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(1)

罪 数 論 の 一 側 面

‑ 選 挙犯 罪 にお け る供 与罪 と

( 受) 交付罪 に関 す る判例 を中心 と して ‑

丸 山 雅 夫

は じめに

供与共謀者間における ( 受)交付罪の成否 供与罪 と ( 受)交付罪 との関係

( 1 ) 供与 された部分 と ( 受)交付罪

( 2) 未供与部分と ( 受)交付罪 むす びにかえて

は じめに .

選挙の公正を害す る典型 とも言える行為 は選挙人を買収 して一定候補への投 票を依頼す るものであるが,最高裁大法廷 は,昭和41 年 に,買収共謀者 ( 共謀 共同正犯)の問で買収資金が ( 受)交付 された後にその一部が共謀通 りに供与 されたという事案に対 し,注 目すべき判断を示 した。す なわ ち , 「旧衆議院議 員選挙法1 1 2 条 1 項 5 号. な らびにこれを承継 した公職選挙法2 21 条 1 項 5 号 にそ れぞれ交付および受交付の行為 を処罰す る旨規定 して いるのは,いわゆ る買 収を目的 としてその資金等を交付 し又 はその交付を受 ける行為が,それ 自体選 挙の腐敗を招 く根源をなす ものであるか ら,かかる腐敗の根源を速かに除去す るため,買収にいたる前段階の交付および受交付の行為を独立 して処罰 の対象 とし,もって公職の選挙 における不正の防止を一層実効あ らしめようとす る法 意にはかな らないものと解 されるのである したがって,交付又は受交付の行為 がいわゆる買収にいたるための準備行為であ り,また買収を共謀 した者の相互

〔2 7 〕

(2)

2 8 商 学 討 究 第 3 8 巻 第 2 号

間における内部的な行為であるか らといって,その可罰性を否定することは, 特にこれ らの行為を処罰す る旨の規定を設 けた立法の趣旨に反す るものといわ なければならない」 として,供与共謀者間における ( 受)交付罪の成立 を否定 してきた従来の判例を変更 したうえで , 「なお,供与等 いわゆる買収 を共謀 し た者の間において,その買収を目的 とす る金銭又は物品を授受す る行為が,交 付又 は受交付の罪を構成す るのに妨げないものであることは叙上のとお りであ るが,この場合にも,その共謀にかかる供与等の目的行為が行われた とき ( 供 与等の申込,約束がなされ,又は次の交付 もしくはその申込,約束がなされた ときを含む)には,一旦成立 した交付又は受交付の罪 は後の供与等の罪 に吸収 され,別罪 として問擬す るをえな くなるものと解するのが相当である。そして, 右の交付又は受交付にかかる金銭又は物品のうち,一部分のみについて後の供 与等の行為が行われた場合には,その部分については交付又 は受交付の罪 は後 の供与等の罪に吸収 され,後者の罪に間擬 しうるにとどまるが,受交付者 の手 裡に保留 されたその余の部分については,交付および受交付の罪 は吸収 され る ことな く残 り,右供与等の罪 と交付又 は受交付の罪 とは,刑法 45 条 の併合罪 の 関係に立っ ものと解すべきである」 としている 1) 。 本判決 によって,①供与 罪の共謀共同正犯者間における供与資金等の授受行為 も ( 受)交付罪 として独 立に評価 され うるものであることが確認 され,( 受)交付 と供与 の関係 につい

て も,②供与に至 った部分については ( 受)交付行為が供与罪に 「吸収 され 」 ,

③一部のみが供与 された場合には,( 受)交付を吸収 した供与罪 と残 りの部分 についての ( 受)交付罪 とが併合罪になることが,明 らかにされたのである

もっとも,本判決 によって この種の事案をめぐるすべての問題が解決されて し まったわけで もない。たとえば,( 卦については , 「吸収」 とす ることの意味内 容 は必ず しも自明のものではなI、し,⑨について も,後に見 るよ うに・ ,併合罪 とすることの適否については異論がある。また , 「この判例変更 は,実務 の混

1 )最大判昭和 41 年 7 月 1 3 日刑集 2 0 巻 6 号 6 2 3 頁 ( 但 し,供与共謀者間 における買収資

金等の授受を ( 受)交付罪 として独立に評価することはできないとする下村裁判官

の詳細な反対意見がある) 0

(3)

罪数論の一側面 2 9

乱を解消す るためにむ しろ遅 さに過 ぎたきらいさえ感 じられる」 と評 され る 2)

① の点 についでさえ,従来 の判例が共謀共同正犯理論 を援用 して ( 受)交付罪 の成立を否定 していた ことの是非等 に関 して言及すべ き余地 は若干なが ら残 さ れているのである。

このよ うな状況を踏 まえて,以下 にお いて,供与罪 の共謀共同正犯者間 の ( 受 )交付行為の取 り扱 いについて従来 の判例 とそれに対 す る学説 の対応 を檎 討 した うえで,供与罪 と交付罪 との罪数関係 について検討 してい くことにする。

供与共謀者間における ( 受)交付罪の成否

1 買収 目的を もらてす る金銭 もしくは物品の授受 を ( 受)交付罪 として処 罰す る規定 は,昭和 9 年 6 月 23 日の改正 によって旧衆議院議員選挙法 11 2 条 1 項 5 号 に新設 された ものが ( 法律 49 号)現行 の公職選挙 法22 1 条 1 項 5 号 に引

き継がれた ものである。その立法理 由は,選挙 の公正 さを確保 しその腐敗 を防 ぐためには,選挙人等 を直接買収す る供与行為を処罰す るだけでは充分 で はな く 3 ) ,他人を買収す る目的でその資金等を交付す る段階での行為 それ 自体 を ち 処罰す る必要がある,と考え られた点 に求 めることがで きる 4) 。 ところが,こ うして供与罪の前段階 とも言 うべ き ( 受)交付罪 の処罰が立法によって確立 さ

2) 西川潔 ・最高裁判所判例解説刑事篇昭和41 年度1 3 5 貫。

3) しか も,当時の判例 は,供与罪の成立 についてかな り厳格な立場をとっていた。 た とえば,大判大正元年1 0 月 2 2 日刑録1 8 輯1 3 0 0 貢 は , 「衆議院議員選挙法第8 7 候 ノ規 定 タルヤ金銭其他 ノ利益 ヲ香餌 トシテ不正 ノ投票 ヲ獲得スルヲ禁スル趣旨二出ツル ヲ以テ同僚第 1 号 二所謂選挙運動者二封スル金銭 ノ供輿 ト‑選挙運動 ノ報酬 トシテ 選挙運動着二金銭 ヲ供輿 スル ヲ云 フモノナルコ ト明ナ リ左 レハ選挙連動者二投票買 収費 ヲ寄託 スルカ如キハ寄託 ヲ受 ケタル運動着 自身二於テ何等利益 ヲ得ル所ナケ レ ハ選挙運動 ノ報酬 トシテ選挙運動者二金銭 ヲ供輿 シタルモノ ト云 フへカラサル」 と している。さらに,大判昭和 8 年1 0 月 3 0 日法律新聞3 6 7 1 号 7 貢,大判昭和 9 年 4 月 1 6 日刑集1 3 巻4 85 頁,参臓。なお,大判昭和 9 年 4 月 1 6 日に対 しては,( 受 )交付罪 の新設 について実質的な考慮を払 っていない点で不当だ とす る批判があるが ( 谷口 正孝 「 共謀者間の金員授受‑ 選挙犯罪における‑ 」 ジュ リス ト 2 9 7 号 (昭和3 9 年) 9 2 頁,正田満三郎 「買収資金の交付 と供与‑ 交付 ・受交付罪の予備犯性 につ いて」同 ・犯罪論或間 ( 昭和4 4年)1 5 6 貢),本判決 は ( 受)交付罪新設直前の もの である。

4)浦辺衛‑林修 ・選挙犯罪 ( 総合判例研究叢書刑法 ( 2 3) ,昭和3 9 年 )3 7 寅,小林充

(4)

30 商 学 討 究 第 3 8巻 第 2 号

れた直後か ら,判例 は,いわゆる共同意思主体説 に もとづ く共謀共 同正犯理論 を根拠 として,供与共謀者間 には ( 受 )交付罪が成立 しないとの立場 を明確 に 表明 し始 めたのであるS ) 。

2 供与共謀者間 における金銭等 の授受が ( 受 )交付罪 を成立 させ るもので ない ことを認 めた最初 の判例 は,大判昭和 1 2 年 6 月 2 2 日刑集 1 6 巻 9 8 3 頁 で あ っ た。それ は,立候補者 の当選 を図 るべ く甲が乙に供与資金 を交付 して乙 が各供 与 した事案 に対 して , 「 案 スルニ凡 ソ共同正犯‑本来 其 ノ共 同 ノ犯罪 二付 テ‑

