損害保険金債権に対する流動動産譲渡担保に基づく 物上代位の可否―最一小決平成22・12・2民集64巻8号 1990頁・判タ1339号52頁・判時2102 8頁・金判1362 号25頁―
著者 今尾 真
雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law
journal
巻 91
ページ 157‑192
発行年 2011‑08‑31
その他のタイトル De la subrogation reelle dans la
propriete‑garantie fiduciaire flottante sur la creance de l'indemnite d'assurance
URL http://hdl.handle.net/10723/1759
【判例研究】
《民事法最新判例研究会》
損害保険金債権に対する流動動産譲渡担保に 基づく物上代位の可否
―最一小決平成 22・12・2民集 64 巻8号 1990 頁・判タ 1339 号 52 頁・判時 2102 号8頁・金判 1362 号 25 頁―
今 尾 真
【事実の概要】
平成 20 年 12 月9日および平成 21 年2月 25 日,X(相手方=農林中央金庫)は,
魚の養殖業を営むY(抗告人)との間で,Yに対して有する貸金債権を担保す るため,Yの養殖筏等の養殖施設一式およびその施設内の養殖魚を目的物とす るいわゆる流動動産譲渡担保(以下,単に「本件譲渡担保」ないし「譲渡担保」と いう)の設定契約を締結した。本件設定契約には,Yが養殖施設内の養殖魚を 通常の営業方法に従って販売できること,その場合Yはこれと同価値以上の養 殖魚を補充することなどが定められていた。
平成 21 年8月上旬頃,赤潮によりYの養殖魚が大量に死滅し,YはZ(熊 本県漁業共済組合)との間で締結していた漁業共済契約に基づき,養殖魚死滅に よる損害を補填する漁業共済金請求権(以下,「本件共済金請求権」という)をZ に対して取得した。その後,同年9月4日,YはXから新たな貸付けを受けら れなかったため,養殖業を廃止した。
そこで,Xは,同年 10 月 23 日,本件譲渡担保の実行として,養殖施設およ びその施設内に残存していた養殖魚を売却しその代金をYに対する貸金債権に
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充当するとともに,平成 22 年1月 29 日,充当後の残債権を被担保債権として,
YのZに対して有する本件共済金請求権に対して,本件譲渡担保に基づく物上 代位による差押えを申し立てた。原々審(熊本地決平成 22・2・3金判 1356 号 15 頁)
が債権差押命令を発付したのに対して,Yは,本件共済金請求権に本件譲渡担 保の効力は及ばないなどとして,その差押命令の取消しを求めて執行抗告した。
【裁判の流れ】
原審(福岡高決平成 22・3・17 金判 1356 号 14 頁)は,Yが譲渡担保の実行とし ての目的物売却により譲渡担保が消滅しており,また,流動動産譲渡担保の性 質上,譲渡担保権者は目的物が固定化するまで物上代位できないなどと主張し たのに対して,次のように判示して,Yの執行抗告を棄却した。
まず,第一の主張に対して,譲渡担保は担保としての実質を有していること から,その目的物が金銭等に変形した場合にはその上に存続するものと認める のが相当であり,本件譲渡担保は,目的物の売却により消滅したとは認められ ず,目的物売却前に発生した代替物である漁業共済金請求権上に存続している ものとした。
次に,第二の主張に対しては,「通常の営業の範囲を超える処分が行われた 場合には,当然に新たな動産が補充されるとは限らず,担保価値の維持を図る ためには,個々の動産の代替物ないし派生物に対して譲渡担保権の効力を及ぼ す必要があ(る)」とした上で,本件では,Yが漁業共済金請求権を取得した のは通常の営業の範囲を超える処分であり,また,本件目的物は,赤潮被害発 生時に実質的に固定化しているとした。
【決定要旨】 抗告棄却
「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は,譲渡担保 権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目
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的動産」という。)の価値を担保として把握するものであるから,その効力は,
目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対 して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。もっ とも,構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲渡 担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであ るから,譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には,目的動産の 滅失により上記請求権が発生したとしても,これに対して直ちに物上代位権を 行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り,譲渡 担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないという べきである。
上記事実関係によれば,Xが本件共済金請求権の差押えを申し立てた時点に おいては,Yは目的動産である本件養殖施設及び本件養殖施設内の養殖魚を用 いた営業を廃止し,これらに対する譲渡担保権が実行されていたというので あって,Yにおいて本件譲渡担保権の目的動産を用いた営業を継続する余地は なかったというべきであるから,Xが,本件共済金請求権に対して物上代位権 を行使することができることは明らかである。」
【評 釈】
一 はじめに―問題の所在
