4節では,学生による活動成果の発表内容の一部と,
それに対する地域移住民のコメントに基づき,本活動が豊川地区にどのような影響を与え たのか,またそれを通して学生がどのような学びを得たのかについて考察する。最後に5節 でまとめと今後の課題について述べる。
2.潟上市豊川地区の概要
本節では,プロジェクトワークを行った潟上市豊川地区に ついて,豊川小学校の沿革を中心としその概要を述べる。
豊川地区はかつて豊川村という独立した自治体であった。
豊川村の主産業は農業であったが,それは天候に左右される 不安定なものであり,江戸時代は二度の飢饉により,人口が 半減するほどの被害を受けた。このような農村の不安定な生 活を改善するため,豊川村で明治時代から大正時代にかけて 奮闘したのが,農聖と呼ばれる石川理紀之助である。1876年
(明治9年)に創立された豊川小学校(創立時「槻木小学校」,
1889年に「豊川小学校」と改称)では,その教育課程の中に
「農聖石川理紀之助翁に学ぶ郷土学習の推進」が挙げられて
秋田市 潟上市
豊川地区 図1 秋田県地図
おり,小学校を中心とし,理紀之助の教えが村内で継承され続けてきたことが窺える。
また,同村は,日本唯一の天然のアスファルトや石油などの地下資源を抱えていた。明治 維新とともにアスファルトや石油の需要が急増した後,「豊川油田」の開発が進み,最盛期 の大正時代には近隣からの人口流入による人口増加と安定した税収により、充実した村政 が展開されていた。
その後,「昭和の大合併」により近隣自治体との合併を促され,1942年に昭和町の一部と なったが,自治を求め1950年に豊川村として分離,しかしその後,昭和の初めをピークとし た石油採掘の規模は縮小し続け,2001年には原油生産が完全に停止。少子高齢化の波にも押 され,「平成の大合併」により,2005年に落成した潟上市に組み込まれた。
潟上市は,県庁所在地である秋田市に隣接しているため,秋田市のベッドタウンとして,
人口増加を続けている。一方,豊川地区は,合併に伴う近隣地区への交通アクセス改善とと もに,地域住民の他出,進学・就職による転出が相次ぎ人口が激減した。油田の全盛期には 600名以上の生徒を抱えた豊川小学校も,2000年代に入ってからは全校生徒数が20名前後と なり,2012年,135年の歴史にピリオドを打ち閉校され,隣接する大久保地区の大久保小学校 に統合された4)。
豊川小学校の閉校及び校舎取り壊しの決定を受け,地域コミュニティの中心であり,地域 文化継承の拠点であった小学校がなくなることに危機感を覚えた豊川地区住民は,潟上市 に小学校に代わる施設の建設を訴えた。秋田大学をアドバイザーとし,市と住民が協議を重 ねた結果,豊川小学校跡地に,地区の新たな活動の拠点として,豊川コミュニティセンター が建てられることとなった。このセンターの設置に伴い,潟上市は秋田大学に前述の(1)の 課題を提案した。豊川コミュニティセンターがオープンしたのは2014年10月である。本活動 が初めて同センターを使用したのは2014年10月4日であるため,私達は同センターの最も初 期の利用者の1人であると言える。
3.活動概要
本活動は,(1)で挙げた「豊川小学校跡地を活用した,地域住民の心のよりどころとなる多 目的交流施設等による地域活動の活性化」という課題に取り組むため,豊川小学校跡地に建 てられた豊川コミュニティセンターに,留学生,留学生との交流に興味を持つ日本人学生を 集め,豊川地区住民と共同で豊川の歴史・文化,及び「人の物語」を伝える文化誌を作成す るというプロジェクトワークを行った。本節では,今後他機関が同様の取り組みを行う際の 参考となるよう,プロジェクトワークの詳細について紹介する。
3.1 クラスの目標
このプロジェクトは以下の3点の達成を目標とする。1つ目は,本活動によって,留学生 を媒体として国際交流に興味を持つ日本人学生と地区住民のつながりができること,また プロジェクトに参加する地区住民同士の横のつながりができること,そしてこれらのつな がりによって地域活性化を考える新たなコミュニティが形成されることである。次に,プロ ジェクトワークの拠点として豊川コミュニティセンターを使用することで,同施設が豊川
4)統合後,「大豊小学校」と改称。
小学校に代わる地域活性化活動の拠点として機能するようになることである。最後に,プロ ジェクトワークを通して作成した文化誌を県内外で配布することによって,地区外の人の 目を豊川地区に向け,同地区への関心,理解を深めてもらうことである。
これらの3つの目標を達成することで,豊川コミュニティセンターを拠点として,留学生,
日本人学生,豊川地区住民,そして地区外の協力者や協力団体が持続的な交流を持ち,留学生 を媒体とした長期的に持続可能な地域創生コンソーシアムが構築されることが,本活動の最 終目標である。ただし,現時点ではプロジェクトのゴールである文化誌がまだ完成しておら ず,プロジェクトが完結していないため,これらの目標の達成度の検証は今後の課題とする。
3.2 文化誌の定義
前述の通り,本活動では,留学生,日本人学生,豊川地区住民が共同で,豊川地区を広報す る文化誌を作成するというプロジェクトワークを企画・実行した。このプロジェクトは,近 年,日本の各地域で作成されているタウン誌,そしてそれらを集め文化誌として展示・販売 している「D&DEPARTMENTPROJECT」の活動に刺激を受け,企画されたものである。
「D&DEPARTMENTPROJECT」とは,デザインを通して日本のものづくりや観光を再 発見し広く紹介する株式会社であり,そのコンセプトのもと,渋谷ヒカリエ8階で,デザイ ンを通して47都道府県を紹介するMUSEUM,ショップ,食堂からなる「d47」を企画・運営 している。「d47」の“d”は“design”を,“47”は「47都道府県」を指している。2014年の3 月から6月にかけ,同MUSEUMにおいて,地域のタウン誌を集めた「文化誌が街の意識を 変える展」が行われた。この展示において,文化誌は以下の下線部のように定義されている。
(2)「d47」による文化誌の定義
今,日本じゅうに「地元文化を再確認する冊子」が増えています。それらは広く日本じゅ うに発信されたり,地元の個性,魅力の再発見にと発刊されています。また,編集やデザ インなどのクオリティにこだわることで,土地のイメージを見直すきっかけともなり,