法律上同身‑鰻 ノ関係 二在 ルモノ ト看倣 サルへ ク甲乙共謀 ノ上選挙運動者 二選 挙運動 ノ報酬 トシテ金員 ヲ供輿 シタル場合 二其 ノ金員ハ賓際甲力支 出 シテ乙二 交付 シ乙 ヲシテ選挙運動者 二供輿 セ シメタルモノナ リトスルモ其 ノ供輿‑嘗然

甲乙両名 ノ共同行為 卜認 メラルヘキカ故 二甲力右 ノ金員 ヲ乙二交付 シタル‑畢 尭共犯者相互 ノ内部関係 二於 ケル供輿資金 ノ授受若‑供輿 ヲ為 スニ至 ルへキー 階梯 タル行為 二過 キス ト解 スへク従 テ甲乙間 二為 サ レタル該金員 ノ授受行為 ヲ 以 テ‑‑交付罪 ヲ構成 スルモノ ト謂 フヲ得 サルモノ トス」 と判示 している。す

なわも,本判決 は,甲乙間 に供与罪 についての共謀共同正犯が成立 す る ことを 前提 と して6 ) ,甲乙間 の ( 受 )交付 は単 に共同正犯 の内部関係 にお け る準備 的 行為にすぎないことを根拠としているのである。そして,このような理由づけは

,

その 表現 にお いて若干 の相違 を見 せ なが らも,実質 にお いて は,同 一 人 が金 庫

「 公職選挙法」伊藤‑小野‑荘子編 ・注釈特別刑法第 3 巻 ( 昭和 5 8年 )26 9 貢,参 照。

5) 判例のこのような対応について,西川調査官は , 「その時期が改正立法の後数年を 出ていないだ桝 こ,立法に対する判例の理論的抵抗として注目すべきできごとであっ た」とされている。西川 ・前掲解説 1 3 4 貢。

6) この点については , 「 凡ソ共同正犯ノ本質ハ二人以上ノ者一心同健 ノ如 ク互二相侍 り相接ケテ各自ノ犯意ヲ共同的二宮現シ以テ特定ノ犯罪ヲ奮行スルニ在 り共同者力 皆既成ノ事膏二封シ全責任ヲ負担セサルへカラサル理由五二存ス若シ夫 レ其ノ共同 音現ノ手段二重 リテハ必スシモー律二非ス或‑倶二手 ヲ下シテ犯意 ヲ遂行スルコト

アリ或ハ又共二謀議 ヲ凝シタル上其ノー部ノ者二於テ之力遂行ノ衝二嘗ルコトアリ 其ノ態様同シカラス ト離二者均シク協心協力ノ作用タルニ於テ其ノ価値異ナル トコ ロナシ従テ其ノ執 レノ場合二於チモ共同正犯ノ関係ヲ認ムへキヲ以テ原則ナリトス」

として共同意思主体説にもとづく共謀共同正犯理論を確立 した大連判昭和 1 1 年 5 月

2 8 日刑集 1 5 巻 7 1 5 貢の影響を認めることができよう。

(5)

罪数論の一側面 31

か ら金を引き出すのと同 じ行為ないしは同一人が手足を使 って金員の場所的移 転をするのと同 じ行為 として,あるいは単独正犯の場合に金員が右手か ら左手 に移 るのと同 じ行為 として理解されていくことになった 7) 。 しか も,その後の 判例の展開のなかで , 共同正犯の内部関係における準備的行為」 を理由とす

る 「 供与共謀者間の授受行為は ( 受)交付罪を成立させない」 という」投論は, 次第にその適用範囲が拡張 されていき,乙による供与が一部分にとどまった場 合8 ) ,さらには乙による供与が全 くなされることな しに終 った場合 9) をもカヴ

ァ‑するようになっていったのである 。

3 このような判例の立場に対 しては,主 としてその結論の不合理さとの関 係で批判が加えられること. になった 1 0 ) .それは,買収をしようとしている者中 間の話 し合いが共謀共同正犯を肯定 しうるほどの段階に達 していない場合にだ け ( 受)交付罪が成立 し,両者の間の関係が緊密で謀議が明瞭かつ詳細であれ ばあるほど ( 受)交付罪の成立が肯定 しにくくなる点についての批判である。

7)浦辺衛 「 供与罪の共謀者間における金員の授受‑ 選挙犯罪判例研究‑ 」判例評 論 9 5 号 ( 判例時報 4 5 6 号) 8 貢,谷口 ・前掲論文 9 6 貢,参照。

8) たとえば,本判決直後の大判昭和 1 2 年 7 月 9 日刑集 1 6 巻 1 1 9 5 貢は,本判決 と同様 の 理由で ( 受)交付罪の成立を否定 したうえで,「 此 ノ論結ハ共謀者 中右供輿資金 ヲ 受領 シタル着工於テ其 ノ金員 ノー部 ヲ未 夕他 ノ選挙運動着二供輿セス偶之 ヲ自己ノ 手許二保留 シ又ハ他 ノ趣旨二使用 シタル場合二於テモ亦異ナル所アルへキ理由ナシ」

としている.結論同旨,名古屋高判昭和 2 9 年 9 月1 4 日高刑裁判特報 1 巻 7 号 2 8 8貢 ( 理由づけは不明),福岡高宮崎支判昭和 31 年 9 月21 日高刑集 9 巻 9 号 9 6 8貢,名古 屋高判昭和 31 年 1 2 月 5 日高刑裁判特報 3 巻 2 4 号 1 2 0 4 貢 ( 結論的には共謀の存在が否 定されているため,一般論 としてのみ同旨) a

9) 東京高判昭和 2 8 年 6 月2 0 日高刑集 6 巻 8 号 9 6 3 貢 は,甲乙が買収を共謀 して甲か ら 乙に資金が交付されたが供与に至 らず,結局甲の弟に返遺 されたという事案につい て , 「 右金島の授受は共謀による買収実現の為にする共謀者内部の関係 に於 ける準 備行為の分担に外ならずと認むべ く・ ‑‑いわゆる交付罪の成立をも詠むべか らず, 何等の罪をも構成 しないものと解すべきである」 としている

1 0) 谷口 ・前掲論文 91 貢,西川 ・前掲解説 1 3 4 貢,田村達美 「 公職選挙法 2 21 条 1 項 1 号

の供与等を共謀 した共犯者間の金銭または物品の授受行為について‑ 最高裁昭和

41 年 7 月1 3 日大法廷判決‑ 」捜査研究 1 6 巻 2 号 ( 昭和 4 2 年) 4 6 貢,正田 ・前掲論

文 1 5 6 貢,松本時夫 ・刑事判例評釈集第 3 0 巻昭和 4 3 年度 ( 昭和 4 9 年) 29 貢,小林充 ・

刑事判例評釈集第 2 8 巻昭和 41 年度 ( 昭和 5 4 年 )1 4 5 貢,同 ・注釈特別刑法第 3 巻 2 7 2

頁以下,等参照。

(6)

3 2 商 学 討 究 第 3 8巻 第 2 号

すなわち,判例の立場を一貫するな らば,買収についての謀議が詳細 になされ ていればいるほど選挙の公正さを害す る危険性が高いにもかかわ らず ( 受)交 付罪 としては処罰することができず,逆に,謀議が粗雑で選挙の公正 さを害す る危険性がそれほど高 くない場合には ( 受)交付罪 として処罰 される,とい う 不合理を生 じることになるのである。 もっとも,供与罪について共謀共同正犯 が成立するのであれば,その前段階 とも言える ( 受)交付罪の成立をわざわざ 認める必要 もないと考え られるか ら,このような不合理 は必ず しも致命的 と言 えるほどのものではない ム しか し,すでに見たように,判例 は,共謀通 りの供 与が実現 した事案ばか りではな く,一部供与にとどまった事案や共謀に もとづ いて ( 受)交付がなされたが供与にまでは至 ることな く終 った事案にまで,そ の一般論の適用範囲を拡大 していたのである。 したがって,共謀通 りの供与 に までは至 らずに ( 受)交付段階で とどまった事案 に 「 供与共謀者問における金 銭等の捜受 は ( 受)交付罪を成立 させるものではない」との一般論が及ぼされ ることになった結果 として,現実に供与が行なわれなかった場合には買収 につ いて一切の処罰か ら免れるという可能性す ら生 じることになったのである こ のため,複数の行為者の間で供与について何 らかの話 し合いがなされていた事 案にあっては,「 一般の場合 と逆に,弁護人が共謀 の認定 について緩 やかであ ることを主張 し,検察官がその成立範囲の狭 いことを主張するという現象が起 きる」 との指摘がなされていた 1 1 ) 。 しか も,買収事犯が多 くは供与先や供与金 額等についての共謀の存在する場合がむ しろ通常の形態であるために,実務 に おけるディレンマは大 きなものがあったようである。