譲渡担保に基づく物上代位が認められるか否かについて,比較的最近まで最 上級審の判例はなく,学説においても議論がそれほど活発に行われていたわけ ではなかった。当初は,一般論として(譲渡担保の種別や物上代位の対象物〔以下,
「代位対象物」という〕の種類をあまり意識することなく),譲渡担保も実質は担保 権ゆえにそれに基づく物上代位も認められる(1),または譲渡担保の目的物が滅
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失・損傷した場合にそれに代わる損害保険金債権に対してのみ物上代位が認め られる(2)といった形での概括的な議論がなされていた。その後,譲渡担保の所 有権移転形式を重視して,所有権者との対比から譲渡担保権者に物上代位を否 定すべきとする有力見解(3)が登場するに至った程度であった。
ところが,近時,最高裁が特定動産譲渡担保における目的物の転売代金債権 に対する物上代位を事例決定ながら肯定した(最二小決平成 11・5・17 民集 53 巻 5号 863 頁。以下,「平成 11 年最決」という)ことから,この問題はにわかに脚光 を浴びることとなった。平成 11 年最決に関する評釈(4)の大部分は,この決定 を事案の特殊性(信用状取引において設定者に目的物の転売授権がなされており,こ こでの譲渡担保が動産売買先取特権に近似していたケース)から,譲渡担保およびそ の物上代位の問題に一般化することには慎重な姿勢を示しつつも,その結論に つきこれを好意的に受け入れていた。そして,学説は,譲渡担保と抵当権また は先取特権との対比を前提に,物上代位の行使要件や物上代位を肯定するため の理論的根拠を模索する議論が本格的に展開されつつあった。
こうした状況にあって,本決定(5)は,さらに一歩進んで,実務界で多用され ている構成部分の変動するいわゆる流動動産譲渡担保の目的物の滅失により生 じた共済金請求権(以下,「損害保険金債権」(6)として一括する)に対する物上代 位可否について,最高裁として初めて肯定の判断を示した点で注目される。ま た,本決定が,設定者が通常の営業を継続している場合には目的物滅失による 損害保険金債権に対して物上代位を行使できないことを示唆した点も,流動動 産譲渡担保固有の問題といえるが,この譲渡担保自体の効力(その前提としての 法的構成〔所有権的構成か担保的構成か〕および譲渡担保の効力が目的物に及ぶ法的関 係〔法的帰属関係に関する分析論,伝統的集合物論,価値枠論,集合物論貫徹説,流動 財産担保論などの対立がある〕)と物上代位との関係をどう捉えるかという問題に かかわり,理論的意義が大きい。さらに,本決定が目的物の転売代金債権では なく,その滅失による損害保険金債権に対する物上代位を肯定したことも,そ
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の射程と関連して,代位対象物の種類に応じて物上代位可否に差異が生ずるか
(7)という点が,今後本格的に論じられることになるであろう。
このように,本決定は,これまで最高裁の判断がなかった問題に対する初判 断という点で注目される。また,本決定を契機として,あらためて流動動産譲 渡担保の効力,その物上代位との関係および他の譲渡担保類型における物上代 位可否などの理論的問題に関する議論が学説上活発に展開されることが予想さ れ,学理的にもきわめて重要な決定といえる。
そこで,本稿では,まず,各譲渡担保(不動産・特定動産・流動動産の譲渡担保 および債権の譲渡担保)の物上代位の問題に関する従来の判例・学説動向および 担保物権(先取特権と抵当権を中心)における物上代位のメカニズムを概観した 後,流動動産譲渡担保の物上代位を肯定した原審決定と本決定における論理構 成の対比およびその当否を検討し,次いで,本決定の位置づけ・射程等の分析・
考察を行う。しかる後,これらの考察に関連して提起される幾つかの理論的問 題を摘示し,それらに対する展望を述べて,本稿を締めくくることとする。
二 従来の判例および学説の動向 1 不動産譲渡担保
(1)
裁判例不動産譲渡担保に基づく物上代位可否に関する最上級審の判断は示されてい ない(8)が,下級審裁判例において,賃貸中の建物に対する譲渡担保権者が譲渡 担保設定の当然の効果として,または譲渡担保に基づく物上代位行使として設 定者の賃料債権を取得するか否かに関して,これを消極に解した判決が出され ている(浦和地判平成 12・10・31 判タ 1085 号 223 頁)。この判決は,特に,物上代 位行使可否について,譲渡担保の形態を目的物の使用収益を譲渡担保設定者に とどめる場合とそうでない場合(譲渡担保権者がこれを奪う場合)とに分け,前
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者の場合(本件はこの場合に該当)には,「その契約締結に際して,譲渡担保権 者において,譲渡担保権設定者の目的物の使用収益の対価については,物上代 位権を行使しない旨あるいはこれを放棄する旨の了解があると解するのが相当 で」あるとして,賃料債権に対する譲渡担保に基づく物上代位行使を否定し た(9)。ここには,賃料債権に対する抵当権に基づく物上代位(最二小判平成 元 ・10・27 民集 43 巻9号 1070 頁〔以下,「平成元年最判」という〕や最二小判平成 10・
1・30 民集 52 巻1号1頁〔以下,「平成 10 年最判」という〕などにより賃料債権に対す る物上代位肯定)との対比から,譲渡担保にあっては使用収益を設定者にとど める類型とそうでない類型があるのに対して,抵当権にあってはそれを設定者 にとどめる類型しかないので,賃料債権に対する物上代位を同列には論じえな いとの考慮があるとされている(10)。
(2)
学 説学説については,肯定説と否定説が対立しており,肯定説内部にあっても立 場が二つに分かれている。
まず,譲渡担保の種別を問わず,代位対象物も基本的に区別することなく,
物上代位の趣旨は譲渡担保にも適用されるとして,一般論ながら物上代位を肯 定する立場(11)がある。これに対して,同じく肯定説の範疇に属するものとして,