ますますこれからの日本における「日本再発見」への意識を継続的にしていく創意と位 置づけ,d47MUSEUMでは,そうした冊子を「文化誌」と名付け,47の日本から集めて みました。
(「文化誌が街の意識を変える展」
http://www.hikarie8.com/d47museum/2014/03/post-14.shtmlより,原文まま,下線部は 筆者)
これらの文化誌において,「地元文化を再確認する」ため,また「地元の個性,魅力の再発見」
をするために用いられる地域の「外の視点」は,Uターン者,Iターン者に代表される物理 的に地域の外から来た者の視点,もしくは地域の中にいながら地元文化継承の中心である 比較的高齢の世代の外にいる若年層の視点であることが多かった。
本活動では,「外の視点」として留学生の視点を導入するという点で他の文化誌と異なる。
留学生の視点により,豊川地区の日常やそこにある「人の物語」を見つめ直し,それを地域 の文化として捉え直し,文化誌という形で発信することで,豊川地区に対する人々の意識を
変えることが,前節で挙げたプロジェクトの目標の1つである。
ただし,文化誌においては,(2)でも述べられている通り,「編集やデザインなどのクオリ ティにこだわる」ことが重要視される。それは,写真を含めた冊子のデザイン,レイアウト が「外の視点」の象徴であり,その見せ方こそが,地域の日常が新しく文化として捉え直さ れたことを意味するからである。
そのため,本活動では,「のとつづり」5 )等デザインを通した地域活性化活動に関わって いる清田隆之氏に,留学生の視点で地域を捉え直すというプロジェクトワークの趣旨を説 明し,活動への協力を依頼した。その結果,趣旨に賛同した清田氏が編集を,さらに,清田氏 の紹介により,ウチカワデザイン代表である内川たくや氏がデザインを担当してくれるこ ととなった。
ただ,先述の通り,現時点ではまだ文化誌は完成していないため,文化誌の内容や配布状 況について述べることはできない。そのため,本稿では,文化誌を作成するまでの活動内容 を詳しく紹介し,活動の最後に行われた学生の発表内容の一部,それに対する豊川地区住民 のコメントをもとに,留学生の導入した「外の視点」が豊川地区にどのような影響を与えた のか,またそれを通して学生がどのような学びを得たのかについて考察する。
3.3 クラスの流れと各活動の概要
3. 1 節で述べた目標を達成するため,実際の授業でどのように文化誌を作成していったの か,以下に活動の流れとその詳細を紹介する。
本クラスの概要は以下の通りである。
(3)「日本社会入門Ⅱ」クラスの概要 対象:秋田大学に所属する学生 期間:2014年10月〜 2015年2月
受講者数:留学生33名(内,中国17名,モンゴル4名,ルーマニア3名,イスラエル2名,
韓国2名,台湾2名,ケニア1名,ポーランド1名,マレーシア1名)
授業回数:大学内での講義・グループワーク 90分×7回,豊川地区におけるフィール ドワーク4回
「日本社会入門Ⅱ」は基礎教養科目であり,留学生のみならず,日本人学生も受講可能であ る。ただし,このクラスは,日本語が話せない留学生でも受講できるよう,授業は全て英語 で行われる。豊川地区のフィールドワーク,文化誌作成の過程では,日本語によるアウトプッ トが必要になるそのため,当初は本科目を受講する日本人学生に留学生と地区住民のコミュ ニケーションの補助を行ってもらおうと考えていた。しかし,残念ながら,2014年度は日本 人受講者が1人もいなかった。そのため,今回は国際交流に興味を持つ者を中心とする秋田 大学内の日本人学生14名にTAとして活動に参加してもらった。
クラス内で行った講義,活動,フィールドワークの内容と目標を表1に示す。
5)「のとつづり」は石川県能登町の四季折々の魅力を発信するホームページであり,清田氏はライターとして参加している(URL:
http://tadaya.net/nototsuduri/)。
表1 「日本社会入門Ⅱ」クラスの流れ
授業項目 目標 活動内容
1回目 ガイダンス
プロジェクトの背景と 趣旨の理解
・クラスの目標と活動内容について詳しく説明
・潟上市豊川地区の歴史,現状について簡単に説明 2回目
見学旅行
豊川地区に対する理 解を深める
・豊川地区を見学する(潟上市郷土文化保存伝習館,豊川 油田跡地,道の駅(ブルーメッセあきた),豊川コミュニ ティセンター)
・豊川コミュニティセンターにて豊川地区の歴史について講 義を受ける
・豊川地区で見つけた「ワクワク」をグループ毎にまとめる 3回目
発表(1)
豊川地区で面白いと 思った点をクラス内 で発表・共有する
・グループ毎に以下の2点を発表
(i)豊川地区の第一印象(個人)
(ii)豊川地区で見つけた「ワクワク」(グループ)
4,5回目 インタビュー準備
インタビューの仕方を 知り,インタビュー内 容を考える
・デザインを通した地域活性化と文化誌の作成プロセスに ついて知る。(講師:清田隆之氏,内川たくや氏)
・インタビュイーのプロフィールを読みインタビューしたい相 手を決める
・グループ毎に文化誌に載せる記事のテーマとそのための 質問内容を考える
6回目
インタビュー(1)
記事作成のためイン タビューを実施
・豊川コミュニティセンターでグループ毎にインタビューを行 い,記録をとる
7回目 成果のまとめ
インタビュー内容の 確認と補足インタ ビューの準備
・グループ毎にインタビュー成果をまとめる
・成果をもとに,改めて記事のテーマと構成を考える
・2回目の補足インタビューの準備を行う 8回目
インタビュー(2)
インタビュー成果の 確認と補足インタ ビューを実施
・1回目のインタビュー成果のまとめと記事の構成,内容に ついて各インタビュイーに確認をとる
・補足のインタビューを行う
(クラス外) インタビュー成果をも とに記事を作成
・日本人学生の補助の下インタビュー音声を文字起こしする
・記事のテーマ,タイトル,構成を決定する
・記事に使いたいエピソードを抽出する
・2000字以内で対話形式の記事を作成する 9回目
活動成果報告会
豊川地区で行った活 動の成果を地区住民 に伝える