このように,昭和 1 2 年の大審院判決に指導 された判例理論 は,買収資金が選 挙人等に移転す る以前の段階で検挙,摘発 しようとした ( 受)交付罪の立法趣 旨を没却 して しまったばか りではな く,「 共謀による金員等の授受者仲間の治 外法権確立へと発展する 」1 2) ことにす らなって しまったのである。

l l ) 松本 ・前掲評釈 2 9 貢。さらに,鬼塚賢太郎 ・最高裁判所判例解説刑事篇昭和 4 3 年度・

1 0 1 貢。

1 2 ) 正田 ・前掲論文 1 5 6 貢 。

(7)

罪数論の一側面 3 3

4 そこで,判例 と学説 において,ふたっの方向で このよ うな不合理 な結論 を回避す るための努力がなされることになった。ひとつは,従来 の判例理論 に 従 いなが ら,共謀共同正犯の成立要件を厳格に解す ることによって ( 受)交付 罪の成立範囲を広げていこうとす るものであり,若干の下級審判例の中 に兄 い 出す ことがで きる。そ して,もうひとっは,( 受 )交付罪 の立 法趣 旨を尊重す ることによって,共謀者間の授受行為について も ( 受)交付罪の成立を端的 に 認 めていこうとす る立場である。

前者の立場 として,たとえば大阪高判昭和 4 1 年 6 月1 4 日は 1 3 ) ,甲が乙 に資金 を交付 し乙が丙に供与 した事案 について , 「 右 甲,乙の丙 に対す る供与罪 の共 同正犯が肯定 されるためには甲,乙間においてその授受 された金員につ いて こ れが単 に地区選挙人又 は選挙運動者 に対す る買収資金 として使用 されるもので あるというだけの意思連絡があるだけでは足 らず金員供与の相手方,金額,供 与時期,方法等について両者の問に謀議の成立す ることが必要であると解すべ きである もしそ うでないと,交付者受交付者間に授受 された金員の趣 旨が買 収金であることの相互認識を要件 とす る交付罪,受交付罪に該当す る行為 は大 部分の場合に供与の共謀が認 め られることにな り,それは共謀者間の金員 の授 受に過 ぎないという説 に従えば交付,受交付の各罪の成立が認め られない こと

になる。( 受交付者が金員を更 に他 に供与 した場合 は供与罪 と して処罰 で きる が,受交付者が他 に供与す るに至 らなかった場合 は処罰できない不都合な結果 にもなる ) 」 としている1 4 ) 。た しかに,このような立場 は,確立 された判例理論 への抵触を揖避す るための ものとして理解 しえないものではないが,他方 で, 共謀共同正犯の成立を比較的緩やかに認めてきた判例の流れと調和 しないものでもあ

1 3)本判決は,長一小判昭和4 3 年 3 月 21 日刑集2 2 巻 3 号9 5 貢の第 2 次控訴審判決である 。

1 4)同旨として,最大判昭和41 年 7 月 1 3 日の第一審判決である松江地木次支判昭和3 9 年 4 月 2 日。なお,同様の下級審判例が他にもいくつかあるようであるが ( 谷口正孝 ・ 判例評論87 号 ( 判例時報4 31 号)2 4 貢,石橋浩二 「買収資金交付者処罰 の系譜‑

判例を中心 として‑ 」司法研修所創立 2 0 周年記念論文集第 3 巻 ( 刑事編 )(昭和

4 2 年) 22 4 頁以下,参照),確認 しえなかった。

(8)

3 4 商 学 討 究 第 3 8 巻 第 2 号

共謀の認定について厳格な立場をとるいわゆる練馬事件判決 も 1 5) , 共謀

の事実が厳格な証明によって認められ,その証拠が判決に挙示 されている 臥 上, 共謀の判示 は,前示の趣旨において成立 したことが明 らかにされれば足 り,さ

らに進んで,謀議が行われた日時,場所またはその内容の詳細,すなわち実行 の方法,各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要 す るものではない」 としている

また,選挙の買収事犯について も,慕‑小判 昭和 3 7 年 1 2 月2 7 日裁判集刑 1 4 5 号 7 3 3 頁 は,練馬事件判決に言及 しなが ら, 「当 裁判所判決にいうところの謀議 とは,当該犯罪の内容が くまな く決定 されてい ることを要す との謂ではな く,その犯罪内容の骨子が特定 されなければな らず 且つそれを以て足 るという趣旨と解すべきであり,従って これを原判示供与罪

に即 して言えば,一定範囲の選挙人又は選挙運動者に対 して投票又は投票 とり まとめ方を依頼す る趣旨で金銭を供与す るという謀議 さえ整っておれば,その 供与の相手方 となるべ き具体的人物,配布金額,金員調達の手段等細部 の点 ま

で協議 されることを必要 とす る意味ではない」 としているのである しか も, 共謀の認定を厳格に していこうとする方向は,このような最高裁判例の流れに 抵触す るばか りではな く,共謀共同正犯理論によって共同正犯の成立範囲を拡 張 しようとしてきた判例理論を,その結論の当否 は別 として , 一種のパラドッ

クス」 1 6 ) に陥れることにす らなる したが って,共謀 を厳格 に認定す ることに よって ( 受)交付罪の成立範囲を広げていこうとする試みは,他の大多数 の判 例においては受 け入れ られることな く終 ったのである。

これに対 して,一部の学説 は,共同意思主体説にもとづ く共謀共同正犯理論 を援用する論理構成を批判することによって,共謀者間の ( 受)交付罪 の成立 を端的に認めようとしている。すなわち,従来の判例理論 は,結論 の不合理 さ

もさることなが ら,その論理構成においてふたっの点で批判を免れえない もの で もあったのである。第 1 は,共謀者間の授受行為を同一犯罪主体の内部的な 準備行為 として構成 した点である . た しかに,単一の行為者が供与資金 を準備 1 5) 最大判昭和 3 3 年 5 月2 8 日刑集 1 2 巻 8 号1 71 8 貢。

1 6) 谷口 ・判例評論8 7 号25 貢。

(9)

罪数論 の一側面 3 5

す ることは,自己の金庫か ら金員を引き出す行為ないしは金員が右手か ら左手 に単に移動 しただけのものとして理解することが容易である

しか し,人格 の 異なる複数の共犯者相互間で金員の授受が行なわれた場合をただちにそれと同 視す ることはできない。なぜな ら,共犯者相互間における金員授受の場合 こそ は個人による供与資金の準備の場合以上に現実の買収行為に発展する危険性が 一段 と高いと考え られるか らであり1 7 ) ,( 受 )交付罪 の立法理 由 もまさにその ような事案を念頭に置いたものであったと言 いうるか らである この点で,従 来の判例理論 は,共同意思主体内部の準備的行為 と個人における準備的行為 と

を充分な理由づけな しにただちに同視するという誤 りを犯 していた,と言 うこ とができよう 。 第 2 は,共謀共同正犯による理由づげを現実に供与がなされな かった部分 ( 事案)にまで及ぼ して しまった点である 従来の判例 は,供与罪 の共謀共同正犯が成立 している事案だけではな しに,現実に供与がなされた と すれば供与罪の共謀共同正犯が認め られることになるような事案をもカヴァ‑

していた。 しか し,共同意思主体説の提唱にかかる共謀共同正犯理論 は,そ も そも, 犯罪の共謀に加担 しただけで実行行為自体 は分担 しなか った者 を実行行 為分担者 とともに共同正犯 として処罰するためのものであったはずである d し

たがって,共謀共同正犯を肯定するためには,共謀が存在 していたことは勿論, 少な くとも共謀者のうちの一人が共謀にもとづいて実際に実行行為を行なった

ことが要件 とされなければな らない。そうだとすれば,現実に供与に至 らなかっ た部分については,それが一部であれ全部であれ,供与罪の共謀共同正犯が成 立するはずはな く,したがって共謀共同正犯の成立を前提 とす る ( 受)交付罪 の不成立 という論理 は決 して出て くることがなかったはずである

それにもか かわ らず,供与に至 らなかった部分についてまで共謀共同正犯理論を援用す る ことによって ( 受)交付罪の成立を否定す る判例 は,共謀共同正犯理論 の適用 範囲を不当に拡張するものであり,本来理由としえないものを理由としていると

1 7) 小林 ・刑事判例評釈集第 2 8 巻 1 4 4貢 ,同 ・注釈特別刑法第 3 巻 2 7 1 貢以下,参照 。 さ

らに,谷口 ・ジュ リス ト 2 9 7 号 9 5 頁以下,浦辺 ・判例評論 9 5 号 1 0 頁 ,参照o

(10)

3 6 商 学 討 究 第 3 8 巻 第 2 号

言わざるをえない1 8 ) 。

5 このような学説 による批判 は,判例に も少なか らず影響 を与え

19)