譲渡担保の種別に応じた物上代位可否に関する言及はないものの,代位対象物 につき損害保険金債権に対する物上代位のみ,これを肯定する立場(12)がある。
この立場は,事態を分析的に考察して,被保険者が譲渡担保権者か設定者かを 分けて,前者の場合には保険契約自体の効力により保険金債権が譲渡担保権者 に帰属し(この場合は物上代位ではない),後者の場合に,譲渡担保権者は物上代 位制度の趣旨を準用して保険金債権に対して物上代位を行使できるとの主張を 展開する。なお,この立場は,転売代金債権については,抵当権と同様,譲渡 担保にも追及効があることから物上代位を認める必要性に乏しい点(否定)で
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一致するが,賃料債権については,さらに,抵当権と同様に取り扱うべきとす る見解(物上代位を肯定)と,物上代位を認める必要がないとする見解が対立し ている(13)。
いずれにしても,これらの肯定説は,譲渡担保の法的構成につき担保的構成 を採用する(特に抵当権または仮登記担保権(14)との対比)か,抵当権における物上 代位の本質論(価値権説対特権〔物権〕説の対立)から物上代位を肯定する帰結(特 権説は本来物上代位の及ばない賃料に特別にこれを及ぼすものと構成するのに対して,
価値権説は賃料を交換価値の済し崩し的な具体化と構成する)を導き出しているとい えよう(民法 304 条 ・372 条の類推適用)。
他方,否定説(15)は,次のような主張を展開する。すなわち,譲渡担保の種別 を問わず,法的構成につき担保的構成(設定者留保権説)を前提としつつ,譲渡 担保権者は目的物の所有権を譲り受けるという形式を自ら選択し,かつ,外部 的にもそのように公示しているのだから,所有権者以上の権利を譲渡担保権者 に認めるべきではなく,譲渡担保に基づく物上代位は否定すべきであるとする。
これを敷衍すると,賃料債権については,果実収取権の問題(目的物の占有が設 定者にある場合には原則として設定者が果実を収取することができるが,特約ないし占 有が譲渡担保権者にある場合には譲渡担保権者が果実を収取することができる)として 処理すれば足りる。また,転売代金債権については,自己所有物の第三者によ る処分の場合における所有者の権利に関し所有物の価値代償物・代替物に対す る優先権を認めることを前提に転売代金債権に対して譲渡担保権者に所有者と しての優先権(これは物上代位でない)を認めれば十分とする。そして,損害賠 償(保険金)債権についても,譲渡担保権者が直接相手方(加害者)に損害賠償 請求権を行使することができるので,これらの債権に対して物上代位を認める 必要はないとする(16)。
164 2 動産譲渡担保
(1)
裁判例・判例動産譲渡担保の物上代位については,信用状取引を媒介とした目的物の転売 代金債権に対してこれを認めた平成 11 年最決とその原審決定(大阪高決平成 10・2・10 金法 1520 号 49 頁・金判 1046 号 40 頁)がある。まず,原審決定は,(
i
) ここでの譲渡担保が特定動産を目的物としていること,(ii
)その目的物と被担 保債権との間に牽連性があることなどの事実を認定した上で,譲渡担保が目的 物の交換価値を支配する権利であり,かつ,破産手続においては別除権として 扱われることなどを理由に,民法 304 条の適用を肯定した。ここには,この事 案特有の事情として,そこでの動産譲渡担保が動産売買先取特権に類似してい た点を重視しての判断があった(17)と思われる(担保的構成に立脚)。これに対して,平成 11 年最決は,原審決定での認定事実(
i
)(ii
)に加えて,(
iii
)被担保債権の履行期が到来していること,(iv
)設定者が処分権を有する 結果譲渡担保権者に目的物の追及権がないことなどの事実を重視して,かかる 事実関係のもとでは,転売代金債権に対する動産譲渡担保に基づく物上代位が 認められると判示するにとどまり,とりたてて物上代位が認められる法的根拠 を示さなかった。この決定に対しては,事案の特殊性から,原審決定のように 踏み込んだ判断(譲渡担保を交換価値支配権と把握)をせず,譲渡担保の物上代位 可否に関する一般論の提示を自制したものとの評価が大勢を占めている(18)。(2)
学説学説は,肯定説と否定説に分かれている。肯定説には,譲渡担保の種別・代 位対象物を問わず一般的に物上代位を肯定する見解(19)と,譲渡担保権者に所有 者としての権利主張が認められない場合に限り,転売代金債権や損害保険金債 権に対する物上代位を限定的に肯定する見解(20)がある。特に,限定肯定説に
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あっては,不動産譲渡担保における物上代位の場合と異なり,転売代金債権に 対しても一定の場合に物上代位を肯定すべきとする点が特徴的である(譲渡担 保の種別に応じた代位対象物ごとの物上代位という視点が若干現れているといえよう)。 これに対して,否定説は,不動産譲渡担保の物上代位を否定する理由を基本 的に動産譲渡担保にも当てはめる(21)。これに加えて,この見解は,動産の転売 代金債権に対する物上代位を否定する論理として,動産の二重譲渡のケースを 引き合いに出して,第一譲受人が占有改定による引渡しを受け,その後第二譲 受人が目的物を即時取得した場合には,もはや第一譲受人は設定者に対する債 務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償請求しかできないのに,譲渡担保権 者の場合には実質担保であることを理由に物上代位を認めるとすれば,譲渡担 保権者に所有権者以上の権利を承認することになるので,これを認める必要は ないとする(22)。
3 流動動産譲渡担保
流動動産譲渡担保に基づく物上代位可否に関して,本決定およびその原審決 定が出されるまで,少なくとも公表裁判例は存在していないようである(23)。他 方,学説は,肯定説・否定説双方あるが,個別の代位対象物(特に,転売代金債 権と損害賠償〔保険金〕債権を中心)に関して物上代位可否を論じるという形で 展開されている。