・豊川コミュニティセンターにおいて,これまで行ってきた 活動の成果を以下の2点に分け発表する
ⅰ豊川地区で見つけた「ワクワク」(個人)
ⅱインタビューをもとに作成した記事の概要(グループ)
・来場者にこれまでの活動と発表内容に関するコメントを もらう
10回目
活動の振り返り
来場者からのコメント をもとに活動全体を 振り返る
・報告会でのコメントを読み,その内容についてグループ で話し合う
・これまでの活動内容と,活動を通した豊川地区への貢献 について考え,「振り返りシート」を書く
11回目
完成した記事の確 認と活動のまとめ
完成した記事と自分 達が作成した記事と の違いを考える 本プロジェクトの総 括
・編集された完成版の記事を読み,自分達が提出した記 事と異なる点,またその編集意図を考える
・編集者からのコメントを聞く
・来場者からのコメントと,学生が書いた「振り返りシート」
をもとに,本活動の意義,豊川地区への貢献について考 える
以下,各活動の内容について説明する。
まず,1回目のクラスでは,豊川地区についての文化誌を作成するというプロジェクト ワークの目的を学生と共有するため,時間をかけて,先述の「d47」における活動や,シラバ ス,表1に示したクラススケジュールの説明を行った。一方,豊川地区の歴史,現状につい ては最低限の説明にとどめ,先入観なく豊川地区を体験してもらうため,2回目のクラスで 早速豊川地区での見学旅行を行った。見学旅行では,豊川地区内を車でまわり,地域の偉人 である石川理紀之助の功績を伝える潟上市郷土文化保存伝習館,豊川油田跡地と資料館,道 の駅を併設した観光施設「ブルーメッセあきた」を見学した。見学旅行では学生を5つのグ ループに分け,旅行後の発表のため,(i)豊川地区に対する第一印象,(ii)豊川地区での「ワク ワク」を記録しておくよう伝えた。「ワクワク」とは,豊川で学生が見つけた面白いところ,
興味深いところ,他に紹介したいところの総称である。豊川地区を見て回った後は,豊川コ ミュニティセンターにて,地域の歴史と暮らしに詳しい藤原幸作氏に豊川地区の歴史と現 状について講義をしていただいた。
3回目のクラスでは,グループ毎に豊川地区の第一印象と「ワクワク」を発表してもらっ た。この発表は,今後のフィールドワークを通して,豊川に対する印象がどのように変化し ていくのかを学生に意識してもらうために行った。
4回目,5回目のクラスでは,プロジェクトワークのメインとなる活動であるインタ ビュー活動の準備を行った。前述の通り,本活動の拠点である豊川コミュニティセンターは 豊川小学校跡地に建てられたものであり,私達はその最初の使用者の1人である。ここで活 動を行う意味を学生に考えてもらうため,インタビューのテーマは「豊川小学校に関わる人 達の物語」とし,インタビュイーは豊川小学校の元教師,元生徒等,何らかの形で小学校に 関わってきた6組8名の方々に依頼をした。まず4回目,5回目のクラスの前に,学生にこ の8名の方々のプロフィールを伝え,インタビューしたい相手を選んでもらい,その希望に 基づいて,学生33名を6つのグループに分けた。このようにインタビュイーを具体的に意識 させた上で,4回目の授業では,3.2 節で紹介した清田氏,内川氏を講師として招き,デザイ ンを通した地域活性化の試みと,文化誌作成の過程,そしてインタビューを行うために必要 な準備について,実際の経験に基づく講義をしていただいた。この講義内容を踏まえ,5回 目のクラスでは,グループ毎に,最終的に記事を作成することを見すえ,インタビューテー マとそれに関する質問内容を話し合わせた。この話し合いの結果はワークシートにまとめ 提出させ,インタビュー前に,教員から各インタビュイーにワークシートを送付し,インタ ビューの概要を伝えた。
6回目は,豊川コミュニティセンターにて,グループ毎に1時間半のインタビューを行っ た。先述の通り,このクラスは基本的に英語で行われるクラスであり,学生の中には日本語 が初級レベルの者もいる。一方,インタビュイーは全て豊川地区,もしくはその付近の市町 村の住民であり,インタビューは日本語で行われる。インタビュアーとインタビュイーの間 の意志疎通をできるだけスムーズにするため,先述の秋田大学の日本人学生,及び潟上市の ALT(外国語指導助手)の方々に通訳としてグループに入ってもらい,両者のコミュニケー ションを補助してもらった。
その後,7回目のクラス,またクラス外で1回目のインタビュー内容を各グループの記
事テーマに沿ってまとめさせた(【資料1】参照)。8回目のクラスでは,学生はこの成果物を 持って再び豊川コミュニティセンターに行き,インタビュイーに自分達のインタビュー内 容の理解が正しいかについて,また記事内容のテーマ・構成について確認をとり,必要に応 じて補足のインタビューを行った。インタビュー活動はこの2回で終了である。
8回目のインタビュー活動から,9回目の活動成果報告会までには1か月半強の間隔を 空けた。この間,学生にはグループ毎に以下の2つの作業をさせた。
(4)2回のインタビュー成果に基づく記事の作成
・インタビューの音声データをすべて聞き直す
・記事のテーマに沿って,インタビューの中から使いたい部分を抽出する
・使いたい部分の音声データを文字起こしする
・タイトル,小見出しをつけ,2000字以内の記事にまとめる
(5)活動成果報告会の準備
・各自,豊川地区で見つけた「ワクワク」についてのスライドを作成
・グループ毎に記事のテーマと概要を説明するスライドを作成
(4)に関し,特に音声データの文字起こしは言語的な負荷が大きいため,インタビュー活動 の際にも協力してもらった日本人学生をそれぞれのグループに2名ずつTAとしてつけ,文 字起こしや記事の日本語チェック等,言語的な面の補助をしてもらった。
9回目の活動成果報告会は一般公開とし,「広報かたがみ」No.141(2015年1月号)にて 豊川地区を含む潟上市内に開催日時を告知した。その結果,当日は,これまで活動に関わっ てきた日本人学生に加え,16名の地域の方々が留学生の報告を聞くため,コミュニティセン ターに集まってくださった。参加者の方々にはアンケート紙(【資料2】参照)を配布し,学生 の発表について,また今回の活動全体に関してコメントをいただいた(全コメントを【資料 3】として掲載)。