,最大 判昭和41 年 7 月 1 3 日に至 ってその趣旨が実現 され ることとなった しか し,従 来の判例理論の最大の誤 りは,( 受)交付罪不成立 の根拠 と して共謀共同正犯 理論を援用 したことそれ自体 にあったのではないか,と思われる

( 受)交付罪 の立法理由が選挙 の公正を確保す るために供与の前段階におけ る金銭等の授受を処罰 しようとす ることにあった点か らすれば,同一主体 によ 1 8) なお,谷 口 ・ジュ リス ト 2 9 7 号 9 5 頁。

1 9) 特に,東京高判昭和 4 0 年 3 月 3 1 日下刑集 7 、 巻 3 号 2 9 1 頁が 「 交付罪 ,受交付罪は‑州 選挙人又 は選挙運動者 に対す る供与資金等の授受交付が,かの買収罪の中心 ともい うべ き供与 ,受供与罪 に発展 し,若 しくは,同罪の発生を誘発する危険が極 めて大 いところか ら,これを未然に防止す るため供与罪,受供与罪の準備的前段階的行為 としてのかか る金員等の授受を,特 に,独立の犯罪類型 として法定 し,これを処罰 しようとした ものである。従って‑∴供与を共謀 した者の問における金員等の交付 , 受交付を,金員等の供与実行のためにす る単なる準備的行動 に外な らないことを哩

由として交付罪,受交付罪の成立 を否定す ることは,まさに,かかる準備的行為 そ

れ じたいを処罰 しようとす る交付罪,受交付罪制定の趣 旨に明 らかに矛盾す る もの

といわなければな らない」 とし , 「 両当事者間に供与の謀議 が成立 し,供与 資金等

の授受が行われた場合であって も,未だその供与資金等が現実 に第三者 に供与 され

ない段階において,右両当事者間の関係を,供与罪のいわゆる共謀共同正犯 と して

法律上一心同体の関係 にあるもの として構成 し,それを前提 として この場合を も同

一人格主体者のす る金員等の単 なる移動 に過 ぎないものと解するが如 きは,もと も

と共謀共同正犯理論か らす るも支持 し難 いところというべ きである。蓋 し,共謀共

同正犯論 にい う一心同体 とい う共同意思主体説 も共謀者の一員が供与の実行行為に

出て供与罪の成立す る場合 に,初めて この供与罪の実行行為を した者 とその実行行

為を しない者 とについて供与罪の共同正犯を認めるための理論であ り,共謀者 の一

員について供与罪の実行行為がない以上,ここでかの一心同体 とい う共同意思主体

説の如 きを扱 いて くる理 由がないか らである」 としたうえで , 「供与 を共謀 した者

の間における供与資金等の授受 は,それが未だ供与罪にまでいた らない限 り,共謀

者間において行われた ことの故を以って不問 に付すべ きではな く,それが供与資金

等の寄託 ,受寄託 として交付罪,受交付罪の構成要件を充足す る以上,や は り独立

して‑‑・ 交付罪,受交付罪を もって処罰す るのが相当である」 としている点が注 冒

され る。結論同旨,仙台高判昭和 3 0 年 7 月 5 日高刑裁判特報 2 巻 1 3 号 6 8 9 頁,仙 台

高判昭和 3 0 年 9 月 1 3 日高刑裁判特報 2 巻 1 8 号 9 4 7 頁, 東京高判昭和 3 9 年 6 月 1 6 日判

例時報 3 9 4 号 81 貢。なお,東京高判昭和 2 6 年 1 0 月 3 0 日高刑集 4 巻 1 2 号 1 6 3 0 貢 は , 「少

くとも現実 に選挙人 に供与 された部分 に関 しては」( 受)交付罪が成立 しない と し

ていることか らこれ らの一連の判例の流れに属す るものと考え られるが,その判 文

中に昭和 1 2 年の 2 件 の大審院判決を引用 していることか らそれを従来の判例の涜れ

に属す るもの と見 る立場 もある (たとえば.石橋 ・ 、 前掲論文 2 1 9 貢) .

(11)

罪数論の一側面 37

って ( 受)交付行為 と供与行為 とが行なわれた事案 は ( 単独正犯,実行共同正 犯,共謀共同正犯のいずれの場合 も想定 しうる) ,供与罪 と ( 受 )交付罪 との 関係をどのようなものとして見 るか とい う罪数 の問題 と して処理すべ きもの であった,と言えよう。 したがって,( 受)交付 はなされたが供与 に至 ること な く終 った事案や一部のみが供与 されたにとどまった事案においては,供与 さ れなかった部分を ( 受)交付罪 として独立 して評価 しうるとする結論 は当然の ものである

また,( 受)交付金員のすべてが供与 された場合 に ( 受 )交付罪 が成立 しないとする結論 も,供与罪によって ( 受)交付行為の部分が評価 し尽

されているという点に求め られるべ きであろう 。 もっとも,( 受)交付行為 は, 供与行為‑の発展過程における前段階的行為 としての側面 ( 罪数論的側面)を 持っと同時に供与金員の準備のための行為 としての側面 ( 事実的側面)を持っ ものである 。 したがって,従来の判例理論が 「 共犯者相互間の内部関係 におけ る準備的行為」 として後者の側面を強調 しがちであったことも理解 しえないわ けではない。また, この種の事案の リーディングケースである大判昭和 1 2 年 6 月 22 日の前年 に共謀共同正犯理論を確立 した連合部判決が出されていたことや

この種の事案の多 くが共謀共同正犯によるものであることなどを考えると,供 与罪 と ( 受)交付罪の罪数の問題が共謀共同正犯に固有の問題であるかのよう

に扱われていたのも,無理か らぬ面があったと言えよう。 しか し,この問題 は, 本来的には,共謀共同正犯 とは無関係に罪数論において処理 されるべきものな のである。この意味で,共謀共同正犯が成立する事案であるとす る弁護人 の主 張を しりぞけたうえで 「 交付,受交付罪 は,供与罪等の準備行為 と しての危険 犯たるところに行為の違法性が認め られるものであるか ら・ ・ ・ ‑ 〔 供与等の〕目 的をもって選挙運動者に金銭若 しくは物品を交付 した時に成立するものである が,更に受交付者が交付者の意を体 し,選挙人 らに供与又は饗応接待すれば‑‑

さきの授受 ( 交付および受交付罪)はこれに吸収され別罪を構成 しないものと 解すべきである」 とする大阪高判昭和39 年 1 1 月 2 4 日下刑集 6 巻 l l ・1 2 号1 2 03 頁

に,正 しい方 向 を兄 い出す ことがで きる2 0 ) 。 また, 最大判 昭和41 年 7 月

2 0) 西川調査官 は,本判決を従来の判例理論への抵触を慎重に回避 したものとされて い

(12)

3 8 3 8 巻 第 2 号

1 3 日が ( 受)交付罪 は供与罪 に 「吸収」 され るとす るの も,同様 の前提 に立 っ ての判示 と見 ることがで きるのである。

・供与罪と ( 受)交付罪との関係

最大判昭和 41 年 7 月 1 3 日は,( 受 )交付罪 と供与罪 とが 「吸収」関係 にあ る とす るが,その内容 や範囲 につ いて明確 に判示 しているわけで はな い。 また, 訴訟法的な問題 とのか らみで出されたその後 の判決 などとの関わ りもあ り,両 罪 の関係 につ いて はいまだ一致 した見解 を兄 い出す に至 っていない。で は,こ の両罪 の関係 はどのよ うな もの と して理解す るのが妥当なのであろ うか。

(1) 供与 された部分 と ( 受)交付罪

1 ( 受 )交付 された金員が当初 の予定通 り供与 に至 った場合 の取 り扱 いと して,供与罪 のみの成立 を認 めて ( 受 )交付罪 の成立 は認 めないとす る点では, 広 い一致が見 られ る2 1 ) 。 しか し,そのような結論 を導 くための論 理 ,す なわ ち 供与罪 と ( 受 )交付罪 との関係 をどのよ うな もの として とらえ るのか とい う点 につ いて は,い くつかの異 な った立場がある。その代表的な もの と して,法条 競合説 2 2 ) ,いわゆる犯罪吸収説 2 3 ) ,包括‑罪説 2 4 ) ,いわゆる処罰 吸収説2 5 ) や責任 吸収説2 6 ) を挙 げることがで きる。 もっとも,これ らの立場 は必 ず しも常 に対立 す る関係 にあるわ けで はな く,法条競合説 と犯罪吸収説 はいずれ も未遂 ( 予備) が既遂 に吸収 され るの と同様 の形態 での吸収関係 を考えている点でその実質 に