肯定説にあっては,転売代金債権に対する物上代位につき,二つの見解が主 張されている。一つは,被担保債権の弁済期到来・譲渡担保の実行着手以後物 上代位を肯定する見解(24)である。この見解は,目的物の転売代金は新たな仕入 れの資金となるために設定者の処分に委ねられていたものであって,潜在的に はなお譲渡担保の拘束のもとにあるとした上で,被担保債権の弁済期到来・譲 渡担保実行着手以後は,設定者が集合物を構成する個々の動産の転売代金債権 の取立権能を失い,譲渡担保の効力がこれに及ぶことになるとする。もう一つ
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は,目的物の売却が通常の営業範囲内か否かを基準にこれを超える場合に物上 代位を肯定する見解(25)である。この見解は,物上代位を認める法的根拠として,
民法 423 条および同法 304 条を類推適用して被担保債権の保全に必要な範囲で 物上代位を肯定すべきとする。前者がいわゆる伝統的集合物論に立脚した上で,
譲渡担保の実行以後は流動動産譲渡担保も特定動産譲渡担保に転換し,そこで の物上代位肯定の論理に服するとするのに対して,後者は法的帰属関係の説明 法(限定浮動担保理論ないし流動財産担保論に立脚するか)はともかく,譲渡担保 の実行以前の段階でも,目的物が通常の営業の範囲を超えた場合には転売代金 債権に対する物上代位を肯定するとする点で,物上代位の認められる時期につ いて差異を生ずることになろう(前者よりも後者の方が物上代位を行使できる時期 が早くなる可能性があるといえよう)。
次に,損害賠償(保険金)債権に対して,肯定説(物権的期待権説を前提)(26)は,
集合物を構成する個々の動産の損傷と集合物全体の滅失とに分け,前者の場合 は,損傷させた第三者に対する物権的期待権侵害を理由とする損害賠償請求権
(または保険会社に対する保険金請求権)に物上代位を肯定し,他方,後者の場合 には,物上代位を認めず,譲渡担保権者自身による原因者に対する損害賠償請 求によるべきとする(この場合は下記否定説と同様の処理)。
これに対して,否定説(27)は,担保的構成を前提に,目的物の法的帰属関係に つき集合物論貫徹説(集合物に譲渡担保の効力が及び,集合物を構成する個々の動産 にはその効力は及ばないとの立場)を採用し,転売代金債権・損害賠償債権(保険 金債権も含む)の双方に対する物上代位を否定する。まず,転売代金債権につ いては,目的物の処分が通常の営業の範囲内の処分か否かに分けた上で(28),次 のように主張する。通常の営業の範囲内の処分の場合には,目的物処分権能が 設定者に認められる以上,物上代位は認められないとし,他方,これを超える 処分の場合にも,当該処分により目的物は集合物から離脱し,その目的物に譲 渡担保権者は何らの権利も有しないことから,せいぜい,譲渡担保権者が権利
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を有するところの集合物の価値毀損行為として不法行為が問題となるにすぎな いとする。
次に,損害賠償債権についても,個々の動産の損傷の場合と集合物全体の滅 失の場合とに分け,まず,双方の場合に物上代位を否定した上で,前者につい ては譲渡担保権者自身による原因者に対する損害賠償請求をも否定するのに対 して,後者については,弁済期が到来したとき(契約に目的物滅失により弁済期 到来ないし期限の利益喪失などの約定がある場合)には譲渡担保権者は滅失の原因 者に不法行為に基づく損害賠償請求をなしうるとする。
4 債権譲渡担保
債権譲渡担保の物上代位に関しては,管見によれば,一般論として物上代位 の可能性を示唆した裁判例が僅かに一件存在するにすぎない(東京地判平成 14・
8・26 金法 1689 号 49 頁(29))。これは,被告の第三者に対する売掛金債権に譲渡担 保の設定を受けた原告(銀行)が,売掛金債権の支払いのために第三者が振り 出した約束手形についても譲渡担保が及んでいると主張(30)した事案について,
民法 304 条は,「質権,抵当権に準用されているから(同法 350 条,372 条),債 権譲渡担保権についても,同法 304 条の類推適用により物上代位権を行使する ことができる」とした上で,「本件手形ないし本件手形債権については,本件 手形の振出しにより本件売掛金債権に消長を来すことがなく,両債権が併存す る関係になることからみて,物上代位の要件を欠いている」と判示して,結論 として債権譲渡担保に基づく物上代位を否定したものである。
他方,学説においては,この問題はほとんど論じられていないのが現状であ る。
5 小括―従来の裁判例および学説の問題点を中心に
従来の裁判例および学説の動向につき,その問題点を中心に要約すると,次
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まず,譲渡担保に基づく物上代位肯否の法的根拠付けが形式的すぎるように 思われる。肯定説にあっては,譲渡担保の法的構成(担保的構成を前提に抵当権・
動産売買先取特権・仮登記担保権との対比から譲渡担保を担保権すなわち価値権と構成
〔その内実は優先弁済権と理解しているようである〕)からの演繹(とりわけ,従来の 見解はそういった傾向が強かったといえる)によるか,あるいは実質的利益衡量に 依拠して物上代位を肯定するかの二つの方向がある。前者については,譲渡担 保のすべての種別に共通することであるが,これが所有権ないし権利移転形式
(権利取得・換価権能をも含む)を採る担保権である以上,こうした担保権の特 性を踏まえた上で,物上代位を肯定するための理由とその法的根拠付けを模索 すべきであろう。また,後者についても,関係当事者間の実質的利益衡量のみ から物上代位を認めようとしても,法的根拠の裏付けがなければ法理論として 薄弱といわざるをえない。