10回目,11回目のクラスでは,プロジェクトワーク全体の振り返りを行った。10回目は活 動成果報告会に参加した方々からのコメントを読み,グループ毎にプロジェクトワークの 活動内容と豊川地区への貢献について話し合わせた。その後,各自に自分の活動を振り返ら せ,「振り返りシート」として活動全体に対する感想と意見を書かせた。11回目の活動では,
清田氏が編集した完成版の記事を学生に見せ,学生が提出した記事と完成版の記事の違い をグループ毎に考えてもらった。その上で各記事の編集意図について清田氏にskypeで説明 をしていただいた。最後に,教員が,地域の方々からのコメントと学生のレポートの記述を もとに,今回のプロジェクトワークの総括を行った。
4.活動成果
3節では,「日本社会入門Ⅱ」で行ったプロジェクトワークの目的と各活動の詳細につい て述べた。本節では,後半に行った学生による活動成果報告会での発表内容の一部を紹介し,
留学生が過疎の進む豊川地区をどのように見つめたのかを紹介する。前節の表1に示した 通り,活動報告会での発表内容は,(i)豊川地区で見つけた「ワクワク」と,(ii)インタビュー
をもとに作成した記事の概要の2つに分けられる。この内,本稿では(i)の「ワクワク」のみ を取り上げ,学生の発表内容とそれに対する地域住民の方々のコメントを紹介し,留学生の
「外の視点」が豊川地区に与えた影響と,それを通した留学生の学びについて考察する。
4.1 留学生の「ワクワク」とそれに対するコメント
活動成果報告会で,各学生は,2回目のクラスで行った見学旅行,そしてその後の豊川コ ミュニティセンターでのインタビュー活動を通して見つけた豊川地区の「ワクワク」につい て発表した。以下に,学生が挙げた「ワクワク」の一部と,それに対する豊川地区住民,及び 豊川に関わる方々(以下,地域住民)のコメントを紹介する。
4.1.1 自然の豊かさ
豊川は三方を山林に囲まれたいわゆる「行き止まりの集落」であり,山林以外の地には田 んぼや畑が広がっている。本活動において,学生は10月初旬から1月下旬にかけて4度豊川 を訪れた。そのため,学生は稲穂が実る秋の収穫風景と,雪に覆われた冬景色を見ることが できた。その結果,多くの学生が豊川地区で「ワクワク」する点として,同地区の景色,自然 について言及した。
(6)豊川の自然についての学生の発表の一部
a. 豊川で稲田がたくさんあって,黄色で,とてもきれいです。(中国・女性)
b. 景色はとてもきれいで,気持ちいい。山に木が多く,秋になると,きれいに見える。冬 は雪であたり一面真っ白になる。(中国・女性)
c. 油田の近く,この蛇を見た。小さい蛇だけど,非常に可愛い。動物がいるところ自然環 境がいいと思う。豊川の大自然大好き。(中国・女性)
d. 柿。豊川はきれいなところ。いつか住みたい。(ケニア・女性)
多くの学生が豊川の景色や自然の美しさについて発表したことに対し,参加した日本人学生 からは,「景色が綺麗(中略)などとてもよく分かるのですが,もっと一歩ふみだしたことを ききたかったです」というコメントがあった。一方,報告会に参加した豊川地区住民からは,
自然に関する発表が多かったことについて,「豊川の景色がそんなに評価されるとは思わな かった」,「雪がない地域の人には山や田んぼの雪景色は珍しいのかな」という驚きの声が聞 かれた。特に(5d)のケニア出身の学生は,2回目の見学旅行の時から,山に囲まれた田園風 景と道端に実る柿の木に感動し,多くの写真を撮っていた。彼女のコメントは潟上市の広報 誌に以下のように紹介された。
(7)見学旅行に関する記事の一部
「秋田大学の地(知)の拠点整備事業 留学生が豊川地区を学び景色に感動」
(前略)ケニア出身の学生は「こんな綺麗な景色は初めて見ました。留学終了後は是非,潟 上市で生活したい」と感動していました。
(「広報かたがみ」No.139,2014年11月号,p.12)
4.1.2 人々のつながりの強さ,優しさ
発表において,自然と同程度多く言及されたのが,豊川地区の人達のつながりの強さであ る。
(8)豊川地区の人達のつながりの強さについての学生の発表の一部 a. 強力なコミュニティが印象的だった。(イスラエル・女性)
b. 最初,(インターネットで)豊川を探すと愛知県の豊川市が出た。詳しい情報を持たず に豊川に来た。しかし,豊川の魅力をよく受けた。景色は自然的だし,人々は優しいし,
みんな知り合いだそうだし,おばちゃんたちは若者の(顔を見れば,その)名前を呼べ るそうだ。(中国・女性)
c. 実は最初は豊川という名前をインタビューの時初めて聞いた。普通に田舎だと思いま したが,豊川に来てからその考えは変わった。田舎だからこそできるものはいっぱい あった。町のみんなが家族みたいに仲良いのは最近の時代では見にくいことだと思 う。人と人の繋がりが羨ましいと思った。(韓国・女性)
(括弧内は筆者が補足,以下の例も同様)
前節で述べた通り,多くの学生は豊川地区についての知識を持たず,小学校が閉校になった 過疎化する地域というイメージのみをもって同地区を訪れたが,インタビューで語られた 内容から,同地区の人達のつながりの強さを認識した。
また,学生は,豊川地区のコミュニティ内の絆の強さだけでなく,外部から同地区を訪れ た自分達に対する地区の人々の関心の強さと優しさについても多く言及した。学生がそれを 実感する出来事が豊川コミュニティセンターで2回目のインタビュー活動をしている時に 起きた。同日,豊川コミュニティセンターでは,豊川地区内の舩橋自治会婦人部が年に一度 の料理講習会を行っていた。婦人部の方々は,見慣れない留学生がセンター内にいることが 気にかかり,インタビュー活動を行っていたホールを扉の隙間から覗いていた。そこで,活 動の趣旨を説明したところ,手製の漬物やお菓子を大量に差し入れてくださり,最後は各グ ループの輪に入って,学生と話をしたり,料理の作り方を説明したりしてくださった。最終 発表では,豊川地区の「ワクワク」として,この経験について語る学生が複数名いた。
(9)豊川地区の人の優しさについての学生の発表の一部
a. 二回目のインタビューの時,豊川の人と人の繋がりが深く感じた。私たちに美味しい 漬物や自作のデザートをご馳走して,豊川の人々の親切さを実感した。都会で体験で きない,豊川ならではの特有な優しさ。(中国・男性)