るが ( 西川 ・前掲解説1 3 5 貢),むしろ本判決のような方向こそが本来の筋道であっ たように思われる 。

2 1 )もっとも,両者を併合罪と考えることも可能である。事実,( 受)交付罪の立法趣 旨を強調することによって , 「すべての場合について・ ‑‑常に交付罪 と供与罪とが 併合罪関係に立つと解するのがより理論的であり,立法者の意思にも合致するので はあるまいか」との指摘 ( 松本 ・前掲評釈 3 4 頁)がある。

2 2) 浦辺 ・判例評論 9 5 号 1 1 貢,西川 ・前掲解説1 3 6 貢 ( 殺人罪と被害者の着衣に関する

器物投棄罪との間にあるような全部規定が部分規定を吸収する場合 と同視 してい

る) ,横井大三 「 訴因が交付罪の場合における供与罪の認定」研修 2 4 6 号 ( 昭和 4 3 年)

6 6 貢以下 ( 補充関係と見ている) ,堀田力 「 交付 ・受交付と供与の関係」警察学論

集 2 4 巻 3 号 ( 昭和 4 6 年)3 4 貢 ,3 7 頁 ( 吸収関係ないしは不可罰的事前行為に類似す

(13)

罪数論の一側面 3 9

おいて共通するものであるし,包括一罪説 と処罰吸収説 も供与罪 として処罰す ることで ( 受)交付行為をさらに処罰するまでの必要 はな くなるとの立場をと る点で親近性を持 ったものである 。 したがって,ごく大ざっばに言 うな らば, 問題 は,( 受)交付罪 と供与罪 との関係を犯罪吸収的なもの ( 論理的吸収関係 )

と見 るか処罰吸収的なもの ( 価値的吸収関係).と見 るかということであ り,あ るいは両罪の関係を本来的一罪に近いものと見 るか科刑上‑罪に近いものと見 るかということである,と規定することもできるであろう

2 供与資金等の ( 受)交付行為が供与行為の前段階に位置するものであり, ( 受)交付罪の規定がそのような前段階的行為を特に処罰 しよ うとして設 け ら れたものであることか らすれば,それは,( 受 )交付罪を供与罪 の未遂的段階 と理解す ることによって前者が後者に吸収 されるとする考え方 ( 法条競合説な い しは犯罪吸収説の立場)と結びっ きゃすいものであると言 ってよい。大審院 ち,共謀共同正犯が争われるようなものでない事案 において は,( 受 )交付罪 の新設直後か ら,未遂 ・既遂吸収的な考え方をうかがわせるような表現 を即 、 て,供与に至 った部分の ( 受)交付行為が供与罪に吸収されることを明 らかに

していた。たとえば,大判昭和 12 年 3 月 5 日刑集 1 6 巻 236 寅 は,甲か ら買収 を 依頼 されて資金の交付を受 けた乙が複数の選挙人に分割供与 した事案について,

るものと見ている) 0

23) 香川達夫 ・包括的一罪 ( 総合判例研究叢書刑法 ( 1 3) ,昭和 3 4 年)3 0 9 貢以下,安村 和雄 ・最高裁判所判例解説刑事篇昭和 45 年度4 4 8 頁,小林 ・刑事判例評釈集第 2 8 巻 1 4 6 頁,同 ・注釈特別刑法第 3 巻 2 9 0 頁,大野恒太郎 「 供与を共謀 した者の間におけ る交付 ・ / 受交付 と共謀に基づ く供与の関係‑ 宇野亨派選挙違反事件上告審決定

‑ 」捜査研究 3 4 巻 1 1 号 ( 昭和 6 0 年) 2 4 頁。

2 4) 美濃部達吉 ・選挙法詳説 ( 昭和 2 3 年)2 2 2 頁,浦辺〒林 ・前掲書 5 9 貢以下,浦辺衛

「 交付 ・受交付 と供与 との関係‑ 最高裁第‑小法廷昭 43・3 ・21 判決 について

‑ 」法律のひろば 21 巻 6 号 ( 昭和 43 年) 3 2 貢,山火正則 「 特別刑法と犯罪の個数」

注釈特別刑法第 1 巻 ( 昭和 6 0 年)5 6 5 貢,同 「 買収共謀にもとづ く供与 と事後的交 付の罪数関係‑ 最一小決昭和 61・7・1 7 」 ジュ リス ト 8 7 4 号 ( 昭和 61 年)7 3 貢。

2 5) 谷口正孝 ・判例評論 1 1 8 号 ( 判例時報 5 31 号) 47 貢,石川才顕 ・判例評論 3 0 8 号 ( 判 例時報 1 1 2 3 号) 7 0 貢。

2 6) 正田満三郎 「 共謀者間における投票買収資金の授受 と交付 ・受交付罪の成立」法律

時報 3 8 巻 1 1 号 ( 昭和 41 年) 8 6 貢 ( 実質的には,牽連犯 と見ている) 0

(14)

4 0 3 8 2

「 金員ノ交付 ヲ受ケタル者 力更 二其ノ金員 ヲ供輿 シタル場合二在 リテ‑金員ノ 供輿 ( 「 交付」の誤記であろう‑筆者注)ヲ受ケタル粘ハ是唯供輿行為 へノー 階梯若‑一過程二過キサルカ故二成立 シタル金員供輿罪中二嘗然吸収セラレ別 罪 ヲ構成セサルモノ ト解セサルへカラス」としている 2 7 ) 。また,最三小決昭和 30 年 1 2 月 1 3 日判例時報 68 号 28 頁 も,「 交付を受 けた運動者がその金品を選挙人 に供与 して買収 したときは供与罪のみが成立 し,受交付罪 はこれに吸収される」

として,理由は明示 しないまで も,大審院判決の結論を是認 しているのである。

同様の傾向は ,「( 受)交付行為 は供与罪への一過程にす ぎない」といった理 由 を援用するものと必ず しも明確な理由を示さないものとの違 いはあるけれども, 一連の下級審判例の流れの中にも兄い出されるoまた,下級審判例においては,

「 供与に至 った部分の ( 受)交付行為は供与罪に吸収 される」 という. 結論が, 一般論 として,共謀共同正犯が認められた事案 と共謀共同正犯 とは無関係 な事 案のいずれにおいて も承認 されているのである2 8 ) 。そ して,最大判昭和 41 年 7 月 13 日の言 う 「 吸収」関係 も,一般には,法条競合ないしは犯罪吸収 の意味 に 理解 されていると言 うことができよう2 9 ) 。

3 ところが,その後 2 件の最高裁決定 ( 長一小決昭和 59 年 1月 27 日刑集 3 8 巻 1 号 1 36 頁,最一小決昭和 61 年 7 月 17 日刑集 40 巻 5 号 397 頁)が出るに及んで, 両罪の関係を法条競合ない しは犯罪吸収 と見 ることが困難 と思われるような状 況が生 じてきた。昭和 59 年決定において,最高裁は,共謀にもとづいて ( 受 ) 交付 された買収資金が現実 に供与 されている疑 いがあ ったにもかかわ らず 検察官が交付罪のみで起訴 した事案について , 「 選挙運動者 たる乙に対 し,甲 2 7) 結論同旨,大判昭和 1 3 年 3 月 4 日刑集 1 7 巻 1 5 4 貢 ,大判昭和 1 3 年 3 月 1 6 日法律新 聞

4 26 7 号 1 7 頁。

2 8) 共謀共同正犯が認め られた事案 と して,名古屋高判昭和 2 9 年 9 月1 4 日,仙 台高判 昭 和 3 0 年 7 月 5 日,仙台高判昭和 3 0 年 9 月1 3 日,東京高判昭和 3 9 年 6 月1 6 日 。 共謀共 同正犯 と無関係 な事案 として,仙台高判昭和 2 8 年 4 月 2 2 日高刑判決特報 3 5 号 2 2 貢 , 仙台高判昭和 2 8 年 5月1 5 日高刑判決特報 3 5 号 2 8 貢 ,東京高判昭和 2 8 年 6 月1 3 日高刑 集 6 巻 7 号 83 9 頁 ,広島高判昭和 2 9 年 4 月2 3 日高刑判 決特報 31 号 5 5 頁,仙台高判 昭 和 3 0 年 1 0 月 2 5 日高刑裁判特報 2 巻 2 0 号 1 0 6 4 貢 ,大阪高判昭和 3 9 年 1 1 月 2 4 日 。

2 9) 鬼塚 ・前掲解説 1 0 9 頁参照。

(15)

罪数論の一側面 4 1

が公職選挙法2 21 条 1 項 1 号所定の目的を もって金銭等を交付 した と認 め られ るときは,たとえ,甲乙間で右金銭を第三者に供与することの共謀 があ り乙が 右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与 した疑いがあったとしても,検察官は, 立証の難易等諸般の事情を考慮 して,甲を交付罪のみで起訴することが許 され