他方,否定説にあっても,逆に,所有権・権利移転形式を採る担保権である ことを重視(通常の所有権との対比を強調)するあまり,実質的利益衡量を看過 しているきらいがある(31)。権利移転型担保(および権利留保型担保)ひいては通 常の所有権でも,目的物の転売代金債権または損害賠償(保険金)債権に何ら かの権利主張を認めさせてもよいとの実質的判断が成り立ちうるかどうか,も う少し深く検討すべきもののように思われる(32)。
次に,譲渡担保の種別・代位対象物の差異に応じた物上代位可否という視 点(33)が,従来の見解には希薄であったように見受けられる。多くの見解は,譲 渡担保一般として物上代位可否を論じるか,またはそうした区別をあまり意識 することなく,もしくはそうした区別と関連させることなく,個別の代位対象 物についてのみ取り上げ,物上代位可否を論じる傾向が強いといえよう(もっ とも,譲渡担保に基づく物上代位の問題自体に関する裁判例・判例が僅少であることか ら当然であったかもしれない)。各譲渡担保ごとに物上代位が異なるのか,一律同
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じメカニズムに服するのか(近時,判例は抵当権と動産売買先取特権の物上代位と ではその内容・仕組みが異なるとしている)を明確にすべきであるとともに,これ を踏まえて,各代位対象物ごとに物上代位の可否を総合的に論ずるといった観 点を意識すべきではないかと思われる。
最後に,譲渡担保自体の効力と物上代位との関係についても理論的に解明さ れていない点をあげることができる。各見解とも,物上代位がいかなる制度構 造によって認められるのかという点につき,理論的に掘り下げていないように 思われる。この点に関しては,そうした理論的考察の前提として,民法典上の 担保物権自体の効力と物上代位との関係,担保物権の物上代位と譲渡担保の物 上代位(肯定説に立脚した場合)との異同に関する対比が不可欠であろう。
三 担保物権における物上代位のメカニズム
そこで,次に,民法典が定める担保物権の物上代位がいかなる理由で認めら れ,どのような法的メカニズムを有するかを確認しておこう。ここでは,担保 物権の物上代位の中でも議論が集中している先取特権(民法 304 条)と抵当権(同 法 372 条・304 条)における物上代位の法的メカニズムについて考察することと する。
1 先取特権
まず,先取特権については,転売代金債権,滅失・損傷による損害賠償(保 険金)債権に対する物上代位は,これらの債権が先取特権の効力が及んでいた 目的物の代わりとして得られたいわば代償物(当初目的物の価値代替物)または これに準ずるもの(債権者の行為によって生じ,またはそれによりその債権〔代位対 象物〕の額が増したといえるもの)であるので,先取特権者に先取特権の優先弁 済権を付与するのが公平との理由で認められている(34)。また,賃料債権(一般
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先取特権,不動産賃貸・旅館宿泊・運輸の先取特権を除く(35),それ以外の先取特権に関 する)の場合,目的物自体に対する先取特権行使は禁じられないが,賃料債権 が生じたり,目的物の価額の増加(債務者の財産の価値増加)は,その目的物に 及んでいる先取特権を有する債権者の行為に起因するものであるから,賃料債 権にも物上代位を及ぼすべきと解されている。なお,賃料債権に対する動産先 取特権の物上代位については,目的動産が賃貸されて債務者の占有を離れた場 合にはこれに先取特権を行使することは事実上困難であることから,他の代償 物に対すると同様,賃料債権にも物上代位を認める必要があるとの理由もあげ られている(36)。
このように,先取特権における物上代位の法的メカニズムは,先取特権の効 力が及んでいた目的物の代償物(または及んでいる目的物の派生物)に対して,
関係当事者間の公平を確保(債権者の期待を保護)すること,代位対象物の発生 およびその価値増加が債権者の行為に起因すること,または先取特権自体の実 行が不可能ないしそれがきわめて困難であることが当事者間の公平を害する,
あるいは当該先取特権の認められる趣旨を没却することを理由に,先取特権の 効力(優先弁済権)を二次的・補充的に及ぼすものということができる(補充性 の原則の尊重)(37)。
2 抵当権
次に,抵当権については,いわゆる代償的(代替的)物上代位(38)と呼ばれる 滅失・損傷による損害賠償(保険金)債権に対する物上代位は,先取特権と同様,
抵当権の効力が及んでいた目的物の代わりとして得られたもの(代償物・価値 代替物)なので,それに優先弁済権の行使として物上代位を認めることが公平 である(あるいはこれを認めないと抵当権設定契約の趣旨に反する)とされる(39)。もっ とも,同じく代償物である転売代金債権に対する物上代位については,通説は これを否定するが,その理由として,抵当権は登記を対抗要件とする(民法
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177 条)ので,第三者取得者にも対抗することができ,抵当権自体を実行する ことが可能なため(抵当権には追及力があるため)(40),物上代位を認める必要はな いとしている(補充性の原則の尊重)。
これに対して,派生的(付加的)物上代位と呼ばれる賃料債権に対する物上 代位ついては,先取特権の場合と異なり,抵当権自体を実行すれば足り,これ に対する物上代位を認める必要はない(抵当権の追及力のゆえ)ともいえそうで ある。しかも,すべての賃料が抵当目的物の代償物(価値の一部変形物)という わけではない(時の経過により,家屋は価値が漸減するのでそういえるとしても,土 地は必ずしも価値が減少するわけではないから)(40ノ2)。しかし,平成元年最判が賃 料債権に対する抵当権の物上代位を肯定したことを嚆矢として,その後,最高 裁がこれを前提に一連の判例法理(賃料債権譲渡と物上代位〔前掲平成 10 年最判〕,
賃料債権の差押えと物上代位〔最一小判平成 10・3・26 民集 52 巻2号 483 頁〕,反対債 権による賃料債権との相殺と物上代位〔最三小判平成 13・3・13 民集 55 巻2号 363 頁〕,