b. やさしいおばあちゃん達に感動した。ありふれたものでとてもおいしくて,特別な食 べ物を作っていました。見た目からは誰も想像できないほどおいしい食べ物。一口食 べるとたまらず,もっともっと食べたくなるのです。(台湾・女性)
これらの学生の発表後,豊川地区住民からは「自分達の地区の人のつながりがそれほど他の
ところと違うとは思わなかった」という感想が,日本人学生からは,「人口が少ないという 一見,デメリットしかないようなことなのに,つながりの濃さという素晴らしいメリットを 知ることができた」というコメントが得られた。
4.1.3 豊川の歴史
2節で述べた通り,豊川地区には,農村経済確立のため奮闘し農聖と呼ばれた石川理紀之 助,そして豊川油田という2つの歴史的な遺産がある。前者については,インタビュイーの 一人が石川理紀之助のご子孫である石川紀行氏であったこともあり,多くの学生が彼の教 えを「ワクワク」として発表した。
(10)石川理紀之助についての学生の発表の一部
a. 石川理紀之助の言葉,「寝ていて人を起こすことなかれ」(が印象的だった)。「あれ しなさい」「これしなさい」では,人はついてこない。人を動かすにはまず自分が率 先して動きださなければならない。これは現代でも通じる教えだ。(ポーランド・男 性)
b. とても偉い人だと思います。秋田県の農業の土台を作りました。貧農を救済したいと いう思いから,秋田県庁を辞職されました。辞職してからは生涯を農家経営の指導 や,農村経済の確立に尽くしました。(モンゴル・女性)
c. 石川理紀之助さんが勉強していた当時の建物は一番興味深かった。朝から夜まで真 面目に勉強していたその人を誇りに思いました。(モンゴル・男性)
d. 留学生が豊川でおもしろいと思うことは石川さんの100年前のお米です6)。米の保存 は飢えた時にみなさんで生き残る(ためです)。(ルーマニア・女性)
彼らの発表に対し,活動成果報告会に参加された方からは,石川理紀之助の生き方や教えを 中心とする豊川地区の歴史・思想に対する学生の理解に感心するコメントが得られた。
(11)学生の理解に関する地域住民の方々からのコメントの一部
a. 短時間で豊川の事を色々な面でよく捉えたものと感心しました。
b. 非常に短い期間に関わらず,豊川の現状をよくつかんでいる。
c. 理紀之助の思想に対する感想が的確で驚きました。
d. 石川理紀之助の精神と行動をよく調べていました。
その一方で,今回のインタビュー活動では,インタビュイーから豊川地区の歴史を語る上 で欠かすことのできない豊川油田については十分に語られることがなかった。結果として,
「ワクワク」の発表でも豊川油田について触れたのは以下の2名のみであった。
(12)豊川油田についての学生の発表
6)石川理紀之助は飢饉のたびに多くの人が亡くなることを憂え,人々に「蓄える」ことの重要性を説き,自ら質素な暮らしを送って 不作が続いても村人が3年間飢えない程度の米を蓄えた。潟上市郷土文化保存伝習館にある遺跡内の倉には,今でも理紀之助が 蓄えた100年以上前の米が食べられる状態で保存されている。
a. 豊かな資源のおかげで,豊川の人々の生活を維持しています。(マレーシア・男性)
b. 豊川油田(資料館)の壁の字(「保安先取」)は一番ショックを受けたところです。初期 の油田では,人々は危険を冒して,豊川の経済発展に貢献していたのではないか。で も,(実際は)安全が最高で,私はそんな人間本位の理念に感動させられた。今多くの 国は経済を急速に進めるために,人間の安全を軽視している。それはだめだと思っ て,もしひとつの社会が長足の進歩を取りたければ,必ず人間を第一位に置く(べき だ)と考えます。(中国・女性)
石川理紀之助の教えに対して,豊川油田に関する発表が少ないことに関し,豊川油田の関係 者を中心とする地域住民の方々から以下のようなコメントがあった。
(13)豊川油田に関する住民の方々からのコメントの一部 a. インタビュー者をもっと多様に。
b. 今後は地下資源の発祥地豊川を調べてください。
c. 豊川は地下資源の宝庫でもあり,資源学部とドッキングしてみて調べてください。
d. 「豊川油田の歴史を伝える会」への授業にも参加してほしい。
e. 豊川油田の歴史を伝える会を利用してください。
豊川油田は,石川理紀之助翁の存在と並び,豊川地区の歴史と現在の共同体のアイデンティ ティを形成する重要な一部分である。インタビュー活動とそれに基づく記事作成の中で,豊 川油田を含め,豊川地区の特色を偏りなく扱っていくことは今後の課題である。
4.2 「ワクワク」の発表全体を通して 4.2.1 地域への「外の視点」の導入
以上,活動成果報告会で学生が挙げた「ワクワク」の一部を紹介した。彼らの大半が豊川 地区で印象的な点として取り上げたものは,自然,人々のつながり等,豊川地区の日常的な 要素であった。これに対し,報告会に参加した方からは「観光施設のブルーメッセにそれほ ど感想がなかったことが意外でした」等,彼らが興味を示した点に対する驚きの声が聴かれ た。ブルーメッセ(正式名称は「ブルーメッセあきた」)とは,潟上市特産品を揃えた道の駅 に,世界の花が鑑賞できる巨大温室,地元の食材が楽しめるレストランが併設された観光者 向けの施設である。本活動では,2回目の見学旅行でこの施設を訪れ,ここで昼食をとり,
施設を見学する時間を設けたが,豊川地区の「ワクワク」としてこの施設を挙げたのは33名 中以下の1名のみであった。
(14)ブルーメッセあきたについての学生の発表
ブルーメッセ秋田は楽なところと思います。恋人とか家族とか友達と一緒にもこのと ころをぜひ楽しむことができます。温室の花の魅力を見上げてレストランの美味しい 料理を食べてそして売り場で色々な伝統的な品物を買えます。(ルーマニア・男性)
ここから,豊川地区内の人達が「外から豊川地区を訪れた人達が楽しめる」と考える点と,
外から豊川地区を訪れた学生達が興味を感じた点との間にはギャップがあることが窺える。
活動成果報告会の後の10回目のクラスで学生に書かせた「活動振り返りシート」では,複数 の学生がもう一度豊川を訪れたいと述べていたが,その理由として挙げられていたのは,