る」 と判示 している また,昭和61 年決定 は,甲が資金を調達 して乙が供与す るとの共謀が成立 していたところ,甲か らの資金交付が遅れたために乙が自己 の金員を一時立替えて共謀通 りの供与を行なった翌 日甲か ら乙に資金が交付さ れたという事案について , 「 供与の目的であ らか じめ共謀者間で金員 の交付が 行われ,その後共謀にかかる供与が行われた場合について,交付 の罪 は,後の 供与の罪に吸収 される」 として昭和41 年の大法廷判決 を引用 した うえで , 「本 件 は,これと事実関係を異にはしているものの,供与の共謀者間でその手段 と

して買収資金の交付が約束 され,偶々供与直後にその交付約束が履行 されたに す ぎない場合であるか ら,その間に実質的な差があるとは認め難い。 したがっ て,本件について も‑‑交付の罪は‑‑・ 供与の罪に吸収 されると解するのが相 当であ」るとしている。

昭和 5 9 年決定 は,判例違反を主張する上告趣意 に対 して , 「所論引用 の各判 例 は,いずれ も,交付罪のはかに供与罪の訴因が掲げられていて,供与罪の成 否につき裁判所の判断の機会があった事案に関するものであるところ,本件は, 被告人が交付罪のみで起訴 されていて供与罪の成否につき裁判所の判断の機会 がない事案であるか ら,右各判例は,事案を異にし本件に適切でな」 いとして いるところか らも明 らかなように,( 受)交付罪 と供与罪 との罪数関係 につい て判示 したものではない3 0 ) 。 しか し,供与罪 の成立が相当程度疑 われ る場合 にも実務上の便宜か ら受交付罪だけで起訴することが許 されるとする立場 は, 供与罪 と交付罪 とをそれぞれ本来独立 したものとして評価 してよいとする考え 方に結びっ くものである。 したがって,このよ うな立場 は , 「吸収」関係を論 理的吸収の意味でとらえる法条競合説ないしは犯罪吸収説からは出て来にくいもので

3 0)なお,木谷明 「時の判例」 ジュリス ト 81 1 号 ( 昭和5 9 年)6 5 頁,同 「最高裁判所判

例解説」法曹時報 3 7 巻 2 号 ( 昭和 6 0 年) 2 51 貢,大野 ・前掲論文 2 2 貢,参照。

(16)

42 商 学 討 究 第3 8 巻 第 2 号

あり,両者の関係を価値的吸収 としでとらえる包括一罪説ない しは処罰吸収説 と親 しみやすいものであると言えよう3 1 ) 。また,昭和 61 年決定 は,( 受)交付 と 供与の先後関係が逆転 した場合について,それは 「 偶々」そうなっただ けの こ とであって,( 受)交付が供与に至 った場合 と 「 実質的な差」 がないとす るも のである。 しか し,両者を論理的吸収関係 と見 る立場か らこのような結論がた だちに出て来 うるかは疑問である3 2 ) 。なぜな ら,( 受 )交付罪 と供与罪 との間 の吸収関係を未遂 と既遂の間に認められるのと同 じ意味での吸収関係 と考える ならば,行為が未遂段階を経て既遂段階に至 ったことが吸収を認めるための前 提であり,したがってそれぞれの行為の間の時間的先後関係 は無視 しえないは ずのものだか らである3 3 ) 。特に,本決定の射程が,交付約束な しに共謀供与が 先行 し,後に共謀者問で交付があった場合などにも及んでいく可能性のあるこ とを考えると,なおさらである。その意埠では,谷口裁判官が本決定 の意見 に おいて, 「 本件の場合 は,前記最高裁大法廷判決にかかる事件 と異な り,供与 を共謀 した者の間における金銭の授受があり,その授与を受 けた者か ら供与 と いう共謀 目的の実現に発展 した場合ではない‑‑後に行われた交付罪が前に完 了 した共謀による供与罪に吸収 されると解するのはどのような論理によるもの か,私 は了解できないのである」とされているのも,当然の指摘であると言 う

ことができる。

そもそも,( 受)交付罪 と供与罪 との間にある発展的関係を未遂 と既遂 の間 にあるのと同 じ論理的な発展関係 と見 ることは,必ず しも自明の結論 とされ る ものではない。第 1 に,供与罪 は必ず し′ も常に ( 受)交付罪を通過す るもので はないことを指摘 しうる た しかに,買収事犯の多 くは共同正犯によるもので あり,供与についての事前の共謀にもとづいて ( 受)交付か ら供与へ と至 る場 合であることは否定できないが,( 受)交付 という段階を経 ることなしに選挙人 3 1 )事実,古田検事 は , 「 本決定は犯罪吸収説を実質的に否定 した もの」 として理解 さ

れている。古田佑紀 「 公選法の供与罪の疑いがある場合に交付罪で起訴することの 可否」研修43 7 号 ( 昭和5 9 年)5 0 貢 ( 注 3 ) 0

3 2)なお,真鍋毅 「 公職選挙法2 21 条における供与の罪と交付の罪 との罪数 」 ジュ リス ト臨時増刊昭和61 年度重要判例解説 ( 昭和6 2 年)1 5 5 貢。

3 3) 岩瀬徹 「 時の判例」 ジュリス ト 87 4 号 ( 昭和61 年) 7 6 貢。

(17)

罪数論の一側面 4 3

に直接供与す る行為 も問題な く供与罪を成立 させるものである む しろ,当初 の供与罪 は,そのような事態を想定 した ものであったと言えよう。他方,未遂 が既遂 に吸収 されるのは,当該行為が未遂段階を経て既遂 に至 ったために論理 的に未遂犯の成立が排斥 され るか らである。 したがって,供与罪が必ず しも常 に ( 受)交付行為を経 ることを予定 していないものである以上,両者の関係 を 未遂 と既遂の間に認め られるような吸収関係 と見 る必然性 はないことになる3 4 ) 。 第 2 に,( 受)交付罪 と供与罪の法定刑がいずれ も同一 ( 3 年以下 の懲役若 し

くは禁鏑又 は 20 万円以下の罰金)であることを指摘 しうる。両罪の法定刑が同 一であるということは,法益侵害の点か ら見て両界が同程度に違法なもの と考 え られてお り,その意味で論理的関係 としてはむ しろ並列的な行為 と理解 され ていると言 うことがで きる。すなわち,( 受)交付罪 と供与罪 との関係 は,法 益侵害の面では同 レベルの ものとしての並列的関係 にあ りなが ら,その内部 に おいて事実的な発展関係を も有す るものであると見 ることができるのである。

そ して,最大判昭和 41 年 7 月 1 3 日が必ず しも論理的な発展関係にない 「次 の交 付 もしくはその申込,約束 」 が前の ( 受)交付を吸収 しうるとす る点 も,この ように考えることによって無理な く理解す ることがで きる したがって,両者 の関係 は,未遂 と既遂の間に見 られるような論理的発展関係よりも,贈収賄罪 における賄賂の要求 ・約束 ・収受の間に認め られるのと同様の事実的発展関係 に近 いものであると言えよう

4 このように考えて くると,( 受)交付 された金員等 が供与 に至 った場合

の罪数関係 は,賄賂を要求 し約束 して収受 した事案 などと同様 に,価値的吸

3 4)たとえば,大判昭和1 0 年1 0 月 2 3 日刑集1 4 巻1 0 5 2 頁 は , 「公務員其 ノ職務 二関 シ賄賂

ヲ要求 シ約束 シ又ハ之 ヲ収受 スル トキハ其 ノ要求約束又ハ収受 ノ各行為 力日時場所

ヲ異 ニシテ行‑ レ且賄賂 ノ種類 二異同アル トキ ト雛此等各行為相互間 ノ関係ハーハ

他 ヲ吸収 スへキ性質 ノモノニ非 スシテ各行為ハ夫々可罰性 ヲ保持 シツツ演職行為 ヲ

進展 スルモノナルカ故 二斯 カル行為ハ之 ヲ包括的二観察 シテ‑箇 ノ賄賂罪 ヲ以テ虞

断スへク」 としている。さらに,選挙の買収事犯 における同旨の判例 として,大判

大正 2 年1 2 月 1 3 日刑録1 9 輯 1 42 6 頁 ( 饗応を約束 して投票依頼を した うえで饗応 した

事案),大判大正 4 年 9 月 2 2 日刑録21 輯 1 3 3 2 頁 ( 買収金員の供与 申込 を受 けた うえ

で受供与 した事案),大阪高判昭和2 8 年 1 2 月1 2 日高刑判決特報2 8 号7 0 貢 ( 利益要求

を した うえで金員を受供与 した事案)。

(18)

4 4 商 学 討 究 第3 8巻 第 2号

収関係 としての包括一罪 (いわゆる狭義の包括‑罪 ) ,ない しは厳密 さを欠 く うらみはあるが処罰吸収関係 としてとらえることができる 。 もっとも,収賄 に おける賄賂の要求 ・約束 ・収受がそれぞれ同一の項 ( 刑法1 97 条 1 項 ) に規定 されているのに対 して,供与 と ( 受)交付 は号を分けて規定 されている ( 公職 選挙法 2 2 1 条 1 項 1 号, 5 号)ことか らすれば,ただちに両者が同一 の関係 に