賃料債権に対する転付命令と物上代位〔最三小判平成 14・3・12 民集 56 巻3号 555 頁〕
などは,賃料債権に抵当権者が物上代位できることが大前提(41))を形成したことから,
このことをどう説明するかが論じられているが,少なくとも派生的物上代位を 物上代位の補充性の原則や価値権説的理解によって説明することは難しくなっ たとの認識は共有されているといえよう(42)。また,その後,平成 15 年の担保・
執行法の改正により,民法新 371 条が「抵当権は,その担保する債権について 不履行があったときは,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」と規定して 抵当権の効力が賃料等の果実にも及ぶとされたことから,改正以前までの一連 の判例法理とこの規定との関係やこの規定の実体的根拠となりうる制度の範囲 をめぐる議論(43)(新 371 条が担保不動産収益執行のみに実体法上の根拠を与えるもの か,担保不動産収益執行と物上代位双方にその根拠を与えるものかの問題)とも関連 して,この派生的物上代位の位置付けにつき複雑な問題が提起されることと なった。いずれにしても,派生的物上代位が認められる理由付けとして,現在
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では,理論的というよりはむしろ,抵当権自体の実行では被担保債権を回収す ることが困難であること(目的物の価額の下落等)または抵当権実行や担保不動 産収益執行の手続の煩雑さを回避して簡便な実行方法によることが抵当権者の 利益に資することなどの実際的理由および改正された民法新 371 条(同条を実 体法上果実に対する抵当権の効力〔物上代位も含めて〕が及ぶことの根拠規定と理解)
に求めるほかはないとされている(44)。
このように,抵当権に基づく物上代位のメカニズムは,代償的物上代位と派 生的物上代位の二つの物上代位に分類され,前者は代償理論(抵当権の交換価値 把握権能〔優先弁済権〕を当初目的物に置き換わったものを価値代替物・変形物として それに及ぼすとすること)により,また後者は実質的利益衡量や改正された条文 を根拠として,物上代位が認められるといえよう。
以上から,少なくとも,抵当権・先取特権の双方における代償的物上代位に ついては,これらの担保物権の当初目的物に置き換わったものがその代償物(価 値代替物・変形物)にほかならない以上,補充性の原則を尊重しつつ,これにも 担保権の効力(優先弁済権)を及ぼすメカニズム(45)であると説明することに異 論はなさそうである。
四 原審決定と本決定との対比 1 両決定の論理構成
原審決定は,次のような論理構成により,共済金請求権すなわち損害保険金 債権に対する流動動産譲渡担保の物上代位を肯定した。まず,譲渡担保は,担 保権としての実質を有していることから,目的物の代償物(価値代替物・変形物)
たる金銭ないし債権の上にも譲渡担保(この決定は譲渡担保の担保権性を強調して いることから,おそらく内実は優先弁済権と解しているように思われる)が存続する とする。これを説明するための論理として,譲渡担保の効力が目的物に及ぶ法
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的関係(法的帰属関係)につき,「集合物を構成する個々の動産につき,設定者 によって通常の営業の範囲内で処分がなされている限りにおいては,設定者に は新たな動産の補充が義務付けられ,新たに補充された動産に対して譲渡担保 権の効力が及ぶ」と述べて,伝統的集合物論(譲渡担保の効力が「集合物」とこ れを構成する「個々の動産」の双方に及ぶとする立場(46))を採用することを明らか にする。次いで,損害保険金債権に対する物上代位可否につき,「通常の営業 の範囲を超える処分が行われた」ことと,目的物の固定化(47)が必要であるとす る。そして,設定者(本件ではY)が損害保険金債権を取得したことが「通常 の営業の範囲を超える処分」に当たり,かつ,赤潮被害発生時に実質的に固定 化したと判断した。つまり,原審決定の判断枠組みは,譲渡担保の法的構成に つき担保的構成を前提に伝統的集合物論を採用し,目的物の通常の営業の範囲 外の処分と固定化をいわばその要件として物上代位を肯定したと要約できよう。
他方,本決定の論理構成は,原審決定のそれと比べると単純である。すなわ ち,譲渡担保を目的物の価値把握権と位置づけた上で,損害保険金債権に対す る物上代位が認められるためには,「設定者が通常の営業を継続している」か 否かという基準を措定して,これを継続している場合には物上代位を行使でき ないとする(もっとも,本決定は,この場合でも,損害保険金債権が発生した時点で「直 ちに物上代位権を行使できる旨が合意されている等の特段の事情」があれば,すなわち 譲渡担保設定当事者間において直ちに物上代位を認める特約があるときは,物上代位を 行使できると判示する)。そして,本件では,譲渡担保権者(X)が損害保険金 債権を差し押さえた時点ですでに設定者(Y)が営業を廃止していたので,営 業を継続する余地がなく物上代位を行使できるとした。本決定は,譲渡担保の 法的構成につき担保的構成を採用することは明らかであるが,法的帰属関係の 説明法如何,物上代位行使のために固定化が必要かどうか,および物上代位の 具体的行使時期(48)については明言を避けている。
174 2 対比
まず,両決定とも,物上代位を肯定するための根拠として,譲渡担保の担保 権性またはその価値把握権能(優先弁済権)を強調しており,流動動産譲渡担 保の法的構成に関して担保的構成に立脚する点で共通している。ただし,原審 決定が,譲渡担保一般を視野に入れて物上代位を論じているように見受けられ る(この決定は,現に,譲渡担保の物上代位に関する一般的説示を展開するとともに,
後述のように,少なくとも代位対象物につき,転売代金債権と損害保険金債権に対する 物上代位を同列に扱う,または双方に対する物上代位の行使要件を関連づけようとの姿 勢が窺われる)のに対し,本決定は,流動動産譲渡担保に焦点を絞り,しかも 代位対象物についても損害保険金債権に限定して論旨を展開する。この点で,