(15)に示す通り,観光施設等ではなく,豊川地区の日常である自然や料理,そして人々との 触れ合いであった。
(15)活動振り返りシートに書かれた学生の感想の一部
a. とよかわの“farmer”かぞくに行きたいです。いろいろのぶんかを知りたいです。
(モンゴル・男性)
b. 豊川で泊まることとか,おばあさんたちと一緒に料理を作ることとかしたいです。
(中国・女性)
c. インターネットでまたはテレビから,豊川に関わることができると思いますけれど も,実は,自分自身が本当に行って,そのところの文化がよく理解することができま す。もしできれば,豊川の独特な文化をもっと知りたいと思います。文化遺産とか食 生活とか興味深いと思いますので。もう一度豊川に行ってみたいです。(中国・女性)
d. IlearnedalotaboutthecountrysideandnoticedthatAkitaisnotexactlyいなか.
Ialsolearnedalotaboutthetechnicsofagriculture,thewayofthinkingofpeople inToyokawaarea,itshistory.Iwouldhavelikedtolearnmoreaboutitstraditions andfolklore.(中略)thefoodinToyokawaisreallydeliciousandthepeopleare verykind.Ican’twaitforsummertocomeandseemorebeautiesinToyokawa area.(ルーマニア・男性)
(下線部は筆者)
このように,学生が豊川地区を「外の視点」で見つめ,その多くが豊川地区の日常的なもの を「ワクワク」として発表したことを受け,報告会に参加した地域住民の多くがアンケート で自分達の地域に対する視点が変化したことを指摘した。
(16)視点の変化に関する住民からのコメントの一部 a. 自分たちが気にしない所に目を向けている。
b. 普段われわれが見ている視点と違った角度で留学生が感じたことを発表する取組み は非常におもしろいと思いました。また,留学生の視点にとても感動しました。
c. やはり日本人ではワクワクする箇所が異なることもあり,外部の人々の意見は大切 と思った。
d. 当たり前に接していたモノにも別の視点が加わったように感じた。
e. 違う視点からありふれた物や思想を見つめ直すと,新鮮に感じました。また,それら の事を大切にしたいと思いました。
自然,人々のつながりの強さ,料理等は,先述の日本人学生の1人が指摘したように,一
見表面的なことかもしれないが,(16)のコメントは,「外の視点」によってそれが再評価さ れることで,地域の人達も「外の視点」を獲得し,日常的なものに新たな価値を付与するこ とができることを示している。このように,留学生による「ワクワク」の発表は,3.2 節で紹 介した「d47」が定義した文化誌の役割,「地元文化を再確認」,「地元の個性・魅力の再発見」
と同じ機能を果たしていることが分かる。
4.2.2 留学生による自身の再評価
地域住民からのコメントを読んだ後に書かれた「活動振り返りシート」では,学生は自 分たちの「外の視点」の導入について(17a)に示すようにその影響力に驚きつつも,多くが,
(17b-g)のように,この「外の視点」の導入が本活動における豊川地区への最も大きな貢献の 1つであると指摘した。
(17)「活動振り返りシート」に書かれた「外の視点」の導入に関する学生の感想の一部 a. たくさん「(私達の視点が)おもしろかった」というコメントがあります。それはびっ
くりしました。視点はそんなに違うか,思いなかったです。これもびっくりしました。
(台湾・女性)
b. TheprojectallowedthemtoseeToyokawafromadifferentperspective.Asthey alsosaid,itmadethemlookateventhesmallestthingdifferentway.(ルーマニア・
男性)
c. IthinkthatToyokawa,asotherplacesinJapansufferingfromproblems,young peopleleaving,andthisproblemwecannotsolve.Butourprojectcanmakethe peoplethatnowlivetherefeelmoreproudandseetheplaceingoodperspective, andmaybewecouldaffectthemtostayinthefuture.(イスラエル・女性)
d. (アンケートに)普段,自分達が見ている視点と違った角度でみて発表した,私達の視 点に感動したと書いてありました。(豊川地区の人達は)自分達が生活して慣れてし まって気にしないけど,はじめて来てる留学生達の目ではいい所たくさんあるんだ,
たいせつにして行きたいなという気持ちになったと思います。(モンゴル・女性)
e. 外国人として,豊川地区を観察視点は必ず地元の人と違います。彼らが見つけられな いこともいろいろ見つかりました。豊川の人々に新鮮な感じを持っていきまして,大 切な意見も(伝えることができたと思います)。(中国・女性)
f. 豊川の住民の大部分はずっと豊川に住んでいます。彼達もうこのところのことを慣 れた。私たちの活動を通じて,留学生たちの感想を聞いて,この前に気にしない所に 注目するのはよかったです。(中国・女性)
g. 短期間で深くまで調査できなかったですけど,留学生の視点から豊川の良さが豊川 の住民に伝えられると思います。プライドっていうか,地域への自信感が湧いてくる かもしれません。(中国・女性)
これらのコメントから,留学生が,自分達の視点を地域において価値のあるものとして,
また,自分達を地域に受け入れてもらうのみの存在ではなく地域に何かを与えられる存在
として捉え直すことができたことが窺える。
4.2.3 地域の歴史・文化の継承者としての学生
「外の視点」の導入に加え,本活動に対する地域住民のコメントの中でもう1つ興味深 かった点は,4.1.3 節で(11)として紹介した,石川理紀之助を中心とする豊川地区の歴史・文 化に対する学生の理解の正確さを褒めるコメントである。なお,学生の石川理紀之助に関す る発表は,活動成果報告会の様子を報じる地元新聞でも取り上げられている。