あるとまでは言 うことができないか もしれない。 しか し,賄賂の要求 ・約束 ・ 収受 は,賄賂要求罪,賄賂約束罪,賄賂収受罪 というそれぞれ独立 した構成要 件を同一の項に規定 しただけのものであり,その点では ( 受)交付罪 と供与罪 との問の関係 と異なるところはない。 したがって,このような立法技術 として の条文の体裁の相違 は,それぞれの関係を狭義の包括一罪 と見 ることのさまた げになるほどのものではないと言えよう

( 受)交付罪 と供与罪の関係が狭義の包括一罪 とされるのであれば,それは, 昭和 5 9 年決定および昭和 61 年決定の結論 とも調和 しうるものである 包括一罪 が一般に本来的一罪よりは科刑上‑罪に近い性質を持つ ものであることか らす れば 3 5) ,昭和 5 9 年決定の結論 は,当然のものであると言 い うる 。 また,供与行 為 と交付行為 との先後関係が逆転 した場合 も,すでに供与行為が行なわれて供 与罪が成立 している以上,重ねて交付罪で処罰する必要 はないと考えることが できるのである 3 6 ) 。そ して,このような結論 は,( 受)交付罪 と供与罪の法益 を いずれ も選挙の公正 という同一のものとして理解す るところか ら出て くるもの なのである

(2) 未供与部分と ( 受)交付罪

1 ( 受)交付 された金員の一部のみが供与 され,残 りの部分が受交付者の 3 5) 平野龍一 ・刑法総論 Ⅱ ( 昭和 5 0 年 ) 4 0 9 貢以下 ,41 3 頁 ,鈴木茂嗣 「 罪数論」 中山 ‑ 西原 ‑藤木 ‑宮沢編 ・現代刑法講座第 3巻 (昭和 5 4 年)2 8 4貢,山火正則 「包括的 一罪」西原 ‑宮沢‑阿部 ‑板倉 ‑大谷‑芝原編 ・判例刑法研究第 4 巻 く昭和 5 6 年) 2 7 1 貢以下,内田文昭 ・改訂刑法 Ⅰ ( 総論)( 昭和 61 年) 3 4 6 頁以下 ,参照。

3 6 ) ただ,判示方法 として は , 「 ( 受)交付罪が供与罪に吸収 され る」 とす るの は正確 で

な く , 「 ( 受)交付罪 と供与罪がそれぞれ成立す る」 ことを認 めたうえで,包括一罪

として処断す るのが妥当である。

(19)

罪数論 の一側面 4 5

手許に保留 された場合の罪数関係については,どのように考えるべきなのであ ろうか。

論理的にはいくつかの可能性を想定 しうるが,次のような点を検討す ること で充分であろう 。 第 1 は,未供与の部分を ( 受)交付罪 として独立 に評価 しう るかどうか,という点である。そ して,第 2 に,未供与部分を ( 受 )交付罪 と して独立に評価 しうるとの立場をとった場合に,供与された部分 と未供与部分 とを併合罪 として刑罰加重するのか,それとも包括一罪やいわゆる処罰吸収 と して刑罰加重することな しに処断するのか,という点である

2 未供与部分を ( 受)交付罪 として独立に評価することができないとす る 立場 は,共謀共同正犯者間の ( 受)交付罪を不成立 とし,しか もその論理 を一 部供与の事案に及ぼ していた判例の中に明確に兄い出す ことができる 3 7 ) 。 しか し,そのような一連の判例がその結論 と理由づけのいずれにおいて も支持 Lが たいものであることについては,すでに明 らかに した。他方,学説においては, 明確な理由づけをもってこのような立場を主張する見解 は見当 らないようであ

たとえば,一部供与 と全部供与 とを問わずに 「 責任吸収関係」が生 じると される正田裁判官 ( 当時)の見解 も,その実質 は,科刑上‑罪 としての牽連犯 を認めるものである3 8 ) 。また,谷口裁判官 ( 当時)は , 「 交付,受交付が一個 の 行為でなされたものである以上,交付を受けた金員のうち,一部 を供与 し,一 部を受交付者の手許に保留 した場合でも,全体 として一個の供与罪 として処罰 すべきであろう」 として,不可罰的事前行為 としての吸収関係を考えてお られ

たことがあったが3 9 ) ,その後,包括一罪説に改説 されている

40)

もっとも,供与罪 と ( 受)交付罪 との関係を犯罪吸収 と見 る立場か らすれば, 供与 されなかった部分 も含めて全体を供与罪が吸収 しうるとす る方が論理 とし ては一貫 している,との指摘 もある4 1 ) 。た しかに,犯罪吸収説 が本来的一罪 の

3 7) 大判昭和 1 2 年 7 月 9 日,名古屋高判昭和 29 年 9 月 1 4 日,福岡高宮崎支判昭和 31 年 9 月 21 日。なお,東京高判昭和 28 年 6 月 2 0 日。

3 8) 正田 ・法律時報 3 8 巻 1 1 号 8 6 頁以下参照。

3 9) 谷口 ・ジ ュ リス ト 29 7 号 9 7 頁。

4 0) 谷口 ・判例評論 87 号 2 6 貢。

4 1 )石田和外 ・刑事判例評釈集第 1 巻昭和 1 3 年度 ( 昭和 1 6 年) 7 6 頁,香川 ・前掲書 31 0

(20)

4 6 3 8 巻 第 2 号

関係にあるものとして両罪を理解す るものであることを強調す るな らば,供与 を目ざ してなされた ( 受)交付が分割 されることはあ りえず,したがって未供 与部分の ( 受)交付行為 も独立 して評価す ることはで きない,と言 うこともで きるであろう しか し,そのような方向は,必ず しも犯罪吸収説 の論理必然的 な結論ではないと思われ る なぜな ら,犯罪吸収説か らすれば,未供与部分 に ついては吸収す る母体が存在 していないためそもそも吸収関係が問題になるこ とはあ りえない,と考えることもで きるか らである 最大判昭和 41 年 7 月 1 3 日 が 「 交付又 は受交付にかかる金銭又 は物品のうち‑・ ・ ・ 受交付者の手裡 古 と保留 さ れた・ ‑・ ・ 部分 については,交付および受交付の罪 は吸収 されることな く残」 る とす るのも,このような考え方を前提 に しているか らだ と思われ る4 2 ) 。 また, このような考え方の背景 には,おそ らく,( 受 )交付金 の ご く一部 のみが供与 され残 りの大部分 は供与 されることな く終 っ声場合に全部吸収を認めて しまう

ことへの割 り切れなさ (たとえば ,1 0 分の 1 の部分が供与 された場合 には, 1 が 1 0 を吸収す るということになる)といったことなども考慮 されているのであ

ろう。

未供与部分 に対応す る ( 受)交付行為を独立 して評価 しうるとす る点 は,当 初,未供与部分についての没収,追徴を肯定す る判例において間接 的 に認 め ら れていた。たとえば,大判昭和 1 3 年 3 月 4 日は,供与罪 と ( 受)交付罪 とが吸 t 収関係にあるとす る一般論 に立 ちなが ら , 「 金員受交付 ノ所為 力金員供輿罪 中 二吸収セラレ擬律上単 二供輿罪 二関スル法偉 ノ適用 ヲ為 スニ止マル場合 卜難右

頁,正田 ・犯罪論或 間1 5 8 貢。

42 ) また,最二小決昭和 45 年 1 1 月 2 0 日刑集 2 4 巻 1 2 号 1 6 4 7 頁 ( 義‑小判昭和 4 3 年 3 月 21 日

の再上告審決定)が,買収資金の交付後にその一部が受交付者の手許で他の金員 と

混同 した後に予定通 りの供与がなされた事案について , 「なお,買収 を共謀 した者

相互の間で買収を目的 とする金員の交付,受交付が行われた場合において,供与 に

使用 された交付金の残金が受交付者の手 もとで他の金員 と混同を生 じた後,供与 に

使用 されたとして も,右の混同のため右残金か らだれに,いっ,い くらずつ供与 さ

れたか供与罪 として特定できないときは,右残金については,供与罪に吸収 され る

ことな く,交付罪を構成す るものと解するのが相当である」 とするの も,このよ う

な考え方の延長線上で理解 しうるものである。なお,鬼塚 ・前掲解説 1 1 1 頁。

(21)

罪数論の一側面 47

受交付 ノ所為 ヲ罪 卜為 ラス ト為 スモ ノニ非 サ レハ ‑・ . ・ 交 付 ヲ受 ケ タル金員 ノー 部 ニ シテ同人 ノ手裡 二保留 セ ラ レタル前示金59圃50 銭