本決定は,原審決定に比べて,その射程範囲を意識してか,慎重な判断をなし ている(49)といえよう。
次に,法的帰属関係の説明法につき,両決定とも一応集合物論を前提として いるように思われる。しかし,原審決定が伝統的集合物論に依拠しているのに 対して,本決定はこの点を明らかにしていない。もっとも,物上代位につき,
譲渡担保自体の効力が及んでいる目的物の代償物(転売代金債権や損害賠償〔保 険金〕債権)に関して問題となっている場合,それが譲渡担保の優先弁済的効 力をその代償物に及ぼす作用(当初の目的物にその効力が及んでいることを前提と して)と理解するならば,本決定も,目的物の滅失により発生した損害保険金 債権に物上代位を肯定している以上,集合物を構成する個々の動産にも譲渡担 保の効力が及んでいるとする伝統的集合物論に依拠しているとも解されよ う(50)(51)。こうした観点からは,両決定はここでも共通しているといえる。
他方,物上代位可否の具体的基準については,両決定は相違している。すな わち,原審決定が「通常の営業の範囲を超える処分4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4
」かどうかを基準としてい るのに対して,本決定は「通常の営業を継続している4 4 4 4 4 4 4 4 4
」か否かをその基準とし
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ている(傍点は筆者)。この点に関して,本件は目的物の滅失による損害保険金 債権に対する物上代位可否が問題となっているので,原審決定が,「通常の営 業の範囲を超える処分」を物上代位可否の基準としたことは,譲渡担保自体の 効力が集合物の範囲から逸失した目的物に及ぶか否かの議論(物上代位ではなく 譲渡担保自体の効力の問題)またはその延長線上に位置付けられる目的物の転売 代金債権に対して物上代位を行使できるか否かの議論と,損害保険金債権に対 する物上代位可否の議論とを混同しているように見受けられる(52)。それゆえ,
本決定における「通常の営業を継続している」か否かの基準―より厳密にいえ ば,目的物の滅失によっても設定者の補填・補充義務の履行等(あるいは当該 滅失によっても残存目的物が被担保債権を弁済するのに十分な価値がある)により担 保価値が維持できるまたは維持できているかどうかということ(52ノ2)―による方 が,目的物滅失による損害保険金債権に対する物上代位可否を決するには,基 準として適切なように思われる。
最後に,物上代位の行使時期について,本件では,少なくとも,譲渡担保権 者の物上代位による差押え申立て時点までには,物上代位可否に関する両決定 のいずれの基準によっても物上代位を行使できる状態になっていたという事情 があった。ただし,原審決定が物上代位行使のために「固定化」を必要とし,
その時期は「赤潮被害発生時」としたのに対して,本決定は「固定化」の要否 につき言及せず,具体的に物上代位を行使できる時期についても明らかにして いない。この点に関して,本決定が「固定化」概念を不要と解しているかは判 然としない。もっとも,転売代金債権に対する物上代位については,「通常の 営業の範囲を超える処分」か否かにより,譲渡担保自体の実行ないし物上代位 行使の前提を整える必要があるかもしれない(譲渡担保の実行に際して「固定化」
要件を必要とすることを前提に,固定化以降物上代位を行使可能とする見解(53)に立脚す ればであるが)が,損害保険金債権に対する物上代位については,別の基準す なわち「通常の営業を継続している」か否か(残存目的物が被担保債権を弁済す
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るのに十分な価値があるか否か等)によってその可否を決すれば足りるので,本 件のようなケースに,このような基準をあらためて要求する必要があったかは 疑問の余地がある(この概念は,本来,流動動産譲渡担保自体の実行に際して流動し ている集合物の内容を確定するためにその要否が論じられるべきもので,損害保険金債 権に対する物上代位可否の局面で,その実行要件としてこれが必要かどうかは無関係と も見うる)。ここでも,原審決定には,損害保険金債権に対する物上代位の議論 と,譲渡担保自体の実行の議論および転売代金債権に対する物上代位可否の議 論との混同・錯綜が見られるといえよう。
五 本決定の位置付けと射程 1 位置付け
まず,譲渡担保の法的構成に関して,従来の判例の立場は,譲渡担保に所有 権移転という法形式に則した法律効果を与えながら,他方で,譲渡担保権者に 所有権に基づく権利主張を制限する手段として担保的側面を考慮してきたとい うことができる(いわば「消極的な形で担保としての実質を譲渡担保権に反映させて いたものであり,譲渡担保権を抵当権等と同様の価値把握権と構成するには至っていな かった」(54))。しかし,本決定は,流動動産譲渡担保を価値把握権と捉えて損害 保険金債権に対する譲渡担保に基づく物上代位を肯定した。このことは,譲渡 担保の担保権的側面(優先弁済権能)をより鮮明にする方向に判例が移行しつ つある(55)と積極的に評価することも可能である。極論すれば,判例は,譲渡担 保の担保権的性格を正面から認める新たな判断を示したということもできよう。
次に,流動動産譲渡担保の目的物にその効力を及ぼす法律関係(法的帰属関 係の説明法)については,最一小判平成 18・7・20 民集 60 巻6号 2499 頁(56)(以下,
「平成 18 年最判」という)の登場により,「議論は新たな段階に入った」との評 価(敷衍すれば,この判決は集合物論貫徹説に親和的との評価)もなされていた(57)。
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しかし,本決定が流動動産譲渡担保に基づく物上代位を肯定したことにより,