(18)活動成果報告会の様子を取り上げた記事の一部
「潟上・豊川の風土など調査『人のつながり深い』秋大留学生が感想発表」
(前略)同市ゆかりの農業指導者・石川理紀之助(1845 〜 1915年)の名言「寝ていて人を 起こすことなかれ」を学んだという男子留学生は「人を動かすにはまず自分が率先して 動かなければならないという理紀之助の教えに感動した。現代でも通じる言葉だ」と話 した。(後略)(「秋田魁新報」2015年1月28日)
2節で述べたように,豊川地区住民は石川理紀之助の教えを地域の重要な歴史・文化として,
豊川小学校において,それを伝え,地域のアイデンティティを継承してきた。現在,この継 承活動は潟上市全域の小中学校で行われているものの,地域の拠点となる豊川小学校が閉 校されたことは,地区の住民にとって,地域の歴史・文化継承の危機として捉えられている。
留学生はこの発表において,「外の視点」と新たな価値観を地域に持ち込むだけではなく,
地域の歴史や文化を正確に理解し,それを地域外に発信しうることを示した。留学生が地域 の住民にインタビューをし,地域の歴史・文化について理解し,それを文化誌としてまとめ て発信するという本プロジェクトは,豊川小学校の閉校とともに危機を迎えた地域の歴史・
文化継承を引き継ぎうる可能性があるのではないだろうか。
また,(11),(18)のような地域からのフィードバックを受け,「活動振り返りシート」では,
学生が学びに達成感を得ると同時に((19)参照),このプロジェクトワークにおける自らの役 割の重要性を認識する様子が見られた((20)参照)。
(19)「活動振り返りシート」に書かれた地域住民からのコメントに対する学生の感想の一部 a. 「石川理紀之助の思想をよく理解している」と言ったコメントを読んで嬉しかったで
す。(ポーランド・男性)
b. Wemadehim(=Toyokawainhabitants)realizethatalsoforeignerscanunderstand them(後略).(ルーマニア・女性)
(20)「活動振り返りシート」に書かれた自らの役割を再認識するコメント
a. 今回の活動を通して,(中略)小さなコミュニティとしてのメリットもあり,困ってい るところもあるのがわかりました。自分も学生として,できるだけことをやりたいで す。そういうところの現状を変えるのに力を入れたいです。留学生は自分の力で豊川 の困っているところを変えるのは難しいと思います。でも,留学生はインタビューや
記事に通じて,豊川地区の現状をアピールして政府と社会を引きつくのができます。
(中国・女性)
b. (前略)asthestudentstaketheprojectasjustpartofthecourse,theToyokawa peopletakeitasaveryimportantandvitalissueandshouldbegivenkeep interest.Sointhenextprojects,studentsshouldbewellawareofitsimportance.
(ケニア・女性)
5.まとめと今後の課題
以上,本稿では,豊川地区でのプロジェクトワークの詳細を紹介し,その中から学生によ る「ワクワク」の発表とそれに対する地域住民のコメントを例として,本活動の豊川地区へ の貢献と,学生の学びについて考察した。
1節で,このプロジェクトワークを企画した要因として,(i)秋田大学に所属する留学生の
「地域のことを学びたい」というニーズと,(ii)近年の大学と地域が一丸となった留学生の受 け入れ環境の整備,そして留学生による地域活性化の試みの進展を挙げた。最後に,まとめ として,本活動がこれらの課題に十分取り組むことができたのかを検証する。
5.1 地域のことを学びたいというニーズ
前述の通り,秋田大学の留学生からは,都市部ではなく秋田に留学したからには,秋田の 地域や文化を学んだり,秋田の人達と交流をしたりする機会がもっとほしいという声があ がっていた。「振り返りシート」には,今回のプロジェクトワークによって地域について学 生が能動的な学びを実現できたこと,それによって地域のことを知りたい,地域の人と交流 したいという上記のニーズが満たされたことが窺える記述が多く見られた。
(21)「活動振り返りシート」に書かれた地域に関する学びについての感想の一部
a. 今回の活動を通して,豊川の食文化が学んでいました。自分もやってみたいです。失 敗としても,もっと頑張っていきたいと思います。みんなに友達になりました。豊川 の文化とか,人々とか,詳しく理解することができます。(中国・女性)
b. この活動を通じて,みんなのとても積極的に勉強する姿勢がよく分かりました。みん な一生懸命でまじめに豊川のことを調べました。豊川の過去,現在と未来をよく考え ました。自分の学習態度と問題に対しての考え方は変わりました。今回の活動を通し て,私の学習能力を向上する以外に,豊川に対して,この前にわからないことをはっ きりわかった。豊川の住民に会いてよかったと思います。日本人のあたたかい,やさ しい,それに,彼達のかたい精神に感動しました。(中国・女性)
c. 人と人とのつながりは一番大切です。豊川のおばあさんたち,年をとっても,一年(に 一度)必ず友達と会うことが決まりました。中国はあんまり近郊の人とはあいさつだ け,深くコミュニケーションはない状況です。両者と比べて,人情感の大切が感じま した。(中略)人と人の出会いは縁です。もしこの授業をえらばないときっと豊川の 人々が知らないです。その縁を大切にして,今後の生活で残ります。(中国・女性)
d. Icansaythatthisentireprojectmakemerealizealotofthings.(中 略 )Ithink
thatthisexperiencewasuniqueandmademehavethedirectcontactwithalittle partofJapanthatstillhavealotoftraditionateverystep.Ireallyappreciatethis differentanduniqueexperience.(ルーマニア・女性)