‑‑交 付 ヲ受 ケ タル利 益 二該嘗 ス ト謂 ‑ サ ルへ カ ラス」 と して ,交付者 に返遺 され た未供 与部 分 の金 員 に対 して ,没収 ,追徴 をな しうる と して いた4 3 ) 。 そ の後 ,未 供 与 部 分 に対 応 す る ( 受 )交 付行 為 につ いて ( 受 )交 付罪 が成 立 す る こととな り,問 題 は,供 与 され た部 分 (当該 部分 に対応 す る ( 受 )交 付罪 を評価 し尽 した形 で成立 して い る供 与罪 ) と未供 与 に終 った部分 (当該部分 に対 応す る ( 受 )交付罪 ) との 問 の罪数 関係 へ と移 ったので あ る。

3 供 与 され た部 分 と未供与 に終 った部分 の罪数 関係 につ いて ,判 例 は,併 合罪 とす る もの4 4 ) と包括‑罪 とす る もの4 5 ) とにわかれ て い る。 しか し,いず れ の立場 も,( 受 )交 付行為 を独立 して評 価 しう る とす る に と ど ま り,刑 罰 加 重 をす べ きか ( 併合罪 )否 か ( 包括‑罪 ) とい う点 につ いて の積極 的 な理 由づ け は見 られ な い。他方 ,学説 にお いて は,それぞれ の理 由づ け を も って ,併 合 罪 説 4 6 ) と包括一罪 説 4 7 ) とが主 張 され て い る4 8 ) 。

併 合罪説 の論拠 は,次 の 2 点 に要約 す る ことが で き る 。 第 1 は,( 受 ) 交 付

4 3) 結論同旨,仙台高判昭和 30 年 1 0 月 2 5 日 。

4 4) 東京高判昭和2 8 年 6 月 1 3 日,最大判昭和41 年 7 月 1 3 日Qまた,結論が明示 されてい ないがおそらく併合罪 と見ていると思われるものとして,仙台高判昭和3 0 年 7 月 5 日,名古屋高判昭和31 年 1 2 月 5 日,最三小決昭和3 0 年 1 2 月1 3 日 。

4 5)仙台高判昭和30 年 9 月1 3 日,東京高判昭和40 年 3 月 31 日。

4 6) 西川 ・前掲解説1 3 7 貢以下,横井 ・前掲論文6 8 貢,安村 ・前掲解説噸 以下,堀田 ・ 前掲論文3 5 貢。

4 7) 浦辺衛 「 選挙犯罪に関する重要判例」 ジュリス ト 1 73 号 (昭和3 4 年)3 9 貢,同 ・法 律のひろば21 巻 6 号31 貢以下,浦辺‑林 ・前掲書5 9 頁以下,山火 ・注釈特別刑法第 1 巻 56 5 貢,同 ・ジ. ユリス ト 8 7 4 号 7 1 貢以下。なお,一般的には併合罪説をとりなが ら,最‑小決昭和61 年 7 月1 7 日につき包括一罪説をとるものとして,中義勝 ・判例 評論3 4 0 号 ( 判例時報1 2 2 7 号) 6 9 貢以下。

4 8)さらに,折衷的なものとして,未供与部分を生 じた原因に著目して,① (受)交付 当時に予定されていた相手方の全部に供与されたが金額が一部にとどまった場合 と

②予定されていた相手方の一部だけへの供与にとどまったために残額が生 じた場合

とに区別 し,前者を包括一罪 とし後者を併合罪 とする立場があるが ( 小林 ・刑事判

例評釈集第2 8 巻 1 4 7 貢以下,同 ・注釈特別刑法第 3 巻 2 9 3 貢以下 ),実質的 には併合

罪説 と同 じ内容のものである。

(22)

4 8 3 8 巻 第 2 号

罪の立法趣旨に着目するものである すなわち,それは,( 受)交付罪が供与 罪の前段階的行為を独立して処罰するために立法されたものであることからすれば

,

供 与に至 った部分については供与罪を もって評価することが可能であるが,未供 与部分を供与罪 として評価す ることはできず,その限 りで供与罪か ら独立 した 可罰性を ( 受)交付罪に認めうる,とするものである

また,第 2 は,未供与 に終 った部分 は供与 された部分 とは別に予定 されていた供与のための金員 と見 られることか ら,すでに供与がなされた部分 とは別個の犯罪 として把撞す るこ とができる,とするものである。すなわち,それは,供与行為 自体 を数個 に分 割 しうるとの前提に立 って,供与に至 った部分 ( 供与罪)と未供与に終 った部 分 ( ( 受)交付罪)とを別個の犯罪 として理解するものである,と言 えよ う

しか し,このような論拠には支持 Lがたいものがある。それは,供与罪 と 一 ( 受) 交付罪 との関係を法条競合ない しは犯罪吸収 として理解す る立場か ら主 として 併合罪説が主張 されていることによる 。 まず,第 1の論拠に対 しては,未供与 に終 った部分について ( 受)交付行為を吸収すべき母体が存在 しないことを理 由にそれを独立 して評価すべきだとする一般的前提 は理解 しうる。 しか し,こ のことがただちに供与された部分 と未供与部分 との間に併合罪を認めるという 結論をもたらす ものではない。そもそも,法条競合や犯罪吸収 という考 え方 が 論理的吸収関係を意味するものであることか らすれば,供与罪 と ( 受)交付罪 の関係 は,本来的一罪 として理解 されることになる。そうだとすれば,未供与 部分に対応する ( 受)交付行為を独立に評価 しうると言 って も,それ は,言わ ば観念的なもので しかな く,供与 された部分 と分割 された意味での独立性 まで をも主張 しうるものではないのである。また,このこととの関係で,第 2 の論 拠にも疑問を禁 じえない。た しかに,供与された部分 と未供与の部分が存在す ることは,供与の相手方が異なることを予想 させるものであり,その限 りで供 与行為や ( 受)交付行為を量的に分割 しうるものと見 ることもできないわけで はない。 しか し,そうだとすれば,このような論理 は,( 受)交付金員が複数の 相手方に対 して全額供与 された場合にも一貫 されるべきものである。ところが,

いわゆる犯罪吸収説 は,複数の相手方に対 して全額供与された場合には,相手

(23)

罪数論 の一側面 4 9

方の数に応 じた供与罪がそれぞれの ( 受)交付行為を吸収 しうるとす るわけで はな く,一個の供与罪が一個の ( 受)交付行為を吸収するとしているよ うであ る。すなわち,この立場 は,全部供与の場合には ( 受)交付行為 を分割 しえな いとの結論をとり,一部供与の場合 には ( 受)交付行為を分割可能なものとし て取 り扱 うことになる。 しか し,このように考えると,一括供与 ない しは全部 供与 された事案 ( 供与罪のみが成立)と一部供与の段階で摘発 された事案 ( 供 与罪 と ( 受)交付罪の併合罪 として加重処罰)との間の処断刑に不均衡を生 じ

ることになる

このように,併合罪説の難点 は,供与 された部分 と未供与部分 とを分割 して 後者に対応する ( 受)交付行為の独立的な可罰性を強調 した点にあった,と言 えよう 。 これに対 して,包括‑罪説 は,このような意味での ( 受)交付行為 の 独立性を主張す るものではない。包括一罪説の主張する ( 受)交付行為の独立 性 は,供与罪 と ( 受)交付罪 との関係を価値的吸収関係すなわち科刑上‑罪 に 類似するものとして理解するところか らもたらされるものである

したがって,

この立場 は,供与 されたものが全部であると一部であるとを問 うことな しに同

様の結論をとることになる すなわち,全部供与の事案において は,すでに見

たように,本来的には並列関係にある供与罪 と ( 受)交付罪 とが選挙の公正 と

いう同一の法益侵害に向けての事実的発展関係を有す ることか ら包括的に評価

される 。 一方,一部供与の事案においては,供与罪に発展 した部分 ( 事実的発

展関係)と供与罪に発展す るはずであった部分 ( 観念的発展関係 とで も言えよ

うか)とが全体 として一個の ( 受)交付行為 によって実行 されてお り,しか も

そのいずれ もが選挙の公正 という同一の法益侵害に向けられたものであること

か ら,包括的に評価 しうると考え られるのである そして,このよ うな結論 に

とって重要なことは,包括‑罪説 は 「 吸収」ということを主張するものではな

いという点である

すなわち,1 0 分の 1 の部分だけが供与に発展 した場合にも,

包括‑罪説 は, 1 の供与罪が 1 0の ( 受)交付罪を吸収 して供与罪のみが成立す

るとしているのではな く,1 の供与罪 と 1 0 の ( 受)交付罪 との成立を認 めた う

えで両者を包括的に評価 しようとするものなのである4 9 ) 0

参照

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