判例法理は,法的帰属関係の説明法として,伝統的集合物論に立脚しているこ とを示唆したといえよう。すなわち,前述のとおり,物上代位の法的メカニズ ム理解(代償的物上代位については,譲渡担保自体の効力が及んでいる目的物の代償物 に対して,譲渡担保の優先弁済的効力をそれに及ぼす作用との理解)を前提とすれば,
譲渡担保の効力の及んでいる目的物の代償物・価値変形物(損害賠償〔保険金〕
債権などは典型)に物上代位を認めるためには,譲渡担保の効力が集合物のみ ならずそれを構成する個々の動産にもその効力が及んでいなければ,物上代位 を行使することはできないはずである。換言すると,集合物論貫徹説によれば,
集合物を構成する個々の動産については譲渡担保の効力が及んでいない以上,
そもそも物上代位は問題とならない(58)ともいえよう。
また,本決定は,損害保険金債権に対する流動動産譲渡担保に基づく物上代 位可否につき,「通常の営業が継続している」か否かという新たな基準を措定 して,転売代金債権に対する物上代位可否の基準として一部の学説が主張して いる「通常の営業の範囲を超える処分」か否かの基準(59)とを区別することを明 らかにした。事態に適合的な基準を措定したといえよう。
以上から,本決定は,流動動産譲渡担保に基づく物上代位を最高裁として初 めて認めたという実際的意義に加えて,これまで判例法理として必ずしも明ら かでなかった問題について,新判断を示したという意味でも,流動動産譲渡担 保の理論的解明を大きく前進させる決定と評価することができる。
2 射程
本決定は,損害保険金債権に対する流動動産譲渡担保に基づく物上代位を認 める判断を示しただけで,それ以外の代位対象物すなわち転売代金債権・賃料 債権に対する物上代位にまで,その射程が及ぶものではないと思われる(60)。し たがって,本決定における特約に関する判示(通常の営業が継続している場合で
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も「直ちに物上代位権を行使できる旨の合意」があるときは物上代位を行使できるとの 判示)も,本件限りのものといえよう(61)。
ただし,本決定が損害保険金債権に対する物上代位を肯定したことから,目 的物滅失の原因たる不法行為等に基づく損害賠償債権(まさに代償物そのもの)
に対する物上代位は認められるものと解される。これに対して,本決定は,そ の判示から流動動産譲渡担保に基づく物上代位についてのみの判断であり,こ れが他の譲渡担保(不動産・特定動産の譲渡担保)における物上代位(損害保険金 債権に対する)のケースに及ぶとの速断も避けるべきと考える。この点は,譲 渡担保の種別に応じた物上代位可否に関する裁判例・判例の蓄積をまたねばな らないであろう。
六 むすび―本決定における理論的課題とその展望
最後に,本決定を契機として提起される幾つかの理論的問題を摘示し,これ らに対する展望を述べておこう。
まず,流動動産譲渡担保に基づく物上代位の法的メカニズムをどう理解すべ きかという問題をあげることができる。この点に関しては,平成 11 年最決も 本決定も,担保物権における物上代位との対比に基づき,それが認められるた めの要件または基準を示唆・提示しているが,より根本的な問題として,法文 上の根拠がない譲渡担保ひいては流動動産譲渡担保の物上代位が問題となって いる以上,そもそも物上代位とはいかなる法的メカニズムなのか,あらためて 原点に立ち返って検討する必要があるのではなかろうか。担保物権における物 上代位と同様の法的構造を有しているとしてよいかは,譲渡担保における所有 権(権利)移転形式という特性との関係で,自明のものとして片付けられない 問題といえよう。仮にそうだとしても,先取特権の物上代位と抵当権のそれと は異なった構造を有するとするのが近時の判例法理である点(62),しかも,とり
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わけ抵当権の物上代位にあっては,代償的物上代位と派生的物上代位とに分け てそれぞれ異なった理由に基づき物上代位が認められている点などに鑑みる と,いずれのいかなる物上代位に依拠すべきか(先取特権または抵当権(63)か,お よび代位対象物によって代償的物上代位と派生的物上代位を分ける必要があるか否か 等)は,新たな問題となろう。また,物上代位を肯定する法的根拠についても,
譲渡担保を担保権(価値把握権・優先弁済権)と捉えて担保物権の物上代位に関 する民法 304 条の類推適用(およびこれに同法 423 条の類推適用を加味する)でよ いかは,すでに指摘したように,単純には割り切れない問題といえよう。さら に,より視野を広げると,譲渡担保の物上代位は,譲渡担保全般にわたって共 通の法的メカニズムに服するのか,それとも譲渡担保の種別に応じたしかも代 位対象物ごとに異なった物上代位のメカニズムを考慮する必要があるのかどう かも明確にされなければならない。
次に,上記の指摘とも大なり小なり関連することであるが,流動動産譲渡担 保の物上代位を認める(損害賠償〔保険金〕債権に対する)前提問題として,流 動動産譲渡担保自体の効力と物上代位との関係も明らかにされなければならな い。本決定は譲渡担保の効力の及んでいた目的物の代償物(価値変形物)に対 する物上代位を譲渡担保の価値把握権性を理由に肯定したわけだが,そこには 物上代位の本質に関する従来の価値権説的発想が色濃く窺われる。しかし,こ うした思考様式は,目的物の代償物に限って物上代位を認めるとしても,他の 譲渡担保の種別に応じた各代位対象物ごとの物上代位可否を論ずるに際してこ れがそのまま妥当するか,かつての抵当権における物上代位の本質をめぐる議 論と同様の問題が提起されるように思われる(64)。また,流動動産譲渡担保の固 有の問題として,本決定のように,その物上代位発動のために譲渡担保自体の 効力が当初の目的物に及んでいたことを前提とするとき,流動動産譲渡担保の 目的物である集合物を構成する個々の動産に譲渡担保の効力が及ばないとの理 解(集合物論貫徹説)からは物上代位が問題とならない(65)と,いいきってよいか