その一方で,今回の活動は豊川地区住民の「人の物語」に焦点を当てたものであったため,
「(インタビュー対象の話は)ちょっと片面的と思います。私たち知りたいことの一部はイン タビュー対象がわからないので進行しません」等,情報の偏りを指摘する声もあった。この 点については,インタビュー前の豊川地区に関する説明や講義を増やすことで対応可能かも しれないが,本活動では,1学期中に4回フィールドワークを行い,さらにそれを文化誌と してまとめる作業をしなければならないため,講義に十分な時間を割くことができない。こ の点は現時点で解決できない問題として残る。
5.2 地域の留学生受け入れと,留学生による地域への貢献
本活動は、近年,日本の各地域の大学において活発化している、大学と地域の自治体が一 丸となった留学生受け入れ態勢の構築と、留学生による地域活性化の試みの一事例として 位置づけられる。
まず前者について、本活動は、潟上市によって大学に提案された課題に取り組むべく始め られたものであり、課題を提案した潟上市はプロジェクトワークに全面的に協力をしてく ださった。また,自治体だけでなく、料理を差し入れてくださった船橋地区自治会婦人分の 方々,見学旅行で豊川の歴史について説明をしてくださった藤原幸作氏,「豊川油田の歴史 を伝える会」の方々,「草木谷を守る会」の方々等、豊川地区の住民の方々も,無償で授業に 協力をしてくださった。彼らの協力に対し,学生からは「今回の活動を通じて,豊川地区の 住民の熱意さをよく感じました。毎回,早めに(施設に来て)準備しておいた,私たちを迎え てくれました」等,その受け入れ態勢に感謝する声が多く聞かれた。この活動を通して,留 学生は地域に受け入れられているという深い実感を得ることができたと思われる。
またそれと同時に,4節で指摘した通り,地域住民のコメントから,留学生は、(i)「外の 視点」を地域に導入する,(ii)地域の歴史・文化を継承するという役割を果たすという2点 において、豊川地区に寄与することができたと考えられる。また、学生自身も自分が地域活 性化に貢献したという実感を得られたことが、授業終了後のアンケートから分かった。アン ケートでは,「本活動を通して豊川地区に貢献できたと思うか」という問いに対し、33名全 員が,「はい」と解答した。この結果は,留学生が自らを,地域に一方的に受け入れてもらう だけの存在ではなく,地域に何かを与えられる存在として捉え直したことを示している。学 生の1人が「活動振り返りシート」に書いた以下のコメントはその驚きを端的に伝えている。
(22)They(=Toyokawainhabitants)showusthattheyreallyappreciatethefactthatwe wereinToyokawa.(ルーマニア・女性)
このように,地域に「お客さん」としてだけではなく,ともに地域を活性化させる一員とし て受け入れられることで,学生はより地域に関心を抱き,関わりを持とうとすることが期待
される。今後は,豊川地区の方々から希望の多かった地域の行事やイベントへの参加を検討 し,学生が,今回の活動で持った地区住民との交流を持続的なものとし,ともに新たなまち づくりに関わることができるような機会を増やしていきたい。
5.3 今後の課題
本稿では,プロジェクトワークの一部である学生の「ワクワク」に関する発表のみを考察 対象とし,以下に示すその他の部分は扱わなかった。文化誌が完成し,プロジェクトワーク が完結した後に,以下の点を考察・検証することが今後の課題である。
(23)今後の課題
a. インタビュー内容に基づく,豊川地区における小学校の役割とその閉校が地区に与 える影響の考察
b. 小学校がなくなった地域に対し,留学生,及び地域の大学がいかに関わることができ るかという点に関する考察
c. 文化誌の配布先の選定とその効果の検証
d. 文化誌に対する地域住民のコメントとそれに基づく内容の検証
e. 本活動の最終目標として挙げた「留学生を媒体とした長期的に持続可能な地域創生 コンソーシアム」の構築可能性の検証
今回の活動の経験と,以上の課題の考察・検証をもとに,来年度以降も豊川地区の活性化に 多少なりとも寄与しうるプロジェクトワークを続けていきたい。
謝辞
このプロジェクトワークの実施にあたり,多くの方々に多大なご協力をいただいた。文 化誌の編集・デザインを引き受けてくださった清田隆之氏,内川たくや氏は,内容に関す る打ち合わせ,編集,デザインの作業に多くの時間と労力を割いてくださった。「学生団体 ATMU ! 」の金雄大氏には,秋田の地域に関する様々な資料や情報を提供していただいた。
また,このプロジェクトは潟上市と豊川地区の方々の協力なくしては成り立たないもので あった。潟上市役所企画政策課の皆様には,送迎バスの手配,会場のセッティング,活動協 力者への声掛けなど様々な面でお世話になった。豊川地区の団体,「草木谷を守る会」,「豊 川油田の歴史を伝える会」,「船橋地区自治会婦人部」の皆様は,温かく留学生を受け入れて くださり,豊川地区の歴史や文化を丁寧に説明してくださった。インタビュイーを引き受け てくださった8名の方々は,休日に何度も豊川コミュニティセンターに足を運んでくださ り,貴重なお話を聞かせてくださった。そのほかにも,活動成果報告会に来てくださった方々 等,数多くの方々に本活動に関わっていただいた。全ての方々に改めて感謝を申し上げたい。
また,貴重なご協力に応えるためにも,今後も同活動を継続し,留学生とともに豊川地区を 訪れたいと思う。
【参考資料】
D&DEPARTMENT PROJECT「8/04/d47 MUSEUM」http://www.hikarie8.com/
d47museum/
牲川波都季.2014.「農家民泊5日間―秋田県仙北市西木町にて―」秋田大学国際交流セン ター紀要第3号,53-82.
文部科学省(2012)「平成24年度留学生交流拠点整備事業公募要領」http://p.tl/Llin
【資料1】2回目のインタビューに向けた記事内容のまとめシート
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